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Interview アジアンクィア映画祭共同代表・入美穂さんに聞く ~クィア映画が自然なものとして存在するのが理想

Text by Kachi
2013/4/24掲載



 日本で唯一、アジアのクィア映画だけを上映する映画祭、アジアンクィア映画祭(Asian Queer Film Festival:以下、AQFF)が、シネマート六本木を会場に、5月24日(金)~26日(日)、5月31日(金)~6月2日(日)の6日間に渡って開催される。

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 AQFFは、製作や発表の機会が少なかったり、国によってはその性的指向のために法で罰せられるなど、欧米に比べて抑圧されがちなアジアのセクシュアル・マイノリティとその作品を紹介するために、またクィア当事者の立場から自由な描写ができるインディーズ映画を発掘し、映像文化全体の発展に寄与するため、2007年にシネマアートン下北沢でスタートした。以来、会場を変えながら隔年開催されているが、上映されるや大きな反響を呼んだイ=ソン・ヒイル監督『後悔なんてしない』(第1回、2007年、AQFFでは『悔いなき恋 -NO REGRET-』とのタイトルで上映)をはじめ、ソウルの有名なゲイストリートを舞台にした珠玉のドキュメンタリー『チョンノの奇跡』(第3回、2011年)などを紹介し、クィア当事者やアジア映画ファンのみならず、すべての映画好きを魅了する映画祭に成長した。

 第4回となる今年、韓国作品は、イ=ソン・ヒイル監督3部作「One Night and Two Days」(『あの夏、突然に』『南へ』『白夜』)、キム・スヒョン監督『マネキンと手錠』、キム=チョ・グァンス監督『2度の結婚式と1度の葬式』、ソ・ジュンムン監督『REC』、同『蛍の光』(アンコール上映)、ルディー・リー監督『女優』、チャン・ユンジュ監督『ネイル』、アンドリュー・アン監督『アンディ』と、長中短編あわせて10作品が上映される。

 AQFF発足当時から共同代表を務める入美穂(いり みほ)さんは、1999年からインディーズで映画作りを開始し、レズビアンの日常を描いた映画5作品を監督した。入さんの作品は各国のLGBT映画祭で上映されたが、2000年のソウルLGBT映画祭(Seoul LGBT Film Festival:以下、SeLFF)での上映がきっかけとなり、韓国映画を多く見るようになったという。映画祭直前、アジアのクィア映画だけを上映する映画祭に対する思いや苦労、今年の見どころなどをうかがった。



インタビュー


── 韓国映画がお好きな入さんから見て、韓国と他のアジア諸国とでクィア映画の違いはどんなところでしょうか?

韓国は映画産業の豊かな国なので、クィア映画も脚本がしっかりしていて、撮影技術が卓越していると感じます。映画祭や配給など、芸術映画を受け入れる体制も整っています。たとえば『REC』は、ソ・ジュンムン監督が配給会社のJINJIN Picturesに直接売り込んで韓国での劇場公開が実現したそうです。クィア映画がそうやって劇場公開されるということ自体、すごいです。

── 韓国のクィア映画は、昨年チョン・ギュファン監督『重さ/The Weight』がベネチア国際映画祭でクィア獅子賞を受賞したり、イ=ソン・ヒイル監督『白夜』がベルリン国際映画祭で披露されたりと海外で評価される一方、国内ではトランスジェンダーが出演するバラエティ番組「XY彼女」が、視聴者から抗議の嵐で開始早々に放送中止になってしまいました。SeLFFと交流されている入さんは、このような現状をどうお考えですか?

一進一退ですね。若い人たちにはあまり先入観もないですが、やはり50代~60代の世代にとってはバッシングの対象です。韓国では良いクィア作品が増えてきていて、最近はKBS系列で「クラブピリティスの娘たち」というドラマ(注)があったのですが、これも抗議が殺到して再放送できないようです。作品としてしっかりしていましたし、このような番組が作られたことが貴重だったので上映交渉をしたのですが、本国での事態が影響してか、かないませんでした。

世界で評価され、国内ではバッシングという動きは、そのバッシングがいかに時代遅れかという証明にもなります。SeLFFと交流したり、映画祭を主催している立場からすると、バッシングの事実も含めて、監督が当事者か否かに関わらずクィア要素が含まれた映画が高く評価されたり、きちんと当事者の声を代弁した番組が作られたということは、映画監督を目指す者に大きな影響を与えるので、映画祭などのイベントがより活性化するとてもいい動きだと思います。

(注)「クラブピリティスの娘たち」は、50代の女性が営むレズビアンバーを舞台に、30代のキャリアウーマン、10代の女子高生と年齢も仕事も様々なレズビアンの女性たちが織りなす愛を描いたスペシャルドラマ。2011年8月7日の放送直後より、偏見の多い抗議が殺到した。
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『2度の結婚式と1度の葬式』

── クィア映画の中でもレズビアン映画はゲイ映画より少ないです。

それはアジア全般で言えますが、原因の根本は「女性」という立場の弱さ、地位の低さですね。そもそも映画製作の現場は男性が多く、女性監督自体が少ないですから。ヘテロセクシュアルの男性がレズビアン映画を作ると、男性目線のファンタジー色が強くなる傾向があり、あまり良い作品が生まれません。かといって、レズビアン当事者として映画を作るのも、カミングアウトの問題が絡む上、偏見を持った男性から「男は不要なんだろう、女の力だけでやってみろ」と言わんばかりのプレッシャーをかけられたという話も聞いたことがあります。それと、レズビアン映画はどうしてもポルノ・ムービーのイメージがつきやすく、正規の商業映画のルートに乗りづらいんです。このイメージは払拭していきたいです。

── 数少ないレズビアン作品には、韓国の『OUT:ホモフォビアを叩きのめす!プロジェクト』のように、女性の地位向上を訴えかける文脈でレズビアンの存在が語られることが多いように感じます。

レズビアンの問題はフェミニズムとは切り離せないので、こういった作品が出るのは当然なのだと思います。これまで見てきたアジアのレズビアンのドキュメンタリーも、そういう傾向が強いです。

