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Interview 『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』キム・テゴン監督、主演キム・チャンファンさん独占インタビュー

Text by mame
2013/3/31掲載



 1999年の韓国を舞台に、高校卒業後1年が経った同級生2人組が、兵役に入った友人を訪ねて面会に行く道すがらに起こるエピソードをユーモラスに綴ったロードムービー。脱力系のボーイズトークに笑いが絶えない一方、それぞれ違う道を歩む3人の心情の変化も細やかに描かれていて、後味爽やかな映画です。第8回大阪アジアン映画祭で来日されたキム・テゴン監督と、軍人ミヌク役を演じたキム・チャンファンさんにインタビューを行いました。

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『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』英語版ポスター



インタビュー 2013年3月15日(金)


── 映画、楽しく観させていただきました。日本人にとっては謎であった、韓国の兵役生活が垣間見れて楽しかったです。作品を作ったきっかけを教えて下さい。

監督:私が20歳の頃に友人ミヌクに面会に行った時のエピソードが基になっています。そもそもは短編を作るつもりで脚本を書き始めていたのですが、なかなか機会を作れずにいた頃、当時の友人と再会し、呑みながらこの映画の話をした際に、これは長編でもいけるんじゃないかな?という話になりました。

── 実際に軍隊に行ったときのエピソードが反映されていますか?

監督:そうですね、軍隊生活というよりは、家族や友達や恋人が面会に来てくれた時のエピソードが反映された映画です。韓国の軍隊について補足すると、誰かが面会に来てくれた時のみ1泊2日の外出が許されているのですが、行けるエリアは全て決められているので、1歩でもそこから抜け出すと逮捕(!)されてしまいます。

── そうなんですか! では、毎日でも面会に来てもらいたいぐらいですね。チャンファンさんはいかがでしたか?

チャンファンさん:そうですね。私も実際に兵役を経験してますので、自分の経験が大いに反映されていると思います。

── 1999年を背景にした理由を聞かせて下さい。

監督:私が面会に行った年が1999年だったので、その頃を思い出しながら作りました。ファッションや音楽も当時のものが使われていて、思い入れのある時代なので韓国の人が懐かしく思えるような、1999年の韓国に戻ったような気分で楽しんでくれたら良いなと思っています。また、韓国では1998年にIMF危機があり、当時高校を卒業して社会に出なければならない自分達はとても不安定な立場にありました。そうした時代を背景に映画を作ることは、皮肉ではないですが意味を持つのではないかと思っています。S.E.Sの曲は、友人のミヌクがファンだったので使ったのですが、メンバーのパダさんが「映画必ず観に行きます!」とツイッターでメッセージを下さって、大変感激しましたね(笑)。

── この映画は釜山国際映画祭でも上映されましたが、国内での反応はいかがでしたか?

監督:当時を知る韓国人にとっては、懐かしいと思ってくれているようで好評でした。あえて今この時代を背景にした映画を作ることが国内での共感を呼び、話題を提供できたかな?と思っています。2月下旬から劇場公開されているのですが、中には5回、6回と観てくれている方もいるらしく、大変嬉しいですね。

── チャンファンさんは、釜山で韓国映画監督組合賞男優賞を受賞されましたが?

チャンファンさん:感激しましたね。本当に予想してなかったので(笑)。パーティで美味しいものを食べる事しか考えてなかったので、受賞を聞いた時は全く信じられず本当に驚きました。

監督:私は事前に知っていましたが、あえて伝えませんでした(笑)。

── チャンファンさんは、子役としてデビューされたそうですが、今回、監督の友人役を演じる事は難しくなかったですか?

チャンファンさん:ミヌクは自分のキャラクターに近かったので、そんなに難しさは感じませんでした。実際に兵役を経験していましたし。私はドラマで子役としてデビューした後、少し演技から遠のいた時期があって、軍隊に行って帰ってきて、また俳優をやっています。

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キム・テゴン監督(左)、キム・チャンファンさん(右)

── お2人の兵役中のエピソードもお聞かせ下さい。チャンファンさんは、入隊中に演技をしたい!という思いが出てきたりしませんでしたか?

チャンファンさん:全然!(笑) 先ほどの話のように、とにかく面会の日が待ち遠しくて、遊びたい!外へ出たい!という気持ちでいっぱいでしたね。除隊後は演劇のスタッフとして働いていたのですが、やはり演技がしたくなって、再び演技の道へ戻ってきました。

監督:私は大学の演劇映画科出身だったのですが、2年2ヶ月の兵役中は、時間を作ってシナリオを書いたりして、なかなか充実した時間でしたね。

── ずいぶんと対照的な軍隊生活ですね(笑)。キャスティングについてお聞きします。今回キム・コッビさんが「タバンアガシ(飲み屋のホステス)」として登場したのが意外でした。

監督:コッビさんとは、『息もできない』が上映された2009年のロッテルダム国際映画祭からの知り合いで、私もそこに映画『毒』(2009:日本未公開)を出品していました。その頃から一緒に映画が出来たら良いね、と話したりしていて、偶然にもコッビさんの家が私の家の近所だったのですが、会う機会が持てずにいました。今回のシナリオが仕上がった時に、この役は自然な感じだが、ちょっと神秘的なイメージのある人にやってもらいたいなと思って、コッビさんにシナリオを送り、近所のカフェで会う事ができました。最初はコッビさんも役の設定に戸惑っていたようですが、「3人の主人公の隣に座っても違和感のない、近所のお姉さんのようなイメージで演じて欲しい。“なぜこの女性はこんな仕事をしてるんだろう?”と思わせるような雰囲気が出せればと思っている」と説明すると、納得してくれました。

── チャンファンさんは、今回の映画で印象に残った共演者は?

チャンファンさん:スンジュン役のアン・ジェホンさんですね。映画のキャラ通り、とても楽しい方で、場面場面で効果的なアドリブを発揮するのが面白くて勉強になりました。

── 3人の主人公はそれぞれ軍人(ミヌク)、大学生(サンウォン)、浪人生(スンジュン)と境遇が違いますが、一番女性にモテるのは誰だと思いますか?

