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Report 『お嬢さん』ジャパンプレミア ~パク・チャヌク監督「ヒロインの秀子は、高峰秀子さんに因んでいる」

Text & Photo by Kachi
2017/2/10掲載



 3月3日(金)より公開される韓国映画『お嬢さん』のジャパン・プレミア上映が、パク・チャヌク監督を迎えて2月8日(水)、2月9日(木)両日、都内にて開催された。監督に加えて、初日には女優の真木よう子が、二日目には恋愛小説『ナラタージュ』などで知られる小説家の島本理生が登壇。“禁断の愛”を描いた『お嬢さん』についてトークが開催された。

※ シネマコリアのツイッター・アカウントでの連続投稿を加筆・修正し、まとめた記事です。ツイッターの文字数制限のため、発言や表現はかなり省略されています。

2月8日(水)@アキバシアター ゲスト パク・チャヌク、真木よう子


 監督は「1930年代の日本と西洋と韓国の関係が伺える映画で、私なりの解釈で日本文化を描きました。俳優陣は死ぬ気で長いセリフを覚えて演じました。(日本語が)日本の皆さんには中途半端かも知れませんが、暖かく観てください」と挨拶。それに対し、真木は「パーフェクトでない部分も作品が圧倒してくれていて、全く問題なかった」と絶賛した。

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 また、真木は「邦画だと官能的な部分を掘り下げ過ぎて、女性は観辛くなるが、『お嬢さん』は絶妙なバランス。特に二人の女優が素晴らしい。日本の女性も自分の意見を持って強くいられるようになって欲しいので、本作で女性同士の絆が描かれているのには感動した」と述べた。

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監督と真木よう子さん(右)

 「女優をキャスティングするときに気をつけている点は?」という問いに対し、監督は「どんな監督も、映画と役柄にあうことを考えますが、個人的には頭が良くて自分の主張をはっきりする女性が魅力的で、セクシーだと思っているので、そういう女優を選ぶことになる」と回答。そして、「キム・ミニ扮するヒロインの秀子は、成瀬巳喜男監督作品で知られる高峰秀子さんに因み、主体性と気品を持つ女性を念頭においた。女性は自分の楽しみや快楽の追求をためらわないで。そして男性は、女性にもっと尽くしてあげなければ、と思ってくだされば嬉しい」と観客に対するメッセージを残した。

2月9日(木)@スペースFS汐留 ゲスト パク・チャヌク、島本理生


 作家・島本理生とのクロス・トークは、監督の「R18+のレイティングで公開されたが、(韓国では)いい成績を残している。俳優が頑張ってくれた。特に、劇中、あわれでみじめな扱いを受ける俳優二人にお礼を言いたい」との挨拶で始まった。

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 リアルな女性の心理描写に定評のある島本理生は、『オールド・ボーイ』でパク・チャヌク作品に魅せられたという。

島本「『お嬢さん』は、プロモーション映像を見ると悲劇的な感じかもと思ったが、スリリングかつ開放感のある映画で感動した。女性の強さと愛情深さが素晴らしかった。」

 二人は先日対談を終えたばかりだそう。

島本「監督は、激しい作風のイメージに反した、穏やかな方だと感じた。」

監督「よく言われる(笑)。特に『オールド・ボーイ』の頃、自分のファンだという方は革ジャンを着ていたり、タトゥーだらけだったり…(笑)。最近は女性ファンも増えて嬉しい。」

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監督と島本理生さん(右)

 作品理解が深まる質問が相次ぐ。

島本「スッキ役のキム・テリは新人女優だが、撮影中に変化していった?」

監督「新人なりに自信にあふれていたので抜擢したのだが、最初大勢のスタッフに囲まれどぎまぎしてしまった。そのうち、のびのびし始め順応が速かった。」

島本「男女のラブシーンは、どんなに愛しあっていても力関係があるが、『お嬢さん』は対等。女性同士と男女のラブシーン、どこが違うと思う?」

監督「映画史上一番セリフが多いベッドシーンを撮ろうと思っていた。会話を交わしながら心と感情を共有し、体がついていく場面にしたかった。また、劇中の設定として、令嬢と下女という身分差があり、また植民地と被植民地という格差がある。その二重の格差をなくして対等にしていく過程を、ベッドシーンで見て欲しかった。男女だったら難しかったでしょうね。」

