Review 『7番房の奇跡』 ~夢を忘れた大人に贈る、塀の中の父子の奇跡
Text by Kachi
2014/1/24掲載
刑務所の中は、しばしば名作の舞台となるものだ。受刑者たちの絶望と再起のドラマ『ショーシャンクの空に』や、囚人と刑務官の交流をファンタジックに描いた『グリーンマイル』をはじめ、韓国映画にも、女子刑務所で結成された合唱団の感動物語『ハーモニー 心をつなぐ歌』がある。そんな中で『7番房の奇跡』は型破りな刑務所映画だ。本作はぜひ「物事はこうあるべきだ」という先入観をすべて捨てて見ていただきたい。あり得ない奇跡を夢のように叶えるストーリーに心が震えるはずだ。

主人公は、6歳の知能しかないヨング(リュ・スンリョン)と、春にはセーラームーンの黄色いランドセルで小学校に通うのを楽しみにしている、しっかり者の愛娘イェスン(カル・ソウォン)。互いを支えながら明るく生きている父子だが、ある日、ヨングは少女の誘拐と殺人の容疑で逮捕されてしまう。
ヨングが収監された雑居式の7番房は、暖かい色を基調にしたメルヘンチックな内装と小物があふれ、暗く冷たい場所という刑務所のイメージが覆される。壁に貼られたヌードグラビアさえ不思議とファンシーに見える。そんな7番房のメンバーは、元ヤクザの房長(オ・ダルス)、詐欺師チュノ(パク・ウォンサン)、姦通罪のマンボム(キム・ジョンテ)、当たり屋ソじいさん(キム・ギチョン)、夫婦スリのボンシク(チョン・マンシク)など、くせ者揃い。ヨングを凶悪犯として初めは手荒く扱うが、刑務所内で起きた縄張り争いの際にヨングに命を救われた房長は、彼のために一肌脱ぎ、イェスンを潜入させる。7番房に舞い降りた天使のようなイェスンの愛らしさと、再会に涙を流すヨングの純粋さに、「刑務所でこんなこと起きるはずがない」という常識を忘れてしまう。
息子を失って以来、冷酷に仕事一徹だった刑務所のチャン課長(チョン・ジニョン)は、ヨングによって火事から救出されたことで心境が変化する。ひたむきで純真なヨングとイェスンは、はぐれ者としてささくれ立った7番房の面々や、人を信じられなくなっていたチャン課長の心を癒やし、変えていくのだった。そして彼らは「ヨングは本当に少女を殺したのだろうか?」という疑念を持つ。悪人だらけの7番房メンバーによる即席の弁護団の密かな活躍は笑いを誘う一方、ヨングの裁判を「これは勝ち目のない裁判だ」と弁護をする気のない国選弁護人への皮肉も描かれる。
父の無実を信じて疑わず、成長して法学生となったイェスン(パク・シネ)が潔白を訴える模擬国民参加裁判と、ヨングに判決を下した裁判とを使って、現在と過去をオーバーラップさせたり、作品の随所にキーカラーの黄色を施すなど、映像的技巧も凝らされている。だが、『7番房の奇跡』を傑作にしたのは演出のテクニックだけではない。

作品は中盤から父と子の物語にフォーカスしていく。被害者が警察庁長官の娘だったことで、ヨングとイェスンの運命は永遠に変わってしまう。このことから、特に長官とヨングに、公権力の横暴とその犠牲という構図を見ることもできる。だが筆者はむしろ、双方に悲しみを背負った父親の姿を見た。ヨングは周囲の者の心を浄化させていく悲劇の聖者のようだが、彼の慟哭は、ただ娘の成長をそばで見守りたいとう、父として当然抱く思いだ。それは長官も、チャン課長も、そして全ての父親の気持ちに重なる。
本作の美術スタッフが掲げた7番房のコンセプトは「大人のためのおとぎ話」。夢と魔法を信じた子供時代を経て、奇跡なんてファンタジーに過ぎないことを知る大人になる。だからこそ、夢のような奇跡を見せてくれる映画は私たちを感動させるのだ。
『7番房の奇跡』
原題 7번방의 선물 英題 Miracle in Cell No.7 韓国公開 2013年
監督 イ・ファンギョン 出演 リュ・スンリョン、パク・シネ、カル・ソウォン
2014年1月25日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
公式サイト http://7banbou.com/
Writer's Note
Kachi。『7番房の奇跡』には、当時の女の子が憧れるアイテムとしてセーラームーンが登場します。主題歌を歌いながらキメポーズを取るイェスンに「これ、私もやった!」と、懐かしさがこみ上げました。
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