チャンファンさん:やっぱりこれ(サンウォンの指をかぐ仕草)でしょう?(笑)

── 劇中ではサンウォンが指をかぐ仕草が頻繁に登場しますが、その仕草には青春時代ならではの甘酸っぱい思い出が込められていますよね。では、3人はそれぞれ大切なものを失いますが、一番不幸なのは誰だと思いますか?

監督:ミヌクですね。彼だけは辛いことがあっても軍隊に戻らなければいけないので。

チャンファンさん:そうですね。私だけまた戻らなければいけないので…(涙)。

── 次回作について教えて下さい。

監督:次回作は商業映画を予定しています。あと、私が製作に関っている作品として、今回主演した3人の俳優を使ってスポーツ青春映画を作る予定です。3人が軍隊から帰ってきて、スポーツに目覚めて…といったところですかね(笑)。

チャンファンさん:今度は私の役ももっと幸せになってくれる事を望みます(笑)。

── 読者へメッセージをお願いします。

監督:今回、大阪アジアン映画祭に作品を持って訪れることができ大変光栄です。この映画はロッテルダム国際映画祭でも上映されたのですが、外国であっても西洋と東洋の感覚は違うし、日本では兵役制度がないので、今回日本の皆さんの反応を観るのがとても楽しみです。いつか私の映画が日本で劇場公開された際に、再び来日して皆さんの意見を聞ける日が待ち遠しいです。

チャンファンさん:大阪に映画祭ゲストとして来られて大変嬉しいです。短い滞在期間ですが、美味しいものをたくさん食べて帰るつもりです! 私もいつか日本の俳優と共演(蒼井優さんのファンだそうです)できる機会が持てるよう、日々頑張りますので、どうか見守っていて下さいね。



取材後記


 お互い歳が近い事もあり、チャンファンさんも監督をヒョン(お兄さん)と呼ぶなど、映画さながらの親しい雰囲気で、笑いの絶えないインタビューでした。当初はスケジュールの都合で、日本の観客と一緒に鑑賞する機会は持てなかったのですが、予定を変更して梅田ガーデンシネマでの最終上映を一緒に楽しまれました。いちばん笑い声が大きかったのが、ミヌクが先輩の前で「二等兵、キム・ミヌク!」とガチガチの喋り方をする場面。このシーンは通訳さんの息子さん(9歳)もお気に入りで、家に帰ってからずっと真似をしている、というエピソードにテゴン監督も演じたチャンファンさんも大喜びでした。

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ティーチインの模様


第8回大阪アジアン映画祭
 期間:2013年3月8日(金)~3月17日(日)
 会場:梅田ブルク7、シネ・ヌーヴォ、梅田ガーデンシネマ、第七藝術劇場、プラネットプラスワンほか
 公式サイト http://www.oaff.jp/

『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』
 原題 1999, 면회 英題 Sunshine Boys 韓国公開 2013年
 監督 キム・テゴン 出演 シム・ヒソプ、アン・ジェホン、キム・チャンファン、キム・コッビ
 韓国版公式サイト http://blog.naver.com/1999visit

特集 第8回大阪アジアン映画祭
 Report 第8回大阪アジアン映画祭 ~アジアの熱風に沸いた10日間
 Review & Interview 『裏話 監督が狂いました』 ~イ・ジェヨン監督、大阪アジアン映画祭で『裏話』の裏話を披露!
 Interview 『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』キム・テゴン監督、主演キム・チャンファンさん独占インタビュー


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Review & Interview 『裏話 監督が狂いました』 ~イ・ジェヨン監督、大阪アジアン映画祭で『裏話』の裏話を披露!

Text by mame
2013/3/31掲載



 「監督が現場にいなくても映画は撮れるのか?」

 スカイプを使い、遠隔操作で映画を撮るという斬新なテーマに挑んだ意欲作。この映画を言葉で説明するのはとても難しい。劇中劇をする俳優たち、それを撮影するスタッフも俳優が演じ、さらに彼らの撮影・メイク・衣装等を担当する本当のスタッフ達がいるという三重構造。複雑な環境を統括するはずの監督がいない事によって起こる混乱は、虚構とドキュメンタリーが入れ替わり、観ている側も混乱する。だが、映像の随所に遊び心が感じられ、エンドロールまで退屈する事がない。韓国映画好きにはたまらない、豪華なキャスト陣はもちろん、普段だったら絶対に聞けないであろう業界の裏話を聞けるのも楽しい。

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『裏話 監督が狂いました』

 監督は独特の映像美で知られるイ・ジェヨン。大阪アジアン映画祭での日本初上映に併せて来日した際に、映画に関する「裏話」をたくさん披露してくれた。そもそもこの映画は、ハ・ジョンウを主演にスマートフォンで短編映画を撮るという企画から派生したもので、ハ・ジョンウが映画監督に扮した短編映画『10分間で恋に落ちる方法』(YouTubeで鑑賞可能)、メイキングとなった本作『裏話 監督が狂いました』(2013)と、監督は遠隔操作で2本の映画を同時に制作したことになる。

「今はインターネットがあれば何でもできる時代。スマートフォンで映画を撮るという企画をいただいた時に、遠隔操作という手段を思いついた。まるで新しい発明をしたような気分になり、過去にそんな映画があったのかを調べたりした。」
 英題の「Behind The Camera」の通り、普段はカメラに映らない立場だが、今回は監督自身がカメラの前に立って出演している。その感想を聞いてみると、

「設定上、自分がカメラに映らなければ話が進まないので、出るしかないという気持ちで出演した。劇中、疑心暗鬼になった俳優たちがドッキリを仕掛けるシーンがあり、実は少し気づいていたが、表面上は分かっていないふりをした。編集の段階で、自分の演技の不自然さが見えたりして、自分としては墓穴を掘ってしまった映画だと思っている(笑)。」
 実際の撮影期間は3日間だが、17台のカメラを駆使して撮影された時間数は計200時間以上。そこから8ヶ月の編集を経て完成したという本作。かつてなく混乱した現場に、出演した俳優の中には「完成するとは思っていなかった」と言う者もいたという。プロの俳優達が演じる混乱は、演技なのか、本心なのか、それは俳優のみが知るという、演じる側・観る側からの考察も楽しい。

 イ・ジェヨン監督といえば、これまで『情事』(1998)、『純愛譜-じゅんあいふ-』(2000)、『スキャンダル』(2003)、さらには『多細胞少女』(2006)、『女優たち』(2009:日本未公開)と多様な作品で知られるが、作品の発想の源は何だろう?

