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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015 ~映画人達が示した新しい幸福観

Text by 井上康子
2015/10/19掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015(以下、アジアフォーカス)」が、9月18日から8日間、福岡市内会場で開催され、22ヶ国・地域からの45作品が上映された。25周年を迎えた今年は記念プレイベントとして過去の上映作から投票で選ばれた作品が上映されたが、選ばれたのは最近上映された作品ではなく、2008年に上映されたパキスタン映画『神に誓って』で、長くアジアフォーカスに関心を持ち続けているファンが多いことを実感した。オープニングを飾ったのがインドネシア作品であったことに加えて、梁木ディレクターが「最も将来性を期待する国」としてインドネシアに大きく焦点を当て、同国の特集上映や監督らを招いてのシンポジウムも催された。韓国からは『ムサン日記~白い犬』で脱北青年の孤独を描いたパク・ジョンボム監督の新作『生きる』の上映・監督来福があった。


受賞作品はいずれも実在女性を描いた作品


 オープニング上映された『黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん)』(インドネシア)は、『聖なる踊り子』(アジアフォーカス2013で上映)のイファ・イスファンシャ監督による武侠映画。革新的な武侠表現を見せようとする監督とアクションの特訓をしたという出演者のエネルギーに満ちた作品だった。

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『Little Big Master(原題)』の脚本家ハンナ・チャン(左)と
エイドリアン・クワン監督(写真提供 映画祭事務局)

 「福岡観客賞」(観客投票1位の作品)に輝いた『Little Big Master(原題)』(香港・中国)は、エリート層子女の英才教育に虚しさを感じて退職した女性が、廃園寸前の保育園の園長職を安月給で引き受け、貧困家庭の子供の教育に打ち込むという、実在女性をモデルにした作品。エイドリアン・クワン監督は「彼女の活動に感銘を受け映画化した」という。生き馬の目を抜くと称される香港で、このような作品が生まれ、大ヒットと聞いて関心を持っていたが、貧しい人と同じ地平に立ち、彼らのために努力を続け、輝いていく彼女の姿に文句なしに感動した。「熊本市賞」(観客投票2位の作品)の『山嶺の女王 クルマンジャン』(キルギス)は、隣国ロシアとの関係に苦慮し、キルギスの人々のために息子まで犠牲にし、独立の足がかりをつけ、国祖として今も崇められている女性の生涯を描いたスペクタクル映画。大規模な国家プロジェクトとして製作されたというだけに迫力満点だった。

 実在男性を描いた『ダークホース』(ニュージーランド)も感動的だった。マオリ族の精神疾患を抱える天才的なチェス・プレーヤーが、自らはホームレスになろうとも貧困家庭の子供たちにチェス教え、彼らに夢を持たせていく。こうして実在人物を描いた作品を概観すると、いずれも他者の幸福に自身の幸福を見出す主人公が揃っていることが印象に残った。


過酷な人生を生きる:韓国『生きる』、イラン『未熟なざくろ』


 『ムサン日記~白い犬』で底辺に生きる脱北青年を描いたパク・ジョンボム監督が、『生きる』では底辺に生きる労働者を描いている。精神を病む姉とその娘を抱え、建設仕事の給料を持ち逃げされた上に、仲間からは回収を命じられる。その上、冬を越すための味噌工場の仕事でもトラブルの責任を負わされる。「厳しい条件と闘いながら生きていくことを通して見せるものがある」との信念から、ロケ地として選ばれたのは韓国で最も寒い、冬の江原道で、撮影は苦労が多かったそうだ。前作同様に監督が主人公を演じているが、「演技のために地面が凍っている所の石を動かす練習をしてみると石は動かず、通りがかりの人からはバカなことをやっていると呆れられた」。だが、そのことで「凍った所の石を動かすという不可能なことをやっていくことが“生きる”ということだという思いを強めた」という。主人公は絶望的な状況の中で人間性を取り戻す。「生きとし生けるものの中で人間だけが人間性を証明するための良心をもつ」という監督の言葉に強い想いがにじんでいた。

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『生きる』

 『生きる』との共通性を強く感じたのは『未熟なざくろ』(イラン)。底辺に生きる若夫婦の夫が瀕死の重傷を負う。妻は介護していた認知症の女性を自宅から老人ホームへと送り込む役割を負うが、最後に彼女との大切な約束を守り切る。こちらも「人間だけが人間性を証明するための良心をもつ」ことを訴える作品だった。マジドレザ・モスタファウィ監督は映画と文学、双方の影響を受け、本作で長編デビューした若い人だが、巨匠イ・チャンドン監督作品『ポエトリー アグネスの詩』を彷彿させる、詩のイメージが全編に溢れる美しい作品だった。


佐々木昭一郎氏『ミンヨン倍音の法則』で自身のルーツを見せる


 NHK演出家時代に『四季・ユートピアノ』など独自の作品で国内外の賞に輝いた佐々木昭一郎氏のおよそ20年ぶりの新作で初の劇場映画。韓国女性ミンヨンを主人公に、ミューズとしての彼女に過去と現在を縦横させ(時には佐々木氏自身の母も演じさせ)、彼の思想のルーツを見せる。主人公を演じたミンヨンさんは声の良さに惚れ込んで抜擢した一般女性。氏は撮影中も俳優の声だけを聞けば演技の良し悪しが分かるという耳の持ち主。作品にはモーツァルトからアリランまで多くの歌・曲が使われているが、すべて記憶から自然にイメージされたものだという。唯一無二の作品はこのような稀有な能力があってこそ生み出されるのだろう。


感じる文化の変化


 フィリピンのローレンス・ファハルド監督による『インビジブル』(フィリピン・日本)は、自国から日本への出稼ぎ労働者を描いた作品で、家族への送金のために、国外追放の虞や孤独に耐えながら生活している人々を登場させている。福岡で働く男性が街を歩く場面があるが、彼の眼を通して見る荒涼とした福岡は私の見慣れた街ではなく、その差異に軽い目眩を感じた。

 優れた作品を見ることができ、また、このようにアジアに住む私たちの違いや共通性を情動を伴って知ることができた。そして、複数の映画人が「自分だけ」ではない、「他者も共に」という共通の幸福観を示したことに、文化の変化と私たちの希望を感じた。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015
 期間:2015年9月18日(金)~9月25日(金)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。中学生時代にNHKで放送された佐々木昭一郎作品に魅了され、NHKに感想を書き送った。長い沈黙があったが、アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015で再び作品を見ることができ、サイン会では当時の感動も一緒に伝えることができ、万感胸に迫った。


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