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Review ドキュメンタリー『月に吹く風/Wind on the Moon』 ~『渚のふたり』イ・スンジュン監督が写し撮った、互いの存在を慈しむ盲ろうの娘と母

Text by 井上康子
2014/11/19掲載



 2014年2月に日本で公開されたドキュメンタリー『渚のふたり』で、盲ろうの夫と脊椎障害がある妻の互いを思いやる日々を2年に渡って撮影して見せたイ・スンジュン監督の最新作。今回は生まれつき盲ろうで、見えない・聞こえない・話せない女性イェジと、彼女を抱えて生きてきた母親の日々をとらえたドキュメンタリーだ。

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『月に吹く風』

 イェジは、驚くべきことに長く公教育から排除されていた。母親は娘が教育を受けられるように奔走したが、ろう学校からは「盲学校に行け」、盲学校からは「ろう学校に行け」と言われ、受け入れられなかった。撮影中に17歳で行う住民登録証の申請をした彼女だが、盲学校での教育を受けられるようになったのはようやっと13歳頃からだ。『渚のふたり』の夫婦は指点字により支障なくコミュニケーションができていたのに対し、イェジは専門的な教育を長く受けることができず、また重度の知的障害も併せ持っているためにコミュニケーション手段を獲得できていない。母親は常に娘が何を望んでいるか推測して対応することが求められる。不安を感じたり気に入らないことがあったりすると、イェジは自分の頭や顔を激しく叩く。その度に、母は娘が傷つかないように自分の手でその殴打を受け、彼女の思いを理解できなかったことに罪の意識を抱く。

 自傷を繰り返すイェジだが、触覚や回転覚により自分が落ち着くことができる世界を持っている。部屋の中では手を広げてクルクルと回転し続け、ぬいぐるみをなでで手触りを楽しむ。海水浴では水に触れた感覚や、波の揺れにうっとりとした表情を見せる。自傷も回転を反復する行為も、イ・スンジュン監督は問題視することなく、ひたすら彼女の世界を理解しようとレンズを向けている。

 イェジは頻繁に母親に抱きついて抱擁を求め、母に抱かれると満面の笑みを浮かべる。母親も無辜(むこ)の笑みを見れば我知らず微笑む。家族に大事にされてきたイェジは母親以外の家族もまた求めている。父の車に乗ろうと急ぎ足になり、乗りこむや穏やかな表情を浮かべる。正月休みに帰省した姉の手をさぐり求め、握り返してもらった時も笑みを浮かべ、姉もそんな妹がかわいくて微笑む。前作『渚のふたり』のインタビューで「夫妻が寂しさを共有していると感じたことが度々あった。それは現代社会で生きている私たちが忘れがちになることで、とても羨ましいと感じた」と述べたイ監督は、本作では、言葉をやりとりして生じるのではない、「互いの存在そのものを大切に思う共感の笑み」を観客に見せたかったのではないだろうか。

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幼き日のイェジを抱く母親

 母親はイェジとコミュニケーションができるようになることを切望している。盲学校では「水」をサインで表現する指導を受けているところだ。高熱のため2歳前に盲ろうになったヘレン・ケラーが、家庭教師サリバンの働きかけで、指文字が物の名前を表わしていることに気づき、最初に指で綴ったのも「water」だった。知的障害のあるイェジがサインを習得するのは容易ではないだろうが、彼女がコミュニケーション手段を得て、要求表現ができるようになり、自身の不全感を減じさせ、母が罪悪感を抱かずに過ごせる日が訪れることを願う。


『月に吹く風』
 原題 달에 부는 바람 英題 Wind on the Moon 韓国公開 未定
 監督 イ・スンジュン
 配給・海外セールス会社のサイト http://www.docairways.com/(本作の紹介・予告編あり)

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Writer's Note
 井上康子。見えない・聞こえない世界を少しでも実感するために、目隠し・耳栓で過ごしたことがある。見えない不便さ以上に、環境音さえも聞こえないことによる孤独感は深く、ヘレン・ケラーの「耳が聞こえないことは目が見えないことよりもより痛切」という言葉を思い出した。


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Review 『パタパタ』 ~不条理な世界に変化をもたらす一匹のサバの勇気

Text by 加藤知恵
2014/11/16掲載



 下北沢トリウッドにて開催される「冬のアニメ祭り」で、12月6日より2週間、韓国の長編アニメーション『パタパタ』が上映される。本作は韓国で2012年に劇場公開されたイ・デヒ監督の長編デビュー作であり、日本では「花開くコリア・アニメーション2014」で初上映された。

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 まだ薄暗い夜明けの漁港、漁師の抱えるたらいから飛び出した一匹のサバが、地面に横たわっている。それを拾い上げたのは海鮮料理店の板前。サバは彼の店へ運ばれ、店頭に並ぶ水槽の中に放り込まれてしまう。そこではヒラメやアナゴ、タイ、スズキ、イシダイ、アイナメといった様々な魚たちが、人間に食される日を怖れながら日々をやり過ごしていた。

 監督は制作に際し、2年もの時間を費やして魚に関する綿密な調査を行ったという。各キャラクターの性格は実際の習性を基にイメージ化されており、繊細な目の動きや愛らしい仕草によって、どのキャラクターも生き生きと魅力的に表現されている。

 しかし本作が、サバと仲間たちとの交流を描いた愉快な物語だと思ったら大間違いだ。サバは水槽に入れられた直後、自分の代わりに別のサバが捕まえられ、刺身にされる光景を目にする。そして他の水槽から瀕死の魚が投げ込まると、皆は「食事だ」と目を輝かせながらそれに食らいつく。夜になれば水槽内を牛耳るオールド・ヒラメがでたらめなクイズを出題し、最下位を言い渡されるや問答無用に尾びれを食べられる。逃げ場のない狭い世界を支配する弱肉強食の掟、絶対的な序列意識、そして不条理な独裁。そんな地獄のような環境で、サバはもう一度故郷の海へ帰るべく、幾度も脱出を試みる。