── 韓国映画に限って感じるのは、大ヒット作『サニー 永遠の仲間たち』にもある、女性同士での濃い友情、身体の接触の親密さです。映画で描かれるレズビアンとただの女友達とのボーダーはあいまいです。

あいまいだからこその傑作もありますが、本当はもっと直接的に出したいのに、それを避けるためにあいまいにクィアを描く場合もあります。それは、率直に描写されたクィアの姿に嫌悪感を示す人がいるからですよね。ただの友情物語なら、見る人の裾野は広がっていくのですが、あいまいにされることは存在しないことと同じなので、クィア当事者にとってはいつまでも辛いままなんです。クィア映画が広がりを見せるまでの途上ならそういう描き方も必要ですが、はっきり「レズビアン映画」と主張する作品がもっとあってもいいのでは?と日々思います。

── キム=チョ・グァンス監督『2度の結婚式と1度の葬式』にもレズビアンが登場します。

この作品は「偽装結婚」がテーマなのでゲイもレズビアンも登場し、観客の皆さんから上映を期待されている作品です。スチル写真もとても素敵ですが、レズビアンの描写についてはまだ少し浅く、場面も少ないですね。物語の設定上でレズビアンが登場する、という印象が強いです。

── キム=チョ・グァンス監督は「笑えるクィア映画」をポリシーにしているそうです。

確かにアジアのクィア映画は全般的にシリアスですね。彼らを取り巻く厳しい現実を反映していることが多いので、仕方がないといえます。もっと明るい作品も見たいのですが、なかなか表立って出てこない。そんな中でも笑いを、という監督のポリシーは素晴らしいですし、尊敬します。

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『マネキンと手錠』

── 『マネキンと手錠』もレズビアン映画ですね。

そうなんですが、ヘテロセクシュアルの男性目線を意識させない作品になっていて驚きました。レズビアンの監督が作ったのではないかと錯覚するほど共感できました。男性が作ったレズビアン映画でこんなに満足できたのは初めてです。クィア映画には自分のセクシュアリティに悩むテーマをもつ作品が多いですが、そういうものとも違っているので、初めはとっつきにくいですが、見ているうち引き込まれていく作品です。レズビアン映画史上、革命的な作品になるかもしれません。キム・ヒョジンとキム・コッビがいいですね! 二人の力は大きいです。

── AQFFといえばイ=ソン・ヒイル監督ですね。第1回で『後悔なんてしない』を日本初上映しましたし、今年「イ=ソン・ヒイル トリロジー」として『あの夏、突然に』『南へ』『白夜』の三部作をクロージング上映する「One Night and Two Days」は注目プログラムの一つです。

ヒイル監督の作品は、まだ韓国で一般上映がされていない段階で上映交渉に入りました。どの作品も配給が間に入ると交渉は難しくなるものですが、配給からプレビューをもらうのに一苦労でした。

── 彼の作品ということで「これは!」と思われたのですね。ヒイル作品の魅力はどんなところですか?

彼はインディーズ出身ですが、もはや名実ともに一流の監督になったと思っています。映像美にこだわった作品は概して脚本が弱いですが、彼はそんなことないんですよね。作品のどのシーンをスチル写真として切り取っても、それだけで成立してしまうような詩的で美しい画面。『後悔なんてしない』は、手がかじかむようなソウルの寒さが伝わってくる独特な色味の画面ですが、どこか温かい。そんなことが作品全体から伝わってくるんです。脚本も展開に派手さや奇抜さはありませんが、よく練られていて、この後二人はどうなるの?と、主人公たちに寄り添いたくなる気持ちにさせてくれます。さらに彼がすごいのは、そのスタイルが有名監督になっても変わらないことです。大きい作品を手がけるようになれば、興行的にも成功しなければとプレッシャーがかかりますし、一般受けをねらってゲイシーンを必要以上に綺麗にしすぎたりなんてこともありますが、ヒイル監督作はいつもむき出しのリアリティーがあります。でもそれが元々の才能で、本当に美しいんです。こういう監督は貴重です。

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『白夜』

── 惚れ込んでらっしゃるのですね。今年は監督の招聘も予定されています。どんな方なのですか。

それほど長い時間お話をしていないので、ほんの印象なのですが、ブレない、土台がしっかりした方です。

── 5月にお会いできるのが楽しみです! ヒイル監督が計画したオムニバス映画『カメリア・プロジェクト:ボギル島の三つのクィア・ストーリー』でデビューし、『REC』『蛍の光』が上映されるソ・ジュンムン監督について伺います。『蛍の光』は、かつての恋人同士が老いて再会するストーリーですが、「老いと同性愛」はクィア映画の重要なテーマなのでしょうか。

クィアにとって「老後をどうするか」は大きな問題です。結婚という選択肢は、今はまだありませんし、それに伴う公的な補助もないですしね。あと、ゲイ男性にとって老いは恐怖のようです。ゲイコミュニティの中でちやほやされるのは常に、若くていい体をした男性ですから。

── 『REC』はどんな作品ですか?

登場人物は男性二人だけ。舞台もホテルの一室で話が進むので、二人の感情に乗れないとちょっと難しいですが、入り込めればとても良い作品だと思います。ジュンムン監督はまだ若いので、作品に甘さやゆらぎも感じます。でもAQFFは、良作の紹介だけでなく、作り手の応援というスタンスもあるので、上映を決めました。

── 映画監督をされていた入さんですが、今、クィア映画の製作はどのような状況でしょうか?

