Interview 『メイドロイド』ノ・ジンス監督、俳優ヨンゴン、女優ヨン・ソンハ ~「ゆうばりファンタ」では映画を作る人の情熱が感じられる
Text by hebaragi
2015/3/3掲載
オフシアター・コンペティション部門にコンペインした『メイドロイド』のノ・ジンス監督、俳優ヨンゴンさん(サンス役)、女優ヨン・ソンハさん(ヒョナ役)に、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭(以下、ゆうばりファンタ)の印象や作品についてお話をうかがった。

左からヨンゴン、ノ・ジンス監督、ヨン・ソンハ
── 「ゆうばりファンタ」の印象
監督:5年ぶりに参加し、今回が2回目の参加。今回は開催期間を通して最後まで滞在できるので、観客と交流できるのが楽しい。
ヨンゴン:ゆうばりファンタへの参加は3回目で4作品目だが、今回新しい作品をもってこられてよかった。毎回、映画を作る人の情熱を感じられるのはゆうばりファンタならではだと思う。
ソンハ:海外の映画祭は初めて。韓国の大きな映画祭と違って小さな映画祭なので、ゲストと観客の距離が近いのがいい。今まで個人的に日本人についてあまり知らず距離感があったが、今回は良い面を見ることができた。夜は街の居酒屋でスタッフや観客と一緒にお酒を飲んだりして楽しく過ごしている。ノ・ジンス監督とは2014年の全州国際映画祭で上映された『被害者たち』への出演をきっかけに知り合って、今回、一緒に仕事をさせていただくことになった。
監督:今日の上映で、朝から一生懸命ピンク映画を見てくれた観客に感謝している。会場の雰囲気もとてもよかった。
── テーマについて
監督:日本のピンク映画文化に関心があり、よく見ていた。韓国にはこのようなテーマはなかなかない。そんなとき、ちょうどいい台本に出会った。台本は、ヨンゴンのアドバイスで当初のものから変えた部分もある。元々の台本では荷物が配達されてきたとき、主人公がすぐにロボットの存在を信用することになっていたが、演出の際にはロボットの存在を少し疑うように変えたりした。ラストシーンは、全てを失った主人公サンスがかわいそうだったのでファンタジー風にした。
── ロボット役を日本の女優(希志あいの)にした理由は?
監督:『サムライプリンセス 外道姫』(2009年/梶研吾監督)というVシネマに、今回ヒロイン役を演じた希志あいのが出演しているのを見て決めた。韓国製ロボットという設定にしたら、韓国はロボット技術が発達していないので信用されないのではと思った、日本製なら信用できると考えた。

『メイドロイド』には希志あいのも出演
韓国ではあまり作りたがらないテーマ。韓国の俳優が出演する似たような映画もあるので新鮮な印象の作品にしたかったことと、韓国人のキャスティングが難しいので日本人をヒロイン役に起用した。私は日本の映画学校で学んだことがあり、キャストとスタッフとのコミュニケーションもスムーズだった。サンスについては日本語が分からないという設定にしたほうが面白いと思い、日本語の会話本を見ながらロボットと会話する設定にした。ただ、ひとつだけ残念なところがあった。ラストのベッドシーンは演技が型にはまっていて心が入っていない印象があったことだ。日本のAV文化については昔から知っていた。韓国では性文化を表面上隠すのが嫌で、日本のように明るく自由に楽しんで表現することに共感できた。
── 韓国ではこのような作品に対する規制はどの程度あるのか?
監督:そもそもピンク映画を作ってはいけないことになっており、違法とされている。ただし、インターネット上では日本のAVが見られる。女優・蒼井そらはとくに有名で、韓国だけでなくアジアで知らない人はいないくらいだ。韓国は、性的な事柄について関心がありながら、ないふりをするのが国民性だ。
── 実際に作品を見た印象は?
ソンハ:ピンク映画への出演が初めてだったので、最初見たときは緊張して心臓がドキドキした。今日、見たのは2回目で観客の立場で見たが、サンスの立場・役割がよく分かった。
監督:1回目に見たときは緊張した。2回目は映画ファンの目で見た。面白かったところ、惜しかったところ、こうすればよかったと思うところもある。
── 撮影について、今までの作品と比べてどうだったか?
