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読者投稿 Review 『ピエタ』

Text by hebaragi
2012/10/31掲載



 キム・ギドク監督18本目の作品。今年度のベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を受賞したクオリティの高さに圧倒され、短いソウル滞在中に3回も観てしまった。

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『ピエタ』(写真提供 東京フィルメックス事務局)

 都会の片隅。金属加工を生業とする零細な町工場が立ち並ぶ、発展から取り残されたような街が舞台。主人公の男(イ・ジョンジン)はこの街でヤクザまがいの取り立て稼業をしている。そこへ、30年前に別れた母親を名乗る女が現れたことから彼の生活に予想外の変化が起こっていく。壁の絵に刺したナイフを手に今日も彼は取り立てに出かける。色のないくすんだ街を舞台に静かにストーリーが展開。主演二人の表情が秀逸。なかでも、母親役チョ・ミンスのモナリザのような微笑みが、不気味かつ不思議な魅力を醸し出す。

 借金取り立て業から足を洗う決心をした息子が母親に言った台詞が泣かせる。

   「今日で取り立ての仕事は終わりだ。必要なものはないか?
    やりたいことはないか? 死んでほしい人はいないか?」

 せめてもの親孝行のつもりで言った大真面目な言葉だったのだろう。

   息子 「金とは何だ?」
   母親 「全ての始まり、愛、名誉、嫉妬、復讐、死…。」

 街を歩く二人は、親子というより、まるで恋人同士のようだ。息子の誕生日。バースデーケーキが悲しかった。『親切なクムジャさん』のワン・シーンを思い出す。

 母親は言う。

   「人は誰もがいつかは死ぬものよ」

 息子は言う。

   「オンマ(お母さん)がいなくなったらと考えると不安だ。
    またひとりぼっちになったら、もう俺は生きていけない。」

 そこには、もはや冷酷な取り立て屋の顔はない。追い詰められた息子は「母親の代わりに自分が死ぬ」と言う。30年ぶりに再会した親子の行く末はハッピーエンドでもなければ明るい希望があるわけでもない。しかし、なぜか観た後にホッとし、また観たくなる不思議な作品だ。

 ベネチアで金獅子賞を受賞したキム・ギドク。次回作への期待が高まるが、当分はプロデュースやシナリオ執筆に専念するという。彼はあるインタビューの中で、これまでの18本の作品で一貫して込めようとしたメッセージは「資本主義と、これによって生まれた非道徳性だ」と語っている。メジャーな作品優先で上映するシネコンの商業主義を批判し、ヒット中にもかかわらず四週間で『ピエタ』の上映打ち切りを宣言したのもギドクらしい行動といえよう。また『ピエタ』の中で、素直に愛を表現できない男は『悪い男』を、エゴン・シーレ風の絵は『悪い女 青い門』を、殺生の数々は『春夏秋冬そして春』を、三人が横たわるシーンは『ブレス』を彷彿とさせる。こうしてみると、彼は『ピエタ』に過去17作品の集大成の意味合いを込めたようにも思えた。

 『ピエタ』は、初期作品からキム・ギドクに注目してきた韓国映画ファンはもとより、キム・ギドクの作品は初めての方にもお薦めしたい秀作である。日本公開が待ち遠しい。


『ピエタ』
 英題 Pieta/韓国公開 2012年
 監督 キム・ギドク 主演 チョ・ミンス、イ・ジョンジン
 第13回東京フィルメックス「特別招待作品」部門上映作
 東京フィルメックス公式サイト http://filmex.net/
 『嘆きのピエタ』という邦題で2013年6月、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

Reviewer's Profile
 hebaragi。韓国映画鑑賞歴24年。年数回、ソウルで映画を鑑賞する。北海道の自主上映グループのボランティア・スタッフを務める。


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News 「フォーカス・オン・アジア」&ワークショップで注目の韓国短編3作品上映!

2012/10/15掲載



 東京国際映画祭の連動企画として、10月25日(木)から10月28日(日)まで、東京都写真美術館ホールにて「フォーカス・オン・アジア」&ワークショップが開催される。この催しは、米国アカデミー賞公認で、日本発・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)」が、ショートフィルムの面白さの啓蒙と、若手映像作家の育成を目的に、主催するもの。今年6月に開催された「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2012」から選りすぐりのショートフィルムと国際映画祭の常連監督による最新ショートフィルムを上映するほか、最終日の10月28日(日)には、初監督作品『モテキ』が空前の大ヒットとなった大根仁監督を講師に招いたワークショップが開催される。

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 気になる上映作品だが、SSFF & ASIA 史上初の日本人女性監督によるグランプリ作品『もう一回』(日本/平柳敦子監督)、アジア インターナショナル部門優秀賞を受賞した『泥棒』(台湾/Jay Chern監督)といった新鋭の作品に加えて、世界的な名声を得ているアン・ホイ、アッバス・キアロスタミ、アピチャッポン・ウィーラセタクンらのショートフィルムが特別上映される。

 韓国からは短編映画が三本、登場。『葬式』(ユ・ミニョン監督)は、キム・ギドク監督『ピエタ』が最高賞の金獅子賞を、チョン・ギュファン監督『重さ/The Weight』がクィア獅子賞を受賞して話題となった第69回ベネチア国際映画祭で、みごと最優秀短編賞を獲得した注目作。中国のインターネットTVがアジアの著名監督に依頼して制作したオムニバス映画『ビューティフル 2012』からは、『家族の誕生』『レイトオータム』のキム・テヨン監督編『歌う君は誰よりも美しい』が上映される。主演は韓国映画ファンにはお馴染みのコン・ヒョジンとパク・ヒスンだ。また、3年前の作品だが、映画『泥棒たち』、ドラマ『ドリーム・ハイ』に出演しているキム・スヒョン主演作『最悪の友達』(ナムグン・ソン監督)も上映。いずれも本邦初公開となる。