 監督のイ・デヒは世宗大学でアニメーションを専攻し、当時発表した短編作品『ペーパーボーイ』(2002年)はアヌシー国際アニメーション映画祭でも上映の機会を得た。卒業後はアニメーション制作会社で5年間働き、個人で『パタパタ』を制作するまでには更に6年の月日を要したという。『パタパタ』のストーリーは彼が会社員時代に感じた閉塞感や不条理な社会への批判意識がベースとなっている。脱出を試みるサバは、いつしかその行動から“パタパタ”と呼ばれるようになる。そして最初はパタパタを馬鹿にしていた魚たちも、その必死な姿を目にするうちに次第に感化されていく。とあるインタビューで監督は、「“パタパタ”は決してただの悪あがきではない。それによって誰かを変えることができるのだから」と語っている。それこそが本作に込められた最大のメッセージなのである。

 更なる見どころの一つは「ミュージカル・アニメーション」である点だ。物語の途中で突如3Dから2Dの絵に切り替わり、ミュージカルシーンが始まる展開には驚かされる。しかし楽曲のクオリティは決して侮れない。タンゴのリズムやジャジーなピアノが印象的なアップテンポの曲から、しっとりと憂いを歌うバラードまで、曲のジャンルも実に多様である。それもそのはず、イ・デヒ監督は大学時代にバンド活動を行った経験もある、音楽にかなりこだわりのある人物なのだ。そして実は主人公のパタパタは女性なのだが、これは「保守的なオールド・ヒラメと対立する進歩的なキャラクターとして女性の方が適していたから」という真面目な理由に加え、「ミュージカルシーンの歌を女性の声で聴きたかったから」という、監督のごく個人的な音楽的嗜好も反映されている。

 個人的に最も興味深かったのは、ほぼ全ての声優が2役以上を掛け持ちしていることである。パタパタと女性のヒラメの役はキム・ヒョンジという声優が演じているし(これはラストシーンで意味を持つことになる)、全く別のキャラクターであるスズキとアナゴ、アイナメとタイもそれぞれ同一の声優が演じ分けている。エンドロールを見なければ気付かないほど見事な演技力であるが、あらかじめ知ったうえで鑑賞すれば、ますます楽しめるのではないかと思う。

 今回「トリウッド 冬のアニメ祭り」で本作は毎日20時より上映される。仕事帰りの会社員も立ち寄れる時間帯だ。社会生活で日々感じる息苦しさを、パタパタの脱出劇に重ねてみるのはいかがだろうか。


『パタパタ』
 原題 파닥파닥 英題 PADAK 韓国公開 2012年
 監督 イ・デヒ 声優 キム・ヒョンジ、シ・ヨンジュン、アン・ヨンミ、ヒョン・ギョンス、イ・ホサン
 2014年12月6日(土)より、下北沢トリウッドにて上映
 映画館公式サイト http://homepage1.nifty.com/tollywood/

Writer's Note
 加藤知恵。今では結婚し、お子さんもいらっしゃるイ・デヒ監督。今後はもう少し子供目線の作品を作りたいそうですが、「女性を主人公にしたい」という思いは変わらないようです。


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Interview 『最後まで行く(仮題)』キム・ソンフン監督 ~最後の格闘シーンは肉弾戦のイメージでシナリオを書いた

Text by 加藤知恵
2014/11/10掲載



 東京国際映画祭の提携企画である「コリアン・シネマ・ウィーク」が、今年も10月24日から29日までの6日間、韓国文化院にて開催された。

 上映作品は『慶州』『怪しい彼女』『晩餐』『チラシ:危険な噂』『ストーン』『これが私たちの終わりだ』『最後まで行く(仮題)』の7本。そのうちの『最後まで行く(仮題)』は、今年のカンヌ国際映画祭監督週間でも上映され、韓国内でも340万人の動員を記録した話題作である。

 母の葬儀の日、殺人課の刑事ゴンス(イ・ソンギュン)は、急な連絡を受けて職場に向かう途中で交通事故を起こしてしまう。思わず死体を隠して事故を隠ぺいしようとする彼に、次から次へとピンチが迫り来る。しかし実はその事故の裏には大きな秘密が隠されており、その黒幕(チョ・ジヌン)との戦いに彼は奮闘することになるのだが…、という緊張感とスピード感あふれるサスペンス・ストーリー。しかし随所に織り交ぜられたユーモアにより、コメディともいえるような楽しい作品に仕上がっている。

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ティーチインの模様

 今回、ゲストとして本作のキム・ソンフン監督が来日し、26日の上映後にティーチインを行った。その詳録と併せ、彼へのインタビュー内容を紹介したい。


ティーチイン(10月26日)

司会:まずは一言、ご挨拶をお願い致します。

こんにちは。キム・ソンフンです。日曜日の午後という貴重な時間を割いて見に来てくださった皆さんの美しい選択に感謝します。東京が一層美しく感じられます。

観客1:携帯電話の着メロにショスタコーヴィチのワルツが使われていました。イ・ビョンホンさん主演の『バンジージャンプする』でもそうでしたが、これは『バンジージャンプする』へのオマージュなのでしょうか。

ショスタコーヴィチのワルツは、確か『オールド・ボーイ』でも使われていたかと思います。実はシナリオを書いている段階では、ルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』のリード曲を考えていました。でもその曲の著作権料が僕のギャラよりも高かったので、僕をクビにするわけにもいかず、やむなく曲を変えました。ショスタコーヴィチのこの曲は無料でしたし、雰囲気も似ているので。

観客2:母がイ・ソンギュンさんの大ファンです。スタッフの皆さんや俳優さん方との面白いエピソードがあれば教えて下さい。

僕の母もイ・ソンギュンさんのファンです。お母様は見る目がおありですね。ソンギュンさんは車の運転がとても上手で、今回、合成映像やCGは一切使っていません。ゴンスの子供が脅迫に遭い、車を飛ばして家に向かうシーンがありますが、その撮影ではソンギュンさんと僕、カメラマン、録音係の4人が車に乗っていました。120キロほどで走行していましたが、その時、急に道が途切れてしまって。恐らくテープには僕の悲鳴が入っていると思います。ソンギュンさんが急ブレーキを踏んでくれて、幸いに生き延びました。

