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Report レインボー・リール東京「QUEER×ASIA ~APQFFA傑作選~」 ~マイノリティの痛みと孤独が共鳴しあう『ソウォル路の夜』

Text by Kachi
2016/7/17掲載



 世界の傑出したクィア映画が一堂に会する「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」が、2015年、運営母体としてNPO法人「レインボー・リール東京」を設立した。そして映画祭も、25回目を迎える今年、「レインボー・リール東京」と新たな名称となり、7月9日(土)より東京都内で開催されている。

sowol_road.jpg
『ソウォル路の夜』

 7月15日(金)には、「QUEER×ASIA ~APQFFA傑作選~」が上映された。APQFFAとは、アジア・太平洋地域でのLGBT映画の支援・振興を目的として2015年に設立された「Asia Pacific Queer Film Festival Alliance」の略称であり、加盟する映画祭が推薦する短編映画の中から、4作品を紹介するプログラムだ。韓国からはソウル・プライド映画祭推薦、シン・ジョンフン監督の『ソウォル路の夜』がセレクトされている。

 女手一つで息子を育てるジョムスン(パク・ミョンシン)は、ソウォル路を通りかかるドライバー相手に体を売っている。ある夜、客に暴力を振るわれていたヨンジ(コ・ウォニ)を助けたことで、二人の人生は交錯していく。

 劇中、客の男性は街娼に「ホモ野郎」と罵声を浴びせる。映画の舞台となった龍山区南山ソウォル路では、実際にトランスジェンダーが客を取っていたそうだ。52歳のジョムスンは、自分より若い男性に「おばさん」と呼ばれ、足元を見るようにして値切られる。本作では、生きるために懸命な人たちが、女性であること、性的少数者であることで蔑まれる理不尽さ、人間の弱さや狭量さが生々しく浮き彫りにされる。さらにトランスジェンダーについては、ゲイやレズビアン、バイセクシャルといった当事者からも「“LGBT”から“T”を外すべき」という意見が出るなど、より強い差別や偏見に晒されるケースもあるという。それでも、社会から取り残されたようなうら淋しいソウォル路で、二人の痛みと孤独が共鳴しあう情景は温かい。

 「QUEER×ASIA ~APQFFA傑作選~」には、『ソウォル路の夜』のほか、インドネシア・ジャカルタQ!映画祭推薦で、少年の性の目覚めについて暴力を絡めて描く『虎の威を借る狐』、カムアウトの難しさと家族愛を扱った台湾作品『ママには言えない私の秘密』、主人公の一人がオープンリーゲイの中学生という設定が新鮮な、香港レズビアン&ゲイ映画祭推薦作『スクール・デイズ』といった、アジアの珠玉短編3本が揃う。

 レインボー・リール東京は、東京・青山のスパイラルホールにて、7月18日(月・祝)まで開催される。「QUEER×ASIA ~APQFFA傑作選~」は18日16:20より上映される。


レインボー・リール東京 ~第25回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~
 期間:2016年7月9日(土)~7月18日(月・祝)
 会場:シネマート新宿、スパイラルホール
 公式サイト http://rainbowreeltokyo.com/


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Review 『暗殺』 ~1,270万人が熱狂した、暗殺者たちの信念

Text by Kachi
2016/7/11掲載



 華麗なドレスを身に纏ったチョン・ジヒョンが、次々と銃弾を浴びせていく。ガーターに取り付けたホルスターから漂う悲壮な色香に、喝采を送りたくなる。悪役とはいえ、イ・ジョンジェが醸し出す、神経症の美男子ぶりに惑わされる。『暗殺』は実に興奮させてくれる映画だ。

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 1933年、中華民国の杭州に拠点を置く韓国臨時政府。独立運動家で党首のキム・グ(キム・ホンパ)の指揮のもと、日本の政府要人の暗殺計画を遂行すべく、速射砲の異名を取るサンオク(チョ・ジヌン)、爆弾職人ドクサム(チェ・ドンムン)、そして凄腕のスナイパー、アン・オギュン(チョン・ジヒョン)ら、独立軍の強者たちが呼び寄せられていた。彼らを束ねるのは、キム・グの右腕にして警務隊長のヨム・ソクチン(イ・ジョンジェ)だったが、彼は密かに日本軍と通じていた。さらに、正体不明の殺し屋ハワイ・ピストル(ハ・ジョンウ)が、オギュンたちを狙っていた。卑劣な思惑を知らないまま、暗殺団は日本統治下の京城に乗り込み、ついに運命の日を迎える…。