 三大映画祭受賞作、アジアの注目監督&俳優による期待作、そして若手スターの映画初主演短編と、長編にも劣らぬ注目のラインナップだ。


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『葬式』 原題 招待/2012年/ユ・ミニョン監督 ※ Aプログラムで上映


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『歌う君は誰よりも美しい』 2012年/キム・テヨン監督 ※ Bプログラムで上映
(オムニバス映画『ビューティフル 2012』の一編・原題『彼女の演技』)


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『最悪の友達』 2009年/ナムグン・ソン監督 ※ Cプログラムで上映



「フォーカス・オン・アジア」&ワークショップ ショートショートフィルムフェスティバル&アジア
 期間:2012年10月25日(木)~10月28日(日)
 会場:東京都写真美術館ホール
 料金:パスポート 前売 \1,300/当日 \1,500 1プログラム券 当日 \1,000
     ※ ワークショップは申し込み制
 公式サイト http://www.shortshorts.org/

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Review 『高地戦』

Text by Kachi
2012/10/14掲載



 戦争映画というものは大体悲しくできているものだが、わけても韓国で数多く作られている朝鮮戦争の映画は悲惨だ。同じ民族同士が北と南に分かれて血を流し合い、勝利も敗北もないままの「終戦」ではない「停戦」。そんな話を、戦線での絆やヒロイズムで語られても…と、本作が“朝鮮戦争の停戦協定成立から発効までの12時間”が題材と聞いてためらいつつも、シン・ハギュンが出演していることを頼みに試写へ向かった。ところが… 語弊のある表現になるが、これが実に面白かったのだ!

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 朝鮮戦争末期の1953年。韓国軍・防諜隊中尉ウンピョ(シン・ハギュン)は、死んだ中隊長の体から味方の弾丸が発見されたこと、そして敵軍が韓国軍を経由して手紙を出していたことに端を発した内通の疑惑を調査するため、激戦地エロック高地へ送られる。彼はそこで開戦直後に生き別れた親友スヒョク(コ・ス)と再会。しかし、お互いの無事を喜ぶ間もなく、泥沼の戦局は続く。7月27日午前10時、ついに停戦協定が調印され、平和な日常が戻るかに見えた。だが協定が効力を持つのは、その日の夜10時からだった…。

 誰もが「いずれ終わる」と口にするのに、その実、誰にも終わりが見えない戦況の中、目の前にいる敵を機械のように殺すことが兵士の体に染み付いていく。戦場で正気を失わずに生きるには、身も心も痛みを感じないようにするほかない。気弱で心優しいクリスチャンだったスヒョクが、勇猛だがどこか冷酷で、「殺して下さい」と神に祈るような青年に変わったことがそれを物語っている。そんなスヒョクに「真相を突き止めてもお前は何もできない」とはき捨てられても、「でもまだ帰れない」と冷静に言うウンピョ。彼はいつもチョコレートを持っていて、中隊の兵営で誰かが保護している、戦争で腕を失くした民間人の少女にそっと渡す。一方、スヒョクは「おじさん、私の腕は大きくなったら生えてくるよね?」という少女に「生えてくるわけないだろ! お前は一生腕なしだ!」と言い放ち、ウンピョに殴られる。

 まだ人間の優しさ、倫理を忘れていないウンピョは前中隊長の謎の死を、どんな状況であれ「殺人」とこだわるが、命令により殺人も正当化される戦争にあっては意味を持たず、真実は最後まで闇の中だ。一方で、明らかになった内通の一部始終。奪いまた奪われるを繰り返す塹壕内の収納庫で起きた「内通」というよりハプニング的「交流」には、「こんなことあり得る?」と戸惑いつつも、温かさとおかしさに少しほっとする。

 前作『義兄弟 SECRET REUNION』で、北朝鮮の工作員と韓国の国家情報員の奇妙な友情を描いたチャン・フンが、「スペクタクルを消費するための戦争映画は撮らない」「戦争で命を落とした人々を単なる感情的な装置としない」(プレスインタビューより)という意気込みで制作した『高地戦』は、高地での激烈な戦いと、朝鮮戦争完全停戦までの12時間の死闘というほとんど記録が残されていない戦いに説得力を持たせるべく、戦闘シーンでのヒューマニスティックな描写を極力避けリアリティに徹している。寄りと俯瞰を上手く使った険しい山岳地帯での銃撃シーンでは、戦いそのものをきちんと見せていて迫力がすさまじい。戦争の恐ろしさを伝えるのは、どれだけ真に迫って凄惨さを描写できるかなのだ。

 シン・ハギュンやリュ・スンスら定評のある演技派を揃えつつ、『ポエトリー アグネスの詩』で同級生への性暴行の加害者という難役をこなしたイ・デビッドがこの戦争を象徴する少年兵ソンシクを、そして本作で韓国映画評論家協会賞男子新人賞を獲得したイ・ジェフンが、想像を絶するトラウマを背負いひたすら戦い続けるイリョン大尉を熱演している。人民軍を率いるジョンユン中隊長(リュ・スンリョン)は、強いリーダーシップと懐の深い姿でどこか父親を彷彿とさせ、韓国軍に感情移入して見ていたはずなのに、討つべき敵のその気高さにほれぼれしてしまう。

 アクション担当のホン・イジョンが「軍隊にもう一度行ってきた感じがしたろう」(プレスインタビューより)と出演陣をいたわったロケでは、銃を構えながら急な山を登り、走り、這うための厳しい訓練が、主要人物だけでないキャスト全員に課せられたそうだ。コ・スはこの作品の撮影を「私自身の高地戦体験」(プレスインタビューより)と振り返ったが、役者たちが体を張ったことが作品に厚みを持たせた。

