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Interview 『生きる』パク・ジョンボム監督 ~社会の矛盾を力強く暴き、底辺に生きる人々を繊細な心で見守る

Text by 井上康子
2015/10/20掲載



 パク・ジョンボム監督は、長編デビュー作『ムサン日記~白い犬』で脱北青年の深い悲しみを丁寧に救い上げて描き、多数の国際映画祭で賞に輝き、世界の注目を集めた。「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015」で上映された長編第2作『生きる』も過酷な状況に陥った底辺に生きる労働者の絶望が希望へと変わる過程を重厚に描き、期待を裏切らない作品だった。いずれの作品も、どうしても作らなくてはならない作品だったことが伝わってくる力作だ。韓国映画界の中で独自の姿勢を貫く監督に話を聞いた。


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パク・ジョンボム監督


監督・主演・製作・脚本と一人四役


── 『ムサン日記~白い犬』同様に監督・主演・脚本と一人三役をこなしたのはたいへんでしたか?

製作もやっています。憂鬱で長い映画で製作してくれる人がいなかったので(笑)。全州国際映画祭や国の支援金に応募してお金を作りました。

── 脚本がすばらしいと思いました。昨日の上映時に「弟のような存在だった友人が自殺し、終わりのない悩みの中に陥った。“生きる”ということはどういうことかを考えたことがきっかけで作った」とお話しでしたが、脚本はどの位時間をかけて準備しましたか?

友人が2009年に亡くなり、2010年に『ムサン日記~白い犬』の公開があり、その後にすぐ書き始めて、完成までに4年ほどかかりました。50回位書き直しています。最初は兄弟の話でしたが、友達が加わり、兄が姉に変わり、姉の娘が出てきて、映画も長くなりました。今回ご覧いただいたのは2時間54分バージョンですが、ディレクターズ・カットの4時間バージョンもあります。劇場で公開するには4時間は長いし、映画祭でも短くといわれ、今回上映のバージョンを作りました。4時間バージョンでは今回のバージョンの後に1時間話が続き、主人公は戦い葛藤するもので、ラストが異なっています。製作費に6億ウォンを注ぎ込みましたが、収入はほとんどなく、赤字になっています。DVD、ブルーレイ製作も難しい状況です。今後、DVDかブルーレイを作るめどが立ったなら4時間から4時間半にまとめたものを作りたいと思います。

── 日本で一般公開されたらいいと思いました。

日本ではオファーがなく、公開は難しいように思います。将来、私が歳を取って、作品をまとめた回顧展を催す時があれば皆さんに見てほしいです。数回の上映ですが、映画祭で見てもらえるのは良い機会だと思います。初めて私の映画を見てくださる方がいるのも有難いです。



罪悪感を抱えて、罪悪感に苦しむ人を描く


── 精神を病む、主人公の姉スヨンは強い罪悪感に苦しんでいる人でした。『ムサン日記~白い犬』の主人公も罪悪感をもっていました。どうして、このように罪悪感をもつ人物を登場させたのでしょうか?

私はそういう人に強い関心があります。罪を犯した人、困難な立場に置かれて生きる気力を失った人にたいへん興味があります。純粋さや道徳性を失った人が罪を犯し、それが許される過程にも興味があり、それが人生だと思いました。この世の中は不条理ですが、それを克服してこそ人間だと思います。『ムサン日記~白い犬』の主人公は殺人を犯したことによる明確な罪悪感をもっていました。スヨンの場合は世の中に対する恐怖があり、さらに水害で両親が亡くなり、ショックを受けたことが影響しています。私自身がパニック障害を抱えていますが、スヨンもそういう人物です。

── 監督のパニック障害は、『ムサン日記~白い犬』の脱北者スンチョルのモデルになった友人が亡くなったことや、この映画を作るきっかけになった弟のような友人が自殺したことが関係しているのですか? 監督自身が罪悪感をもっているのでしょうか?