観客3:2つ質問があります。主演のお二人をキャスティングされた理由と、監督がお好きな映画を3本教えていただきたいです。とても楽しく拝見したので、どんな監督がお好きなのかなと思って。

キャスティングは顔で決めました。冗談です(笑)。ソンギュンさんについては、ゴンスという役は倫理的でも道徳的でも、正義感のある人物でもありません。でも彼はこれまで真面目で正義感の強い役やロマンチックな役柄を多く演じていて、彼のそのようなイメージが必要でした。それに彼はとてもリアルで自然な演技をする俳優なので、今回もそのように演じてもらえれば、非道徳的で非倫理的な役にも説得力を持たせられ、観客にも感情移入してもらえると思いました。チョ・ジヌンさんはとても体格が良いので、ソンギュンさんの役を圧倒する存在として、まず外見的に適役でした。それにある評論家が「熊のような体で蛇のように演じる」と評したように、彼は非常に繊細な演技をする俳優として知られています。そのような繊細な演技力にも期待しました。

好きな映画については、この世に存在する全ての作品が素晴らしいと思っています。その中であえて3本を選ぶなら、まずはコーエン兄弟の『ノーカントリー』と、『グリース』というミュージカル映画でしょうか。『グリース』はとても愉快で楽しい作品で、雨の日や憂鬱な時に見ると気分転換になります。3本目は僕の尊敬するポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』を挙げたいと思います。そして皆さんが今見たこの作品も、僕の大好きな作品です(笑)。

観客4:本作はハリウッドでリメイクの予定だと聞きましたが、本当でしょうか。

確かにそのような話がありましたが、現時点でどこまで進んでいるかは知りません。リメイクされるのなら、あまり上手く作られると悔しいので、ほどほどに作ってほしいです(笑)。

観客5:もしもシナリオ執筆にあたって調査をされたのであれば、劇中の警察と現実の警察の姿にどのくらい隔たりがあるのか教えていただきたいです。それと、この作品を通して監督が一番伝えたいメッセージを教えて下さい。

劇中の警察のほうがかなりイケメン揃いでしょうね(笑)。実際の警察は劇中の警察のような人たちではないと思いますし、そう願っています。一番伝えたいのは「飲酒運転をしてはいけない」ということです(笑)。本作では主人公が過ちを犯し、その後の選択を誤ったことで話がこじれていきます。一度犯してしまった過ちは取り消せないとしても、その後の選択は誤ってはいけないと思います。

観客6:韓国でかなりロングラン上映されたようですが、その理由はなぜだとお考えですか? また今回、邦題が仮題なので、今後日本でも公開予定なのかと思いましたが、何か決まっている情報があれば教えて下さい。

ロングランされた理由は観客の方々に聞いてみないといけませんが、細く長くということではないでしょうか(笑)。最近の韓国では公開直後の1・2週間に多くの観客を動員することを目指していますが、本作はその時期に多く入りませんでした。だから長く上映して取り返そうとしたのではないかと。日本でも公開されることは決まっていますが、具体的な時期はまだ分かりません。

観客7:私はこの映画を見に韓国まで行くという、今日よりも更に美しい選択をしました。当初この作品のタイトルは「墓まで行く」だったと聞き、最後に課長が「(この事件を)墓まで持っていく」という台詞があってそうなったのかなと思いました。最終的に「最後まで行く」になったのはなぜでしょうか。

この作品のタイトルは何度も変わりました。最初は「BODY」という英語でしたが、「墓まで行く」になりました。その後も色んな意見があり、公開直前にモニタリングをしたところ、「墓まで行く」だとコメディだと誤解されるとのことで、結局「最後まで行く」になりました。


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ユーモアたっぷりに語るキム・ソンフン監督

観客8:今回が2作目ですが、まだお若い方ですし、次回作の予定や今後撮ってみたいジャンルについて教えて下さい。

「まだ若い」という言葉が胸に響きました。ずっと若くありたいですね。特に撮りたいジャンルは決まっていませんが、どんなジャンルであれ、面白い作品を撮りたいです。自分自身が興味を持ち、満足できる作品にしたいです。次回作は決まっており、来年撮影する予定で準備を進めています。どのような映画なのかは、劇場で確認してください。

観客9:最後の格闘シーンで、特にこだわりを持って演出された部分があれば教えて下さい。

格闘シーンというと、『ボーン・アイデンティティー』のような派手なアクションやアクロバティックなシーンを連想されるかもしれません。そのような作品ももちろん素敵ですが、本作で主人公2人がそのような派手なアクションを演じると、嘘っぽくなるような気がしました。最終的に2人の肉体のみでぶつかり合うというイメージにしたかったので、拳で殴れない時には噛みついたりする場面も交ぜました。

観客10:日本の俳優でどなたか気になる方はいらっしゃいますか?

蒼井優さんです。理由を全て挙げるのは難しいですが、とても素晴らしい俳優だと思います。

司会:それでは最後に監督から一言ご挨拶をお願いします。

皆さんの質問を聞きながら感じたのは、日本と韓国はこんなに近いのに、言葉が全然違うということでした。でも一つの映画を見て感じることは同じだなと思いました。同じ東アジアに生きる仲間として、似た感性を持っているのではないでしょうか。そしてこれまで何度もティーチインに参加しましたが、こんなに多くの方々が最後まで残ってくださったのは初めてです。日本の方はトイレにも行かないんだなと驚きました(笑)。最後まで映画を見て、話を聞いてくださって、本当にありがとうございました。


インタビュー


── 作品自体もユーモアにあふれていましたし、ティーチインを聞いて監督ご自身もとても楽しい方だなと思いました。作品を作るうえでも、ユーモラスな部分を大事にされているのでしょうか。

そうですね。特に本作のような場合は、コミカルな要素がなければ堅苦しくなってしまうと思います。恐ろしい場面もあるし、非倫理的な人間の話でもあるので、観客の心に伝わりやすくする一つの方法としてユーモアを混ぜました。もちろん最初から最後まで徹底的に悪い人間が主人公であれば、説得力を持たせる必要はなく、ただ恐怖感をあおればいいと思います。でも今回の主人公に感情移入してもらうためには、ユーモアの要素を入れるべきかなと。例えばステーキ一つにしても、脂身がなければ旨味がないですよね。脂身が体に悪いと知っても美味しく感じられるように、サスペンスにおいてもユーモアがいい効果を生んでくれるのではないかと思いました。