 兵営でのつかの間の憩いの時、ソンシクは当時の流行歌「戦線夜曲」(注)を歌う。きっと韓国軍にも人民軍にも、その心の奥底に響き渡っていたであろうこの曲。「泣ける」「感動する」なんて言葉を安易に寄せ付けない作品なのに、涙が止まらなかった。

(注)パク・チュンソクが作曲し、演歌歌手シン・セヨンが歌った戦時中の流行歌。朝鮮戦争停戦2年前の1951年に発表され、以後長年にわたり様々な有名歌手がカバーして歌い継がれてきた。


『高地戦』
 原題 高地戦/英題 The Front Line/韓国公開 2011年
 監督 チャン・フン 主演 シン・ハギュン、コ・ス、イ・ジェフン
 2012年10月27日(土)より、シネマート新宿、シネマート六本木ほかにてロードショー
 公式サイト http://www.kouchisen.com/

Reviewer's Note
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。イリョン大尉役のイ・ジェフンは、キム=チョ・グァンス監督の短編『ただの友達?』でゲイの青年ソクを可愛く演じていました。『高地戦』では一転、ハードなシーンもあるリーダー役を迫真の演技で熱演。自分と同世代のこれからが楽しみな俳優の登場に嬉しさを覚えたのですが、なんと今月25日に入隊とか。このシチュエーション、韓国映画ファンの宿命ですね…。


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Interview 『バラナシへ』 チョン・ギュファン監督

Interviewed by 井上康子
写真提供:映画祭実行委員会事務局
2012/10/10掲載



 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012で公式招待作品として日本初公開された芸術映画『バラナシへ』。同じアジアフォーカスで上映された『ダンシング・クイーン』と同様に中年の男女が主人公の作品だが、全く異なるタイプの作品で韓国映画の幅広さを感じる。ソウルで出版社を経営する男性とその妻、男性の愛人の作家、そして妻と恋に落ちるレバノン出身の青年が登場するメロドラマだが、青年がテロリストとしてバラナシに出向くところから、通常のメロドラマの想定をはるかに越えて、過激な終息へと突き進んでいく。

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ティーチインの模様(左:監督)

 チョン・ギュファン監督はインディーズ・アート系の監督で海外での評価が高く、本作はベルリン国際映画祭に招待されている。また、今回の来日直前に、新作『重さ/The Weight』でベネチア国際映画祭・クィア獅子賞(性的マイノリティを描いた優れた作品に与えられる賞)を受賞したばかりのまさに時の人である。受賞の話題に満面の笑みを浮かべる監督に話を伺った。


実験的メロドラマで宗教・人間の偽善を描く

── この作品はメロドラマで、これまでに撮ったタウン三部作(『モーツァルト・タウン』『アニマル・タウン』『ダンス・タウン』)とは異なるが、どのように構想を練ったのか?

タウン三部作は都市の社会的問題を描いたもので、本作はジャンル的挑戦、ジャンル的実験がしたくて撮ったメロドラマ。一般のメロドラマはすでにホ・ジノ監督のようなうまい監督がいるし、もともと私は一般的なメロドラマには興味がない。それで自分のスタイルで作った。インドのバラナシが出るし、過激派による爆弾テロがある。宗教の偽善や人間の偽善を描きたかった。登場人物のケリムの場合、アメリカの攻撃で家族を失ってレバノンから韓国にやって来たが、レバノンよりさらに貧しいバラナシで自爆テロを行い、貧しい人々を巻き込んで犠牲にしてしまう。本来、宗教はよいものだが、人間が解釈して行動するとおかしなことが起きてしまう。それを偽善という。ケリムはさらに主人公の妻と不倫関係に陥るがそれも偽善。自分の欲望を隠して理性的な面を見せるというのも偽善だ。

── 妻がバラナシへ行ってしまって、主人公は表面的には妻を心配しているものの不倫相手の作家の家に留まり、すぐにはバラナシへ行かなかったのが不可解だった。また、作家が生理用品をもてあましている様子は妊娠したい思いを秘めているようで印象に残るシーンだった。これらも偽善ということか?

そうだ。妻のことも思っているが肉体を他の女性のところに預けているのは偽善。作家が生理用品を見て、主人公のワイシャツを見るというシーンは、主人公を自分のものにしたいということを表現するためだ。他人の男性を得たい、子どもが欲しいという欲望を隠している。


影響を受けたのは小津・今村・黒澤、そして印象派の巨匠たち

── 暴力的なシーンもスタイリッシュであることが斬新に感じられたし、映像の美しさが秀逸。俳優チョ・ジェヒョンやソル・ギョングのマネジメントをしていたなど経歴が特異だが、映像や美術について学んだことは?

キム・ギドク監督、パク・チャヌク監督など優れた監督はいずれも映画についての専門教育を受けていないが私もそうだ。俳優たちのマネジメントをしている時にキム・ギドク監督やイ・チャンドン監督の撮影現場にいたが、彼らの作品と私の作品は作品の文法が異なるので影響を受けたとは言えない。むしろ、小津安二郎、今村昌平、黒澤明といった日本の監督たちから受けた影響が大きいし、小さい頃からよく絵を見て音楽を聞く方だったので、印象派のモネやルノアールの影響を受けている。ファッションにもすごく興味があり、作品の背景から小物まで自分でやっている。


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左:チェ・ミエ プロデューサー 右:監督(撮影:井上康子)


車を売って映画を作る

── これまで資金の捻出のために弟妹から譲られた車まで売り、低予算で苦労して制作していると聞いている。本作の場合はどうだったか?

