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Interview 『生きる』パク・ジョンボム監督 ~社会の矛盾を力強く暴き、底辺に生きる人々を繊細な心で見守る

Text by 井上康子
2015/10/20掲載



 パク・ジョンボム監督は、長編デビュー作『ムサン日記~白い犬』で脱北青年の深い悲しみを丁寧に救い上げて描き、多数の国際映画祭で賞に輝き、世界の注目を集めた。「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015」で上映された長編第2作『生きる』も過酷な状況に陥った底辺に生きる労働者の絶望が希望へと変わる過程を重厚に描き、期待を裏切らない作品だった。いずれの作品も、どうしても作らなくてはならない作品だったことが伝わってくる力作だ。韓国映画界の中で独自の姿勢を貫く監督に話を聞いた。


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パク・ジョンボム監督


監督・主演・製作・脚本と一人四役


── 『ムサン日記~白い犬』同様に監督・主演・脚本と一人三役をこなしたのはたいへんでしたか?

製作もやっています。憂鬱で長い映画で製作してくれる人がいなかったので(笑)。全州国際映画祭や国の支援金に応募してお金を作りました。

── 脚本がすばらしいと思いました。昨日の上映時に「弟のような存在だった友人が自殺し、終わりのない悩みの中に陥った。“生きる”ということはどういうことかを考えたことがきっかけで作った」とお話しでしたが、脚本はどの位時間をかけて準備しましたか?

友人が2009年に亡くなり、2010年に『ムサン日記~白い犬』の公開があり、その後にすぐ書き始めて、完成までに4年ほどかかりました。50回位書き直しています。最初は兄弟の話でしたが、友達が加わり、兄が姉に変わり、姉の娘が出てきて、映画も長くなりました。今回ご覧いただいたのは2時間54分バージョンですが、ディレクターズ・カットの4時間バージョンもあります。劇場で公開するには4時間は長いし、映画祭でも短くといわれ、今回上映のバージョンを作りました。4時間バージョンでは今回のバージョンの後に1時間話が続き、主人公は戦い葛藤するもので、ラストが異なっています。製作費に6億ウォンを注ぎ込みましたが、収入はほとんどなく、赤字になっています。DVD、ブルーレイ製作も難しい状況です。今後、DVDかブルーレイを作るめどが立ったなら4時間から4時間半にまとめたものを作りたいと思います。

── 日本で一般公開されたらいいと思いました。

日本ではオファーがなく、公開は難しいように思います。将来、私が歳を取って、作品をまとめた回顧展を催す時があれば皆さんに見てほしいです。数回の上映ですが、映画祭で見てもらえるのは良い機会だと思います。初めて私の映画を見てくださる方がいるのも有難いです。



罪悪感を抱えて、罪悪感に苦しむ人を描く


── 精神を病む、主人公の姉スヨンは強い罪悪感に苦しんでいる人でした。『ムサン日記~白い犬』の主人公も罪悪感をもっていました。どうして、このように罪悪感をもつ人物を登場させたのでしょうか?

私はそういう人に強い関心があります。罪を犯した人、困難な立場に置かれて生きる気力を失った人にたいへん興味があります。純粋さや道徳性を失った人が罪を犯し、それが許される過程にも興味があり、それが人生だと思いました。この世の中は不条理ですが、それを克服してこそ人間だと思います。『ムサン日記~白い犬』の主人公は殺人を犯したことによる明確な罪悪感をもっていました。スヨンの場合は世の中に対する恐怖があり、さらに水害で両親が亡くなり、ショックを受けたことが影響しています。私自身がパニック障害を抱えていますが、スヨンもそういう人物です。

── 監督のパニック障害は、『ムサン日記~白い犬』の脱北者スンチョルのモデルになった友人が亡くなったことや、この映画を作るきっかけになった弟のような友人が自殺したことが関係しているのですか? 監督自身が罪悪感をもっているのでしょうか?