 例えば『暗殺』同様、1930年代の京城を舞台にした『モダンボーイ』(2008)は、時代の先端をいく軽薄なお洒落男子に扮したパク・ヘイルと、彼を手玉にとる妖艶な恋人を演じたキム・ヘスのコンビネーションは楽しいものだったのだが、キム・ヘスが祖国独立を目指すテロリストの一人だったことが発覚すると、物語のトーンは一変。最後、パク・ヘイルは、恋人の遺志を継ぐように、テロ活動へ身を投じていく。日帝統治という時代背景は、登場人物たちに悲劇性を与えるのは必然で、その陰影が良作たらしめていたことは確かだが、一方で作品そのものも暗く沈んだ印象に仕上がるのは否めなかった。『暗殺』のハワイ・ピストルにも、日本による統治が影を差しているが、「若旦那」と彼を呼び慕う、従者にしてお目付け役の爺や(オ・ダルス)との掛け合いが、暗さを感じさせない。香港ギャング映画を髣髴とさせる二丁拳銃の横撃ちスタイル、クラシックカーに箱乗りしながらの銃撃戦など、心が躍る。ソクチンの義指も大げさで、欠損を際立たせるようだが、そうした細部のデフォルメが、映画を愉快にしてる。

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 娯楽性を追求する中、演出にも神経が行き届いている。金のためだけに生きる、無政府主義者のハワイ・ピストルだったが、彼がある非道を目にした瞬間、指先のかすかな震えに、押し殺した憤怒が表現される。また日本語が飛び交う本作にあって、ハ・ジョンウの話す日本語が際立って自然なため、日本人役で登場しているはずの役者陣の拙さが耳についてしまう憾みがある中、親日派の実業家カン・イングクを演じたイ・ギョンヨンは、その拙さが逆に演出として成功していた。すなわち、日本人と日本語で会話するシーンは極めて慇懃だが、母国語に戻ると、そのなめらかな口ぶりによって、老獪で残忍な素顔が垣間見える、というふうにである。

 アン・オギュンたちやハワイ・ピストルの信念とは、反日思想や政治イデオロギー以前に、己に恥じない生き方をすることだった。悪賢く上手く立ち回っているように見えたヨム・ソクチンだが、ハワイピストルやアン・オギュンのように、孤高でいられない。ソクチンの心にあったのは恐怖と諦めだけで、信念などなかったからだった。無残な最期を遂げていく者の誇り高さと、絶望に身を任せた者の末路の愚かさ。そして希望は、掴もうした者の手にしか届かない。


『暗殺』
 原題 암살 英題 Assassination 韓国公開 2015年
 監督 チェ・ドンフン 出演 チョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ、ハ・ジョンウ、チョ・スンウ、キム・ヘスク
 2016年7月16日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次公開
 公式サイト http://www.ansatsu.info/

Writer's Note
 Kachi。『暗殺』は、とにかく大勢で大歓声をあげながら観たい映画です。「千万妖精」ことオ・ダルス様の「待ってました!!」なオイシイ登場シーン、ぜひご期待ください。


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Review 『視線の間』 ~国家・組織・家族の中で、あなたならどう行動しますか

Text by 井上康子
2016/7/6掲載



 『視線の間』は、国家人権委員会の「人権映画プロジェクト」により製作された13番目の作品で、6月に韓国で一般公開されたばかりだ。「人権映画プロジェクト」には、長編やアニメーション作品もあるが、短編オムニバス形式の「もし、あなたなら/視線」シリーズとしては『ある視線』に続く7番目の作品で、チェ・イックァン監督『私たちにはトッポッキを食べる権利がある』、シン・ヨンシク監督『誇大妄想者(たち)』、イ・グァングク監督『焼酎とアイスクリーム』の3編で構成されている。韓国に留まらない、広く現代社会が抱える問題をユーモアやファンタジーも交えて、自然に考えさせてくれる。