「映画を作るときにいつも頭をよぎるのが、“これこそが映画だ”という王道的な作風と“果たしてこれを映画と呼べるだろうか?”という実験的な作風。今回は後者となり、大衆的というよりは、映画好きの人に対して喜んでもらえるような映画になったと思う。“映画とは何か?”という問いに対して自分の中で結論を出さず、常に疑問を持ち続ける事が、作品を作り続ける原動力になっている気がする。」
 劇中には名だたる映画監督の名言が折り込まれ、そうした問いに答えを与えてきた先達の名言を引用する事で、未だに自分なりの答えを模索している姿勢が感じられる。数々の商業映画を成功させながらも、映画の持つ可能性を模索し続けるイ・ジェヨン監督。次回作は?との質問には、

「今度はもう少し、観客が共感できるテーマでと思っている。今回はスマートフォンからの発想だったが、その時自分が関心のあるものによって題材が変わるので、まだわからないですね。」
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イ・ジェヨン監督

 監督にとって映画を撮る最大の楽しみは、映画祭に作品を持って現地を訪れ、ゆったりとした時間を過ごしながら、次回作の構想を練ることだという。実際、大阪アジアン映画祭にも余裕をもった日程で来日。大阪の良いところは「京都が近いところ(!)」という絶妙な褒め言葉もいただいた。両親を招待し、一緒に旅行を楽しんだとの事だが、旅行の計画も来日してから思いつき、スマートフォンで全ての手続きを済ませたというのだから、まさに『裏話 監督が狂いました』は監督ならではの作品といえるだろう。

 どこかシニカルな印象を漂わせるイ・ジェヨン監督。今回の来日は次回作の糧になっただろうか? 映画に対する挑戦の姿勢を崩さない監督が、今度はどんな作品で私達を驚かせてくれるのか、大いに期待したい。


第8回大阪アジアン映画祭
 期間:2013年3月8日(金)~3月17日(日)
 会場:梅田ブルク7、シネ・ヌーヴォ、梅田ガーデンシネマ、第七藝術劇場、プラネットプラスワンほか
 公式サイト http://www.oaff.jp/

『裏話 監督が狂いました』
 原題 뒷담화 : 감독이 미쳤어요 英題 Behind the Camera 韓国公開 2013年
 監督 イ・ジェヨン 出演 ユン・ヨジョン、パク・ヒスン、カン・ヘジョン、キム・ミニ

特集 第8回大阪アジアン映画祭
 Report 第8回大阪アジアン映画祭 ~アジアの熱風に沸いた10日間
 Review & Interview 『裏話 監督が狂いました』 ~イ・ジェヨン監督、大阪アジアン映画祭で『裏話』の裏話を披露!
 Interview 『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』キム・テゴン監督、主演キム・チャンファンさん独占インタビュー

Writer's Note
 mame。豪華キャスト陣の『裏話 監督が狂いました』の中でも特に笑いを誘っていたのが、名女優ユン・ヨジョンによる、ホン・サンス『3人のアンヌ』、イム・サンス『蜜の味 ~テイスト オブ マネー~』出演時のエピソードを語った「2人のサンス論」。そんなユン・ヨジョン先生に向かって「俺達は“顔が良くない”という意味で同類ですよね」という衝撃発言を放ったキムCが、私のお気に入りとなりました。


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Report 第5回別府八湯★日韓次世代映画祭 ~質の高い社会派作品とビッグなゲストに出会えるレトロな街の手作り映画祭

Text by 井上康子
2013/3/19掲載



 第5回別府八湯★日韓次世代映画祭(Japan & Korea Film Festival:以下、JKFF)が2月22日~24日に別府ビーコンプラザ、別府市中央公民館を会場に開催され、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した話題作『嘆きのピエタ』がオープニング上映された。ちょうどこの作品を鑑賞した余韻にどっぷり浸っていた私は、キム・ギドクと主演女優チョ・ミンスによるトークが行われるのを知り、「2人の肉声が聞きたい」という思いに駆られた。また「名作に違いない『Jesus Hospital』を見なければ」、「地方都市の映画祭なのになぜ旬の話題作と豪華ゲストを呼べるのか知りたい」とも思った。そんな動機で、初めて会場に足を運んだ。

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オープニング舞台挨拶の模様(写真提供:日韓次世代映画祭)
左からキム・ギドク、アン・ソンギ、チョ・ミンス、イ・ミョンセ


日韓次世代映画祭とは? ~豪華ゲストを招待できる訳


 JKFFは今年で5回目。韓国の大学の映画学科関係者と交流のある下川正晴氏(JKFFディレクター、大分県立芸術文化短期大学教授)を中心に、大分・別府地域の大学関係者等により、若い世代の交流を目的として2008年に初めて開催された。その特長は、韓国映画界を代表する監督や人気俳優をゲストとして招聘し、質の高い作品を上映していることだ。近年は韓国映画評論家協会が主催する「映画評論家協会賞」の受賞者を中心にゲストが招待され、受賞作や関係作品が上映されている。これは同協会の協力によるもので、今年のゲスト・上映作品について述べると、キム・ギドク(監督賞)、チョ・ミンス(主演女優賞)が来日し、『嘆きのピエタ』(作品賞)が上映された。また、新人監督賞を受賞したシン・アガ、イ・サンチョル両監督が来日し、共同監督作品『Jesus Hospital』が上映された。また、アン・ソンギ(主演男優賞)も来日し、その主演作『折れた矢』が上映された。その他、韓国映画評論家協会常任顧問であるキム・ジョンウォン氏(JFKK特別顧問)を講師に迎えた「日韓シネマ講座」(『曼陀羅』上映+解説)が開かれ、日韓学生合作の短編映画も上映された。下川氏は新聞記者時代にソウル特派員を経験し、韓国の大学で教鞭を執っていたこともある韓国通。元ジャーナリストらしく、現実社会を反映した作品を選定しているようだ。

