News 速報! 9月の福岡は韓国映画天国 ~アジアフォーカス・福岡国際映画祭、福岡インディペンデント映画祭、東アジア映画フェスティバル~
Reported by 井上康子
2012/7/26掲載
はじめに
福岡では9月にアジアフォーカス・福岡国際映画祭、そして、アジアフォーカスの協賛企画として福岡インディペンデント映画祭、東アジア映画フェスティバルなどが開催されます。9月の福岡はまさに韓国映画天国です。
7月26日(木)にアジアフォーカス・福岡国際映画祭の記者発表会が開催されましたので、各映画祭の上映作品などをご紹介します。
アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
会期(一般上映):9月15日(土)~9月23日(日)
会場:JR博多シティ内 T・ジョイ博多(福岡市博多区)
公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

9月14日(金)のオープニングセレモニー&野外上映で幕を開けるアジアフォーカス・福岡国際映画祭の上映作品が発表されました。今年は、公式招待作品としてインディーズ・アート作品で国内外の映画祭で注目されている『バラナシへ』と、娯楽性が高く大ヒットした『ダンシング・クイーン』という対照的な2作品が日本初公開されます。両作品ともご覧になれば、韓国映画の幅広さを感じられることでしょう。毎年、監督を中心にゲストが来日し、上映後にティーチインが行われるのも映画祭ならではのお楽しみです。
『バラナシへ』
原題 バラナシ/英題 From Seoul To Varanasi/韓国劇場未公開
監督 チョン・ギュファン 主演 ユン・ドンファン、チェ・ウォンジョン

『バラナシへ』(写真提供:映画祭実行委員会事務局)
2008年の東京国際映画祭「アジアの風」部門でデビュー作『モーツァルトの街(原題 モーツァルト・タウン)』が上映されたチョン・ギュファン監督の4作目の映画です。チョン監督は『モーツァルトの街』(2008年)に続いて、2009年に『アニマル・タウン』、2010年に『ダンス・タウン』と、「タウン三部作」と呼ばれる作品を作り、世界中の映画祭から注目されるようになったインディーズ・アート監督です。前作『ダンス・タウン』と『バラナシへ』は、いずれもベルリン国際映画祭から招待され、釜山国際映画祭でも上映されています。2007年からアジアフォーカスのディレクターになった梁木靖弘氏はインディーズ・アート作品の紹介に力を入れていますので、この作品の選択には納得です。
「タウン三部作」では、異邦人として外国に暮らす人、小児性愛者、脱北した女性を登場させ、都会に住む人の孤独を描いています。チョン監督は「タウン三部作」について「人物を通して都市を描こうとしました」「都市にはさまざまな姿がありますが、私は“寂しさや傷”を選択したのです」と述べ、都市の暗部を描くという自身のスタイルを強調しています。シネコンに席巻されている韓国内ではチョン監督の作品は限定的な上映しか行われておらず、弟妹が譲ってくれた車を売却し、友人や韓国映画振興委員会(KOFIC)から資金援助を受けるなど、厳しい状況で製作を続けています。
『バラナシへ』は、ソウルで出版社を経営する男性とその妻、男性の愛人である女性作家、そして妻と恋に落ちるアラブからの出稼ぎ男性を登場させ、チョン監督が新しい試みとして作ったメロドラマです。彼らがなぜ孤独なのかといった背景は詳しく説明されませんが、彼らがそれぞれ一人でいる様をアップでとらえたシーンは、スタイリッシュな映像で彼らの寂寥感がゆらゆらと立ち上ってくるような迫力があり、一見の価値ありです。男性と愛人を中心にセックス・シーンが多いのですが、俳優たちの持っている品の良さが肉体からにじみ出ていて、肉体の絡みも儀式のような安定した所作としての美しさがあります。アラブ人男性がインドの聖地バラナシに行ってしまったために妻が後を追うという形で舞台はバラナシに移っていき、ドラマは大きな展開を迎えます。
『ダンシング・クイーン』
原題 ダンシング・クイーン/英題 Dancing Queen/韓国公開 2012年
監督 イ・ソックン 主演 ファン・ジョンミン、オム・ジョンファ

