Report 福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2014 ~8月は釜山から6作品、9月はミン・ビョンウ監督の長編を招待
Text by 井上康子
2014/9/7掲載
福岡インディペンデント映画祭2014(以下、FIDFF)が、8月7~12日に福岡市内で開催された。今回は期間が二期に分かれており、9月13、16、18~20日にも「福岡インディペンデント映画祭2014 おかわり」が開かれる。若手映像作家の交流と育成を目的としているため「コンペ作品をすべて上映する」というのがFIDFFのコンセプトで、6周年を迎えた今年は8月・9月の期間中にコンペ部門124作品に招待作品を加えて148作品が上映される。招待作品は国内に留まらず、2009年の第1回から交流を続けている釜山・韓国の作品もあり、8月には昨年のメイド・イン釜山独立映画祭(以下、MIB)優秀作品上映が行われ、9月にもミン・ビョンウ監督作品上映&トークが予定されている。昨年の総観客数2,471名に対して、8月分のみの観客数が2,303名で、総観客数は昨年を大きく上回る見通しだ。メインの上映会場は常に満席に近い状況。若い観客が増え、上映後のティーチインも例年以上に活発だった。

コンペ授賞式(写真提供 FIDFF事務局)
SFコメディが目立った受賞作
8月は今年の受賞作が上映された。FIDFFではコンペ応募者を奨励するために、全作品から選ばれた最優秀作品賞、上映時間の長さで分けられた部門毎のグランプリの他に、美術賞、技術賞、ドキュメンタリー賞、コメディ賞など多数の賞が設けられている。最優秀作品『死神ターニャ』(塩出太志監督)は「ハンバーグを食べたい」という動機で人間に乗り移った死神が主人公で、感情を持たない彼と人間との交流をパワフルかつコミカルに描き、独自の存在感を見せた。他に、お尻の毛によって人が連結されるという怪奇現象を描いた20分部門グランプリ『ケツゲツナガル』(小尾信生監督)、コメディ賞『彼女の告白ランキング』(上田慎一郎監督)もパワフルなSFコメディだった。
ジャンル的には対極に位置するシリアスな社会派作品、90分部門グランプリ『橙と群青』(赤羽健太郎監督)は震災で生き残った人の心の傷の深さをヒリヒリと感じさせた。企画賞『ひこうき雲』(柴口勲監督)は中学生役の子どもたちの清潔感と作品の抒情性に好感が持てた。時間の都合ですべての受賞作を見ることができず、高校のイジメをエンターテイメント性を持って作られた準最優秀作品賞『独裁者、古賀。』(飯塚俊光監督)などを見逃したのは残念だった。
釜山から招待の6作品:5作品は女性監督作
第1回から釜山・韓国とは作品を相互に上映するという形で交流を続けており、今年も昨年のMIBで評価が高かった6作品が招待上映された。うち5作品は女性監督の作品で、まだ女性監督の少ない韓国映画界での女性の進出が伺えた。女性監督作品には釜山の公立映像芸術高校生の作品もあった。映画の産業化に力を入れる韓国で、すでに高校から専門教育が行なわれていることに驚くと同時に高校生監督の力量に舌を巻いた。その作品『その度に』(キム・ミンギョン、ファン・ジヨン監督)は、映像芸術高校を舞台に「映画のために好きな男の子を振ったという複雑な思いをシナリオにしろ」と教師に葉っぱをかけられ、執筆に苦戦する生徒を中心に描いたさわやかな青春ドラマで、学校生活の様子も垣間見ることができた。

釜山からのゲスト(写真提供 FIDFF事務局)
他の4人の女性監督作品も心理面を描くことを重視しているという共通性はあるが、ジャンルや表現方法は多様であった。
『どなた?』(チョン・ジュヨン監督)
新興宗教勧誘のために若い女性が見知らぬ中年男性宅を訪問する。家族との絆が強い男性を通して彼女の孤独感を浮き上がらせるというアイデアが秀逸だった。
『巻き戻し』(クァク・ウトゥム監督)
監督自身が登場し、形成手術後の自分の顔への違和感を語る異色作。
『ねこ』(ソ・ハヨン監督)
猫を媒介にして、女子高生とおじさんの交流を描いたほのぼのとした作品。
『わたしとわたしの距離』(ムン・チャンヒョン監督)
映画人として自立できるかの不安を含めて、ドキュメンタリー映画をなかなか作れない自分を描いたドキュメンタリー。
唯一の男性監督による『マートの横の市場』(キム・デファン監督)は、保守派の母と革新系の息子による政治的対立を、大統領選を通して見せつつ、大型スーパーマーケットの進出で、母が市場の店をたたんでスーパーで働かざるを得なくなるまでを描いた骨太の社会派作品だった。
成長したいという若い作り手を支える
今年、最も感動した作品は、ドキュメンタリー賞『桃と小桃とこもも丸』(新部貴弘監督)だった。鎌倉で漁師を志した女性が見習いから漁師になるまでの2年間を記録したもので、海の美しさ、海と共に生きる猟師の日常を描いてすばらしかった。何より、一人前の漁師になりたいという女性の思いと重ねて、映画人として成長したいという監督の強い意志に触れて胸が熱くなった。本作は昨年のゆふいん文化・記録映画祭で最高賞の松川賞を受賞したが、今回FIDFFでの上映のために監督は再編集を行い、より優れた作品になったと評されている。
例年、受賞作品講評を行う犬童一心監督はFIDFFで出会った渡部亮平監督(2012年最優秀作品賞受賞者)と多くの作品を共作し、彼の才能に助けられていると言う。成長したいと願う若手に、発表と出会いの場を作っているのがFIDFFの活動だ。また、新たな才能を発掘し、成長の手助けをしていってほしい。そして、釜山・韓国の作品を今後も見せてほしい。
「福岡インディペンデント映画祭2014 おかわり」では、引き続きコンペ部門作品とFIDFF2013最優秀・グランプリ作品、招待作品が上映される。9月13日(土)には、FIDFF2011でiphoneで撮った『Stray Cats』を見せてくれたミン・ビョンウ監督が再びiphoneで撮った長編『CATS AND DOGS』の招待上映、監督によるトーク、スマホムービーワークショップが行われる。『CATS AND DOGS』はFIDFF韓国プログラマーで本作の字幕も手がけた大塚大輔さんが「ポップなラブコメの皮をかぶった、監督の強い気持ちと才能がよく表れた必見作」と絶賛の作品だ。19日(金)は食肉処理のドキュメンタリー『ある精肉店のはなし』招待上映&監督トーク、FIDFF2014最優秀作品『死神ターニャ』ほかを上映予定。
福岡インディペンデント映画祭2014+おかわり
期間:2014年8月7日(木)~8月12日(火)、おかわり9月13日(土)・16日(火)・18日(木)~20日(土)
会場:福岡アジア美術館、中州大洋メディアホール
公式サイト http://fidff.com/
Writer's Note
井上康子。福岡インディペンデント映画祭2014では犬童一心監督による受賞作品講評にも参加した。監督や俳優ゲストのトークで作品について深く知ることができた上に犬童監督による鋭い講評が聞け、普段の何倍も映画を楽しめた。
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