── 前作でデビュー作の『愛情の欠乏が二人の男に及ぼす影響』もコメディですが、2人の男が争いを繰り広げる内容で、その点には共通点も感じました。そもそも映画監督を目指すきっかけとなった作品はありましたか。

これだという決め手になる作品があれば格好良いのですが、実際は色んな作品から少しずつ影響を受けたように思います。ただ一つ覚えているのは、小学校3年生くらいに『風と共に去りぬ』を見た時、「明日は明日の風が吹く」という最後の台詞で、なぜ彼女がそんなことを言うのか理解ができませんでした。振り返ればこれが僕の映画に関する最初の記憶ともいえます。そのシーンを見て「もしも僕が監督になったらこんな台詞にはしない」と漠然と思ったことを覚えています。

── ある意味反面教師のような感じだったのですね。前作からの7年間はどのように過ごされたのですか?

シナリオを何本も書きながら準備をしていました。実は前作は興行にも失敗し、良い評価も得られなかったので、とても残念に思っています。すごく反省しましたし、今も恥ずかしくてあの作品は見られません。その後、僕にはオファーもあまり来ず、自分で書くしかありませんでした。何本もシナリオを書きましたがうまくいかず、この『最後まで行く』がやっと制作にこぎ着けました。とは言っても、シナリオを書きながら過ごすのは楽しい時間でもありましたが。

── 本作のアイディアはどこから得られたのでしょうか。

ストーリーというよりは、ある状況に関してアイディアを得ました。ペドロ・アルモドバルの『ボルベール<帰郷>』という作品の中で、ペネロペ・クルス演じる主人公が、自分の娘が殺してしまった男の死体を冷蔵庫に隠す場面があります。それを見て、そんなことをしたら捕まるだろうと不安になりました。もちろん人を殺してはいけませんが、もしも殺してしまったら、どうすれば隠し通せるだろうと想像も広がって。するとお墓に隠せば誰も気付かないのではないかと思い、では誰のお墓が一番いいだろうと考えました。赤の他人だと面白くないし、自分の犯した罪を最後まで隠してくれるのは誰だろうと考えたら、やはり母ではないのかなと。そんなふうに他の部分までストーリーを膨らませていきました。

── 刑事が事件を犯してそれを隠ぺいするという設定もそうですし、犬が出てきたり、おもちゃを使ったりと随所に意外なアイディアが散りばめられていて、斬新に感じました。そういったものも全て状況を想像しながら思いつかれたのでしょうか。

ええ、一つずつ考えていきました。死体を隠すという場面から考え始めたわけですが、主人公を警察官にしたのは、政治家や警察官のような最も倫理的であるべき職業とその行為のギャップが面白いと思ったからです。それに最もギャップのある人間が事を起こせば、奇想天外の状況が付随して生まれるのではないかと。本作は深いストーリーのある作品ではないので、段階的に状況を積み重ねて、面白さを追求していきました。次の場面を面白くするために、これまで見たことのないアイディアを入れておくというように組み立てました。

── 撮影現場もとても楽しい雰囲気だったのではないかと思いますが。

一般的な現場では、監督以外疲れていることが多いのですが、今回は監督もスタッフも俳優も、友達のような感覚で楽しく過ごせたと思います。3ヶ月という短い期間でしたが、スタッフたちは他の現場でもよくこの作品の話をしてくれたようです。結果も良かったですが、制作過程もうまくいったことがうれしいです。


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── 監督が撮影していて一番楽しかったシーンやお気に入りのシーンはどこですか?

一番楽しかったのは一番重要なシーンです。ゴンスが細い通路を通して死体を引っ張って母親の棺に隠す、この作品の核になるシーンですね。作品の色彩を決定づける場面でもあるので、一番神経を使いました。演じる俳優にとっても難しいので、打ち合わせもたくさんしました。観客に笑ってもらいたいけれど、かといって完全に喜劇にするのも違う。主人公は必死でありながら、観客はそれに同情もして、時には笑いも起きるような場面にしたくて、演技のトーンにはかなり気を遣いました。結果的にソンギュンさんが非常にうまく演じてくださって満足していますし、大変でしたがとても楽しく撮影できました。その他には、貯水池でゴンスとチャンミン(チョ・ジヌン扮)が会う場面ですね。あそこは室内の閉ざされた空間ではなく、景色のいい開けた場所で、視覚的な解放感もありました。1カットを3分というロングテイクで撮ったのも面白かったです。爆発シーンもあって緊張しましたしね。本作は全部で2,230カットありますが、僕にとっては全てお気に入りです。時間が経った今では残念に思える箇所もありますが、それを見ると反省もさせられるし、次の作品ではもっと頑張ろうと意欲が湧きます。

── 最後に2人が格闘するシーンでは、俳優からのアイディアやアドリブもありましたか?

2人が最初にシナリオを読んだ時は「すごく痛々しい」と言っていました。本作ではアクロバティックでファッショナブルなアクションは避けたかったので、肉弾戦のイメージでシナリオを書いたのですが。ただ実際にその通りに撮影しようと思うと、作り込み過ぎている感じもしました。例えば浴室から銃のある所まで行くという流れの中で、細かい動きまで全部決めてしまうとリアルに見えなくて。結局その場面では、俳優自身も十分に取っ組み合いを経て疲れている状況だったので、動けるように動いてみてくれと言って2人に任せました。クランクイン直後であれば難しかったでしょうが、2人の信頼関係もできあがっていたし、役にも十分成りきっている状態だったので可能だったのかと。力を使い果たして肉体だけが残っているような、そんな最後の場面がうまく描けたと思います。お酒の場でも2人は「明日はどうしようか」と常に話し合っていたし、カラオケで打ち合わせをして練習したりもしていましたね。

── 一ヶ所気になったのは、貯水池でチャンミンが沈んで死んだと思っていたら、その後に復活して戻って来る場面です。「潜水記録を更新した」という台詞もありましたが、彼はどのように生き延びたのか、具体的な設定はあったのでしょうか。

実は論理的に説明しようとして撮影したカットがありました。彼が一度浮かび上がりかけてまた沈んだのは、足が車に引っかかって引っ張られたからです。彼は水の中でもずっと目を開けていますが、銃を持って狙っているゴンスの姿を見て、息を止めて車の中に隠れていたんです。あのシーンを最終日に丸一日かけて苦労して撮影したのですが、実際にそのカットを入れてみると邪魔になる感じがしました。それで結局、そこは見せない方がいいのではないかと思って削除しました。韓国で販売されたDVDには、カット場面として収録されています。

── 本作はカンヌでも上映されて好評を得られましたが、招待の知らせを聞いた時はどう思いましたか? また、今回評価されたことで今後の作品制作に影響がありそうですか?

