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Interview 『サンシャイン・ラブ』チョ・ウンソン監督 ~「負け組」こそ共感してしまう、大人のラブストーリー

Text by mame
2014/4/24掲載



 第9回大阪アジアン映画祭で上映された韓国映画は『ローラーコースター』『友へ チング2』『サンシャイン・ラブ』の3本。中でもこの『サンシャイン・ラブ』は一番地味な作品ではないでしょうか。ところが、主演ふたりの自然な演技、韓国映画には珍しいほど細やかなストーリー展開、絶妙にミックスされたファンタジー場面の多彩さに惹きこまれ、いつしか一番のお気に入りの作品となっていました。チョ・ウンソン監督はこれが記念すべき長編初監督作品。ゲストとして来阪された際に、独占インタビューを行いました。

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チョ・ウンソン監督

── 映画、楽しく拝見しました。私はこの映画を2回観て、2回とも涙が出てしまうぐらい気に入ったのですが、まずは作ったきっかけを教えてください。

本当ですか?(笑) ありがとうございます。当初はコンペ用に別の脚本を作っていたのですが、完成させるのがなかなか大変で、気分転換に書いてみた短編が『サンシャイン・ラブ』でした。私と友達の恋愛経験を基にしたもので、80%は実話です。周りからもこちらの評判が良くて、とりあえず2本ともコンペに出してみたのですが、入選したのは『サンシャイン・ラブ』の方でした。ところが、そこから完成までには5年かかりました。入選したコンペが国や支援団体主催だったらまた話は違うんですが、そのコンペは企業主催のものだったので、賞をもらってから3年間は著作権の関係で、脚本を監督の自由にはできないんですね。で、3年後に改めて、釜山の独立映画祭に出してみたところ、賞を戴いたのですが、賞金が映画化するのに考えていた予算の10%しか出ませんでした。それでもその映画祭の賞金の最高金額ではあったのですが。そこからまた資金を集めたりして、ようやく完成したのが去年の事です。

── オ・ジョンセとチョ・ウンジという、いわゆる美男美女ではない2人が主役というところが大いに共感を呼んだと思うのですが、キャスティングについても教えてください。

当初は予算もなく、インディペンデント映画専門の俳優を考えていたのですが、たまたま会社から2人を紹介していただいた事がきっかけでした。2人とも商業映画でよく名を知られている方々だったので、映画に出てもらえるとぐっと認知度が上がるので、大変助かりましたね。ちなみに、ノーギャラです。彼らの出演料だけでも、映画の予算の数倍はかかったと思います。さらに言うと、他の俳優さんも全てノーギャラでやってもらいました。本当に進行用の予算だけで進めたのです。私は悪徳監督ですね(笑)。

── すごくラッキーな話ですね。現場の雰囲気はどうでしたか?

良かったです。本当に、あの映画のままの雰囲気ですね。妄想のカンフー・シーンで、オ・ジョンセが「おい!そこの奴!」と悪者に向かって叫ぶシーンは、俳優達にも大ウケでした。撮影日数は15日と短かったのですが、俳優達は忙しいスケジュールをやりくりして、熱心にやってくれていました。

── ところどころに入る砂絵が印象的です。

撮影後に、なにかアクセントになるものが必要だと思って付け足したものです。『(500)日のサマー』みたいなアニメーションを入れてみたかったのですが、アニメーションはすごく高いんですね。そしたら、たまたま私の大学の後輩夫婦がとても有名な砂絵作家で、しかも近所に住んでいるのを発見して、頼みこんで、これもノーギャラでやってもらいました(笑)。本人達も、いつか映画に作品を出してみたいと思っていたらしく、良い機会になったようです。打ち合わせを進める内に、奥さんの方が、この映画をとても気に入ってくれたようで、今ではテレビ等でオ・ジョンセを観ると「あ!ダメ男だ」と言っているそうです。


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『サンシャイン・ラブ』

── 確かにこの映画のオ・ジョンセは本当にダメ男ですよね。

彼は本当に女性1人守る事ができない、最低な男です。彼女のお母さんと対面するシーンに象徴されるように、責任を取らずに逃げることばかり考えている。

── チョ・ウンジがちょっと優し過ぎるぐらい、良い子に見えてきますが、監督の理想も入っていますか?

