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Report 第12回大阪アジアン映画祭 ~様々な視点で描く韓国の今

Text by mame
2017/4/2掲載



 大阪アジアン映画祭(以下、OAFF)に参加して、今年で5年目になる。参加当初は会場も市内に点在するミニシアターが中心で、自転車で回っても忙しいぐらいだったが、今年はキタを中心に会場が集約され、ずいぶん回りやすくなった。それでも上映後のゲストトークに参加したりすれば、時間が過ぎてゆくのはあっという間だ。

 今回上映された韓国関連作品は5作品。

 『カム・トゥゲザー』はシン・ドンイル監督の7年ぶりの長編復帰作。リストラに遭い、自宅でイライラを募らせる父、ボムグ(イム・ヒョングク)。違法すれすれの行為でクレジットカードの営業に奔走するも顧客の獲得に苦労する母、ミヨン(イ・ヘウン)。そして浪人中の娘、ハンナ(チェ・ビン)は希望大学にかろうじて補欠合格するが、合格者の辞退を待つしかない日々は不安でいっぱいだ。三者三様の厳しい現実に気持ちが沈むかと思いきや、ところどころに現れるブラックユーモアに思わず笑ってしまう、不思議な魅力を持った作品だ。

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『カム・トゥゲザー』

 シン・ドンイル監督と主演イ・ヘウンは、日本の観客と共に鑑賞を楽しんだ後に登壇。「後半、危機に直面した3人は思わず自分の心の弱さに負けそうになるが、良心で立ち向かう。ひとりに偏らず、3人それぞれの戦いを丁寧に描くよう心がけた」(シン・ドンイル監督)、「1週間の家族の日常を描いた作品。当人たちはそんな意識もないが、実は綱渡りのように危うい日常を送っている。大きな危機に直面する事で、やっと綱から落ちたのだとわかるが、当時はそんな意識も持っていない。人生とは、そのように過ぎてゆくのではないか」(イ・ヘウン)と、それぞれ印象的な言葉で語ってくれた。劇中で多用される“少しだけ”という言葉の意味に質問が及ぶと、現状への問題意識を吐露させた。「韓国社会を表している言葉。“あと少しだけ”に執着するあまり、多くの人が重圧を感じている。その“少しだけ”に翻弄されて、人間関係すらも大きく変わってしまう。本来は、その“少しだけ”には何の意味も無いはずなのに。」

 余裕のない韓国社会を表した作品はもう1本。特集企画「アジアの失職、求職、労働現場」で上映された短編『夏の夜』(イ・ジウォン監督)だ。夜はコンビニで働きながら、学業・就活に励む大学生のソヨン(ハン・ウヨン)。新たに家庭教師のバイトを始める事になったが、生徒のミンジョン(チョン・ダウン)も、飲んだくれの父に代わり家庭教師代を工面するために、授業が終わるなりファーストフード店に直行し、バイトをこなしてから、家庭教師の時間に走って間に合わせる。バイトのシフト変更を引き受けたミンジョンは、ソヨンに家庭教師の日程変更を頼むが、ソヨンがひとたびスケジュール調整を試みると、自分のバイト、ひいては大切な面接の日にまで影響が及び、たちまち自分の中の優先順位を試されるような切羽詰まった状況に陥る。日程調整に難色を示すソヨンに、ミンジョンは「私がお金を払っているのだから、先生が譲るのが当然では?」と悪気もなく言い放つ。無理もないだろう。私たちの多くが「お金を貰っているのだから、多少無理を言われるのも仕方ない」という意識のもと、時間を切り売りし、労働の対価を得ているのだから。ミンジョンの発言は、その意識を逆手にとったものだ。だがソヨンは、お互い忙しい時間を調整して、勉強する時間を共有するふたりにその理論を適用する事に、なんともいえない違和感を覚える。

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『夏の夜』

 「受験戦争を終え、良い大学に入れたと思えば、次は良い就職、と切れ目のない競争社会を生きる若者たちの現状に、異を唱えたかった」とイ・ジウォン監督は語る。昨今は日本でも働き方改革が話題になっているが、監督も朝井リョウの小説「何者」を読み、就活に翻弄される若者の姿に共感を覚えたという。時間を切り売りするような感覚もないまま、日常が消費されてゆく若者の姿を通して、一度立ち止まる勇気を持つ事、自分の意志で、大切なもののために時間を使おうとする若者達の姿が爽やかに描かれていた。

