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Report コリアン・シネマ・ウィーク2013 ~王道のストーリーが感動を呼ぶ

Text by Kachi
2013/11/27掲載



 今秋、東京・四谷の韓国文化院庁舎が「KOREA CENTER」として生まれ変わった。6月に韓国大使館が新庁舎に移った関係で、韓国観光公社東京支社などが新たに入居したのだ。韓国文化発信の拠点として、これまで以上に期待が高まる。今年のコリアン・シネマ・ウィーク(10月18日~10月22日@韓国文化院ハンマダンホール)は、KOREA CENTER開館記念イベントも兼ねており、上映作品はもちろん、ゲストも例年以上に充実していた。

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『ミナ文房具店』

 チョン・イックァン監督のヒューマンコメディ『ミナ文房具店』。公務員のミナ(チェ・ガンヒ)は、父の病気を口実に実家の文房具店を売り払おうとする。しかし、店に入り浸る小学生と交流するにつれ、気持ちに変化が起こり始める。舞台が文房具店と聞いて、地味な映画かと期待せずに見始めたが、水彩絵の具で描かれたオープニングを目にした瞬間、作品世界に引き込まれた。方眼紙、色紙、なわとびなど細部にこだわってリアルに再現された文房具店。自分が子どもの頃、初めて文房具を手にした時の幸福感を思い出した。文房具を嫌い、父を嫌って都会に出たものの、恋も仕事も上手くいかなかったミナだったが、父がどんなに自分を大切にしていたかを知る。そういえば小学校で使っていた鉛筆やクレヨンには、親が名前を書いてくれていた。親の子どもへの愛情や初恋の思い出を、文房具という誰にとっても身近な存在に込めるという発想は、ありきたりのようでいて簡単に思いつくことではない。『建築学概論』や『サニー 永遠の仲間たち』に続くノスタルジック映画の傑作である。

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『南へ走れ』

 イム・スルレ監督『南へ走れ』は、奥田英朗の小説『サウスバウンド』が原作だが、監督のオリジナルかと思うほど、韓国映画らしいホームコメディに仕上がっていた。「国が決めたことには絶対従わない」をモットーにして生きる、民主化運動の生き残りのようなチェ・ヘガプ(キム・ユンソク)は、息子と娘、数少ない理解者である妻の3人で南の島へ向かう。ヘガプは変人で、実際親族にこんな人がいたら相当迷惑かもしれないが、思想の根底にあるのは、正しく生きていくことの大切さと家族への愛情だ。公安から来たずっこけ密偵コンビ(チュ・ジンモ、チョン・ムンソン)や、チンピラ集団が島とヘガプ一家の平穏をおびやかそうとするものの、懲らしめられて間抜けな姿を晒すのでどうにも憎めない。その一方、劇中起こる事件からは、まだ人々の記憶に新しい龍山の悲劇や民間人査察問題、都市開発での家の喪失など、韓国社会の闇が透けて見える。家族愛と社会への問題提起、笑いとシリアスとがバランス良く織り込まれた一本だった。

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『マイラティマ』

 実力派俳優ユ・ジテの初長編監督作品『マイラティマ』。タイから浦項(ポハン)に嫁いだマイラティマ(パク・チス)だが、夫の家族から虐げられる辛い日々を送っている。ある日、義理の兄から暴力をふるわれているところを助けてくれたスヨン(ペ・スビン)と知り合い、駆け落ちのようにソウルへ向かう。帰る場所のないマイラティマと失業者のスヨンという、はぐれ者同士のロードムービーなのだと思って見ていたが、都会で二人を待っていた裏切りと絶望にいたたまれなくなった。心地よさは求められない作品だが、社会のどん底にいる者をつぶさに見ようとするユ・ジテの意気は良く、幸せな展開に持ち込まないのが彼らしさなのかもしれない。

