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Review 『はちみつ色のユン』 ~素朴なアニメーションで描かれたマイノリティの心の成長記録

Text by 井上康子
2012/12/22掲載



 朝鮮戦争後の混乱と非嫡出子を恥辱とみなす風潮のため、多くの孤児が生まれたが、血縁を重視する韓国社会では養子は歓迎されず、これまでに20万人を超える子どもが国際養子となって出国した。本作は自身が養子としてベルギーで育ったユン・エナン監督の自伝である。5歳で出国してから、40年後に自分のルーツを探しに韓国を訪れるまでが、アニメーションに実写を併せて映し出される。アニメーションのパートは素朴な人物画から大胆な抽象画まで自由自在で素晴らしく、主人公ユンの感情を確かに伝えてくれる。

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 養家には4人の実子がいたが、幼い子ども同士は何の屈託もなく兄弟になる。林で遊ぶユンは万能感にあふれていて、妹の頭にりんごをのせるや、命中するものと決めて棒矢を射ってしまう。主観と客観、現実と非現実が入り混じる特別な感覚をもった本当の子どもが生き生きと跳ねまわっているのには欧州の児童文学作品の趣がある。この子たちの姿には誰もが魅了されるだろう。

 元気いっぱいに見えるユンだが、置き忘れものをつい盗んだことで母に「腐ったりんご」と罵られると、巨大な腐ったりんごに変身してしまい、記憶にない実母を求める。養親に捨てられはしまいかという不安が彼の心の隅から消えることはない。アニメーションでないとできない大胆な描写で子どもの感情をリアルに見せているのが本作の特長である。

 新しい妹が韓国から迎えられると、彼は自分が家族の中で異質な存在だということに気づく。それが「自我」を意識した最初で、複雑な状況に置かれたユンはアイデンティティの模索を続ける。自分を遺棄した韓国への嫌悪は強く、極東、特に日本文化への興味に、人種的に外観が似ていることも重なって、自分が日本人だと思い込もうとする時期もある。日本のアニメを中心としたサブカルチャーへの思い入れはマンガ作家としての監督の原点でもあり、ほのぼのとした愛着をもって描かれている。

 筆者はソウルの金浦空港で養子として出国を待つ乳幼児を何度も見かけたことがある。親に捨てられ、国に捨てられ、養父母は実父母でないことが自明である。居住国ではマイノリティで、成人して韓国に戻る機会を得ても居場所はない。あまりにも過酷な彼らの人生を想像しようとしただけで息が苦しくなった。そういう人生がどういうものかを個人の体験として示してくれたのが本作であった。

 けれど、本作の価値はそれに留まらない。親に捨てられないかと主観の世界で怯えていた子どもが、家族に支えられ、悩みながらも、絵画を自己表現の手段にし、自分を客観的に見つめることができる大人になるまでの成長記録として美しい輝きを放っている。

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 韓国では映画『冬の小鳥』を代表として、映画やドラマの素材として国際養子はこれまでも取り上げられてきた。最近では人気作家キム・ヨンスが米国に送られた養子を登場させた小説『파도가 바다의 일이라면 / 波が海の業ならば』がベストセラーになっている。

 また、現実の世界でも、今年、フランス政界では韓国からの養子出身女性のフルール・ペルラン大臣が誕生するという華々しい出来事があった。ユン監督も「多様性」が自身のアイデンティティを支えるものであることを示唆しているが、マイノリティに配慮し、文化の多様性を尊重する仏社会の懐の広さには敬意を抱かざるを得ない。

 韓国のマスコミ記事には、ペルラン大臣の誕生について、「自慢よりも恥ずかしさが先だった」「彼女が大臣になったという事実を喜ぶことを止める必要はないが、仏社会の健全性を見習うことが緊急だ」という声が載せられている。本作は、来年、韓国で公開予定である。この作品の上映がきっかけになり、また、多くの人が、国際養子の存在に関心を持ち、意見を述べるのを願っている。


『はちみつ色のユン』
 原題 Couleur de peau : Miel 肌の色:はちみつ色/2012年/フランス・ベルギー・韓国・スイス
 監督・脚本 ユン、ローラン・ポアロー
 2012年12月22日(土)より、ポレポレ東中野、下北沢トリウッドほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://hachimitsu-jung.com/

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 News 海外養子をテーマにした異色のドキュメンタリー×アニメーション『はちみつ色のユン』、12/22より公開!