最初の作品から数えて、これまでに車は6台売った。自分で車を買うと3ヶ月もしないうちに制作資金に変えてしまうので、もう買わないようにしている。通常は映画のスタッフは80から100名だが、私の場合は10人程度。撮影もチェ・ミエ プロデューサーが照明を行うなどして、助監督と撮影監督のあわせて4人でやっている。涙なしでは撮れない(笑)。韓国も日本も芸術映画は隅に追いやられている。映画祭に招待されて上映されることで良さを分かってもらいたい。


バラナシは生と死が共存する空間

── バラナシを舞台に選んだ理由は? 絵になることを重視したのか?

そうではなくて、バラナシは生と死が共存するところだからだ。川辺では火葬が行われ、その周りには世界中から観光客が来ていて、また実際にテロも起きている。


時間軸の交錯で不安や混乱を表現

── 時間軸がバラバラになっていることで、ある出来事と次に示される出来事の関係が強く感じられたし、鑑賞中ずっと緊張を強いられた。監督の意図は?

不安や混乱で多くの人がたくさんのストレスを受けていることを示そうとした。シナリオを書く段階で時間軸をどう交錯させて出来事を描くかは決定して書き込んだ。

── 撮影は時間軸に沿って順撮りしたのか? また撮影期間は?

撮影はある場所で撮るなら、そこでのシーンをすべて撮るというやり方で、およそ12日で撮りあげた。撮影はスムース。たいへんなのはお金(笑)。


全裸シーンも含めて、俳優に求めるのは自然な演技

── 俳優たちの演技がとても自然で素晴らしかった。俳優の方は短い期間で撮影を行うことに負担がなかったか? 女性の演技が特に自然で、そのためもあって妻が夫に女性の気配があることを悟って寂しさを感じていること、そして作家が愛人であるために子どもを産めないことを辛く感じていることのいずれにも共感できた。彼女たちの演技経験が資料で確認できなかったがどういう経歴か?

短い期間で撮るので、俳優はキャラクターをつかむのが大変だ。「撮影が終わる頃にキャラクターをつかめた」と俳優たちが話すのをよく聞く。けれど、海外の映画祭に行くと「俳優の演技が素晴らしい」と評価される。今回、主人公を演じたユン・ドンファンについて言うと、彼はシナリオを読んで「不倫をする男性なんだ」という程度の理解で撮影が始まり、私が考えるキャラクターと彼が考えるキャラクターも一致はしていなかった。彼は撮影が終わって映画を見て「こういうキャラクターだと分かった」と言っていた。私が俳優に求めるのは自然な演技。通常「良い演技だ!」という時は、演技だということを見せている状態でそれは私にとっては良い演技ではない。妻役の女優は演技経験がない人。劇団でデビュー準備中だったが、役のイメージに合ったのでスカウトした。彼女は「自信がない」と言ったが説得した。作家役は事務所に出入りしていた一般の人だ。


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レッドカーペットを歩くユン・ドンファン

── 作家役は全裸のシーンがあるが、一般人である彼女はスムースに出演依頼に応じたのか? ユン・ドンファンも全裸に抵抗はなかったのか?

大金を積んで何日も説得するようなことはできない。私は口がうまいので5分で説得している(笑)。「あなたがさらけ出すことをしてくれたら作品が完成できる」と自分の思いを正直に言う。ユン・ドンファンは「露出が多い」ということで以前断られたことがあるが、タウン三部作を見て彼の方から「やらせてくれ」と言ってきた。『重さ/The Weight』に出演したキム・ソンミンも最初は「できない」と言っていたが、自然な流れで応じてくれ、最後は「演技者として自由になれて意義深かった」と言っていた。


ベネチア受賞作『重さ/The Weight』

── 新作『重さ/The Weight』について見どころを紹介してほしい。

ジャンル的挑戦として撮った。ヴィクトル・ユーゴーの小説『ノートルダム・ド・パリ』を素材にしたファンタジーだがグロテスクな作品。他の人が撮るようなファンタジーではない。


 『バラナシへ』は、妻や作家と同年代の中年の女性観客から「彼女たちの気持ちがわかる」と多くの支持を得ていた。来年のアジアフォーカスでは、是非『重さ/The Weight』を持って再来福してほしい。


『バラナシへ』
 原題 バラナシ/英題 From Seoul To Varanasi/韓国劇場未公開
 監督 チョン・ギュファン 主演 ユン・ドンファン、チェ・ウォンジョン
 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012公式招待作品
  公式サイト http://www.focus-on-asia.com/


特集 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 Interview 『ダンシング・クイーン』 イ・ソックン監督
 Interview 『バラナシへ』 チョン・ギュファン監督


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Interview 『ダンシング・クイーン』 イ・ソックン監督

Interviewed by 井上康子
写真提供:映画祭実行委員会事務局
2012/10/10掲載



 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012の公式招待&オープニング作品『ダンシング・クイーン』は、今年韓国で400万人を動員したヒット作だ。中年夫婦が夢を追う姿を見せて希望を与えてくれ、ソウル市長選に出馬した夫の演説会、歌手としてデビューした妻の舞台と花のある見せ場が多く、オープニング作品として面目躍如たるものがあった。9月14日の野外でのオープニング上映時は、笑って泣いてと観客の反応が大変良く、一時小雨だったにもかかわらず退席する人が出なかったことからも、観客が作品に没頭していたことが実感できた。なお、その後も人気は上々で、映画祭で行われた観客投票で第2位になり、今年から設けられた熊本市賞(熊本市から都市連携の一環として提供される)を授与されている。

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オープニング上映で挨拶する監督

 イ・ソックン監督は物静かで、言葉を選びながらまじめに話をする方で、友人からつけられたあだ名は「公務員」だそうだ。監督が作品について、静かだが思いをこめて語ってくれた。