 以下、上映作品とトークの模様を紹介する。


『折れた矢』


 教授として勤務していた大学で入試問題の誤りを公表すべきだと主張したギョンホ(アン・ソンギ)は面子を保とうとした大学から解雇され、解雇不当の訴えは大学と司法の癒着により却下される。担当判事の反省を促すためにクロスボウの矢を向けたギョンホの行為は、司法への挑戦と見なされ、彼が不利になるよう審理が進められる。『ホワイト・バッジ』(1992)で、国策としてベトナム戦争に派兵された主人公が帰国後に心を病んで崩壊する様を描いたチョン・ジヨン監督の作品で、2007年に実際にあった事件が元になっている。チョン・ジヨンは大きな権力をもつ者が個人の尊厳を踏みにじることを許さない監督で、最新作『南営洞1985』(2012)も同じ系譜に属する。

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『折れた矢』 6月15日(土)より、シネマート六本木ほかロードショー

 ゲストとして登壇したアン・ソンギは「監督とは『ホワイト・バッジ』を一緒に作った間柄で、シナリオを渡され出演を打診された。シナリオがとても良かったので翌朝には、やります!と返事をしたが、観客動員350万人というヒット作になったし、何より監督と再び仕事ができたことがうれしかった」とチョン監督への信頼感を表明した。

 同じくゲストとしてトークに参加した韓国映画評論家協会会長ペ・ジャンス氏は、俳優としての顔も持っており、「60本の出演作があるが、アン・ソンギ氏と共演した作品が多いことに誇りをもっている」と発言。本作では新聞社の部長役で出演しているが、実際に新聞社の局長に就いており「本業だったので良い演技を見せることができた(笑)」と語った。韓国映画ファンであれば、氏の出演作を見たことがあるだろう。


『嘆きのピエタ』


 映画祭2日目、『春夏秋冬そして春』の上映後に、キム・ギドクとチョ・ミンス、そして韓国映画評論家協会出版理事カン・ユジョン氏が登壇。JKFF韓国側実行委員長で監督のイ・ミョンセ氏の司会のもと、『嘆きのピエタ』に関するトークが行われた。

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『嘆きのピエタ』 6月、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

 高利貸し業者に雇われるガンド(イ・ジョンジン)は、返済不能に陥った零細な工場主たちに障害を負わせ、その保険金で借金を返済させている。表情ひとつ変えず相手を痛めつけるガンドの残虐さを見て、このまま暴力的に終わるのだろうと思っていたが、母と名乗るミソン(チョ・ミンス)の出現で、予想をはるかに越えたスピリチュアルな世界へとストーリーが転換していく。キム・ギドクの進化を感じた。

 「映画の構想をどこから得るのか?」という問いに対して、キム・ギドクは「ニュースをよく見るが、現実を伝えてくれている。私が生きたいと思う世界に、私は生きていないという不安を映画で表現している」と答えた。昨年のニュースで、映画の舞台になった清渓川(チョンゲチョン)の町工場街が写り、財閥系の企業に仕事を奪われて多くの工場が倒産したと報じられたのを思い出した。清渓川は監督が工場労働者として10代を過ごした所だ。母と名乗る女を登場させた理由は「暴力的な人間の前に母親を連れて来て、母の心を伝えたら、どういう姿を見せるかと考えた」ため。スピリチュアルな終焉は宗教色が濃いが、やはり「神の視点で描こうとした」そうだ。ただし、自身の宗教観については「5年前まではクリスチャンとして活動していたが、その後、神はいないと悟ることがあった。生きるということは、神はいないということを悟る過程だと思っている」と大きな変化があったことを吐露した。

 チョ・ミンスをキャスティングした理由を、監督は「エネルギッシュなことは以前から分かっていた。まだ使われていないエネルギーを感じた」と語り、チョ・ミンスは監督の第一印象を「会ってみたら人の匂いが感じられた」と互いを評価した。

 キム・ギドクは低予算・短期間で作品を撮りあげることで有名だが、本作も10日間で撮影した。イ・ミョンセ監督からの「低予算・短期間で大きな成果が出せる秘訣を教えてほしい」という質問に、最初は分からないと戸惑いを見せたが、「シナリオを書く時は心で書き、撮る時も心で撮るようにしている。そうすると心臓の音が聞こえてくる」と応じ、深く納得した観客から大きな拍手が沸き起こった。

 チョ・ミンスは事前にシーン毎の説明をされ、撮影をわずか6日間で終えた。時間が限定されているので「監督は演技者を待ってはくれないが、エネルギーを集めることを教えてもらい楽しかった」と現場の雰囲気を報告。大ヒットした『砂時計』『ピアノ』など、TVドラマで活躍していた彼女が、近年、あまり映画に出演していなかったことに触れ、イ・ミョンセ監督が「韓国映画は男性中心のところがあって…」と言いかけたのを微笑みながら「映画の力は女性です!」と一言で制した。本当に強いエネルギーがある人で、素敵だ。


『Jesus Hospital(原題 ミンク・コート)』


 本作は、シン・アガ監督が、実の祖母が亡くなった時の体験を元に脚本を書いており、植物状態になった家族の延命治療という現代的問題を扱っている。非主流キリスト教信者で母の回復を信じて延命治療の継続を求める次女と、主流キリスト教信者で無意味な延命治療の中止を求める長女たちを、対立的に登場させていることは、キリスト教徒が多数を占める韓国的特色といっていいだろう。対立の根底には、牛乳配達で細々と生計を立てる次女と、彼女を見下してきた長女らの間の長年の確執がある。延命治療をきっかけに互いの真意が明らかになり、さらに状況の変化で真意と思っていたものがねじれていく過程がスリリングに描かれている。両監督の新人らしからぬ老練さに拍手した。

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シン・アガ監督(左)、イ・サンチョル監督(右)

 次女ヒョンスン(ファン・ジョンミン)は母親の命を重視しているが、一方で莫大な延命治療費には無頓着だ。両監督が、いずれの登場人物も長所も短所もある普通の人としてリアルに息づかせ、温かい視線で見つめていることにもたいへん好感がもてた。シン監督がファン・ジョンミンをキャスティングしようと思ったのは、彼女が出演した短編映画を見て「彼女なしではこの作品はできない」と思ったため。欠点も多いが、幼子のような無垢な面を持つヒョンスンの魅力をファン・ジョンミンは体現している。『地球を守れ!』(2003)の彼女も可愛らしかったが、そういう持ち味のある女優なのだろう。


