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Report カリコレ2016『弁護人』トークイベント ~宇都宮健児氏「弁護士の使命とは、社会的弱者の味方でいること」

Text by Kachi
2016/8/28掲載



 去る8月6日(土)、東京・新宿のシネマカリテで開催中のカリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016で、『弁護人』の先行プレミア上映が行なわれた。2013年末に韓国で公開されると1,100万人以上を動員し、韓国映画としては歴代8位(2014/2/2時点)の観客数を記録。本年11月には待望の日本公開が控えている。

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 『弁護人』は、故・盧武鉉元大統領がまだ政界入りする前、弁護士をしていた頃に扱った「釜林事件」(*)を基にしている。高卒から苦労して弁護士になったソン・ウソクは、不動産登記と税務を専門にのし上がっていく一方、低学歴の金満俗物弁護士として、釜山法曹界では鼻つまみ者であった。だがある日、懇意にしていた食堂の息子が不当に逮捕されたことで、ウソクの弁護士人生は大きく変わっていく。

(*)1981年、釜山で社会学系の書籍の朗読会に参加していた学生らを、国家の反動分子として不当に逮捕した、韓国史に残る冤罪事件。

 盧武鉉氏をモデルにした主人公ソン・ウソク役に扮した、韓国の国民的俳優ソン・ガンホは、彼の真価が最も発揮される「俗物だが、いざとなれば義理に厚い兄貴」を力演。いわれなき罪で警察から激しい拷問を受ける食堂の息子・ジヌ役のイム・シワン(ZE:A)は、過酷なシーンに全力で挑み、国家暴力の恐ろしさ、許しがたさを訴える役割を全うした。カメラが長回しで捉える法廷シーンも、実物さながらの緊迫感で見応え十分であった。

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 上映後のトークイベントには、弁護士の宇都宮健児氏が登壇し、作品の感想や、人権派弁護士として氏が知られるようになったサラ金事件を担当した経験などを語った。

宇都宮:迫力が凄いと思いました。お金のことばかり考えていた弁護士だったのが、クッパ店の息子の事件によって変わっていく。ウソクは高卒で弁護士資格を取得したので、法曹界では馬鹿にされていましたが、彼が窮地に立たされた時、釜山弁護士界の多くの弁護士が立ち上がってくれた。そういうところに感動しました。若い弁護士や、今、ロースクールに通っている学生、司法修習生に観てもらいたいと思います。弁護士法の第一条には、弁護士の使命として「基本的人権の擁護と社会正義の実現」と書かれています。長く弁護士をやってきて思うのは、高利でお金を借りなければならないような社会的・経済的弱者や、マイノリティといった人々の基本的人権は、いつも危うくなっているということです。強者や、豊かな人たちは自分で人権を守れる人が多いので、そうではない人は弁護士が守るのが使命です。弁護士は社会的・経済的弱者の味方でなければならないのです。


 劇中、ウソクは日雇い労働をし、子供の出産費用すら払えないどん底の暮らしをしている。貧しさから、弁護士の夢を諦めかけたこともほのめかされる。宇都宮氏も、駆け出しの弁護士時代に苦い経験をしていた。

宇都宮:弁護士というのは、どういう事件を扱うかということで鍛えられます。座学だけしていては、本当の意味で「弁護士になった」とは言えないんです。弁護士としての魂、姿勢とはそういうものです。実は私も、弁護士になった頃は鳴かず飛ばずでして(苦笑)、二回クビになっています。そんな時に、弁護士会の方から「サラ金事件を担当してくれないか?」と持ちかけられました。1970年代の終わり頃で、かなりの高金利で借金をし、払わないと暴力的取り立てをされるという事件があったんですが、引き受ける弁護士はいなかった。弁護士会は私がクビになっていたのは知っていたので、「宇都宮さん、暇だろう?」と(会場・笑)。

 どういう事件でも、ありがたいと思って引き受けたのですが、当時は法の規制もなく、誰もやったことがないから弁護の方法が分からない。見よう見まねで始めてみると、厳しい取り立てに耐えかねて睡眠薬自殺を図った方や、手首を切った痕がある女性が、深刻な顔で依頼に来たりするわけです。でも、私が側につくことで多少は取り立てが和らいで、二回目に来る時は少し顔色がよくなっていたりしました。そういうことがある中で、これは重要な事件だ、と思うようになって、サラ金事件を多く引き受けるようになりました。そして更に、弁護士や弁護士事務所までたどり着けない人のために、立法運動をやるようになり、人に知られる弁護士になっていきました。だからサラ金事件を扱わなければ、大変うだつの上がらない弁護士のままで、こういうところでお話しすることもなかったというわけです。この主人公の弁護士も、きっかけは偶然でした。最初の事件にぶつかった時、どう向き合うかということです。


