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Report 『新しき世界』松崎ブラザーズ・トークショー ~絶対に2回以上見るべき傑作!

資料提供:ムヴィオラ
2014/1/31掲載



 1月28日、シネマート六本木にて『新しき世界』の一般試写会、並びにトークショーが開催された。この日、登壇したのは「松崎ブラザーズ」として「WOWOWぷらすと」やトークショーなどでの、映画の深堀りトークでお馴染みの松崎まことさんと松崎健夫さん。共に映画検定一級を持つ超映画マニアの2人が、上映後の観客を前に見どころをたっぷりと解説した。

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 冒頭、2人揃って「本作は絶対に2回以上は観た方が良い」と熱く語るところからスタート。実は2人とも、1回目に観た時に同じシーンを「あそこはなくても…」と思っていたそうだが、2回目に観た際に「そこも必要なシーンだった」と考えを改めたとのこと。ただ2回以上は観なければその深い意味に気づくのはなかなか難しいかもしれない、ということで、映画を2回以上楽しむための超深堀りトークが展開された。

 まずは『ゴッドファーザー』『インファナル・アフェア』『エレクション』といったギャング組織を描いた傑作の影響を受けながら、それらに引けをとらない面白さ、と絶賛。潜入捜査ものは数多くあれど、そこまでやってしまうのか?という非情さに驚いたと語った。特に、主人公の潜入捜査官が、映画の冒頭シーンで、警察という立場では、やってはならない悪事を犯すという描写に驚き、潜入捜査官といえど犯罪者になってしまった主人公は、葛藤してはいるものの完全な悪人であり、しかしながらそれを指示する上司や周囲の方がもっと悪いために彼が正義に見える、と対比の構造を説明。また設定が非情なだけでなく、エレベーター内で繰り広げられる格闘シーンの暴力描写の容赦なさについても、良くあるメインの人物に向かってくる数名だけが動く、といった撮り方ではなく、全員が動くことによって凄まじい迫力を出している、と解説。設定だけでなく演出によっても、映画の世界観を徹底的に作り上げていることを解説した。

 続いて、本作は単なるエンターテイメントではなく、社会的な批評性をも持った映画とも解説。主人公が華僑という設定であることが物語に大きな影響をもたらしていることを説明し、それは、戦後直後の在日朝鮮人の存在を盛り込んだ『仁義なき戦い』をはじめとする1970年代東映ヤクザ映画に通じる精神であり、今の日本映画が描かなくなってしまった本物のヤクザ映画が韓国映画では描けている、とも語った。さらに『新しき世界』=新世界、NEW WORLD、というタイトルにも言及。ハリウッド映画で描かれてきたイタリア系マフィア、作曲家のドヴォルザークなどを引き合いに、新世界を夢見てアメリカに渡ったものの決して思い描いていた幸せはそこにはなかったという象徴としての意味合いも込められているとし、ある場面の背景にある、NYの摩天楼の写真が映画の世界観を象徴していると語った。

 他にも2人の意見が唯一分かれた『ゴッドファーザー』を彷彿とさせる、とあるシーンの賛否や、物語にあわせたカメラショットの緩急のつけ方など数々の見どころを、名作を延べ20本以上引き合いに出しながら語りつつ、ハリウッドリメイク版はどうやれば成功するのか?という予想、本作に続編はありえるのか、主演の3俳優の上手さなど、映画ファンの心を掴んで離さない濃厚なトークが繰り広げられ、来場者も大満足のトークとなった。

 『新しき世界』、ぜひ映画館で何度でも楽しんでいただきたい。公開はいよいよ今週末2月1日より。


『新しき世界』
 原題 신세계 英題 New World 韓国公開 2013年
 監督 パク・フンジョン 出演 イ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン
 2014年2月1日(土)より、丸の内TOEI、シネマート新宿ほか全国ロードショー
 公式サイト http://www.atarashikisekai.ayapro.ne.jp/


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Review 『新しき世界』 ~ファン・ジョンミンの演技が光る、欲望と裏切りのノワール

