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Review 『王の運命(さだめ) ―歴史を変えた八日間―』 ~イ・ジュニク監督が贈る、孤独な父子への鎮魂歌


Text by Kachi
2016/5/25掲載



 家族とは、かくも難しき存在なのか。血を分けた者だからこそ分かり合いたい、分かり合えるに違いないと、もがくが故に、取り返しのつかない破局を迎えてしまうのだろうか。『王の運命(さだめ) ―歴史を変えた八日間―』では、そうした父と子の哀しい宿命が語られている。

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 李氏朝鮮第21代国王の英祖は、ようやく授かった世子(のちに思悼世子と諡号される)を、2歳にして母親から離し、帝王学を厳しく教育する。英祖は賤民から王室に輿入れした母から生まれ、「兄を陥れて王座を手に入れた」という誹りを受け続けた。常に王位継承の正統性を疑われていた英祖にとって、世子が聖君になることには、何よりも自分と同じく側室を生母に持つ息子が逆風にさらされぬようにという、切なる願いが込められていた。世子もまた、代理執政として父を援助したい思いを胸に秘めていた。ところが、感受性が豊かな世子は勉学より芸術や武芸に励み、神経質で好悪の激しい英祖を激高させる。やがて世子は、神経を病み始める。本人たちは愛情を持って、互いに良かれと思うことをしているはずだった。父と子の間に生じた心の軋みはついに、英祖自ら世子を米びつに幽閉して釘を打ち、命を奪うという悲劇を招いてしまう。韓国時代劇で長らく題材とされてきた「壬午士禍」、いわゆる「米びつ事件」である。

 ベトナム戦争を背景に、平凡な女性が歌うことに導かれて生きがいと愛を見出していく『あなたは遠いところに』。性的暴行で心身に深い傷を負った少女とその家族の再生を追った『ソウォン/願い』。これまでイ・ジュニク作品は、困難や悲しみを乗り越えようとする過程を、一人の人間の人生に寄り添って描いてきた。その結末は必ずしも完全な幸福をつかむわけではないが、登場人物たちが絶望から手を伸ばす姿には幾度となく心を震わされてきた。そんな監督の手腕がいかんなく発揮された本作は、編集の名匠キム・サンボムによる現代的なスピード感とスリルが徹底されている一方で、朝廷という男社会で、世継ぎを産めば、かりそめの栄華を得、女子を産めば役立たずとして忘れられてしまう女たちへの目配りも忘れない。歴史や社会のような大きな流れの中では石つぶてのごとき人間の生が、丹念にすくい取られているのだ。

 男気溢れる兄貴肌の役が真骨頂のソン・ガンホは、その持ち味を封印し、一国の王としての厳しさと、父としての悲しみの狭間に生きた英祖を力演した。そんなベテランに負けず精彩を放ったのが、思悼世子を演じたユ・アインだった。若き指導者の穏やか、かつ生気に満ちた面差しから、悲壮極まり狂態を繰り広げていくデモニッシュな形相への変調が見事で、さすが若手屈指の実力派である。ユ・アインは「韓国のディカプリオ」とも称されているが、英祖と対峙するシーンの撮影中、安全バーではなく本当に石畳に頭を打ちつけたというエピソードからは、レオナルド・ディカプリオが『ジャンゴ 繋がれざる者』で大けがを負いながらも演技を続行したという逸話が思い出された。日本で先駆けて劇場公開された『ベテラン』での悪党御曹司チョ・テオ役をさらに凌ぐベスト・アクトとして、多くの人の記憶に残るに違いない。

 史実を繙くと、思悼世子の息子イ・サン(正祖)もまた、父を死に追いやった家臣を憎んで冷遇し、「丁酉逆変」という暗殺未遂事件に見舞われるなど、命の危険に晒されて生きたという。玉座に座する者がいつも孤独なのは、家族であるにもかかわらずその孤独を分かち合えないからではないだろうか。イ・サンの不穏な未来を予兆させつつ映画は幕を下ろすが、ラスト・シークエンスで奏でられる調べは、父子三代に渡る孤独を慰めるように響いている。


『王の運命(さだめ) ―歴史を変えた八日間―』
 原題 사도 英題 The Throne 韓国公開 2015年
 監督 イ・ジュニク 出演 ソン・ガンホ、ユ・アイン、ムン・グニョン、キム・ヘスク、チョン・ヘジン、ソ・ジソブ
 2016年6月4日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.ounosadame.com/

Writer's Note
 Kachi。4月に東京で開催された「花開くコリア・アニメーション2016」。『Little King』は、思悼世子の息子イ・サン(正祖)と、父を失った少年が心を通わせるという、本作と重ねあわせるとより一層胸に沁みるものがありました。親不孝な私は、ただただ恥じ入るばかり。


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