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News 速報! 9月の福岡は韓国映画天国 ~アジアフォーカス・福岡国際映画祭、福岡インディペンデント映画祭、東アジア映画フェスティバル~

Reported by 井上康子
2012/7/26掲載



はじめに


 福岡では9月にアジアフォーカス・福岡国際映画祭、そして、アジアフォーカスの協賛企画として福岡インディペンデント映画祭、東アジア映画フェスティバルなどが開催されます。9月の福岡はまさに韓国映画天国です。

 7月26日(木)にアジアフォーカス・福岡国際映画祭の記者発表会が開催されましたので、各映画祭の上映作品などをご紹介します。



アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012


 会期(一般上映):9月15日(土)~9月23日(日)
 会場:JR博多シティ内 T・ジョイ博多(福岡市博多区)
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

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 9月14日(金)のオープニングセレモニー&野外上映で幕を開けるアジアフォーカス・福岡国際映画祭の上映作品が発表されました。今年は、公式招待作品としてインディーズ・アート作品で国内外の映画祭で注目されている『バラナシへ』と、娯楽性が高く大ヒットした『ダンシング・クイーン』という対照的な2作品が日本初公開されます。両作品ともご覧になれば、韓国映画の幅広さを感じられることでしょう。毎年、監督を中心にゲストが来日し、上映後にティーチインが行われるのも映画祭ならではのお楽しみです。


『バラナシへ』
 原題 バラナシ/英題 From Seoul To Varanasi/韓国劇場未公開
 監督 チョン・ギュファン 主演 ユン・ドンファン、チェ・ウォンジョン

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『バラナシへ』(写真提供:映画祭実行委員会事務局)

 2008年の東京国際映画祭「アジアの風」部門でデビュー作『モーツァルトの街(原題 モーツァルト・タウン)』が上映されたチョン・ギュファン監督の4作目の映画です。チョン監督は『モーツァルトの街』(2008年)に続いて、2009年に『アニマル・タウン』、2010年に『ダンス・タウン』と、「タウン三部作」と呼ばれる作品を作り、世界中の映画祭から注目されるようになったインディーズ・アート監督です。前作『ダンス・タウン』と『バラナシへ』は、いずれもベルリン国際映画祭から招待され、釜山国際映画祭でも上映されています。2007年からアジアフォーカスのディレクターになった梁木靖弘氏はインディーズ・アート作品の紹介に力を入れていますので、この作品の選択には納得です。

 「タウン三部作」では、異邦人として外国に暮らす人、小児性愛者、脱北した女性を登場させ、都会に住む人の孤独を描いています。チョン監督は「タウン三部作」について「人物を通して都市を描こうとしました」「都市にはさまざまな姿がありますが、私は“寂しさや傷”を選択したのです」と述べ、都市の暗部を描くという自身のスタイルを強調しています。シネコンに席巻されている韓国内ではチョン監督の作品は限定的な上映しか行われておらず、弟妹が譲ってくれた車を売却し、友人や韓国映画振興委員会(KOFIC)から資金援助を受けるなど、厳しい状況で製作を続けています。

 『バラナシへ』は、ソウルで出版社を経営する男性とその妻、男性の愛人である女性作家、そして妻と恋に落ちるアラブからの出稼ぎ男性を登場させ、チョン監督が新しい試みとして作ったメロドラマです。彼らがなぜ孤独なのかといった背景は詳しく説明されませんが、彼らがそれぞれ一人でいる様をアップでとらえたシーンは、スタイリッシュな映像で彼らの寂寥感がゆらゆらと立ち上ってくるような迫力があり、一見の価値ありです。男性と愛人を中心にセックス・シーンが多いのですが、俳優たちの持っている品の良さが肉体からにじみ出ていて、肉体の絡みも儀式のような安定した所作としての美しさがあります。アラブ人男性がインドの聖地バラナシに行ってしまったために妻が後を追うという形で舞台はバラナシに移っていき、ドラマは大きな展開を迎えます。


『ダンシング・クイーン』
 原題 ダンシング・クイーン/英題 Dancing Queen/韓国公開 2012年
 監督 イ・ソックン 主演 ファン・ジョンミン、オム・ジョンファ

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『ダンシング・クイーン』(写真提供:映画祭実行委員会事務局)

 人気と実力を兼ね備えた俳優二人、ファン・ジョンミンとオム・ジョンファを主演にキャスティングし、今年1月に韓国公開されたばかりの大ヒット作です。歌手としてデビューすることを夫に内緒で目標にしていたオム・ジョンファ演じる妻に、ついにチャンスが訪れるのですが、ファン・ジョンミン演じる夫の方もソウル市長候補になってしまい、妻は貞淑な市長候補の妻と、セクシーな歌手としての綱渡りのような二重生活を余儀なくされるというコメディ。オム・ジョンファとファン・ジョンミンのカップルと聞いた時に私がまず思い出したのはアジアフォーカスで2006年に上映された『私の生涯で最も美しい一週間』で、二人が気の強い女医と堅物刑事のカップルとして芸達者な俳優の掛け合いのおもしろさを堪能させてくれたことです。本作も二人の掛け合いのおもしろさが楽しめる作品になっていることでしょう。『ダンシング・クイーン』はイ・ソックン監督の第3作ですが、イ監督はこれまでの『放課後の屋上』(福岡アジア映画祭2006上映作)、『二つの顔の猟奇的な彼女』で、平凡な主人公が突拍子もない出来事に巻き込まれて右往左往する様をほのぼのとコミカルに描いており、その冴えた演出には定評があります。

※ この他、アジアフォーカス・福岡国際映画祭2012では「福岡フィルムコミッション支援作品」として『家門の栄光4:家門の受難』が上映されます。



福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2012


 会期:9月6日(木)~9月11日(火)
 会場:福岡アジア美術館・8Fあじびホール、冷泉荘・B棟1階ニコイチ
 料金:500円(6日間フリーパス)
 公式サイト http://www.fidff.com/

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 9月6日(木)から開催される福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)では、昨年『Stray Cats』で来福したミン・ビョンウ監督が日本滞在中に九州で撮影した『Time Traveler』、釜山国際映画祭で上映されたチャン・ヒチョル監督の『Beautiful Miss JIN』をはじめ、韓国の短編作品やドキュメンタリーが上映される予定です。また、韓国からゲストを招いてのカフェトークも計画されています。

 ミン監督やチャン監督のように、既に一定の実績がある監督の作品だけでなく、映画を勉強している学生など若い作り手が自由な発想で作った勢いのある作品を観ることができるのもこの映画祭の大きな特長です。ニューシネマワークショップの卒業作品として制作され、今回コンペティション部門で上映される『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』は、在日3世の主人公と家族が国籍選択に絡む葛藤を描いた注目作です。


『Time Traveler』
 原題 時間旅行者/英題 Time Traveler/2012年/10分15秒
 監督 MIN Byung-woo(ミン・ビョンウ)

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『Time Traveler』(写真提供:FIDFF2012)

 ミン監督の昨年の招待作品『Stray Cats』は大好きな作品で(「福岡インディペンデント映画祭2011リポート」参照)、『きみはペット』のミン監督による脚色も良かったので、新作を見ることができる! しかも、監督が昨年ゲストで福岡に来た時に、福岡・阿蘇・別府などで、iPhone 4s を使って撮影した短編と伺い、早く観たいと期待しています。ストーリーは恋人と別れた傷心の男性が日本に来て、旅行しながら気持ちを整理していくというもの。主役を演じているのは『Stray Cats』で主人公を演じ、監督と共に来日していたイム・ソンジンです。大阪アジアン映画祭で来阪したゲストが現地で撮った『大阪のうさぎたち』の福岡版のような作品とも言えそうです。

監督のメッセージ
 この短編は、2011年に『Stray Cats』という作品でFIDFFにご招待いただいた際、九州を旅しながら作った映画です。もしFIDFFに招待されていなければ存在していない映画です。私も主役のイム・ソンジンと一緒に九州を旅しながら、美しい風景に意味をつけ、それを結び合わせながらストーリーを編み出しました。




2011年上映作『Stray Cats』(英語字幕付)



『Beautiful Miss JIN』
 原題 ミス・ジンは美しい/英題 Beautiful Miss JIN/2011年/98分
 監督 JANG Hee-chul(チャン・ヒチョル)

