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Report 第27回東京国際映画祭 ~文化、民族、国籍を越える映画

Text by Kachi
2015/2/3掲載



 昨年12月、韓国の調査団が福島へ視察に訪れた。日本でとれた水産物の輸入規制見直しのために、専門家による現地調査が行われたのだ。韓国は東日本大震災以後、2013年より福島など8県からの水産物輸入を制限している。早々の制限解除には難色を示したものの、今年になると韓国外交部(外務省)幹部からは禁輸措置解除に前向きな発言も聞かれた。しかし、市民からの反対デモが巻き起こるなど、溝はなかなか埋まりそうにはない。

 このニュースを見て、キム・ギドクの言葉を思い出した。第27回東京国際映画祭の韓国作品、『メイド・イン・チャイナ』(キム・ドンフ監督、2014年)のティーチインでのことである。

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『メイド・イン・チャイナ』

 中国人青年チェン(パク・キウン)は、父子でウナギの養殖業を営んでいたが、韓国に輸出したものから水銀が検出され、取引が停止。病に倒れた父に代わり、チェンは再検査を求めて3匹のウナギを持ち韓国へ密航する。しかし、食品医薬品安全処の女性監視員ミ(ハン・チェア)による検査結果で、再び水銀が検出されてしまう。

 今回、脚本を担当したキム・ギドクは、かつて韓国で中国産ウナギから水銀が検出された問題から着想を得て、「このウナギを育てていた人たちは悔しい気持ちになったのではないかと考えた。ウナギを育てるためにすべてを懸けてきたにもかかわらず、こうした判定が下り、どういった心境なのだろうか」と語り、韓国における福島産水産物の輸入制限にも触れた。社会の弱者に思いを寄せるのが、いかにもギドクらしい。

 映画では、スーパーの買い物客が、中国製品を忌み嫌う。チンピラたちがチェンを呼ぶ際の「おい、メイド・イン・チャイナ!」は侮蔑的ニュアンスだ。中国産と韓国産が生み出す感情的な対立が、そこに暮らす人種や民族を含めたすべての「メイド・イン・チャイナ」、「メイド・イン・コリア」にまで発展していく。冒頭に挙げたニュースや、日本各地でのヘイトスピーチを考えれば、「メイド・イン・ジャパン」もこの対立に加わる。こうした敵意は、いつでも簡単に生まれるのだ。

 そんな中、言葉を交わさずセックスするミとチェンの姿が印象深い。劇中で憎み合ったのも、最後互いを理解しあったのも、言葉が通じない、国籍や民族の異なる者同士であったという皮肉。対立を乗り越えるために時として言葉は不要なのかもしれない。

 映画祭では、韓国からもう一作、チョ・グニョン監督『アトリエの春』(2014年)が上映された。彫刻家のジュング(パク・ヨンウ)は、全身の筋肉が徐々に動かなくなる不治の病を抱え、創作意欲を失った無為な日々を過ごしていた。もう一度、芸術に情熱をと願う妻ジョンスク(キム・ソヒョン)は、ある日、子連れの女性ミンギョン(イ・ユヨン)と出会い、彫刻のモデルに誘う。

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『アトリエの春』

 朝鮮戦争で混乱を極めた1950年代が過ぎ、復興しつつあった1960年代。その終わりに差し掛かった1969年の浦項(ポハン)を舞台に物語は展開していく。1965年から1972年にかけての韓国は、ベトナム戦争のさなかであった同盟国アメリカを支援するため、32万人の兵を派遣した。国内は特需に沸き、潤った外貨の総額は10億2,200万ドルであった。

 一方で、ベトナム参戦は韓国に暗い影を落とした。トラウマを抱えた元兵士をアン・ソンギが演じた『ホワイト・バッジ』(1992年)、明るい青年がベトナムから帰還後、人が変わってしまう『大統領の理髪師』(2004年)、武勲をあげたものの心身が傷ついたエリート軍人が部下の妻と激しい恋に落ちる『情愛中毒』(2014年)など、これまで何度か映画にされてきた。