たとえば短編Bの一本『アンディ』のアンドリュー・アン監督は、『アンディ』の後に『Dol (First Birathday)』を撮っていて、昨年サンダンス映画祭で上映されたりしているのですが、作り続ける監督って本当に少ないです。自分の経験から言うと、映画製作自体の大変さもさることながら、クィア映画のようなインディーズ製作から始めた人は必ず岐路に立つ時が来ます。そこで選択肢はいくつかありますが、商業映画に方向を変えていくことが最も高いハードルです。インディーズ系の短編作品の後で長編の『2度の結婚式と1度の葬式』を撮ったキム=チョ・グァンス監督は、方向転換が上手くいった例ですが、彼はもともとプロデューサーとして商業映画の世界にいて、短編映画もその布石となる作りだったことで、可能だったのだと思います。

── 『チョンノの奇跡』のソ・ジュンムン監督のパートでは、彼が撮影現場でただ一人のゲイであることで抱えるストレスと孤独が印象的でした。

そうですね。ですので、『後悔なんてしない』のようにゲイであることを公表した監督がインディーズで製作したクィア映画が商業的に成功したことは、本当に重い事実です。モデルケースがあれば後に続く人が出ますから。

── AQFFも今年で7年目を数えます。今後の展望などを教えて下さい。

これまで隔年開催にしていたのは、プログラムを「アジア」「インディペンデント」「クィア」の3点にしぼると、作品が集まりづらいと思ったからです。ただ近年は、アジアのクィア作品も増えつつあるので、作品数だけなら映画祭の規模を大きくできるかもしれませんし、その方が上映される監督のためにもなります。ただ運営は全員ボランティアなので、やはり隔年がやっとというところです。

でも本当は、クィア映画が自然なものとして存在していくことが理想です。アジアのクィア監督がカンヌの常連になったり、オスカーを競いあったりする世の中になったら、その時はアジアのクィア映画祭ではなく、アジアで特にクィア映画が生まれにくい国に限定した映画祭をやっているかもしれません。そしてその国の映画が世界に知られ始めたら、また別の…というように。いずれは、私たちが上映する映画が「クィア映画」とカテゴライズされずに済むようになればと願っています。その時は、AQFFはなくなってもいいのかもと考えています。

あと忘れないようにしているのは、映画祭としての楽しさと、文化としての映画を芸術として感じること。差別や偏見をなくすために訴えたいことはたくさんありますが、それが主になって「活動」に傾き過ぎるのではなく、あくまで映画を楽しんでもらい、多様な愛や生き方を知ってもらいたいです。



取材後記


 アジアのクィア映画の、日本屈指のパイオニアへのインタビュー。かなり気後れしつつ取材場所に到着したのですが、お会いした入さんは穏やかな方で、まだまだ知識不足の筆者の質問に真剣に答えて下さいました。作品や監督に寄り添ったお話しの数々を思い出すにつけ、「クィア映画や監督が実力で評価される世の中になったらAQFFはなくなってもいい」という言葉の重さを感じます。長時間のインタビューに応じて下さり、改めてお礼申し上げます。


第4回アジアンクィア映画祭
 期間:2013年5月24日(金)~5月26日(日)、5月31日(金)~6月2日(日)
 会場:シネマート六本木
 公式サイト http://aqff.jp/


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Review 『豚の王』 ~花コリ史上最大の話題作、その魅力とは?

Text by 加藤知恵
2013/4/7掲載



 「花開くコリア・アニメーション(通称、花コリ)」で長編の上映が始まったのは2011年からである。以来、筆者は長編3作品の字幕翻訳を担当させていただいている。

 最初に紹介した長編は『ロマンはない』。家族愛・夫婦愛をほのぼのとしたタッチで描いたホームコメディで、韓国映画アカデミー出身の3人が共同演出した作品だ。花コリの主催者であり、監督とも縁の深い韓国インディペンデント・アニメーション協会(KIAFA)の推薦により上映が実現した。2012年の上映作『家』も同じく韓国映画アカデミーの卒業生5人によるもの。家に宿る“家神”と人間の少女との交流をスチール写真と2Dのキャラクターを合成させて描き、再開発という社会問題を扱った意欲作で、世界最大のアニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭2011にも正式出品された。

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『豚の王』

 そして今年は、韓国長編アニメーションとして初めてカンヌ国際映画祭に招待され、カメラドール(新人監督賞)の候補にも名を連ねた『豚の王』を上映する。監督は『地獄』『愛はタンパク質/Love Is Protein』などの短編で知られるヨン・サンホで、『家』でも主役の声を演じたキム・コッビとともに、『息もできない』のヤン・イクチュンが声優を務めている。作品の規模や映画祭での評価が全てではないが、話題性では花コリ史上最高の作品と言えるのではないだろうか。

 『豚の王』の見どころは、韓国アニメーション初の“成人用残酷スリラー”と称されるように、暴力描写が散りばめられたショッキングで緊迫感のある映像と、ミステリー要素を含んだシナリオの面白さにある。会社の経営破綻の後に妻を殺した主人公ギョンミン(声:オ・ジョンセ)が、15年ぶりに友人ジョンソク(声:ヤン・イクチュン)を訪ね、当時の記憶を語り合いつつ衝撃の事実が明らかにされるというストーリー。物語はジョンソクのナレーションによって誘導され、過去と現在の場面が絶妙に交差しながらクライマックスに向かって一気に加速する。重要な台詞で表情がクローズアップされたり、ケンカのシーンでは360度回転するアングルで全体を描き出していたりと、まるで実写映画のカメラワークを見ているようにリアルな演出にも驚く。それもそのはず、ヨン監督は実写映画のシナリオ執筆作業にも携わった経験があるとのこと。実現の予定はないようだが「『豚の王』を実写化してほしい」という声もあがったそうだ。また監督は普段から映画人との交流にも積極的で、ヤン・イクチュンは元々個人的に親しかったことからキャスティングが決まった。ちなみに今年公開予定の新作長編『サイビ/사이비』にも、ヤン・イクチュン、オ・ジョンセ、キム・コッビが再度声優として出演することが決定している。

 字幕を翻訳する立場としても、『豚の王』はかなりチャレンジングな素材だった。過去の『ロマンはない』や『家』は女性の登場人物が中心であり、台詞で語るというよりは絵の持つ雰囲気やキャラクターの面白さで魅せている作品だ。人物同士のコミカルな会話も見せ場とはいえ、全体的に台詞の数は多くはない。しかし今回は男子学生の世界、しかも終始繰り返される悪口と暴力…。特に口癖のように登場する「ケーセッキ/개새끼」(“この野郎”の意)という言葉は、不快過ぎない表現を選びつつ、いくつもバリエーションを持たせなければならず苦労した。こんなにも日本語の悪口を勉強したのは初めてだ。KIAFA事務局長チェ・ユジン氏にも「何度も見ると性格が悪くなりそう」と同情してもらった。