Writer's Note
 井上康子。福岡市在住。『はちみつ色のユン』は、見た人の心に生涯留まり、その人の支えになる貴重な作品である。多くの人に見てほしい。


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Review 『拝啓、愛しています』 ~チュ・チャンミン監督が描く自立したおとなの愛

Text by 井上康子
2012/12/21掲載



 韓国映画には高齢者を主人公とした作品が少ない。まして、高齢者の愛を描いた作品は少なく、『拝啓、愛しています』はその希有な一作である。長編デビュー作『麻婆島』でたくましく生きるおばあちゃんたちを描いたチュ・チャンミン監督が、本作でも地に足の着いた生き方をする老カップルを登場させており、たいへん見応えがある。出演しているのは映画やテレビでおなじみのベテラン俳優たち。TVドラマでは専ら祖父母としてのみ描かれる高齢者キャラクターだが、本作の登場人物は枯れておらず、家族と依存しあっていない姿は素敵だ。

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 主人公マンソク(イ・スンジェ)は子や孫と仲良く同居しているが孤独である。目覚めが早く、休日の早朝は時間をもてあましている。孫のヨナ(ソン・ジヒョ)が散歩を勧めるが、まだ眠い彼女は付き合おうとはしない。マンソクも自立したおとなとして彼女に同行を無理強いすることはない。年齢が違えば、習慣も興味の対象も異なる。マンソクには同世代の仲間が必要なのである。

 彼はバイクで牛乳配達をしており、バイクがはねた石のせいで転倒した女性を助ける。彼女はリヤカーで廃品回収をしているソン(ユン・ソジョン)で、それがきっかけとなり、二人は互いに好意をもつようになる。駐車場の管理をするグンボン(ソン・ジェホ)は認知症の妻(キム・スミ)を介護している。マンソクは徘徊している彼の妻を見つけたことで、グンボンと友達になる。

 マンソクはテレビのセックスシーンに思わず身を乗り出し、ソンからのプレゼントを有頂天になって見せびらかす、お茶目なかわいいおじいちゃんだ。そんな一面のある彼だが、牛乳配達をしているのは、妻が出していた重病のサインを気にかけず、最後にほしがった牛乳も飲ませることができなかったためで、彼なりの贖罪である。また、ソンを原題『クデルル サランハムニダ / 그대를 사랑합니다 / きみを愛しています』にある「クデ / 그대 / きみ」と呼ぶのは、「タンシン / 당신 / あなた」を亡くなった妻以外には使わないという決意のためで、至って律儀なのである。

 他の老人たちも同様で、グンボンは献身的に妻の介護をし、妻は認知症になっても帰宅したグンボンから彼がその日にしたことを聞くのを心待ちにしている。ソンは若い頃に駆け落ちをしたために故郷に戻る資格がないと思っている。脇役として登場する古物商(オ・ダルス)でさえ、グンボンに廃品の目覚まし時計を頼まれたことを忘れず、使えるものを届けに行く。この作品が穏やかな幸福感に満ちているのはこのような市井の人々の律儀さを監督が丁寧に描いているためだ。

 ソンは名前を付けてくれるはずの父親が出征後、行方不明になったためにソンという姓しか持たず過ごしてきた。「辛抱が得意」という彼女は年下の人間にも敬語を使い、自分の思いを口にできずに生きてきた人だ。マンソクは彼女を「あなただけ」を意味する「イップン / 이뿐」と名付け、彼女に生命を吹き込む。文盲だったイップンは「キム・マンソク」という文字を最初に綴り、マンソクへの思慕を示す。