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『Beautiful Miss JIN』(写真提供:FIDFF2012)

 チャン監督は2003年に韓国で公開されたホン・ギソン監督の『選択』で助監督を務め、その後、テレビのドキュメンタリー番組の監督を務めた経験があり、本作は釜山フィルムコミッションの資金援助を受け、昨年のメイド・イン・釜山独立映画祭、釜山国際映画祭で上映されています。容貌は美しいとはいえないけれど、心の美しいミス・ジンを主人公にしたドラマで、釜山の東莱駅を舞台に、ホームレスの彼女と同じくホームレスの少女、アルコール中毒者が疑似家族のように暮らし、東莱駅の職員とも交流していくというストーリー。監督は、厳しい状況に置かれた人、社会的弱者の問題に特別な関心をもっているようで、本作は「ホームレスの主人公たちを悲劇的に描くのではなく、時にコミカルに共感をもって描いている」と評されています。


『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』
 英題 Aigo!~My natinonality is in heaven~/2011年/28分5秒
 監督 Lee Dalya(李達也)

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『アイゴ~! ~わが国籍は天にあり~』(写真提供:FIDFF2012)

 在日2世の父と3世の娘・息子が、日本・朝鮮・韓国、いずれの国籍を選ぶかを描いた家族劇。監督は朝鮮大学校を卒業しており、監督自身が在日3世と思われます。息子が「核とかミサイルとか物騒なものから離れたい」と朝鮮から韓国への国籍変更を言い出せば、娘は「お付き合いしている人がいる」と日本人との結婚話を持ち出します。激高した父は息子に「お祖母さんや叔母さんは平壌にいるんだぞ!」、娘に「わしらから言葉と名前を奪った日本人に魂を売るのか!」と言って怒鳴りつけます。同じ家族であっても、立場が異なれば選択基準が異なり、そうなれば選ぶ国籍が異なり、家族間に大きな葛藤が生まれます。メキシコ国際映画祭2012でBronze Palm Awards(銅賞)を受賞したほか、韓国では大田独立映画祭2011で優秀作品賞を受賞し、今年4月にはCMB大田放送でテレビ放送されるなど、注目を集めている作品です。



東アジア映画フェスティバル2012


 会期:9月20日(木)~9月25日(火)
 会場:福岡アジア美術館・8Fあじびホール
 料金:前売 1,000円/当日 1,200円 ※ アジアフォーカス・福岡国際映画祭のチケット使用可。
 主催:アジアの心実行委員会 TEL 092-691-8824

 福岡では一昨年から、この東アジア映画フェスティバルで「真!韓国映画祭」作品が上映されています。今年も真!韓国映画祭2012上映作・全13作品の中から『もう少しだけ近くに』『怪しい隣人たち』『2階の悪党』『ロマンチックヘブン』の4作品が上映されることになりました。

 アジアフォーカスとの絡みでいえば、「真!韓国映画祭2012」作品『視線の向こうに』が上映されないのは残念でした。『視線の向こうに』は韓国の国家人権委員会の製作による人権映画第5弾で、5人の監督によるオムニバスですが、その中の一本、フィリピンからの出稼ぎ労働者を主人公にした『バナナ・シェイク』は、昨年のアジアフォーカスで『Bleak Night(原題)』が上映されたユン・ソンヒョン監督作。福岡でも彼の新作を見たい観客は多かったのではないかと思います。



Reporter's Note
 井上康子。福岡市在住。2003年からアジアフォーカス・福岡国際映画祭のリポートを書かせていただいているので、早いもので今年で10年になります。福岡インディペンデント映画祭については昨年初めてリポートさせてもらいましたが、こちらも続けて紹介していきたいと思っています。どちらの映画祭もスタッフの方々が熱意をもっていて、規模が程良いためにゲストと観客が交流し易い、とても温かみのある映画祭です。9月は是非福岡にお越し下さい。


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Film & Book Review 『トガニ 幼き瞳の告発』

Text by 井上康子
2012/7/17掲載



 光州にある聴覚障害支援学校で2000年から2005年にかけて教職員らが8人以上の生徒に性的虐待を繰り返していた実際の事件が題材。内部告発によって事件が明らかにされたものの、加害校長らは極めて軽い判決を受けたに留まり、執行猶予であった教員が復職するという異常な事態までが放置されていた。

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 執行猶予の判決を法廷で知らされた聴覚障害者たちが声にならない叫びを上げたことを伝えた短い新聞記事を読んだ作家・孔枝泳(コン・ジヨン)は衝撃を受け、この事件を元にした小説を書き上げる。文字通り、声を上げて訴えることができない聴覚障害者は社会的に最弱者であるのに司法の場でも見捨てられるということが社会派小説家と呼ばれる彼女には見過ごせないことだったに違いない。

   「なぜ、学校の中で常習的に行われていた性的虐待が見過ごされて来たのか」

   「なぜ、加害者らは極めて軽い判決を受けるに留まったのか」

が明らかにされる中で見えてくるのは、学校内部で経営者一族である校長たちが一般の教員たちを支配していること、古くからの地縁・血縁に基づき、教育者・牧師・警察・司法と社会の支配層が利害関係ゆえに癒着した関係を持っていることである。虐待を受けた障害児たちの助けを求める訴えは黙殺され虐待が繰り返される。救済されるべき司法の場でも執拗に追い詰められる。さらに残酷なことに加害校長らが被害児の保護者たちに高額な示談金を提示し、極度の貧しさから保護者たちが拒否しきれずに示談に応じてしまったため、裁判は継続できなくなる。

 ファン・ドンヒョク監督(『マイ・ファーザー』)による映画も原作同様に「なぜ、弱者は見捨てられるのか」というテーマを持っている。原作と映画で異なるのは、原作は主人公の教師イノと彼を助ける人権活動家ユジンの経歴を1970年代後半までさかのぼって描いているのに対し、映画では経歴を省略している点である。原作が支配層の問題を主人公たちを通して軍事独裁政権下から続く歴史的な問題として表わそうとしているのに対し、映画は主人公たちの役割を被害児を擁護する立場に留め、今ここにいる被害児たちの虐待を受ける恐怖や裁判でも救済されないことの痛みを観客に伝えることを重視している。

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 原作では、ユジンは軍事独裁政権下で民主活動家だった父親を拷問によって惨殺された経歴を持っており、「わたしは、ただ自分が変えられないようにするために戦っているんです」と彼女が語る言葉は、父親のように「拷問によって思想の転向を迫られることがないように」、被害児の保護者のように「貧しさからプライドを捨てて示談に追い込まれることがないように」という著者自身の強いメッセージとして胸に染みてくる。また、イノは被害児を擁護したために過去の教え子との性的関係を暴かれ町を離れるように追い込まれてしまうのだが、支配層に対置すれば彼も被害児同様に弱者であることを描いて問題をさらに掘り下げており、著者の描写の巧みさに感動する。

 映画は映像と音声の力で、被害児たちの痛み・恐怖・不安、それに喜びをそのままに示して観客の共感を誘う。聴覚障害があっても特定の周波数の音だけは聞くことができるために「校長室から流れる歌手チョ・ソンモの歌を聞いた」と証言した被害児は、立証のために法廷で歌を聞かされることになる。自分の役割を果たさなくてはならないという緊張感でこわばった表情の彼女が果たして歌を聞き取ることができるのかとハラハラして観客は彼女を見守ることになる。緊迫感の中で彼女の背後から流された歌は『いばら(カシナム)』で、被害児にとってまさに「いばら」であった虐待を強くイメージさせる歌である。「聞こえる」と挙手する少女はチョ・ソンモの哀しい祈りのような歌声によって荘厳さを帯び、強くカタルシスを感じさせる見せ場になっている。

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 主人公と被害児たちが食堂でチャジャンミョンを食べるシーンがある。知的障害もある少女がみんなで食べるという楽しさからニッコリほほ笑むと、改めて「こんなに無垢な少女が虐待され見捨てられることは許されない」という思いがわき上がり、映像が感性に訴える力を強く持っていることを実感させられる。韓国では小説も反響を呼んだが、映画はそれ以上に大ヒットし、映画を観た人々の反響の大きさから事件の学校は廃校に追い込まれ、子どもへの性的虐待を処罰する改正法が「トガニ法」として成立する。この映画の力の大きさを示すものである。