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 近年だとチョン・ジヨン監督の『南営洞1985 国家暴力:22日間の記録』(2012)や、『私の独裁者』(2014)など、国家暴力が蔓延した1980年代を背景にした作品で、無辜の民への目を覆いたくなるような拷問と人格破壊が生々しく映し出されている。しかしこれは、日本と無関係とはいえない。

宇都宮:全斗煥軍事政権時代は、韓国でもっとも弾圧が厳しかった。作品の中で行われている拷問は、日本の特高警察が韓国併合をしていた際、韓国の独立運動家を弾圧したやり方を真似ているのではないかと感じました。有名なプロレタリア作家の小林多喜二が、築地警察署へ連行され、その日のうちに亡くなり、親族が遺体を引き取ると、全身が拷問で腫れ上がっていた。こういうことが平気で行われていた時代があったということを、我々は忘れてはいけないと思います。


 会場からは「劇中、ウソクがジヌの弁護人を引き受けたことで、本人や同僚、家族が様々な嫌がらせを受ける場面がありますが、サラ金を相手にされていた宇都宮先生はそういったことはありましたか?」との質問があった。

宇都宮:電話での暴言は頻繁にありましたが、だんだん慣れました(会場・笑)。一人の相談者が、だいたい20~30社からお金を借りているので、それらを全部相手にしなければならないのですが、二回目に勤めた事務所でイソ弁(=居候弁護士)をしていた頃、あるサラ金業者が若いチンピラのような男性を連れて、私にどうしても会いたいと言ってきたので喫茶店に向かうと、若い兄ちゃんがドスをちらつかせていて、「(この事件から)手を引け」って言うんですね。私は体もあまり大きくないし、柔道や剣道をやってるわけではない。中学の途中から大学まで、卓球はやってましたが…(会場・笑)。でも、私のところに相談に来るサラ金の被害者は、どう見ても私より弱そうな人なので、私が引いてしまうと、追い込みや取り立てが全部その人にいってしまう。そういう人たちが背中を押してくれて頑張れたということがあります。業者と兄ちゃんには「話し合いに来たのなら応じるが、そういうことなら引き下がれない。ケンカをするなら、弁護士のケンカは裁判だ」と言って、帰ってきたのですが、当時はまだ駆け出しだったので、後をつけられて刺されないかと心配にはなりましたね。そうすると、業者が若いのを使って、真夜中に無言電話をかけてくるんですよね。2週間ぐらい続いたので、業者を被告にして、債務不存在確認訴訟(サラ金の債務の存在額を確認する訴訟)を簡易裁判所に起こすと、ピタッと電話は止みました。そこで裁判を通して、大変な高利でお金を貸しているわけですから、利息制限法に基づくと、150万円の債権が3万円ほどになって和解しました。

 そういうことを繰り返していく中で、あまり恐れなくていいと感じました。ヤミ金業者が広がった時には、多くの弁護士事務所にイヌやネコの生首が放り込まれたり、頼みもしない寿司が10人分も出前されてきたり、救急車や消防車を呼ばれたり、ひどい事務所は、「殺人事件が起きた」と通報されて所轄の警察署に踏み込まれたり、右翼団体に「俺は弁護士の○○だ。右翼なんか怖くない」と、なりすましの電話をかけられて、事務所に押しかけられたりという嫌がらせを受ける所がありましたね。私は6万7,000社くらいのヤミ金を告発して、そのうち何人かは逮捕されているので、私の事務所に手を出すヤミ金は全くなかったですね。不当な動きに対しては、毅然とした対応をするというのが一番大切なんですが、中には相手に見くびられないようにと高飛車に出て、感情を刺激するようなことを言って銃弾を撃ち込まれた人もいます。でもへりくだったら相手の言うことを認めることになる。だから右翼団体や暴力団とやり合う時は自然体でいることが一番なんです(会場・どよめきと笑)。向こうも人間なんだと。


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 奥様が韓国ドラマ・ファンということで、一緒にご覧になっているという宇都宮氏。韓国の弁護士会や市民団体との交流も多く、今年からは韓国語の勉強もされているのだという。最後に「都知事選に出て当選していたら今日はなかったのですが、撤退して、こういう場に出てこられて、大変良かったと思います」と、都知事選の一件にユーモアを交えて触れると、会場からは拍手が起きた。


『弁護人』
 原題 변호인 英題 The Attorney 韓国公開 2013年
 監督 ヤン・ウソク 出演 ソン・ガンホ、オ・ダルス、キム・ヨンエ、クァク・トウォン、イム・シワン
 2016年11月12日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.bengonin.ayapro.ne.jp/


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