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Report 第17回東京フィルメックス ~作り手、評者、役者に感じた映画への熱量

Text by Kachi
2017/1/10掲載



 それは、とてもフィルメックスらしい、というべき光景だった。審査員もゲストも客席から登壇する。以前にも見られた試みなのかもしれないが、まるで審査員が大上段に構えた特権的な役職ではなく、私たち観客と共にあるということの現れかに見えた。

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映画祭ポスター・ビジュアル

 会期中、2日目の国際シンポジウム「アジアから映画の未来を考える」に参加できたことは大きな収穫であった。東京フィルメックスの常連で、困難を経てもなお映画を撮り続けているアミール・ナデリ監督が「作品はオリジナルであることが大事。そして映画作りに必要なのはピュアであることだ」と気炎を上げ、熱弁の終わりに「カット!」と一言入れる茶目っ気に和ませられる。審査委員長のトニー・レインズ氏は「劇場というのは、この100年とは違った形態になっていく」として、マレーネ・ディートリッヒの「将来はあなたのものよ。私のものでなくて」という金言を引用。その語り口には、終わりゆくキネマの時代への涙がにじみながらも、映画作りに関わることがより難しい現代で、これからの才能が生き残る道を一途に模索する態度がうかがえる。穏やかに話すキム・ジソク氏だが、韓国映画の現状を誉めた質問者に対しては「本当にそう思うんですか?」と迫り、「今は政治が愚かだから、政権交代したら良い映画が生まれますね」と舌鋒鋭い。市山尚三氏は、日本と世界の映画製作の現場について、その違いと問題点について冷静に言及する。映画の未来を憂う者が額をつきあわせたホットな応酬であった。日本の映画批評の遅れと怠慢を指弾したトニー委員長の厳しい言葉に、筆者は大いに恥じ入るばかりだった。

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『The NET 網に囚われた男』キム・ギドク監督

 林加奈子ディレクターが開幕式で宣言した「本気の映画」が、オープニングから登場した。『The NET 網に囚われた男』は、これまで2作品で南北分断についてのプロデュース作品を手がけてきたキム・ギドクが、満を持すかのように演出・脚本から携わった映画である。北朝鮮で漁を生業とするチョル(リュ・スンボム)は、南北国境にほど近くで漁網を仕掛けている最中、ボートのエンジンが故障。制御を失ったボートは国境線を越えてしまい、チョルは韓国軍に逮捕されてしまう。

 かつてのプロデュース作、たとえば『プンサンケ 豊山犬』では、南北をひそかに行き来する孤高の運び屋と脱北女性のロマンスが物語を動かす鍵となり、『レッド・ファミリー』では、任務のために南で疑似家族を演じていた北の工作員たちに、隣人一家に触発されるように本物の絆が芽生えたことで悲劇が起きる。いずれも、国家が無辜なはずの民を翻弄している現状への怒りを、エンターテイメントに昇華した作品となっていた。そうしたある種の映画的娯楽が、本作にはほとんどない。開始早々、チョルが妻(ギドクの最新ミューズ、イ・ウヌ)とまぐわうシーンを除けば、性的および嗜虐的な描写も薄く、ギドク・カラーは影を潜めている。それだけに、分断国家に対するキム・ギドクの夾雑物のない切迫した思いが、確と伝わってくる。

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『The NET 網に囚われた男』キム・ギドク監督

 残してきた妻子を思い、一瞬たりとも南の資本主義に毒されまいと抗うチョルだが、猥雑な都会の街並みと経済的豊さがもたらす魅力が、彼の心をかすかに揺らす。そうした人間的脆さも、権力を思うまま振るう警察の横暴さも、簡単に指弾できない。監督は、劇中では数少ない心優しい男についてさえ、一抹の疑念が付きまとうように仕掛けているからだ。林加奈子ディレクターが「ギドク・トリック」と評したように、「善い悪いを抜きにお互いがお互いを疑っているような韓国と北朝鮮の現実」(キム・ギドク監督)という、監督の寓意術に違いない。

 ユン・ガウン監督『私たち』は、スペシャル・メンションと観客賞のダブル受賞という快挙を成し遂げた。クラスの中で「みそっかす」(子どもの遊びで、一人前に扱ってもらえない)のソン(チェ・スイン)。夏休み目前に転校してきたジア(ソル・ヘイン)。偶然出会った二人は、かけがえのない親友としてひと夏を過ごす。ところが新学期を間近に控えたある出来事で、友情は徐々にひび割れていく。

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『私たち』ユン・ガウン監督

 上映後、ティーチインに登壇したユン監督は「自分がソンよりももう少し年齢が上の頃、映画と似たような、幸せで心が痛む経験をした」と話した。この作品のリアリティは、監督の脚本よりも、子供たちの「こういう時はどう言うか?」という現実を優先させた演出や、実体験から映画が生まれていることに起因するわけだが、子供の主観ショットが維持された画角によって、ソンやジアたちが普段見て、聞いて、触れている世界のみずみずしさと残酷さが、偽りないものとして観客に届いてくる。低所得家庭のソンと弟のユンは、しかし母親からの愛情を一身に受けている。他方、欲しいものを飽くほど与えてもらえるジアだが、両親の関係はすでに破綻していて、子供心にやり場のない鬱積が広がっている。そんなジアを見て、家で咲いていたホウセンカから取った赤色を、爪紅にして慰めようとするソン。「上手に慰める言葉がみつからないから」(ユン監督)こその行動だが、このシーンのみならず、本作は私たち大人がはっとするような、本質的な示唆を与えてくれる。言葉は時に舌足らずで、たやすく誰かを傷つけてしまうものだ。

 韓国映画を観る時、子役が見せる大人顔負けの演技にひれ伏したくなることがある。2016年は、特にそういう思いに駆られることが多かった。パク・チャヌク監督『お嬢さん』で、キム・ミニ演じる官能的な令嬢、秀子の幼少時代を演じたチョ・ウニョン、『哭声/コクソン』で、不気味な悪霊の餌食になる少女を怪演&力演したキム・ファニ、そして『私たち』のチェ・スインとソル・ヘイン、更にフィルメックスで観客の心を一人でわしづかみにした、ソンの弟ユン役のカン・ミンジュンは、これから幼い名優たちを牽引していく存在になるだろう。

 無論、子役だけでなく、少ない出番ながら鮮烈な印象を残した女優もいた。『The NET 網に囚われた男』で、スンデ店に潜む女性スパイに扮したのは、今年『スチールフラワー』が評価され、今や実力派若手女優の一翼を担うチョン・ハダムで、「悲しい時にいつも泣かないといけませんか?」というセリフとともに忘れがたい登場であった。


第17回東京フィルメックス
 期間:2016年11月19日(土)~11月27日(日)
 会場:有楽町朝日ホールほか
 公式サイト http://filmex.net/

『The NET 網に囚われた男』
 原題 그물 英題 THE NET 韓国公開 2016年
 監督 キム・ギドク 出演 リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン、チェ・グィファ、ソン・ミンソク
 公式サイト http://thenet-ami.com/
 第17回東京フィルメックス特別招待作品(オープニング作品)
 2017年1月7日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開

『私たち』
 原題 우리들 英題 The World of Us 韓国公開 2016年
 監督 ユン・ガウン 出演 チェ・スイン、ソル・ヘイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン
 第17回東京フィルメックス<東京フィルメックス・コンペティション>招待作


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