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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014 ~日常を離れて映画を凝視する

Text by 井上康子
2014/10/12掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014」(以下、アジアフォーカス)が9月12日から10日間、福岡市内会場で開催され、18ヶ国・地域からの39作品が上映された。韓国からは『慶州』『神の眼の下(もと)に』の上映・ゲスト来福があった。また、例年アジアフォーカス協賛企画として開催されている「台湾映画祭」との共催による「台湾映画大特集~台湾電影ルネッサンス2014~」では、『郊遊<ピクニック>』『KANO~1931海の向こうの甲子園~』など8作品が上映された。いずれの作品も上映前に長い行列ができ、会場はまさにお祭りの賑わいを見せた。

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『慶州』(韓国、2014年)


「存在することの困難さ」を見せる


 「変化するアジアの定点観測地」を自認するアジアフォーカスの梁木靖弘ディレクター曰く、今年の公式招待15作品に見出した共通性は「存在することの困難さ」。イラン映画『予兆の森で』は上映時間134分1カットの長回しの間、登場人物はひたすら環状の空間を彷徨い、逃げ場はないという前衛作品。今年「最も挑戦的な作品」と梁木ディレクターが絶賛し、若い観客からはシャーラム・モクリ監督に撮影方法についての熱心な質問があった。同じくイラン映画で、リアリズムに徹した『絵の中の池』は軽度の知的障害をもつ両親と、両親を恥じて他家の子になろうとする少年との葛藤を描いている。彼らの困難を上から目線で強調せず、いずれの家庭も困難と希望を抱いていることを見せる、深みのある作品だった。

 中国第6世代の旗手ロウ・イエ監督の最新作『ブラインド・マッサージ』はマッサージ院を舞台に視覚障害をもつ男女の愛のもつれを描く。マッサージ院という閉ざされた空間に、見えない状況を重ねて、これでもかと閉塞感を高める手腕はさすがだ。

 自己中心的な大人の世界で、孤軍奮闘の一人暮らしをする少年を描いたカザフスタンからの『ひとり』、出稼ぎに出して行方不明になった少年を探す父を描いたインドの『シッダルタ』は、いずれも困難の果てに希望を感じさせてさわやかな余韻を残した。

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『タイムライン』(タイ、2014年)

 韓国映画と関係深い作品、類似性を感じた作品もあった。タイの『タイムライン』は、韓国で1990年代に大ヒットした『手紙』のタイ版リメイク『レター 僕を忘れないで』の続編という位置づけの泣けるメロドラマ。親世代は手紙、子ども世代はSNSで愛のメッセージを伝える。フィリピン『サピ』ではテレビ局職員が視聴率を得るために悪魔が憑依した女性の映像を不正な手段で流し、テレビ局が超常現象に見舞われる。日本で公開中の韓国『テロ,ライブ』と似ているが、フィリピンが土着的なカトリック信仰を、韓国が国家権力による被害者を素材にしているところにお国柄の違いが伺える。


観客の人気投票による受賞作は共感できる作品


 公式招待15作品中、観客による人気投票で1位になり「福岡観客賞」を受賞したのは、アジアフォーカス常連で、自国についての作品を取り続けているインドネシアのリリ・リザ監督作品『ジャングル・スクール』だった。スマトラ島の森で暮らす子どもたちに教育支援を行ってきた実在の女性を主人公に、彼らの暮らしを尊重する支援とは何かを強く訴え、多くの観客が素朴に共感できる作品だった。

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『ジャングル・スクール』(インドネシア、2013年)

 そして、人気投票第2位の「熊本市賞」は日本の『福福荘の福ちゃん』が受賞。お笑いトリオ森三中の大島美幸が男装してオッサンを演じ、モントリオールのファンタジア国際映画祭で最優秀女優賞に輝いた作品だ。他者とのコミュニケーションの難しさを笑いに昇華させていることに感動した。藤田容介監督が「豪快だけど心に闇を抱えている、といった両方の面を持ち合わせている主人公を演じるのはこの人しかいない」と主人公同様に実際にいじめにあった経験がある大島が演じることを想定して脚本も書いた意欲作。老若男女が楽しめる作品で会場は家族連れの観客も多かった。