最初に知らせを聞いた時は「カンヌは作品が足りないのか?」と思いました(笑)。元々映画祭を想定して撮った作品でもありませんでしたし。それにあえて商業映画と芸術映画の2つにジャンルを分けるのならば、本作は商業映画に属すると思っていました。一般的に芸術映画を好むと思われているカンヌが、多くの作品の中から僕の作品を選んでくれたのはすごく意外だし、ある意味ボーナスのように感じました。想像もしていなかったボーナスをもらったような喜びですね。現地での反応も予想以上に良かったので「哲学的な難しい作品ばかり見ていて、気楽な作品が見たくなったのかな」と思いました(笑)。もちろんどれも人生について深く考えさせてくれるような素晴らしい作品ばかりですが、毎日見ると疲れるでしょう?(笑) そんなもどかしい気持ちを解消させられる作品になったのかなと。今後への影響については、今回のことはボーナスでありプレゼントのようなもので、一週間のプレゼントが僕の人生を変えられるわけではありません。もちろんものすごく大きな出来事で、とても楽しい経験ではありましたが、またそんなプレゼントが空から落ちてくることを期待して生きるわけにはいかないので。日常に戻って日々を忠実に生きたいと思っています。

── ティーチインでは次回作について秘密のような雰囲気でしたが、教えていただけないのでしょうか。

特に秘密にしたつもりではなく、まだはっきりとお伝えできることがなかったんです。ある空間に閉じ込められている人間を描いた作品で、今はまだ考えを膨らませている段階です。

── キャスティングもまだですか?

ええ、もう少しシナリオが具体的になってからです。

── 監督から見て気になっていたり、今後一緒に仕事をしてみたい韓国人俳優にはどのような方がいますか?

素晴らしい演技をされる俳優は全員です。全ての監督が夢にみるソン・ガンホさんやパク・ヘイルさん、ファン・ジョンミンさん、ハ・ジョンウさん。ソル・ギョングさんもそうですね。演技の上手な俳優は容姿を超えて全て美しく見えます。女優ならチョン・ドヨンさんもいつかはご一緒してみたいです。ベテランの方に限らず若い方もそうですね。日本の俳優も気になります。

── 蒼井優さんですか(笑)。

あれはとっさに彼女の名前が思い浮かんだもので。韓国人監督で好きな日本人女優として彼女を挙げる人は多いですよね。僕は沢尻エリカさんも好きです。『パッチギ!』を見てとても魅力的だったので。浅野忠信さんも素晴らしい演技力をお持ちだと思います。

── ポン・ジュノ監督を尊敬されているとのことですが、親交もおありですか?

いいえ、画面を通して見ただけです(笑)。DVDのコメントを見ながら素晴らしいなと。僕が親しくしているのはさえない監督ばかりです。タン・ウェイと結婚したりなんかして出世した人もいますが。

── キム・テヨン監督ですね。さえなくないじゃないですか(笑)。

友人同士で集まった時には、冗談でそんな話をするんです。映画もそんなふうに撮らなきゃだめだと言って。

── 俳優さんで親しくしている方はいますか?

本作の主演2人もそうですし、前作で主演したポン・テギュとも親しいです。最近は若干スランプのようですが、彼ならうまく乗り切るでしょう。それと、ドラマ『応答せよ1994』などで最近ビックスターになったチョンウという俳優とは昔から仲がいいです。彼らには今後も頑張ってもらいたいですね。



第27回東京国際映画祭 提携企画 コリアン・シネマ・ウィーク2014
 期間:2014年10月24日(金)~10月29日(水)
 会場:韓国文化院ハンマダンホール
 公式サイト http://www.koreanculture.jp/

Writer's Note
 加藤知恵。インタビューが始まるや、筆者が持参したレコーダーを見て「SONYですね。日本の方はSONYが多いようだけど、なぜですか? 昔はSONYのテレビを買うのが夢だったんですよ」と突然語り始めた監督。何事にも好奇心旺盛で非常にユーモラスな方でした。


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Interview 『アトリエの春』チョ・グニョン監督、主演女優キム・ソヒョン、イ・ユヨン

Text by 加藤知恵
2014/11/9掲載



 今年も六本木ヒルズにて、10月23日から9日間の日程で開催された東京国際映画祭。韓国作品としてはチョ・グニョン監督の『アトリエの春』と、キム・ドンフ監督の『メイド・イン・チャイナ』の2本が上映された。

 『アトリエの春』(原題『春/봄』)は、韓国内での公開を11月20日に控えた未公開の作品ながら、ミラノ国際映画祭での大賞・撮影賞・主演女優賞をはじめ、既に多数の国際映画祭で受賞を重ねている。監督のチョ・グニョンは、『箪笥』『デュエリスト』『後宮の秘密』など数々の作品に美術監督として参加した後、『26年』で監督デビュー。本作では病を抱えた彫刻家(パク・ヨンウ)とそれを支える妻(キム・ソヒョン)、そして彫刻のモデルを務めることになる女性(イ・ユヨン)という3人が織りなす純愛を、見事な映像美で描き出している。「あなたの春はいつですか?」というキャッチコピーが表すように、「人生の中で魂が最も光り輝く暖かな時間」それが本作のテーマであると感じた。

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左からキム・ソヒョン、監督、イ・ユヨン

 今回の東京国際映画祭では監督と主演女優の2人、キム・ソヒョン、イ・ユヨンが来日し、2日間のティーチインに加え、インタビューにも答えて下さった。


ティーチイン(10月25日)