『トガニ 幼き瞳の告発』
 原題 トガニ(るつぼ)/英題 Silenced/韓国公開 2011年
 監督 ファン・ドンヒョク 主演 コン・ユ、チョン・ユミ
 2012年8月4日(土)より、シネマライズ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
 公式サイト http://dogani.jp/


Reviewer's Note
 井上康子。福岡市在住。1980年代にNHK教育TV「アジア映画劇場」(佐藤忠男解説)でアン・ソンギ主演『風吹く良き日』を観て以来の韓国映画ファン。孔枝泳の小説も好きで、日本語に翻訳された作品が少ないのを残念に思っています(映画化され邦訳も出版された作品に『サイの角のように1人で行け』『私たちの幸せな時間』がある)。今回は待ち望んでいた小説版『トガニ 幼き瞳の告発』(新潮社、蓮池薫訳)と映画を併せて楽しみ、さらにお伝えする機会をいただいて、私にとって至福の時間になりました。





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Review 『ムサン日記~白い犬』

Text by Kachi
2012/7/17掲載



 北朝鮮と中国の国境近くにあるムサン(茂山)から韓国へやって来た青年スンチョル(パク・ジョンボム)は、北にいた時と同じおかっぱ頭にボロい服を着ている。住民登録番号125から始まる脱北者の彼を雇う職場はほとんどなく、ポスター貼りをしてはいるが現場では安い賃金でこき使われ、なじられ、しまいには別のポスター貼りの連中とのなわ張り争いで暴力を振るわれる。熱心に教会に通い、自宅のラジカセで賛美歌を流して聖書を読むスンチョルの憧れは聖歌隊にいるスギョン(カン・ウンジン)。もちろん彼女を遠くから見つめたり、後をつけたりするだけだ。せっかく彼女の父が経営するカラオケ店で働けることになるのに、ろくに話しかけることもできない。

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 暮らしがよくなると思って北から逃れてきたのに、スンチョルは身も心もすり減るばかり。必死に神に祈っても変わることはない。そんな日々を、背中を丸めて暴力に耐える時と同じように、ただじっと我慢するスンチョル。それは、生まれた時の姿をそのまま固持し続けているかのようだ。

 愚直なまでに純粋さを守って生きるスンチョルに胸苦しさを覚えるが、南のチンド犬(珍島犬)と北のプンサン犬(豊山犬)のミックス、白い犬ペックの登場には救われる思いがする。ダウンジャケットの破れ目にガムテープを貼って着るスンチョルが、愛犬ペックには拾ったその日から可愛らしい赤い服を着せたりする“親バカ”ぶりがほほえましい。ペックとスンチョルがたわむれるシーンに差す陽光は実に暖かいのだ。韓国にも北朝鮮にも居場所のないスンチョルは、南北のミックス犬にそんな自分を投影し、それでも白いまま生きるペックをよりどころにしていたのだ。

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 他の登場人物たちは、ペックの白さが象徴する、見ていて歯がゆくなるほどのスンチョルの純粋さとは対照的に描かれている。ひそかに想っていたスギョンは、店に呼ぶホステスに対する差別意識と、“神様に恥ずかしい”職業を父から引き継いだ負い目とが、ないまぜになった複雑な気持ちを抱えている。最も印象的なキャラクターは脱北仲間で一緒に住む世渡り上手のギョンチョル(チン・ヨンウク)だ。万引きしてきた服をスンチョルに着させるほど、よくも悪くも堂々としている彼は、実際の脱北者の一部がそうであるように危ない仕事に手を染め、スンチョルにとがめられている。スギョンもギョンチョルも、それぞれ生きるためのうす汚れた道を仕方なく歩んでいる。程度の差はあれどそんな二人に共感する人もいるだろう。

 やがて転機が訪れる。ある事件が起き、窮地に立ったギョンチョルに助けを求められたスンチョルは「もうお前とは最後だ」と言って彼の頼みを引き受ける。しかしスンチョルは約束を破ってしまう。息の詰まる暮らしからもう一度抜け出すために、初めて他人を裏切って得た大金で髪を切り、背広に身を包んだスンチョル。聖歌隊に入ってスギョンと賛美歌を歌う彼にはささやかながらも幸せが待っているはずだった…。

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 純粋な自分を捨てて新たに生き始めたスンチョルを待っていた残酷過ぎる結末。スンチョルの丸い背中がじっと映し出され、歩き出したところでエンドロールになる。彼は失われてしまった純粋さにもう手を伸ばさず、丸い背中に絶望感を負ったままおぼつかない一歩を踏み出す。純粋なまま生きたかったのに、それが出来なかったスンチョル。しかし「それでも生きるんだ」と背中を押したようなラストシーンで本作は暗い印象だけにならず幕を閉じるのだ。

 製作から脚本・監督・主演までを務めたパク・ジョンボムが、脱北者だった亡き親友をモデルにしている点は大きい。「亡くなる頃、そばにいてあげられなくて寂しい思いをさせてしまったことが、ずっと心に引っかかっていた」とは監督の弁。パク監督の個人的な思いを強く反映しつつも、私的な世界に止まらず、人間が生きていくことの清さと濁りを肯定したことで、大きな共感を呼ぶ作品となっている。

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『ムサン日記~白い犬』
 原題 ムサン日記/英題 The Journals Of Musan/韓国公開 2011年
 監督 パク・ジョンボム 主演 パク・ジョンボム、チン・ヨンウク
 名古屋シネマテーク、京都シネマなどで上映中、全国順次ロードショー予定
 公式サイト http://musan-nikki.com/

Reviewer's Note
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。『ムサン日記~白い犬』と同じく脱北者を描いた『クロッシング』にも犬が登場し、名前も「ペック」(漢字で「白狗」。日本で言うところの「シロ」)です。犬が人間の良きパートナーなのは世界共通のようですが、両作品で「ペック」はとても重要な役割を果たしています。ところで、今夏公開の『プンサンケ 豊山犬』の主人公の名はそのものずばり「プンサンケ」。さて「プンサンケ」とは?


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Report ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2012 ~ショートフィルムは人生の核~

Reported by Kachi
2012/7/12掲載



はじめに


 今年で14回目を数える「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」が、6月14日から6月30日まで開催された。

 「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」は、世界的に注目度の高い「短編映画」というジャンルを日本に紹介するために、米国俳優協会会員で俳優の別所哲也氏が1999年に創設した映画祭だ。「アメリカン・ショート・ショート フィルムフェスティバル」という名称でスタートし、2002年に「ショートショートフィルムフェスティバル(SSFF)」に改称。2004年に米国アカデミー賞公認映画祭に認定され、本映画祭からアカデミー賞短編部門で受賞作が誕生する可能性もでてきた。また、同年、日本を含むアジア諸国の作品を紹介する「ショートショートフィルムフェスティバルアジア(SSFFASIA)」を設立。2006年からはSSFFとSSFFASIAを同時開催するようになり、名称も「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(以下、SSFF&ASIA)」となる。

 韓国からも毎年のように優れた短編作品がノミネートされているが、本年は、オープニングセレモニー、アジア&ジャパン部門、旅シヨーット!プロジェクト、ミュージックShort部門、韓国トラベルショートなどの部門で計14作品が上映された。そのうちの9作品をご紹介する。



6/14 チャン・グンソク監督『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』


 6/14に開かれたオープニングセレモニーでは、特別賞を受賞したチャン・グンソクの『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』が特別上映された。漢陽大学在学中に自ら脚本・監督・編集・主演を務めた一作で、本人は来日できなかったが、代わりにビデオレターが公開された。このショートフィルムを撮ったきっかけは、校内の映画祭ポスターを見たこと。先輩たちと「お酒を飲むお金が欲しくて」撮影し始めたが、だんだん楽しくなり最後の編集は13時間もかけてこだわって作ったという。

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『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』

 映画は、変装した男が街中に登場する場面で始まる。マスク、サングラス、ウインドブレーカーを次々に外すと、そこには真っ赤なスーツ姿のチャン・グンソク。歓声やシャッター音で辺りは騒然となるが、当の本人は眼もくれずに堂々と歩いていく。地下鉄でも彼は大人気。しかし、そこでモノローグが入る。