次世代にひきつがれる日韓交流


 会場の中央公民館はレトロな建物で、中に入るとゆったりと時間が流れる。会場内には文化祭のように、映画祭の歴史が模造紙で展示されるなど、素朴な手作り感にあふれている。トークではQ&Aに長めの時間が割かれ、ゲストと多くの観客が直接対話をした。豪華なゲストや話題の社会派作品と共に、このような小さな映画祭の良さにも触れることができた。

 ボランティア・スタッフは下川氏の教え子である芸術文化短期大学の学生が中心で、韓国語通訳は別府にある立命館アジア太平洋大学の韓国人留学生がほとんどだったが、みんな楽しそうに仕事をしていた。スタッフを経験した学生たちは続々と韓国へ留学しているそうだ。JKFFの未来は明るい。


第5回別府八湯★日韓次世代映画祭
 期間:2013年2月22日(金)~2月24日(日)
 会場:別府ビーコンプラザ国際会議室、別府市中央公民館
 公式ブログ http://ameblo.jp/jk-nextfilm/

Writer's Note
 井上康子。評論を読むことが映画を観るのと同じくらい好きなので、日韓次世代映画祭では韓国映画評論家協会の皆さんと交流できたことも収穫だった。最近、最も感銘を受けたのは沢木耕太郎がロバート・キャパの出世作の謎に新説を唱える中で、キャパの心情に迫っていたこと。鋭い人間観察にもとづく彼の評論が大好き。


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Interview 女優、キム・コッビさん独占インタビュー

Text by hebaragi
2013/3/13掲載



 「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013(以下、ゆうばりファンタ)」にゲストとして参加されたキム・コッビさんに、ゆうばりファンタ、映画、アニメーションの声優、そして今後の俳優活動について伺った。

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上映作のタイトルを自筆で書いた黒板の前で。韓日英仏4ヶ国語理解可能だそう


ゆうばりファンタとのかかわり

── 3年連続の参加となりましたが、ご自身にとって参加する前と後とで何か変わったことはありますか?

ゆうばりファンタへの参加がきっかけで、日本の監督やプロデューサーとお会いする機会が生まれました。その結果、日本の映画スタッフと一緒に仕事をする機会が増えたことにとても感謝しています(『蒼白者 A Pale Woman』と『クソすばらしいこの世界』は、ゆうばりファンタをきっかけとして企画がスタートした作品)。

── 日本映画に初めて出演して感じたことは?

制作するシステム自体が韓国映画と違っていて、事前に撮影のスケジュールなどを正確にきちんと決めたうえでスタートする印象です。撮影スタイルがほとんど決められていて、どんな作品・監督でも日本の作品であれば似たようなシステムです。韓国では監督によって撮影のスタイルが全く違います。日本の映画制作のシステムは、まるでマニュアル化されているようにも感じられます。

── キム・コッビさんとしてはどちらのスタイルが仕事しやすいですか?

自分が好きなのは韓国のスタイルですが、日本のスタイルが嫌いというわけではありません。決められたマニュアルどおりのシステムの中でも、監督や俳優同士が交流したり共感したりすることが可能なのが日本のスタイルだと思います。仕事がしやすいのは韓国のスタイルですが。



上映作『蒼白者 A Pale Woman』(常本琢招監督)

── 大阪で15日間撮影したということですが、街についてどんな印象を持ちましたか?

実際に一緒に仕事をしたのが大阪の人というわけではありませんでしたし、滞在中は撮影のスケジュールが立て込んでいて、街の雰囲気を感じる機会はあまりありませんでした。住んだことはないのですが仕事で行ったことのある東京はソウルと同じような大都市で、街を行き来する人々の忙しそうな雰囲気も似ています。大阪は東京より街にざわざわと活気がある雰囲気で、人々も親しみやすい感じがしました。実際に人々と交流したわけではなく自分の印象なので、本当にそうなのかはわかりませんが。

── ティーチ・インで監督から「透明感のあるキム・コッビさんにピストルを持たせたら面白い、という発想がこの役柄につながった」というお話が出ましたが、実際にピストルを持って演技した感想はどうでしたか?

日常生活で銃に触れる機会も全くないですし、韓国は銃器文化がある国でもないので、銃を持つようなアクションシーンをやってみたい気持ちがありました。今回初めて実際に銃に触れたのは興味深い経験でした。



上映作『クソすばらしいこの世界』(朝倉加葉子監督)

── 「ホラー秘宝」の山口幸彦プロデューサーが2011年の「ゆうばりファンタ」でキム・コッビさんと出会ったことがきっかけで出演依頼があり、企画がスタートしたということですが、いわゆるスプラッター映画に出演することに抵抗感はありませんでしたか?

残酷で気持ちの悪いシーンを見るのはあまり好きではありません。でも、俳優としてこのような作品に出演することには興味がありました。初めてでしたので貴重な経験になりました。



上映作『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』(キム・テゴン監督)

── 飲食店で接客する女性(タバンアガシ)の役を初めて演じて、どう感じましたか? 難しかったですか?

特に難しさは感じませんでした。今回上映された他の2作品『蒼白者 A Pale Woman』や『クソすばらしいこの世界』と比べると実際にありえるストーリーだったので共感もしやすく、役に没入することもできました。

── 店で歌うシーンがありますが、歌うのは好きですか? 好きな音楽は?

歌うことは好きで、外国の曲も好きですが、カラオケなどでは韓国の曲を歌うことが多いです。好きなアーティストはたくさんいます。興味を持った曲はインターネットで歌詞を検索して覚えています。日本のアーティストでは「フィッシュマンズ」などが好きです。歌うシーンは楽しく撮影できました。



好きな映画

── ふだん映画を見るのは好きですか? どんな作品、俳優が好きですか?

