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Review ドキュメンタリー『月に吹く風/Wind on the Moon』 ~『渚のふたり』イ・スンジュン監督が写し撮った、互いの存在を慈しむ盲ろうの娘と母

Text by 井上康子
2014/11/19掲載



 2014年2月に日本で公開されたドキュメンタリー『渚のふたり』で、盲ろうの夫と脊椎障害がある妻の互いを思いやる日々を2年に渡って撮影して見せたイ・スンジュン監督の最新作。今回は生まれつき盲ろうで、見えない・聞こえない・話せない女性イェジと、彼女を抱えて生きてきた母親の日々をとらえたドキュメンタリーだ。

wind_on_the_moon1.jpg
『月に吹く風』

 イェジは、驚くべきことに長く公教育から排除されていた。母親は娘が教育を受けられるように奔走したが、ろう学校からは「盲学校に行け」、盲学校からは「ろう学校に行け」と言われ、受け入れられなかった。撮影中に17歳で行う住民登録証の申請をした彼女だが、盲学校での教育を受けられるようになったのはようやっと13歳頃からだ。『渚のふたり』の夫婦は指点字により支障なくコミュニケーションができていたのに対し、イェジは専門的な教育を長く受けることができず、また重度の知的障害も併せ持っているためにコミュニケーション手段を獲得できていない。母親は常に娘が何を望んでいるか推測して対応することが求められる。不安を感じたり気に入らないことがあったりすると、イェジは自分の頭や顔を激しく叩く。その度に、母は娘が傷つかないように自分の手でその殴打を受け、彼女の思いを理解できなかったことに罪の意識を抱く。

 自傷を繰り返すイェジだが、触覚や回転覚により自分が落ち着くことができる世界を持っている。部屋の中では手を広げてクルクルと回転し続け、ぬいぐるみをなでで手触りを楽しむ。海水浴では水に触れた感覚や、波の揺れにうっとりとした表情を見せる。自傷も回転を反復する行為も、イ・スンジュン監督は問題視することなく、ひたすら彼女の世界を理解しようとレンズを向けている。

 イェジは頻繁に母親に抱きついて抱擁を求め、母に抱かれると満面の笑みを浮かべる。母親も無辜(むこ)の笑みを見れば我知らず微笑む。家族に大事にされてきたイェジは母親以外の家族もまた求めている。父の車に乗ろうと急ぎ足になり、乗りこむや穏やかな表情を浮かべる。正月休みに帰省した姉の手をさぐり求め、握り返してもらった時も笑みを浮かべ、姉もそんな妹がかわいくて微笑む。前作『渚のふたり』のインタビューで「夫妻が寂しさを共有していると感じたことが度々あった。それは現代社会で生きている私たちが忘れがちになることで、とても羨ましいと感じた」と述べたイ監督は、本作では、言葉をやりとりして生じるのではない、「互いの存在そのものを大切に思う共感の笑み」を観客に見せたかったのではないだろうか。

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幼き日のイェジを抱く母親

 母親はイェジとコミュニケーションができるようになることを切望している。盲学校では「水」をサインで表現する指導を受けているところだ。高熱のため2歳前に盲ろうになったヘレン・ケラーが、家庭教師サリバンの働きかけで、指文字が物の名前を表わしていることに気づき、最初に指で綴ったのも「water」だった。知的障害のあるイェジがサインを習得するのは容易ではないだろうが、彼女がコミュニケーション手段を得て、要求表現ができるようになり、自身の不全感を減じさせ、母が罪悪感を抱かずに過ごせる日が訪れることを願う。


『月に吹く風』
 原題 달에 부는 바람 英題 Wind on the Moon 韓国公開 未定
 監督 イ・スンジュン
 配給・海外セールス会社のサイト http://www.docairways.com/(本作の紹介・予告編あり)

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Writer's Note
 井上康子。見えない・聞こえない世界を少しでも実感するために、目隠し・耳栓で過ごしたことがある。見えない不便さ以上に、環境音さえも聞こえないことによる孤独感は深く、ヘレン・ケラーの「耳が聞こえないことは目が見えないことよりもより痛切」という言葉を思い出した。


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