Report ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク 『あの人に逢えるまで』カン・ジェギュ監督×李鳳宇氏トークショー
Text by Kachi
2017/7/23掲載
南北の離散家族をテーマに描いた究極の短編ラブストーリー『あの人に逢えるまで』のトーク付き特別先行有料試写会が、6月22日、シネマート新宿にて開催された。ゲストは本作のほか、『シュリ』『ブラザーフッド』など南北分断をテーマにした作品を生み出してきたカン・ジェギュ監督。司会は、2000年に映画配給会社シネカノンの代表として『シュリ』を日本に紹介した映画プロデューサーの李鳳宇氏である。なお、李鳳宇氏は現在、『あの人に逢えるまで』を配給する株式会社レスペの最高執行責任者(COO)を務めている。
『あの人に逢えるまで』は、特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」で、7月22日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開予定。

(左)李鳳宇氏、(右)カン・ジェギュ監督
李鳳宇:まず、この短編映画を作るきっかけをお聞きしたいと思います。
監督:皆さんご存知のように、韓国は近代の歴史において、36年間の植民地、朝鮮戦争、独裁政権、そして発展と、とても沢山の変化をもたらしてきました。過去をどのように暮らして来たのか、そして現在はどうなのか、また未来はどのようにしていくのか、という答えを探せないまま、とても早く走ってきたようです。こうした中で、「戦争の痛みや本質について正当な答えを出さないままでは、これからの未来に対して予測はできないのではないか?」「他の人がこの題材に手を付けなくても、私だけでもこの話はしていかなければいけないのじゃないか?」と『シュリ』『ブラザーフッド』を作りました。
李鳳宇:カン監督と言えば、韓国を代表する監督で、韓国でも日本でも、『シュリ』以前『シュリ』以降と言われ、この作品が韓国映画の歴史を変えたとも言われています。監督は『シュリ』以降も色んな映画を撮っていらっしゃいますが、韓国の人にとっては『シュリ』という映画がどのような存在にあるのでしょうか? その後、様々な南北を扱う映画が、堰を切ったようにたくさん生まれています。南北を捉えた視点が変わって来ているようにも感じているんですけれども。その辺りは先駆者として、監督はどのようにお感じになっていますか?
監督:『シュリ』は韓国映画の分岐点と言えます。芸術映画、または産業映画としての映画のターニングポイントとなっていました。当時、韓国映画は作家の世界観を表現する芸術でした。映画が商品として成り立つのであろうか? 産業として成り立つのであろうか? と考えていました。当時韓国では『風の丘を越えて~西便制』(1993年)が100万人(ソウルでの観客数)を超え、当時興行的に大ヒットした映画でした。また、外国の映画としましては1998年に『タイタニック』が、韓国でも450万人(全国観客数)という最高の興行成績を得ました。そんな中、1999年に『シュリ』が620万人(全国観客数)という記録を打ち立てました。「韓国の映画でもこのような興行ができるのだ。ヒットが作れるのだ」と、韓国映画を作る上で180度変化をもたらした映画になりました。当時、韓国映画では「これだけは作ってはならない」というジャンルが、南北問題、特に北朝鮮を題材とした映画でした。しかし『シュリ』の成功によって、南北や北朝鮮の映画がヒットするのだということが知れ渡りました。その後、こういう南北の映画というものが、他のどこでも真似のできるものではない、韓国だけが作れる映画だということも分かるようになりました。
観客1:俳優を選ぶ時に大切な事は、監督としてどういうことでしょうか?
監督:一番大変だと思うものは、映画を作る上での一番基礎になるシナリオです。次に難しいのがキャスティングだと思います。監督が出演を願っている俳優が、もしかしたら「監督は嫌だよ」と言うかもしれません。またキャスティングのギャランティ、スケジュールの問題など、なかなか合わない事がとても多いです。監督の立場からして、シナリオは真っ白な白紙を埋めるようなものです。白紙に俳優の想いを当てはめてみて、私が考える人物と現実の人物、主観的な評価、客観的なデータといったものを共有するのが、大切だと思います。
観客2:撮影地は誰がどうやって決めていますか?
監督:撮影地はとても重要だと思います。映画にはセットで撮る場合、合成で撮る場合などありますが、私の場合はロケーション撮影がとても多いので、大切な要素になっています。陽がいつ出て沈むのか。また一年の天気はどうなのか。雨がどれくらい降るのか。霧がどれくらい出るのか。風がどのくらい吹くのか。そうした撮影地のコンディションなども分析して決めていきます。制作費もかなり関連します。制作費が多い映画でしたら、コンピューターで加工したり、イメージを作ったりすることもできます。『LION ライオン 25年目のただいま』という映画ご覧になったでしょうか? この映画は幼い頃、駅に兄と遊びにいった子供が、兄がちょっと目を離した隙に、弟が電車に乗り、また家から遠く離れてしまい、またあまりの幼さで家を探すことができず、そして20年以上経った後にどうにか家を探してきたというお話です。幼い子供が感じた、怖さ、恐怖。そしてその世界が少年の立場からはどれだけ大きな壁になったか?という心理的・感情的なものを、この映画の撮影地を探していくと分かるので、この映画を観ていただくと、撮影地がどのような役割をするのか、に同感していただけるかと思います。
李鳳宇:今日、実は6月22日なんですね。このイベントに今日を選んだのは、皆さんご存知のように、6月25日は韓国では「ユギオ」と言いますが、朝鮮戦争が勃発した日だからです。韓国の人々にとっては、非常に悲劇的な日でありますし、毎年この日に色々なことを考えるのです。この(朝鮮戦争が始まった6月25日に近い)6月22日に、日本という韓国の隣の国で、離散家族を描いた監督の作品を上映するということについて一言お願いします。
監督:多分、ここにいらっしゃる日本の皆様、そして韓国の人においても、戦争というのは決して他人事ではないと思います。これまでたくさんの戦争で、離散の苦しみ、家族の別れ、父母との別れ、娘と親との別れなど、とても辛い時間を験してきています。3年間の朝鮮戦争で、400万人以上の戦死者が出ました。また、65年という南北分断の歴史には、痛みも伴いました。今、毎日のようにテロと戦争が起こっています。こういう時代に私たちは住んでいます。骨身に沁みた痛さを、日本の人も韓国の人々も感じています。北朝鮮のミサイル問題も起きています。私たち近くに住む人間たちとして、戦争は決して起こしてはいけないものです。そして、日本、韓国の両国は戦争を絶対反対すべきです。そういう思いで未来を切り開いていきたいと思っています。ありがとうございました。

『あの人に逢えるまで』
『あの人に逢えるまで』
原題 민우씨 오는 날 英題 Awaiting 韓国公開 2014年
監督 カン・ジェギュ 出演 ムン・チェウォン、コ・ス、ソン・スク
2017年7月22日(土)より、特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」の1本としてシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
公式サイト http://www.koreanfilmweek.com/
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