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Review 『新感染 ファイナル・エクスプレス』 ~ゾンビ映画の「澄み切った絶望」という救済

Text by Kachi
2017/8/27掲載



 もしもあなたが今、日々の理不尽さに打ちひしがれているならば、迷わず『新感染 ファイナル・エクスプレス』を観ることをお勧めしたい。この映画の清新な絶望が、生きることに打ちひしがれた観客の心に寄り添ってくれるのだ。

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 『新感染』は、周到な脚本と綿密な伏線による映画だ。たとえば高校生のヨングク(チェ・ウシク)がサッカーではなく野球部員なのは、後に攻撃手段となるバットが身近だからだろうし、目が悪いというゾンビたちの弱点も、列車という乗り物の特性を考えればこそ活きてくるのである。

 旧来の映画に登場するゾンビの多くは、頭を銃で撃つことで退治できた。この映画では、バットで殴ろうが高いところから落ちようが、しぶとく襲いかかってくる(韓国では欧米ほど銃が身近ではないことも、その理由なのかもしれない)。基本的には動きをくい止めるという手段しか、一般市民の登場人物たちは持っていない。『哭声/コクソン』のように死体を人外の力で操るようなゾンビもいる。『新感染』のゾンビは、ゾンビのキャラクターとしての造型はさほどグロテスクでもなく、発生源は曖昧にされている。

 劇場公開にあたって来日したヨン・サンホ監督は、ゾンビ映画の本質を「愛した人が全く分からない何者かに姿を変えてしまう恐怖と、自分がゾンビになって、愛する人を襲うかもしれない恐怖」と話す。本作を観ると、愛する誰かを襲う恐怖に力点が置かれているところが興味深い。『アシュラ』のようなやくざ映画で、「呼兄呼弟(ホヒョンホジェ)」の契りを交わした兄貴と弟分とが、血の涙を流しながらしばき合う泣かせどころを容易に想起させる。さらに踏み込んで言えば、南北分断によってお互い同胞に銃口を向けなければならない業を背負い続ける、朝鮮半島の民に共通する恐怖なのかもしれない。こうした「加害者の恐怖」は本作のサブテーマであり、かつ湿っぽくもならず、ゾンビ映画の基本と調和している。

 ゾンビ映画で観ていて最も興が削がれるのは、生き残る人物が、神としての作り手によって選別されていると感じる瞬間だ。つまり、警告を聞かない不届き者、性悪な輩が真っ先に餌食となり、真面目でおとなしい彼や彼女は危機一髪逃れていく、という風にである。しかしそれはある意味、因果律に行儀よく支配されたおとぎ話である。目に見えるものに対し、気配を感じた瞬間に容赦なく襲いかかってくる化け物たちが、どうして被害者を選り分けられるのだろう。真面目。実直。親切。そうした行動原理は、生き残るという局面では一切関係ない。あまりに無慈悲かもしれない。しかし、澄み切った無慈悲さにしか、救われない感情というものがこの世界には存在している。観る者の情緒にたたみかけながらも、ゾンビ映画ならではの非情さも持ちあわせているからこそ、本作は胸を撃つゾンビ映画に仕上がっているのだ。


『新感染 ファイナル・エクスプレス』
 原題 부산행 英題 TRAIN TO BUSAN 韓国公開 2016年
 監督 ヨン・サンホ 出演 コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・スアン、キム・イソン、チェ・ウシク、アン・ソヒ
 2017年9月1日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
 公式サイト http://shin-kansen.com/


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Report & Interview 『新感染 ファイナル・エクスプレス』ヨン・サンホ監督 ~家族を描くことで社会やそれに対比するものも同時に描くことができる

Text by 加藤知恵
Photo by Kachi
2017/8/23掲載



 昨年夏に韓国で1,000万人以上の動員を記録し、カンヌ国際映画祭でも大反響を得た『新感染 ファイナル・エクスプレス』が9月1日、ついに日本で公開される。それに先立ち8月17日に一般観客を対象にした試写会が行われ、ヨン・サンホ監督も来日してトークイベントを行った。