映画を見るのは好きです。2012年のゆうばりファンタのオフシアター・コンペティションで上映された中では、日本映画『もしかしたらバイバイ!』(高畑鍬名監督)が好きでした。他にもインディーズ系の作品をたくさん見ました。『秒速5センチメートル』(新海誠監督)も好きです。監督では『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心監督、俳優では蒼井優や池脇千鶴が好きです。かわいい女優さんだと思います。



『豚の王』とアニメーション

── アニメーションの仕事を引き受けることになったきっかけを教えてください。

『豚の王』のヨン・サンホ監督が『息もできない』のヤン・イクチュン監督の知人だったので出演を依頼されたのがきっかけです。

── 声優の仕事を実際やってみてどう感じましたか?

実写よりはるかに難しいです。『豚の王』の録音では、成人になってからのシーンでは先に声を入れるので(プレスコ)演技をするようにできましたが、過去の回想シーンはアフレコだったので、口の動きに合わせて声を出すのが難しかったです。

── 今後もアニメーションに出演する予定はありますか?

ゆうばりファンタから韓国に帰ってすぐ、小さな役ですが『豚の王』のヨン・サンホ監督の新作に出演することが決まっています。収録は2月28日からで、映画のタイトルは『サイビ/사이비』。「サイビ」とは韓国語で、必ずしもカルトとは限りませんが、詐欺まがいの新興宗教のことをいいます。そのような宗教をテーマにした作品です。



今後について

── 今まで出演した作品の中で好きなものを挙げてもらえますか。

やはり『息もできない』ですね。それから『三叉路劇場/삼거리극장』(2006年・日本未公開)です。『三叉路劇場』はミュージカル映画で、私にとって初めて主演した記念すべき長編映画なので思い入れがあります。

── これまで様々な作品に出演してきたと思いますが、今後はどんな作品に出演してみたいですか?

明るくて楽しい作品に出てみたいです。今までの出演作品では重くて大変な役柄ばかりだったので(笑)。今後は楽しい作品、たとえばコメディやロマンチックなものに出てみたいです。シットコムはぜひやってみたいです。

── そのような楽しい作品でお目にかかれるのを期待しています。本日はありがとうございました。



取材後記


 何度会っても魅力的な女性である。彼女が登場するとステージやインタビュー会場が華やいだ雰囲気になる。また、スタッフや観客に対する丁寧な心遣いも素晴らしい。筆者が彼女とまとまった話をするのは今回が初めて。最初はお互い緊張のあまり、まるで入社試験の面接のようになってしまったが、徐々に緊張もほぐれ、楽しいインタビューになった。様々な質問に真剣な表情で答える一方で、音楽の話や好きな映画の話になるとキラキラと目を輝かせて楽しそうに話す少女そのものの表情が印象に残った。

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『蒼白者 A Pale Woman』ティーチインの一幕

 『蒼白者 A Pale Woman』上映後のティーチ・インで、常本琢招監督がキム・コッビについて「他の俳優に比べて演技の振れ幅が大きなところに魅力を感じてオファーした。大阪が舞台の日本映画だが、『恥ずかしくて』を見て彼女の美しい韓国語が印象的だったので大部分を韓国語の台詞にした。また、撮影現場の雰囲気づくりの面でも彼女の存在感が大きかった」と話していた。彼女が見せてくれるかわいらしい表情と、スクリーンの中で様々な役柄を演じるときの表情のギャップにはいつも新鮮な驚きを感じる。どんなジャンルの作品にも果敢にチャレンジする演技者としての姿勢は、メジャー指向が目立ちがちな現在の韓国映画界では稀有な存在といえるだろう。ゆうばりファンタ参加のために毎年2月下旬のスケジュールを空けるようにしているという彼女。今後の活躍にも注目していきたい。


ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013
 期間:2013年2月21日(木)~2月25日(月)
 会場:北海道夕張市内
 公式サイト http://yubarifanta.com/

特集 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013
 Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013 ~「おかえりなさい」「ただいま」純白の街が映画一色に染まった5日間
 Interview 女優・キム・コッビさん独占インタビュー


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Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013 ~「おかえりなさい」「ただいま」純白の街が映画一色に染まった5日間

Text by hebaragi
2013/3/13掲載



 今年も「ゆうばりファンタ」の季節がやってきた。ゲストの映画人や観客が夕張に到着すると、市民から「いらっしゃいませ」ではなく「おかえりなさい」の言葉で迎えられる。リピーターが多い映画祭であることを物語る心温まるエピソードである。人の背丈を超える雪におおわれた街が映画一色に染まる5日間。かつて「夕張に降る雪は世界一美しい。神が雪を降らせている街だ」と語った外国人ゲストがいた。その言葉どおり、今年も映画祭に集う映画人と観客、そして市民の思いは降り積もる雪を溶かすほどに美しく熱かった。今回で23回目を迎えた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013(以下、ゆうばりファンタ)」のレポートをお届けする。

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 ゆうばりファンタの構成は回を重ねるごとに大きく変わってきた。初期の頃は大物ゲストを招聘するなど派手な印象が強かった。夕張市の財政破綻後、2008年の再開以降は「新たな才能の発掘」「上映機会の少ない良質な作品の紹介」「映画人との交流」という映画祭の原点に立ち返った企画による運営が行われてきた結果、観客や映画人の反応もおおむね良好で、映画祭をきっかけに様々な企画が生まれるようにもなった。今回の「ゆうばりファンタ」では開催直前の追加分を含め、過去最高となる145本の作品が上映された。上映環境も今年から全てデジタル上映となるなど改善が図られたほか、新たにショートフィルムを対象としたコンペ部門がスタートし、今回のテーマである「一歩その先へ」が感じられる映画祭になった。