Text by Kachi
2014/1/30掲載



 昨年11月下旬、第34回青龍映画賞が発表された。主演男優部門を争ったのは、『7番房の奇跡』のリュ・スンリョン、『観相』のソン・ガンホ、『ソウォン(願い)』のソル・ギョング、『ザ・テロ・ライブ』のハ・ジョンウ、『新しき世界』のファン・ジョンミン。実力派の千両役者5人がノミネートされたことは、年間の映画観客動員数が初めて2億人を突破するなど、活況が伝えられた2013年の韓国映画界を象徴する出来事であった。11月上旬に開催された第50回大鐘賞映画祭では、リュ・スンリョンとソン・ガンホが主演男優賞を共同受賞しており、青龍映画賞も誰が受賞してもおかしくない状況だった。そんな激戦を制したのが『新しき世界』のファン・ジョンミンだ。

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 『新しき世界』は、欲望と裏切りが渦巻く闇社会を舞台に、男たちの生き様を描いたドラマである。中国系韓国人の警察官ジャソン(イ・ジョンジェ)は、上司のカン課長(チェ・ミンシク)の命を受け、韓国最大の犯罪組織にして大企業のゴールド・ムーンに入り込み、捜査活動をしている。8年にも及ぶ潜入で、今や理事の地位にまでのし上がっていた。ある時、組織の会長ソク(イ・ギョンヨン)が事故死し、会長の右腕だったジュング(パク・ソンウン)と、組織No.2のチョン・チョン(ファン・ジョンミン)が、後継者の座を巡って対立する。これを組織壊滅の好機と見たカン課長は「新世界プロジェクト」と名付けた計画を敢行。ジャソンを熾烈な後継者争いに介入させる。

 本作を見るうえで知っておきたいのは、韓国華僑という中国系韓国人の存在だ。プレスシートによると、第二次世界大戦後に南北分断された韓国では、1880年以降、商人や労働者・農民として朝鮮半島全域に暮らしていた中国人、そして自国での内戦を逃れた山東省からの移住者が、中国系の社会を形成していったという。1948年に韓国政府が樹立し、「国民」の範囲とその利益を守るための方針が打ち出されると、「国民」とみなされない韓国華僑は「外国人」として差別を受けるようになった。現在、制度的には改善しつつあるものの、今も韓国の中では差別感情が強いため、韓国華僑は共同体として結束する傾向にある。

 会長の葬儀で出る焼肉にカン課長は「牛肉は韓国産か?」と軽口を叩き、一方ジャソンと同じ出自のチョン・チョンは、兄弟分のジャソンを親しげに「ブラザー」と呼ぶ。しかし本作は韓国華僑をただ差別されるだけの存在として描いていない。中国系のチョン・チョンの全身から醸し出されるケレン味は非常に魅力的で、ゴールド・ムーンの韓国人構成員たちの端正な佇まいを圧倒している。中国系韓国人という民族性は、ジャソンにとってはマイノリティとしての弱みであり、チョン・チョンにとっては恐るべきよそ者としての強烈な個性である。

 『新しき世界』はキャスティングで成功している。一向に終わりが見えない危険な潜入捜査にいら立ち、チョン・チョンの温情に欺いていることを思い悩むイ・ジョンジェ扮するジャソンの切ない姿には惚れてしまう。チェ・ミンシクはいつものようなアグレッシブな演技ではないが、冷酷さの中に葛藤を抱えたカン課長を見事に表現しており、その安定した存在感はさすがだ。

 だがそれ以上に素晴らしいのが、チョン・チョンを演じたファン・ジョンミンだ。『甘い人生』でのヤクザ役は、少ない出番ながらも強い印象を残し、『生き残るための3つの取引』で、悪役はファン・ジョンミンの代名詞となった。その一方、純朴な男性を演じた『ユア・マイ・サンシャイン』や『星から来た男』、そして『ダンシング・クィーン』のコミカルさも彼の魅力である。

 本作のチョン・チョンは、敵と見れば容赦なくいたぶり尽くす残酷さと、兄弟分への人懐っこさ、作中で一瞬垣間見せた苦悩とが渾然一体となった複雑なキャラクターだ。プレスインタビューでパク・フンジョン監督は、本作で目指したものを「3人の男たちが求めるものの違いであって、それは善悪ではありません」と述べているが、まさにファン・ジョンミンは「物事は複雑で、善悪で定義しきれない」という作品のテーマを、チョン・チョンという男で体現したのだ。