石坂健治プログラミング・ディレクター:実はこの作品は邦題を付けるのに悩みました。韓国語の原題は『春』で、英題の『Late Spring』を日本語にすると「晩春」なんですが、それだと日本映画にありますので。映画祭の段階で意訳をするのはあまり好きではないのですが、結局「アトリエ」を付けて『アトリエの春』にしました。それではまず、ゲストのお三方にご挨拶をいただきたいと思います。

チョ監督:多くの方に来ていただけて光栄です。私が尊敬していて、普段よく見る日本の監督が小津安二郎です。『晩春』は小津監督の作品ですよね。私も英題を付ける時に随分悩みましたが、この作品の主旨とぴったり合うので、それ以外のタイトルが浮かびませんでした。それで結局『Late Spring』になりましたが、私が尊敬する監督の出身国で上映していただけてとても光栄で、感激しています。

ソヒョン:緊張しますね。ジョンスク役のキム・ソヒョンです。(日本語で)はじめまして。どうぞよろしくお願いします。ここへ入った途端にすごい熱気を感じて嬉しく思いました。韓国ではまだ公開前なのですが、東京国際映画祭でたくさんの方にお会いできて光栄です。ありがとうございます。

ユヨン:こんにちは。ミンギョン役のイ・ユヨンです。私にとって初めての長編出演作なのですが、日本にまで来ることができてとても光栄です。こんなに大勢の方に見に来ていただけて嬉しいです。

観客1:1969年の浦項(ポハン)市が舞台ですが、その年代と場所を選んだ理由を教えて下さい。

チョ監督:まず1969年は僕の生まれた年です。それに美術監督として幾つかの作品に参加する中で過去を描くことには慣れていて、イメージがしやすかったと思います。浦項という都市は、韓国映画の中にはあまり登場しない、ある意味疎外されているような都市です。そういうあまり知られていない場所で映画を撮りたいという気持ちはありました。それにこのシナリオを書いたプロデューサーの方も同じ気持ちでしたので、打ち合わせた結果、浦項に決めました。

石坂:女優のお二人にお聞きしたいのですが、監督の演出に対してや、役作りにおいて、どのような努力をされましたか。

ソヒョン:私は監督から「何も考えずに空っぽになれ」と言われました。撮影現場でも、私に対しては細かい指示はありませんでした。ただ「何も考えるな」と言われていたので、現場を一人で歩き回って、何も考えないように努力しました。ジョンスクという人物は、同じ女性として完全に理解できない部分もあり、なぜだろうと自分自身に問えば問うほど疑問が生じました。だから監督もシナリオを初めて読んだ時から撮影が終わるまで、そう言い続けてこられたのだと思います。

チョ監督:補足しますと、ソヒョンさんは韓国でとても有名な女優ですが、特に怒る演技がうまいことで有名です。そんな怖いキャラクターで観客にも親しまれていますが、僕から見れば全然違う面があるのに、なぜそのような役ばかりに起用されるのか疑問に思っていました。それでこの役を依頼したんです。

ユヨン:私は初めての出演作なので、どうすべきか悩んだ点も多く、監督とたくさん打ち合わせをしました。でも監督は、どのように演じるかというよりは、ミンギョンの人生について色々と説明してくださいました。例えば私が「ミンギョンはなぜ逃げ出さないで彼と暮らしているんでしょうか?」と聞くと、まず監督は「考えてごらん」と言って、その後暫くしてから「子どものためじゃないかな」と答えて下さいました。そのようなやり取りをよくしましたが、撮影が終わりに近づいた頃に「あとは何をしたらいいでしょうか?」と聞いたら、「遊んでいればいいよ」と言われました。でもそう言われると本当に遊ぶべきなのか、何かすべきなのか迷ってしまって(笑)。結局頭を空っぽにして遊んでいました。

観客2:国際映画祭ということで、監督にはこの東京や韓国から世界の方々に共感していただきたいメッセージがあればお聞きしたいです。女優のお二人には、完成作品を見て意外に思った点や、もう一度演じる機会があればこうしたいという場面など、完成作品を見て最初に感じたことを教えていただきたいです。

チョ監督:最近は暴力的で刺激の強い映画が世界中にあふれていますが、私もそのような作品にスタッフとして参加する中で、少し疲れていました。確かに人間には強くて暴力的な面もありますが、優しくて純粋な面もありますよね。そのような普遍的な人間愛を描きたいという気持ちはありました。

ソヒョン:「空っぽになれ」という指示通り、自然にうまく歩けているなと感じました。本作は夏に撮影をしたのですが、私の着ていた韓服は布地が厚くて下着もとても暑いんです。私は夏に弱い体質なので、もう一度撮影できるかと聞かれたら、出演料次第で考えてしまいますが(笑)。私は映画の出演作が少ないので、ぜひ本作を自分の代表作にしたいと思っています。監督のお話のように、ドラマでは激怒したり、目を見開いたりする役を多く演じてきました。でもこの作品を通して、私自身も癒やしを感じました。私も映画やドラマに暴力的な作品が多いと感じていましたが、本作がそれらを緩和するような作品になればうれしいです。

ユヨン:最初にシナリオを読んだ時から美しい映像になると思いましたが、予想以上に心に響く切ない作品に仕上がっていて嬉しかったです。演技については私だけが残念です。もう一度撮影できるなら、もう少しうまくできるのではないかと思うのですが。でも監督やスタッフ、先輩方が助けて下さったおかげでミンギョンを演じきれたので、後悔よりは満足感が強いです。

石坂:それでは最後に一言ずつコメントをいただきたいと思います。

ユヨン:女優として初めてこんなにたくさんの方々にお会いできたのに、時間が短かくて残念です。この作品を見てどう感じていただけたのかまだまだ気になりますが、今日はお越し下さり本当にありがとうございました。

ソヒョン:私も作品の上映で海外に来たのは初めての経験です。この東京での上映は、アジアでのスタートだと思っています。これをきっかけに多くの映画館で上映していただければうれしいですし、今日こうして来ていただけたことに感謝しています。(日本語で)ありがとうございます。