配役名もファン・ジョンミンとオム・ジョンファ

── 夫婦を演じたのは、アジアフォーカス2006で上映された『私の生涯で最も美しい一週間』でもカップルとして登場したファン・ジョンミンとオム・ジョンファで、実生活でも友達同士だという二人が息の合った演技を見せている。映画では異例のことだが、二人は俳優名のまま登場している。キャスティングできるとは決まっていなかったにもかかわらず、監督が脚本の段階から二人が演じることをイメージして執筆したためだと聞いた。監督が二人に寄せる思いの強さが伺えるが、二人をキャスティングした理由は何だったのだろうか。

ファン・ジョンミンは、純粋で田舎者のようなところがあるけれど、ある瞬間ものすごくカッコいい人で、最後にカリスマ性のある政治家の姿を見せてくれると思った。コミカルな演技とシリアスな演技の両方が必要で演技力に定評がある彼が適していた。政治家の姿になった時に「正しい価値観により正しい選択ができる人」というイメージを持っている人だとも思った。

オム・ジョンファは、完璧な歌手の姿を見せたかったので、実際に歌手であり、女優である彼女が良かった…、という以上に代わりができる人はいなかったといってよい。ファッション・アイコンとしての存在感があり、この作品で必要な普通の主婦の姿が表現できるか心配したが、映画『ベストセラー』の彼女の演技を見て、母親役もこなせる二つの面を併せ持った人だと思った。昨年、手術を受け、体調が万全でなかったので一部代役を立てようとしたが彼女とあまりにも差があり、カリスマ性をもった女優だと感心した。


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撮影:井上康子


民主主義への思い ~正しい価値観で正しい選択をする

── ジョンミンは1982年に釜山からソウルの小学校に転校しジョンファと出会う。この二人の出会いの場面では、教師による席決めにジョンファが「民主主義に反する」と抗議する。そして、10年後の再会の場面では、大学生になった二人は民主運動のデモに出くわし、鎮圧隊に対してギブアップのお手上げをするのだが、その行動が「民主主義万歳を叫んだ」と勘違いされ、マスコミから称賛を受ける。このように民主化に伴った犠牲の面を強調せず、コメディタッチで描いていることは新鮮で驚きだった。従来の政治家の姿を風刺を利かせて見せ、貧乏弁護士のジョンミンが新たな政治家になろうとする姿にも共感できた。

1982年の民主主義の高まりを描いたのは、子どもの視線から民主主義を描きたいという意図があった。コミカルな描き方のみになったのが少し残念。時間の都合でカットせざるを得なかったが、貧乏なジョンミン一家が狭い部屋にいて、誰かがオナラをしたのがジョンミンのせいになり、父親が「罪のない人を救うのが民主主義」というのを本当は入れたかった。民主主義に込めたのは、主人公が正しい意識を持っているという思いであって、(市長選が題材になっているが)政治的メッセージを強調しようとしたのではない。ジョンミンは貧しい家庭で育って劣等感を持っている人。そんな普通の市民であり、最初から正義を主張していた人ではなく、決意して正義を主張するようになる人。民主主義というのは、こういうルールであるという人と人との約束であって、いろいろな人の意見を平等に尊重し、正しい選択をしなくてはならないもの。正しい価値観をもって正しい選択をするという思いを民主主義に込めた。


女性が共感する作品 ~主婦の自己実現

── 歌手になりたい妻と市長になりたい夫の間で葛藤が生じ、市長選を前に、夫は妻に「家でおとなしくしていろ!」と言い放ったものの反省し、お互いの夢を尊重し合うという和解が行われる。監督の話では、夫が反省し妻の夢を尊重するということも監督の言った「正しい判断」であり「民主主義」に含められるようだ。さて、現在の韓国では、この映画のように妻が自己実現しようとすることは許容されるのだろうか?

夫婦の葛藤をどう描くかがポイントだった。シナリオの段階で一番悩んだのが、妻がダンス歌手になりたいということが市長選を控えた夫の政治的な致命傷になるかどうかだったが、現在の韓国社会では問題にならないと判断した。むしろ、妻が「歌手になりたい」と言っているのに、夫が反対したら、その夫は観客に受け入れられないと判断した。それで、妻が独身だと嘘をついて歌手活動をしている、さらにマネージャーとの不倫が噂されているという設定にし、そのような背景もあるから夫が「反対する」形にした。今年、韓国では主婦のための歌の勝ち抜きオーディション番組『スーパー・ディーバ2012』の放送が始まった。社会の動きが変わって来たと思うが、現実的には韓国も日本も、育児中の主婦が夢を追うのは難しい状況にある。女性が韓国社会で生きるのは大変で、番組に出る人も、勝ち抜きたいというより、自分のこれまでの話をして共感を得たいという思いを強く持っている。この映画祭でも、女性観客から「私もまた仕事をしようと頑張っている」という声が聞けた。女性たちがこのように共感してくれるのは嬉しい。


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家族で熊本市賞を受賞

 本作は、夫婦の愛を中心にし、家族愛も描いている。熊本市賞受賞時も夫人とお嬢さんと共に壇上に立ち、監督自身が家族を大切にしている姿を見せてくれた。


『ダンシング・クイーン』
 原題 ダンシング・クイーン/英題 Dancing Queen/韓国公開 2012年
 監督 イ・ソックン 主演 ファン・ジョンミン、オム・ジョンファ
 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012公式招待作品
  公式サイト http://www.focus-on-asia.com/
 2012大阪韓国映画週間(10/26~10/30@シネマート心斎橋)上映作
  公式サイト http://osaka.korean-culture.org/
 福岡×釜山 日韓シネマ・エクスチェンジプロジェクト第1弾として2012年12月8日(土)より、T・ジョイ博多にて2週間限定公開
  公式サイト http://www.t-joy.net/cinemaex/

特集 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 Interview 『ダンシング・クイーン』 イ・ソックン監督
 Interview 『バラナシへ』 チョン・ギュファン監督