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舞台挨拶に立つ『結界の男』のチョ・ジンギュ監督

 チョ・ジンギュ監督の『結界の男』は、ヤクザのグァンホ(パク・シニャン)が、九死に一生を得たことで幽霊たちと接触できるようになり、はからずも巫女とヤクザの二重生活を送ることになるドタバタコメディだ。主役のパク・シニャンはもちろん、『悪いやつら』で演じたハ・ジョンウの側近役のインパクトも記憶に新しいキム・ソンギュンが、グァンホを慕うとぼけた子分を好演していた。チョ・ジヌン演じるくせ者のファン検事と、事故死した彼の恋人の想いを伝えようとするグァンホのやり取りは最高で、伝説に残る爆笑シーンではないだろうか。特別出演のジヌンは「映画を成功させるために絶対出てもらわないといけない」と、監督自ら熱心に口説いたほど信頼されていた。死者との思い出から抜け出せない現世の人間たちが、幽霊たちから未来への希望を示されるところに、オーソドックスな娯楽映画に終わらせない監督の非凡さが出ていた。

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『JURY』上映後はキム・ドンホ監督のトークショーが開催された

 『JURY』は、釜山国際映画祭前ディレクターであるキム・ドンホ氏が「長く映画に携わってきたからには、作品を撮りたいと思った」と臨んだ初監督作品だ。ある映画祭の審査に5人の審査員たちが集まる。「映画は心だ」という監督(チョン・インギ)と、彼の意見を「大切なのはメッセージだ」と否定する女優(カン・スヨン)が真っ向から対立する。加えて「どの作品にも賞はあげたくない」と言い出す評論家(トニー・レインズ)、英語に自信がなくほとんど黙っている日本人女性(イメージフォーラム代表・富山加津江)。優し過ぎる審査委員長(アン・ソンギ)は、そんな彼らをまとめ切れない。議論から怒声と殴り合いに流れ込んでいく展開の面白さと、映画祭の舞台裏を客観視しつつも映画への愛で作品を締めるところは、さすが15年もの間、釜山国際映画祭のディレクターを務め、世界70ヶ国以上もの映画祭に参加してきたドンホ氏ならではだ。ムン・ソリが審査員に選ばれている今年の東京国際映画祭コンペティション部門の審査も、『JURY』のようだったりして…と思わず妄想してしまった。ちなみに『JURY』の舞台裏は、モフセン・マフマルバフ監督によるドンホ氏のドキュメンタリー『微笑み絶やさず』(第14回東京フィルメックスで上映)で見ることができる。

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イ・チャンドン監督のトークにはムン・ソリも駆けつけた

 素晴らしい作品は、何度見ても感動を与えてくれる。筆者にとってイ・チャンドン監督の『ポエトリー アグネスの詩』は、そんな一本だ。トークショーに登壇した監督の「罪を犯した若者への視線と愛情」という言葉で改めて胸を打ったのは、同級生を自殺においやってもなお、近所の小さな子の面倒をみるジョンウクの優しくあどけない表情だ。善人でも悪人でもない、ごく普通に生きる者が犯す過ちを、決して咎めるような描き方をしないからこそイ・チャンドン作品は素晴らしく、他の追随を許さないのだ。優しさも悪意も複雑に持ち合わせた人間が、正義と赦しについて真摯に問い続ける物語を、イ・チャンドンはこれからも作り続けていってくれるだろう。

 コリアン・シネマ・ウィークは毎年、家族や青春時代が題材となったホームドラマやコメディを多く選ぶ。それらが持つ、成長や恋愛、挫折や別れといった要素は誰もが経験するがゆえに、見る者の心をつかむ。良い映画の見分け方について聞かれたキム・ドンホ氏は「ストーリーテリングがしっかりしていて、心に響くメッセージ、感動できる要素があるかどうか」と答えたが、今年のコリアン・シネマ・ウィークは、特に、王道を行くストーリー展開を通じて作り手の意志が観客に届く作品が揃っていた。韓国の正統派ホームドラマとコメディの力を再確認した5日間であった。


第26回東京国際映画祭提携企画・KOREA CENTER開館記念
コリアン・シネマ・ウィーク2013
 期間:2013年10月18日(金)~10月22日(火)
 会場:韓国文化院ハンマダンホール
 公式サイト http://www.koreanculture.jp/

Writer's Note
 Kachi。『オアシス』で韓国映画に目覚めた私にとって、イ・チャンドン監督とムン・ソリは憧れの存在。そんな二人からサインをいただいた10月19日は、一生忘れられない記念日となりました。


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