Interview 『神の眼の下(もと)に』俳優オ・グァンノク、キム・ヒョヌ プロデューサー
Text by 井上康子
2014/10/22掲載
1990年代後半から長く作品を見ることができなかった、イ・ジャンホ監督の19年ぶりの長編だが、1980年代の『風吹く良き日』『低きところに臨みたまえ』に見られた強い熱情が変わらず健在だ。残念ながら監督の来福はなかったが、イスラム過激派に拘束される宣教師を演じたオ・グァンノクとプロデューサーに話を聞くことができた。

左からプロデューサー、オ・グァンノク
インタビュー
── 心の傷からの苦悩やだらしなさから、自分のアイデンティティを取り戻して喜びに溢れるまで、一人の人間のさまざまな姿を演じ切っていた。監督とは以前から交流があったのか? 監督が演技力を高く評価して主演を依頼したと聞いたが。
グァンノクさん:監督の『馬鹿宣言』『風吹く良き日』がもともと好きだった。初めて会ったのは全州国際映画祭で、監督のデビュー作のタイトル『星たちの故郷』を店名にし、同作品のポスターも貼ってある酒場だった。その後、2007年に公開されたイ・ムヨン監督『父とマリと私』の試写会で会ったが、出演した私の演技を評価してくれていた。それから、堤川(ジェチョン)国際音楽映画祭で会った時に「この作品に主演してほしい」と言われたが、その後3年間連絡がなかった。何か問題が生じて映画化できなくなったのかと思っていたら連絡をもらえた。
プロデューサー:映画を撮ろうとはしていたが、3年間いろいろ事情があって開始できなかった。
── 主人公ヨハンは集団に属さず一人で活動している通訳宣教師と言っていいのか?
グァンノクさん:ヨハンはもともと医療奉仕の宣教活動をしようとしていた人物。12年前にイスラム過激派に拉致されたことを契機に自分のアイデンティティを失ってしまった。韓国に妻子がいるのに戻らず、イスマル(作品中の架空の国)に留まり、観光ガイドをしたり宗教団体をレストランに案内して店からコミッションを取ったりするなどして生活している。宣教師という名前の詐欺師のような人物。
── 撮影現場の監督はどのような人か?
グァンノクさん:監督はもうすぐ70歳になるが情熱あふれる人だ。情熱的でリーダーシップを取れ、まさに「青年将軍」だ。
── 棄教を迫られて聖書を切り裂くシーンは見ていて主人公の苦しみが伝わってきた。監督からはどんな説明があったか? 演じるときはどんな思いがあったか?
グァンノクさん:監督はいろいろ説明してくれたが最終的には任せてくれたと思う。宗教は持っていないが聖書を傷つけるというのは嫌なことだった。人はみな平和を求めている。人間は本質的には純粋なのに信仰のための戦いがある。寂しく悲しいことだが、それが「地球の風景」だ。そういうことを心に留めて演技した。
プロデューサー:敬虔なクリスチャンである監督が遠藤周作の小説『沈黙』にインスピレーションを得て構想した作品だが、宗教的な側面だけでなく、アイデンティティを失った現代人の姿を描いているという側面も見てほしい。宗教を持っていないオさんが演じたことでバランスが取れ、一般の観客も見てくれて良い評価をしてくれた。
── 撮影はカンボジアで行ったそうだが、期間はどの位か? いろいろたいへんだったのではないか?
プロデューサー:監督はインドネシアで撮影したいと主張したが、作品内容からイスラム教徒の多いインドネシアでの撮影はトラブルが生じる危険性が高く、私がカンボジアでの撮影を勧めて最終的に監督も承諾した。
グァンノクさん:現地で1ヶ月半撮影した。アンロンベンというタイとの国境地域で、タイとの紛争が撮影1年前に起きていて、危険性を感じる地域だった。蒸し暑くて気温が40度を越えることもあり、ハエも多く衛生状態が良くなかった。宿の天井にはトカゲが行ったり来たりして、鳥のようにチチチと鳴いていた。落ちて来たら怖いと気になってなかなか寝付けなかった(笑)。野外で調理してくれる人がいたが、食べ物の管理がきちんとできてなくて、みんな下痢していた。たいへんな悪条件の中での撮影だった。
プロデューサー:キリスト教・海外宣教奉仕団のメンバーで長老を演じたパク・ヨンシクさんは滞在中のウィルス感染のため、遺憾なことに撮影終了1ヶ月後に敗血症で亡くなった。
── 現地滞在が長いという設定で現地の言語を流暢に話していたが、習得に苦労したのではないか?
グァンノクさん:クメール語を韓国で1ヶ月、個人の先生について勉強し、カンボジアにも他の俳優より1週間早く入って学習した。台詞を録音してカンボジアに行ったが、監督が現場で台詞をどんどん変えるので覚え直さないといけなくて、毎日2・3時間しか睡眠が取れなかった。
プロデューサー:プロ中のプロだと思った。普通だったら出演契約後に言語習得の話題が出るのに、契約前に「クメール語の先生を付けてほしい」と言われた。他の俳優が休んでいても、明け方までかかって台詞を覚えていた。そばで見ていて本物の俳優だと思った。
── 長く映画界で活躍し出演作がたいへん多く、60作品以上ある。出演作で最も印象に残っている作品は?
グァンノクさん:デビュー作『眼を閉じれば見える世界』と、多面的に人を描いた本作が最も印象的な作品だ。
取材後記
出番が少ない場合も神秘性を伴った強い印象を残すのが俳優オ・グァンノクだ。彼の神秘性は天から届くような独特な声の響きに寄るところが大きいのではないだろうか。生で彼の声を聞くことができ、その声量の豊かさにも驚いた。詩を書く人だと聞いていたが、宗教と平和と戦争の「地球の風景」について語る彼の言葉はまさに詩だった。キム・ヒョヌ プロデューサーは日本に留学経験がある人で、日韓の映画界の懸け橋として今後も活躍するだろう。

ティーチインの模様(写真提供:映画祭事務局)
アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014
期間:2014年9月12日(金)~9月21日(日)
公式サイト http://www.focus-on-asia.com/
特集 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014
Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014 ~日常を離れて映画を凝視する
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