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Review 『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』 ~災害をユーモアで描いた中にある、監督の怒り

Text by Kachi
2017/5/2掲載



 セウォル号の沈没から早や3年の月日が経った。この3月にようやく海底から引き上げられた船体は、在りし日の姿を辛うじてとどめてはいるものの、もっと長い年月放っておかれていたように朽ちかけていた。

tunnel-movie.jpg

 キム・ソンフン監督と言えば、ふたりの汚職警官が巻き起こすモラルなき追走劇『最後まで行く』で、その異能ぶりが世間に知れ渡った。本作『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』はいわゆるディザスター・ムービーで、前作とはかなり趣向を変えてきている。韓国は、未曾有の海難事故を経験した。日本も幾度も大きな震災があり、東北と熊本の傷痕は今も癒えたとは言い難い。そして5年前には、トンネルの天井板が落下する事故で死者が出ている。現実がフィクションを超える悲劇に見舞われてしまった今、映画をどう受け止めたらいいのだろうかと、観るのをためらう人も多いかもしれない。しかし、試写で鑑賞して、それが思い過ごしであったことに気づかされた。

 ごく普通のカーディーラー、ジョンス(ハ・ジョンウ)は、仕事の帰り道でトンネルに差し掛かった瞬間、崩れ落ちた天井の下敷きになり、車ごと埋まってしまう。何とか一命は取り留め、救急隊と連絡を取ったジョンス。彼の手元にはペットボトルの水2本、スマートフォン、幼い娘のために用意したバースデーケーキがあるだけだった。救助活動が難航する中、崩落は進み、状況は日増しに悪化していく。

 ジョンスを阻むがれきは、セットとCGの境界が判別できないほどで、「本当に役者を埋めたのか?」と錯覚するほどだが、この映画の凄みは空間によるものだけではない。序盤、トンネルが崩落する場面。類する映画によく見られる、たとえば緩むねじや周囲の震動といった不幸の予兆のカットがない。現実の災厄とは、何も分からぬままこうして降りかかると痛感させるリアリティが冴えている。

 その一方で、「決してパニックにならず、冷静でいるように」と救急隊長から言い聞かせられたジョンスが、極限下で日常を保とうとするさまや、ある闖入者とのやりとりに笑いがこみ上げる。火星に一人取り残される宇宙飛行士のサバイバルを描いた『オデッセイ』のユーモアとポジティブさに似ている。生きるか死ぬかが懸かった局面に持ち込まれた生活の感覚が、緊迫感とのズレを生み、特に映画の前半に笑いを生んでいるのだ。

 夫の無事を祈る妻セヒョン(ペ・ドゥナ)の献身など、韓国映画お得意のヒューマニスティックな展開を期待するところだが、キム・ソンフン監督は王道を巧く逸れていく。その役回りが、キム救急隊長に扮したオ・ダルスであった。「シーン・スティラー」と呼ばれて久しい彼が登場すると、作り手の技量如何によることなく、なんとなく見栄えのいい映画になってしまうせいか、時折「オ・ダルスの持ち腐れ!」と怒りたくなる映画を目の当たりにする。だが今回は持ち前のコミック・リリーフとしての力量を見せつけながら、漢泣きを搾り取っていく。

 仰々しく事故現場を視察に来た官僚連中と、横暴な報道陣。そして、ある不幸な出来事をきっかけに、ジョンスに対する世論は風向きが変わる。大きな声が蔓延させる同調圧力に、たった一人のか細い声はかき消される。キム救急隊長だけが、ジョンスが生きていることを信じて疑わなかった。こうした信念が、セウォル号事故救出の現場に欠けていたのではないか。2014年4月以降、韓国では『グエムル -漢江の怪物-』(2006)が、事故を彷彿とさせると思わぬ注目を浴びたという。得体の知れない漢江の化け物に丸呑みされ、しかし奇跡的に生きていた娘から家族に電話がかかってくる映画のくだりに、ある日突然海の底に消えてしまった我が子を重ねたかもしれない家族の悲痛を、政府の誰かが推し量っただろうか。最終的に信じられるのは、大文字の「国家」でも「国民」でもないという作り手の絶望。人の不運をエンターテイメントにするのではなく、しかしユーモアで軽やかに描く中に、何と激しい憤怒が込められているのか。

 最新作『お嬢さん』が3月に日本で劇場公開された際、パク・チャヌク監督は昨今の韓国映画勢が放つエネルギーの理由を「たくさん苦労しているから。ここまで堕落した政府を経験したことはないと思うし、一般の人たちが抗議したりデモしたり。感情の起伏が激しくならざるを得ない一方、豊かでドラマチックな映画ができるのでは」(2017年3月3日、朝日新聞夕刊より)と語った。確かに『お嬢さん』は、才気がほとばしっていた。キム・ソンフンも間違いなく、そうした映画人の一人である。


『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』
 原題 터널 英題 Tunnel 韓国公開 2016年
 監督 キム・ソンフン 出演 ハ・ジョンウ、ペ・ドゥナ、オ・ダルス
 2017年5月13日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://tunnel-movie.net/


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