社会派の力作が光るオフシアター・コンペティション部門


 オフシアター・コンペティション部門(以下、オフシアター部門)ノミネート作品の特徴として、ドキュメンタリー制作などの経験を持つクリエイターの手による社会派の視点を感じるものが多かったことが挙げられる。グランプリとシネガー・アワードのダブル受賞となった『暗闇から手をのばせ』は障がい者の性をテーマにしているが、ドキュメンタリーの中にユーモアを含むとともに、真摯なメッセージが伝わってくる作品だ。スカパー!映画チャンネル賞受賞の『樹海のふたり』は、富士の樹海を舞台にしたサスペンスタッチのストーリーをベースにしながら、主人公ふたりの生き方をサブストーリーとして展開する力作。審査員特別賞受賞の『ケランハンパン』はチュ・ソヨンが出演する日韓合作セクシャル・コメディで、「恋愛格差」に悩むアラサー女子のやるせない気持ちをユーモアたっぷりに描いている。また、受賞こそ逃したが、『少年物語』は韓国で社会問題となっている「家出ファミリー」の少年たちを描き、同様の格差社会に直面する日本人にも大きな衝撃を与える作品である。さらに『ami? amie? つきあってねーよ!』は基本的にはラブコメディだが、同性同士の結婚がテーマになっている骨太の作品だ。審査委員長の塚本晋也監督は「現在のオフシアター部門は商業映画レベルの良質な作品が多く、まるで同業者の作品を審査するようなもの」と印象を語っていたが、観客の多くも同様の感想を持ったのではないだろうか。

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ゲスト総出のフォトセッション


多彩な魅力のショートフィルム・ショウケース部門


 今回からコンペの対象となった「インターナショナル・ショートフィルム・ショウケース部門(以下、ショートフィルム部門)」では、ホラー&サスペンス、ミステリー、ファンタジー、コメディの4ジャンルに国内外から20本の作品が出品された。どの作品もレベルが高く、予定調和的なストーリーが見あたらなかったことが新鮮に感じられた。優秀CG賞受賞の『虹色』は美術をテーマとした映像美が秀逸な作品。優秀実写賞受賞の『京太の放課後』は原発事故による放射能汚染におびえる親子を防災ずきんをかぶった子どもの視点から描いている。優秀アニメ賞受賞の『嫌われ者のラス』は魚たちの視点から環境問題へのメッセージを込めた作品。『水の足跡』は北関東の山間を訪れたカメラマンが出会った不思議な出来事を美しい風景の中でファンタジックに描いている。また、映画ファンの心の中に入り込んだような『アントワーヌとヒーロー達』のような楽しい作品や、『色声』のようなユニークなテーマの作品も注目の的だった。


秀作ぞろいの韓国ショート・フィルム


 ショートフィルム部門にノミネートされた韓国映画4作品(『未確認生命体』『影』『Cackile - コケコッコー』『愛のゲーム』)はそれぞれユニークな設定が新鮮な印象。このうち『影』はサプライズアニメ賞、『愛のゲーム』はサプライズ特別賞を受賞した。また、ウェイン・リン監督による『復讐人』は、復讐する側とされる側のやりとりが韓国語によって行われる息詰まるワンシチュエーションドラマだ。コンペ部門以外では「ゆうばりチョイス」で、「PiFan Youth Film Academy collectoin」として、プチョン国際ファンタスティック映画祭(PiFan)の第2回ワークショップ作品7本(『あがき』『それでも私は無視をする』『友よ』『バンッ!』『文通しませんか?』『シーソー』『俺たちのドンキホーテ』)が上映されたが、世界屈指のIT大国ならではの恋愛模様がテンポよく描かれた『文通しませんか?』や、現代韓国の若者模様が生き生きと描かれた『バンッ!』など、若い感性がほとばしる作品が目立った。さらに「Pisaf Master Class」として、2012年に開催された第14回プチョン国際学生アニメーション・フェスティバルから、『マリといた夏』で知られるイ・ソンガン監督の新作『ひとりぼっちの怪物』と、『Green Days~大切な日の夢~』のアン・ジェフン、ハン・ヘジン監督の新作『蕎麦の花が開く頃』が日本で初公開された。この2本はテイストは異なるものの、洗練されたストーリーと映像美に圧倒される秀作だった。

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ティーチインでのキム・コッビ


熱気あふれる「キム・コッビまつり」


 作品紹介の際にMCの女性がはからずもネーミングした「キム・コッビまつり」。その名にふさわしい3本の出演作品がキム・コッビの舞台挨拶とともに上映され、大きな盛り上がりを見せた。『蒼白者 A Pale Woman』は彼女が初めてフィルム・ノワールに出演した作品。大阪の裏社会を舞台にした緊張感あふれるストーリーは切ないラブストーリーの要素も含みながら展開し、新鮮な印象を受けた。『クソすばらしいこの世界』はスプラッター映画のイメージが強い中で、日韓の留学生の意識の違いも描いている。山口幸彦プロデューサーは、この作品のコンセプトについて「勉強をしない日本の留学生がダメで勉強熱心な韓国の留学生が素晴らしいということではなく、文化の違いを描いた」と話していた。青春映画『1999、面会~サンシャイン・ボーイズ』でのキム・コッビは飲食店で接待を行う女性(タバンアガシ)の役を表情豊かに演じており、彼女らしい瑞々しさが感じられた。


韓国映画を育むゆうばりファンタ


 ゆうばりファンタは初期の頃から韓国映画の紹介に力を入れてきていることで知られる。『猟奇的な彼女』が2002年のヤング・ファンタスティック・グランプリ部門(現在休止中)でグランプリを受賞したことをきっかけにクァク・ジェヨン監督と日本のプロデューサーが出会い、『僕の彼女はサイボーグ』の企画につながったのは有名な話である。その後も『木浦(モッポ)は港だ』、『初恋のアルバム~人魚姫のいた島~』、『血の涙』、『チェイサー』などが各賞を受賞している。最近では2011年にオ・ヨンドゥ監督が『エイリアン・ビキニの侵略』でオフシアター部門グランプリを受賞し、翌年、支援金をもとに製作した『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』が上映され人気を集めた。また、韓国映画が今ほど注目されていなかった1999年にいち早く『八月のクリスマス』が上映されたほか、その後も、『嘆きのピエタ』主演のイ・ジョンジンが出演する『海賊、ディスコ王になる』、『サマリア』、キム・コッビが出演する『恥ずかしくて』『いま、殺しにゆきます』など注目作をタイムリーに上映しており、「韓国映画の先取り鑑賞ならゆうばりファンタ」との評価が定着している。さらに、プチョン国際ファンタスティック映画祭(PiFan)との姉妹関係を活かし、ゆうばりファンタのコンペ受賞作品がPiFanで上映されたり、PiFanで上映されたショートフィルムが「ゆうばりファンタ」で紹介されるなどの交流が継続されている。2011年のゆうばりファンタで日本の監督やプロデューサーがキム・コッビと出会ったことをきっかけに、今回上映された2作品の企画がスタートしたことは、新たな日韓コラボレーションとして特筆すべき出来事であろう。

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クロージングの模様


ゆうばりファンタの一期一会が人生を変える?