2008年に脱北者の友人が胃癌で亡くなり、2009年に弟のような友人が自殺したことで、パニック障害を発症してしまいました。脱北者の友人は一緒に住んでいたにもかかわらず、入院中は大学が忙しくて毎日看病に行けませんでした。自殺した友人はうつ病でしたが、そばにいてあげられませんでした。映画の撮影中で、会議の最中に彼から電話があり「後でかけなおす」と伝えたのですが、その2時間後に自殺したのです。取り戻せないという思いが罪悪感になっています。



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『生きる』


資本主義の腐敗を暴く


── 罪悪感をもつスヨンの対極に位置づけられる、平然と人の物を奪う人物がいました。主人公ジョンチョルが働く味噌工場の社長とその娘です。本当は社長の過失から豆が腐敗してしまったのに、娘がそれを隠して工場の労働者たちに「工場存続のために、あなた達の中で過失を見つけるように」と迫ったことには恐怖を感じました。

資本家の悪行を描いています。「利益は自分たちが得て、損害は労働者に負わせる」ことが現実に行われています。整理解雇、不当解雇、権利はく奪、人権蹂躙もしばしばあり、私はそういうことのデモにも参加しています。労働者問題に関心があり、以前からの考えを反映しました。豆の腐敗には資本主義腐敗の比喩も込めています。

── 工場の労働者に「過失を見つけるように」と迫るのは社長自身でも構わなかったのではと思いましたが、なぜあえて娘を登場させたのでしょうか?

私も娘を登場させるかどうかは随分悩みました。最終的に登場させたのは、資本家たちは自分の手を汚さず、誰かにやらせると考えたからです。中間者は自分を守るために資本家の犬になります。搾取を意識せずに生活するというのは怖いことです。映画を見たスタッフの家族から「社長の娘がなぜ悪いかわからない。自分が家族でも同じことをする」という声があがったことがありましたが、その日はショックで眠れませんでした。その後、このことについてはスタッフ・俳優を呼び出して話し合いをしました。良い格好をして、調子の良い話をして、人を騙す人がたくさんいます。真実が歪曲されること、そのことで他人が苦しむことに興味をもたないというのはとても怖いと思いました。

── 監督の実家が味噌工場と聞きました。

父は映画の社長のように悪い人ではありませんよ(笑)。2~3人雇って、一緒に手作りする小さい工場でしたが、作業はとても骨が折れて、今はすでに作ってあるものを販売する程度です。ロケは父の工場でしました。映画に出る味噌工場の物や風景も、全部父の工場のものです。戸外に味噌の甕が並んでいる風景がありますが、甕は父が20年かけて収集した物です。



北野武監督の『HANA-BI』を見て夢が変わる


── 監督演じる主人公が、水害で壊された家を再建するために、全力で凍った地面の石を押し出そうとするのは、人生の苦悩を象徴する場面でしたが、監督の身体が完全に鍛えられた肉体労働者の身体になっていて、説得力がありました。アルゼンチンのマール・デル・プラタ国際映画祭で主演男優賞を受賞されたのも当然と思えました。

父が運動をする人で、その影響で小さい頃からよく運動をしていました。大学は体育教育科でした。映画を撮るためにお金が必要で、一年の半分は建設の日雇いや重労働の船に乗る仕事をし、半分は撮影をするということを7~8年続けました。大学に入学してしばらくは体育教師になろうと思っていたのですが、兵役中に北野武監督の『HANA-BI』を偶然に見て衝撃を受け、自分も映画を撮りたいと思うようになったのです。

── 『HANA-BI』を見て、「感動した」を越えて「映画を撮ろう」という決意にまで至ったのは特別ですね。

それまでも、小説や詩を書くことはしたいと思っていました。生徒を教えることもすばらしいし、教えながら夏休みや冬休みに執筆するつもりでした。でも、映画監督をしながら教えることはできません。映画監督になろうと思った時に夢が変わったのです。