   「最初はよかった」

   「気づくと閉鎖的な世界にいた」

 華々しい世界の中で彼は孤独を抱えていたのだった。ショーウィンドウに映った自分に「ガラスに映る俺は本物の俺?」と問いかけるグンソク。ちやほやされるうちに自分が孤立してゆく気持ちになるのはスターならではの悩みなのかもしれないが、「他にも生きる道があったのでは」と人生に疑問を投げかけるのは、誰しも経験のある普遍的なテーマだ。短編映画の魅力として彼は「自分のアイディア・世界観を強く出せることだ」と話したが、作中のワンシーンさながらに、監督チャン・グンソクは主演チャン・グンソクに「本当に、その人生でいいのか?」と問いかけたに違いない。そして彼の出した答えは…。一度きりの人生を悔いて生きるか前だけ向くか、グンソク自身の思いが強く出た佳作だった。

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『それでもこんな人生良いと思う?(仮題)』

 ちなみにチャン・グンソク、ビデオレター内のインタビューに全て日本語で答えていたのには驚かされた。プレゼンターとして登壇していた映画コメンテーターLiLiCoさんが「本名でグンちゃんのファンクラブに入っている」と話していたが、努力家の彼を追いかけるファンの気持ちが分かる気がした。



6/15 ヤン・イクチュン監督『Departure/旅立ち』


 2008年に『息もできない』で監督デビューを果たしたヤン・イクチュンの『Departure/旅立ち』が、「旅シヨーット!プロジェクト」セレブリティショートとして上映された。全てソニー製のビデオカメラ「ハンディカムNEX-VG10」で撮影され、舞台は目黒や渋谷といった東京の街だ。

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『Departure/旅立ち』

 東京での生活に別れを告げる女性。この3年間、出会い去って行った男性たちのことを考えると、東京に出てくるために捨てた「彼」のことが思い出される。「逃げるな」と言った「彼」を振り切って韓国を発ったけれど、今では「彼からも自分からも逃げたのだ」と気づく。自分が暮らした東京を、そして「彼」を撮るためにハンディカムを買った彼女。「もう一度あなたの元に帰りたい。そして私を見つめてほしい」と作品は結ぶ。

 日韓合作『夜を賭けて』で、山本太郎と恋に落ちる女性を演じていたリュ・ヒョンギョンが主役をつとめている。そして「彼」は監督のヤン・イクチュンその人。思い出の中、去っていく恋人を引き止められず呆然とたたずむ姿がせつない。彼女は結局帰郷してしまうのだが、イクチュンの繊細な切り取り方で、スクリーンの中の東京は見違えるばかりの姿だった。東京生まれの東京育ちで、少々うみ疲れ気味な筆者には大変刺激的な作品だった。



6/16 チャ・ウンテク監督、イ・スンギのMV『恋愛時代/チングジャナ-友達だから』


 SSFF&ASIAでは25分未満の映像作品がノミネート対象となる。そこにストーリー性が認められればミュージックビデオも例外ではない。6/16にラフォーレミュージアム原宿で上映されたミュージックShort部門では、韓国で“国民の弟”として親しまれているイ・スンギの日本デビュー曲『恋愛時代/チングジャナ-友達だから』を見た。俳優でもあるイ・スンギはTVドラマ「僕の彼女は九尾狐(クミホ)」で、頼りないが可愛い弟分キャラで日本でもしっかりファンを増やしたようで、6/1には日本武道館公演を成功させたばかりだ。

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イ・スンギ

 ストーリーは、ミュージシャンの卵の男性(イ・スンギ)が、偶然出会ったバーテンダーの女性にひとめぼれし、あれこれと手を尽くして気持ちをつかもうするラブコメディ。甲斐あって二人はなかなかいい雰囲気になる。彼女への恋心を歌った「恋愛時代」という曲も出来上がり、続編のバラード「恋人だから」も完成間近で有頂天になるが、実は彼女には恋人がいた。事実を知ったスンギは「恋人だから」をどうするのか…。

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『恋愛時代/チングジャナ-友達だから』

 恋の三角関係という恋愛ドラマの超王道な設定に「人生から歌が生まれるまで」というストーリーがうまくはまっていた。人生で起きたことは、なかったことにはできない。理想通りに行かなかった恋をごまかすことなく歌い上げる展開は、はからずもチャン・グンソクの短編にあった「それでも人生を後悔しない」というメッセージに重なるところがあった。



6/26 キム・ソギョン監督『Anesthesia/隠された真実』


 横浜のブリリア ショートショート シアターは、本映画祭が10周年を迎えた2008年に横浜みなとみらいに開館したショートフィルム専門映画館で、日本に限らず世界の短編映画を上映している。未来のアカデミー賞作品や傑作を掘り出したい映画好きは是非足を運んでもらいたい。

 この日はアジア&ジャパン部門の『Anesthesia/隠された真実』を鑑賞。新入り看護師のジヒョンは、職場で医師が女性患者に麻酔を投与して強姦するのを目撃してしまう。隠し撮りのビデオを証拠に告発しようとするが、婦長や同僚は協力しない。苦しみ抜いた末にジヒョンがくだした決断は…。

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『Anesthesia/隠された真実』

 正義を貫くことがいつも美徳とは限らない。老かいな婦長は、表沙汰にしても被害者のためにならないとジヒョンを諭し、秘密裏に解決しようとする。告発をうながした被害者にも「あなたの正義感にはうんざり」と吐き捨てられてしまう。おぞましい行為への怒りと、それを見過ごしていく苦しみ。ジヒョンは肉体の痛みで自分を責めさいなんでいく。

 ジヒョンの決断は果たして正しかったのか? 単なる罪滅ぼしなのか、それとも美しい自己犠牲なのだろうか? 監督のキム・ソギョンから発せられる「あなたならどうするか」という問いかけに誰も正解を出すことはできないだろう。ジヒョンの戦いはまだ始まったばかり。内部告発における正義の苦闘を、短編ながらも真摯に扱った衝撃的な一作だった。



6/28 韓国トラベルショート


 ソウルで開催されているアシアナ国際短編映画祭で上映された「韓国トラベルショート」。韓国の魅力が感じられ、旅したくなる作品として、SSFF&ASIAでは2011年より特別上映している。今年は先に開催された「花開くコリア・アニメーション2012」でも上映された『City/街』を含む5作品だ。

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『City/街』

 キム・ヨングン、キム・イェヨン監督による『City/街』。「街はそこに住む人の集合体」とは二人の弁だが、物質的な束縛を一切排し、そこで暮らし働く人の形だけで表現されたソウルは、人の呼吸が街の呼吸そのものとなって、まるで大きな人間のようだ。この作品を見れば都会がコンクリートの無機質な場所とは思わなくなるかもしれない。

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『Changgyeong Park/追憶』

 チョン・ギハク監督『Changgyeong Park/追憶』のタイトルにある「Changgyeong Park」は、世界遺産にも登録されたソウルの観光地・昌慶宮のこと。夫の治療のため遠路はるばる鉄道でソウルにやってくる老夫婦。息子はソウルのスーパーの倉庫でバイト中の就職浪人で、次の面接に賭けている。ある時、父は医師から「治療する術がない」と言われてしまう。先が長くないと知った彼は「昌慶苑へ連れて行って欲しい」とせがむ。病気なのに電車で席を譲り、昌慶宮でなく昌慶<苑>だと言って聞かない頑固な父と、そんな夫をいたわる母、要領は悪そうだが両親思いの息子。家族の思いが投影された昌慶宮の風景が美しい。

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『Funny Games/ファニーゲーム』

 チョン・ジヒョン監督『Funny Games/ファニーゲーム』。大学の映画科で助教をしているバクスは、現代美術専攻の院生ソリを口説いている。バクスはソリのアトリエに連れて来られ、はしゃぎ合っているうちにソリの同僚が描いた絵を破いてしまう。その価値は500万ウォン。バクスはどうやって弁償するのか…。バクスが繰り返す「遊び心こそアート」というセリフは、彼が肖像画を描くほど尊敬しているチョン・ジヒョン監督(作中にも登場)のメッセージである。ラストでバクスが取った方法と、エンドロールで監督自らある有名な映画音楽をアコギでカバーするという「遊び」にはニヤリとさせられる。