『ダンシング・クイーン』(写真提供:映画祭実行委員会事務局)
人気と実力を兼ね備えた俳優二人、ファン・ジョンミンとオム・ジョンファを主演にキャスティングし、今年1月に韓国公開されたばかりの大ヒット作です。歌手としてデビューすることを夫に内緒で目標にしていたオム・ジョンファ演じる妻に、ついにチャンスが訪れるのですが、ファン・ジョンミン演じる夫の方もソウル市長候補になってしまい、妻は貞淑な市長候補の妻と、セクシーな歌手としての綱渡りのような二重生活を余儀なくされるというコメディ。オム・ジョンファとファン・ジョンミンのカップルと聞いた時に私がまず思い出したのはアジアフォーカスで2006年に上映された『私の生涯で最も美しい一週間』で、二人が気の強い女医と堅物刑事のカップルとして芸達者な俳優の掛け合いのおもしろさを堪能させてくれたことです。本作も二人の掛け合いのおもしろさが楽しめる作品になっていることでしょう。『ダンシング・クイーン』はイ・ソックン監督の第3作ですが、イ監督はこれまでの『放課後の屋上』(福岡アジア映画祭2006上映作)、『二つの顔の猟奇的な彼女』で、平凡な主人公が突拍子もない出来事に巻き込まれて右往左往する様をほのぼのとコミカルに描いており、その冴えた演出には定評があります。
※ この他、アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012では「福岡フィルムコミッション支援作品」として『家門の栄光4:家門の受難』が上映されます。
福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2012
会期:9月6日(木)~9月11日(火)
会場:福岡アジア美術館・8Fあじびホール、冷泉荘・B棟1階ニコイチ
料金:500円(6日間フリーパス)
公式サイト http://www.fidff.com/

9月6日(木)から開催される福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)では、昨年『Stray Cats』で来福したミン・ビョンウ監督が日本滞在中に九州で撮影した『Time Traveler』、釜山国際映画祭で上映されたチャン・ヒチョル監督の『Beautiful Miss JIN』をはじめ、韓国の短編作品やドキュメンタリーが上映される予定です。また、韓国からゲストを招いてのカフェトークも計画されています。
ミン監督やチャン監督のように、既に一定の実績がある監督の作品だけでなく、映画を勉強している学生など若い作り手が自由な発想で作った勢いのある作品を観ることができるのもこの映画祭の大きな特長です。ニューシネマワークショップの卒業作品として制作され、今回コンペティション部門で上映される『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』は、在日3世の主人公と家族が国籍選択に絡む葛藤を描いた注目作です。
『Time Traveler』
原題 時間旅行者/英題 Time Traveler/2012年/10分15秒
監督 MIN Byung-woo(ミン・ビョンウ)

『Time Traveler』(写真提供:FIDFF2012)
ミン監督の昨年の招待作品『Stray Cats』は大好きな作品で(「福岡インディペンデント映画祭2011リポート」参照)、『きみはペット』のミン監督による脚色も良かったので、新作を見ることができる! しかも、監督が昨年ゲストで福岡に来た時に、福岡・阿蘇・別府などで、iPhone 4s を使って撮影した短編と伺い、早く観たいと期待しています。ストーリーは恋人と別れた傷心の男性が日本に来て、旅行しながら気持ちを整理していくというもの。主役を演じているのは『Stray Cats』で主人公を演じ、監督と共に来日していたイム・ソンジンです。大阪アジアン映画祭で来阪したゲストが現地で撮った『大阪のうさぎたち』の福岡版のような作品とも言えそうです。
監督のメッセージ
この短編は、2011年に『Stray Cats』という作品でFIDFFにご招待いただいた際、九州を旅しながら作った映画です。もしFIDFFに招待されていなければ存在していない映画です。私も主役のイム・ソンジンと一緒に九州を旅しながら、美しい風景に意味をつけ、それを結び合わせながらストーリーを編み出しました。
2011年上映作『Stray Cats』(英語字幕付)
『Beautiful Miss JIN』
原題 ミス・ジンは美しい/英題 Beautiful Miss JIN/2011年/98分
監督 JANG Hee-chul(チャン・ヒチョル)