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パク・ジョンボム監督のサイン


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015
 期間:2015年9月18日(金)~9月25日(金)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。パク・ジョンボム監督は、イ・チャンドン監督『ポエトリー アグネスの詩』の助監督を務め、イ監督からは多大な影響を受けている。そのイ監督が製作予定の殺人魔が登場する作品が次回作の候補にあがっているそうだ。ぜひ、その作品を完成させて、イ監督と一緒にまた映画祭に登場してほしい。


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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015 ~映画人達が示した新しい幸福観

Text by 井上康子
2015/10/19掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015(以下、アジアフォーカス)」が、9月18日から8日間、福岡市内会場で開催され、22ヶ国・地域からの45作品が上映された。25周年を迎えた今年は記念プレイベントとして過去の上映作から投票で選ばれた作品が上映されたが、選ばれたのは最近上映された作品ではなく、2008年に上映されたパキスタン映画『神に誓って』で、長くアジアフォーカスに関心を持ち続けているファンが多いことを実感した。オープニングを飾ったのがインドネシア作品であったことに加えて、梁木ディレクターが「最も将来性を期待する国」としてインドネシアに大きく焦点を当て、同国の特集上映や監督らを招いてのシンポジウムも催された。韓国からは『ムサン日記~白い犬』で脱北青年の孤独を描いたパク・ジョンボム監督の新作『生きる』の上映・監督来福があった。


受賞作品はいずれも実在女性を描いた作品


 オープニング上映された『黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん)』(インドネシア)は、『聖なる踊り子』(アジアフォーカス2013で上映)のイファ・イスファンシャ監督による武侠映画。革新的な武侠表現を見せようとする監督とアクションの特訓をしたという出演者のエネルギーに満ちた作品だった。

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『Little Big Master(原題)』の脚本家ハンナ・チャン(左)と
エイドリアン・クワン監督(写真提供 映画祭事務局)

 「福岡観客賞」(観客投票1位の作品)に輝いた『Little Big Master(原題)』(香港・中国)は、エリート層子女の英才教育に虚しさを感じて退職した女性が、廃園寸前の保育園の園長職を安月給で引き受け、貧困家庭の子供の教育に打ち込むという、実在女性をモデルにした作品。エイドリアン・クワン監督は「彼女の活動に感銘を受け映画化した」という。生き馬の目を抜くと称される香港で、このような作品が生まれ、大ヒットと聞いて関心を持っていたが、貧しい人と同じ地平に立ち、彼らのために努力を続け、輝いていく彼女の姿に文句なしに感動した。「熊本市賞」(観客投票2位の作品)の『山嶺の女王 クルマンジャン』(キルギス)は、隣国ロシアとの関係に苦慮し、キルギスの人々のために息子まで犠牲にし、独立の足がかりをつけ、国祖として今も崇められている女性の生涯を描いたスペクタクル映画。大規模な国家プロジェクトとして製作されたというだけに迫力満点だった。

 実在男性を描いた『ダークホース』(ニュージーランド)も感動的だった。マオリ族の精神疾患を抱える天才的なチェス・プレーヤーが、自らはホームレスになろうとも貧困家庭の子供たちにチェス教え、彼らに夢を持たせていく。こうして実在人物を描いた作品を概観すると、いずれも他者の幸福に自身の幸福を見出す主人公が揃っていることが印象に残った。


過酷な人生を生きる:韓国『生きる』、イラン『未熟なざくろ』


 『ムサン日記~白い犬』で底辺に生きる脱北青年を描いたパク・ジョンボム監督が、『生きる』では底辺に生きる労働者を描いている。精神を病む姉とその娘を抱え、建設仕事の給料を持ち逃げされた上に、仲間からは回収を命じられる。その上、冬を越すための味噌工場の仕事でもトラブルの責任を負わされる。「厳しい条件と闘いながら生きていくことを通して見せるものがある」との信念から、ロケ地として選ばれたのは韓国で最も寒い、冬の江原道で、撮影は苦労が多かったそうだ。前作同様に監督が主人公を演じているが、「演技のために地面が凍っている所の石を動かす練習をしてみると石は動かず、通りがかりの人からはバカなことをやっていると呆れられた」。だが、そのことで「凍った所の石を動かすという不可能なことをやっていくことが“生きる”ということだという思いを強めた」という。主人公は絶望的な状況の中で人間性を取り戻す。「生きとし生けるものの中で人間だけが人間性を証明するための良心をもつ」という監督の言葉に強い想いがにじんでいた。