 納得の青龍賞主演男優賞である。


『新しき世界』
 原題 신세계 英題 New World 韓国公開 2013年
 監督 パク・フンジョン 出演 イ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン
 2014年2月1日(土)より、丸の内TOEI、シネマート新宿ほか全国ロードショー
 公式サイト http://www.atarashikisekai.ayapro.ne.jp/

Writer's Note
 Kachi。ファン・ジョンミンはドラマでも素晴らしいです。『アクシデント・カップル』で演じた平凡な郵便局員ク・ドンペクは、私の理想の旦那様です。


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Review 『7番房の奇跡』 ~夢を忘れた大人に贈る、塀の中の父子の奇跡

Text by Kachi
2014/1/24掲載



 刑務所の中は、しばしば名作の舞台となるものだ。受刑者たちの絶望と再起のドラマ『ショーシャンクの空に』や、囚人と刑務官の交流をファンタジックに描いた『グリーンマイル』をはじめ、韓国映画にも、女子刑務所で結成された合唱団の感動物語『ハーモニー 心をつなぐ歌』がある。そんな中で『7番房の奇跡』は型破りな刑務所映画だ。本作はぜひ「物事はこうあるべきだ」という先入観をすべて捨てて見ていただきたい。あり得ない奇跡を夢のように叶えるストーリーに心が震えるはずだ。

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 主人公は、6歳の知能しかないヨング(リュ・スンリョン)と、春にはセーラームーンの黄色いランドセルで小学校に通うのを楽しみにしている、しっかり者の愛娘イェスン(カル・ソウォン)。互いを支えながら明るく生きている父子だが、ある日、ヨングは少女の誘拐と殺人の容疑で逮捕されてしまう。

 ヨングが収監された雑居式の7番房は、暖かい色を基調にしたメルヘンチックな内装と小物があふれ、暗く冷たい場所という刑務所のイメージが覆される。壁に貼られたヌードグラビアさえ不思議とファンシーに見える。そんな7番房のメンバーは、元ヤクザの房長(オ・ダルス)、詐欺師チュノ(パク・ウォンサン)、姦通罪のマンボム(キム・ジョンテ)、当たり屋ソじいさん(キム・ギチョン)、夫婦スリのボンシク(チョン・マンシク)など、くせ者揃い。ヨングを凶悪犯として初めは手荒く扱うが、刑務所内で起きた縄張り争いの際にヨングに命を救われた房長は、彼のために一肌脱ぎ、イェスンを潜入させる。7番房に舞い降りた天使のようなイェスンの愛らしさと、再会に涙を流すヨングの純粋さに、「刑務所でこんなこと起きるはずがない」という常識を忘れてしまう。

 息子を失って以来、冷酷に仕事一徹だった刑務所のチャン課長(チョン・ジニョン)は、ヨングによって火事から救出されたことで心境が変化する。ひたむきで純真なヨングとイェスンは、はぐれ者としてささくれ立った7番房の面々や、人を信じられなくなっていたチャン課長の心を癒やし、変えていくのだった。そして彼らは「ヨングは本当に少女を殺したのだろうか?」という疑念を持つ。悪人だらけの7番房メンバーによる即席の弁護団の密かな活躍は笑いを誘う一方、ヨングの裁判を「これは勝ち目のない裁判だ」と弁護をする気のない国選弁護人への皮肉も描かれる。

 父の無実を信じて疑わず、成長して法学生となったイェスン(パク・シネ)が潔白を訴える模擬国民参加裁判と、ヨングに判決を下した裁判とを使って、現在と過去をオーバーラップさせたり、作品の随所にキーカラーの黄色を施すなど、映像的技巧も凝らされている。だが、『7番房の奇跡』を傑作にしたのは演出のテクニックだけではない。

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 作品は中盤から父と子の物語にフォーカスしていく。被害者が警察庁長官の娘だったことで、ヨングとイェスンの運命は永遠に変わってしまう。このことから、特に長官とヨングに、公権力の横暴とその犠牲という構図を見ることもできる。だが筆者はむしろ、双方に悲しみを背負った父親の姿を見た。ヨングは周囲の者の心を浄化させていく悲劇の聖者のようだが、彼の慟哭は、ただ娘の成長をそばで見守りたいとう、父として当然抱く思いだ。それは長官も、チャン課長も、そして全ての父親の気持ちに重なる。