 もちろん残酷な面だけに注目してほしいわけではない。この作品は「階層社会」という韓国社会の闇の部分を描き出した点でも評価が高い。時代設定は1992年であり、江南地域の狎鴎亭(アックジョン)にある中学校がモデルとのこと。実際に当時の状況について調査が行われたうえで制作されている。学校内での子どもたちの権力争いを描いた作品としては、韓国の実写映画『われらの歪んだ英雄』や『マルチュク青春通り』と比較されることもあるが、軍事政権下の閉塞感が背景に描かれている2作とは異なり、『豚の王』が批判するのは経済格差によって生じる階層社会だ。「金は金持ちの所にだけ集まる。俺たちがいくらあがいても手に入らない」、「無視をすればいい。どうせ大人になれば(彼らに)会おうとしても会えない」、「皆にとって当然のことを諦めて、負け犬になるの」など、台詞の随所に下級層(豚の階層)に位置する者の嘆きと憤りが現れる。どれほど勉強や運動で努力をしても、どんなに善良な人間になっても、根本的な格差を乗り越えることはできないのだという絶望感。そうして追い詰められた豚(の層)たちは、最終的に究極の手段を選択するに至る。ただの“残酷スリラー”では終わらない理由がここにあるのだ。

 折しも花コリで長編上映が始まった2011年は、『豚の王』以外にも、劇場用アニメーションとして220万人を動員した『庭を出ためんどり/마당을 나온 암탉』(監督:オ・ソンユン、声:ムン・ソリ、チェ・ミンシクほか、日本未公開)や、10年の制作期間を経て完成した本格青春アニメーション『Green Days~大切な日の夢~』(監督:アン・ジェフン、ハン・ヘジン、声:パク・シネ、ソン・チャンイほか、真!韓国映画祭2012上映作)のような大作が次々と公開され、韓国アニメーション界にとっても記念すべき年となった。その後も豊作は続いており、現在制作中のヨン・サンホ監督の新作『サイビ/사이비』のほか、鯖を主人公にした冒険劇『パタパタ/파닥파닥』(2012年韓国公開、イ・デヒ監督、日本未公開)や人工衛星の少女とまだら牛になった少年のラブストーリー『ウリビョル1号とまだら牛/우리별 일호와 얼룩소』(2013年公開予定、チャン・ヒョンユン監督)など、注目作が多数ある。来年はどんな作品を紹介できるだろうか。今から期待を膨らませている。


花開くコリア・アニメーション2013
 プレイベント:2013年4月13日(土)@シアターカフェ(名古屋市大須)
 東京会場:2013年4月20日(土)~4月21日(日)@アップリンク・ファクトリー
 大阪会場:2013年5月11日(土)~5月16日(木)@PLANET+1
 名古屋会場:2013年5月18日(土)~5月19日(日)@愛知芸術文化センター
 公式サイト http://anikr.com/

特集 花開くコリア・アニメーション2013
 News 今年も満開の「花開くコリア・アニメーション2013」、4/20より東京・大阪・名古屋で順次開催!
 Review 『豚の王』 ~花コリ史上最大の話題作、その魅力とは?

Writer's Note
 加藤知恵。シネマコリア・スタッフ。毎年「花コリ」で長編の字幕翻訳を担当しているほか、今年はアジアンクィア映画祭でも韓国作品の字幕翻訳・監修作業を担当。先日、大阪アジアン映画祭で『裏話 監督が狂いました』(イ・ジェヨン監督)を鑑賞した際、気のいいAD役で出演しているオ・ジョンセが、メガネで神経質なギョンミン(『豚の王』のキャラ)にしか見えない(声が気になりすぎて…)という錯覚に陥りました。


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News 今年も満開の「花開くコリア・アニメーション2013」、4/20より東京・大阪・名古屋で順次開催!

Text by 加藤知恵
2013/4/7掲載



 今年で6回目を迎える「花開くコリア・アニメーション2013」が、今月以降、東京・大阪・名古屋の3会場で開催される。

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花開くコリア・アニメーション2013のチラシ

 「花開くコリア・アニメーション(通称、花コリ)」は、韓国のインディーズ・アニメーション映画祭「インディ・アニフェスト」のノミネート作品の中から選りすぐりの短編や、話題の長編を紹介する、日本で唯一の韓国アニメーション専門映画祭だ。作品の上映だけでなく、会場ごとに異なるゲストを招いたトークやワークショップが企画され、作家と直接交流することもできる貴重なイベントである。

 今年の上映作は短編28本と長編1本の29作品。短編は、家族愛や恋愛を素材にしているAプロ「恋?愛!サラン!!」、バラエティ豊かな視点の作品が集まるBプロ「世界は万華鏡」、動物愛護や労働運動など社会問題が中心のCプロ「心の扉をノック」という、3つのテーマに沿って紹介される。各作家が水彩画やCG、ストップモーションなど得意の手法を用いて韓国社会の現在の姿を生き生きと描き出しており、似たような作品は一つもない。毎年参加している常連の方にとっては、過去のゲストやお気に入りの監督の新作をチェックできることも楽しみではないだろうか。また近年韓国アニメーションは国際映画祭でも評価を高めており、今年は短編『Dust Kid』でカンヌ国際映画祭に進出したチョン・ユミ監督の新作『Love games/恋愛ごっこ』や、ワルシャワ国際映画祭アニメーション部門最優秀賞を受賞したキム・ジンマン監督の『Noodle Fish/でこぼこ魚』が短編ラインナップの目玉となっている。

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『Noodle Fish/でこぼこ魚』

 そして今年の長編は、韓国映画ファンも気になるあの作品だ。2011年の釜山国際映画祭で3冠を達成し、翌年のカンヌ国際映画祭に韓国長編アニメーションとして初めて招待された、ヨン・サンホ監督の『豚の王』。1992年の中学校を舞台にアニメーションならではの容赦ない暴力描写を用い、階級社会に対する批判を描いた本作は、カンヌでも観客から好評を得た。『息もできない』のヤン・イクチュンとキム・コッビが声優として出演している点にも注目だ。