 『アトリエの春』では、ミンギョンに暴力を振るう帰還兵の夫をはじめ、博打と女遊びに明け暮れる自堕落な男たちから戦争中の閉塞感が感じられるものの、女性を中心に見れば、彼女たちの自由で美しい姿が描かれている。ジョンスクが纏う韓服は簡素だが美しい(この映画で筆者は、格子柄の韓服を初めて見たかもしれない)。朝もやのあぜ道でダンスをするように夫の帰宅を待つ彼女の姿は軽やかで情感豊かだ。ミンギョンは生活に疲れた様子だが、ジュングの前で裸になると途端に官能美が花開く。村の男衆から「芸術家のシバジ(家の後継ぎとなる男子を産むために雇われた女性)」と噂される幼い下女のヒャンスク(アン・スビン)は「自分をモデルに」とジュングに裸で迫る。あどけない性の芽生えが妖艶に映る。

 新人にも注目したい。ミンギョン役のイ・ユヨンは透明感と色気があり、脱ぎっぷりも良いのでどことなくチョン・ドヨンを彷彿とさせる。『メイド・イン・チャイナ』の主役を務めたパク・キウンは、『シークレット・ミッション』(2013年)で見せた金髪で軽薄な若者から一転、苦悩を表情に湛えた青年を好演した。ティーチインの時、会場にいた中国語に通じた観客からは「彼の中国語がとても上手だった」という感想も聞こえてきた。

 韓国作品はいずれも受賞できずに終わった。映画祭最終日、審査委員長のジェームズ・ガン監督は「どれだけ巧みに物語を語っているか」を重視したと述べ、「大作でもインディペンデントでも、キャラクターがドラマティックにどのように物語を語っていくか、そこが希薄になっている気がする」と指摘した。インディペンデント映画全般についての評「ストーリーよりも映像の一つ一つ、一瞬一瞬にこだわりすぎて芸術作品になりすぎている」は、『アトリエの春』にも当てはまるだろう。芸術面に重点を置いたためか、ラストで平凡なメロドラマに帰してしまった。『メイド・イン・チャイナ』も、社会問題にストーリーをはめ込んだだけで完結してしまった印象だ。

 2014年の映画界で注目を集めた監督にカンボジアのリティ・パニュがいる。クメール・ルージュの加害者たちに拷問を再現させるドキュメンタリー『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』(2002年)がその代表作。粛清によって家族を失い、たった一人祖国を脱した孤高の映画作家だ。新作『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2014年)は、自らが被害者であるという事実もさることながら、自分の体験を土人形を使って描くという、これまで見た事のない手法で恐怖と悲しみを語り、痛切だった。

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『遺されたフィルム』

 東京国際映画祭で今回から新設された国際交流基金アジアセンター特別賞も、カンボジアで数少ない女性映画人ソト・クォーリーカーに授与された。初監督作品『遺されたフィルム』(2014年)は、父が決めた結婚に反発し、不良の恋人と遊び回っていた女子大学生ソポン(マー・リネット)が、寂れた映画館でベテラン映写技師ヴィチェア(ソク・ソトゥン)が未完の映画『長い帰郷』をこっそり上映しているのを知り、そのヒロインが母スレイモン(ディ・サヴェット)だったことをきっかけに作品を完成させようと奔走するストーリーだ。

 物語はクメール・ルージュに破壊されたスレイモンやヴィチェアの人生をなぞりながら、ソポンたち次世代へ希望を繋いでいく。クメール・ルージュ占領下、怯えた表情で映画館に逃げ込んできた人たちのため、ヴィチェアがたった一度だけ『長い帰郷』を上映した、というエピソードはフィクションなのだろうが、迫害の中で何かに突き動かされるように映画を見せた気概に涙した。圧制の歴史を繰り返してはならないというメッセージだけでなく、文化を繋ぎその先へ渡していくという、映画に関わる者が持つべき情熱をこの一本は見せてくれたのだ。

 釜山国際映画祭名誉執行委員長キム・ドンホ氏は著書『世界のレッドカーペット』(2011年)で、映画祭本来の目的を「新人の監督や脚本家の発掘」としている。国際交流基金アジアセンター特別賞は、文化の違いを越えて活躍が期待される新鋭監督へ授与される賞だ。観客賞や監督賞といった権威ある大きい賞とは違った独自の視点で評価することは、新しい才能の発掘に大きく寄与するだろう。文化や民族の違いを越えて分かちあえることを教えてくれるのが映画の良さなのだから。


第27回東京国際映画祭
 期間:2014年10月23日(木)~10月31日(金)
 会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
 公式サイト http://2014.tiff-jp.net/ja/

Writer's Note
 Kachi。図書館勤務改め映画館スタッフ。今年厄年の筆者。厄払いを…と思っていた新年早々、自宅の水道が使用不可になりました。


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