Interview 『キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち』パク・デミン監督 ~現実で叶わない痛快さを映画で味わって欲しい
Text by Kachi
2017/1/9掲載
ユ・スンホ主演の『キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち』が、1月20日(金)より全国公開される。

時は1600年代。李氏朝鮮の民は、大国・清との相次ぐ戦乱に、いつも死と隣りあわせであった。辛くも命長らえたキム・ソンダル(ユ・スンホ)、ポウォン(コ・チャンソク)、キョン(シウミン)の3人は「死んだも同然の命、愉しもう!」と意気投合し、紅一点のユン菩薩(ラ・ミラン)も加わり、天下の詐欺集団として名を轟かせることになる。そんな彼らの新たなヤマは、当時、清への上納品であった煙草の売買で生まれる莫大な利益。順調にことが運んだかに見えた矢先、権力者ソン・デリョン(チョ・ジェヒョン)を敵に回したことで、予期せぬ事件が起きてしまう…。
勧善懲悪の正統派時代劇であり、かつ俳優陣の個性が楽しめる痛快さが魅力である。今回、コリアン・シネマ・ウィーク2016でのプレミア先行上映会に来日したパク・デミン監督にインタビューを行った。
── 映画を拝見して、俳優に魅力があり、男女や年齢を問わず楽しめる内容だと思いました。監督の前作、ファン・ジョンミンさん主演の『影の殺人』(原題:日本未公開作)も、日本統治下で起きた殺人事件を描く映画でした。監督は歴史的な題材に惹かれるのでしょうか。
「当時こういう事件が起きた」ということより、時代背景そのものが重要だと思います。1600年代や日本統治時代は、自分が経験していない時代なので、現代劇を作るよりも「こういうことがあったんじゃないか?」と、自由に描く余地が広がります。時代劇であるからこそ、より新鮮に考え、自由な表現ができるのではないか?と考えています。実際の史実、当時がこういう時代であったというのは、あくまで背景であって、その中で色々なことが自由に描写できるのが面白いのではないかと思います。
── しっかりと時代考証をした上で、自由に表現されていると思いました。こうしたバランスを取る上での苦労や工夫について教えて下さい。
もちろん、ある程度の時代考証はします。特に建物や衣装は、当時の暮らしを外れることなく復元したいですね。当時の人々の暮らしぶりを見たり感じたりすることができれば、「こういう暮らしをしていたなら、こういうこともあり得るだろう」と、自由な発想が生まれる余地が出てくるからです。例えば、劇中に登場する大規模な堤防は、おそらく当時の技術や条件を考えたら無理でしょう。しかし、当時の朝鮮では作られていなかったにせよ、中国の清で同じような事例があり、その技術を導入したと考えれば、不可能ではなかったかも知れません。前作『影の殺人』についても、発明品が出てきて、その中で更に新しい物を見せていったわけですが、実際に時代考証をして、ちゃんとあったものにどのように新しい物を組み合わせていくかが肝心です。「こういう物が当時できていて、もっと頭のいい人が考えたならこういう物もできたのではないか」という風に、自由の余地を持たせたということです。

