Interview 日韓合作映画『風の色(仮題)』クァク・ジェヨン監督 ~演技力でなく、自分なりのスタイルを持っている俳優を選ぶ
Text by 加藤知恵
2014/8/30掲載
8月24日(日)大手町サンケイプラザにて、2015年制作・公開予定の日韓合作映画『風の色(仮題)』の企画概要説明会が開かれた。同イベントでは本作を演出するクァク・ジェヨン監督の『ラブストーリー』の上映とトークショーもあわせて行われ、多くの映画ファンが会場に集まった。

クァク・ジェヨン監督
クァク・ジェヨン監督といえば、日韓両国で爆発的なヒットを記録した『猟奇的な彼女』や『僕の彼女を紹介します』、綾瀬はるか主演の日本映画『僕の彼女はサイボーグ』などの作品で日本人にも馴染みの深い監督である。近年は中国での活躍も目覚ましく、新作の中国映画『我的早更女友』は中国国内2万3,000スクリーンという規模で今年10月に公開予定とのこと。そんな人気監督の意欲作であるだけに、制作陣営によるプレゼンテーションからもただならぬ熱意と意気込みが伝わった。
『風の色(仮題)』の構想は、クァク監督が2002年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭へ参加した際に北海道の街と自然に惹かれ、ぜひ北海道で映画を撮りたいと思ったことに始まる。その後、監督は多忙なスケジュールの合間を縫って2010年12月に来北し、1ヶ月の滞在期間中にロケハンティングとシナリオ執筆を行ったという。そのストーリーは、東京に住む主人公が恋人を亡くし、恋人が生前に語った「自分とそっくりな女性が北海道にいる」という言葉の真相を確かめるために北海道を訪れる。すると実はその女性も主人公そっくりの恋人を事故で亡くしたばかりであり…というドッペルゲンガーも絡むミステリアスでファンタジックな内容だ。
トークショーでは、監督の個性ともいえる魅力的な女性キャラクターやファンタジックなストーリー展開についても話が及んだ。「きっとご自身が素敵な恋愛をたくさんされたから思いつくのですね」というコメントに対し、「本当に恋愛経験が豊富な監督は、むしろ悲恋物や複雑なラブストーリーを撮りたがるものだ。自分は経験が少ないからこそ、ファンタジックなシチュエーションに憧れて想像を膨らませているんだと思う」と若干謙遜気味の監督。また「監督にとって泣ける話はどのようなものですか」という質問には、「人への愛が感じられるもの。泣かせようという意図的な表現ではなく、悲しさと楽しさといった異なる感情が交差するところに涙が生まれる」と、独自の理論も語ってくれた。

トークショーの模様。左からファン・ヨンスン プロデューサー、監督、司会の西田和昭氏
『風の色(仮題)』のクランクインは2015年2月頃の予定だが、それに先立ち主役の女性キャストの公開オーディションも行われる。我こそはという方(プロ・アマ問わず)はぜひ挑戦して第二のチョン・ジヒョンや綾瀬はるかを目指して頂きたい。
『風の色(仮題)』一般公募オーディションのエントリー・ページ
https://apie.jp/movie/kazeiro/entry/
トークショーを終えた監督に、『風の色(仮題)』の話題を中心にインタビューを行った。
── 本作は実際に北海道を旅する中で、神秘的な景色からインスピレーションを得て、脚本を練られたと伺いました。これまでも風景のイメージを基に作品を作られたことがありますか?
デビュー作の『雨降る日の水彩画』は、韓国映画に初めて韓国の草原が登場した作品です。私はその場所を見た時、アイディアというよりは感情面でのインスピレーションを感じました。そしてこういう場所でこんなドラマが起きたらいいなと具体的な場面を想像し、ストーリーを構成しました。
── 『猟奇的な彼女』のようなラブコメ作品にも風景から得たインスピレーションが生かされていますか?
あの作品は少し違いますね。ストーリーが先にできあがって、それに合う風景を一生懸命探しました。あの一本松も、国内のあらゆる路線の電車に乗って回って見つけたんです。今では有名な場所になりましたが。私は感情に訴える力のある景色であってこそ、ロマンティックな演出が可能だと思っています。そういう景色は少ないので、背景となる場所は本当に大事です。その景色が放つイメージによって、場面が美しく見えたり悲しく見えたりもしますし。
── シナリオも北海道に滞在して書かれたそうですが、舞台となる場所でシナリオを書かれることも多いのですか?