 本作の美術スタッフが掲げた7番房のコンセプトは「大人のためのおとぎ話」。夢と魔法を信じた子供時代を経て、奇跡なんてファンタジーに過ぎないことを知る大人になる。だからこそ、夢のような奇跡を見せてくれる映画は私たちを感動させるのだ。


『7番房の奇跡』
 原題 7번방의 선물 英題 Miracle in Cell No.7 韓国公開 2013年
 監督 イ・ファンギョン 出演 リュ・スンリョン、パク・シネ、カル・ソウォン
 2014年1月25日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
 公式サイト http://7banbou.com/

Writer's Note
 Kachi。『7番房の奇跡』には、当時の女の子が憧れるアイテムとしてセーラームーンが登場します。主題歌を歌いながらキメポーズを取るイェスンに「これ、私もやった!」と、懐かしさがこみ上げました。


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News ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014 ラインナップ発表 ~『死ななくて』ほか韓国映画5本がコンペ出品、キム・コッビ4年連続ゲスト参加

Text by hebaragi
2014/1/22掲載



 2月27日から開催される「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014」(以下、ゆうばりファンタ)のラインナップ記者発表が札幌市内のホテルで行われた。通算で24回目を迎える今回の映画祭は「ひと」に焦点を当てた「ファンタスティック ピープル」をテーマに、夕張市内7会場9スクリーンで108本の作品が上映される。

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記者発表の模様

 「ゆうばりファンタ」はこれまでと同様、5部門から構成されている。劇場公開前の話題作や北海道関連作品をいち早く紹介する「招待作品」、映画祭おすすめのファンタスティックな作品を上映する「ゆうばりチョイス」、日本映画を中心とした興味深い傾向の作品を、トークショーやライブなどを盛り込んで紹介する「フォアキャスト部門」に加え、コンペ部門として「オフシアター・コンペティション部門」(以下、オフシアター部門)と「インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門」(以下、ショートフィルム部門)がある。

 多数の上映作品の中で、やはり大きな見どころは新たな才能の発掘を目的としたコンペ部門だろう。今回は19ヶ国から352本の応募作品があったとのこと。その中から、主として長編作品を対象としたオフシアター部門では11本、40分以下の短編作品を対象としたショートフィルム部門では5ジャンル(ホームドラマ、ラブ&スリラー、フューチャー、サスペンス&ファンタジー、青春)で20本の作品がノミネートされている。

 期間中に上映される韓国関連映画を紹介したい。

 オフシアター部門では2本の作品が上映される。2013年のプチョン国際ファンタスティック映画祭で独立映画グランプリを受賞した『死ななくて/Oldmen never die』(ファン・チョルミン監督)は、祖父の遺産を狙ったニートの孫が女を雇って腹上死を企む、というブラックコメディ。また、スパイ、ヤクザ、ホラー映画愛好家、酔っぱらいなど様々な職業の宿泊客が訪れる日本のホテルを舞台にしたサイレントコメディー『トラブル・トラベラー/Trouble Traveller』(ペ・テス監督)も上映される。

 ショートフィルム部門では3本の作品が上映される。「ホームドラマ」のジャンルでは、初めて家で一人きりで過ごす9歳の男の子を描いた『リトル・ディ~ボクは悪くない~/A Little Day』(ユン・ヒジュン監督)と、介護に疲れた男が身寄りのない老人のための施設へ叔父を入れるため徹夜で演技指導をする『ハラボジ/The Way Back』(キム・ハルラ監督)が上映される。また、「フューチャー」のジャンルでは、西暦2072年、一人暮らしの男が妻型アンドロイドD-24の購入を決意する『D-24』(シン・ウソク監督)の上映がある。