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ヨン・サンホ監督

 開場時間の随分前から受付前に列を作り、笑顔を浮かべながら今作への期待感を露わにしていた観客たち。しかし上映が始まると一転、完璧に演出・統制されたゾンビたちのすさまじい動きや大規模なアクション・急展開の連続に体をのけぞらせて怯える人々が続出。中盤以降は笑い声や泣き声、鼻をすする音も客席の至る所から聞こえ、エンディングが流れる頃には自然と拍手が沸き起こっていた。

 物語の主人公は、別居中の妻に会わせるため、ソウルから釜山まで娘を連れていくことになったファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)。娘スアン(キム・スアン)と共に早朝のKTX(高速鉄道)に乗り込むが、同じ列車に駆け込んできた一人の感染者(シム・ウンギョン)によって乗客が次々とゾンビに豹変し、無差別に他の人間を襲っていく。そんな状況下で露呈される様々な人間の本性。ある者は他人を犠牲にしても自分だけが助かろうとあがき、ある者は自分の命をなげうって大事な存在を守ろうとする。『哭声/コクソン』の振付師が動きを演出したというゾンビ集団の迫力もさることながら、極限状態を舞台に描かれる人間ドラマが実に巧妙で面白い。最も頼もしくユーモラスなキャラクターのサンファ(マ・ドンソク)や彼の妊娠中の妻ソンギョン(チョン・ユミ)、悪役ながら終始重要なポジションを担うヨンソク(キム・イソン)など、他の登場人物の個性も際立っていてストーリーの厚みを増している。

 終映直後、聞き手の宇野維正氏が「実はこの作品は監督の実写初監督作品なんです。なのにとてつもないクオリティですよね」と紹介すると、客席からはどよめきが起こった。主演のコン・ユは、シナリオを渡し、直接会って別れた20分後には「やります」と電話をかけてきたとのこと。そのようなキャスティング秘話に加え、「劇中に登場する大きな駅は昼間、人通りが多いため、田舎の駅で撮影を行ってあとはCGで合成した」など、撮影秘話も語ってくれた。その他に興味深かったのは、「ソウル(北)から釜山(南)に逃げていくという設定は、北朝鮮軍の侵略に対する恐怖も込められているのではないか?」という質問だ。これに対して監督は「今はミサイルを使っても攻撃できるので、必ずしも北から南に攻めてくるとは限らない。直接北朝鮮と関係があるとは言えないが、朝鮮戦争時の避難列車で実際に起きたエピソードはストーリーの参考にした」と答えていた。

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(左)宇野維正氏、(右)監督

 監督にとって今作が実写デビュー作ではあるものの、彼は『地獄』『愛はタンパク質』などの短編や、『豚の王』『我は神なり(原題 サイビ/英題 フェイク)』といった長編でも知られるアニメーション監督でもある。今回『新感染』の公開にあわせ、前日譚である『ソウル・ステーション パンデミック』(9月30日)と『我は神なり』(10月21日)も既に劇場公開が決まっている。今後の活動についての質問には「韓国のアニメーション産業は非常に小さい。当分はアニメーション製作に戻るのが難しい状況ではあるが、良い機会があればまた作るつもりです」と語った監督。「花開くコリア・アニメーション」のスタッフでもある筆者としては、今後のアニメーション製作にも期待が高まるばかりだ。

 試写会の翌日、更に詳しく今作や次回作について直接インタビューする機会を得た。

── 『新感染』はソグとスアンという父と娘を中心とした映画でもあります。前作『我は神なり』もそうですし、先日クランクアップされた『念力』も父と娘の物語との情報がありますが、こうした作風の流れには意図があるのでしょうか。報道資料には「元々、父と息子の物語を書きたかった」とあったので、娘に変更された理由も気になりました。
 また、監督のアニメーション作品は、ショッキングな結末が印象的で無慈悲なストーリーというイメージがあります。『新感染』では父と娘の関係以外にも家族愛の要素が感じられましたが、それは実写映画だからという理由もあるのでしょうか?