 各会場のゲストとイベントも例年以上に充実している。東京会場では『Noodle Fish/でこぼこ魚』のキム・ジンマン監督を招き、彼独自の作風である“麺アニメーション”について熱く語っていただく。日本の気鋭のアニメーション作家、水江未来氏との対談も見逃せない。大阪会場では、アニメーション作家で映画祭の役員も務めるイ・ギョンファ監督がゲスト。大阪を拠点に活動する映像制作・上映グループ「PEAS」と共同でワークショップやトークイベントが開かれる。名古屋会場でもストップモーションのアニメーション作家として活躍するチョン・ミニョン監督が来日し、ワークショップとトークを盛り上げてくれる予定だ。

 更に名古屋では4月13日(土)にプレイベント「みんなの観客賞&ここだけの先行座談会スペシャル」がシアターカフェで開催され、去年の上映作のうち人気の高かったベスト3作品の上映と、1位『ハトは飛ばない』のユン・イグォン監督との対話、「インディ・アニフェスト2012」の参加レポートなどが行われる。去年の復習と今年の予習を兼ねて、こちらにもぜひご参加を。


花開くコリア・アニメーション2013
 プレイベント:2013年4月13日(土)@シアターカフェ(名古屋市大須)
 東京会場:2013年4月20日(土)~4月21日(日)@アップリンク・ファクトリー
 大阪会場:2013年5月11日(土)~5月16日(木)@PLANET+1
 名古屋会場:2013年5月18日(土)~5月19日(日)@愛知芸術文化センター
 公式サイト http://anikr.com/

特集 花開くコリア・アニメーション2013
 News 今年も満開の「花開くコリア・アニメーション2013」、4/20より東京・大阪・名古屋で順次開催!
 Review 『豚の王』 ~花コリ史上最大の話題作、その魅力とは?

Writer's Note
 加藤知恵。「花コリ」名古屋会場スタッフ。今年はチラシの紹介文執筆や長編の字幕翻訳を担当。長編はもちろん、短編もすべて魅力的な作品ばかりですが、個人的なお気に入りは、ロボットと蝶々の友情を描いた『Bleach』(チョン・ギュヒョン監督、Bプロ「世界は万華鏡」で上映)でしょうか。切ないストーリーに心を打たれます。


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News 名古屋で特集上映「杉野希妃という女性(ひと)」開催! ~アテンドから垣間見える杉野さんの素顔

Text by 加藤知恵
2013/4/4掲載



 4月20日(土)より、名古屋市大須のシアターカフェにて特集上映「杉野希妃という女性(ひと)」が開催される。

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特集上映のチラシ(画像をクリックすると印刷用のJPEGファイルが別ウィンドウで開きます)

 杉野希妃さんといえば、女優・プロデューサーとして国内外で高い評価を得ている若きスーパーウーマン。震災・放射能を素材にした『おだやかな日常』は現在全国で好評上映中で、3月に開催された第5回沖縄国際映画祭では、クリエイターズ・ファクトリー最優秀ニュークリエイター賞と女優賞をダブル受賞した。また、『歓待』の深田晃司監督と再度タッグを組んだ、二階堂ふみ主演の『ほとりの朔子』も年内に公開を控えるなど、その注目は高まるばかりだ。

 2月末、『おだやかな日常』の公開初日舞台挨拶と特集上映のプロモーションを兼ねて、ご本人が来名された。意外にも彼女のプロデュース作品が名古屋で公開されるのはこれが初めてであり、名古屋を訪れるのも『クリアネス』のプロモーション以来、実に5年ぶりとのこと。

 その彼女の素顔はというと、名古屋駅に到着早々「ツイッター用の写真を撮らせて下さい」という唐突なお願いにも、嫌な顔一つせず完璧なポージングで応えて下さる気さくな女優さん。そして「2年前にお会いしてますよね」と、以前に少し挨拶を交わした程度のスタッフのことも気にかけて下さる、何とも細やかな方だ。これまでの活躍の経緯について「出会いが出会いを呼んだ」と語られるように、人と人との繋がりを大事にされている彼女の本質が伝わってくる。

 シアターカフェへご案内する道中では、大須観音のデザインに興味を持って参拝されたり、商店街で梅味の「ういろう」に興奮されたりと、好奇心旺盛で天真爛漫な姿がとても可愛らしかった。しかし実はどんな場面でも、常に映画の素材にならないかという目線でアンテナを張っていらっしゃるのだと気付き、さすがプロデューサーだと納得させられた。普段から「和エンタテインメント」を共同で運営する小野光輔プロデューサーと、映画に限らず美術や音楽も頻繁に鑑賞されるそうだ。「映画人は映画界の中だけで交流していてはいけない」とのコメントを聞いた直後、シアターカフェで個展が開催中だったアーティスト Natsuko Poe さんのイラストに一目ぼれした杉野さんは、まさにその日のうちにコラボレーションの話をまとめ上げていた。

 一年のうち4分の1は、国内外の映画祭や撮影・プロデュースの仕事で各地を飛び回る多忙な毎日であり、完全にオフといえる日は存在しないとのこと。映画に対するひたむきな情熱や、ご本人の気さくで自然体な人柄に触れると、出会った人は皆自然と彼女に協力し、応援したくなってしまう。

 そんな魅力的な女性(ひと)、杉野希妃さんの作品を、名古屋で初めて一挙に紹介するのが今回の特集上映だ。上映作品は、女優デビュー作である『宝島』(オムニバス『まぶしい一日』より)のほか、主演兼プロデュース作のうち『避けられる事』『マジック&ロス』『大阪のうさぎたち』の4本。

「アジア・インディーズのミューズ」の称号にふさわしく、『宝島』(キム・ソンホ)と『大阪のうさぎたち』(イム・テヒョン)は韓国、『避けられる事』(エドモンド・ヨウ)と『マジック&ロス』(リム・カーワイ)はマレーシアと、全て海外の監督とのコラボレーション作品。ご本人も「世界中どこを探してもこんなヘンな作品はない」と太鼓判を押すように、国籍や言語、ジャンルを超えた独自の世界観を持つ怪作(?)が勢揃いしている。また、ヤン・イクチュンやキム・コッビ(『マジック&ロス』)、篠原ともえ(『避けられる事』)など、豪華共演陣の意外な演技も見どころの一つ。

