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Report ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2012 ~ショートフィルムは人生の核~

Reported by Kachi
2012/7/12掲載



はじめに


 今年で14回目を数える「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」が、6月14日から6月30日まで開催された。

 「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」は、世界的に注目度の高い「短編映画」というジャンルを日本に紹介するために、米国俳優協会会員で俳優の別所哲也氏が1999年に創設した映画祭だ。「アメリカン・ショート・ショート フィルムフェスティバル」という名称でスタートし、2002年に「ショートショートフィルムフェスティバル(SSFF)」に改称。2004年に米国アカデミー賞公認映画祭に認定され、本映画祭からアカデミー賞短編部門で受賞作が誕生する可能性もでてきた。また、同年、日本を含むアジア諸国の作品を紹介する「ショートショートフィルムフェスティバルアジア(SSFFASIA)」を設立。2006年からはSSFFとSSFFASIAを同時開催するようになり、名称も「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(以下、SSFF&ASIA)」となる。

 韓国からも毎年のように優れた短編作品がノミネートされているが、本年は、オープニングセレモニー、アジア&ジャパン部門、旅シヨーット!プロジェクト、ミュージックShort部門、韓国トラベルショートなどの部門で計14作品が上映された。そのうちの9作品をご紹介する。



6/14 チャン・グンソク監督『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』


 6/14に開かれたオープニングセレモニーでは、特別賞を受賞したチャン・グンソクの『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』が特別上映された。漢陽大学在学中に自ら脚本・監督・編集・主演を務めた一作で、本人は来日できなかったが、代わりにビデオレターが公開された。このショートフィルムを撮ったきっかけは、校内の映画祭ポスターを見たこと。先輩たちと「お酒を飲むお金が欲しくて」撮影し始めたが、だんだん楽しくなり最後の編集は13時間もかけてこだわって作ったという。

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『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』

 映画は、変装した男が街中に登場する場面で始まる。マスク、サングラス、ウインドブレーカーを次々に外すと、そこには真っ赤なスーツ姿のチャン・グンソク。歓声やシャッター音で辺りは騒然となるが、当の本人は眼もくれずに堂々と歩いていく。地下鉄でも彼は大人気。しかし、そこでモノローグが入る。

   「最初はよかった」

   「気づくと閉鎖的な世界にいた」

 華々しい世界の中で彼は孤独を抱えていたのだった。ショーウィンドウに映った自分に「ガラスに映る俺は本物の俺?」と問いかけるグンソク。ちやほやされるうちに自分が孤立してゆく気持ちになるのはスターならではの悩みなのかもしれないが、「他にも生きる道があったのでは」と人生に疑問を投げかけるのは、誰しも経験のある普遍的なテーマだ。短編映画の魅力として彼は「自分のアイディア・世界観を強く出せることだ」と話したが、作中のワンシーンさながらに、監督チャン・グンソクは主演チャン・グンソクに「本当に、その人生でいいのか?」と問いかけたに違いない。そして彼の出した答えは…。一度きりの人生を悔いて生きるか前だけ向くか、グンソク自身の思いが強く出た佳作だった。

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『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』

 ちなみにチャン・グンソク、ビデオレター内のインタビューに全て日本語で答えていたのには驚かされた。プレゼンターとして登壇していた映画コメンテーターLiLiCoさんが「本名でグンちゃんのファンクラブに入っている」と話していたが、努力家の彼を追いかけるファンの気持ちが分かる気がした。



6/15 ヤン・イクチュン監督『Departure/旅立ち』


 2008年に『息もできない』で監督デビューを果たしたヤン・イクチュンの『Departure/旅立ち』が、「旅シヨーット!プロジェクト」セレブリティショートとして上映された。全てソニー製のビデオカメラ「ハンディカムNEX-VG10」で撮影され、舞台は目黒や渋谷といった東京の街だ。

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『Departure/旅立ち』

 東京での生活に別れを告げる女性。この3年間、出会い去って行った男性たちのことを考えると、東京に出てくるために捨てた「彼」のことが思い出される。「逃げるな」と言った「彼」を振り切って韓国を発ったけれど、今では「彼からも自分からも逃げたのだ」と気づく。自分が暮らした東京を、そして「彼」を撮るためにハンディカムを買った彼女。「もう一度あなたの元に帰りたい。そして私を見つめてほしい」と作品は結ぶ。