 さらに、ゲスト参加が4年連続となり、すっかり映画祭の常連になりつつあるキム・コッビが出演する日本映画が今回も上映される。上映されるのは招待作品『グレイトフルデッド』(内田英治監督)。超高齢社会をテーマにしたブラックコメディだ。孤独ウォッチングを趣味にしている女性(瀧内公美)が、笹野高史演じる孤独な老人の観察に執着し、ついには監禁してしまうというストーリー。キム・コッビはボランティアとして老人を訪ね、聖書をプレゼントして老人の生活を明るく変えていく女性、スヨンの役で出演している。前回の「ゆうばりファンタ」のインタビューでは「これまでの出演作品では大変な役が多かったので、今後は楽しい役をやってみたい」と話していたキム・コッビだが、今回の作品もブラックコメディ。果たしてどんな演技を見せてくれるのか期待が高まる。

 記者発表で挨拶に立った映画祭名誉大会長の鈴木直道・夕張市長は「映画祭は人と人とのつながりの中で運営され、夕張の宝といえるまでに成長した」と語っていた。また、オフシアター部門審査員の俳優・斎藤工さんは「映画の上映以外にも、様々な人たちと映画について語り合うのが楽しい」などと「ゆうばりファンタ」の魅力を話していた。開催期間中は公式コンペのほか、全ての作品を対象とした観客賞「ファンタランド大賞」も実施される。純白の雪に覆われた小さな街の心温まる映画祭。今年も素敵な作品や映画人との出会いが待っていることだろう。


ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014
 期間:2014年2月27日(木)~3月3日(月)
 会場:北海道夕張市内
 公式サイト http://www.yubarifanta.com/

Writer's Note
 hebaragi。ゆうばりファンタ初参加から15年。 最近は、審査員になったつもりで各コンペ部門の受賞作品を予想するのも楽しみのひとつ。「変化球」な作品が多いといわれる今年のコンペ。予想にもひと苦労しそうだ。


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Review 『7番房の奇跡』 ~リアリズムのイントロを、ファンタジーに転調させて描いた小さき者たちの献身

Text by 井上康子
2014/1/12掲載



 韓国映画には、虐げられた者たちが自分たちの正当性を主張し、国家権力や差別する側を告発した作品が多い。本作もその系譜を持ち、主人公のヨングは、知的障害のために状況を理解できないまま、少女を暴行殺害した犯罪者に仕立てあげられた人物だ。ヨングが拘束されたために、小学校入学前に彼と引き離された娘のイェスンは、後に弁護士を目指し、模擬裁判で父親に対する捜査と裁判の問題点を告発していく。

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 死亡した少女の父親は警察庁の長官で、何としても犯人を確保しようとして、イェスンの身に危険が及ぶと脅迫し、ヨングに虚偽の自白を強要する。それはただの脅しではなく、本気だ。描かれた警察・裁判関係者による人権侵害の数々はたいへんリアルだ。

 正しくあるべき世界は汚れている。一方、犯罪者であるにも関わらず、ヨングが収監された7番房では、信義に厚い房長のもとで、皆が互いを思いやって、正しく生きている。房内はたいへん暖かみのあるファンタジーの世界であり、パステルカラーで彩色されている程だ。

 刑務所内の派閥争いのために殺されそうになった房長を助けたヨングは、何でも望みを叶えてやると言われ「娘に会いたい」と訴える。同房者の活躍で、イェスンを刑務所訪問の聖歌隊に紛れ込ませて、房内に連れ込み、再会を成功させるという展開はファンタジーとしての真骨頂発揮である。

 そして、ファンタジー性の核心はヨング役のリュ・スンリョンによって体現されている。『王になった男』の冷静な王の側近など、低音の声を朗々と響かせる男性的な役が多かった彼が、今回はドラマ『裸の大将放浪記』の山下清のように吃音があり、誰にでも親近感を抱かせる知的障害者を演じ切った。障害をもつ人たちに会って、どう演じるかを決めたそうだが、生真面目さや正直さを強調し、ヨングを天使のごとき主人公として確実に造形している。本作で映画デビューし、イェスンの幼少期を演じたカル・ソウォンもけなげで愛らしく、まさに天使のようだ。無垢な父と娘の絆の強さ、特に障害がありながらも娘に対して献身的に愛を注ぐ父の姿には誰もが心揺さぶられるだろう。

