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Report 第28回東京国際映画祭 ~ボーダーレスな世界を描く

Text by 加藤知恵
2015/11/17掲載



 10月22日から31日までの10日間、今年も六本木ヒルズを中心に東京国際映画祭が開催された。今年上映された韓国関連作品は、ジャンルもテーマも全く異なる4本。そのうち韓国人監督による純粋な韓国映画は2本であった。

 まずは加瀬亮を主演に起用した『自由が丘で』などを監督し、日本でもコアなファン層を持つホン・サンスの新作『今は正しくあの時は間違い』。「映画監督」、「酒にだらしがなく女好きな男」、そして「旅」というホン・サンス作品におなじみの素材は今作でも健在である。常に何かに酔っ払っているような不安定感を漂わせる主人公の映画監督チュンス(チョン・ジェヨン)は、自作の上映会に招かれて水原(スウォン)を訪れ、観光中に元モデルで画家のヒジョン(キム・ミニ)と出会う。単に美しい容姿に惹かれたのか、それとも彼女の抱える孤独さに共鳴したのか、チュンスは既婚の身でありながら積極的に彼女に声をかけ、お茶に誘い、アトリエを訪れ、そして2人はそのまま居酒屋で酒を飲み交わす。

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『今は正しくあの時は間違い』

 しかし観客をはらはらさせながらも距離を縮めていた2人の関係が一旦終わりを見せると、そこでストーリーはひとまず完結し、前半を全く同じくするパラレル・ワールドのような別の展開(2部)がその後に現れる。とはいえ、2つの物語にさほど大きな違いがあるわけではない。ただ言えるのは、2部の方が互いに自身の感情や過去に正直であるということ、そして2部の方が少しだけ前向きで、2人が癒しを得られるようなハッピーエンドになっているということだけだ。監督自身「作品に込めたメッセージは特になく、見る人が自由に解釈すればいい」と語っている今作。自身の人生や恋愛に思いを馳せるもよし、チョン・ジェヨンの見事なダメ男ぶりに苦笑するもよし、ホン・サンス ワールドに十分に酔わせてくれる、アルコールのような作品である。

 もう一つの韓国作品は、今作が初の長編商業映画となるムン・ジェヨン監督の『俺の心臓を撃て』。母の自殺を機に精神を病んだスミョン(ヨ・ジング)は、健常でありながら親族の陰謀によって病院に送り込まれたスンミン(イ・ミンギ)と同じ日に精神病院へやってくる。そして強靭な精神力を持つスンミンや他の個性的な患者たちとの交流を通し、恐怖心やトラウマを克服して自分の殻を打ち破ることを学んでいくというストーリーだ。今回ゲストとして来日した監督曰く、精神病院を舞台にした韓国映画は、パク・チャヌク監督の『サイボーグでも大丈夫』に続いて今作が2作目とのこと。しかし患者たちの姿を描く目線は、『7番房の奇跡』や『ハーモニー 心をつなぐ歌』のような、刑務所を舞台にした群像劇にも近い。

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ティーチインでのムン・ジェヨン監督

 精神病院の患者たちは個々に複雑な理由で病院に入れられ、看護師から執拗な虐待を受けている。ある意味、患者のほうが正常で看護師のほうが異常に見えるという皮肉さも監督の意図したところである。そんな閉鎖的で陰鬱な空間と対照的に挿入されるのが、スミョンとスンミンの脱走シーンの背景となる壮大な自然の景色だ。エンジン付きのボートで湖を疾走したり、パラグライダーに乗って山頂から滑空したり、今作はその解放感と爽快感を表現するための物語だといっても過言ではない。そこには何かと制約が多く不条理に満ちた社会の中でも、がむしゃらに意思を貫いて広い世界へ飛び出していってほしいという監督のメッセージが込められている。個人的には最新作『西部戦線』において大先輩ソル・ギョングを相手に堂々と親子関係を築き上げたヨ・ジングが、今作ではイ・ミンギとの化学反応で兄弟のような恋人のような独特な空気感を作り出しているところも面白く感じた。