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『生きる』

 『生きる』との共通性を強く感じたのは『未熟なざくろ』(イラン)。底辺に生きる若夫婦の夫が瀕死の重傷を負う。妻は介護していた認知症の女性を自宅から老人ホームへと送り込む役割を負うが、最後に彼女との大切な約束を守り切る。こちらも「人間だけが人間性を証明するための良心をもつ」ことを訴える作品だった。マジドレザ・モスタファウィ監督は映画と文学、双方の影響を受け、本作で長編デビューした若い人だが、巨匠イ・チャンドン監督作品『ポエトリー アグネスの詩』を彷彿させる、詩のイメージが全編に溢れる美しい作品だった。


佐々木昭一郎氏『ミンヨン倍音の法則』で自身のルーツを見せる


 NHK演出家時代に『四季・ユートピアノ』など独自の作品で国内外の賞に輝いた佐々木昭一郎氏のおよそ20年ぶりの新作で初の劇場映画。韓国女性ミンヨンを主人公に、ミューズとしての彼女に過去と現在を縦横させ(時には佐々木氏自身の母も演じさせ)、彼の思想のルーツを見せる。主人公を演じたミンヨンさんは声の良さに惚れ込んで抜擢した一般女性。氏は撮影中も俳優の声だけを聞けば演技の良し悪しが分かるという耳の持ち主。作品にはモーツァルトからアリランまで多くの歌・曲が使われているが、すべて記憶から自然にイメージされたものだという。唯一無二の作品はこのような稀有な能力があってこそ生み出されるのだろう。


感じる文化の変化


 フィリピンのローレンス・ファハルド監督による『インビジブル』(フィリピン・日本)は、自国から日本への出稼ぎ労働者を描いた作品で、家族への送金のために、国外追放の虞や孤独に耐えながら生活している人々を登場させている。福岡で働く男性が街を歩く場面があるが、彼の眼を通して見る荒涼とした福岡は私の見慣れた街ではなく、その差異に軽い目眩を感じた。

 優れた作品を見ることができ、また、このようにアジアに住む私たちの違いや共通性を情動を伴って知ることができた。そして、複数の映画人が「自分だけ」ではない、「他者も共に」という共通の幸福観を示したことに、文化の変化と私たちの希望を感じた。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015
 期間:2015年9月18日(金)~9月25日(金)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。中学生時代にNHKで放送された佐々木昭一郎作品に魅了され、NHKに感想を書き送った。長い沈黙があったが、アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015で再び作品を見ることができ、サイン会では当時の感動も一緒に伝えることができ、万感胸に迫った。


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Report 第10回札幌国際短編映画祭(SAPPOROショートフェスト2015) ~札幌の秋を彩った珠玉の作品たち

Text by hebaragi
2015/10/18掲載



 10月7日から12日まで、札幌プラザ2・5をメイン上映会場に「第10回札幌国際短編映画祭(SAPPOROショートフェスト2015)」が開催された。2006年に札幌で初の国際短編映画祭として誕生し、10回目の節目となる今年は、世界99の国と地域から3,321作品の応募があり、オフィシャル・コンペティション対象の100作品や、10周年記念特別プログラムなど、約200作品が上映された。期間中は三連休ということもあり、各会場ともに盛況で満席となる上映回もあるなど、節目を迎えた映画祭にふさわしいものとなった。今回、筆者は前回に続き二度目の参加となったが、多数の作品のうち日本映画と韓国映画を中心に鑑賞することができた。紅葉もちらほら始まった札幌を彩った映画祭をレポートしたい。