 『歓待』や『おだやかな日常』で社会派のイメージが定着しつつある彼女だが、「ボーダーレスな表現者」の真価を発揮した今回の4作品も、映画ファンにとっては必見だ。アジアの実力派監督が作り出す映像美の中で彼女が放つ、強烈な存在感と不思議な空気感をぜひ味わっていただきたい。


特集上映「杉野希妃という女性(ひと)」
 期間:2013年4月20日(土)~4月26日(金)、5月1日(水)~5月6日(月・祝) ※ 火曜定休
 会場:シアターカフェ(名古屋市大須)
 公式サイト http://www.theatercafe.jp/

Writer's Note
 加藤知恵。杉野さんのバイタリティーの源は、どうやら食にあるようだ。華麗な外見とは裏腹に、世界で一番好きな食べ物は「ホルモン」。そして他の共演者や監督からも引かれる(?)くらいに量もたくさん食べるのだとか。今回も名古屋名物「ひつまぶし」を気持ちよく完食される姿が好印象でした。


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Essay 北の街のシネマ放浪記 ~個性あふれる映画館で素敵な映画たちと出会う

Text by hebaragi
2013/4/3掲載



 映画館へ行くのが好きだ。作品を見る楽しみはもちろんだが、映画館のたたずまいに心が落ち着く。スタッフと交わす会話や他の観客の反応も楽しい。北海道には個性的な映画館が存在している。そんな映画館を鑑賞作品とともに紹介していきたい。

 現在、札幌ではかなりの数の韓国映画を見ることができる。全国公開系は札幌駅直結の「札幌シネマフロンティア」や「ユナイテッド・シネマ」、単館系なら「シアターキノ」と「蠍座」、その中間に位置するのが「ディノスシネマズ札幌劇場」という大まかな棲み分けが形成されているようだ。


ひっそりとたたずむ「蠍座」


 札幌のミニシアターといえばシアターキノが有名だが、もうひとつのミニシアター「蠍座(さそりざ)」は札幌駅北口から徒歩3分のロケーション。閑静な一角にあるビルの地下にある。同じビルにあるコンビニの派手な看板に比べ、蠍座は入口に小さなあんどん型の看板が一個置かれているだけ。最初に訪れたとき、ビルの前を3回通り過ぎてからようやく存在に気づいたほど奥ゆかしいたたずまいである。

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蠍座の入口

 毎月のラインナップが掲載されている『蠍座通信』は、上映作品紹介はもとより、かつて大手の映画館に勤務していた経歴を持つ館主のコラムが楽しい。上映作品は全国公開系ではない国内外の秀作が基本。韓国関係の映画はアート系の秀作の上映が多い。これまでに『春の日は過ぎゆく』、『キムチを売る女』、『アドリブ・ナイト』、『妻の愛人に会う』といった作品が上映されてきた。また、過去には『花を売る乙女』、『怪傑洪吉童』といった北朝鮮の作品も上映された。

 ロビーには落ち着いた雰囲気のカフェコーナーがあり、上映待ちの間、お茶を飲みながらこれから見る映画への思いをめぐらせることができる。注目すべき点のひとつは全国最安と思われる料金だ。1本鑑賞の場合は900円、2本だと1,400円、3本だと2,000円、学生の場合はそれぞれ800円、1,200円、1,800円とさらに安い。これは近くにいくつかある大学や高校の学生たちに気軽に映画を見てほしいとの館主の思いもあったと聞く。体全体が沈み込むフランス製のゆったりとしたシートに身を任せる至福の時間は何物にも代え難い。

 今回見た作品は『おだやかな日常』。休日ということもあってか、客席の7~8割が埋まる盛況ぶり。この作品は、2組の夫婦の生き方を通して、自分たちと異なる意見をもつ者に対して「病気だ」、「宗教だ」などとレッテルを貼って排除しようとする不気味な圧力を描いている。作品には、このような他人に同調することを強いる圧力が2つ登場する。1つ目は幼稚園の保護者たちによるものであり、2つ目は会社の上司からのパワハラ同然の行動だ。同様のテーマを描いた映画に、イラク人質事件をヒントにした小林政広監督の『バッシング』がある。また、コミックが原作のTVドラマ『斉藤さん』は『おだやかな日常』と同じく、幼稚園に通う子どもを持つ保護者間の同調圧力を描いた秀作だ。

 必死の決意でわが子を守る母親を演じた杉野希妃と、不安にかられて行動する隣家の主婦を演じた篠原友希子の表情がストレートに伝わってくるとともに、同調圧力派の保護者を演じた渡辺真起子の演技も強く印象に残る。「あなたの意見に私は同意しないが、あなたが意見を言う権利のために、私は体を張ってたたかう」。民主主義のバックボーンともいうべきヴォルテールの言葉を思い出す。残念ながら、この言葉の精神と正反対のことが起きているのが今の日本社会だ。何か問題が起きたとき、立ち向かう相手を間違えてはいけない。原発の問題とは、今後のエネルギーのあり方だけでなく、日本社会そのもののあり方が問われている問題でもある。震災から2年が経ったが、まるで何事もなかったかのように生活する忘れっぽい日本人。うわべだけの「おだやかな日常」に対する問題提起が見る者全ての胸に突き刺さる。


韓国映画といえば「ディノスシネマズ札幌劇場」


 札幌での韓国映画上映については、ディノスシネマズ札幌劇場を抜きに語ることはできない。2000年代以降、上映本数では他館を圧倒してきたからである。劇場は、札幌最大の歓楽街「すすきの」に近いロケーションで、ゲームセンターやボウリング場などがあるアミューズメントビルの7階と8階にある。客席数の多い1~3番スクリーンではメジャー系の作品、50席前後の4・5番スクリーンではミニシアター系の作品が上映されている。『悪い男』、『春夏秋冬そして春』といったキム・ギドク作品をいち早く紹介するなど、隠れた秀作を意欲的に紹介してきたほか、かつて毎年開催されていた「韓流シネマフェスティバル」の会場にもなっていた。

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ディノスシネマズ札幌劇場の入口

 今回見た作品は『愛してる、愛してない』。『アドリブ・ナイト』、『素晴らしい一日』同様、日本の原作をイ・ユンギ監督が映画化。キャストは人気のヒョンビンとクールビューティー、イム・スジョン。朝イチの上映回はヒョンビン目当てと思われる女性であふれており、筆者が唯一の男性だった。