島本「どういうところが難しい?」

監督「これほど親密な会話を交わしながらは男女間だと難しかったし、想像できなかった。体位も女性ならではのもの。男性は射精の瞬間に向かって走っていくので、ベッドシーンはその瞬間の描写が中心となってしまう。目的の到達点ではなく、過程を見せたかった。こういう(際どい)話を皆さんの前ですると、普通、妙な気持ちになるのですが(笑)、この映画は快楽に対する率直さを礼賛しているので、全く大丈夫です。」

島本「ラブシーンで笑ってもいい?」

監督「それは私が意図していることなので、この映画では大いに笑って欲しい。サクラを入れて笑いを誘導するとかしても(笑)。」

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 島本さんの最後の質問より、パク・チャヌク監督が素敵な女性に薦めたい映画5本が披露された。

  ルキノ・ヴィスコンティ『山猫』
  成瀬巳喜男『乱れる』
  キム・ギヨン『下女』
  ニコラス・ローグ『赤い影』
  アルフレッド・ヒッチコック『めまい』


『お嬢さん』
 原題 아가씨 英題 The Handmaiden 韓国公開 2016年
 監督 パク・チャヌク 出演 キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、キム・ヘスク、ムン・ソリ
 2017年3月3日(金)より、TOHOシネマズシャンテほかロードショー
 公式サイト http://ojosan.jp/


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Review ホン・サンス偏愛家が語る『ひと夏のファンタジア』『今は正しくあの時は間違い』、そして『あなた自身とあなたのこと』 ~知ることは過去、愛すことは今

Text & Photo by Kachi
2017/2/4掲載



 2016年に日本で一番愛された韓国映画は何かと問われたら、やはり『ひと夏のファンタジア』に尽きるだろう。6月に劇場公開されて終映を迎えた後も、秋から続いた各映画祭や特別上映会など引く手あまたで、チャン・ゴンジェ監督の姿を見かける機会も多くあった。その恩恵で前作『眠れぬ夜』もアテネ・フランセ文化センターで再上映され、監督の旧作が新しいファンに届いたことは喜ばしかった。

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TAMA CINEMA FORUMのトーク、韓東賢氏(左)と菊地成孔氏(右)

 そして昨年11月、第26回映画祭TAMA CINEMA FORUMの<ホン・サンス/チャン・ゴンジェ -映画でめぐる夢と出逢い->にて、『ひと夏のファンタジア』と『今は正しくあの時は間違い』が上映された。チャン・ゴンジェが「第二のホン・サンス」と称されるのは割と定着しているように思っていたが、こうして併映する試みは初めてだったのではないか。上映後には、社会学者の韓東賢氏と、『ひと夏のファンタジア』を激賞した評が韓国版映像ソフトのブックレットに掲載されたという、ミュージシャンで映画批評家の菊地成孔氏が登壇してのトークが開催された。菊地氏は「この2本は異様に胸をキュンとさせる。我々は『ひと夏のファンタジア』のような夢と現実の反復から逃れられない。夢でしか得られない極端な感情があり、夢だからこそ胸がキュンとするし、一瞬で恋の結末が変わることを『今は正しくあの時は間違い』で見せられるからキュンとする」と熱く話した。

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『ひと夏のファンタジア』

 奈良県五條市の旅情をかき立てる風景や、夢と現(うつつ)とを行き来するような物語構成など、語りどころの多い『ひと夏のファンタジア』だが、一番観客に強く印象づけたのは、ラストでのヘジョン(キム・セビョク)とユウスケ(岩瀬亮)のキスシーンだろう。トークショーで菊地氏も言及していたが、このシーンは本当の不意打ちで作られている。映画前半、映画作りに必要なのは「準備をしない」ことという会話が登場人物同士で交わされていたが、なるほど、そこがすでに伏線になっていたのだ。ユウスケのリードによるキスは、監督が「拒まれてもいいので、キスしようとするように」と岩瀬に伝え、キム・セビョクには別の指示を出していたというのは、演出方法としては少々禁じ手のように思うけれど、不意打ちから甘美な場面が立ちあがってくるというのは、あのシーンが生み出す名状しがたい、胸がキリキリするような切なさが十分証明している。そして、あの場面の成り行きがある程度キム・セビョクに委ねられていて、彼女が反射的にあの反応を選んだのなら、ラストシーンの素晴らしさは、ひとえにキム・セビョクの役者的勘がもたらしたものだと、彼女を大いに称えたい。