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映画祭ポスター


楽しい日本映画が続々


 本映画祭のメインとなるコンペは「フィルムメーカー部門」と「作品部門」があるが、いずれも秀作揃いで観客を大いに魅了した。なかでも作品部門の「ナショナル・プログラム」に多数の作品が出品された日本映画はユニークな発想のものが多かった。最優秀国内作品賞を受賞した『小春日和』(齋藤俊道監督)は、確執を抱えた兄弟が母親の葬儀に直面して新たな一歩を踏み出す姿を、ひとりの女性の目を通して丁寧に描いた秀作だ。「北海道セレクション」で最優秀北海道作品賞を受賞した『ハングリー・フォー・ラブ』(ジャスティン・アンブロシーノ監督)は、一組の男女が札幌を舞台に食べ歩くコミカルな作品で会場を大いに沸かせた。

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『小春日和』

 また、受賞作品以外にも、桃井かおり主演の『オールーシー!』(平柳敦子監督)は突飛なテーマをユーモラスに描いた。寺島しのぶと寺島進が出演したハードボイルド『サベージ・ナイト』(クリストフ・サニャ監督)はふたりの魅力が存分に発揮された作品だ。一方、青春映画では『SR サイタマノラッパー』シリーズを彷彿とさせるラッパーが主人公の作品『帰ろうYO!』(松本卓也監督)や、『しゃぶしゃぶスピリット』(Yuki Saito監督)、『あの子の席』(片岡翔監督)、『はんたま』(橘剛史監督)など、若い才能がほとばしる楽しい作品が多かったことが印象に残る。


韓国映画で新たな魅力発見


 韓国映画では4本の作品を見ることができた。世界各地の映画祭で高い評価を受けたアニメーション作品『えさ(Prey)』(キム・ボヨン監督)は最優秀ミニショート賞を受賞し、観客は完璧なまでの映像美に圧倒された。また、「ファミリー&チルドレン部門」で上映されたアニメ『グンター(Gunther)』(エリック・オー監督)も楽しい設定が、満席の会場でたくさんの親子を楽しませ、最優秀チルドレンショート賞を受賞した。また「アジアンタイフーン10」と題した特集上映では、女優ムン・ソリが初めて監督し主演も務めた『女優魂(the Actress)』が上映されたが、シリアスでありながらコミカルな要素を含み、女優としての心理描写が見事に描かれていた。

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『えさ(Prey)』

 さらに、協力映画祭である「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」から、10周年を記念して編成された特別プログラム「ショートショートフィルムフェスティバル特集」では、第69回ベネチア国際映画祭で最優秀短編賞を受賞した『葬式(Invitation)』(ユ・ミニョン監督)が上映された。本作品は今回の映画祭で筆者が最も注目していたものだが、期待どおりだった。ある日突然、夫を交通事故で亡くした妻が憔悴しきったなかで夫の秘密にふれ、夫の愛人もまじえて展開していくシリアスなドラマだ。妻ギョンスク役のイ・サンヒは終始無表情で多くを語らないが、その表情が彼女の内面の葛藤や憤りなどの複雑な心境を見事に描き切っていたところが強く印象に残る。

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『葬式(Invitation)』

 イ・サンヒは、1980年代に活躍し『旅人は休まない』などで知られる女優イ・ボヒの面影を彷彿とさせるクール・ビューティーな雰囲気を持っているかのようにも思え、印象深かった。俗に「人は一生で三度ほめられる(一度目は出生、二度目は結婚式、三度目は葬儀)」というが、三度目はほめられない人生について考えさせられる作品でもあった。余談だが、今年公開の『海街diary』(是枝裕和監督)にも葬儀のシーンが出てくることを思い出した。誰もが避けて通れない死や葬儀をモチーフにした作品は、内外問わずこれからも作り続けられていくことだろう。