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『視線の間』韓国版チラシ


『私たちにはトッポッキを食べる権利がある』


 色気より食い気の女子高生ジスはお腹がすけば即、校門前にあるトッポッキ屋に駆け込む。トッポッキ(餅を甘辛く炒めた、韓国の代表的な軽食)を食べるのが彼女の至福の時間だ。だが、学校は勉強に集中させるため、登校後は校門閉鎖の措置を取る。「大学に合格するまではおまえたちはゾンビだ」と教師はのたまい、飢餓状態に陥ったジスはゾンビになって教師に襲い掛かる。チェ・イックァン監督(『ヴォイス』『ママ』)は、韓国映画アカデミー(映画産業を重視する韓国ならではの国立の映画人養成機関)院長として組織の中で仕事をする中で「個人と組織の間に発生する問題に関心を持つようになった」という。「トッポッキ命」と主張し、学校の威圧に屈することなく、アクロバティックな活躍を見せる主人公は笑いと憧憬を誘う。


『誇大妄想者(たち)』


 自分の行動だけでなく、自分が声に出していない考えまでも他人が知っていることに気づいたウミン(SHINHWAのキム・ドンワンが演じている)は不安を抱く。彼に近づいて来たキム博士は「権力者が人々を監視し、科学技術を使って心理をコントロールしている」と説く。国家権力の監視の恐怖を描いているが、スノーデン氏の暴露のような抵抗の話ではない。抵抗者に見えた博士は実は恐怖から無抵抗になっている。彼の言葉「私たち皆が平等になる日が訪れるまでは濡れた落ち葉のように(権力者に見つからないように行動せず黙して)生きていく必要がある」に代表される、一貫したブラック・ユーモアで服従に慣れることの不気味さを際立たせる。

 驚いたことに、シン・ヨンシク監督(『俳優は俳優だ』『不器用なふたりの恋』)は、『ドンジュ』(日本統治下の1945年、留学先の日本で拘束され死亡した、韓国を代表する詩人ユン・ドンジュを描いた作品)のシナリオ・ライター兼エグゼクティブ・プロデューサーとして、当時のリサーチをする中で、組織に順応することを教える日本の全体主義教育の弊害が、今も韓国に残っていることを知り、その問題を反映させたそうだ。


『焼酎とアイスクリーム』


 保険の勧誘をしているセアは成績を上げるのに必死だ。道端で出会った女性から、怪我で歩けない自分に代わって焼酎瓶をアイスクリームに交換して来てほしいと頼まれた時も、彼女を勧誘することを目的に承諾する。だが、焼酎瓶も女性もいつのまにか消えてしまう。何かと金の無心をする母をセアは疎み、怪我から働けなくなっていた女性は娘に援助を求めるが拒否される。家族がいるのに関係を断ち切る、断ち切られるというのは何と切ないことか。二人の孤独感が呼応し、現実と非現実が交錯する幻想的な情景が拡がる。イ・グァングク監督(『ロマンス・ジョー』)は、父親の体調が悪化したことを契機に孤独な死をイメージしていったそうだ。不安定な働き方のために家族を援助する余力のない若者の問題も背景にありそうだ。


「監督の自律性を尊重し、ずっと人権映画を作る」


 「もし、あなたなら/視線」シリーズ第1作『もし、あなたなら~6つの視線』のチョン・ジェウン監督が「国家人権委員会に対し作品に口出ししないでほしいと申し入れ、約束が守られた」と述べたのをアジアフォーカス・福岡映画祭2003で聞いた時に、質の良さはそうやって確保されたのかと納得したが、本作を含む6編の人権映画のプロデューサーを務めた人権委広報協力&人権映画企画業務担当主務官キム・ミナ氏も「最も重要なことは創作の自律性を最大限尊重すること。それでこそ良い映画ができる」と力強く述べている。また、「人権映画は本作で最後と報道されていることは誤り」で「今年は予算がないが、予算を取るために最大限努力をしてずっと映画を作る」という頼もしい発言もしている。今後も作品を見ていきたいものだ。


『視線の間』
 原題 시선 사이 英題 If You Were Me 韓国公開 2016年
 監督 チェ・イックァン、シン・ヨンシク、イ・グァングク 出演 キム・ドンワン、オ・グァンノク、パク・チュヒ、ソ・ヨンファ、パク・チス
 日本未公開作

Writer's Note
 井上康子。『うつくしいひと』は熊本出身の行定勲監督が、同じく熊本出身の姜尚中氏を主人公に抜擢し、熊本城でロケして作られた。作品を見て間もなく、実際の城の風景は変わり果ててしまったが、歴史ある城を背景に主人公が若き日を回想しながら歩くシーンは何とも重厚だった。


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