ヨンゴン:(『エイリアン・ビキニの侵略』『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』など)今まではアクション映画が多かったので体を使った演技が多かった。今回の作品は主人公サンスの性格のディティールを短い時間で表現しなければならないので難しく感じた。一応、監督が考えていたことは表現できたように思う。
監督:撮影が終わるといつも思うことだが、反省点もあり学んだことも多かった。しかし、一段階ずつ進歩しているようにも感じた。希志あいののスケジュールが多忙なため、60時間連続撮影となったのが大変だった。
── カラオケボックスの接待女性について
ヨンゴン:作品中のヒョナのように歌やダンスの接待をする女性はいる。実際、自分も作品と同様にバイトをしたことがある。作品中のように、窓にブランケットをかけて室内を見えなくする行為も違法だが実際に行われている。韓国でも、他国同様に男女関係はあり、していることはしている。性文化は建前上、表には出てこないが色々と存在している。
ソンハ:日本では軽い気持ちでそのようなバイトをすることもあるが、韓国では学費を支払うためにそういうバイトをせざるをえない普通の女子大生も多いと聞いたことがある。サンスとヒョナは違うようでいて、同じように心に暗い気持ちをかかえている。
監督:ヒョナも、やらざるを得なくてバイトをしているという設定にしている。
── ラストシーンについて
監督:ハッピーエンドにしてはいけないと思っていた。サンスのキャラクターとして、貯金をして、そのお金で女の人をなんとかものにできると思っていること自体がそもそも間違いだというメッセージを込めた。最後に全てを失ってしまう主人公だが、それではかわいそうなので、ラストシーンはファンタジーにした。もし女性が主人公なら違う結末になったと思う。今回は男性の感情にしたがって展開していく映画にした。
ヨンゴン:サンスがヒョナに告白する場面を見て自分の演技なのになぜか涙が出た。
ソンハ:ヒョナが泣いた理由は、初めて人間的に裏切られた(ヒョナを性的な対象としてしか見ていなかったサンスの思いに対して)と感じたからだと思う。
監督:ヒョナには自分がかわいそうだという自己憐憫の感情があったと思う。
── お気に入りのシーンは?
監督:サンスがヒョナに「ニュージーランドへ行こう」と告白するシーン、ロボットがベッドで寝ているところで、後ろから寄り添ったサンスに気づいて目をあけるシーンが印象に残っている。ほかにもお気に入りのシーンはたくさんある。
ソンハ:希志あいののダンスシーンがとてもセクシーだった。韓国では見ることができないものなので、女性から見てもセクシーに感じた。
監督:事前に台本を送っておいたら、希志あいのがダンスシーンを自分で考えて準備してくれた。何かダンスの型があるようにも感じた。
── カラオケボックスで流れていた曲について
監督:『百万本のバラ』はヒョナのテーマとして情緒的に彼女の気持ちに合っていたので使った。もともとロシア民謡で、歌詞が流れずメロディだけだと著作権料が不要で自由に使えるのも理由。カラオケボックスの部屋の中を主人公サンスが覗いているのを知っていて、歌詞にある「私を見て 月を見るように私を見て」という意味を込めた。ちなみに別のシーンでヒョナが歌っていた『アリラン』も民謡なので著作権料が不要だ。
── 日本映画について
監督:好きな作品は成瀬巳喜男監督の『浮雲』。監督では三池祟史と北野武が好きだ。一緒に仕事をしたい俳優はたくさんいるので特定することは難しいが、竹中直人や蒼井優と仕事がしてみたい。今回ゲストで来ている女優・村田唯(『密かな吐息』主演・監督)とも仕事をしてみたい。
ヨンゴン:三池祟史、園子温が好きだ。北野武の監督作品に出てみたい。
ソンハ:私も園子温が好き。作品では『嫌われ松子の一生』が好き。20歳のときに作品を見て「白鳥に憧れてたのに、目覚めると真っ黒なカラスになってました」というセリフが印象的で、自分がいろいろと辛い時期だったので、自分よりも大変な人生があるということを知ったのが印象に残った。俳優ではオダギリ ジョーが好き。
── 最後に『メイドロイド』についてアピールしたいことは?
監督:楽しいピンク映画にしたつもりなので楽しんで見てほしい。まともな男性がダメになっていく様子を見てほしい。韓国で公開したらどんな反応が来るのか興味深い。
── 今後の予定について
監督:次回作は『赤いラクダ』というタイトルの暗いドラマだ。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015
期間:2015年2月19日(木)~2月23日(月)
会場:北海道夕張市内
公式サイト http://yubarifanta.com/
Writer's Note
hebaragi。監督も出演のお二人も、難しいテーマを楽しんで制作している様子が伝わってくるインタビューだった。三人の今後の活躍に注目していきたい。
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