市民に定着したショートフェスト


 本映画祭は、2013年から高校生以下が無料で鑑賞できることになっているほか、子育て世代応援企画として「ファミリー&チルドレン部門」の一部プログラムにおいて会場を少し明るくするなど、小さな子どもに配慮した上映も行われている。今年の新たな取り組みとしては、インターネットなどで配信されている、企業が広告の枠を超え制作した短編映像作品「ブランデッド・フィルム」の特集があげられる。また「札幌国際メディアコンベンション」を初開催し、海外のショートフィルム・マーケットの取り組みなどに関する会議や、ヨーロッパにおける「映像」を活用した街づくりやビジネスの展開についての講演会が行われるなど、様々な角度から映画にふれることのできる貴重な機会となった。

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メイン会場の札幌プラザ2・5

 また、本映画祭は札幌随一の老舗商店街・狸小路の元映画館をメイン会場に開催されていることから、文化を活かした街づくりや商店街の活性化の観点からも大きな意義を持つイベントといえるだろう。まるで宝石箱をひっくり返したように、次々と珠玉の作品に触れられる本映画祭の魅力は語りつくせないが、秋の札幌を彩るにふさわしい文化イベントとして市民の間にも定着した感がある。今後のさらなる発展を願ってやまない。


第10回札幌国際短編映画祭(SAPPOROショートフェスト2015)
 期間:2015年10月7日(水)~10月12日(月・祝)
 会場:札幌プラザ2・5、シアター・キノほか
 公式サイト http://sapporoshortfest.jp/15/

Writer's Note
 hebaragi。映画祭で上映後に自然と沸き起こる拍手が好きだ。特に自分が気に入った作品で盛大な拍手が沸き起こると、まるで自分がほめられたように感じて嬉しい。これからも心から拍手が沸き起こるような作品に出会い続けたいものである。


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Report 福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2015 ~韓国、台湾と広がり続ける海外との交流

Text by 井上康子
2015/10/13掲載



 若手映像作家の交流と育成を目的に、福岡インディペンデント映画祭2015(以下、FIDFF)が、8月27日~9月1日、9月3日~6日に福岡市内で開催された。コンペ部門応募作品を中心に、国内・海外からの招待作品、併せて145作品が上映された。今年は記念事業として実行委員会が初プロデュースした福岡が題材の短編2作品が上映され、海外招待作品には台湾からの作品が初登場した。また、恒例の韓国からの作品には昨年MOUを交わした東西大学作品が加わり、映画祭の発展ぶりが伺えた。


今年の受賞作:他者と関係を築くことの難しさを表現した作品が印象的


 最優秀作品賞『きらわないでよ』(加藤大志監督)では、吃音のためにイジメにあっているクラスメートに好意を抱きながらも、主人公は保身のために彼を傷つけてしまう。監督は『シザーハンズ』から、異形の男性を差し置いて幸福になった女性の残酷さに注目したそうで、そこがリアルな重みになって観る者に迫る。90分部門グランプリ『彦とベガ』(谷口未央監督)は、認知症女性と彼女とのコミュニケーションを切望する周囲の人々の心の内を果敢に描き、人の尊厳とは何かを考えさせた。5分部門グランプリ『NEKKO WORK』(坂本直也監督)はCGアニメで根っこを他者との関係性の象徴としてファンタスティックに表現。今年新設されたレインボー賞(LGBTを描いた作品を対象に授与)に輝いた『私は渦の底から』(野本梢監督)は同性の友人を愛する女性が、自己を肯定するまでの葛藤と、本当の自分となって友人に向き合おうとする勇気を見せた。

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授賞式(写真提供 FIDFF事務局)

 奇抜な発想の作品に出合えるのもFIDFFでの楽しみだ。40分部門グランプリ『異し日にて』(松田彰監督)は予想だにしなかった結末に驚かされた。時間の都合で見られなかったが、性器から歯が出る女性を主人公にした『歯まん』(岡部哲也監督)はその筆頭と言えるだろう。