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『A Scene at the Sea/父と息子』

 イ・ジェヒ監督の『A Scene at the Sea/父と息子』は、息子と父親が営む海辺の食堂が舞台。盲目の父に代わって店を切り盛りし、網を仕掛けて漁をする息子は、目が見えなくても海への情熱を失っていない老父が心配。目を離すと一人で漁場に出て行ってしまう父に対しては、「困る」というより「いい加減にしてくれ」といった思いを抱いている。しかし、そんな彼が雨の中、懸命に魚を拾う父の姿に突き動かされて一計をめぐらす展開にほっとする。セリフもほとんどなく、二人のやりとりだけで見せる静かな作品だ。何よりも息子が作っていた海鮮鍋がとにかく美味しそうなのだ。冒頭「魚の鍋は大好物だ」と客が言うが、きっと彼の料理は一級品に違いない。この食堂に行きたい!と思わされた。

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『Etude, Solo/ピアノ・エチュード』

 最後はユ・デオル監督『Etude, Solo/ピアノ・エチュード』。子どもの青空リサイタルで使うピアノの調律を依頼された調律師のファン。訪ねた先にはかつて共にピアノを練習していた幼なじみの女性がいた。植物の成長記録をいそいそとつけ、風体もあまりイケてるとはいえないファンだが、ピアノの腕は一流。そんな彼がなぜピアニストとして第一線で活躍していないのか。ほろ苦い思い出がスクリャービンのエチュードとともによみがえる場面がとてもあざやかだ。アドレス帳に「オレに電話するな」で登録している上司からの電話、要領を得ないお客との会話、調律を邪魔しにきた子どものリコーダーの音といった不協和音が笑いを添えていた。



おわりに


 映画祭中、「ショートフィルムは人生の核」という言葉を聞いた。今回見た作品群には、長編映画のような大がかりなものはないけれど、だからこそ誰かの人生の一部とシンクロするものがあるのだろう。

 映画祭は終わったが、ブリリア ショートショート シアターでは7/1から「観客と映画祭スタッフが選ぶイチオシプログラム」が開催されている。今回、ご紹介することはできなかったが、観客がもう一度見たい作品を選ぶ「オーディエンスアワード アジアインターナショナル部門/ベストアクターアワード」にチョン・ヨンギョン監督の『Mom came over the Sea/母のぬくもり』が選ばれた。ぜひ横浜まで足を運んで欲しい。



ショートショートフィルムフェスティバル&アジア
 http://www.shortshorts.org/

ブリリア ショートショート シアター
 2012年8月1日(水)~8月31日(金)、「映画祭受賞ショートフィルムプログラムC」で『Mom came over the Sea/母のぬくもり』を上映
 http://www.brillia-sst.jp/


Reporter's Profile
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。イ・チャンドン監督の『オアシス』で韓国映画に目覚めました。


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『大阪のうさぎたち』&『遭遇』 ミン・ジュンホ インタビュー

Interviewed by mame
2012/7/10掲載


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 先週の杉野希妃さんに引き続き、今週はミン・ジュンホさんが『大阪のうさぎたち』と『遭遇』のプロモーションで大阪にいらっしゃいました。ちょうど取材日は七夕でしたが、昼間には気持ちの良い青空が見えてきて、ジュンホさんは映画のことや大阪に対する印象など日本語も交えてコミカルに話してくれました。

取材日:2012年7月7日(土)
会場:シネ・ヌーヴォ



── 『遭遇』上映前の舞台挨拶で「少し疲れる映画かもしれない」とおっしゃっていましたが、鑑賞した観客の評判は良かったです。日本と韓国では反応が違いましたか?

『遭遇』は、韓国では富川国際ファンタスティック映画祭でプレミア上映されたのですが、その時はあまり反応が良くなかったです。その後、大阪アジアン映画祭に招待されて、日本での上映となったのですが、どちらかというと日本向けの映画かな?と思っています。私が思うに、韓国の映画はハリウッド志向の大がかりなスタイルの作品が多いですが、日本では細かなディテールを大切にする映画が多いので、監督には「日本で上映されると良い反応が得られるんじゃないか」と話しました。


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── 撮影期間はどのくらいですか?

3週間です。その時はとても短くて、ありえないと思いましたが、『大阪のうさぎたち』が実質1日で撮れたことを考えると、今度は2時間くらいで撮れるんじゃないか?と思ったりしています(笑)。


── チラシを見て最初は怖い映画かと思いました。

富川国際ファンタスティック映画祭では子供が泣いて途中退場してしまいました。幽霊・宇宙人・音楽など、ホラー的な要素が満載なので、最後まで見ないとどんな映画か答えづらいと思います。


── でも、クスッと笑えるところもあって最後にはちょっと感動的な展開になりますね。

私はこの映画を3回観ましたが、その度に印象が変わります。1回目は「何? この映画??」と思いましたが、3回目には最後のシーンで涙が溢れてしまいました。自分の演技に感激してとかではなく(笑)、監督業も経験した今となっては、主人公のジュンホ監督が、とても可哀そうに思えてきて。今回の来日は、自分自身のプロモーションの意味ももちろんありますが、この作品を本当に気に入っているので、より多くの人に観てもらえれば良いなと思っています。


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── どういうきっかけでこの作品に出演することになったのでしょうか?

まずプロデューサーのソン・ウジンさんから映画のアイディアが持ち込まれて、イム・テヒョン監督に提案されたのですが、監督から「ミン・ジュンホを主役にするなら作っても良い」との条件が提示されて、私のところにプロデューサーからオファーが来ました。私はその頃、演劇を中心に活動していたのですが、まだ有名でもなかったので大変驚いたし、光栄に思いましたね。監督は普段からとてもポーカーフェイスで、あまり感情を表に出さないのですが、意外と他人の反応がどうなのか気になって仕方ないような、好奇心旺盛な面も持っていて、今回来日する際も「観客からの感想を必ず伝えるように」と言われました(笑)。


── ご自身でもミン・ソンヒョン名義で短編映画『ドメスティック・バイオレンス』を監督されてます。やはり『遭遇』で監督役を演じられたことが影響してますか?

『遭遇』で監督役を演じるにあたって、やはりそれらしく見えるように、事前にイム・テヒョン監督から本を渡されたりして、監督の仕事について勉強しました。誰にでもなれるような職業ではないと思っていたのですが、この役を経験して監督業に興味を持ったので、まずは短編からということで作ったのが『ドメスティック・バイオレンス』です。内容は不良の男子高校生を扱ったブラックユーモアです。



『ドメスティック・バイオレンス』パート1(日本語字幕付)

── 次回作の構想はありますか?

日本のヤクザ映画のような感じで、ちょっと笑えるユーモアのある作品を作ってみたいと考えています。時間があればぜひ日本、特に大阪をロケ地にして作ってみたいですね。


── 『大阪のうさぎたち』でイム・テヒョン監督の作品は2作目ですが、監督のスタイルにはもう慣れましたか?

実は『大阪のうさぎたち』については監督が何を考えているのか全く分からず、自分には合わないんじゃないかと思いました。当初、韓国で聞いた設定とは全く違っていたので。やはり地震の翌日ということが大きく影響していたので、途中でどんどん新しい設定になっていき、結果として私ではなく杉野希妃さんが主役になりましたが、作品としてはその方が良かったのではないかと思っています。希妃さんが主役の方が日本で多くの人に観てもらえるでしょうしね。当初は人間の死をテーマにした作品でしたが、地震の翌日の日本を取り巻く“空気”そのものを捉えた作品に仕上がったのではないでしょうか。


── 今後の予定について教えてください。

冬頃までは韓国でドラマの撮影が続いています。その後、時間があればぜひ監督として第2作目の作品づくりに挑戦したいと思っています!




