Review 『大阪のうさぎたち』
Text by mame
2012/7/3掲載
原因不明の現象により、90%の人類が亡くなった地球。その中で唯一何事もなかったかのように普通の生活を続けている都市、OSAKA。その地をめざして、韓国から一錠の特効薬を手にした男(ミン・ジュンホ)と、恋人を失った女(杉野希妃)がやって来る。残された時間はあと半日。OSAKAで初めて出会った二人は、最期の時まで共に過ごす事を決め、ホテルでお互いのことを語り始める…。

大阪を舞台にしたドキュメンタリー風SFという不思議なジャンル。それもそのはず、この映画は昨年2011年3月12日、大阪アジアン映画祭に出席中の監督・俳優によってほぼ即興で製作された。日付から分かる通り、東日本大震災の翌日だ。私は大阪在住なので、ほぼ全てのロケ地に行ったことがあり楽しく観ていたが、途中でこの撮影日を思い出してからは、いつもの大阪が全く違う様子に見えてきた。この映画は、大災害の翌日の大阪の様子を捕らえている。そういう意味で、とても貴重な作品だ。監督には映画祭に招待された時から、即興で映画を作ろうというアイデアがあったようだが、まさかこんな日に撮ることになろうとは予想もしなかっただろう。
「大阪はSF向きな都市」という説には、私も納得する部分がある。特に映画祭が行われた中之島近辺は、二本の川に挟まれ、その上を縦横無尽に高速道路が重なっている様子が近未来都市を感じさせ、いつ来ても見とれてしまう。夜はさらに高層ビルの灯りと川のライトアップも加わり幻想的な美しさだ。よく言われる「コテコテ」な大阪とは違う魅力をこの映画は映し出してくれている。

即興で撮られているので、出演者のアドリブもあったりして、ストーリーはあってないようなものだが、震災の翌日という非常事態がこの設定と偶然にもリンクして、かつてない緊迫感を与えている。あの日以降、日本中の多くの人が災害の大きさに驚き、しばらくは無力感と焦燥感に襲われた。監督がそうした空気を感じたかどうかまでは分からないが、震災から1年半が経った今、あの日をテーマにした映画やマンガなどが続々と発表されている。『大阪のうさぎたち』もあの日をテーマに、違ったアプローチを見せた記録映像として名を連ねてくれると、ある意味、完全なドキュメンタリーとして受け入れられるのではないだろうか。

イム・テヒョン監督と、ミン・ジュンホのコンビが『遭遇』で見せた即興ドラマに、今やアジアのミューズとして成長を遂げている杉野希妃が加わり、プロデューサー兼主演を務めている。いろんなハプニング的要素によって出来上がった作品は非現実的な設定でありながらも、それを感じさせない不思議な空気を保っている。是非、多くの人に体感してもらいたい。
『大阪のうさぎたち』
韓国・日本/原題 大阪の二匹のうさぎ/英題 TWO RABBITS IN OSAKA/2011年
監督 イム・テヒョン 主演 杉野希妃、ミン・ジュンホ
2012年6月30日(土)大阪シネ・ヌーヴォにて地元先行ロードショー、8月4日(土)神戸・元町映画館、京都みなみ会館ほか順次全国公開予定
公式ブログ http://ameblo.jp/two-rabbits-in-osaka/
Reviewer's Profile
mame。1983年、岡山県生まれ。2004年、韓国・弘益大学美術学部に交換留学。韓国映画は留学を決めるきっかけにもなった。専攻は木版画。現在は会社勤めをしながら作品制作を続けている。
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