理想というより、あれは私の経験した事です。私の場合はハッピーエンドにはならず、今も独身ですが(笑)。経験に基づいてはいますが、映画の中だけでもハッピーエンドにしたいと思いました。オ・ジョンセは私そのものですが、実際に任侠小説を書いていたのは私の友人なので、友人の話と私の話をミックスさせた感じですね。

── 韓国でも映画祭上映だけと聞きましたが、劇場公開の予定はないのでしょうか?

大阪アジアン映画祭に来る3日前に公開の話が決まりました。9月に公開予定ですが、うまくいけばもっと早まるかもしれません。題材が地味なので、そんなに大規模な公開にはならず、ミニシアターでの公開になると思いますが。

── プチョン国際ファンタスティック映画祭での評判はいかがでしたか?

女性に好評でしたね。韓国映画は、インディペンデントでも商業映画でも、刺激の強いものを求める傾向にあります。この作品はどちらかというと日本の作品に近いような、あまり大きな出来事は起こらない作品ですが、その辺りの繊細な機微が女性に好まれたのではないでしょうか。そして若い人、20代にも好評でした。現在公務員試験に励んでいる若者や、また彼らに3年・4年と付き合わされた苦い経験を持つ30代・40代の女性も自分の事のように思って共感してくれたようです。

── 日本でも同じ傾向にあるので、共感する人がたくさんいそうです。

アジア全体で安定を求める傾向にある気がしますね。逆に欧米では、公務員がそうした安定した立場を示す指標ではないらしく、共感するのはちょっと難しいかもしれません。公務員はあくまで要素のひとつに過ぎずメインはラブストーリーなので、理解してもらえると良いのですが。

── 主人公は色々と努力はしてみるものの環境は何一つ改善されていない。それでも、ちゃんと相手に恐れず気持ちを伝える部分にはぐっと来ました。

実は、ラストシーンについてはものすごく評価が分かれています。男性からは「あまりにも急展開すぎる、劇的過ぎて共感できない」という声が多かったのですが、女性からは「そこが良い!」という声を聞きます。

── ラストシーンにしても、その他の部分にしても、所々に女子の感覚をくすぐるツボを心得ているなぁと思いました。その辺りが少女マンガにも通じるので、女子にはたまらないのでは?

淡々と小さな物事が重なっていく点が、日本の映画やドラマみたいだと高評価をいただいたので、大阪アジアン映画祭で上映されると聞いた時も、受け入れられやすいのではないかと思いました。「行け!稲中卓球部」も出てきますし。あのマンガは実際に韓国でもすごい人気で、私も7回ぐらい読み返しています。

── 日本の素材がうまく使われていたので、ぜひ日本を舞台にした映画や合作なども観てみたいです。

ぜひ! 素晴らしいですね! 日本に住んじゃおうかな(笑)。日本映画も好きで、黒澤明監督の『羅生門』は10回以上観ています。鈴木清順監督も大好きで、『殺しの烙印』がお気に入りです。ちなみに、カンフー・シーンは深作欣二監督の『仁義なき戦い』へのリスペクトを込めたのですが、1970年代の韓国のカルト仁侠映画のシーンとミックスさせたので、全く違う印象になっています(笑)。あまりカッコよくし過ぎず、ちょっとB級のテイストを混ぜてみるのが私のお気に入りですね。