 日韓合作『夜を賭けて』で、山本太郎と恋に落ちる女性を演じていたリュ・ヒョンギョンが主役をつとめている。そして「彼」は監督のヤン・イクチュンその人。思い出の中、去っていく恋人を引き止められず呆然とたたずむ姿がせつない。彼女は結局帰郷してしまうのだが、イクチュンの繊細な切り取り方で、スクリーンの中の東京は見違えるばかりの姿だった。東京生まれの東京育ちで、少々うみ疲れ気味な筆者には大変刺激的な作品だった。



6/16 チャ・ウンテク監督、イ・スンギのMV『恋愛時代/チングジャナ-友達だから』


 SSFF&ASIAでは25分未満の映像作品がノミネート対象となる。そこにストーリー性が認められればミュージックビデオも例外ではない。6/16にラフォーレミュージアム原宿で上映されたミュージックShort部門では、韓国で“国民の弟”として親しまれているイ・スンギの日本デビュー曲『恋愛時代/チングジャナ-友達だから』を見た。俳優でもあるイ・スンギはTVドラマ「僕の彼女は九尾狐(クミホ)」で、頼りないが可愛い弟分キャラで日本でもしっかりファンを増やしたようで、6/1には日本武道館公演を成功させたばかりだ。

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イ・スンギ

 ストーリーは、ミュージシャンの卵の男性(イ・スンギ)が、偶然出会ったバーテンダーの女性にひとめぼれし、あれこれと手を尽くして気持ちをつかもうするラブコメディ。甲斐あって二人はなかなかいい雰囲気になる。彼女への恋心を歌った「恋愛時代」という曲も出来上がり、続編のバラード「恋人だから」も完成間近で有頂天になるが、実は彼女には恋人がいた。事実を知ったスンギは「恋人だから」をどうするのか…。

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『恋愛時代/チングジャナ-友達だから』

 恋の三角関係という恋愛ドラマの超王道な設定に「人生から歌が生まれるまで」というストーリーがうまくはまっていた。人生で起きたことは、なかったことにはできない。理想通りに行かなかった恋をごまかすことなく歌い上げる展開は、はからずもチャン・グンソクの短編にあった「それでも人生を後悔しない」というメッセージに重なるところがあった。



6/26 キム・ソギョン監督『Anesthesia/隠された真実』


 横浜のブリリア ショートショート シアターは、本映画祭が10周年を迎えた2008年に横浜みなとみらいに開館したショートフィルム専門映画館で、日本に限らず世界の短編映画を上映している。未来のアカデミー賞作品や傑作を掘り出したい映画好きは是非足を運んでもらいたい。

 この日はアジア&ジャパン部門の『Anesthesia/隠された真実』を鑑賞。新入り看護師のジヒョンは、職場で医師が女性患者に麻酔を投与して強姦するのを目撃してしまう。隠し撮りのビデオを証拠に告発しようとするが、婦長や同僚は協力しない。苦しみ抜いた末にジヒョンがくだした決断は…。

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『Anesthesia/隠された真実』

 正義を貫くことがいつも美徳とは限らない。老かいな婦長は、表沙汰にしても被害者のためにならないとジヒョンを諭し、秘密裏に解決しようとする。告発をうながした被害者にも「あなたの正義感にはうんざり」と吐き捨てられてしまう。おぞましい行為への怒りと、それを見過ごしていく苦しみ。ジヒョンは肉体の痛みで自分を責めさいなんでいく。

 ジヒョンの決断は果たして正しかったのか? 単なる罪滅ぼしなのか、それとも美しい自己犠牲なのだろうか? 監督のキム・ソギョンから発せられる「あなたならどうするか」という問いかけに誰も正解を出すことはできないだろう。ジヒョンの戦いはまだ始まったばかり。内部告発における正義の苦闘を、短編ながらも真摯に扱った衝撃的な一作だった。



6/28 韓国トラベルショート


 ソウルで開催されているアシアナ国際短編映画祭で上映された「韓国トラベルショート」。韓国の魅力が感じられ、旅したくなる作品として、SSFF&ASIAでは2011年より特別上映している。今年は先に開催された「花開くコリア・アニメーション2012」でも上映された『City/街』を含む5作品だ。

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『City/街』

 キム・ヨングン、キム・イェヨン監督による『City/街』。「街はそこに住む人の集合体」とは二人の弁だが、物質的な束縛を一切排し、そこで暮らし働く人の形だけで表現されたソウルは、人の呼吸が街の呼吸そのものとなって、まるで大きな人間のようだ。この作品を見れば都会がコンクリートの無機質な場所とは思わなくなるかもしれない。