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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012

Reported by 井上康子
写真提供:映画祭実行委員会事務局
2012/10/10掲載




変化するアジアの定点観測地


 国内最大級のアジア映画の祭典である「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012」(以下、アジアフォーカス)が、9月14日(金)~9月23日(日)、博多駅に直結するJR博多シティのT・ジョイ博多をメイン会場に開催された。22回目となる今年はアジア15の国と地域の新作・話題作37作品が上映された。

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 映画祭の梁木靖弘ディレクターの今年の一押しはインド映画『カハーニー』。従来の歌と踊りのマサラ・ムービーではなく、ヒッチコックのサスペンスを彷彿とさせる作品。その他、ホラーだがコミカルというところに新しさがあった『ねじきれ奇譚』(シンガポール/マレーシア)、ストーリーを示さず、街の人々をそのまま見せることで混沌としたフィリピンの現在を示した『アモク』などが目を引いた。アジアフォーカスは「変化するアジアの定点観測地」を自認する映画祭。そして、これらの作品はアジアフォーカスが捉えた「定点の変化」なのだと納得。新しさを持ち、大変刺激的だった。


新しい才能、アスガー・ファルハディの発見


 座席が常に満席に近く、人気の高さが伺えたのがイランの監督特集「アカデミー受賞監督 アスガー・ファルハディ全作上映」。昨年のアジアフォーカスで上映された同監督の『ナデルとシミン』(『別離』のタイトルで一般公開)は、ベルリン国際映画祭金熊賞、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。彼の作品『アバウト・エリ』(アジアフォーカス2009で上映後に『彼女が消えた浜辺』のタイトルで一般公開)を日本で最初に紹介したのがこの映画祭であり、緻密な心理劇を思わせるファルハディ作品は今や世界的に注目されるようになった。アジアフォーカスは開催目的のひとつである「映画界の新しい才能の発見と育成」という役割も十二分に果たしている。


「学ぶ映画祭」+「楽しむ映画祭」へ


 従来、「その土地、その時代の、より深いところから出る声」を持つ作品が厳選され、作品を通して「学ぶ映画祭」という色彩が強かったが、今年はアジアの今とエンターテイメントを「楽しむ映画祭」というコンセプトも加えられた。「楽しむ映画祭」の中身は、オープニング・セレモニーとしての初の野外レッドカーペット&上映、「特別招待韓国映画:お楽しみ韓流スター映画」と銘うったユン・シユン主演『Mr.Perfect』の英語字幕による上映、『INFINITE CONCERT SECOND INVASION EVOLUTION THE MOVIE 3D』の舞台挨拶付きプレミア上映などだ。いわゆる韓流スターの作品上映、アイドル登壇は初めてのこと。ちなみに、INFINITEのチケットは6分で売り切れ、チケットを手に入れることができなかった観客が劇場に多数来場し、韓国からのファンも詰めかけたそうだ。さらに話題の新作日本映画を紹介する企画も初登場。『終の信託』周防正行監督トーク、井筒和幸監督『黄金を抱いて翔べ』特別試写会があった。これらの新しい試みは多くの観客を集め、お祭りの華やかさと賑わいが添えられた。

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観客投票2位の熊本市賞を受賞した『ダンシング・クイーン』


韓国作品はバリエーション豊か


 公式招待作品『ダンシング・クイーン』『バラナシへ』、福岡フィルムコミッション支援作品『家門の栄光4:家門の受難』(大宰府などでロケ)、そして、前述の『Mr.Perfect』『INFINITE CONCERT SECOND INVASION EVOLUTION THE MOVIE 3D』の5作品が上映された。公式招待の2本はいずれも底力のある作品。『ダンシング・クイーン』が夫婦愛を描いた娯楽性の高い作品であるのに対し、『バラナシへ』は不倫を描いた過激なアートフィルムでまさに対照的な組み合わせになっている。このように全く違うタイプの作品を見比べられるのは映画祭ならではの大きな楽しみだ。観客が登場グループのファン中心ということで異色のINFINITE作品を除いてみても、『家門の栄光4:家門の受難』は第4弾まで続いている人気作、『Mr.Perfect』はドラマで人気が上昇したユン・シユン主演の青春ドラマと、今年はバリエーションが大変豊富だった。


「楽しむ映画祭」をきっかけに


 今年の観客投票で1位になった『BOL~声をあげる~』はパキスタンの社会的弱者を描いた問題作で、アジアフォーカスの観客の中心は、やはり重厚な作品を求める比較的年齢の高い層であろうことを思わせた。実際、会場でも若い人は少ないという印象がある。そのような状況の中で、今年から「楽しむ映画祭」もコンセプトに加わり、これまでアジアフォーカスを訪れなかった若い層を中心に一定のアピールができたようだ。福岡市民としての立場からいうと、日本各地から訪れる熱心な観客がいる反面、福岡市民であってもアジアフォーカスを知らない人が少なくない。福岡市民として誇れる映画祭であるのに残念だ。「楽しむ映画祭」がきっかけになり、さらに多くの人が訪れるようになって欲しい。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 期間:9月14日(金)~9月23日(日)
 会場:T・ジョイ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/


特集 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012
 Interview 『ダンシング・クイーン』 イ・ソックン監督
 Interview 『バラナシへ』 チョン・ギュファン監督


Reporter's Note
 井上康子。アジアフォーカスはプレスとして今年で10回目の参加になる。初の華やかなレッドカーペットでお祭り気分を堪能できた。地道な活動だが、アジアフォーカスは上映した作品を福岡市総合図書館映像ライブラリーに収蔵することにも力を入れている。また、目立たない企画であるが、視覚障害者が副音声解説で映画を楽しめる「バリアフリー上映会」を実施している点も評価したい。


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Report 福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2012

Reported by 井上康子
写真提供:FIDFF2012
2012/10/1掲載



福岡インディペンデント映画祭とは?