 オフシアター部門プログラミングディレクターの塩田時敏氏は、クロージングセレモニーで「ゆうばりファンタには人生を変える力がある」と話していた。コンペ受賞をきっかけにその後大きく羽ばたいた監督や俳優が少なくないほか、映画人と観客、観客同士の交流が人生の新たな出発点につながったという話もよく聞く。ゆうばりファンタにはリピーターが多く「ゆうばりファンタの5日間のために1年間働いている」という声もあるほど。まさに「一度行くとクセになる」魅力あふれる映画祭だ。未経験の方はぜひ一度参加してみることをおすすめしたい。


ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013
 期間:2013年2月21日(木)~2月25日(月)
 会場:北海道夕張市内
 公式サイト http://yubarifanta.com/

特集 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013
 Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013 ~「おかえりなさい」「ただいま」純白の街が映画一色に染まった5日間
 Interview 女優・キム・コッビさん独占インタビュー

Writer's Note
 hebaragi。ゆうばりファンタは、取材のほか、上映会場や飲食店などで映画人や観客・地元市民と交流するのも楽しい。「今年も来たよ」「来年までお元気で」こんな会話が交わせるのも小さな街の映画祭ならではの醍醐味。


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Review 『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』 ~B級なんて言わせない?!オ・ヨンドゥの新作は時をかける探偵!

Text by Kachi
2013/3/13掲載



 京都には「あほぶりのかしこ」という言葉がある。いいところのない「あほあほ」、常に知的ぶる「かしこかしこ」、賢そうにみえて肝心なところが抜けている「かしこぶりのあほ」ではなく、知ったかぶりをせず、時機を見はからって自分の意見をきちんと言う聞き上手な「あほぶりのかしこ」でこそあれ、という意味で、一見中身がなさそうだがここぞという時に能力を見せる人の褒め言葉だ。

 2011年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ヤング・オフシアター・コンペティション部門グランプリ受賞も記憶に新しい、オ・ヨンドゥ監督の『エイリアン・ビキニの侵略』は、強い正義感を持つ民間ヒーローの男と、彼の純潔な精子を狙う美人エイリアンの攻防戦というムチャな展開に爆笑していると、突然暴力が出現し、そのまま「正義とは何か」という問いの世界へ駆け抜けていく。監督が率いる映像集団「キノマンゴスチン」が手がけたオムニバス作品『隣りのゾンビ -The Neighbor Zombie-』は、ウィルス感染でゾンビ化していく人間たちの心の葛藤や、姿が変わり果てていく愛する者を駆除から守ろうとする者のジレンマにスポットを当てていた。世間には、壮大なテーマを広げておいて結局何が言いたいか分からない「かしこぶりのあほ」映画もある中、オ・ヨンドゥ作品はB級映画とみせかけて実は深く考えさせられる「あほぶりのかしこ」である。

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 そんな監督の待ちに待った新作が『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』だ。しがない依頼ばかりの探偵ヨンゴン(ホン・ヨングン)が、謎の女性(チェ・ソンヒョン)との出会いをきっかけに、悪の組織とタイムマシンをめぐる闘いを繰り広げるという予測不可能なストーリー。前2作はほぼ屋内での撮影だったが、本作で「室内を抜け出したかった」と監督は語る。しかし室内どころか、時空まで飛び越えてしまったのだから、どこまで思考のスケールが大きい人なのかと驚かされる。

 「キノマンゴスチン」は低予算映画が売りだが、作品世界は小さくまとまった印象はなく、ぐいぐい観客を引き込んでくる。まず、役者たちの個性が強い。前2作からおなじみのホン・ヨングンは、小動物に似たつぶらな瞳と見た目からは想像できない腕っぷしの強さがさく裂している。今やオ・ヨンドゥ作品のミューズとなったハ・ウンジョン演じる探偵事務所の社長モニカと、ヨンゴンの友人であやしい店を営むチャン(キム・ヒチャン)は、色気と毒気で興を添える。人類の時間と命の征服をたくらむ「ティック タック トゥー」を演じるのは、『プンサンケ 豊山犬』で清廉な韓国情報員だったペ・ヨングン。彼のスタイリッシュだが残忍な悪役の怪演が光っていた。

 武術監督を出演させたアクションシーンは、狭い空間だからこそ緊迫感が生まれ、手に汗握る。CGを駆使した遊び心のある映像、義手やタイムマシンなどの凝ったギミックも楽しく、費用を言い訳にしない映画作りの可能性を感じさせてくれる。思えばあのキム・ギドクも低予算映画の雄だ。

 『エイリアン・ビキニの侵略』は、人間の一生を呑み込んで永遠にめぐり続ける「時」の恐怖が、エイリアンという形でビジュアル化されていた。永劫回帰の中で、人間は石ころのように小さな存在かもしれない。しかし、生きていた証は過去のどこかに残るのではないか…。残酷な時間の流れになすすべなかった『エイリアン~』に対し、『探偵ヨンゴン~』はひとつ答えを出した格好だ。

 韓国映画にSF作品は少ない。そんな中でオ・ヨンドゥは、たった3作でポテンシャルの高いSF映画を見せてくれた。この頭の良い監督が、次はどんな「あほかしこ」を見せてくれるか目が離せない。


『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』
 原題 영건 탐정사무소 英題 Young Gun in the Time 韓国公開 2012年
 監督 オ・ヨンドゥ 出演 ホン・ヨングン、チェ・ソンヒョン、ハ・ウンジョン、ペ・ヨングン
 2013年3月23日(土)より、K's cinemaにてレイトショーほか順次公開
 公式サイト http://www.u-picc.com/tantei/

Writer's Note
 Kachi。『エイリアン・ビキニの侵略』を見たのは、今はなきシアターN渋谷。他では見られない映画はすべてここで、というほどいつもユニークで骨のあるプログラムのミニシアターでした。自分も老後はカルト作品の名画座をやりたいと思う今日この頃です。


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