 名前を得、文字を覚えたイップンは自分の意志を表現できるようになり、大きな決断を行う。彼女の決断はマンソクの希望とは異なるもので、観客にとってもたいへん思いがけない内容である。マンソクは大いに苦悩するが、イップンを愛するがゆえに、彼女の決断を尊重して受け入れる。自分の思いを犠牲にすることをいとわない、自立したおとなの愛の大きさ、美しさに圧倒される。

 韓国映画によくある若者の恋愛映画では描くのが難しかったであろう、おとなの成熟した愛が描かれているのである。


『拝啓、愛しています』
 原題 그대를 사랑합니다 英題 LATE BLOSSOM 韓国公開 2011年
 監督 チュ・チャンミン 主演 イ・スンジェ、ユン・ソジョン、ソン・ジェホ、キム・スミ
 2012年12月22日(土)より、シネスイッチ銀座、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.alcine-terran.com/haikei/

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 Review 『拝啓、愛しています』 ~シニア世代を見つめる人間愛に満ちたまなざし

Writer's Note
 井上康子。福岡市在住。チュ・チャンミン監督のデビュー作『麻婆島』がアジアフォーカス・福岡映画祭2005で上映された折は堅実な幸福観に心酔してレビューを執筆し、2作目『愛を逃す』が福岡アジア映画祭2006で上映された折はティーチインでの監督の聡明な語り口に感動した。第3作となる本作も最新作『王になった男』も大ヒットしているが、福岡と縁の深い監督の活躍に期待している。


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News 海外養子をテーマにした異色のドキュメンタリー×アニメーション『はちみつ色のユン』、12/22より公開!

Text by 西村嘉夫
2012/12/19掲載



 韓国の海外養子をテーマにしたドキュメンタリー×アニメーション『はちみつ色のユン』が、今週末12月22日(土)より、ポレポレ東中野、下北沢トリウッドほか全国順次ロードショーされる。

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 韓国映画の魅力のひとつは、弱者やマイノリティに対する問題意識や温かい視線が感じられること。そこで描かれるのは、外国人労働者、脱北者、セクシャル・マイノリティ、障害者、そして立場の弱い女性や子供などだ。『はちみつ色のユン』で描かれている海外養子もそのひとつに数えていいだろう。

 朝鮮戦争後の1950年代後半から、韓国は乳幼児を海外へ養子として送り出してきた。現在に至るまでその数累計で20万人あまり。その理由は、貧困もあるが、駐韓米兵と韓国人女性の間に生まれた子供や障害児など、韓国社会の強固な家族主義・血統主義が生み出すものもある。そして、それら海外養子が成人して自らの出自を確かめるために、また実母捜しをするために訪韓するに至り、社会問題として認識されるようになる。

 海外養子をテーマとする映画も近年徐々に増えてきた感がある。有名なところでは、アメリカに養子に出された息子が駐韓米軍に志願し、実の両親を探す『マイ・ファーザー』、カトリックの児童養護施設に入れられた女の子がフランスの養父母のもとへ旅立つまでを描いた『冬の小鳥』など。『国家代表!?』では、ハ・ジョンウ演じる青年がアルペンスキーの米国ジュニア元代表で、実母を探しに韓国にやってきた、という設定だった。また、山形国際ドキュメンタリー映画祭2011で上映された『女と孤児と虎』は、韓国系デンマーク人の監督が、フェミニストの視点から海外養子の「負の遺産」を検証するアート・ドキュメンタリーだ。

 その多くは、監督自らが海外養子であったり、主人公にモデルがいたり、というのも、このテーマを扱った作品の共通点。『はちみつ色のユン』も、共同監督の一人で、幼くして海外養子に出された韓国系ベルギー人、ユン・エナンの半生を描いた作品だ。映画本編は、養子に行ったベルギーの空港到着シーンから始まり、自我が確立する頃までを描いている。また、40年後、出自を確認するために初訪韓したユン監督のドキュメンタリー映像もふんだんに使われているので、先に挙げた作品群を使って表現するならば、『冬の小鳥』の後日談+『マイ・ファーザー』といった趣だ。そして、歴史をさかのぼって、韓国で海外養子が盛んになった原因を語るシーンは、『女と孤児と虎』を彷彿とさせる。