滞在することは少ないです。現地でリサーチをしたり、インターネットの情報を参考にすることはよくありますが、その土地にいながら執筆することはほとんどありません。今回の北海道はよく知らない場所だったので、実際に写真を撮ったりして雰囲気を確かめながら書きました。
── では普段は事務所や家にこもって一生懸命書かれるわけですか?
事務所では書きませんね。いつもは生活環境から少し離れた、コンドミニアムのような完全に集中できる場所で書きます。家では絶対に書きません。家の中だとテレビやインターネットなどの誘惑が多すぎて、つい気が散ってしまうので(笑)。
── 北海道が舞台の作品といえば、韓国でも人気の高い岩井俊二監督の『Love Letter』という日本映画がありますが、この作品を意識されたりはしましたか?
同じ北海道が舞台で韓国でも有名な作品なので、意識しないわけにはいかないですね。実は以前に、岩井俊二監督と一緒に北海道を舞台にしたラブストーリーを撮ろうと話していたことがあるんです。ちょうどその時『風の色(仮題)』が構想段階にあったので、シノプシスを話したら、『Love Letter』と少し似ているところがあると言われました。現在のシナリオはその内容から随分変わっていますが。
── お二人で作られた映画もすごく見たいのですが、今後別の作品でご一緒される予定はありませんか?
今でもそうしたい気持ちはあって、幾つかプロジェクトの話もあがっています。ただ彼もいろんな国を渡り歩いていますから、なかなか頻繁に連絡を取るのが難しくて。中国でも撮影していましたよね。
── 本作は先に原作が漫画化されてインターネットで公開されていますが、原作と漫画、脚本の内容はほぼ同じですか?
漫画は原作から大分変わっています。漫画という媒体は表現方法が特殊ですから。脚本も原作をもとに脚色し直しているので、漫画の内容とは違います。
漫画版『風の色』(林光黙 BY YLAB 著/原案 クァク・ジェヨン)
http://club.shogakukan.co.jp/book/detail-book/book_group_id/12/
── 漫画の内容も監督が監修されましたか?
前半はチェックしましたが、後半は見ていません。漫画の場合は原作をモチーフに、比較的簡単に手を加えて簡易なプロットで展開しているので、映画とはまた別のものだと思っています。
── 韓国でも翻訳版のウェブトゥーンが公開されましたが、何か反応を聞かれましたか?
日本の場合と似ていますね。最初の頃の反応はとても良くて、連載を楽しみにする声も多かったのですが、話が進むにつれて複雑で難しいという感想が出てきて若干人気が落ちてしまったようです。その代わりにマニアやオタク層が生まれて、そういう人たちから支持されました。ものすごく大衆的というよりは、少数のオタク層に人気のある作品だと言えます。
── キャストの決定はこれからですが、過去のインタビューで、主役のイメージは蒼井優さんのようなミステリアスな魅力のある方とおっしゃっていましたよね。それは今も変わりませんか?
蒼井優さんは好きですし、もちろん一緒に仕事ができれば嬉しいですが、どうでしょうね。彼女が公開オーディションに参加してくれるのかどうか(笑)。彼女も含めて、今は色んなタイプの俳優と会ってみたいと思っています。
── キャスティングの際にいつも一番重視されるポイントは何ですか?
イメージが大事ですね。演技力ももちろん必要ですが、その人がどんなイメージを持っているかがもっと重要です。演技力のある人は自分の持つイメージをよりうまく魅せられる点で有利なわけで、演技力そのものが大事だとは思いません。最近も韓国で『時間離脱者/시간이탈자』という作品のオーディションを何度も行いましたが、結局のところ演技がすごく上手な俳優というのは必要ないんです。上手な人はたくさんいますが、みんな同じ演技で似たようなスタイルに見えて、正直見飽きてしまう。最終的に演技力は少し劣っても、自分なりのスタイルを持っている俳優を選びましたね。
── ちょうどその作品のキャスト(イム・スジョン、イ・ジヌク、チョ・ジョンソク)が決定したというニュースを見ました。来月から撮影に入られるそうですが、準備は万全ですか?
