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Interview 『月に吹く風/Wind on the Moon』イ・スンジュン監督 ~盲ろう者の心の中には私たちが知ることができない世界がある

Text by 井上康子
2014/12/4掲載



 『渚のふたり』でアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2011グランプリを受賞したイ・スンジュン監督の最新作『月に吹く風/Wind on the Moon』が、先月、同映画祭で上映された。『渚のふたり』では、盲ろうの青年と脊椎障害の妻が指点字によるコミュニケーションで互いの寂しさに共感する姿が描かれていたが、『月に吹く風』では、盲ろう・知的障害のためにコミュニケーション手段を持たない女性イェジさんと母親が互いを大切に思う姿が、前作同様詩的に描かれている。アムステルダムで映画祭に参加中の監督がメールで質問に答えてくれた。

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母親とイェジさん


── イェジさんご家族は『渚のふたり』の主人公ヨンチャンさんから紹介されたそうですが、イェジさんとお母さんを撮りたいと思った理由を教えてください。

初めてイェジさん一家に会った時、「イェジさんとお母さんはいったいどうやってコミュニケーションを取って暮らしてきたのだろう」と疑問を抱き、強く知りたいと思いました。『渚のふたり』のヨンチャンさんはコミュニケーションができました。彼は私たちのような音声言語ではありませんでしたが、指点字という言語を持っていて、通常より時間を要するものの、他の人とコミュニケーションすることができました。けれど、イェジさんは全く違いました。彼女は言語を持っていません。人が言語を持っていないという事実が何を意味するのかを想像することは難しかったです。しかし、彼女は家族ともう10年以上も暮らしてきた訳です。互いに通じ合える、お互いの心を感じる方法を持っているはずだと思いました。そういう方法がなければ家族として生きて行くのが大変です。私たちは言語を人間の重要な条件だと思います。けれど、人が相互に意思疎通して共感する時、相互の心が交わる時に、言語よりもっと重要なものがあるのではないかと思いました。イェジさん家族を通じて、そういうことを伝えたいと思ったのです。

── 撮影期間はどの位でしょうか?

約2年です。2012年6月から撮影を始め、最後の撮影を2014年6月にしました。

── 撮影時、イェジさんは何歳だったのですか?

撮影開始時は満17歳で、終了時は19歳でした。

── イェジさんのお母さんが「ろう学校からも盲学校からも就学を拒否された」とお話しされていましたが、イェジさんが小学校に就学する年齢だった10年位前には、重複障害を持っているお子さんが学校から拒否されるということが韓国ではよくあったのでしょうか?

他のお子さんのケースは正確には分かりませんが、ろう学校や盲学校に入学したいと思っても拒否された方がいたと聞きました。明らかなことは視聴覚重複障害児のための学校と教育はなかったし、今もそうだということです。

── イェジさんが現在のように盲学校で教育を受けられるようになったのは何歳からですか?

撮影終了頃、お母さんが「イェジは6年間学校に通った」とおっしゃいました。だから13歳頃からのはずです。


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イ・スンジュン監督

── イェジさんのお母さんは監督の「撮影したい」という申し出をすぐに承諾されたのでしょうか?

お母さんからはすぐに撮影をお許しいただけました。お父さんも同じでした。ご両親は「私たちはイェジを隠しておきたくないのです。韓国では障害児の親たちは、多くの人が子供を隠そうとしますが、私たちはそうはしません。子供を連れて旅行もたくさんしました」とおっしゃいました。そして、お母さんはイェジさんのような子供がいれば、その家族と、あるいはその子供を知っている人と会うことを望んでいました。「映画ができて自分たちのことを知ってもらえたら、イェジのような子供に会えるのではないか。イェジを理解するのを助けてくれる方に会えるのではないか」と考えていました。それですぐに撮影を承諾して下さいました。私は日本でこの映画を上映できる機会が何回かいただけたら有難いと思っています。日本には視聴覚重複障害者の団体もあり、研究もたくさんされているからです。イェジさんのお母さんが望む情報を得ることができるだろうと思います。

── 『月に吹く風』というタイトルにはどんな意味がこめられているのですか?

イェジさんは風が好きです。風が顔に触れると彼女はよく微笑みます。お母さんが「顔に触れる風の感じが好きなようです。風が触れるとよく笑います」と教えてくれました。私たちは風が顔に触れても笑うことはありません。イェジさんが感じる風と私たちの感じる風は違うのでしょう。イェジさんの感じる風は私たちには存在しないもの、知ることができないものだと言えるでしょう。「月」はイェジさんを意味しています。そして、「風」はイェジさんが感じる世界を意味しています。科学者たちは「月に風はない」と言うでしょう。しかし、イェジさんの心の中には、私たちが知ることができない、私たちは無いと思っている世界があるはずです。


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『月に吹く風』
 原題 달에 부는 바람 英題 Wind on the Moon 韓国公開 未定
 監督 イ・スンジュン
 配給・海外セールス会社のサイト http://www.docairways.com/(本作の紹介・予告編あり)

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Writer's Note
 井上康子。私の友人だった盲ろう男性は、側にいる人の皮膚に人差し指で軽く触れただけで、その人が女性か男性かを確実に言い当てた。人には潜在的に持ってはいても特殊な状況に追い込まれないと発揮できない能力があるのだろう。イ・スンジュン監督の「月に吹く風」という言葉に深く納得した。


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