 技術的に面白いのは、8mmフィルムによる記録映像とアニメーションの映像がシームレスにつながっており、記録映像からアニメへ、そしてアニメから記録映像へと自由に往き来していること。はちみつ色を基調とした牧歌的なアニメーションも相まって、厳しい現実を伝えるドキュメンタリーの要素と、メルヘンチックな温かさが同居するという奇跡的な映像を生み出している。

 ユン監督は、1965年ソウル生まれ。5歳でベルギーの一家の養子となり、言語的にはフランス語圏で成長。子供の時に日本文化にはまって漫画家を目指し、アジア、特に日本を題材にした漫画を多数出版している人物。幼い頃、自らのアイデンティティをめぐって日韓の狭間で揺れるシーンは、日本の観客にも驚きを持って迎え入れられるだろう。また、劇中「UFOロボ グレンダイザー」が台詞で出てくるなど、フランス語圏における日本のサブカル普及度を知る上でも興味深い作品だ。

 公開初日の12月22日(土)と23日(日)には、ユン監督の舞台挨拶とサイン会が予定されている。また、ポレポレ東中野では同テーマを扱った『冬の小鳥』を、下北沢トリウッドでは『マイ・ファーザー』のファン・ドンヒョク監督最新作で、子供の人権を扱った『トガニ 幼き瞳の告発』を、12月21日(金)までアンコール上映している。





『はちみつ色のユン』
 原題 Couleur de peau : Miel 肌の色:はちみつ色/2012年/フランス・ベルギー・韓国・スイス
 監督・脚本 ユン、ローラン・ポアロー
 2012年12月22日(土)より、ポレポレ東中野、下北沢トリウッドほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://hachimitsu-jung.com/

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 Review 『はちみつ色のユン』 ~素朴なアニメーションで描かれたマイノリティの心の成長記録

Writer's Note
 西村嘉夫。シネマコリア代表。文中で紹介した『女と孤児と虎』が12月20日(木)に城西国際大学で無料上映されます。詳細はこちらでご確認ください。


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Review 『未熟な犯罪者』『合唱』『最悪の友達』 ~葛藤と希望、青少年を見つめる3監督の視線

Text by Kachi
2012/12/18掲載



 今秋に開催された第25回東京国際映画祭、その提携企画コリアン・シネマ・ウィーク2012とフォーカス・オン・アジアでは韓国作品が12本上映されたが、とりわけ青少年をテーマにした良作が目についた。

 東京国際映画祭・コンペティション部門で審査員特別賞と最優秀男優賞(ソ・ヨンジュ)を獲得した『未熟な犯罪者』(2012年、原題 犯罪少年)。ジグ(ソ・ヨンジュ)は、根は優しい子だが、動機も手口も稚拙な犯罪を繰り返し、少年院に送られる。退院を控えた日、死んだと聞かされていた母ヒョスン(イ・ジョンヒョン)が実は生きていることを知る。生まれて初めての親子生活に戸惑いながら、二人は少しずつ心を通わせていくのだが…。

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『未熟な犯罪者』

 17歳でジグを産み、すぐに失踪したヒョスンは、韓国の理想的良妻賢母像を吹き飛ばす、見た目も行動も子供のような母親。ジグを引き取ったのも思いつきの感が否めない。しかし、若い彼女が苦しい時に、誰にも心から頼れなかった孤独はいたたまれない。

 カン・イグァン監督はティーチインで、1997年のアジア通貨危機以降、韓国では離婚が増え、見捨てられた子供たちが行き場を失い、軽犯罪を繰り返している現状を語った。そして、多くが平凡な子であるにもかかわらず、少年犯罪をことさら特異で猟奇的なものとしか報道しないマスコミや、触法少年(刑罰法令に触れる行為をした少年)を見放してしまう社会へ疑問を投げかけた。

 若年層のセックス・妊娠・自殺や犯罪といった暗部が描かれた『未熟な犯罪者』だが、監督は問題を感情的に描くことを避けた。気まずさがにじみ出ていた親子の再会シーンが象徴するように、白々しい感動も演出しない。好演したソ・ヨンジュが14歳とジグ世代だったことも作品にリアリティを与えていた。