確かに最初の設定では息子でした。それはこの映画のモチーフにしていたコーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』という小説が、父と息子の話だったからです。私が思うにその小説で父と息子を主人公にした理由は、「終末」という巨大なテーマを扱う中で、世代論と言いますか、つまり次の世代に何を残すべきかということを描きたかったからだと思います。『新感染』も同様に、そのような話を描く上で当初は父と息子の物語にしました。しかしその後の製作中に短編映画祭の審査員を務めたのですが、そこでキム・スアンが出演している作品を見たんですね。彼女は女の子ですが、僕の求めていたイメージに非常に近いと感じました。それから息子役のオーディションを何度も重ねましたが、彼女のことが忘れられず、結局会うことにしました。その場では彼女に簡単な感情だけを説明して「アロハ・オエ」の歌を歌ってもらいましたが、それを聴いて僕がイメージしていた最後のシーンにぴったりだと思いました。最初は彼女に男の子の格好をさせて演じてもらうことも考えましたが、それはさすがに失礼だと思い、設定を息子から娘に変えました。結果的にそこがこの作品の軸になったわけです。

また、『我は神なり』をはじめ『豚の王』や『ソウル・ステーション』など、僕の作品の多くが家族をモチーフにしています。家族といっても色んな形態があり、そこから生まれる様々な感情を作品に込めるのが好きなんですね。温かい家族もあれば、冷たい家族もあり、お互いに憎みあっているような家族もあります。僕は人間が経験しうる最小限の社会が家族であり、家族を描くことで社会やそれに対比するものも同時に描くことができるという意味で非常に良い素材だと思っています。『我は神なり』では暴君のような父親と対比させる存在として、娘はどうかと思いました。『新感染』はより商業的で予算も大きな作品ということもありましたし、関連作である『ソウル・ステーション』でホームレスや家出をした少年・少女の話を描いていて、家のない人々や父親を捜し求める主人公という設定が重要な要素でもあったので、『ソウル・ステーション』と対比させるためにも『新感染』はあのような家族の話になりました。

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── 過去のゾンビ映画については、ゾンビがもたらす予測不能の災難や不条理さ、極限状態における人間の業の深さというものが社会情勢を象徴しているという見方もされています。ただゾンビを描くのが目的であれば、もっと気持ち悪くグロテスクに描くこともできたと思うのですが、その点には表現に節制が効いていて、人間ドラマに重点が置かれているように感じました。今回監督がゾンビを素材に選んだ理由と、ゾンビを通して描きたかったものは何なのかを教えて下さい。

まず『新感染』の舞台となるKTXには、普通の人々がたくさん乗っています。ソグやヨンソクのように、平凡な人々が善人にも悪人にも変化しうるということを伝えるのが重要だと考えました。それにこの作品は、先ほど申し上げたような世代に関する寓話といった見方もできます。例えば物語の序盤から中盤に出てくるおばあさんの姉妹は、車内で流れるニュースに対して反応がそれぞれ違いますよね。彼女たちはイデオロギーが大事であった世代の象徴であり、正反対のイデオロギーを持っていることも意味しています。また10代の子供たちが犠牲になる姿を描くことで、韓国社会において10代・20代の若者たちが大人の世代に搾取されている状況を描きたいと思いました。そのように様々な世代の話が入り混じっている映画だと言えると思います。また、この映画を作るにあたり、ゾンビ映画の本質とは何かについても深く考えました。ゾンビ映画はスプラッター映画の代名詞とも言われますが、ゾンビが与える恐怖とはどんなものかと考えた時、ひとつは「自分の愛する人が全く違うものに変わってしまうという恐怖」、そしてもうひとつは「自分が違うものに変わって愛する人を攻撃してしまうかもしれないという恐怖」だと思いました。ですからスプラッタースタイルの表現は排除して、そのような恐怖にポイントを絞って映画を作ろうとしました。

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── 最近クランクアップされた新作『念力』についても、どんな作品か、見どころなども教えて下さい。

『念力』も父と娘が主人公の物語ですが、非常に無責任でかなり昔に娘や家族を捨てた父親と、そんな父親を憎んでいる娘の話です。父親はあることをきっかけに超能力を身に付けるのですが、その超能力を通して韓国社会の様々な面を描き出しています。『新感染』とは違ってコメディの要素が強く、ある意味では更に大規模なアクションシーンも含まれています。笑いながら鑑賞できて、超能力アクションも楽しめて、最後には感動も得られる作品になるように、現在編集作業を進めています。

── 実写映画を3本撮るという契約をされたと伺ったのですが、そうするともう1本実写作品の予定があるわけですよね。そちらの作品も現在進行中ですか?