 これもトークで菊地氏が触れていたが、『今は正しくあの時は間違い』をきっかけとした監督と女優の恋愛騒動を、韓国映画に詳しい方々ならばご存じだろう。筆者は、ホン・サンスがこうしたゴシップを振り舞いたことを、特に驚かずに受け入れた。数々の浮き足だった男女関係や道ならぬ恋を作品で示してきたホン・サンスだから…、という単純な意味ではない。フィクションが現実を侵犯したのだということでもない。近作『自由が丘で』や後述する新作『あなた自身とあなたのこと』といった、語りの実験的な作品と比較した場合、『今は正しくあの時は間違い』は、どこかいつもと異なる気分をまとった映画であったからだ。

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『今は正しくあの時は間違い』

 たとえばホン・サンスといえば、男と女の仲が深まる途上としての、差し向かいでの酒席が不可欠で、それを長回しで捉えた構図が「ホン・サンス スタンダード」だったが、『今は正しくあの時は間違い』でエピソードの大きな転換点となる刺身屋での一幕は、ハム監督(チョン・ジェヨン)とヒジョン(キム・ミニ)が横並びで座り、それを手前から縦に捉えた構図で、趣の異なる男女の近さを感じさせたのだ。

 さらに胸が騒いだのは、男と女が出来上がっていく作劇を補強するズームだ。ホン・サンスは以前、ズームを使用する理由について「ここで何を見せるかを同じ空間で見せられること」、「俳優がカットでつながる演技を意識しなくてよい」、「ロングテイクの中にリズムが出来、笑いも生まれる」などを挙げていた(とはいえホン・サンス映画の偏愛家たちは、より深い意味を見出さずにいられようか)。確かに『次の朝は他人』で使われるズームは、主人公の映画監督がバーの女主人を凝視するカットで用いられ、ワケありの相手と瓜二つな彼女を執着たっぷりにまなざす顔を示して笑いを誘ったが、『今は正しくあの時は間違い』では、ハム監督が妻子持ちだと知ったヒジョンの衝撃と失意を見せるためだった。ズームは抜き差しならない二人の恋路というストーリーの主旋律に収れんされ、(作品の質を決して毀損するものではないにせよ)端的に言って全体が過度に分かりやすい話になったのだ。『今は正しくあの時は間違い』を明らかにメロドラマとして成立させようとする欲望がそこに脈打っていたのだと、今も思えてならない。

 第29回東京国際映画祭で披露された新作『あなた自身とあなたのこと』は、画家のヨンス(キム・ジュヒョク)が主人公だ。ある時、恋人のミンジョン(イ・ユヨン)について、あちこちで男と呑んでは喧嘩をふっかけているという噂を、友人(キム・イソン)から聞かされる。「酒を飲み過ぎない」という二人の約束を破ったことに憤慨したヨンスは、帰宅したミンジョンを問い詰めて口論に。結果、ミンジョンから「距離を置こう」と言われてしまう。翌日、ヨンスはミンジョンの自宅や職場に出向いて許しを請おうとするが、肝心の彼女には会えず、焦燥が募る。

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『あなた自身とあなたのこと』

 ところで、劇中では不思議なことが起こっている。ジェヨン(クォン・ヘヒョ)は、カフェで偶然ミンジョンに出くわし親しげに声をかけるが、彼女は「自分はミンジョンではない」とやんわり突っぱねる。やがて「私はミンジョンの姉妹だ」と答えると、「ミンジョンもきれいだが、君もなかなかだね」と、男はすんなりと彼女を受け入れてしまう。サンウォン(ユ・ジュンサン)は同じくカフェにいたミンジョンに、「以前出版社で働いていただろう?」としつこく話しかけるが、またもや女は「記憶にない」と答える。それでも男は、この“ミンジョンそっくりの彼女”と、下心見え見えに一杯を楽しんでしまう。