チョ監督:この作品のおかげで色んな国に招待していただきましたが、今回の東京ほど多くの皆さんが最後まで残って話を聞いて下さったのは初めてです。皆さんの目を見る限りは、映画を気に入っていただけたようで満足しています。特に韓国と日本は感性が似ているので、そう確信しています。本当にありがとうございました。(日本語で)ありがとう。


インタビュー

── とても優しく、心が洗われるような作品でした。監督もとても穏やかな方でいらっしゃいますが、撮影現場でも細かく演技指導をするよりは、基本的に俳優に委ねるスタイルなんですね。

チョ監督:僕は映画も一種のドキュメンタリーだと思っています。僕がいつどこで、どんな俳優と一緒にいたのか、その瞬間をフィルムに収める物なのではないかと。だから俳優には自然体であることを望みました。そのシーンの目的だけを伝えて、動きや口調などの表現は俳優自身のものを活かしてほしいと言いました。それをカメラがうまく収めさえすればいいと思っていました。

── 監督は長く美術監督として活躍してこられましたが、女優のお二人も監督のそのような美術センスを感じましたか?

ユヨン:すばらしいです。


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妻役を演じたキム・ソヒョン

ソヒョン:衣装へのこだわりもそうですし、現場の小道具や美術にも細かな部分まで神経を使われていました。用意した衣装が実際の現場の雰囲気に合わなければ変えることもよくありましたし、それを想定して常にたくさん準備をされていましたね。

── 美術監督は別にいらしたようですが、監督自身が劇中の絵や彫刻を作られたりもしましたか?

チョ監督:ジュングが描くデッサン画は全て僕が描きました。映っている手も僕の手です。今回の美術監督は彫刻を学んだ人で、僕は絵画を専攻していたので、二人で分担して作り上げました。

── 長く美術監督として活躍された立場から、どのような経緯で監督になられたのでしょうか。

チョ監督:実は前作(デビュー作『26年』)には元々美術監督として参加していました。しかし政治的な内容が含まれていたためか、なかなか制作が進まず、予算を減らすために色々とアイディアを練るうちに、じゃあ自分が演出すればいいじゃないかと思いました。実は本作も、別の作品の打ち合わせでプロデューサーに会いに行ったところ、美術に関わる内容だから読んでみてくれとシナリオを渡されまして。読んでみたらすっかり魅了されてしまい、結局この作品を先に撮ろうという話になりました。シナリオとの運命的な出会いがきっかけだったと言えると思います。

── パク・ヨンウさん演じるジュングは彫刻家ですが、美術家である彼の役に監督自身や監督の思いも反映されていますか?

チョ監督:実はジュングは僕の父が、ジョンスクは僕の母がモデルです。実際に僕の母は美術をしていて、父は機械を専攻していました。この作品を準備していた頃、父の体調がとても悪く、完成した直後に亡くなってしまいました。結局この作品を見てもらうことはできませんでしたが。父がもう長くないと分かっていたからこそ、このシナリオに惹かれたのだと思います。父と母にプレゼントとして残したいという気持ちがあったからです。芸術家は気難しくてわがままな一面もありますが、それは本人の調子がいい時の姿です。しかし今回は芸術家というよりも病気に苦しむ一人の人間の姿に焦点を当てました。そしてそれを支える妻ですね。妻は夫の命を少しでも伸ばそうという努力から、モデルを見つけます。そのモデルは彼にインスピレーションを与えて、生きる意欲を呼び起こすので、それだけ純粋な存在であってほしかった。本作はその3つの材料を使って全力で料理してみようという気持ちで撮りました。

── ジュングは芸術家としてミンギョンの顔を作りたいと望みながら、最終的に自分の顔を作りますよね。そこには芸術家としての欲望と、妻に対する思いやり・優しさとの間で葛藤もあったように見えたのですが。

チョ監督:実は最初のシナリオではミンギョンの顔を作ることになっていました。でももっと深く掘り下げてみたら、自分の顔を妻に残すのではないかと思いまして。パク・ヨンウさんはミンギョンの顔を作りたいと言っていました。俳優はそれぞれ違う気持ちだったようです。僕も最後まで悩みました。でも、もし僕が彫刻家で死を悟った時に何を残したいかと考えたら、やはり自分自身を描きたくなるだろうと。うまく説明できませんが、彼は常に他人を作り続けてきたわけです。子どもがいればまた別でしょうが、そうでなければ自分自身を残したくなるような気がします。それにミンギョンやジョンスクを作れば、そのどちらかを傷つけることになりますし。だから自分自身にしようと決心して作ったのではないでしょうか。

── ソヒョンさんのキャスティングについては、これまでと違うイメージを期待したとのことですが、ユヨンさんとパク・ヨンウさんはどのように決まったのですか?

チョ監督:パク・ヨンウさんはこれまで、ある設定を決めて、それに対して緻密に考え抜く方法で役作りをしていました。でも今回は、感覚のままに気楽に演じてくれと言いました。彼自身がジュングという役柄と似ているので、計算する必要がないと思ったからです。彼にとってもそのような演技が楽しかったようです。ユヨンさんは、最もキャスティングが難しいと言える役なので、シナリオの段階から女優のイメージは固めないようにしていました。そしたらある日彼女が事務所に来たのですが、僕は見たとたんに驚いて「ぜひやってくれ」と言いました。それで会ったその日に決まったんです。周りからは「そんなふうに決めちゃだめだ」と怒られましたが(笑)。

── ユヨンさんは、なぜその時事務所にいらしたんですか?

ユヨン:偶然にシナリオを読んで、とても美しい映画だなと魅了されたんです。絶対に出たいと思って、無謀にも事務所に押し掛けました。

チョ監督:思い切ってくれましたよね。元々はオーデションをするつもりだったのですが、その必要もなく決まりました。

── 初めての出演作でヌードシーンがあるのは勇気が要りませんでしたか? それでもぜひ出演したいと思われたんですね。

ユヨン:特に勇気は要りませんでした。監督に会った時も、撮影前に準備をする過程でも、ヌードにならなければいけないという感覚はあまりありませんでした。最初にシナリオを読んだ時は美しい映画だという印象が強くて細かくは考えていませんでしたが、少しずつ時間が経つにつれ、この映画に出なければ彫刻家のモデルになる機会もないだろうと思うようになりました。時が経てば私の体型も変化しますし、今の体を美しく撮ってもらえるという確信もありました。いざ映画が完成して上映されるとなると緊張しますが、撮影中はとても幸せに感じていました。

── 美しく見せるために努力もされましたか?

