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Review 『お嬢さん』 ~パク・チャヌクが描く、耽美で倒錯したエロスとサスペンス

Text by hebaragi
2017/2/3掲載



 韓国映画界の巨匠、パク・チャヌク監督といえば『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』の、いわゆる「復讐三部作」が有名だが、最近ではソン・イェジン主演のミステリー・スリラー『荊棘の秘密』の共同脚本を手掛けるなど多様なテーマに取り組んでいる。監督の最新作となる本作は、豪邸に住むお嬢さん・秀子(キム・ミニ)と、彼女の財産を狙う詐欺師・藤原伯爵(ハ・ジョンウ)、下女のスッキ(キム・テリ)、そしてお嬢さんの後見人である叔父・上月(チョ・ジヌン)の4人が、財産と心を奪い取るために騙しあうストーリーだ。スリラーではあるが、秀子とスッキのラブストーリーの要素も垣間見える。原作は「このミステリーがすごい!」で第1位になった、イギリスの人気ミステリー作家サラ・ウォーターズの『荊(いばら)の城』。

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 舞台は1939年、日本統治時代の朝鮮。幼少期に両親を亡くし、叔父の厳格な保護のもと、人里離れた豪邸で暮らす日本人の貴族のお嬢さん・秀子。彼女のもとに、伯爵が呼んだ新しい下女・スッキが訪ねてくる。毎日、書斎で本を読むことを日課としている孤独な秀子。一方、下女の正体は有名な詐欺師一味に育てられた孤児だった。スッキは、秀子を誘惑して伯爵と結婚させた後、日本の精神病院に入れて、秀子が相続する財産を奪い取ろうという策略のために派遣されたのだった。その後、伯爵とスッキはあの手この手で秀子を誘惑し始める。しかし、伯爵の思惑とは裏腹に、献身的なスッキに秀子が少しずつ心を許すようになり、スッキもまた、騙す相手のはずだった秀子に惹かれていく。そして、秀子とスッキの関係は深まり、身も心も許しあう関係に発展することとなる。さらに、事態は思わぬ方向へと動き始め、予測不可能な驚愕の結末へと進む。

 冒頭からパク・チャヌク ワールド全開。植民地時代を背景にした、贅をつくした和洋折衷(英国風家屋と日本家屋)の豪奢な屋敷と庭園、家具調度品、日本の水墨画などの美術、着物やドレスなど、主役ふたりのコスチュームの美しさに息を飲む。また、いわくありげな屋敷自体からも耽美的な美しさが伝わってくる。フィクションと現実の境目が曖昧に見える地下室の作りも見どころだ。さらに、秀子とスッキのラブシーンや、スッキが秀子の入浴の世話をするシーンも印象的で美しい。例えて言えば、江戸川乱歩の小説を彷彿とさせる作品世界だ。

 一方、上月が秀子に官能小説を朗読させるシーンで、恍惚とした表情を見せるところも興味深い。まるで、日本の性文化へのあこがれを素直に表現しているようだ。倒錯した世界観に思わず目を背けたくなるシーンもあるが、全編を通じて秀子とスッキの美しさが際立つ。監督が「当時、韓国のインテリたちは日本の帝国主義的支配が永久に続くと思っていました。日本文化を信奉し、溺愛し浸っていたのです」とコメントを寄せているように、日本語の台詞や春画の取りあげ方も効果的だ。膨大な量の日本の稀少本を収蔵した地下室で「朝鮮は醜いが日本は美しい」と言い切る上月。一方「日本は醜いが朝鮮は美しいと言う日本人もいる」と発言する藤原伯爵。これらの発言から、日本の植民地支配や日本文化に対する当時の朝鮮人の複雑な思いを垣間見ることができる。

 本作は三部構成となっており、一部はスッキの視点で、二部は秀子の視点で描かれ、三部では衝撃的な真実が明かされる。全体で145分という長尺だが、スリルあふれる展開で、全く長さを感じさせない。また、台詞の約半分が日本語であり、日本(三重県桑名市、名張市、松阪市)でロケが行われたことから、エンドロールにスタッフとして多数の日本人の名前がクレジットされている。

 『お嬢さん』は、韓国で「青少年(満18歳未満)観覧不可」のレイティングで公開されたにもかかわらず、観客動員は400万人を突破。アメリカやイギリスでは「2016年・今年の映画」に選ばれた。また、2016年に開催された第69回カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門にノミネートされ、芸術貢献(=バルカン)賞を受賞。スタンディング・オベーションが起きたほど観客を魅了した。さらに、韓国内外68もの映画祭・映画賞にノミネートされ、そのうち受賞が31を記録しているように、世界が認めた秀作といえよう。一部にレズビアン映画との見方もあるが、それだけにとどまらず、当時の日本文化が興味深く描かれるなど、深い味わいと奥行きを持った作品といえる。予測不可能な、倒錯したエロスとサスペンスが交錯する本作が、日本の観客にどう受け止められるのか、非常に興味深いところだ。


『お嬢さん』
 原題 아가씨 英題 The Handmaiden 韓国公開 2016年
 監督 パク・チャヌク 出演 キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、キム・ヘスク、ムン・ソリ
 2017年3月3日(金)より、TOHOシネマズシャンテほかロードショー
 公式サイト http://ojosan.jp/

Writer's Note
 hebaragi。江戸川乱歩の作品世界が好きだ。小学生の頃、大人の世界を垣間見るゾクゾク感の虜になった記憶がある。昨年、『お嬢さん』をソウルの映画館で初見して、久々にそのゾクゾク感を思い出した。


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