 韓国作品ではないものの、まさに広い世界へ飛び出す解放感や爽快感を惜しみなく見せてくれるのが、ダンテ・ラム監督の香港映画『破風』である。今月19日に入隊も伝えられる、SUPER JUNIORのシウォンが出演したことでも注目された。今作は自転車ロードレースに心血を注ぐ選手たちの成長や挫折、友情、そして恋愛模様を描いた青春スポーツムービーであり、全般に渡って登場するスピード感と緊張感溢れるレースの映像が興奮を誘う。またシンプルで分かりやすいキャラクター設定と、ミュージック・ビデオのように軽快なストーリー進行も心地良い。台湾の名所をはじめ、内モンゴルの砂漠地域やスイスの雪山など、レースの舞台となっている雄大で美しい風景ももちろん見どころの一つだ。

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『破風』

 そしてシウォンは今作で韓国語以外に流暢な中国語や英語の台詞も披露する重要な役どころを演じているが、彼の存在感によるものか、韓国の釜山で撮影されたシーンも多分に含まれている。最近はアイドルや俳優としての活動だけでなく、バラエティー番組でも人気の彼だが、度々ネタとして話題に上がった「フォーチュンクッキー」の作品だといえば、察しのつくファンも多いのではなかろうか。エンディング・クレジットではメイキング映像も流れ、過酷な撮影の裏側や俳優陣の素の姿が垣間見られるのも楽しい。

 最後は個人的に最も興味深く鑑賞できた、今泉力哉監督の日本映画『知らない、ふたり』。アイドルグループNU’ESTのレン、ミンヒョン、JR、そして韓国人の父と日本人の母を持つ韓英恵らが出演しており、日本を舞台に日本語と韓国語が自然に入り混じる独自の世界観を持つ作品である。自分の信号無視が原因で他人を交通事故に巻き込んでしまったことへ罪悪感を募らせ、周囲に心を閉ざしている韓国人青年のレオンと、そんな彼を密かに思う同僚の秋子。泥酔した日の翌朝に公園で出会って以来、レオンを探し続けているソナ。ソナと付き合っていながらも、日本語教師の加奈子の存在が気になりだすジウ。だが加奈子には事故で下半身不随になった恋人の巳喜男がいる。レオンとソナの出会いはお互いもよく分からないままに周囲を巻き込んで動かしていき、ストーリーは意外な方向へと進んでいく。

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『知らない、ふたり』

 一昨年の東京国際映画祭で上映された『サッドティー』でも、好きという感情自体の信憑性を問い直すようなカオスな人間模様を描いて注目された今泉監督だが、今回はそこに「国籍」や「障害」といった要素もプラスされ、ますますボーダーレスでバリアフリーな物語が出来上がっている。そんなカオスの中だからこそ、全ての登場人物はただ一個人であるのみで、そこには何の偏見も存在しない。誰がどんな理由で、どんな相手に惹かれようと自然なことなのである。

 人と人との出会いが物語を生み出していくのが映画の常とはいえ、結果的に韓国関連の4本全てが、主人公が出会いを通して成長していくというハッピーエンドの作品であった今年の東京国際映画祭。人生に影響をあたえてくれるような映画との出会いも然り。仕事帰りにふらりと立ち寄れるようなスタンスで、もう少し一般の観客の間にも映画祭の存在が浸透してくれれば何よりだ。


第28回東京国際映画祭
 期間:2015年10月22日(木)~10月31日(土)
 会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿バルト9ほか
 公式サイト http://2015.tiff-jp.net/ja/

Writer's Note
 加藤知恵。今年の秋は何とか仕事を調整して釜山国際映画祭にも参加。閉会式のレッドカーペットの前でわくわくしながらスターの登場を待ちわびた時間は、とても楽しい思い出になりました。


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