『新感染』の完成後から企画していた作品がいくつかありまして、シナリオはまだ完成していませんが、大筋の決まっている作品は2本あります。そのうちの1本を選んで今年中にシナリオを完成させ、来年『念力』が公開された後に撮影に入るつもりです。その作品は『新感染』や『念力』よりも暗い内容の作品になると思います。




『新感染 ファイナル・エクスプレス』
 原題 부산행 英題 TRAIN TO BUSAN 韓国公開 2016年
 監督 ヨン・サンホ 出演 コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・スアン、キム・イソン、チェ・ウシク、アン・ソヒ
 2017年9月1日(金)より、ロードショー
 公式サイト http://shin-kansen.com/

Writer's Note
 加藤知恵。「僕は本来新しい人と仕事をするのが苦手で、自宅の家具の配置が変わるのさえ嫌がるような人間なんです」と語っていた監督。気難しい方なのかもしれないと、取材前は緊張しましたが、「花開くコリア・アニメーション」のスタッフでもあることを告げ、「他のスタッフも皆、監督のご活躍を喜んでいます」と伝えたところ、にこやかな笑顔を見せて下さいました。


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Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017 ~27回目の「おかえりなさい」は韓国映画三昧

Text by hebaragi
2017/8/23掲載



 27回目を迎えた映画祭初日、今年もゲストと観客は「おかえりなさい」の言葉で迎えられた。開催期間中の天候は概ね良好で、「ストーブパーティー」など屋外イベントを含め、映画祭を満喫した映画ファンが多かった。今回のテーマである「世界で一番、楽しい映画祭!」にふさわしい5日間だったといえる。オープニング上映は日本のアニメーション『ひるね姫~知らないワタシの物語』。その後5日間にわたり84本の作品が観客を楽しませた。とりわけ、韓国(関連)映画は14本上映され、ファンにとっては作品との嬉しい出会いが多かった。「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017(以下、ゆうばりファンタ)」のレポートをお届けする。

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ゲストによるフォトセッション


多彩な才能が開花したオフシアター・コンペティション部門


 オフシアター・コンペティション部門グランプリには、楽しいロードムービー『トータスの旅』(永山正史監督)が選ばれた。また、審査員特別賞には韓国のトロットをモチーフにしたユニークなテーマの『ベートーベン・メドレー』(イム・チョルミン監督)が選ばれた。さらに、北海道知事賞には、不条理な冒険の旅に出ることとなったひとりの男を描いた『はめられて Road to Love』(横山翔一監督)、シネガーアワードには『ストレンジデイズ』(越坂康史監督)、スペシャルメンションとして『堕ちる』(村山一也監督)が選ばれた。また、受賞作以外でも『カーネルパニック』(チョ・ジンソク監督)など、興味深い作品が目についた。

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『M.boy』のキム・ヒョジョン監督


秀作揃いのショートフィルム・コンペティション部門


 「インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門(以下、ショートフィルム部門)」では、国内外から20本の作品が出品された。グランプリを受賞した『M.boy』(キム・ヒョジョン監督)はイジメに遭った高校生が復讐のために巨大なカマキリに変身するショッキングなストーリーで、多くの観客に強い印象を残した。審査委員特別賞には『歯』(パスカル・ティボウ監督)。優秀芸術賞には『あたしだけをみて』(見里朝希監督)ほか2作品が選ばれた。また、受賞こそ逃したが、韓国映画『牙』(シン・ジョンフン監督)は、餓死寸前の女性吸血鬼のコミカルな生態をユーモラスに描いた楽しい作品。『ホームレス 怒りの追跡者』(キム・ボウォン監督)は、誘拐事件を目撃した女性が必死の決意で犯人を追跡する姿が印象的な作品だ。『Green Light』(キム・ソンミン監督)は、核戦争後の世界をロボット兵士と女性の交流で描いており、興味深いストーリーだった。『明日への約束』(赤井宏次監督)は、余命わずかな女性と娘との交流を繊細なタッチで情感たっぷりに描き、静かな感動が伝わってきた。『ミシマサイコ』(オード・ダンセット監督)は全編で映像の美しさに圧倒されるアニメーション。田舎の神社を舞台に二人の高校生と巫女の交流を描いた『夏の巫女』(小向英孝監督)は、2016年のゆうばりファンタで『あさつゆ』の監督・主演を務めた小川紗良が出演しており、今回もさわやかな青春映画を見せてくれた。

