Review 『技術者たち』 ~キム・ウビンが魅せる、スリリングなクライム・エンターテイメントムービー!
Text by Kachi
2015/11/5掲載
キム・ウビンが好きだ。
彼の映画への本格出演となった、クァク・キョンテク監督『チング 永遠の絆』。前作『友へ/チング』の狂言回しであり、殺伐とした物語の緩衝材のような役割だった、ジュンソクとドンスの幼なじみサンテク不在の大きさは否めなくなかったが、ウビンの存在感は、それを補って余りあるほどだった。ウビンが扮したのは、死んだドンスの忘れ形見ソンフンで、喧嘩に明け暮れるやさぐれた生活を送っていたが、出所したジュンソクと出会い、絆を深めながらやくざの世界へと足を踏み入れていく。乱闘シーンで魅せた、高いジャンプが示す身体能力。暴力ばかりの義父を半殺しにした時の迷いのなさに、にじむ凄み。特に印象的だったのは、父の仇と刺し違えそうになるも、寸でのところで回避すると恐怖のあまり白目をむいてしまうラスト近くのシークエンスでの、役への入り込み方だった。確かに彼の面構えはいかつく、体つきも威圧感がある。だがソンフン=ウビンからは、見た目が適しているというばかりでない、役者としての潜在能力を十分感じ取れたのであった。

そんな、役者の階段を着実に昇りつつあるウビンが『チング 永遠の絆』の次の作品に選んだのが、キム・ホンソン監督『技術者たち』である。
ジヒョク(キム・ウビン)、グイン(コ・チャンソク)、ジョンベ(イ・ヒョヌ)は、あざやかな手口で高価な品を奪い、詐欺も働く悪党3人組。裏社会を牛耳るチョ社長(キム・ヨンチョル)の宝石店に盗みに入ったことで、社長が企む大金強奪計画に加担することになる。
ジヒョクには、この危ない仕事を引き受けた、秘められた思いがある。キム・ホンソン監督の長編デビュー作で、強引に臓器提供者にさせられた女性をブローカーが助けたことで命を狙われる『共謀者』からの流れを考えると、キム監督は、犯罪者でありながらより卑劣な悪に立ち向かっていく、ある種のダーティー・ヒーローを描きたいのだろう。確かに、金品を盗んで俊敏に去って行く身のこなしや佇まいは、漫画から出てきたかと思うほど、ウビンはヒーロー然としていた。さらに『チング 永遠の絆』では強面だったウビンも、最近は髪型も変えてソフトな顔立ちになった。そのせいなのか、現代的でクレバーな金庫破りのキャラクターに不思議と合っていた。
『共謀者』は、実際に起きた凄惨な事件に基づいていただけに、観る人を選ぶきらいがあったようにも思う。だが本作は、本物の仁川税関を使ったスケールの大きいアクションと、華麗な悪漢たちが繰り広げる騙し合いの競演が盛り込まれた、スリリングなケイパー・ムービー(金庫破り映画)である。エンターテイメント映画として、純粋に楽しめるのではないだろうか。
『技術者たち』
原題 기술자들 英題 The Con Artists 韓国公開 2014年
監督 キム・ホンソン 出演 キム・ウビン、キム・ヨンチョル、コ・チャンソク、イ・ヒョヌ
2015年11月28日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー
公式サイト http://gijyutsu-movie.com/
Writer's Note
Kachi。11月末に発売される「ことばの映画館」第3館、今回も参加しました。冊子のメインテーマ「初恋」と、単独コーナーを執筆しています。
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