 福岡インディペンデント映画祭2012(以下、FIDFF)が、9月6日(木)から11日(火)まで福岡市内2会場で開催された。福岡市で毎年開催される「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」(以下、アジアフォーカス)の協賛企画であり、おおまかな区分であるが、アジアフォーカスがプロによる長編を上映するのに対して、若い作り手の育成や交流を目的としたFIDFFでは、若手作家の作品を上映している。2009年にスタートしたばかりの若い映画祭で、出品者の応募料金で運営費の一部をまかなうという運営スタイルを取っており、若手作家の「見てほしい」というニーズに応えている。

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 第1回FIDFF2009は、自主映画制作団体作品を中心に約60作品が福岡市総合図書館の会議室で上映され、関係者を含め約600人が来場するというスタートであった。第2回FIDFF2010は、コンペ部門が始まり、会場を福岡アジア美術館あじびホールに移し、99作品が上映され、来場者も1,000人を越えるようになった。昨年第3回は126作品が上映され、来場者は前年の2倍以上、2,000人を越えている。第4回にあたる本年は、入場者増に対応するため、あじびホールに加えリノベーションミュージアム冷泉荘ニコイチも会場になり、コンペ部門に応募された86作品など、約160作品が上映された。コンペ部門は単に作品の優劣を競うのでなく「応援」の意味をこめるという趣旨から賞が増やされ、犬童一心監督を招いてグランプリ作品の講評をするカフェトークも行われている。


釜山の映画団体・映画祭との連携の歴史


 FIDFFは海外の映画祭との連携・交流も目的にしている。スタート時より福岡の姉妹都市である釜山の映画祭の出品作品を欠かさず上映し、FIDFF上映作も釜山で上映するというように相互の連携を深めている。

 FIDFF代表を務める西谷郁(にしたに・かおる)氏は、アジア映画を専門とする研究者で、2005年からの釜山での調査結果をアジアフォーカス2006で「釜山国際映画祭の魅力とは?」と題して発表している。また、2007年にはアジアフォーカスの梁木靖弘ディレクターが釜山アジア短編映画祭(以下、BASFF)に審査員として招かれ、同年のアジアフォーカスではBASFFの作品が特別プログラムとして上映された。このような学術的交流・映画祭間の交流実績がFIDFFに引き継がれ、釜山の映画祭の作品上映が可能になっている。

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本年の韓国からのゲストたち 左端がキム・イソク釜山独立映画協会会長

 第1回FIDFF2009では、BASFFと「人材交流と作品の相互上映」を約したMOU(組織間の合意覚書)を締結して姉妹映画祭となり、BASFF特別協力により同映画祭の8作品が上映された。

 第2回FIDFF2010では、釜山国際短編映画祭(旧BASFFが名称変更/以下、BISFF)との共同制作プロジェクトにより、韓国の女優を招き日本のスタッフにより制作した『ダイエットのうた』(橘剛史監督、YouTubeで鑑賞可)が上映され、その経緯がカフェトーク「釜山と福岡の映画交流 ~作品の交換上映から共同制作へ~」で語られた。また、「BISFF&Indi Busanセレクション」としてBISFFとメイド・イン釜山独立映画祭の7作品が上映された。なお、この年のBISFFでは第1回FIDFF2009の6作品が上映されている。

 第3回FIDFF2011では、釜山独立映画協会(通称、Indi Busan)と「人材交流と作品の相互上映」、同協会が運営するメイド・イン釜山独立映画祭(以下、MIB)と「姉妹映画祭になる」旨のMOUが締結され、MIBの作品を中心に長編作品を含む6作品が上映され、来日ゲストによる「映画制作がつなぐ釜山と福岡」「日本と韓国のインディペンデント映画」をテーマにしたカフェトークが行われた。また、この年からFIDFF作品もMIBで上映されるようになっている。

 第4回となる今年は、昨年MIB作品として上映された『Stray Cats』(アジアフォーカス2011でも特別上映)のミン・ビョンウ監督が来日時に九州で撮った、まさに映画祭同士の連携の結実といえる作品『Time Traveler』がオープニング作品として上映されたのをはじめ、「MIB優秀作品集」として『Beautiful Miss JIN』『Grandma』『Kids On Board』の3作品が上映され、MIB作品の監督・プロデューサーが制作状況を語るカフェトークが行われた。また、BISFFが制作支援を行い、釜山の大学生が制作した短編5作品が「BISFF PROJECT オペレーションキノ」として上映された。なお、FIDFF作品は今年のBISFFですでに上映され、11月に開催されるMIBでも昨年同様上映される予定である。


FIDFF2012上映作 ~カフェトークの内容を交えて


 今年、上映された作品のうち、オープニング作品『Time Traveler』、コンペティション作品『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』について、また、カフェトークで監督たちの話を聞くことができたMIB作品『Beautiful Miss JIN』『Grandma』についてはゲストの話も交えて紹介する。


『Time Traveler』
 原題 時間旅行者/英題 Time Traveler/2012年/10分15秒
 監督 MIN Byung-woo(ミン・ビョンウ)

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『Time Traveler』(写真提供:FIDFF2012)

 昨年上映されたミン・ビョンウ監督の『Stray Cats』は恋人に去られたばかりの男性の話だったが、この『Time Traveler』は、その男性が九州を旅しながら気持ちを整理していくというもので、続編のような話になっている。『Stray Cats』は男性と彼の部屋に上がり込んだ野良猫との交流を、猫のかわいいしぐさを盛り込んで微笑ましく描いた作品であったのに対し、本作は男性の孤独感をそのまま表現していて異なる味わいがある。九州、特に福岡の方は見慣れた街並みを異邦人の視線で見ることができる。『Stray Cats』(英語字幕付)『Time Traveler』(字幕なし)はYouTubeで鑑賞可能だ。


