Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017 ~27回目の「おかえりなさい」は韓国映画三昧
Text by hebaragi
2017/8/23掲載
27回目を迎えた映画祭初日、今年もゲストと観客は「おかえりなさい」の言葉で迎えられた。開催期間中の天候は概ね良好で、「ストーブパーティー」など屋外イベントを含め、映画祭を満喫した映画ファンが多かった。今回のテーマである「世界で一番、楽しい映画祭!」にふさわしい5日間だったといえる。オープニング上映は日本のアニメーション『ひるね姫~知らないワタシの物語』。その後5日間にわたり84本の作品が観客を楽しませた。とりわけ、韓国(関連)映画は14本上映され、ファンにとっては作品との嬉しい出会いが多かった。「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017(以下、ゆうばりファンタ)」のレポートをお届けする。

ゲストによるフォトセッション
多彩な才能が開花したオフシアター・コンペティション部門
オフシアター・コンペティション部門グランプリには、楽しいロードムービー『トータスの旅』(永山正史監督)が選ばれた。また、審査員特別賞には韓国のトロットをモチーフにしたユニークなテーマの『ベートーベン・メドレー』(イム・チョルミン監督)が選ばれた。さらに、北海道知事賞には、不条理な冒険の旅に出ることとなったひとりの男を描いた『はめられて Road to Love』(横山翔一監督)、シネガーアワードには『ストレンジデイズ』(越坂康史監督)、スペシャルメンションとして『堕ちる』(村山一也監督)が選ばれた。また、受賞作以外でも『カーネルパニック』(チョ・ジンソク監督)など、興味深い作品が目についた。

『M.boy』のキム・ヒョジョン監督
秀作揃いのショートフィルム・コンペティション部門
「インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門(以下、ショートフィルム部門)」では、国内外から20本の作品が出品された。グランプリを受賞した『M.boy』(キム・ヒョジョン監督)はイジメに遭った高校生が復讐のために巨大なカマキリに変身するショッキングなストーリーで、多くの観客に強い印象を残した。審査委員特別賞には『歯』(パスカル・ティボウ監督)。優秀芸術賞には『あたしだけをみて』(見里朝希監督)ほか2作品が選ばれた。また、受賞こそ逃したが、韓国映画『牙』(シン・ジョンフン監督)は、餓死寸前の女性吸血鬼のコミカルな生態をユーモラスに描いた楽しい作品。『ホームレス 怒りの追跡者』(キム・ボウォン監督)は、誘拐事件を目撃した女性が必死の決意で犯人を追跡する姿が印象的な作品だ。『Green Light』(キム・ソンミン監督)は、核戦争後の世界をロボット兵士と女性の交流で描いており、興味深いストーリーだった。『明日への約束』(赤井宏次監督)は、余命わずかな女性と娘との交流を繊細なタッチで情感たっぷりに描き、静かな感動が伝わってきた。『ミシマサイコ』(オード・ダンセット監督)は全編で映像の美しさに圧倒されるアニメーション。田舎の神社を舞台に二人の高校生と巫女の交流を描いた『夏の巫女』(小向英孝監督)は、2016年のゆうばりファンタで『あさつゆ』の監督・主演を務めた小川紗良が出演しており、今回もさわやかな青春映画を見せてくれた。
ユニークな作品揃いの企画部門
企画部門の「ショート・ショウケース」として、ヒョン・スル監督の3作品が上映された。『彼女の別れ方』は自撮りマニアの女性に振り回される男性を描いた楽しい作品、『それは牛のフンの臭いだった。』は、3人の売れない女優が車内に発生したにおいを巡って繰り広げるコメディだが、監督によると実体験に基づいたストーリーとのこと。『アレルギー』は、知り合いの同級生の男に部屋の模様替えを頼んだ女性が、男の勝手な振る舞いに困惑する物語。3作とも楽しい青春映画だった。また、「ゆうばりチョイス」として上映された『演技の重圧』(チョン・グヌン監督)も印象に残る。

ユン・ソクホ監督と主演の真田麻垂美
たくさんの観客を集めた『心に吹く風』『哭声/コクソン』
招待作品部門の『心に吹く風』は「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督作品で北海道ロケという話題性もあり、多くの観客を集めた。二十数年ぶりに再会した男女の心の揺らめきが富良野や美瑛の美しい風景を舞台に描かれ、心が洗われるような静かな感動を呼ぶ作品だ。本作では音楽も印象的であり、ストーリーに彩りを添えた。監督は、本作について「冬のソナタが日本でヒットしたことに感謝しており、その恩返しの思いを『心に吹く風』に込めた」と語っていた。
『哭声/コクソン』は、ナ・ホンジン監督と國村隼をゲストに迎えての上映ということもあり、上映前の会場に長蛇の列ができ、関心の高さがうかがえた。上映後のティーチインでは、寄せられたたくさんの質問に対し丁寧に答える監督と國村隼が印象的だった。

ナ・ホンジン監督と國村隼
禁断のフォービデンゾーンも魅力たっぷり
レイティングのついた作品を集中して上映するフォービデンゾーンでは2本の韓国映画が上映された。2015年のゆうばりファンタで『メイドロイド』が上映され、好評を博したノ・ジンス監督の『愛されない女』は、離島に住む親子と一人の女性との不気味な三角関係を描き注目を集めた。監督に、ユニークなストーリーを思いついたきっかけについて尋ねると、「以前、執着心の強い女性と交際していたことがあり、その経験が作品のヒントになった」とのことだった。また、作品で登場するバーが「ゆうばり」という名前であることについては「ゆうばりファンタに毎年参加していて愛着があり、店名にした」と語り、映画祭への熱い思いを語ってくれた。また『アウトドア・ビギンズ』(イム・ジンスン監督)は、ヤクザの暗殺を命じられた男が予想外の事件に巻き込まれるコメディドラマで、大いに観客を沸かせた。

『愛されない女』 主演のキム・ファヨンとノ・ジンス監督
今後のゆうばりファンタ
ゆうばりファンタは、夕張市の財政破綻後に再開されて10年を迎え、市民主体の映画祭として定着した感がある。メイン会場は、閉校となった高校の校舎を活用した「合宿の宿ひまわり」に移転して2回目となったが、上映設備や他会場とのアクセスの面で多少不便になったことは否めない。しかし、今後、夕張市は新たな文化施設を建設する計画を持っており、現在のメイン会場での開催は一時的なものになる可能性もある。ともあれ、ゆうばりファンタの楽しさは今後とも変わらないことを願い、また来年も来たくなる思いを強くしつつ、夕張を後にした。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017
期間:2017年3月2日(木)~3月6日(月)
会場:北海道夕張市内
公式サイト http://yubarifanta.com/
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