ユニークな作品揃いの企画部門


 企画部門の「ショート・ショウケース」として、ヒョン・スル監督の3作品が上映された。『彼女の別れ方』は自撮りマニアの女性に振り回される男性を描いた楽しい作品、『それは牛のフンの臭いだった。』は、3人の売れない女優が車内に発生したにおいを巡って繰り広げるコメディだが、監督によると実体験に基づいたストーリーとのこと。『アレルギー』は、知り合いの同級生の男に部屋の模様替えを頼んだ女性が、男の勝手な振る舞いに困惑する物語。3作とも楽しい青春映画だった。また、「ゆうばりチョイス」として上映された『演技の重圧』(チョン・グヌン監督)も印象に残る。

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ユン・ソクホ監督と主演の真田麻垂美


たくさんの観客を集めた『心に吹く風』『哭声/コクソン』


 招待作品部門の『心に吹く風』は「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督作品で北海道ロケという話題性もあり、多くの観客を集めた。二十数年ぶりに再会した男女の心の揺らめきが富良野や美瑛の美しい風景を舞台に描かれ、心が洗われるような静かな感動を呼ぶ作品だ。本作では音楽も印象的であり、ストーリーに彩りを添えた。監督は、本作について「冬のソナタが日本でヒットしたことに感謝しており、その恩返しの思いを『心に吹く風』に込めた」と語っていた。

 『哭声/コクソン』は、ナ・ホンジン監督と國村隼をゲストに迎えての上映ということもあり、上映前の会場に長蛇の列ができ、関心の高さがうかがえた。上映後のティーチインでは、寄せられたたくさんの質問に対し丁寧に答える監督と國村隼が印象的だった。

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ナ・ホンジン監督と國村隼


禁断のフォービデンゾーンも魅力たっぷり


 レイティングのついた作品を集中して上映するフォービデンゾーンでは2本の韓国映画が上映された。2015年のゆうばりファンタで『メイドロイド』が上映され、好評を博したノ・ジンス監督の『愛されない女』は、離島に住む親子と一人の女性との不気味な三角関係を描き注目を集めた。監督に、ユニークなストーリーを思いついたきっかけについて尋ねると、「以前、執着心の強い女性と交際していたことがあり、その経験が作品のヒントになった」とのことだった。また、作品で登場するバーが「ゆうばり」という名前であることについては「ゆうばりファンタに毎年参加していて愛着があり、店名にした」と語り、映画祭への熱い思いを語ってくれた。また『アウトドア・ビギンズ』(イム・ジンスン監督)は、ヤクザの暗殺を命じられた男が予想外の事件に巻き込まれるコメディドラマで、大いに観客を沸かせた。

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『愛されない女』 主演のキム・ファヨンとノ・ジンス監督


今後のゆうばりファンタ


 ゆうばりファンタは、夕張市の財政破綻後に再開されて10年を迎え、市民主体の映画祭として定着した感がある。メイン会場は、閉校となった高校の校舎を活用した「合宿の宿ひまわり」に移転して2回目となったが、上映設備や他会場とのアクセスの面で多少不便になったことは否めない。しかし、今後、夕張市は新たな文化施設を建設する計画を持っており、現在のメイン会場での開催は一時的なものになる可能性もある。ともあれ、ゆうばりファンタの楽しさは今後とも変わらないことを願い、また来年も来たくなる思いを強くしつつ、夕張を後にした。


ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017
 期間:2017年3月2日(木)~3月6日(月)
 会場:北海道夕張市内
 公式サイト http://yubarifanta.com/


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Review 『朴烈(パク・ヨル)』 ~日本人女性を同志にした独立運動家の熱い闘い

Text by 井上康子
2017/8/16掲載



 『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』に続き、イ・ジュニク監督が日本の植民地下に実在した人物を描いている。前作が詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)を主人公にした静謐なイメージの白黒作品であったのに対して、本作は独立運動家にしてアナーキストの朴烈(パク・ヨル)を主人公に据えた、熱く、原色が目に焼き付く作品だ。