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『Changgyeong Park/追憶』

 チョン・ギハク監督『Changgyeong Park/追憶』のタイトルにある「Changgyeong Park」は、世界遺産にも登録されたソウルの観光地・昌慶宮のこと。夫の治療のため遠路はるばる鉄道でソウルにやってくる老夫婦。息子はソウルのスーパーの倉庫でバイト中の就職浪人で、次の面接に賭けている。ある時、父は医師から「治療する術がない」と言われてしまう。先が長くないと知った彼は「昌慶苑へ連れて行って欲しい」とせがむ。病気なのに電車で席を譲り、昌慶宮でなく昌慶<苑>だと言って聞かない頑固な父と、そんな夫をいたわる母、要領は悪そうだが両親思いの息子。家族の思いが投影された昌慶宮の風景が美しい。

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『Funny Games/ファニーゲーム』

 チョン・ジヒョン監督『Funny Games/ファニーゲーム』。大学の映画科で助教をしているバクスは、現代美術専攻の院生ソリを口説いている。バクスはソリのアトリエに連れて来られ、はしゃぎ合っているうちにソリの同僚が描いた絵を破いてしまう。その価値は500万ウォン。バクスはどうやって弁償するのか…。バクスが繰り返す「遊び心こそアート」というセリフは、彼が肖像画を描くほど尊敬しているチョン・ジヒョン監督(作中にも登場)のメッセージである。ラストでバクスが取った方法と、エンドロールで監督自らある有名な映画音楽をアコギでカバーするという「遊び」にはニヤリとさせられる。

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『A Scene at the Sea/父と息子』

 イ・ジェヒ監督の『A Scene at the Sea/父と息子』は、息子と父親が営む海辺の食堂が舞台。盲目の父に代わって店を切り盛りし、網を仕掛けて漁をする息子は、目が見えなくても海への情熱を失っていない老父が心配。目を離すと一人で漁場に出て行ってしまう父に対しては、「困る」というより「いい加減にしてくれ」といった思いを抱いている。しかし、そんな彼が雨の中、懸命に魚を拾う父の姿に突き動かされて一計をめぐらす展開にほっとする。セリフもほとんどなく、二人のやりとりだけで見せる静かな作品だ。何よりも息子が作っていた海鮮鍋がとにかく美味しそうなのだ。冒頭「魚の鍋は大好物だ」と客が言うが、きっと彼の料理は一級品に違いない。この食堂に行きたい!と思わされた。

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『Etude, Solo/ピアノ・エチュード』

 最後はユ・デオル監督『Etude, Solo/ピアノ・エチュード』。子どもの青空リサイタルで使うピアノの調律を依頼された調律師のファン。訪ねた先にはかつて共にピアノを練習していた幼なじみの女性がいた。植物の成長記録をいそいそとつけ、風体もあまりイケてるとはいえないファンだが、ピアノの腕は一流。そんな彼がなぜピアニストとして第一線で活躍していないのか。ほろ苦い思い出がスクリャービンのエチュードとともによみがえる場面がとてもあざやかだ。アドレス帳に「オレに電話するな」で登録している上司からの電話、要領を得ないお客との会話、調律を邪魔しにきた子どものリコーダーの音といった不協和音が笑いを添えていた。



おわりに


 映画祭中、「ショートフィルムは人生の核」という言葉を聞いた。今回見た作品群には、長編映画のような大がかりなものはないけれど、だからこそ誰かの人生の一部とシンクロするものがあるのだろう。

 映画祭は終わったが、ブリリア ショートショート シアターでは7/1から「観客と映画祭スタッフが選ぶイチオシプログラム」が開催されている。今回、ご紹介することはできなかったが、観客がもう一度見たい作品を選ぶ「オーディエンスアワード アジアインターナショナル部門/ベストアクターアワード」にチョン・ヨンギョン監督の『Mom came over the Sea/母のぬくもり』が選ばれた。ぜひ横浜まで足を運んで欲しい。



ショートショートフィルムフェスティバル&アジア
 http://www.shortshorts.org/

ブリリア ショートショート シアター
 2012年8月1日(水)~8月31日(金)、「映画祭受賞ショートフィルムプログラムC」で『Mom came over the Sea/母のぬくもり』を上映
 http://www.brillia-sst.jp/


Reporter's Profile
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。イ・チャンドン監督の『オアシス』で韓国映画に目覚めました。


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