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Review & Interview 『チスル』オミョル監督 ~済州島の大地に眠る人々に捧ぐ、モノクロームの鎮魂歌

Text by mame
2014/3/10掲載



 煙にまみれた民家から、物憂げに空を見上げる兵士。室内には祭事に使われたと思しい錫の食器が床に散らばるが、住民の姿はない。隣の部屋に続く扉を開けると、別の兵士が刀を研ぐ不穏な音が響き、背後には全裸の女性が棚に詰め込まれるようにして息絶えている。兵士はそれを見て特に驚く様子もなく、研がれた刀を借り、供え物の梨を割って食べ始める…。

 『チスル』はこんな狂気に満ちた描写から始まる。もはや死に対する感覚が完全に麻痺してしまった兵士と、逃げる意味もわからず放浪を続ける島民のお互いをいたわる優しさ。その温度差に背筋も凍るような恐怖を感じた。

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 済州島で1948年に起こった4・3事件を発端にした大量虐殺が題材と聞くと、あまりに重く、観るのをためらう方もいるだろう。だが、モノクロで描かれる映像の美しさに圧倒され、鑑賞後は不思議な余韻が残る。豊かな色彩を奪われた済州島は、まるで島全体が慟哭しているかのような異様な風景に様変わりし、木々が風に揺られるのを見るだけでも、身をちぎられるような痛みを感じるのだ。いつしか私は島の気持ちに呼応するかのように、島民たちの無事を案じ、目が離せなくなっていた。『チスル』は、済州島の人々を慈しむ鎮魂歌の役割を果たしていると確信した。

 『チスル』は4つの章で構成されている。神位・神墓・飲福・焼紙。韓国の祭事にまつわるそれぞれの言葉の意味を把握できなくとも、神秘性が高められ、荒涼とした風景に緊張感が張りつめる。戦争映画というよりもホラー映画を観ているような、得体の知れない恐怖感に包まれるのは、神々の視点を感じさせるからだろうか。

 「4・3事件の事は、韓国でも知っている人が少なくなりつつあった。『チスル』を企画した当時は李明博政権下にあり、事件が“済州島民による暴動”と片付けられ、亡くなった方の遺骨発掘作業への予算も削られる等、事実に逆行するような風潮があった。事件が忘れ去られる事への危機感が、この映画を作る原動力になったと思う。だが、事件をテーマにする事で、怒りがこみ上げてくるのではなく、今も済州島の土に眠る方々への弔いの気持ちが湧いてくる作品にしたかった」

 済州島出身のオミョル(五滅)監督は済州大学で東洋画を専攻。普段は劇作家として活躍しており、『チスル』が4本目の長編映画となる。インタビューに同席したコ・ヒョッチン(高赫辰)プロデューサーは西洋画を専攻していたと聞き、だからだろうか、映像の随所に水墨画を思わせるような、山の風景が俯瞰で現れたり、洞窟で密やかにチスル(じゃがいも)を分けあう姿には、レンブラントの絵画のような抑制された美しさが発揮されている。

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共同取材時の監督。記者陣からは「井筒和幸監督似」という声も

 あまりに惨たらしい事件を扱っているにも関らず、登場する島民はどこか呑気で、洞窟での会話にも「明日には出られるだろう」といった和やかな空気が漂う。

 「実際にはもっと緊迫していたかもしれないが、映画の中では、彼らに幸せな時間を与えたかった。それこそが事件の前は島の日常風景だったはずだから」

 題名になっている『チスル』の通り、食事シーンが印象的だ。兵士達のそれは、梨や白飯、豚を丸まま茹でるなど、食材は豊かだが、食べる姿は欲望を満たす行為の一環にしか思えない。対して島民達の食糧はチスル(じゃがいも)のみだが、皆で分けやすいようにと大量に持ち運ばれ、お互いをいたわりあいながら、明日を生き延びるための糧として、ひとつずつ大切に頬張られる。無意味な虐殺行為に疑問を抱き、葛藤を繰り返すパク一等兵が空腹で食べたいと願ったのも、贅沢の象徴である白飯ではなく、土にまみれたチスルだった。

 地實(チシル/지실)。漢字で「大地の実」と書かれ、済州島の方言で「チスル/지슬」と呼ばれるこのじゃがいもが、島民たちにとってはまさに生命に直結したかけがえのないものである事を感じさせる。

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 製作期間にも予算にも制限があり、借金からスタートした自主映画だったが、サンダンス映画祭をはじめとする世界各国の映画祭で賞を獲り、なんとか製作費を取り戻せたという。結果的には『息もできない』の持つインディペンデント映画の動員記録を塗り替え、今では事件のあった4月3日を国家的な記念日にしようとする動きも生まれていると聞き、改めて韓国においてこの映画の持つ影響の大きさに驚かされる。

 「済州島を題材にした映画はこれからも作り続けていきたい。済州島は私を育ててくれたもうひとりの母のようなもの。その歴史を振り返る事は、自分そのものを見つめる事で、自分にしかできない事と思っているから」

 米軍及び韓国軍主導による「暴徒鎮圧」の名の下に行われた大量虐殺で、犠牲となった島民は3万人以上。今でも済州空港の滑走路の下には多くの犠牲者の遺骨が埋まっているという。アジア有数のリゾート地として脚光を浴びる今の姿からは想像もつかない、もうひとつの済州島の姿だ。だが、島に伝わる民話をベースに描かれる崇高な表現は、全ての悲しみを包み込んだ大地を持ってこそ、今の済州島の美しさがある事を私達に知らしめてくれる。


※ 監督の本名はオ・ギョンホン(오경헌)。演劇は本名で、映画ではペンネームの「오멸」で活動していますが、このペンネーム、漢字で書くと「五滅」とのこと。本記事でのカタカナ表記は、姓名を分けず「オミョル」としました。


『チスル』
 原題 지슬 - 끝나지 않은 세월2 英題 Jiseul 韓国公開 2013年
 監督 オミョル 出演 ヤン・ジョンウォン、イ・ギョンジュン、ソン・ミンチョル
 2014年3月29日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.u-picc.com/Jiseul/

Writer's Note
 mame。『チスル』に興味を持ったのは、題材よりも、そのスチールの美しさに魅力を感じたから。美大出身という監督のプロフィールを見て納得。抑揚の効いた美しい表現は、映画ファンのみならず美術ファンを含む幅広い層に受け入れられそうです。


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