── キム・ソンダル、通称・詐欺師のポンイは軽薄で享楽的、でもやる時はやってくれるというキャラクターです。女装してウィンクもします。演じたユ・スンホさんは、あるインタビューで「普段の自分とポンイはだいぶ違うので、演じるのに苦労した」と話していましたが、大変楽しそうでそのようには見えませんでした。
演技するのに苦労されたというのは、おそらく嘘だと思います(笑)。女装するところも、脚本ではモンタージュとしてほんのワンカット見せる予定だったんです。ただ、準備をしている段階で、本人が「せっかくだからもっとやりたい」と意欲をみせたので、シナリオを長くして一つのシーンとしたのです。もちろん、彼が今まで演じてきたキャラクターとポンイはかなり違っていますので、最初は少しぎこちない部分もあったかと思いますが、テイクを重ねるごとに本人も楽しみながら演じているのが見てとれましたし、もっと笑わせたいと思ってややオーバーに見せることもありました。本人もあれこれ試みていたようです。スンホさんの性格は、基本的に真面目なのですが、いたずらっ子な一面も持ち合わせているので、演技をしながらそういう部分が出てきたのではないかと思います。韓国でのDVD発売の準備で、先日、スンホさんに会ったのですが、「撮影現場に行くのが本当に楽しかった。今でも思い出します」と話していました。彼は子役の頃からずっと演技をしていて、大変な経験もたくさんしているはずですが、「キム・ソンダルのおかげで現場へ行く楽しみを知った」と言っていました。
── 今作が映画初出演であるEXOのシウミンさんですが、詐欺団の末っ子という可愛らしさがよく出ていました。彼の純粋さ、可愛らしさは、映画の中で重要で、大切な役柄だったと思います。韓国のアイドルには「演技ドル」と呼ばれる方々がいて、初出演の映画であっても存在感を放っているのをよく見ます。撮影の時のシウミンさんには、演出でアドバイスなどされましたか。
演技経験のないアイドルといっても、やはりアイドルとしての才能を持ち合わせていて、自己表現という面では皆さん長けているので、「演技ドル」と呼ばれる人たちは、そういう意味で初めての作品でも存在感を残せているのだと思います。シウミンさんは、元々、可愛らしさ、末っ子の弟のように見えるところがあったので、それをどう引き出せるかが作品の鍵になると思い、何か新しく作り出すというよりも、彼が持ち合わせている愛らしさを自然に引き出してあげることが大切だと思いました。毎回シーンの撮影に取り掛かる前にあれこれ言うのではなく、「これは本当に起きていることだ、という風に思えばいいよ」と伝えました。そして「キョンというキャラクターはとにかく愛らしくなくてはいけないから、君はそのようにしていてくれればいいよ」と言いました。

── K-POPアイドルは、歌やダンスで常に高い水準を求められているので、身体的な勘も鋭いのかなと思いました。
カメラのフレーム内に収めるのが難しいシーンがあったのですが、シウミンさんは自然にカメラに合わせてくれて、一発OKでした。やはり体を使って表現するところは特に上手かったです。
── その他、チョ・ジェヒョンさんら演技巧者が顔を揃えています。彼らは自分の演技スタイルを確立していますが、そういった方々への演出はどのようにされましたか。
チョ・ジェヒョンさんは、現場で自分の演技スタイルにこだわる感じではありませんでした。最初に「自分はこのシーンでどうすればいいか」ということを聞いてくださって、その上でまたご本人の考えや意見などをおっしゃって下さいました。まず、ご本人が考える演技をしてもらい、それでよければ何テイクか重ねてもらった中からいいテイクを取って、監督の私が考えている演技と違うところがあったら、「そこはこのように」とか、「セリフのトーンをこうしていただけますか」とお願いすると、「分かった」とそのまま取り入れて試して下さったので、特に難しいことはなかったです。チョ・ジェヒョンさんご自身も映画を撮られた経験があり、監督と俳優の関係についてよく心得ていらっしゃるので、私のリクエストをそのまま聞いて下さいました。

パク・デミン監督
── ソン・デリョンのように富を持つ人間が、国のあり方を悪い方に変えてしまうストーリーには、現在の韓国社会における財閥と政治のあり方のような問題が暗示されているのでしょうか。
そうですね。ソン・デリョンという悪役をチョ・ジェヒョンさんにお願いする際、「言ってみれば現代の財閥みたいなもので、色々な悪行をするのを懲らしめる物語です」と話しました。時代背景としては朝鮮時代なのですが、これを現代に置き換えてみれば財閥が富を独占して悪いことをしているという感覚です。実際に起きていることとは違って、なかなか現実には(悪者を懲らしめるということは)叶わないのだけれども、悪い奴らをやっつける痛快な感じを、映画を通して皆さんに感じていただけたらと思います。
『キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち』
原題 봉이 김선달 英題 Seondal: The Man who Sells the River 韓国公開 2016年
監督 パク・デミン 出演 ユ・スンホ、チョ・ジェヒョン、コ・チャンソク、ラ・ミラン、シウミン(EXO)
2017年1月20日(金)より、TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ新宿ほか全国順次ロードショー
公式サイト http://kimseondal.jp/
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