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Review 「もし、あなたなら/視線」シリーズ最新作『ある視線』 ~矜持をもって描かれた、貧困の拡大と宗教的兵役拒否

Text by 井上康子
2016/1/29掲載



第1作『もし、あなたなら』との出会い


 韓国には「軍事政権下で人権蹂躙が横行した」との反省から、国家人権委員会という機関が設けられている。そして、映画大国らしい活動だが、同委員会は「人権映画プロジェクト」により、名だたる監督たちに依頼して映画の製作を続けている。2003年に製作された第1作『もし、あなたなら(原題 여섯 개의 시선/英題 If You Were Me/劇場公開タイトル もし、あなたなら~6つの視線)』をアジアフォーカス・福岡映画祭2003で見ることができた時は、公的機関の人権映画らしからぬ、ユーモアも含む、高い完成度を持っていることに驚嘆した。上映後にゲストのチョン・ジェウン監督から「この作品の監督たちが、委員会に対して、作品に口出しをしないでほしいと申し入れ、約束が守られた」と聞くことができ、質が確保された理由が分かったし、監督たちの、監督としての矜持がこのように強い作品の勢いになっているのかと胸が躍った。こうして、第1作に惚れ込んだ筆者は、以降も可能な限り、人権映画プロジェクト作品を鑑賞した。


人権映画プロジェクトの歩み


 第1作は、ネパールからの出稼ぎ労働者(パク・チャヌク監督)、障害者(ヨ・ギュンドン監督)を主人公にした短編の他に、パク・クァンス、イム・スルレ、パク・チンピョ、チョン・ジェウン監督による、6本の短編からなるオムニバス映画であった。短編オムニバスという形式は「もし、あなたなら/視線」シリーズとして踏襲され、第2作『もし、あなたなら2 五つの視線』(パク・キョンヒ、リュ・スンワン、チョン・ジウ、チャン・ジン、キム・ドンウォン監督/原題 다섯 개의 시선/英題 If You Were Me 2/2005年/シネマコリア2006で上映)、第3作『3番目の視線』(チョン・ユンチョル、キム・ヒョンピル、ノ・ドンソク、イ・ミヨン、キム・ゴク、キム・ソン、ホン・ギソン監督/原題 세번째 시선/英題 If You Were Me 3/2006年)、第4作『視線1318』(パン・ウンジン、チョン・ゲス、イ・ヒョンスン、ユン・ソンホ、キム・テヨン監督/原題 시선 1318/英題 If You Were Me 4/2008年)、第5作『視線の向こうに』(カン・イグァン、プ・ジヨン、キム・デスン、ユン・ソンヒョン、シン・ドンイル監督/原題 시선 너머/英題 If You Were Me 5/2010年/真!韓国映画祭2012で上映)と続き、今回紹介する第6作『ある視線』(パク・ジョンボム、シン・アガ、イ・サンチョル、ミン・ヨングン監督/原題 어떤 시선/英題 If You Were Me 6/2013年)が実写オムニバス「もし、あなたなら/視線」シリーズ最新作である。

 上記の他に、アニメーションによるオムニバス・シリーズである『もし、あなたなら…:アニメ編』(ユ・ジニ、クォン・オソン、キム・ジュン、パク・ユンギョン、チョン・ヨンジュ、チャン・ヒョンユン、イ・ジンソク、イ・エリム、イ・ソンガン、パク・チェドン監督/原題 별별 이야기/英題 If you were me : anima vision/2005年/「韓国アニメーション最新事情」で上映)、『いろいろなお話2:6色の虹』(アン・ドンヒ、リュ・ジョンウ、ホン・ドッピョ、イ・ホンス、イ・ホンミン、クォン・ミジョン、チョン・ミニョン、パク・ヨンジェ監督/原題 별별이야기 2 : 여섯 빛깔 무지개/英題 If You Were Me2 : Anima Vision/2007年)、また、長編『飛べ、ペンギン』(イム・スルレ監督/原題 날아라 펭귄/英題 Fly, Penguin/2009年/あいち国際女性映画祭2009、真!韓国映画祭2009で上映)、『未熟な犯罪者』(カン・イグァン監督/原題 범죄소년/英題 Juvenile Offender/2012年/東京国際映画祭2012、アジアフォーカス・福岡国際映画祭2013で上映)、『空の黄金馬車』(オミョル監督/原題 하늘의 황금마차/英題 Golden Chariot in the Sky/2013年)、『4等』(チョン・ジウ監督/原題 4등/英題 4th Place/2014年)も製作され、韓国で一般公開されてきた。また、実写オムニバス6作品、アニメーション・オムニバス2作品、長編4作品からなる「人権映画プロジェクト」全12作中、日本でも半分以上が何らかの形で紹介されている。これらの作品が、何かを教え込もうとするのではなく、韓国社会で今、生じている様々な人権侵害を「もし、あなたが当事者なら」と問いかけ、考えさせる役割を果たしてきた。