2008年に脱北者の友人が胃癌で亡くなり、2009年に弟のような友人が自殺したことで、パニック障害を発症してしまいました。脱北者の友人は一緒に住んでいたにもかかわらず、入院中は大学が忙しくて毎日看病に行けませんでした。自殺した友人はうつ病でしたが、そばにいてあげられませんでした。映画の撮影中で、会議の最中に彼から電話があり「後でかけなおす」と伝えたのですが、その2時間後に自殺したのです。取り戻せないという思いが罪悪感になっています。



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『生きる』


資本主義の腐敗を暴く


── 罪悪感をもつスヨンの対極に位置づけられる、平然と人の物を奪う人物がいました。主人公ジョンチョルが働く味噌工場の社長とその娘です。本当は社長の過失から豆が腐敗してしまったのに、娘がそれを隠して工場の労働者たちに「工場存続のために、あなた達の中で過失を見つけるように」と迫ったことには恐怖を感じました。

資本家の悪行を描いています。「利益は自分たちが得て、損害は労働者に負わせる」ことが現実に行われています。整理解雇、不当解雇、権利はく奪、人権蹂躙もしばしばあり、私はそういうことのデモにも参加しています。労働者問題に関心があり、以前からの考えを反映しました。豆の腐敗には資本主義腐敗の比喩も込めています。

── 工場の労働者に「過失を見つけるように」と迫るのは社長自身でも構わなかったのではと思いましたが、なぜあえて娘を登場させたのでしょうか?

私も娘を登場させるかどうかは随分悩みました。最終的に登場させたのは、資本家たちは自分の手を汚さず、誰かにやらせると考えたからです。中間者は自分を守るために資本家の犬になります。搾取を意識せずに生活するというのは怖いことです。映画を見たスタッフの家族から「社長の娘がなぜ悪いかわからない。自分が家族でも同じことをする」という声があがったことがありましたが、その日はショックで眠れませんでした。その後、このことについてはスタッフ・俳優を呼び出して話し合いをしました。良い格好をして、調子の良い話をして、人を騙す人がたくさんいます。真実が歪曲されること、そのことで他人が苦しむことに興味をもたないというのはとても怖いと思いました。

── 監督の実家が味噌工場と聞きました。

父は映画の社長のように悪い人ではありませんよ(笑)。2~3人雇って、一緒に手作りする小さい工場でしたが、作業はとても骨が折れて、今はすでに作ってあるものを販売する程度です。ロケは父の工場でしました。映画に出る味噌工場の物や風景も、全部父の工場のものです。戸外に味噌の甕が並んでいる風景がありますが、甕は父が20年かけて収集した物です。



北野武監督の『HANA-BI』を見て夢が変わる


── 監督演じる主人公が、水害で壊された家を再建するために、全力で凍った地面の石を押し出そうとするのは、人生の苦悩を象徴する場面でしたが、監督の身体が完全に鍛えられた肉体労働者の身体になっていて、説得力がありました。アルゼンチンのマール・デル・プラタ国際映画祭で主演男優賞を受賞されたのも当然と思えました。

父が運動をする人で、その影響で小さい頃からよく運動をしていました。大学は体育教育科でした。映画を撮るためにお金が必要で、一年の半分は建設の日雇いや重労働の船に乗る仕事をし、半分は撮影をするということを7~8年続けました。大学に入学してしばらくは体育教師になろうと思っていたのですが、兵役中に北野武監督の『HANA-BI』を偶然に見て衝撃を受け、自分も映画を撮りたいと思うようになったのです。

── 『HANA-BI』を見て、「感動した」を越えて「映画を撮ろう」という決意にまで至ったのは特別ですね。

それまでも、小説や詩を書くことはしたいと思っていました。生徒を教えることもすばらしいし、教えながら夏休みや冬休みに執筆するつもりでした。でも、映画監督をしながら教えることはできません。映画監督になろうと思った時に夢が変わったのです。



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パク・ジョンボム監督のサイン


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015
 期間:2015年9月18日(金)~9月25日(金)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。パク・ジョンボム監督は、イ・チャンドン監督『ポエトリー アグネスの詩』の助監督を務め、イ監督からは多大な影響を受けている。そのイ監督が製作予定の殺人魔が登場する作品が次回作の候補にあがっているそうだ。ぜひ、その作品を完成させて、イ監督と一緒にまた映画祭に登場してほしい。


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