継続する韓国との交流:東西大学ともMOUを交わす


 FIDFFは、第1回(2009年)より、釜山の映画祭作品を中心に韓国の作品を上映し、FIDFFの作品も釜山の映画祭で上映するという形で交流を継続している。今回はメイド・イン釜山独立映画祭(以下、MIB)2014で上映された作品と、昨年MOUを交わした釜山にある東西大学作品の計3作品が招待上映され、ゲストを迎えてのカフェトークも行われた。釜山での上映についていうと、FIDFF2014グランプリ作品が11月に開催されたMIB2014で招待上映されており、FIDFF2015優秀作品も同様に釜山独立映画祭(MIBから今年名称変更)2015で招待上映される予定だ。

 上映された3本は全く異なるジャンルの作品だったが、作り手の思いが伝わってくる秀作揃いだった。

『スイカ』(イ・ジュギョン監督)
 不器用ながら暖かみのある義父によって、スイカのようなお腹の妊産婦が婚家の一員になっていく。家族の良さを肯定した温かみのあるドラマ。

『夜行』(イ・サンヒョン監督)
 不法就労の朝鮮族の青年が、思いを寄せる女性を守ろうとするが、彼女からはストーカーと誤解されてしまう。凍てつく夜を背景に青年の孤独が浮かび上がる。

『親子』(ユン・ジス監督)
 監督自身の、祖父と父の交流を描いたドキュメンタリー。アルツハイマー病で一人での農作業が困難になった祖父を父は毎週帰省して手伝う。田園風景に互いを想う父子が溶け込み、静かな余韻を残す。

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左:イ・サンヒョン監督、右:ユン・ジス監督(写真提供 FIDFF事務局)

 カフェトークでは、イ・サンヒョン監督(東西大学卒業、釜山国際映画祭アジア・フィルム・アカデミースタッフ)は「釜山国際映画祭を身近で体験できるし、大学での設備が整っていて、製作の支援も受け易い」、ユン監督(東義大学学生)は「ドキュメンタリー作品を撮り続けているキム・ジゴン監督(FIDFF2012『Grandma』上映、ゲスト来福)やキム・ヨンジョ監督(FIDFF2011ゲスト来福、FIDFF2013『Hunt』上映)の話を学生は聞き、それに刺激されて、ドキュメンタリーを撮るということが繰り返されている」と釜山ならではの良さや伝統を述べた。


台湾との交流も始動


 海外との交流はさらに拡がり、今年は「台湾青春、未来映画祭(未来電影日:以下、FFDT)」との相互上映が行われた。8月のFFDT2015で、FIDFF2014グランプリ作品が招待上映され、FFDTの3作品が今回招待上映された。『忘年人』(廖華伶監督)は認知症がテーマで、笑わせ、驚かせ、最後は家族の情愛を見せて泣かせる作品。『荒城之光』(林克敏監督)は戦いに暮れる近未来を舞台に一縷の希望としての人への信頼を描き、『黒夜来臨』(張凱智監督)は高校野球選手が選手として生き残ろうと手段を選ばずもがく姿を見せた。FFDT作品は大道具、小道具、衣装などに商業上映作品レベルのこだわりを持ち、力強い映像を見せてくれた。


FIDFFの夢


 釜山との交流を7年間続けてきたFIDFFの夢は、福岡と釜山での合作を作ることだそうだ。「実現に向けて来福したゲストとの交流を続けている」とFIDFF実行委員会会長、西谷郁氏は語った。イ・サンヒョン監督は「すばらしいとされている合作でも気持ちの交流が伺えない作品がある。今年公開された日韓合作『ひと夏のファンタジア』では気持ちの交流が感じられた」と感情の交流の重要性を強調した。釜山の映画人と密度の高い交流を続けてきたFIDFFの合作が楽しみだ。


福岡インディペンデント映画祭2015
 期間:2015年8月27日(木)~9月1日(火)、9月3日(木)~9月6日(日)
 会場:福岡アジア美術館
 公式サイト http://fidff.com/

Writer's Note
 井上康子。福岡インディペンデント映画祭2015で上映された『親子』では、大木の下で農作業の合間に憩う人々の場面に強い懐かしさを覚え、農婦だった祖母のことが思い出された。祖母が作った甘いスイカを食べることができなくなって何年になるのだろう。