取材後記


 映画を見ているときから目ヂカラがすごいなぁという印象だったのですが、実際にご本人を前にすると、日本語をちょくちょく挟んでお話しする姿はとてもユニークで、ユーモアたっぷりの舞台挨拶では観客の笑いを誘っていました。なんでも、大阪は日本でも一番気に入っている都市で、インタビュー中も「昔から周りの人を笑わせるのが好きだったので日常会話でボケとツッコミが成立している大阪の人の雰囲気には共感する。国籍を大阪にして、大阪人と名乗りたいくらい」との嬉しい言葉を戴きました。

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 舞台挨拶には、映画ファンに混じって、韓流ファンと思しき女性客もいらっしゃったりで、これら幅広いファン層を通して、この映画の魅力が伝わっていけば、大阪で活躍できる日もそう遠くないのでは?と思いました。監督業も精力的に続けていきたいとの事で、ドラマ・演劇・映画と様々な経験を活かして、どんな作品ができるのか、今後の活躍が楽しみです。

<追記>
 ミン・ジュンホさんは今年3本のドラマに出演予定で、その内の1本のタイトルは「ヴァンパイア検事 シーズン2(原題)」とのことです。



『遭遇』
 原題 遭遇/英題 Encounter/2010年
 監督 イム・テヒョン 主演 ミン・ジュンホ、ソン・イファン
 2012年7月7日(土)より、大阪シネ・ヌーヴォにて一週間限定上映
 公式ツイッター http://twitter.com/Encounter_ofcl

Interviewer's Profile
 mame。1983年、岡山県生まれ。2004年、韓国・弘益大学美術学部に交換留学。韓国映画は留学を決めるきっかけにもなった。専攻は木版画。現在は会社勤めをしながら作品制作を続けている。


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Review 『遭遇』

Text by mame
2012/7/10掲載



 イム・テヒョン監督により、前作『奇跡の夏』から5年ぶりに撮られた本作は、映画製作をテーマにした不思議なSFホラーかと思いきや意外な感動作に仕上がっている。

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 劇中、監督のジュンホ(ミン・ジュンホ)は10年ぶりの映画製作に意欲を燃やし、昔のツテを頼って頭を下げるも反応は芳しくない。30年ぶりに帰った自分の故郷・全羅北道の井邑(チョンウプ)をロケ地に、なんとか撮影にこぎつけるものの、脚本もなくほぼ即興で撮る手法に、スタッフ・出演者は振り回され、出資者であるプロデューサーからもクレームが入る。そして宇宙人の登場という突拍子もない設定に周りはますますうんざりするのだった…。

 この前半部分で、映画というのは、多くの人の協力なしに作り上げることは不可能なのだと痛感する。これは、イム・テヒョン監督が実際に経験したことで、ジュンホはイム監督自身を投影した役柄なのだろう。見ていて哀れな思いが込み上げてくる。前作『奇跡の夏』が国内外でヒットを記録した5年後に、今回は全く違う作風の低予算映画をわずか3週間で作り上げた。監督としてもこの辺りは、何か思うところがあっての作品だったのだろう。韓国は日本よりも映画産業が盛んだというイメージがあるが、数々の秀作・話題作を生み出したにもかかわらず、その後、作品を作れずに苦悩するという葛藤はあのキム・ギドクの『アリラン ARIRANG』でも描かれている。映画監督と聞くと今まで華々しいイメージがあったが、この辺りはとてもリアルに描かれている気がして興味深く見ることができた。

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 撮影中、ジュンホは長い髪の女性の幻影を何度も目にして、映画の撮影どころではなくなってくる。どこか見覚えのあるその女性の登場に、ジュンホは悩み、なんとかして手がかりを探そうと躍起になる。ここで、カギになるのがあの宇宙人だ。撮影時、誰もが宇宙人の登場という設定に驚き、呆れるが、その女性との思い出に、宇宙人が深く関っていたので、ジュンホにとってはごく当然の設定だったのだ。「私のことを忘れてほしくなかっただけなの」との女性からの訴えに、私はすんなりと納得して涙が溢れてしまった。

 高校生役のソン・イファンや宇宙人役のチョ・ソンフンなど、脇役が良い味を出していて、思わずクスッと笑える場面もあり、ラストはしみじみと味わい深い作品となっていた。震災翌日の大阪を描いた『大阪のうさぎたち』とはまた違って、よりドラマらしい作品で、ますますイム・テヒョン監督の表現の幅に興味を持てる作品に仕上がっている。

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『遭遇』
 原題 遭遇/英題 Encounter/2010年
 監督 イム・テヒョン 主演 ミン・ジュンホ、ソン・イファン
 2012年7月7日(土)より、大阪シネ・ヌーヴォにて一週間限定上映
 公式ツイッター http://twitter.com/Encounter_ofcl

Reviewer's Profile
 mame。1983年、岡山県生まれ。2004年、韓国・弘益大学美術学部に交換留学。韓国映画は留学を決めるきっかけにもなった。専攻は木版画。現在は会社勤めをしながら作品制作を続けている。


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Review 『大阪のうさぎたち』

Text by mame
2012/7/3掲載



 原因不明の現象により、90%の人類が亡くなった地球。その中で唯一何事もなかったかのように普通の生活を続けている都市、OSAKA。その地をめざして、韓国から一錠の特効薬を手にした男(ミン・ジュンホ)と、恋人を失った女(杉野希妃)がやって来る。残された時間はあと半日。OSAKAで初めて出会った二人は、最期の時まで共に過ごす事を決め、ホテルでお互いのことを語り始める…。

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 大阪を舞台にしたドキュメンタリー風SFという不思議なジャンル。それもそのはず、この映画は昨年2011年3月12日、大阪アジアン映画祭に出席中の監督・俳優によってほぼ即興で製作された。日付から分かる通り、東日本大震災の翌日だ。私は大阪在住なので、ほぼ全てのロケ地に行ったことがあり楽しく観ていたが、途中でこの撮影日を思い出してからは、いつもの大阪が全く違う様子に見えてきた。この映画は、大災害の翌日の大阪の様子を捕らえている。そういう意味で、とても貴重な作品だ。監督には映画祭に招待された時から、即興で映画を作ろうというアイデアがあったようだが、まさかこんな日に撮ることになろうとは予想もしなかっただろう。

 「大阪はSF向きな都市」という説には、私も納得する部分がある。特に映画祭が行われた中之島近辺は、二本の川に挟まれ、その上を縦横無尽に高速道路が重なっている様子が近未来都市を感じさせ、いつ来ても見とれてしまう。夜はさらに高層ビルの灯りと川のライトアップも加わり幻想的な美しさだ。よく言われる「コテコテ」な大阪とは違う魅力をこの映画は映し出してくれている。

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 即興で撮られているので、出演者のアドリブもあったりして、ストーリーはあってないようなものだが、震災の翌日という非常事態がこの設定と偶然にもリンクして、かつてない緊迫感を与えている。あの日以降、日本中の多くの人が災害の大きさに驚き、しばらくは無力感と焦燥感に襲われた。監督がそうした空気を感じたかどうかまでは分からないが、震災から1年半が経った今、あの日をテーマにした映画やマンガなどが続々と発表されている。『大阪のうさぎたち』もあの日をテーマに、違ったアプローチを見せた記録映像として名を連ねてくれると、ある意味、完全なドキュメンタリーとして受け入れられるのではないだろうか。

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 イム・テヒョン監督と、ミン・ジュンホのコンビが『遭遇』で見せた即興ドラマに、今やアジアのミューズとして成長を遂げている杉野希妃が加わり、プロデューサー兼主演を務めている。いろんなハプニング的要素によって出来上がった作品は非現実的な設定でありながらも、それを感じさせない不思議な空気を保っている。是非、多くの人に体感してもらいたい。


『大阪のうさぎたち』
 韓国・日本/原題 大阪の二匹のうさぎ/英題 TWO RABBITS IN OSAKA/2011年
 監督 イム・テヒョン 主演 杉野希妃、ミン・ジュンホ
 2012年6月30日(土)大阪シネ・ヌーヴォにて地元先行ロードショー、8月4日(土)神戸・元町映画館、京都みなみ会館ほか順次全国公開予定
 公式ブログ http://ameblo.jp/two-rabbits-in-osaka/

Reviewer's Profile
 mame。1983年、岡山県生まれ。2004年、韓国・弘益大学美術学部に交換留学。韓国映画は留学を決めるきっかけにもなった。専攻は木版画。現在は会社勤めをしながら作品制作を続けている。


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『大阪のうさぎたち』 杉野希妃インタビュー

Interviewed by mame
2012/7/2掲載


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 『大阪のうさぎたち』のプロモーションで来阪された、プロデュースする女優、杉野希妃さんの独占インタビューをお届けします!

取材日:2012年7月1日(日)
会場:シネ・ヌーヴォ



── 『大阪のうさぎたち』は震災の翌日に撮られたということが大きく影響していると思いますが、撮影中の心境はいかがでしたか?