── 音楽もアコースティックやスカ、ロックな感じもあったりで多彩でしたね。

カラオケで歌うシーンの曲とエンディング以外は、全て音楽監督が作曲して作りました。カラオケで歌っていた「馬よ走れ」という歌は、韓国で人気の歌です。

── 20代・30代の夢を追うかどうかで悩んでいる若者には共感するところの多い映画だと思います。監督からそうした悩める若者にエールを戴けるとありがたいのですが。

私がですか? 難しいですね…(笑)。実は、私もこの映画を作る前は、映画監督を辞めようと思っていました。最初のコンペで入選したものの、何度も企画倒れになって、時間も経っていたので、モチベーションを保つのが大変だったんですね。「もう、どうにでもなれ!」という思いで釜山の独立映画祭に出して賞を戴いたのですが、それでも賞金が予算の10%にも満たなかったので、これからどうしようかと思っていたんです。そんな時、友達に言われたのが「世の中にはその賞金も貰えなくて、諦めてしまう映画監督はたくさんいる。せっかく機会を貰ったのだから諦めずに最後までやってみなきゃ」という言葉でした。辞めたいと思っていたのですが、もともと好きで映画を作っていたのだから、この機会にできることは全部やってみようと決意して作ったのがこの映画です。

撮影後の編集にも8ヶ月程かかり、様々な問題が発生したので、その度にやっぱり辞めたくなったのですが、一番不安だったのが「果たしてこの映画を完成させて、誰が分かってくれるのだろう?」という思いに苛まれた事でした。でも、そうした困難にぶつかる度に、もちろん自分の思った通り100%ではありませんが、違う形で叶えてくれようとする人達に出会えたおかげで、何とか乗り越えて完成させる事ができました。その人達に出会ってなかったら、私は今この場にいないでしょうね。だから今は、映画をもっと作らなければ、と思っています。どんなに時間がかかっても、諦めずに本当にやりたいという信念を持ち続ければ、いつしか助けてくれる人達が集まってきて、自然と自分の行きたい方向に導いてくれるのではないでしょうか。「大きな夢にしろ小さな夢にしろ、信念を持って一生懸命やり続ければ必ず叶うんだ」と、この映画を作った事で思い知らされましたね。



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Q&Aでのチョ・ウンソン監督

 インタビューも上映後のQ&Aも、監督の朗らかなオーラのおかげで和やかに進みました。映画からはほのぼのとした印象を受けますが、完成までに多大な時間をかけ、経済的な問題を乗り越えてきた作品だという事に驚かされました。ただのファンタジーに終わらず、時にどきっとするほどリアルな描写がスパイスとなり、大人のラブストーリーに仕上がっているのは、実体験に基づいているからこその強みではないでしょうか。

 女性と男性の反応が全く違うというのも納得。この映画は確かに共感できる人とそうでない人がはっきり分かれる作品なので、「負け組」を自負する人ほど共感してしまう作品かもしれません。ですが、評価が大きく分かれる映画こそ、優れた作品の証拠。実際、ラストシーンでは思わず噴き出す男性客の声が聞こえたり、Q&Aでは「ギルホはジョンスクが出世していたから、仕事を得ようとして近づいたのか?」という思いもよらない質問が飛び出したり、観客の反応も興味深い作品でした。

 自主映画の安っぽさは一切なく、画面の細部までキラキラとした輝きに満ちている『サンシャイン・ラブ』。次回作は、今回とは全く作風の違うホラーを予定しているとの事で、鈴木清順のような映像美に満ちた作品になるのでは?と大いに期待が膨らみました。


『サンシャイン・ラブ』
 原題 썬샤인 러브 英題 Sunshine Love 韓国公開 2014年9月(予定)
 監督 チョ・ウンソン 出演 オ・ジョンセ、チョ・ウンジ、リ・ミド、ソン・サムドン

第9回大阪アジアン映画祭
 期間:2014年3月7日(金)~3月16日(日)
 会場:梅田ブルク7、シネ・ヌーヴォ、シネ・リーブル梅田、ABCホール、テイジンホールほか
 公式サイト http://www.oaff.jp/


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