キャストは全て決定しました。一番志望者の多かった悪役が最後まで残っていましたが、新人の俳優に決まりました。
── その作品も楽しみにしていますので、ぜひ日本でも早い公開をお願いします。
私もそうしたいです。私の映画は韓国人だけの情緒に合うような作品ではないので、日本や中国ででも制作できるのだと思います。韓国固有の文化や歴史の理解が必要なわけでもないし、どの国の人でも共感できるストーリーではないかと。この『風の色(仮題)』についても同じことが言えます。
── 中国映画も監督されていますが、国ごとにシナリオの書き方や演出方法を変えたりはされますか?
意図的に変えるというよりは、俳優の力に頼るところが大きいです。言語が異なるために自分がその台詞の感情を完全に理解できない時もありますし。だからこそ優秀な俳優と一緒に作り上げることで、理解の及ばない部分をカバーしてもらっていると感じます。中国でも素晴らしい俳優の力を借りて、そのように撮影しています。
── 中国の現場の雰囲気はどうですか?
映画の現場というのはどこも似たところはありますが、コミュニケーションを取るのが日本よりも難しいという印象はあります。日本人のスタッフは監督にたくさん質問をして自分の考えと相違ないかを確認してくれますが、中国の人はあまり聞かずに行動します。だから違っていたとしてもそのまま進んでしまう。「なぜこうしたの?」と聞いても、「そう思ったから」とか「今までもこうしてきたので」というような返事が来ます。そこで反省するよりは、違うなら今から切り替えればいいという考え方なんです。
── 日本の俳優に対してはどのような印象をお持ちですか?
一言で言えば監督を困らせないスタイルですね。すごく一生懸命で監督の描くイメージや要求にうまく対応してくれるし、監督のことを敬って従ってくれます。中国では逆に監督が俳優を敬わなければいけなくて。中国の俳優は自分の意のままに進めてしまうので大変です。監督とは名ばかりのもので、俳優が制作側に「監督の言いなりになるな」なんて言ったりもしますから(笑)。そういうシステムなんですよ。
── 日本映画『僕の彼女はサイボーグ』では監督以外、俳優もスタッフも全て日本人という環境でしたが、『風の色(仮題)』では韓国人スタッフも参加されるそうですね。前回とは少し現場の雰囲気が変わるのでは?
韓国人スタッフは撮影や照明担当の数名だけで、他は全て日本人の予定です。海外での撮影で一番苦労するのは、制作面の問題よりも、その国の撮影機材とその技術者を扱うことなんです。韓国の物とは違いますから。予算を抑えるという意味でも、今回はこれまで一緒に仕事をしてきた韓国人スタッフに協力してもらうのがベストだと考えました。説明や機材に慣れることに余計な時間がかからずスムーズですしね。
── 日本や中国についてお話ししてくださいましたが、脚本を担当された『デイジー』の舞台はオランダですよね。アジアに限らず、ハリウッドやヨーロッパでの制作も考えていらっしゃいますか?
実はハリウッドに進出する機会は以前にもありました。撮影の都合がつかず断ってしまいましたが。作品名はまだ言えませんが、最近も私の作品をハリウッドでリメイクしようという動きがあります(『猟奇的な彼女』は既にリメイク権を売却)。ハリウッドでの新作制作も念頭にはありますし、一緒に作品を作りたいという話があればどこの国でも行きたいですね。
『風の色(仮題)』
監督 クァク・ジェヨン 出演 未定
2015年制作・公開予定
公式サイト https://apie.jp/movie/kazeiro/
Writer's Note
加藤知恵。「健康管理やストレス解消のためにしていることは?」と尋ねた際、「何もできていませんよ」と笑いながら、おもむろにカメラを取り出して筆者を撮り始めた監督。筆者が慌てていると、「写真を撮るのが好きなんです。写真は日記帳のようなもので、いつ誰とどこにいたのか記憶の代わりになるから」と、札幌の美しい風景写真を見せて下さいました。
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