韓国映画はチャン・リュル監督新境地作、イ・ジャンホ監督19年ぶりの長編


 チャン監督作品『慶州』は、かつて見た春画のことを思い出し、衝動的に慶州に訪れた主人公のゆったりとした旅の模様が描かれている。慶州の古墳と春画を通奏低音として、死と生、過去と現在がファンタジックに交錯していく。監督はマイノリティの視点で作品を撮り続けてきた人だが、新境地を開いている。パク・ヘイルも時に不思議な行動を取る主人公を演じ、新しい顔を見せてくれている。

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『神の眼の下(もと)に』(韓国・カンボジア、2013年)

 1980年代の日本で最も多く上映されたのはリアリズムの巨匠イ・ジャンホ監督作品ではないだろうか。筆者の韓国映画事始めも監督の『風吹く良き日』だ。監督19年ぶりの長編『神の眼の下(もと)に』は韓国人のキリスト教・海外宣教奉仕団がイスラム過激派に拉致され、棄教か死かという究極の選択を迫られる人間ドラマ。オ・グァンノクが苦悶の果てに自己を回復する宣教師を熱演し、感動を誘った。韓国2作品は大人気でいずれも初回上映満席だった。


台湾映画大特集:活況を呈する台湾からの多様な作品


 2008年『海角七号 君想う、国境の南』の登場以降ヒット作が続き、活況を呈している台湾映画界からの多様な作品はいずれもパワーに溢れていた。

 映画祭のオープニング作品に選ばれた『ロマンス狂想曲』は中国人プロデューサーと台湾人監督コンビが中国大陸と台湾の文化の違いをコミカルに見せた。『山猪(いのしし)温泉』は台風被害からの復興を、『天空からの招待状』は開発による自然破壊を描いているが、いずれも自国への強い想いと誇りに満ちていた。

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『ロマンス狂想曲』(台湾、2013年)

 『KANO~1931海の向こうの甲子園~』は日本統治時代の台湾から甲子園に出場した野球部の活躍を、実話を基に描いて大ヒットした作品で、日本でも2015年1月に公開が決まっている。台湾人(漢人)、先住民、日本人からなる野球部員と日本人監督が互いを信じ、自分の力を出し切ろうとする姿が何ともまぶしかった。マー・ジーシアン監督、俳優の永瀬正敏、坂井真紀による舞台挨拶とトークライブには大勢の観客が詰めかけ、「アジアで上映されること、ここにいる皆さんと作品を共有できることをうれしく思う」という監督の挨拶に熱い拍手が沸き起こった。

 『郊遊<ピクニック>』上映は、異才ツァイ・ミンリャン監督が引退作と表明したことに加え、監督と、監督作品で主人公を演じ続けたリー・カンションが来福したことが重なり、遠方からの観客も詰めかけた。リー演じる父が住みかにしている廃墟はまるで彼岸のようだ。そこで、父は、母に連れ去られた娘が人形に見たてていたキャベツをむさぼり食べる。彼の絶望と孤独の深さに圧倒される。そのシーンが14分も続くなど、長過ぎるという指摘はよく受けるそうだが「長回しのシーンを凝視していると音や色にも注目するようになる。ストーリーを追うこと、理解することを重視した商業的な作品と私の作品は異なる。凝視して感じるということが映画で重要なことだ」と言葉をほとばしらせる監督に司会の梁木ディレクターも大きく肯いた。引退については、含みのある発言だったようで「次はリーのコメディ作品を撮りたい」と旺盛な創作意欲をのぞかせた。

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ツァイ・ミンリャン監督(写真提供:映画祭事務局)

 慌ただしい日常生活から離れて、スクリーンを凝視し続け、ゲストの話に刺激を受けた。映画祭がもたらしてくれる至福の時間を過ごせた。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014
 期間:2014年9月12日(金)~9月21日(日)
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

特集 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014
 Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014 ~日常を離れて映画を凝視する
 Interview 『慶州』チャン・リュル監督、俳優パク・ヘイル、キム・ドンヒョン プロデューサー
 Interview 『神の眼の下(もと)に』俳優オ・グァンノク、キム・ヒョヌ プロデューサー

Writer's Note
 井上康子。台湾の監督が『KANO』で日本統治時代にも台湾の人々と日本人の良い関係があったことを描いてくれて感謝。日韓の人のつながりを描いた『ザ・テノール 真実の物語』『ふたつの祖国、ひとつの愛 ─イ・ジュンソプの妻─』もとても期待している。


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