大阪アジアン映画祭に出席中、たまたまイム・テヒョン監督がカメラを回しているところに居合わせて、震災の影響で来られなかった韓国人女優の代わりに出演することになりました。映画は作るのも出るのも好きなのですが、あの日は震災の翌日という事で、こんな事をしていて良いのかな?という思いがよぎったのは事実です。ただ、今になって思えば様々なハプニングが重なって出来上がった映画なので、何かの導きによって作らされた映画のような気もしています。


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── 震災の影響は、監督や作る側にもあったのでしょうか?

イム・テヒョン監督は大阪アジアン映画祭の1週間ほど前に映画の構想を練っていたそうですが、私が見たときにはもう撮影が始まっていたので、特に影響はなかったようです。「女優が来られないのにどうやって撮るの?」と聞かれても、「まあ、なんとかなるだろう」とあっけらかんとした状態だったらしく(笑)。実際に私がたまたま声を掛けて、出演することになったので、「ほら、なんとかなったじゃないか」と言っていたと相手役のミン・ジュンホさんから聞きました(笑)。


── 杉野さんは今までいろんな作品に出演されていますが、今回の即興的な撮り方についてはどう思われましたか?

今まで海外の作品では『マジック&ロス』(リム・カーワイ監督、マレーシア)、『避けられる事』(エドモンド・ヨウ監督、マレーシア)に主演させていただいたのですが、どちらの監督も脚本より役者の感じるままに任せる、即興を重視する撮り方だったので、『大阪のうさぎたち』についても、すんなりと監督の望むことが受け入れられた気がします。即興がうまくいくかは設定によりますが、今回は地球最後の日という設定もあり、即興的な演出がうまく取り入れられていると思います。


── プロデューサーとしても有名ですが、これからも自分の出演する作品についてはプロデュースを続けていきたいですか?

特にプロデュースにこだわっているわけではないので、出演する作品を全てプロデュースしたいとは考えていません。プロデュースするとなると、すごく労力が必要なので。また、作る側との信頼感が絶対なので、本当に信頼できる間柄で、なおかつ魅力的な作品であれば、プロデュースを買って出たいと考えています。『大阪のうさぎたち』の場合は、監督は撮影したものの具体的に上映については考えていなかったようで、「せっかく面白いものが出来上がりそうなのにもったいない!」との思いから、映画祭への出品、海外セールス、日本での権利について、プロデュースしたいと申し出ました。今回は流れ的な感じもあったので、プロデュースについてはその時によって違うかもしれませんね。


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── 舞台となった大阪についての印象を教えてください。

もともと広島出身なので関西の友達も多く、身近な存在に感じています。映画祭で訪れる機会も多くなってきたのですが、その度に大阪はアツイ都市だなぁと感じています。好きなものを応援する!という姿勢がすごく強く伝わってくるので、私にとっては第二の故郷のように感じています。今回舞台となった場所を見ると、いわゆる名所ではないところもあったりして、やはり海外の監督が撮ったということもあり、監督ならではの目線が伺い知れて大変興味深かったです。


── 『大阪のうさぎたち』というタイトルについてはどう思われましたか?

作品を象徴するタイトルになっているのですが、そもそもは『ウォーターシップダウンのうさぎたち』という物語が発想のひとつになっています。あるところに、うさぎの住む村があり、そこでは人間によって一匹ずつうさぎが食べられていくのですが、いつ自分が死ぬか分からないのに、うさぎはじっと何事もなかったかのようにそのまま待っているというお話です。ナレーションでもその事に触れていますが、実は撮影時にミン・ジュンホさんがこの物語について説明する台詞がありました。説明的過ぎるということで、結局編集でカットされてしまったのですが。この映画でも、人間いつ死ぬか分からないという設定で物語にリンクしているので、それを象徴しているようで良いタイトルだと思いました。


── 共演されたミン・ジュンホさんについての印象を教えてください。

昨年の大阪アジアン映画祭が初対面だったのですが、あの日はそんなに日が照っていた訳でもないのになぜかサングラスをしていて、「なんだかスカした人だなぁ」と(笑)。相手役なので、いろんな事を喋らなきゃと思っていたのですが、見た目はあんなに男前なのに、実は挙動不審な面を発見したりして。最終的には、カッコいいだけでなく、すごく愛すべきキャラを持った面白い人だな、という印象に変わりました(笑)。


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── 読者にメッセージをお願いします。

監督も意図してなかったと思いますが、この映画は本当に今しか撮れない作品に仕上がったと思います。今の日本のみならず世界的な状況にもリンクしていて、現代的でもあり、またクラシックな部分もあり、いろんな要素が絡み合っている作品です。即興で撮られた作品ではありますが、実はすごく深い内容を扱っています。普段、生きていると感じられない死という存在を、あの震災以降、誰もが身近に感じられたのではないでしょうか。この映画も世界最後の日という設定で、死によって生きているという事を感じさせる内容に仕上がっているので、このタイミングで上映されることを大変喜ばしく思っています。




取材後記


 映画祭やイベントなどで何度も訪れているシネ・ヌーヴォが会場ということもあり、杉野さんもリラックスしたご様子で、インタビューは終始和やかに行われました。偶然にも私とは同じ歳で、残念ながら韓国に留学した時期はちょうどすれ違いだったのですが、留学当時のエピソードを懐かしく思い出しながらお話いただきました。なんでも、女優デビュー作『まぶしい一日』は留学して2ヶ月目にオーディションを受けて勝ち取った作品で、その頃は韓国語もほとんど喋れなかったそうです。『まぶしい一日』をきっかけに杉野さんは女優への階段を着実に登りつめて、今や海外の国際映画祭で審査員を務めるほどの映画人に成長されたわけですが、お話し下さる様子は大変親しみやすく、また何事にも積極的に取り組む姿勢が、周りの人を巻き込む魅力になっている気がしました。

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 同じ年齢の者としては、大変まぶしい存在で、緊張しっぱなしのインタビューだったのですが、私が制作した美術作品も快く見ていただくことができ、同年代として「私も頑張らなくちゃ!」と勇気をもらえました。また、同席した和エンタテインメントの小野光輔プロデューサーからは「関西は京都・大阪・神戸とそれぞれ異なる大きな文化があるので、映画の発信地としてはとても面白い広がり方をする」との意見をお聞きして、関西出身の者として嬉しくなりました。

 『大阪のうさぎたち』は、大阪アジアン映画祭をきっかけに作られた映画ですが、わずか一日で映画が出来てしまうのは、さすが!スピードの韓国と感じさせられました。今まで映画というとお金と時間がかかるイメージでしたが、こうした映画祭映画という新しいジャンルが各地で広がっていけば、映画業界のみならず、地方を巻き込んで新しい展開を見せてくれるのではないかと楽しい予感が膨らんでいます。



『大阪のうさぎたち』
 韓国・日本/原題 大阪の二匹のうさぎ/英題 TWO RABBITS IN OSAKA/2011年
 監督 イム・テヒョン 主演 杉野希妃、ミン・ジュンホ
 2012年6月30日(土)大阪シネ・ヌーヴォにて地元先行ロードショー、8月4日(土)神戸・元町映画館、京都みなみ会館ほか順次全国公開予定
 公式ブログ http://ameblo.jp/two-rabbits-in-osaka/

Interviewer's Profile
 mame。1983年、岡山県生まれ。2004年、韓国・弘益大学美術学部に交換留学。韓国映画は留学を決めるきっかけにもなった。専攻は木版画。現在は会社勤めをしながら作品制作を続けている。


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Column 映画祭映画『大阪のうさぎたち』と杉野希妃の映画作り

Text by 西村嘉夫
2012/7/2掲載



 映画祭の役割とは?と聞かれて何と答えるだろう。

 観客にとっての映画祭とは最新作を見られる場。カンヌのような大手映画祭の場合はフィルムマーケットが併設されていることが多いが、配給会社にとって映画祭とは作品を売買する場所と言えるだろう。最近では、インディーズ作品を支援するために映画の企画マーケットを開く映画祭も増えてきた。製作者の立場からは映画祭は資金調達の場に見えているかも知れない。

 そして、今、映画祭に《ロケ地》という新たな役割を付与しようとしている若きクリエイターがいる。『奇跡の夏』(2005年)で商業映画監督としてデビューした後、2010年にインディーズ作品『遭遇』を撮りあげたイム・テヒョンと、『歓待』(2010年)で世界中の映画祭を席巻し、汎アジアの多国籍インディーズ作品をプロデュースする女優・杉野希妃である。二人が昨年3月の大阪アジアン映画祭で偶然出会い、たった一日で即興的に撮りあげ、4月の全州国際映画祭で追加撮影し、7月に開催された富川国際ファンタスティック映画祭の企画マーケットでポスプロ費用を獲得してアフレコを行った作品、それが今ご当地・大阪で先行公開されている『大阪のうさぎたち』だ。

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 聞くところによると撮影機材は、大阪アジアン映画祭を通じて現地で調達したという。スタッフと呼びうるのは監督一人だけ。監督・出演者も本作の製作に名を連ねており、ポスプロは映画祭の企画マーケットで調達しているので、おそらく製作費は実質的にビデオ・テープ代だけだったのではないだろうか?