 『あなた自身とあなたのこと』は、SFなのかオカルトなのか、自分を含めた過去の記憶を一切喪失してしまう女性の悲劇なのか…。観客としては、どうにかしてこの映画のつじつまを合わせたい。つかまえられないミンジョンと、どうにか彼女に近づきたい男たちとのじりじりする鬼ごっこ、あるいはかくれんぼが、そんな観客を巻き込み繰り広げられていく。“ミンジョンそっくりの彼女”は、「私を知っているの?」というセリフを、男たちへ繰り返す。しかし、彼らが分かったように「君はミンジョンだろ?」と言い放っても、彼女を決してモノには出来ない。

 思えば私たちは、相手の過去についてばかり知りたがっている。年齢や名前はもちろん、短気、穏和、ポジティブやネガティブといった性格でさえ、これまで自身が遭遇した出来事への平均的な反応から導いた情報だと言ってもいい。そうした「過去」と、目の前に向きあっている「今」は、果たしてどれほどイコールで結ばれ得るのだろう。“ミンジョンそっくりの彼女”は、亡霊のような過去から自由になって、「今」という瞬間に存在する自分を愛してもらいたいのだ(そうした人間の願望は、すでに前作『今は正しくあの時は間違い』というタイトルに現れていた!)。かくまで「今」が絶対的に肯定されるべきなのは、人生が後戻りできず、未来に何があるかも分からないなら、今見えているこの瞬間を肯定するぐらいしか手立てがないからではないか。私たちの生活には、どれほどの「知らない」があふれているか。その知らなさの中に、人生の秘鑰(ひやく)を探すことが、私たちの営みのすべてなのだ。

 小説ではイメージが不可視であるという特性を使って、人称のトリックが使われる作品がいくらでもある。語り手が「私」と言ったところで、劇中の誰の言葉なのかは判然とせず、時に信頼できない語り手が、読み手を幻惑するからだ。しかし映像として表現される映画という芸術では、「私」が特定され、ミンジョンはただ一人として観客に認識される。にもかかわらずホン・サンスは、映画ではほとんど困難に近い人称の冒険に挑み、大胆な跳躍で私たちを楽しませた、というよりも、楽しむ方法を提示してくれた。世界が一本の乱れない線で結ばれるという考えがもはや誤謬で、『あなた自身とあなたのこと』の結末のように知らないことをそのまま抱きしめる幸福に、気づかせてくれたのだ。


第26回映画祭TAMA CINEMA FORUM
 期間:2016年11月19日(土)~11月27日(日)
 会場:パルテノン多摩、ベルブホール、ヴィータホール
 公式サイト http://www.tamaeiga.org/2016/

第29回東京国際映画祭
 期間:2016年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
 会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほか
 公式サイト http://2016.tiff-jp.net/ja/


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Review 『お嬢さん』 ~パク・チャヌクが描く、耽美で倒錯したエロスとサスペンス

Text by hebaragi
2017/2/3掲載



 韓国映画界の巨匠、パク・チャヌク監督といえば『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』の、いわゆる「復讐三部作」が有名だが、最近ではソン・イェジン主演のミステリー・スリラー『荊棘の秘密』の共同脚本を手掛けるなど多様なテーマに取り組んでいる。監督の最新作となる本作は、豪邸に住むお嬢さん・秀子(キム・ミニ)と、彼女の財産を狙う詐欺師・藤原伯爵(ハ・ジョンウ)、下女のスッキ(キム・テリ)、そしてお嬢さんの後見人である叔父・上月(チョ・ジヌン)の4人が、財産と心を奪い取るために騙しあうストーリーだ。スリラーではあるが、秀子とスッキのラブストーリーの要素も垣間見える。原作は「このミステリーがすごい!」で第1位になった、イギリスの人気ミステリー作家サラ・ウォーターズの『荊(いばら)の城』。

