Report 新千歳空港国際アニメーション映画祭2016 ~空港が世界中のアニメで埋め尽くされた4日間
Text by hebaragi
2016/12/13掲載
11月3日から6日まで、北海道の空の玄関・新千歳空港内の映画館「ソラシネマちとせ」をメイン会場に「新千歳空港国際アニメーション映画祭2016」が開催された。今回は、コンペティション部門に世界66の国と地域から1,232作品の応募があり、日本の作品も228作品を数えた。期間中に上映された作品は、招待作品部門、ショーケース部門などを含め約230本にのぼる。空港での映画祭という他に類を見ない試みは新千歳空港から未来に響く表現を発掘・発信すること、そしてアニメーションという文化を通じて新たな国際交流の場を創出することを目的としている。

メイン会場のソラシネマちとせ
本映画祭のメインとなるコンペには、インターナショナルコンペティション、日本コンペティション、ミュージックアニメーションコンペティションの3部門がある。今回のインターナショナルコンペティションのグランプリには、スカンジナビアの海岸を舞台とする伝説をもとにしたロシア作品『アマング・ザ・ブラック・ウェーブス』(アンナ・ブダノヴァ監督)、日本グランプリは北海道出身の榊原澄人監督の『SOLITARIUM』、ベストミュージックアニメーションは『Olga Bell “ATA”』(橋本麦監督)が受賞した。

『この世界の片隅に』片渕須直監督の舞台挨拶
オープニング作品『この世界の片隅に』は、『マイマイ新子と千年の魔法』などで知られる片渕須直監督を迎えて上映された。本作は、戦時中の広島と呉を舞台にしたひとりの女性の生き方を描いた作品だ。直接的な戦場のシーンこそないものの、ささやかな市井の市民の生活を破壊する戦争の本質が淡々と描かれ、しっかりとしたメッセージが伝わってきた。主演の「すずさん」をはじめ、登場人物たちの心理描写が丁寧で、かつ、すずさんをとりまく夫や親戚たちのキャラクターも魅力的。一方、真摯なメッセージの中にもさりげないユーモアを含めた脚本も秀逸だった。さらに、きっちりと時代考証がなされた街や自然の風景も素晴らしく、たとえば、原爆投下から3日後に広島市内の路面電車が運行を再開したこともきちんと描かれていた。平和であること、普通に生活できることの幸福に思いをいたす作品といえよう。そして、エンドロールの最後に制作支援のためのクラウドファンディングに協力した3,000人を超える人々の名前が紹介されていたことも印象に残った。戦後70年を過ぎたが、戦争と平和を考えるうえで、たくさんの人に見てほしい作品だ。

『わたしのシカな友達』
韓国関連では、インターナショナルコンペティション出品作を対象とした新人賞に、飼い主に捨てられた動物たちのグループセラピーにやってきた野生の鹿の物語をユーモラスに描いたコ・スンア監督作品『わたしのシカな友達』が選ばれた。本作は切実さと楽しさを巧みに描いており、授賞式で監督は「ありがとうございます」と日本語、英語、韓国語で挨拶し、受賞の喜びを会場の観客に伝えた。

『エンプティ/The Empty』
また、インターナショナルコンペティション審査員特別賞(チェン・シー)には、韓国のチョン・ダヒ監督作品『エンプティ/The Empty』が選ばれた。本作はある女性の部屋が舞台のワン・シチュエーション・ストーリー。女性にまつわる記憶をもとに、男がちょっとしたゲームをしながら、その部屋で時を過ごす。愛する人が消えた部屋とその思い出を2Dアニメーションで繊細かつ洗練された映像で描いた本作は、8月に開催された第16回広島国際アニメーションフェスティバルのコンペティションでもグランプリに輝いている。本映画祭の授賞式で「この映画祭に招待していただいたことに感謝します。プログラムをとても楽しみました」と喜びを語った監督は、目下、世界的に注目を集めるクリエイター。2014年の『Man On The Chair(椅子の上の男)』が、カンヌ国際映画祭「監督週間」に招待されたほか、アヌシー、広島、ザグレブなどの国際アニメーション映画祭で賞を総なめにしている。

ゲストのサイン
新千歳空港国際アニメーション映画祭には、その他にも地元の小学生が審査員となるキッズ賞をはじめとする多数のアワードが設定されており、国内外問わず新たな才能にスポットを当てる試みは今回も観客を魅了した。また、ユニークな「爆音上映」なども多くの観客を楽しませたほか、子ども向けのワークショップも開催された。今後も幅広い年齢層が楽しめる、空港というロケーションを生かした特色ある映画祭として回を重ねていくことを期待したい。
新千歳空港国際アニメーション映画祭2016
期間:2016年11月3日(木・祝)~11月6日(日)
会場:新千歳空港内「ソラシネマちとせ」
公式サイト http://airport-anifes.jp/
Writer's Note
hebaragi。映画祭の会場に入ったときの、わくわくするような感じが好きだ。北海道内で毎年開催される映画祭は6つを数える。新千歳空港国際アニメーション映画祭はまだ3回目の開催だが、今回は約3万1千人の観客が訪れ、映画ファンのみならず北海道民に確実に定着してきた印象を強くした。
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