 『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』(ユン・ジェホ監督)は、中国在住で脱北を手助けする北朝鮮女性、B(ベー)の姿を追ったドキュメンタリー。脱北の詳細を明かす事はできないため、暗い画面に携帯電話越しに指示を出すBの声が響き、実録もののような緊迫感が漂う。早口で電話口の相手に指示する姿はいかにもやり手で、気が強そうだ。北朝鮮に残してきた家族を養うため、危険な仕事にも手を染めてきたBは、もともとは騙されて中国に売られた身ではあるが、現地男性に見初められて結婚するはめになった今も、常に仕事や家事に忙しそうで、その境遇から想像するような惨めな女性には到底見えない。むしろ惨めな印象を残したのは、残された北朝鮮の夫だ。

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『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』

 後半、脱北させた息子2人とB、そして夫は、図らずしも家族4人水いらずで韓国で暮らす事になるのだが、ここでも忙しく仕事に走り回り、家事もこなすのはBで、夫はといえば、どこか所在なげに部屋の隅に佇んでいる。そもそも、この夫がしっかりしていれば、Bはわざわざ中国に出稼ぎになど出なくても済んだのでは…と思わされるぐらいだ。一方、中国に残してきた夫とも関係は良好で、テレビ電話で近況を報告しあうBを見ていると、どこに居ても、残してきた家族に囚われてしまう、数奇な運命を思った。だが、全体としては貪欲に生きる道を切り拓いてゆく、ひとりの女性の逞しさが印象に残った。

 特集企画「ニューアクション! サウスイースト」からは昨年のベトナム版に続き、タイでの『怪しい彼女』のリメイク『突然20歳 タイの怪しい彼女』(アーラヤ・スリハーン監督)が登場。主演のダビカ・ホーンは昨年のOAFFでABC賞を受賞した『フリーランス』の女医役でも気品ある美しさが魅力的だったが、今回は「タイのオードリー・ヘップバーン」として、20歳に若返るヒロイン、パーン役をコミカルかつ上品に演じている。

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『突然20歳 タイの怪しい彼女』

 昨年のベトナム版に比べると、オリジナルにさらに忠実な仕上がりで、バンドマンである孫の活躍に、よりスポットが当てられており、若者の成長物語としても観る事ができるのが特徴だ。往年の歌謡曲を含んだ、各国ごとに違う歌唱シーンもこの映画に欠かすことのできない魅力であり、各国の『怪しい彼女』を一堂に集めたサントラとか企画されないだろうか…と思ってしまう。

 『ロボット・ソリ』(イ・ホジェ監督)は、行方不明になった娘を10年間探し続ける父、ヘグァン(イ・ソンミン)と、世界中の音声を記憶する衛星ロボット、ソリとの絆を描く。近所のアイスクリーム・ショップを「秘密基地」として待ち合わせていた頃からの父と娘の関係性が丁寧に描かれ、娘の不在後はすっかり精彩を失ってしまったヘグァンに、観ているこちらも心が痛む。娘が自立してゆくにつれ、すれ違う父と娘のお互いへの思いが、ソリに記憶された音声を通して徐々に明らかになり、ヘグァンは今まで目を背けてきた娘との記憶に向き合う事となる。

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『ロボット・ソリ』

 イ・ホジェ監督は舞台挨拶にて「忘れてしまいたい記憶と、忘れてはいけない記憶について描きたかった」と語った。思い出すのも辛い記憶を忘れる事で、人は日々を円滑に過ごす事ができるのだろう。だが時には、向き合わなければ、自分の中の時計を進める事ができない記憶も存在する。昔の音も今の音も等しく記憶するソリが「絶対に見つけなきゃ」と決意した声は、誰からも忘れられているような小さな声だったところに、監督の意志を感じた。

 今年も多彩な作品で楽しませてくれたOAFF。韓国関連作品に関していえば、その題材の広さに驚かされた。折しも『お嬢さん』『哭声/コクソン』『アシュラ』とビッグネームの公開が相次いだ3月。まだまだ韓国映画に魅せられる日々は続きそうだ。


第12回大阪アジアン映画祭
 期間:2017年3月3日(金)~3月12日(日)
 会場:梅田ブルク7、ABCホール、シネ・リーブル梅田、阪急うめだホール、国立国際美術館
 公式サイト http://www.oaff.jp/

Writer's Note
 mame。今回のOAFFでは、会場として阪急百貨店内にある阪急うめだホールが初登場。映画の合間のデパ地下巡りに心躍らせました。


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