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 登場する人物や出来事は事実に基づいていると監督は強調している。独立運動家の愛人としてはたいへん意外であったが、ヨルの愛人にして同志が日本人だったというのも事実だ。金子文子というアナーキストで、二人の出逢いは運命的で印象深い。ヨルは東京で車引きをして生計を立てているが、朝鮮人と分かるや、日本人客は正当な車代を払わないばかりか彼を足蹴にする。自身の境遇を書いた「犬ころ」という詩が同人誌に掲載されるが、それを読んだ女給の文子は彼こそが生涯の伴侶だと確信し、同棲を申し出る。文子は親に捨てられ、朝鮮の親戚に売られ、虐待の中を生き延び、権力を不当に行使する者に対する怒りを煮えたぎらせていた。まさに二人は同志だった。

 主なストーリーはこういうものだ。関東大震災後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」等のデマが広まり、6千人余りの朝鮮人が虐殺された。日本政府は虐殺を隠蔽するために、ヨルが皇太子を暗殺しようとしたという事件をでっちあげ、そちらに関心を集めようとする。ヨルと文子は状況を逆手に取り、冤罪であるのに罪を認め、裁判を権力者の不当性と蛮行を訴えるための公的な場として利用し、さらには独立運動の英雄になろうとする。

 パク・ヨルは韓国でもそれ程著名な人物ではないようだ。監督は約20年前に『アナーキスト』(2000年)を製作中に彼を知り、その人生と思想に魅了され、考証を重ねて作品にした。これまで表舞台に登場しなかった彼の真実の姿を見せようという気迫を感じることができる。ヨルと文子が拘束され、裁判にかけられる過程は、日本の法廷で占領下の朝鮮人がこのように堂々と大胆な行動を取ることができたのだと誰もが驚く痛快なものだが、不自然さを感じさせることはない。また、監督の過去作品『王の男』(2005年)、『ソウォン/願い』(2013年)のように、力を持たない者たちの底意地を丁寧に描いて見せて、真骨頂を発揮している。

 主演のイ・ジェフンは足蹴にされ、殴られる程に爆発的に熱を放つヨルを文字通り熱演した。ヨルと対等のエネルギーを放っていた文子役のチェ・ヒソは日本在住歴があり、自然な日本語を披露。彼女は『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』でも主人公を支える日本人女学生役で出演している。

 ヨルと文子を翻弄した運命は日韓の不幸な歴史そのものだ。見終わって、それを思うと何とも居たたまれない気持ちがしたが、ヨルと文子が見せた、国同士が不幸な関係の時であってもそれを易々と越えてしまう、人と人の絆の強さに救いを見出せた思いがした。


『朴烈(パク・ヨル)』
 原題 박열 英題 Anarchist from Colony 韓国公開 2017年
 監督 イ・ジュニク 出演 イ・ジェフン、チェ・ヒソ、キム・イヌ
 日本未公開作

Writer's Note
 井上康子。抵抗の対象は日本ではなく、日本の権力者と捉えている『朴烈(パク・ヨル)』の登場人物たちを見て、約30年前にソウルのタプコル公園で声をかけてくれた老人を思い出した。彼は叔父が日本留学中に憲兵に殺害されたことも終始穏やかに語り、自販機のコーヒーを御馳走してくれた。


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Review 『軍艦島』 ~過酷な状況で必死に生きる人々を描くアクション・エンターテイメント・ドラマ

Text by hebaragi
2017/8/10掲載



 長崎県の端島(はしま)は、別名「軍艦島」と呼ばれる。2015年にユネスコの世界文化遺産に登録され、現在は観光地にもなっている。島にある炭鉱での労働のためピーク時には約5千人もの人々が住んでいたが、その中には、朝鮮半島から様々な名目で連れて来られ徴用工として労働を強いられた人々も少なくないといわれている。

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 映画『軍艦島』のストーリーは、リュ・スンワン監督が「歴史的事実にインスピレーションを受けて制作した」とコメントしているように、強制徴用という史実を元にした「集団脱走」というフィクションの要素を含むものとなっている。