 コリアン・シネマ・ウィーク2012で上映された『合唱』(2012年、原題 ドゥレソリ)は、これまでの学園映画とはひと味違う傑作だった。

 伝統音楽の経験だけで合唱に挑んだ芸術高校の合唱サークル「ドゥレソリ」の生徒役に、実際の創立メンバーの後輩たちを起用したのだが、監督は演技経験のない彼女らに過度な演出をしなかった。スクリーンに映し出された学生の悩みや喜びが本物で、自然と思春期の頃の自分に重ねられた。

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『合唱』

 インタビューでチョ・ジョンレ監督は「自殺率の高い韓国にあって、とりわけ若者の自殺が増えつつあるのに社会は解決策を考えていない」と憂いを口にした。合唱団の中には、国楽の担い手として将来を期待する親からのプレッシャーに悩み、いら立ちから非行に走る子もいたが、そんな青少年たちの心を勉強以外に熱中できることで解放してあげたいと考えたのだ。「ドゥレソリ」の一人アルム(チョ・アルム)の「自分の意志で行動を起こすことが嬉しい」というセリフには、夢を持てたことへの喜びが言葉以上にあふれていた。


 フォーカス・オン・アジアでは、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2012から選りすぐりのショートフィルムと国際映画祭の常連監督による最新ショートフィルムが上映された。女性監督ナムグン・ソンの短編『最悪の友達』(2009年)は現代の青少年をとりまく状況を端的に描写した作品だった。

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『最悪の友達』

 女子大生インソン(ペ・ヘミ)は、初体験の相手チュンギ(キム・スヒョン)が兵役検査でアメリカから帰国することを知り、彼ともう一度セックスしようと画策する。二人の奔放な性とインソンの冷静でシニカルな語り口には面白味もあるが、チュンギはいつも思い詰めた様子で、女友達ノバク(キム・ウンミ)は9回の自殺未遂をし、足に障害を持つ。

 影を落としているのは、物を買い与えるだけや過干渉だったりする親との関係だ。チュンギのアメリカ行きも、悪い友達を遠ざけ優秀な人間にするため、母親が彼の意志も聞かずに計画したことだった。だがチュンギは結局アイデンティティを失い、どこにも居場所が見つけられなくなってしまう。彼の「アメリカも兵役も嫌だ」という言葉には、わがままではなく、親にも友達にさえも思いを分かってもらえない寂しさがあった。

 アニメのコスプレ会場に3人で迷い込んだ時、チュンギの表情が突然晴れる。「ドゥレソリ」のメンバーのように、誰の押しつけでもない自分の好きなことに夢中なコスプレイヤーたちに、自分の理想を見たのかもしれない。


 「現代の高校生を描いた映画だと、明るい面ばかりを捉えた作品か、逆に問題を含んだ非常に陰鬱な作品かで、ありのままの姿を捉えてないことを残念に思っていた」とは『合唱』チョ・ジョンレ監督の弁。

 『合唱』は夢を持つことの素晴らしさがストレートに出ていて清々しかったが、監督が若者の葛藤を認めていたことが、どこか抑制の効いた作りにさせたのだろう。他方、『未熟な犯罪者』と『最悪の友達』も、シリアスな問題を提起して終わりではない。『未熟な犯罪者』のラストシーンのほの暖かさには、良い親子とはいえない二人でも「どうか離れないで」と願うばかりだ。そして、『最悪の友達』のインソンはノバクの10回目の自殺を必死に止めた。

 3作品ともに共通していたのは、ネガティブなことを抱えていても、つまずいても、もう一度希望へ進もうとしている人の背中をそっと押してくれる点だ。「凍ったら、溶かせばいい」。外に干して凍ってしまった洗濯物を取り込む母ヒョスンの何気ない一言が、心に残った。


第25回東京国際映画祭
 2012年10月20日(土)~10月28日(日)@TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
 公式サイト http://2012.tiff-jp.net/