 雨の一日、別れ話を切り出し荷物の整理をする女と、女に別れを告げられた男の会話を中心に淡々とストーリーが展開する。「思い出の詰まったものはなかなか捨てられない」と言う男に、女は「意味深な言葉ね」と返す。女は言う「なぜ怒らないの?」 男は悟ったように「怒っても状況は変わらないさ」と答える。時間が経つにつれ、主人公2人、とりわけイム・スジョンの表情が微妙に変化していく演出が秀逸だ。筆者が彼女をスクリーンで見たのは韓国の古典『薔花紅蓮傳(チャンファホンニョンジョン)』をモチーフにしたゴシックホラー『箪笥』が最初だったが、一見無表情のようで様々な思いを秘めた表情が印象的だった。その後、『アメノナカノ青空』、『ハピネス』といった作品で薄幸の女性をしっとりと演じたかと思えば、パク・チャヌク監督の『サイボーグでも大丈夫』のような変化球なテーマの作品や、『あなたの初恋探します』のようなラブコメにも出演し、演技の幅を着実に広げてきた。

 「雨が人生を変えることもある」と言ったら言い過ぎだろうか。雨の日は誰しも外出がおっくうになるし気分も沈みがちになる。一方で、雨の日はゆっくりと落ち着いて物事を考えるよい機会と言うこともできる。そんなときに大きな決断をしなければならないとしたら…。ストーリーの中盤、隣家から迷い込んできた子猫と飼い主夫婦の存在が2人に微妙な変化を与えていく。そして、結末は…。全編を通して、しっとりとした空気感が漂い、心地よい印象が残る。


Writer's Note
 hebaragi。北海道在住。知らない街に行ったらミニシアターを訪れることにしている。ミニシアターには、その館独自のユニークな顧客サービスがあったり、全国公開されないご当地ロケの作品が上映されていたりするなど新たな発見も多い。劇場スタッフから街のグルメ情報を仕入れたりすることも楽しみのひとつだ。「酒場放浪記」ならぬ「シネマ放浪記」といったところだろうか。


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Report 第8回大阪アジアン映画祭 ~アジアの熱風に沸いた10日間

Text by mame
2013/4/2掲載



 行ってきました! 初の大阪アジアン映画祭。

 「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」を合言葉に、世界初上映作品を含む全44作品が集い、アジアの最新映画を楽しめる10日間。私が観ることができたのはおよそ半数でしたが、幸い天気にも恵まれ、映画館の間を自転車で縦横無尽に往復し、爽快な気分で幕を閉じました。偶然にも最後の作品に選んだ『セブン・サムシング』では2PMのニックンがマラソン・ランナーを好演。ニックンに励まされながら完走をめざす主人公に自分を重ねると感動もひとしおでした。

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『セブン・サムシング』のティーチイン

 ひとまずの感想は、映画祭って体力勝負! 短期間でこんなにたくさんの映画を観たのは初めての経験だったので、最初はごはんを摂る時間もなく、空腹による頭痛に悩まされましたが、最終的には映画と映画の合間に食べ物をかっ込むという技を習得し、売れっ子アイドルのような多忙感に浸ることができました。そして、こんな時こそ大阪のソウルフード、たこ焼きは短時間でお腹が満たされる上に美味しく、持ち運びも便利で、私も大変お世話になり…。

 そんな話は置いといて、肝心の映画祭の内容に参りましょう。


きらびやかなアジア映画の数々


 まずはプレ・オープニング、『セデック・バレ 第一部 太陽旗』(台湾)から! 昨年、本映画祭で上映され、大好評を博しての凱旋上映でしたが、噂に違わず男気に溢れた戦闘シーンは見どころ充分! 続編と含めて劇場上映が決まっているので、これはぜひ大きなスクリーンで観たいところです。

 ウォームアップも充分なところで、オープニングは香港ノワールの巨匠、ジョニー・トー監督の最新作『毒戦』。上映前に監督の舞台挨拶も行われ、華々しい雰囲気に胸が高鳴ります。中国を舞台に麻薬捜査を巡る攻防は敵と味方が激しく入れ替わり、その息もつかせぬ展開の速さに、観終わった後は頭がクラクラと痺れっぱなしでした。

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オープニングセレモニーのゲスト

 きらびやかなアジア作品の中で、日本映画も確かな光を放っています。赤塚難監督の『春くんとの密月』は別れた後も恋人の連れ子と交流を続ける女性の心理を、美味しそうな食事シーンを交えてテンポ良く描き出し、女性ならではの繊細な洞察力にハッとさせられました。

 中国のリー・ユー監督特集では、『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』を鑑賞。社会での居場所を求めてさまよう若者3人組と、大家の女性が次第に心を通わせていく様が、圧倒的な自然を背景に描かれ、主演女優ファン・ビンビンの匂いたつような美しさも相まって、忘れられない印象を残しました。


特徴が際立つ韓国映画3本


 韓国映画3本については、それぞれの特徴が際立ったセレクトに。

 コンペティション部門の『裏話 監督が狂いました』は韓国映画好きにはたまらない、豪華キャストによるオフレコ話満載の意欲作で、日本での上映作品も多いイ・ジェヨン監督の新たな魅力が発揮されています。

 特別招待作品部門の『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』は、若手キム・テゴン監督の実体験を基にした青春ロードムービー。3人のボーイズトークに笑わされながらも、青春時代のほろ苦さにしんみりする場面もあり、韓国でリピーターが続出しているのも納得の娯楽作でした。

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『離ればなれの』監督(左)、主演のチュ・ダヨン(中央)、チョン・テッキョン(右)

 インディ・フォーラム部門の『離ればなれの』はあまりの救いのなさに愕然…。何の説明もなしの設定に戸惑いましたが、キム・ベッチュン監督のトークによると、韓国にとって中国・北朝鮮・ロシアから越境してくる同胞の話は商業映画でも扱われる普遍的なテーマ(『クロッシング』、『哀しき獣』など)と知り、改めて国の違いを感じさせられました。