「もし、あなたなら/視線」シリーズ最新作『ある視線』


 パク・ジョンボム監督は『ドゥハンに』で障害と貧困を、シン・アガ、イ・サンチョル監督は『ボングは配達中』で貧困高齢者を、ミン・ヨングン監督は『氷の川』で宗教的兵役拒否をテーマにしている。

『ドゥハンに』

 中学生チョルンには、同級生で脳性マヒのドゥハンという親友がいる。ドゥハンは障害のために、チョルンは貧しさのために、激しいイジメに遭っている。パク・ジョンボム監督の前作『ムサン日記~白い犬』でもそうであったように、弱者は情け容赦なく扱われるが、チョルンはドゥハンをかばい、彼の誕生日には貯金をはたいてケーキをプレゼントする。貧しさと障害という欠損が二人の繋がりを深める。けれど、裕福なドゥハンの家庭を見たチョルンは格差に混乱し、彼らの友情に危機が訪れる。

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『ドゥハンに』(パク・ジョンボム監督)

 障害者ドゥハンの境遇が中心の作品と思いきや、中盤からはチョルンが、親不在でまともな食事にありつけない程の貧困に追い込まれていることが描かれていく。監督が中学生の時の経験をもとに脚本を書いた話だというだけあって、監督自身が投影されたチョルンの貧しさにあえぐ心情がひしひしと伝わってくる。障害以上に、格差の深刻さが印象に残る。

『ボングは配達中』

 ボングは高齢だが、食べていくために宅配のアルバイトをしている。ある日、幼稚園の送迎バスから取り残された幼児を送り届けようとするが、街の防犯カメラに捉えられた彼は、誘拐犯に間違われてしまう。

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『ボングは配達中』(シン・アガ、イ・サンチョル監督)

 「もし、あなたなら/視線」シリーズで、初めて高齢者の貧困問題を取り上げた作品。日本で「下流老人」という新語で、貧困に苦しむ高齢者が大量発生していることが理解されたように、韓国でもこの問題の認知度が高まっているのではと思われた。一人暮らしのボングを通して、高齢者の孤独も同時に描かれている。ボングの状況は過酷だが、シン・アガ、イ・サンチョル監督の前作『Jesus Hospital(原題 밍크코트)』とは異なる「楽しめる作品に」という監督たちの意向から、ボングと幼児のほのぼのロードムービーになっている。ボングを質問攻めにする幼児とぶっきらぼうなボングのやりとりが何とも微笑ましい。

『氷の川』

 入隊の令状を受け取ったソンジェは、エホバの証人の信者として、銃を取らないという教義に従い、兵役を拒否する決意をする。けれど、母親は息子を愛するゆえに「韓国には兵役か監獄かの2つの選択肢しかない」と入隊を迫る。

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『氷の川』(ミン・ヨングン監督)

 良心的兵役拒否も「もし、あなたなら/視線」シリーズで初めて取り上げられた。国家人権委員会は独立的地位を保持する機関だが、国の制度である兵役について疑問を投げかける作品が製作されていることは注目に値する。長編『短い記憶(原題 혜화,동)』で知られるミン・ヨングン監督は、自身が宗教的兵役拒否者に対する偏見を持っているという自覚から、主人公を宗教的兵役拒否者にし、収監予定の当事者に会い、彼らの苦悩を知ったそうだ。氷の川に佇むソンジェがその苦悩を表現している。この作品の特色は、母と主人公の葛藤を中心に、家族の問題として兵役拒否を描いていることだ。この問題にあまり関心を持ったことがなかった筆者は、家族の問題として描かれたことで、宗教的兵役拒否者も家族を持つ人であり、兵役拒否が家族全体の大きな苦悩になるということを初めて意識できた。監督自身が持っていたという偏見や無関心をほどく試みが、家族の問題として描くという形を選ばせたのではないだろうか。


第1作から変わらないもの


 第1作『もし、あなたなら~6つの視線』を見た時は、女性は美しくなくてはならないと日本以上に求められるなど、日本と韓国の差異が印象に残ったが、本作では、日本にない兵役の問題を別にして、高齢者や学生にも貧困が拡がっていることが描かれ、日本と同様の問題が韓国でも重視されているように思われた。

 第1作から一貫して変わらないのは、国の問題を国におもねることなく描く、自分をさらけ出し、自身の偏見も越える、監督たちの矜持を強いエネルギーとして感じることだ。


『ある視線』
 原題 어떤 시선 英題 If You Were Me 6 韓国公開 2013年
 監督 パク・ジョンボム、シン・アガ、イ・サンチョル、ミン・ヨングン 出演 イム・ソンチョル、キム・ハンジュ、イ・ヨンソク、ファン・ジェウォン、コンミョン、キル・ヘヨン、パク・チュヒ
 ※ 本作は日本未公開作です。
 韓国版公式ブログ http://blog.naver.com/ifyouwereme6

Writer's Note
 井上康子。『もし、あなたなら~6つの視線』で、女性に対する偏見を描いた短編『彼女の重さ』ではイム・スルレ監督自身が本人役で出演し、「あの太ったおばさんが監督!ウソだろ」と言わせている。自分をさらけ出す監督の思い切りの良さに、それまで以上にファンになった。


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