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Review PFF『ひと夏のファンタジア』 ~新しい映画作りに踏み込んだチャン・ゴンジェ監督の“醒めないひと夏の夢”

Text by Kachi
2015/10/5掲載



 これは夢の終わりなのか。いや、始まりなのかもしれない。耳の底に残響を感じつつ『ひと夏のファンタジア』を観終えると、そんな不思議な余韻に包まれた。

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『ひと夏のファンタジア』

 9月19日(土)、東京・京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターで開催中の第37回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)において、チャン・ゴンジェ監督『ひと夏のファンタジア』(2014)がサプライズ上映された。この作品は、世界から新進気鋭の監督を招き、奈良で映画を撮るという「NARAtiveプロジェクト」によって製作され、2014年のなら国際映画祭でプレミア上映された。今年6月に公開された韓国では、インディーズ映画としては異例の3万人の観客を動員するヒットとなった。

 『ひと夏のファンタジア』は、映画のシナリオ作りのために奈良県五條市を訪れた監督テフンと助監督ミジョンが市内を案内されて土地の人に聞き取りをするChapter1、そして、韓国から来た女性ヘジョンと、ある日本人男性との出逢いを描くChapter2から構成されている。

 モノクロームで撮影されたドキュメンタリー・タッチのChapter1と、カラーで撮られたフィクションのChapter2。二つの章は、虚実がない交ぜのようだ。Chapter2は、Chapter1で構想を練られた、五條市を舞台にした新作のラブ・ロマンス映画のようにも、Chapter1に登場した誰かが夢想した、甘いひと夜のようにも見える。

 チャン監督は、映画制作の名門「韓国映画アカデミー」の撮影科出身だ。そのためか特殊な映像効果に頼らず、撮影の手法によって独特の空間が作り出され、五條の街並みはどこか現実離れした世界としてスクリーンに映し出される。そんな空間が演出する男女の恋の予感。Chapter1から2へ移る際、モノクロームの夜が突如色づく瞬間は感動的ですらあった。

 ティーチインでチャン・ゴンジェ監督は「自分自身について映画にすることができたら他人についても映画にできるというのが、韓国映画アカデミーで教わった映画の作り方」と話した。

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チャン・ゴンジェ監督

 女の子ばかり追いかけていた自分を投影した長編デビュー作『Eighteen -旋風-(原題 つむじ風)』(2009)は、製作費1億ウォン(当時およそ700万円)という低予算の自主映画であったが、バンクーバー国際映画祭龍虎賞、ソウル独立映画祭独立スター賞を受賞した。結婚したばかりで子どもを持つことに悩んでいた自身を題材にし、第25回東京国際映画祭で上映された第二作『眠れぬ夜』(2012)は、柔らかい浮遊するようなトーンで映し出された夜の情景が印象的で、新婚夫婦のささやかな悩みと幸福が描かれていた佳品であった。

 そんな中、自分自身の話を反映させつつも、誰かの人生と恋を描いた『ひと夏のファンタジア』は、やや趣が異なる。劇中に登場する映画監督は、前もって準備していたものを捨てて、偶然知り得たことを映画にする意義を強く語る。それは、チャン監督が新しい映画作りの段階へ踏み込んだという、チャン監督自身の言葉のようにも感じられた。


第37回ぴあフィルムフェスティバル
 期間:2015年9月12日(土)~9月24日(木)
 会場:東京国立近代美術館フィルムセンター
 公式サイト http://pff.jp/37th/

『ひと夏のファンタジア』
 原題 한여름의 판타지아 英題 A Midsummer's Fantasia 韓国公開 2015年
 監督 チャン・ゴンジェ 出演 キム・セビョク、岩瀬亮、イム・ヒョングク、康すおん
 2015年冬、劇場公開予定
 公式サイト http://hitonatsunofantasia.com/

Writer's Note
 Kachi。「第二のホン・サンス」とも評されるチャン・ゴンジェ監督。でも個人的には、『ひと夏のファンタジア』はチャン・リュル監督『慶州』に似た雰囲気の映画だと思いました。


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