『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』
 英題 Aigo!~My natinonality is in heaven~/2011年/28分5秒
 監督 Lee Dalya(李達也)

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『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』李達也監督

 国籍をめぐる在日2世の父と3世の娘・息子との葛藤を描いた作品。父の世代が自分のアイデンティティと国籍をセットで考えるのに対して、若い世代はキャリアや生活上の便宜から国籍を変更せざるを得ず、それだけに国籍というものをクールにとらえる傾向が強まっているようだ。子どもたちのためにグランドを広げようと2世の父たちが休日は開墾を行ったというような朝鮮学校運営にまつわる苦労話も聞くことができる。


『Beautiful Miss JIN』
 原題 ミス・ジンは美しい/英題 Beautiful Miss JIN/2011年/98分
 監督 JANG Hee-chul(チャン・ヒチョル)

 釜山の東莱駅の待合室をねぐらにしているホームレスの女性、ミス・ジンが主人公。いずれも家族を持たない、捨て子の少女、ホームレスの男性、駅職員の男性が、心の美しいミス・ジンを核にして家族のような関係を築き、それを支えに次の一歩へと踏み出していく。ミス・ジンはホームレスだが、いつもこざっぱりとおしゃれ。自他のトラブルを知恵とユーモアで解決してしまうので、彼女を追い出そうとしている駅長でさえ彼女に魅了されてしまう。実世界とは立場が逆転し、定職に就いている駅の職員たちの方がホームレスの自由さを羨むようになるのを見ると、この作品は大人のための良きファンタジーだと思える。

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カフェトークの模様 左からキム・イソク氏、チャン・ヒチョル監督、ペ・ソヒョン氏、キム・ジゴン監督

 釜山の郊外や海辺を舞台に、釜山なまりが使われていることで、どこか懐かしく感じる温かい作品に仕上がっているが、FIDFF代表の西谷氏とゲストのキム・イソク釜山独立映画協会会長から、釜山ロケ・釜山方言の映画を作ることは「商業的に成功することが難しく、勇気がいることだ」という称賛の声があがった。昨年、MIBで上映される前に釜山国際映画祭でも上映された、いわば作品として一定の評価を受けたプロの作品であるが、ゲストのチャン・ヒチョル監督とペ・ソヒョン プロデューサーからは、厳しい条件の中で制作されたことが具体的に語られた。釜山フィルムコミッションから資金援助を受け、監督の自己資金も使い、さらに「機材もコストをかけないように準備し」「夜のシーンはお金がかかるのでなるべく昼のシーンに設定」するといった工夫を行った。プロデューサーが、駅での撮影は手数料が高い、雪のシーンの撮影がなかなかできないなどで、「監督ともめたこともあり、今は仲良く並んでいるけど、その時は殺してやりたかったくらい(笑)」大変だったが、俳優やスタッフも監督の人脈からほとんど無報酬で参加してくれ、「お金の力でなく、監督の努力と人脈でこの映画を作ることができた」と熱く語ったのが印象に残る。


『Grandma』
 原題 おばあさん/英題 Grandma/2011年/53分/ドキュメンタリー
 監督 Kim Ji Gon(キム・ジゴン)

 キム・ジゴン監督によると、制作のきっかけはスタッフたちが釜山の再開発予定地を歩いていて、おばあちゃんたちが酒盛りで路地を塞いでいるために通れなかったことだという。おばあちゃんたちがマッコリをくれて「撮ってくれ」と言うので撮影が始まった。写されているのは、おばあちゃん同志のにぎやかなおしゃべりと映画スタッフとおばあちゃんたちの交流。おばあちゃんたちにまじって鍋からラーメンをおいしそうに食べているのは助監督たちで、撮影する側もされる側も至って自然体。おばあちゃんたちは李明博大統領の悪口をこれでもかと言い放ち、にぎやかに歌って踊りと大変エネルギッシュだ。監督は立ち退き直前にゴキブリが出た時に、おばあちゃんが「私は引っ越すし、この家は取り壊されるけど、ゴキブリも生きていかないといけない」と言ったことなど「おばあちゃんたちと話していて何度も感動することがあった」と語ったが、作品中の何気ないやりとりからもおばあちゃんたちへの敬意が感じられる。

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『Grandma』ティーチインでの西谷氏(左)と監督(右)

 制作資金は「近所のレンタルDVD屋のおじさんが100万ウォン、私の作品を評価してくれている監督が100万ウォンなど、カンパの合計1,200万ウォン」をあてたが、「ドキュメンタリーについては釜山独自の支援がなくて苦労している」という。キム・イソク氏からは「おばあちゃんが李明博大統領の悪口を言っていたが、彼はそういう批判を怖れて、映画への支援を削減しようと動いている」と説明があり、最後に同氏の「映画の支援策を作っていかなくてはならないが、並行して自分が作りたい映画を自由に作ることをがんばらないといけない」という力強い決意の言葉でトークは締めくくられた。


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ゲスト、審査員、コンペ部門監督が一堂に会して記念写真



福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2012
 会期:9月6日(木)~9月11日(火)
 会場:福岡アジア美術館・8Fあじびホール、冷泉荘・B棟1階ニコイチ
 料金:500円(6日間フリーパス)
 公式サイト http://www.fidff.com/


Reporter's Note
 井上康子。FIDFFには第1回から参加しており、映画祭がどんどん発展していくのを頼もしく見ている。来年も若い作り手の力のこもった斬新な作品を多くの人に見てほしい。『Beautiful Miss JIN』『Grandma』は釜山が大好きなこともあり、とても好きな作品になった。


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