コリアン・シネマ・ウィーク2012
 2012年10月20日(土)~10月23日(火)@韓国文化院・ハンマダンホール
 公式サイト http://www.koreanculture.jp/

「フォーカス・オン・アジア」&ワークショップ ショートショートフィルムフェスティバル&アジア
 2012年10月25日(木)~10月28日(日)@東京都写真美術館ホール
 公式サイト http://www.shortshorts.org/

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 Interview 『合唱』 チョ・ジョンレ監督
 Interview 『合唱』 ハム・ヒョンサン先生&チョ・アルムさん

Writer's Note
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。学園青春ものや熱い友情ものといった、過剰に泣かせようとする映画が大の苦手。ですが、今回レビューした作品はドライといえるほど抑えた描き方をしつつ、きっちり感動させてくれました。


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Review 『拝啓、愛しています』 ~シニア世代を見つめる人間愛に満ちたまなざし

Text by mame
2012/12/3掲載



 この映画をジャンルづけるとしたら、さしずめ「シニア世代のラブストーリー」といったところだろうか。だが、それだけでは足りない。鑑賞後の私は、まるで美しい絵本を読んだ後のような幸福感に満たされていた。

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 隠居生活を送るマンソク(イ・スンジェ)は、おんぼろバイクを乗り回し、早朝の牛乳配達をしている。夜も明けきらない中、急勾配の坂を重そうにリヤカーを引っ張る女性、ソン(ユン・ソジョン)がいた。バイクですれ違った際、転んだ彼女にマンソクは声を掛けるが、言葉はとても乱暴だ。「俺のせいじゃないよな!?」 その威圧的な態度に、ソンは尻込みしてしまうが、強引にリヤカーをひったくり、ずんずん進んでいく後姿に、彼が本当は優しい人であることを悟る。マンソクの方も、どこか寂しげなソンに惹かれ、いつしか坂の上で彼女が来るのを心待ちにするようになる。

 TVドラマ「イ・サン」などの時代劇でおなじみのイ・スンジェが、威厳がありながらもどこか飄々としたマンソクを好演していて、おんぼろバイクを颯爽と乗り回す姿も爽やかだ。このおんぼろバイクが出す騒音は、古紙回収に出かけるソンの目覚ましがわりとなり、認知症を患うグンボンの妻(キム・スミ)は、マンソクのバイクに乗せられて自分の家を探す道中、夫グンボン(ソン・ジェホ)との幸せな記憶を思い出す。妻を助けたことでグンボンとも仲良くなったマンソクは、早朝から働かなければいけないグンボンの家の前で、ブルンブルンとおんぼろバイクを鳴らし、彼を起こしてあげる。老人とバイクという意外な組合せが、物語を躍動感溢れるものにしている。

 認知症の妻と、それを支える夫、「ソン」という名字しか持たず文字も読めない老女と、暗い要素ばかりの登場人物だが、どうしてこんなに輝いているのだろう。それはまさに、マンソクから「ソン・イップン / 송이뿐 / (私には)ソンだけだ」という名前をもらった彼女が、人から愛される喜びを知り、自分も幸せになっていいんだと実感する瞬間から輝き始めるからだ。

 「クデルル サランハムニダ / 그대를 사랑합니다 / きみを愛しています」 本作の原題にもなっているこの告白には、マンソクの特別な思いが込められている。死別した妻に呼びかけていた「タンシン / 당신 / あなた」ではなく、「クデ / 그대 / きみ」。愛情をうまく伝えられないまま逝ってしまった妻を悼むかわりに、イップンには精一杯自分の愛を伝え守ってあげたいという、マンソクの新たな決意が込められた言葉…。なんとも甘いエピソードだが、飄々としたマンソクが口にするとストレートに心に響いてくる。