 映画のストーリーはこうだ。

 主人公ガンオク(ファン・ジョンミン)は、クラリネットを演奏する楽団長であり、京城(現在のソウル)のバンド・ホテルでの生演奏を生業としていた。あるとき「日本で稼げる」という誘いに乗り、ガンオクはまだ幼い一人娘ソヒ(キム・スアン)、チンピラのチルソン(ソ・ジソブ)、日本統治下の朝鮮で苦難の日々を送ってきたマルリョン(イ・ジョンヒョン)らとともに軍艦島に行くこととなる。

 島に到着した日。印象深いシーンがある。一行を迎えた炭鉱会社の職員が、軍歌「同期の桜」をリクエストし、ガンオクたちが情感たっぷりに演奏するところだ。もちろん、日本の植民地支配の時代であり、朝鮮人にとって日本の軍歌を演奏することは屈辱に違いない。しかし、ガンオクは、島で生きていく覚悟を決めたかのような演奏ぶりだ。一方、一緒に軍艦島に渡った労働者たちは、事前の予想に反し、地下一千メートルの危険な採炭現場で過酷な労働を強いられる。ガス爆発などの事故も発生し、また、労働者の賃金もピンハネされるなど苦難の日々が続く。また、連れてこられた女性は島内の遊郭での労働を強いられ、客から乱暴な仕打ちを受けたりもする。そんな中、労働者たちは、過酷な現実から逃れようと集会を開くなどして団結を強めていく。

 日本の敗戦が濃厚となっていくなかで、会社は数々の不当な行為を隠蔽しようとして関係書類を焼却したり、労働者たちを坑道に閉じ込めて爆破し、自らに都合の悪い事実を隠蔽しようと画策する。一方、朝鮮から派遣された光復軍のムヨン(ソン・ジュンギ)が、そうした企てに気づき、労働者たちを島から脱出させるための行動を決意することとなる。

 切迫した状況の中で、労働者たちは脱出を企てるが、それを阻止しようとする会社側と銃撃戦となり、多数の労働者が倒れる。生き残った労働者たちは、帰国すべく石炭運搬船に乗り込み、長崎港を目指すが、その日は奇しくも1945年8月9日。長崎に原爆が投下された日であり、船上からキノコ雲を見ることとなるラストシーンでエンドロールを迎える。

 本作は、ストーリーをめぐり、公開前から日本と韓国で様々な話題を呼んできた。たとえば、作品中、島から脱出するためのロープを作るために主人公や労働者たちが旭日旗を引き裂くシーンがあり、日本では「反日映画では」との評価も聞かれる。

 確かに、そのような指摘も否定はできない。しかし、リュ・スンワン監督は、全編を通じて過酷な状況を必死に生き抜く人々を描くとともにアクション的要素も盛り込んでおり、エンターテイメント作品として見ることもできよう。また、舞台となる軍艦島のセットは大がかりなものであり、多額の制作費をかけた力作として見ることもできる。本作のテーマは重く過酷だ。しかし、見終わった後はアクション大作としての演出に圧倒された印象が強い。

 軍艦島については、世界文化遺産に登録された際にユネスコからの勧告もあり、日本が2017年末までに徴用工などに関するインフォメーションセンターを設置することを表明している。その事実については本作のラストにも掲載されているが、未だに実現の見通しは立っていない。

 本作は、韓国では公開(7月26日)から8日間で500万人の観客動員を記録する大ヒットとなっている。日韓の歴史を考え、相互理解を深めるためのひとつのきっかけとして、多くの日本人にも見てほしい作品である。


『軍艦島』
 原題 군함도 英題 The Battleship Island 韓国公開 2017年
 監督 リュ・スンワン 出演 ファン・ジョンミン、ソ・ジソブ、ソン・ジュンギ、イ・ジョンヒョン、キム・スアン
 日本未公開作
 公式サイト http://www.gunhamdo2017.co.kr/

Writer's Note
 hebaragi。半年ぶりに訪れたソウルでは、『軍艦島』のほかにも、イ・ジュニク監督の『朴烈(パク・ヨル)』、ポン・ジュノ監督の『オクジャ』を見た。いずれの作品もジャンルこそ異なるが、心に伝わってくるものがあったのが大きな収穫だった。


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