大阪アジアン映画祭が生み出した『Fly Me to Minami~恋するミナミ』


 多彩なゲストとの交流も映画祭の楽しみのひとつですが、ゲストにとっても映画祭での出会いが次回作のきっかけとなっています。昨年上映された『大阪のうさぎたち』は杉野希妃さんとイム・テヒョン監督の出会いから生まれましたが、今回もリム・カーワイ監督(マレーシア)が昨年のインディ・フォーラム部門のゲストとして来日したペク・ソラさんを主演に、英語、中国語(広東語)、日本語、韓国語が飛び交う作品『Fly Me to Minami~恋するミナミ』を撮り上げました。リム監督といえば『マジック&ロス』、『新世界の夜明け』と、作品ごとに魅力的なミューズを発掘する手腕にいつも感心させられますが、今回も香港・韓国から招かれた2人の女優を主演に、心がほっこり暖かくなる、まさに大阪アジアン映画祭にふさわしいラブストーリーに仕上がっていました。

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サインに応じるリム・カーワイ(左)とペク・ソラ(右)

 そんなリム監督が司会を務めた、インディ・フォーラム部門の海外ゲストによるトーク・セッション「アジアン・ミーティング」は、各国のインディーズ映画の現状が窺える興味深い場となりました。


アジア各国のインディーズ事情


 普段はインディーズと商業映画の区別をあまり気にした事がなかったのですが、大阪アジアン映画祭ではインディ・フォーラム部門の会場が独立して設定されているため、その違いがより顕著に感じられます。今回、同部門の海外3作品『離ればなれの』(韓国)、『卵と石』(中国)、『貧しき人々』(ミャンマー)に共通していたのが「暗い…」という印象。コンペ部門で「近年稀に見る救いのない映画」として話題だった『誰もいない家』(キルギス・ロシア・フランス)ですら、この3作品に比べるとまぶしいぐらいですが、『離ればなれの』は救いのない状況で泥に足をすくわれながらも必死にもがく少女、『卵と石』は少女の謎めいた行動の意味が明らかになる時の悲痛な叫び、『貧しき人々』は荒涼とした風景に生きる人間の小ささが、それぞれ脳裏に焼きついて離れない、独特の力強さを感じさせる作品でした。

 映画を作る状況では恵まれている韓国、情報操作に悩まされる中国、政治情勢が不安定なため、台湾で映画製作をしているミャンマー。3監督とも劇場での一般公開を目標としていますが、韓国では商業映画による独占、中国では厳しい検閲、ミャンマーでは上映機会がないという障害が立ち塞がっています。それに対してミニシアターが多いので上映機会は増えたものの、作品の質が下がっている(自己満足な作品が多く観客は関係者ばかり)という日本。どちらが絶望的な状況なのか考えてしまいました。

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「アジアン・ミーティング」参加者

 収入源についての質問も出ましたが、キム・ベッチュン監督(韓国)の「映画では収入を得ることができないので、別の仕事で収入を得て、妻に投資を勧められ…」という涙ぐましいエピソードに、インディ・フォーラム部門の富岡邦彦ディレクターから「これ以上は本人の名誉のために聞かないであげましょう」と、心優しい制止が入る一幕も。韓国ではインディーズ映画が年に100本以上生まれ、助成金を出す団体も国から企業まで幅広いのですが、それゆえに熾烈な競争に勝ち残らなければならないようです。韓国では映画祭の観客が若い事も話題にあがり、富岡ディレクターの「日本で1960年代に起こった映画ブームの再現を見ているよう。最近の韓国映画は社会的なテーマを扱う商業映画も増えてきて、若い頃から映画を観続けてきた人が、自分達の満足できる作品を作っている事で、質が上がってきている」とのコメントも興味深く思われました。

 広告の仕事で収入を得ているワン・シンホン プロデューサー(ミャンマー)、撮影監督である日本人の夫(大塚竜治さん)を捕まえた事が何よりの成功!と茶目っ気たっぷりに語ってくれたホアン・ジー監督(中国)。最終的には、リム監督の「好きに映画を撮るためには、周りの支えと理解・コネクションが不可欠」という結論に達しました。「海外の作品に出演したい!」というインディ・フォーラム部門出演俳優、三浦英さんからのアピールも飛び出し、「日本人はなかなか自分からアピールする人がいないので嬉しいですね」と、リム監督も感心していました。


大阪の新たなる名物へ


 初めての大阪アジアン映画祭。体力は消耗しましたが、それ以上に多くのものを映画から、登壇したゲストの方々の話から、また劇場で一緒に鑑賞した方々の話から得る事ができた、熱い10日間でした! 映画好きの方に加え、アジアに関心がある日本人、日本に住むアジア人と、参加された方の動機も様々なので、それぞれのジャンルに広がっていって、大阪の新たな名物として定着していって欲しいです。

 これぞアジア!を感じさせるきらびやかな印象の映画もあれば、自分の国の問題に正面から向き合った社会派作品もあり、アジアの奥深さを感じさせられ、来年もリピーター必至の予感。この時期だけ自分の体が3つぐらいに分裂してくれたら良いのに…と頭を悩ますのが、これからの3月の定番となりそうです。


第8回大阪アジアン映画祭
 期間:2013年3月8日(金)~3月17日(日)
 会場:梅田ブルク7、シネ・ヌーヴォ、梅田ガーデンシネマ、第七藝術劇場、プラネットプラスワンほか
 公式サイト http://www.oaff.jp/

特集 第8回大阪アジアン映画祭
 Report 第8回大阪アジアン映画祭 ~アジアの熱風に沸いた10日間
 Review & Interview 『裏話 監督が狂いました』 ~イ・ジェヨン監督、大阪アジアン映画祭で『裏話』の裏話を披露!
 Interview 『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』キム・テゴン監督、主演キム・チャンファンさん独占インタビュー

Writer's Note
 mame。大阪に根強いファンを持つリム・カーワイ監督は日本語も流暢で、サインにも気さくに応じてくれました。とても親しみやすい雰囲気をお持ちなので、『Fly Me to Minami~恋するミナミ』に流れるどこかほんわかした空気も「リム監督の人柄ならではだね」という感想がちらほら。「こんな監督なら周りの支えと理解、コネクションも掴んでしまえるだろうな~」と、気づけば私もファンになってしまいました。


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