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 7番房の人々も父娘に心揺さぶられて、献身的な働きをする。『10人の泥棒たち』のオ・ダルスを筆頭に、『結界の男』のキム・ジョンテ、『折れた矢』のパク・ウォンサンなど、アクの強い異才たちのコミカルな演技はその場面だけ取りだして見ても充分に楽しめる。また、成長したイェスンに扮した『シラノ恋愛操作団』のパク・シネと、ヨングを支える刑務所課長に扮した『王の男』のチョン・ジニョンはリアルな演技で作品全体を引き締めている。

 2012年末に大統領選が行われた韓国では、朴正煕の娘で現大統領の朴槿惠が大統領候補となっていたことが影響してか、選挙前には実際の事件をもとに軍事独裁の暴虐を写実的に描いた『南営洞1985』『26年』が公開された。

 2013年1月に公開された本作では、イ・ファンギョン監督はリアリズムを隠し味に使い、暖かいファンタジーとして父娘と7番房の人々を前面に浮き上がらせ、歴代動員記録3位を成し遂げた。韓国伝統のリアリズムと親子の絆を見せつつ、ファンタジー重視という新しい形式の告発作品を生みだしたという点に瞠目した。


『7番房の奇跡』
 原題 7번방의 선물 英題 Miracle in Cell No.7 韓国公開 2013年
 監督 イ・ファンギョン 出演 リュ・スンリョン、パク・シネ、カル・ソウォン
 2014年1月25日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
 公式サイト http://7banbou.com/

Writer's Note
 井上康子。『7番房の奇跡』を最初に見たのは2013年の旧正月だった。いつもは若い観客が中心の映画館が、この時は家族連れでごった返していた。母親に「オンマー(ママー)」と甘える子や、紳士然とした息子に「オモニ(お母さん)」と足元を気遣われて微笑む老母を見ていると、作品の余韻も重なり、一人で映画を見るのがちょっと寂しく思えた。


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Report & Interview 中国インディペンデント映画祭2013、チャン・リュル監督 ~詩的な映像と冷静な視線が、見る者の心を打つ芸術作品を生み出す

Text by Kachi
2014/1/4掲載



 その圧倒的な映像の力はキム・ギドクのようであり、抑制の効いた眼差しはイ・チャンドンを彷彿とさせる。キムチの行商で生計を立てる女性とその息子を中心に、下層庶民の力強い「生」を描いたチャン・リュル監督の『キムチを売る女』(2006:韓国公開年、以下同じ)には本当に衝撃を受けた。

 中国インディペンデント映画祭2013(11月30日~12月13日@オーディトリウム渋谷)は、日本はもちろん、検閲の厳しい中国ではほとんど劇場公開されない独立映画を紹介するイベントである。2年ぶりの開催となる今回、中国吉林省生まれの朝鮮族であるチャン・リュル(張律)が初の「監督特集」として取り上げられ、『豆満江』『重慶』『唐詩』の3本が紹介された。その他、2012年の東京国際映画祭で上映されたヤン・ジン(楊瑾)監督の中韓合作『ホメられないかも』など、ここでしか見ることのできない選りすぐりの総14本が一挙上映された。

 来日したチャン・リュル監督へのインタビューと、上映時に行われたQ&Aの内容を交えて、レポートをお届けする。

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『豆満江』

 『豆満江』(2011)。12歳のチャンホは、韓国に出稼ぎに行っている母を待ちながら、ろうあ者の姉スニと祖父の3人で、豆満江に沿った中国側の村で暮らしている。ある日、病気の妹のために食べ物を探しにきた北朝鮮の少年ジョンジンと出逢う。サッカーが上手いジョンジンと仲良くなったチャンホだったが、脱北者と村人の関係が悪化していくにつれて友情に亀裂が入り始める。

 中国の子ども達は、北朝鮮の少年達と屈託なくサッカーに興じ、チャンホの親友の父親は商店を営む傍ら脱北の手助けをしている。豆満江は中国と北朝鮮を分ける国境線なので、厳しい国境警備隊の目をかいくぐり、凍った河を渡ってくる北朝鮮の人々が多いのだ。だが作品の舞台となった村は「人数の増減はあるものの、断続的に脱北者が来ることで様々な問題に直面していた」と監督は語る。劇中でもチャンホの祖父が助けた脱北者が、チャンホと祖父の留守中、金正日を讃えるドキュメンタリーがテレビで流れ始めた途端パニックに陥り、スニを強姦してしまう。目を背けたくなる辛いシーンだが、監督はどんな思いで撮影したのだろうか。