 一方、グンボンとその妻。認知症のため排泄もままならないグンボンの妻だが、彼女が部屋の壁に描く絵は鮮やかな色に彩られ、朗らかな性格がそのまま表れているようだ。夫婦には3人も子供がいるのに、彼らが家に寄りつく事はなく、グンボンはたったひとりで妻の介護をしている。だが、グンボンのまなざしは暖かく、今や子供のように無邪気になってしまった妻を、以前と変わらぬ愛情で包み込む。キム・スミ演じるグンボンの妻の明るさが、まさに4人のムードメーカーとなっていて微笑ましい。妻の病状の進行を知ったグンボンは、子供たちを呼び出し、ある決断をするが、それはふたりの幸せを守るための決断だった。

 「シニア世代のラブストーリー」。そこには限りある人生を、誰とどのように生き、そしてどのように終えるかというテーマがある。マンソクとイップン、グンボンとその妻、この二組が下した決断は、人生が限られているが故の切実な思いに満ちている。それなのに幸福感が残るのは、4人のキャラクターがとても魅力的で、高齢者を囲む厳しい現実の中で育まれる彼らの友情が、冬の陽だまりのように暖かく、私たちの心を包んでくれるからだろう。その光はどこか幻想的で柔らかく、不幸な現実を和らげ、小さな幸せをより輝かせてくれる魔法を持っているようで、彼らのいる路地裏・浜辺・駐車場さえもキラキラと輝いて見えたのが印象的だった。

 原作となったカン・プルの漫画は演劇化され、2011年に映画化された本作は、韓国でも多くの人の感動を呼んだ。監督を務めるチュ・チャンミンは、最新作がイ・ビョンホン主演の時代劇『王になった男』(2013年2月公開)と聞き、その幅の広さに驚かされる。本作で魅せた人間愛に満ちたまなざしが、今後どう展開するのか期待は膨らむばかりだ。


『拝啓、愛しています』
 原題 그대를 사랑합니다/英題 LATE BLOSSOM/韓国公開 2011年
 監督 チュ・チャンミン 主演 イ・スンジェ、ユン・ソジョン、ソン・ジェホ、キム・スミ
 2012年12月22日(土)より、シネスイッチ銀座、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.alcine-terran.com/haikei/

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 Review 『拝啓、愛しています』 ~チュ・チャンミン監督が描く自立したおとなの愛

Writer's Note
 mame。1983年、岡山県生まれ。韓国映画を日本で見る際に楽しみなのが、ポスターなどの宣伝ビジュアル。『拝啓、愛しています』の韓国版ビジュアルは主演4人の写真でしたが、日本版は暖色系の絵に仕上がっていて映画の雰囲気にピッタリです。チラシをよーく見てみると、劇中で登場する重要な小物がさりげなく描かれているので、映画を観た後に見つけてクスッとしてみて下さいね。


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Column 「日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト」で『ダンシング・クイーン』福岡公開 ~その先にあるものは?

Text by 西村嘉夫
2012/12/1掲載



 姉妹都市である福岡市と釜山市が「日韓文化交流と映画産業の発展」を目的とした連携事業「日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト」を発表した。福岡では、日本未公開の韓国映画が12月から来年3月にかけて上映され、釜山では日本映画が上映される。

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『ダンシング・クイーン』

 プロジェクト第1弾として、12月8日(土)より、T・ジョイ博多で上映されるのが、イ・ソックン監督の代表作『ダンシング・クイーン』(2012年)。韓国で400万人の観客を動員した大ヒット作であり、9月に開催されたアジアフォーカス・福岡国際映画祭2012ではオープニング上映され、観客投票2位で熊本市賞を受賞した、日韓の観客から愛された作品だ。

 『ダンシング・クイーン』のイ・ソックン監督は福岡と浅からぬ関係がある。2000年に制作した短編『全人類に平和を/For the Peace of All Mankind』が福岡アジア映画祭2001で、長編監督デビュー作『放課後の屋上』(2006年)も福岡アジア映画祭2006で上映されており、長編第3作となる『ダンシング・クイーン』も含めるとこれまで3作品が福岡の映画祭で日本初公開されているのだ。残念ながらいずれの作品も劇場公開には至っていないのだが、大げさに言うと「福岡が選び、福岡が育てた監督」といえるかも知れない。