ソヒョン:照明監督さんが努力しましたよ(一同笑)。


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モデル役で長編映画デビューしたイ・ユヨン

ユヨン:モデルが出てくる映画や、美術の写真もたくさん見ました。監督と話し合って、ポージングの研究や練習もしました。

── ソヒョンさんはオファーを受けてシナリオを読んだ時、どう思われましたか?

チョ監督:あまり気に入らなかったようです。「こんな女性がいるわけない」と言われました(笑)。

ソヒョン:いいえ、最初に読んだ時はとても美しい話だと思いました。パノラマのように映像が浮かんで、この作品は自分にとっても意味のあるものになるだろうなと。ジョンスクという役の中には私自身も存在していますが、夫が芸術という分野に打ち込んでいて、それを支える芸術家の妻としての姿勢は私も理解できます。しかし一人の女性としてはそれ以上のことをするのは難しいと感じ、監督に打ち合わせの段階からたくさん質問しました。だから監督は私に「何も考えるな」と言ったのかなと思います。正直今になってお話しすると、「何も考えるな」と言われた時は少し寂しい気持ちになりました。なぜ他の二人にばかり色々言うのかなと。

チョ監督:同じような質問ばかりするからですよ(笑)。

ソヒョン:ジョンスクというキャラクターを何とかして理解したかったからです。アドバイスでもしてくれればいいのに、ずっと「何も考えるな」と言われるので、「私は何なのよ」と思いました(笑)。落ち着かない気分で撮影に向かう日もありました。でもそれが役に立ったのかなとも思います。だからこそたくさん歩き回りましたし。実は全羅道には初めて行きました。順天(スンチョン)や筏橋(ポルギョ)も観光したりして、この撮影をしながら遊んでいたような気もします。そうして帰ってくると仕事をしようという気分になり、疑問が消えました。監督はいつも「やってみな」と言うので、私は「こんなのはどう?」と言って投げかけます。すると監督は静かに答えるのですが、正直大声で言われるよりも気になるんですよね(笑)。だから知らない間に監督の演出の内にいるんだなと感じました。

チョ監督:僕も何も考えずに「空っぽになれ」と言い続けたわけではありません。ジョンスクが夫の帰りを待ちながら、田んぼを歩くシーンがありますよね。僕は最初からあそこにジョンスクの心情が全て現れると考え、一番大事なシーンになると思っていました。場所も慎重に選び、照明もたくさん用意して、スタッフもかなり気を張っていました。撮影当日、大規模なセッティングを終えた段階で彼女が来ました。どう演じてほしいというイメージは漠然とありましたが、彼女が空っぽになっていく過程を見ながらもう大丈夫だと思ったので、僕はただ「ここからあそこまで歩くんだ」と伝えました。そして「君はもうジョンスクの役になっているから、思うままに表現してみて」と言いました。それで僕もスタッフも全員リハーサルのつもりで撮り始めたら、彼女が突然くるくると回り始めたんです。全員が感動していましたね。結局一発オーケーで終了しました。夜遅くまで撮影が続くだろうと食事まで準備していたんですが。その時僕は本当に、彼女を選んで正解だったなと思いましたね。僕が期待した何十倍ものことをやってくれましたので。実際にそのシーンが一番印象的だったと言ってくれる方が多いです。

── 確かにそのシーンにはジョンスクの可愛らしさや純粋さが現れていると感じました。それまでは普通の女性なら夫が他の女性に心を奪われれば嫉妬するだろうなと、彼女の嫉妬心がいつ現れるのかはらはらしていました。でもあのシーンを見て、彼女という人間がよく分かった気がします。

ソヒョン:そのような話もしました。彼女はアトリエまで行くのか、直接自分の目で確認するのか、それとも見た後に戻って来るのかと。でもジョンスクという女性は、嫉妬心を超越しているんですよね。撮影前までは、なぜだろうと疑問に思っていました。でも結局はそこを通過して、アトリエには行かないだろうという結論に至りました。ジュングとミンギョンの愛、いわゆる“ラブ”とは違いますが、それを直接目にしなかったからこそジュングとの関係性が成り立った部分もあるとは思います。

チョ監督:確かにソヒョンさんの疑問も理解できて一理あるのですが、僕の母は衰弱していく父に対し、「あの人が浮気をしてもいいから起きてほしい」と言っていました。その姿を実際に見たので、心から相手を愛していれば大した次元の問題ではないだろうと感じました。でもそれを彼女にうまく説明できなかったんです。だから空っぽになっていく過程でジョンスクの心情にぶつかってくれるだろうと期待していました。

── 監督の作品に対する思いがよく伝わりました。最後にお話しされたいことはありますか?

チョ監督:本作は決して高予算の映画ではないのに、韓国でとても有名なベテラン・スタッフがたくさん参加してくれました。非常に映画らしい映画だと、映画人としてこんな作品に携わりたいと言って加わってくれたんです。照明監督も本当ならばすごくギャラの高い方なのですが、ありえない金額で引き受けて下さいました。そして撮影が終わった後も、楽しかったと言って満足して下さいました。疲労している今の韓国社会に必要だと思って作った作品ですし、そんな作り手の気持ちが観客の皆さんにも伝わればうれしいです。



第27回東京国際映画祭
 期間:2014年10月23日(木)~10月31日(金)
 会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
 公式サイト http://2014.tiff-jp.net/ja/

Writer's Note
 加藤知恵。3人同時のインタビューのため時間が足りずに残念でしたが、日本語で「また明日(いらっしゃい)」と言ってくださったキム・ソヒョンさんの優しさに感激しました。劇中では2児の母を演じたイ・ユヨンさんも、素顔は色白で笑顔のあどけない24歳の姿そのままでした。


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