「北朝鮮には、中国や韓国、日本のように24時間テレビ放送があるわけではない。一日数時間の放送の中、少ない番組を何回も見させられる。北朝鮮が嫌で命がけで逃げ出し、関係ない場所にやっと来られて安堵した時に、北朝鮮で繰り返し見させられていた番組に触れる。全く心の準備をしていない時にああいうことが起きると、おかしくなってしまうものだ。」

 そして、こんなエピソードを話してくれた。アジアフォーカス・福岡国際映画祭2007で上映された『風と砂の女(原題:境界)』をフランスで編集していた頃、休憩のためカフェに入った。しばらくそこで過ごしていると突然、中国の文化大革命の時によく流れていた曲が店内で流れた。文革で父が逮捕され、母と農村に下方させられた経験を持つ監督は、辛い記憶を呼び覚ます音楽に「何の心の準備もしていなかった。一体ここはどこなんだ?」とその場で発狂してしまいそうになったそうだ。

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Q&A時のチャン・リュル監督

 監督によれば、実際の村人達は「確かに脱北者が問題を起こすこともあるが、基本的には助けてあげたい」と話していたそうだ。そんな地元民の気持ちに加え、作り手の心理的な実体験が重ねられたこの場面は、被害者も加害者も弱者として描かれており、双方の心身をえぐられるような痛みが見る者に強く伝わってくる。

 作品終盤、子どもの頃に北朝鮮から中国へ渡って来たという老女が、豆満江の橋を渡り故郷へ帰っていく。一方、村ではチャンホ達に悲しい出来事が起きる。子どもの純粋さが引き起こした事件の顛末はあまりに残酷だ。だが絶望的なラストにもかかわらず、雪の降る豆満江に架かる橋は本当に美しく、清新な気持ちすら覚えたのだった。

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『重慶』

 『重慶』(2008)は、元々『イリ』(2008)とともに1本の作品として製作された。ちなみに『イリ』は、1977年に起きた韓国のイリ(現在はイクサン)駅での列車爆発事故で心身に傷を負った者を描いた作品で、アジアフォーカス 福岡国際映画祭2009で上映されている。

 中国の大都市のひとつ、重慶で留学生に中国語を教えるスー・ユンは、老父と二人でつましく暮らしている。彼女のアパート周辺には娼婦がたむろし、早くに妻を亡くした父は日常的に買春をしている。ある日、父が娼婦と逮捕されるが、地元警察のワン警官の計らいで事なきを得る。スーはワンと肉体関係を持ち、次第にセックスに取り憑かれたようになる。

 『キムチを売る女』にも売春婦が登場したが、客や元締めの男性達に徹底的に搾取されながらも、無邪気に息子と遊ぶあっけらかんとした姿には暗さを感じなかった。『キムチを売る女』で描かれたのが性における陽の部分なら、『重慶』はその陰部だ。監督によれば、当時の中国では、監督が住む北京の住宅街にも娼婦が立っていたり、重慶の公安局上層部が強姦事件で逮捕されたりと、日常に「性」が氾濫していたそうだ。上映時のQ&Aで監督は「自分にとって性とは本来美しく、愛情の延長線上にあるものだが、本作の性は全く美しくなく、その現実は避けられない」と話し、汚れた性そのもののワン警官を「もう精神が崩壊している」存在だとした。

 だが本作の主眼は、腐敗した公権力の揶揄でも、性の乱れに警鐘を鳴らすことでもない。ひそかにスーを慕う韓国人男性は、留学生仲間が催したダンスパーティーでスーから体を求められるが、イリでの爆発事故で男性器を失ったことを告白する。彼がパーティーで披露するダンスに、抑圧された欲望が現れているようで何とも卑わいだ。チャン・リュル監督のねらいは、老いも若きも男も女も、何があろうと性欲という存在から逃れることができない人間の姿を、ごまかすことなく真正面から描くことなのだ。