『Beautiful Miss JIN』(写真提供:FIDFF2012)
チャン監督は2003年に韓国で公開されたホン・ギソン監督の『選択』で助監督を務め、その後、テレビのドキュメンタリー番組の監督を務めた経験があり、本作は釜山フィルムコミッションの資金援助を受け、昨年のメイド・イン・釜山独立映画祭、釜山国際映画祭で上映されています。容貌は美しいとはいえないけれど、心の美しいミス・ジンを主人公にしたドラマで、釜山の東莱駅を舞台に、ホームレスの彼女と同じくホームレスの少女、アルコール中毒者が疑似家族のように暮らし、東莱駅の職員とも交流していくというストーリー。監督は、厳しい状況に置かれた人、社会的弱者の問題に特別な関心をもっているようで、本作は「ホームレスの主人公たちを悲劇的に描くのではなく、時にコミカルに共感をもって描いている」と評されています。
『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』
英題 Aigo!~My natinonality is in heaven~/2011年/28分5秒
監督 Lee Dalya(李達也)

『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』(写真提供:FIDFF2012)
在日2世の父と3世の娘・息子が、日本・朝鮮・韓国、いずれの国籍を選ぶかを描いた家族劇。監督は朝鮮大学校を卒業しており、監督自身が在日3世と思われます。息子が「核とかミサイルとか物騒なものから離れたい」と朝鮮から韓国への国籍変更を言い出せば、娘は「お付き合いしている人がいる」と日本人との結婚話を持ち出します。激高した父は息子に「お祖母さんや叔母さんは平壌にいるんだぞ!」、娘に「わしらから言葉と名前を奪った日本人に魂を売るのか!」と言って怒鳴りつけます。同じ家族であっても、立場が異なれば選択基準が異なり、そうなれば選ぶ国籍が異なり、家族間に大きな葛藤が生まれます。メキシコ国際映画祭2012でBronze Palm Awards(銅賞)を受賞したほか、韓国では大田独立映画祭2011で優秀作品賞を受賞し、今年4月にはCMB大田放送でテレビ放送されるなど、注目を集めている作品です。
東アジア映画フェスティバル2012
会期:9月20日(木)~9月25日(火)
会場:福岡アジア美術館・8Fあじびホール
料金:前売 1,000円/当日 1,200円 ※ アジアフォーカス・福岡国際映画祭のチケット使用可。
主催:アジアの心実行委員会 TEL 092-691-8824
福岡では一昨年から、この東アジア映画フェスティバルで「真!韓国映画祭」作品が上映されています。今年も真!韓国映画祭2012上映作・全13作品の中から『もう少しだけ近くに』『怪しい隣人たち』『2階の悪党』『ロマンチックヘブン』の4作品が上映されることになりました。
アジアフォーカスとの絡みでいえば、「真!韓国映画祭2012」作品『視線の向こうに』が上映されないのは残念でした。『視線の向こうに』は韓国の国家人権委員会の製作による人権映画第5弾で、5人の監督によるオムニバスですが、その中の一本、フィリピンからの出稼ぎ労働者を主人公にした『バナナ・シェイク』は、昨年のアジアフォーカスで『Bleak Night(原題)』が上映されたユン・ソンヒョン監督作。福岡でも彼の新作を見たい観客は多かったのではないかと思います。
Reporter's Note
井上康子。福岡市在住。2003年からアジアフォーカス・福岡国際映画祭のリポートを書かせていただいているので、早いもので今年で10年になります。福岡インディペンデント映画祭については昨年初めてリポートさせてもらいましたが、こちらも続けて紹介していきたいと思っています。どちらの映画祭もスタッフの方々が熱意をもっていて、規模が程良いためにゲストと観客が交流し易い、とても温かみのある映画祭です。9月は是非福岡にお越し下さい。
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