 さて、福岡にはもうひとつ重要な映画祭がある。毎年9月に開催されている福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)だ。この映画祭は、インディーズ作品の上映を通じた若手作家の育成・交流を目的としており、韓国の「釜山国際短編映画祭」「メイド・イン釜山独立映画祭」と作品の相互交換上映や共同制作を行っている。今回発表された「日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト」は市が主導する商業映画の交換プロジェクトだが、それより前から民間非営利ベースでインディーズ作品の交換上映が行われていたのだ。

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左から、福岡アジア映画祭、福岡インディペンデント映画祭、アジアフォーカス・福岡国際映画祭のポスター
各々、前田秀一郎氏、西谷郁氏、梁木靖弘氏がディレクターを務める

 釜山とインディーズ作品の交換上映を行う福岡インディペンデント映画祭、若手監督のデビュー作を好んで上映する市民映画祭・福岡アジア映画祭、そして福岡市が主催するアジアフォーカス・福岡国際映画祭と「日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト」。これらが組み合わさると、今後、次のようなことが起こらないだろうか?

   釜山の最新インディーズ作品が福岡インディペンデント映画祭で上映され…
   その監督が長編デビューすると、福岡アジア映画祭で上映され…
   更にその監督が秀作・話題作を生み出すとアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映され…
   アジアフォーカスで好評を博すと「日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト」で上映される。

 商業ベースに乗った劇場公開とは違った次元で、福岡には、韓国人監督を無名のインディーズ時代から一貫してその作品を上映することにより支援・応援するシステムができあがりつつあるのだ。

 福岡と釜山は姉妹都市。ならば「エクスチェンジプロジェクト」で上映される作品は、釜山出身ないしは釜山で制作活動を続ける監督の作品であれば、なお良かろう(イ・ソックンはソウル出身)。そういった監督は「釜山国際短編映画祭」や「メイド・イン釜山独立映画祭」から輩出される可能性がある。そして、そういった監督の作品は既に福岡インディペンデント映画祭で上映されているかも知れない。昨年、同映画祭で来日したミン・ビョンウ監督と俳優のイム・ソンジンは来日中にスマホで映画を撮った。今のところ「エクスチェンジプロジェクト」で交換されるのは完成品の映画だが、将来的に制作の交換、すなわち釜山の監督が九州で映画を撮り、福岡の監督が釜山で作品を制作することがあれば実に面白い。

 ここで夢想したことが実現するには長い歳月がかかるかも知れない。「日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト」はまだ始まったばかりで先々どうなるか未知数な部分もあるだろう。しかし、こんな妄想に近い想像力を働かせてみるのも映画ファンのひとつの楽しみであるし、そんな妄想を許してくれる、福岡アジア映画祭、福岡インディペンデント映画祭、アジアフォーカス・福岡国際映画祭は、アジア映画界の大きな資産ということだけは間違いない。


『ダンシング・クイーン』
 原題 ダンシング・クイーン/英題 Dancing Queen/韓国公開 2012年
 監督 イ・ソックン 主演 ファン・ジョンミン、オム・ジョンファ
 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012公式招待、2012大阪韓国映画週間上映作
 福岡×釜山 日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト第1弾として2012年12月8日(土)より、T・ジョイ博多にて2週間限定公開
 日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト公式サイト http://www.t-joy.net/cinemaex/

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第26回福岡アジア映画祭2012
 会期:7月6日(金)~7月8日(日)、7月13日(金)~7月15日(日)
 会場:九州日仏学館5Fホール、中洲・明治安田生命ホール
 公式サイト http://www2.gol.com/users/faff/faff.html

福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2012
 会期:9月6日(木)~9月11日(火)
 会場:福岡アジア美術館・8Fあじびホール、冷泉荘・B棟1階ニコイチ
 公式サイト http://www.fidff.com/

アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 会期:9月14日(金)~9月23日(日)
 会場:T・ジョイ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 西村嘉夫。シネマコリア代表。大阪生まれの名古屋育ち。現在は名古屋在住。最近、東京・大阪で公開されて名古屋で公開されない映画が増えてきていて、ちょっとした危機感を抱いています。


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