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『唐詩』

 『唐詩』(2005)は監督の長編デビュー作だ。主人公の男はかつてスリだったが、手のけいれんを発症した現在は、自宅のアパートに籠っている。日課といえば、掃除、植物への水やり、浴室で隣の老人に聞き耳を立てること、そしてテレビの唐詩講座を見ることだ。弟子で恋人の女性は何とか盗みの仕事をさせようとするが、男の日々は無為に過ぎていく。

 本作が全て室内で撮影されていることについて、監督は上映後のQ&Aで理由を明かした。撮影当時の2003年、北京の住宅に住んでいた監督は、ほぼ引きこもりの生活を送っていた。そしてその隣の部屋にも、この作品に出てくるような老人が独りで住んでいた。彼は穏やかな人だったが、あまり他人と関わらないでいるようだった。しかし、浴室に入ると聞こえる電話の声や、夜のすすり泣きを耳にするうち、老人への興味が湧いてきた。それと同時に中国国内でSARS(重症急性呼吸器症候群)が大流行し、外へ出られなくなった。そこで当初計画していた『豆満江』の製作を中断し、このように室内だけで撮影する作品に着手したのである。

 男の感情にもストーリーにも起伏はなく、ただ淡々と過ぎていく作品だが、ダンスをする女性にハッとさせられるなど、力のある映像のため退屈しない。Q&Aで監督は「室内だけでしか撮影できなかったから、単調にならないようにとショットを工夫した」と振り返った。ところで、チャン・リュル監督は小説家の経歴も持つ。小説を書いていたことは、独特な画づくりに影響しているのだろうか。

「映画と小説は、その脚本を書くという段階において似通っていると思われがちだが、全く違うもの。できるだけ小説家としての影響を受けずに映画を撮りたい。(どういう点が異なるのか?という追加の質問に対して)自分は学者ではないから正確に答えられないし、色々な意見があると思う。ひとつだけ言えることは、小説は物語が中心となるが、映画は必ずしも物語が中心ではない。映画は詩と似ている。」

 『キムチを売る女』『豆満江』『重慶』で感じた詩的な映像美は、文字通り詩への傾倒から生まれたものだった。その非凡な映画作りの才能が、すでにデビュー作に表れていたのだ。

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チャン・リュル監督(左)と中山大樹・映画祭代表(右)

 インタビューの終わりに一番気になっていたことを質問した。チャン・リュル監督の作品に登場する人物の多くは、理不尽で悲惨な目に遭う。しかし、虐げられた者達はどこか淡々としていて、何事もなかったように日々を過ごしている。監督も感情的な描写を避けているように感じるが、それは何故なのだろうか? チャン・リュル監督は「自分自身が冷静な性格だから」という理由に付け加えて、こう答えてくれた。

「作品で描かれている人達は、比較的社会の底辺にいる庶民で、非常に悲惨な経験や、暴力にさらされて生きている。辛い事がある度にいちいち爆発していたら生きていけない。私が実際に知っているそういう人達は皆、苦しみや悲しみを静かに受けいれて生きていた。ただ自分から見ると、そういう人達は抑圧された気持ちが蓄積されているのではないか。だから、いつか爆発してしまうのではないか?と思って見ている」。

 下層の人々が苦しむ姿を、監督は慰めるように見つめ、彼らの悲しみを静かに分かち合い、しぶとく生きる力強さを映しとる。作品に実体験が垣間見えるのは、在中三世で朝鮮族の映画監督という自身の人生にも苦難の歴史があるからだろう。だがチャン・リュル監督は、それを単なる自分の物語として矮小化することなく、詩情を感じる画作りと冷静な視点で描くからこそ、見る者の心を打つ芸術作品となり得るのだ。


中国インディペンデント映画祭2013
 期間:2013年11月30日(土)~12月13日(金)
 会場:オーディトリウム渋谷
 公式サイト http://cifft.net/

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Writer's Note
 Kachi。昼の『豆満江』上映前の挨拶で「この映画はとても寒いので、今日の東京は暖かくてよかった」と語ったチャン・リュル監督。しかし夕方は急に冷え込んだため、インタビュー開始直後の監督はくしゃみを連発。『豆満江』の舞台がご自身の故郷に近いとのことで「田舎で自分の噂をしてるのかも」と微笑まれました。


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