 なんともフットワークの軽い製作スタイルだが、映像に安っぽさは微塵もなく、スクリーンには異国の監督の目を通した新感覚な《OSAKA》が映し出される。「人類の90%が死滅した地球最後の日」という設定は、震災の翌日3月12日に撮影されたという事実と相まって観る者に特別な感情をもたらし、撮影当日、実際に出演者が抱いていたであろう不安感はキャラクターの感情そのものとシンクロし、現実とフィクションの垣根をさまよう不思議な空間が映画館に現出する。

 そもそも杉野が出演することになったのは、震災で予定していた韓国人女優の来日がキャンセルされたからで、そのキャスティングは全くの偶然。その偶然を必然に変えてしまうパワーが杉野の最大の魅力だが、その不思議な力は常に《映画祭》を通じて発揮されている点に注目したい。映画祭で人と出会い、資金を調達し、ゲリラ的に一気に撮影する…。筆者は大阪アジアン映画祭にも全州国際映画祭にも参加していたが、あの時あの空間のどこかで『大阪のうさぎたち』が撮影されていたのだと考えると妙な高揚感にとらわれる。ひょっとして自分も出演していた可能性があるのでは?と(事実、杉野の誕生パーティのシーンでは大阪アジアン映画祭のスタッフが大写しになっている)。

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 『大阪のうさぎたち』で縁を結んだイム・テヒョンと杉野希妃は、今年の全州国際映画祭でふたたび《映画祭映画》に挑んでいる。タイトルは『Jury(審査員)』。同映画祭で審査員を務めた杉野の姿を収めたフィクショナル・ドキュメンタリーだが、街頭ではアポなしインタビューを敢行。地元の学生たちに「あなたにとって映画とは?」と問いかけたという。

 「アジア・インディーズのミューズ」であると同時に「映画祭のミューズ」でもある杉野希妃はその類い希なる映画力によって、観客まで映画作りに巻き込み始めた。「映画とは?」と聞かれてあなたは何と答えるだろう。


『大阪のうさぎたち』
 韓国・日本/原題 大阪の二匹のうさぎ/英題 TWO RABBITS IN OSAKA/2011年
 監督 イム・テヒョン 主演 杉野希妃、ミン・ジュンホ
 2012年6月30日(土)大阪シネ・ヌーヴォにて地元先行ロードショー、8月4日(土)神戸・元町映画館、京都みなみ会館ほか順次全国公開予定
 公式ブログ http://ameblo.jp/two-rabbits-in-osaka/

Columnist's Note
 西村嘉夫。シネマコリア代表。杉野希妃さんのデビュー作『まぶしい一日』を配給してから6年。予想もしない形で杉野さんが“時の人”になってびっくりしています。『まぶしい一日』を共同配給したキノ・キネマの岸野令子さんは『大阪のうさぎたち』の宣伝で奮闘中。その経緯は「公式ブログ」でご覧いただけます。やはり杉野さんは自作に人を巻き込んでいく不思議な力をお持ちのようです。


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Review 『クロッシング』

Text by Kachi
2012/7/2掲載



 2002年5月8日、中国・瀋陽の日本国総領事館に北朝鮮から亡命した一家が保護を求めて駆け込んだ。中国警察に取り押さえられて泣き叫ぶ母親と背負われた子どもの姿は今なお目に焼き付いている人も多いだろう。実はその2ヶ月前にも北京のスペイン大使館に脱北者25人が駆け込む事件が起きていた。『クロッシング』はその出来事にヒントを得て作られている。

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 元サッカー北朝鮮代表選手だったヨンス(チャ・インピョ)は、身重の妻ヨンファ(ソ・ヨンファ)と11歳の息子ジュニ(シン・ミョンチョル)、ペックと名付けた犬と生活している。ジュニとサッカーをし、仲間と酒を飲む。つましいが幸せな日々だった。しかし国家情勢の悪化はひそやかな暮らしにも忍び寄ってくる。ジュニの幼なじみミソン(チュ・ダヨン)の父親はスパイ容疑で連行され、食料は乏しくなり、ヨンファは肺結核の診断を受ける。妻のために薬を手に入れようと、ヨンスは家族を残して中国へ渡る決意をする。幾多の危機を乗り越えながらもなんとか中国へ入ったヨンスは、脱北ブローカーから「インタビューを受ければ金をやる」と言われ、意味も分からないまま瀋陽のドイツ領事館に集団で駆け込んだ。しかしその後、脱北者として世界へ向けて記者発表するのだと知り「国を捨てられない」と拒絶する。

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 一方、北朝鮮では夫の帰りを待ちながらヨンファが息を引き取る。ジュニは父に会いに中国へ向かうのだが、再会したミソンとともに国境警備隊に捕まってしまう。収容所での労働の中、怪我がもとでミソンは命を落とす。絶望するジュニを、ヨンスを脱北させた団体が見つけ、警備隊にワイロを渡して釈放してもらう。ジュニは他の脱北者たちとともにモンゴルへ渡り、ヨンスと落ち合うことになる。しかしモンゴルの空港でヨンスは素性が分かってしまい足止めされる。一方、ジュニたちも国境で警備に見つかってしまう。たった一人逃れたジュニは、モンゴル砂漠を越え父の元に向かうが…。

 『クロッシング』は「脱北」が、もはや政府要人や金持ちの亡命ではなく貧しい人々にまで及んでいることを描いているが、それと同時に「脱北者」というくくりがはらむ問題も提起している。当時世界の関心は、脱北者が貧困にあえぐ国民の代表として命がけで自国を糾弾する姿だった。「家族が待っているから国に帰る」というたった一人の気持ちを誰がかえりみただろうか。

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 意に反して中国からソウルに連れてこられ、「いつになれば北へ帰れるのか?」といら立つヨンスに、韓国人工場長がキリストの教えを諭す。しかし、ミソンの父親がキリスト教を信仰していたことで連れて行かれた事実を知っているヨンスは耳を貸さない。

   「イエスは南朝鮮にだけいるんですか?」

   「神様も豊かな国だけ?」

   「なぜ北朝鮮を放っておくのですか?」

 神のように目に見えない存在に希望なんて持てるはずのない、理不尽さを目の当たりにしてきたヨンスと、そんな国を放っておく「豊かな国」。ヨンスの叫びは、小さな出来事や存在を黙殺してしまう世界すべてに向けられていた。

 父の気持ちに呼応するように、ジュニは砂漠をひたすら歩く。愛する母を失い、収容所では人間がモノのように使い捨てられ、淡い恋心を抱いていたミソンも守れなかった。国への非難も信仰もない。ただあるのは、背負った無念と父への思いだけだ。待っている結末がどうであれ、そんなジュニの姿から目を離すことはできない。

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 砂漠に倒れたジュニが見る夢に出て来た父と母、ミソン、ペック。そのペックの白さが、大きな力に理不尽に飲み込まれていった小さな幸せの残像のように、観る者の目に焼きつくことだろう。


『クロッシング』
 原題 クロッシング/英題 Crossing/韓国公開 2008年/日本公開 2010年
 監督 キム・テギュン 主演 チャ・インピョ、シン・ミョンチョル
 公式サイト http://www.crossing-movie.jp/

Reviewer's Profile
 Kachi。1984年、東京生まれ。図書館勤務。イ・チャンドン監督の『オアシス』で韓国映画に目覚めました。





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