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 舞台は1939年、日本統治時代の朝鮮。幼少期に両親を亡くし、叔父の厳格な保護のもと、人里離れた豪邸で暮らす日本人の貴族のお嬢さん・秀子。彼女のもとに、伯爵が呼んだ新しい下女・スッキが訪ねてくる。毎日、書斎で本を読むことを日課としている孤独な秀子。一方、下女の正体は有名な詐欺師一味に育てられた孤児だった。スッキは、秀子を誘惑して伯爵と結婚させた後、日本の精神病院に入れて、秀子が相続する財産を奪い取ろうという策略のために派遣されたのだった。その後、伯爵とスッキはあの手この手で秀子を誘惑し始める。しかし、伯爵の思惑とは裏腹に、献身的なスッキに秀子が少しずつ心を許すようになり、スッキもまた、騙す相手のはずだった秀子に惹かれていく。そして、秀子とスッキの関係は深まり、身も心も許しあう関係に発展することとなる。さらに、事態は思わぬ方向へと動き始め、予測不可能な驚愕の結末へと進む。

 冒頭からパク・チャヌク ワールド全開。植民地時代を背景にした、贅をつくした和洋折衷(英国風家屋と日本家屋)の豪奢な屋敷と庭園、家具調度品、日本の水墨画などの美術、着物やドレスなど、主役ふたりのコスチュームの美しさに息を飲む。また、いわくありげな屋敷自体からも耽美的な美しさが伝わってくる。フィクションと現実の境目が曖昧に見える地下室の作りも見どころだ。さらに、秀子とスッキのラブシーンや、スッキが秀子の入浴の世話をするシーンも印象的で美しい。例えて言えば、江戸川乱歩の小説を彷彿とさせる作品世界だ。

 一方、上月が秀子に官能小説を朗読させるシーンで、恍惚とした表情を見せるところも興味深い。まるで、日本の性文化へのあこがれを素直に表現しているようだ。倒錯した世界観に思わず目を背けたくなるシーンもあるが、全編を通じて秀子とスッキの美しさが際立つ。監督が「当時、韓国のインテリたちは日本の帝国主義的支配が永久に続くと思っていました。日本文化を信奉し、溺愛し浸っていたのです」とコメントを寄せているように、日本語の台詞や春画の取りあげ方も効果的だ。膨大な量の日本の稀少本を収蔵した地下室で「朝鮮は醜いが日本は美しい」と言い切る上月。一方「日本は醜いが朝鮮は美しいと言う日本人もいる」と発言する藤原伯爵。これらの発言から、日本の植民地支配や日本文化に対する当時の朝鮮人の複雑な思いを垣間見ることができる。

 本作は三部構成となっており、一部はスッキの視点で、二部は秀子の視点で描かれ、三部では衝撃的な真実が明かされる。全体で145分という長尺だが、スリルあふれる展開で、全く長さを感じさせない。また、台詞の約半分が日本語であり、日本(三重県桑名市、名張市、松阪市)でロケが行われたことから、エンドロールにスタッフとして多数の日本人の名前がクレジットされている。

 『お嬢さん』は、韓国で「青少年(満18歳未満)観覧不可」のレイティングで公開されたにもかかわらず、観客動員は400万人を突破。アメリカやイギリスでは「2016年・今年の映画」に選ばれた。また、2016年に開催された第69回カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門にノミネートされ、芸術貢献(=バルカン)賞を受賞。スタンディング・オベーションが起きたほど観客を魅了した。さらに、韓国内外68もの映画祭・映画賞にノミネートされ、そのうち受賞が31を記録しているように、世界が認めた秀作といえよう。一部にレズビアン映画との見方もあるが、それだけにとどまらず、当時の日本文化が興味深く描かれるなど、深い味わいと奥行きを持った作品といえる。予測不可能な、倒錯したエロスとサスペンスが交錯する本作が、日本の観客にどう受け止められるのか、非常に興味深いところだ。


『お嬢さん』
 原題 아가씨 英題 The Handmaiden 韓国公開 2016年
 監督 パク・チャヌク 出演 キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、キム・ヘスク、ムン・ソリ
 2017年3月3日(金)より、TOHOシネマズシャンテほかロードショー
 公式サイト http://ojosan.jp/

Writer's Note
 hebaragi。江戸川乱歩の作品世界が好きだ。小学生の頃、大人の世界を垣間見るゾクゾク感の虜になった記憶がある。昨年、『お嬢さん』をソウルの映画館で初見して、久々にそのゾクゾク感を思い出した。


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