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Essay 『いばらきの夏』から『でんげい』へ ~人との出会いから日本配給へ

Text by 岸野令子(キノ・キネマ)
2016/8/28掲載



 韓国ドキュメンタリー『いばらきの夏』を正式に日本公開することになり、私の会社、キノ・キネマが配給・宣伝することになった。久しぶりに大仕事である。

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 そもそも、今年3月の第11回大阪アジアン映画祭で特別招待作品に選ばれた『いばらきの夏』のパンフレット解説原稿を頼まれたことが、この映画との出会いである。映画祭事務局から来たDVDは英語字幕のみで日本語字幕が入っていない。しかし、この作品は日本のしかも大阪の話で、半分は日本語なので助かった。見れば、建国高校伝統芸術部の9人が大阪代表として、茨城県で開かれる全国高校総合文化祭に出場する、その日に至る奮闘記である。何かの大会を目指して頑張るチームの物語は、青春映画の王道そのものだ。

 韓国・釜山のTV局MBCが製作した本作は、日本の民族学校の生徒たちやその親たち、いわゆる在日同胞の姿を韓国国内の人々に知らせたいとして企画されたそうだ。それはそうであろう。でも、私はこの映画を日本人に見せたいと思った。なぜなら、朝鮮学校を扱った映画は何作もあり、主に在日朝鮮人や民族問題に関わる日本人の間で「自主上映会」が催されてきたが、一般的映画ファンの日本人にはなかなか見る機会がないのが現状だから。そして『ウリハッキョ』や『60万回のトライ』など朝鮮学校の映画は知っているけれど、別の民族学校を描いた作品にはまず出会ったことがないからだ。

 学校法人 白頭学院 建国幼・小・中・高等学校は、1946年に創設された建国工業高校・建国高等女学校が始まり。その沿革は学校のホームページに譲るとして、中高等学校伝統芸術部は、民族文化の継承に力を注ぐ活動の中でも、そのレベルの高さは驚異的で、全国高校総合文化祭には2016年で連続12年出場という。『いばらきの夏』は2014年の第38回大会に出場した時の記録だが、この年で連続10年であった。

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 映画は、高1から高3までの9人の生徒の練習風景と、それぞれの家族や、進路の問題など、日本の高校生と変わらぬ生活が捉えられる。違うのは、将来韓国の大学に留学したい、とか、民族のアイデンティティに触れるところ。

 でも、メインは、その練習風景である。部活なので、子どもたちは自主的に選んだわけだが、そのハードな日々に驚かされる。「伝統芸術部に入ったら、嫁にやったと思え」と言われるくらい、親とゆっくり話す間もない。というより疲れ果てて口もきけないという感じか。そして、チャ・チョンデミ先生の厳しさは鬼のごとし。大阪弁で叱りとばすチャ先生のキャラクターの強烈なこと。チャ先生は「自分の民族の豊かな文化に触れて、初めて誇りを持てるようになった」と若い頃を振り返って語る。ソウルから指導に来てくださる韓国芸術総合大学校パク・ジョンチョル教授は「韓国の子どもに教えるより、こっちの子どもの方が熱心で教えがいがある」とおっしゃる。

 私が何より、この映画を広めたいと思うのは、この民族学校の伝統芸術部が、大阪代表として、他の都道府県代表とともに競演するという点だ。他県は皆、日本の伝統芸能ばかりであるから、ある意味異色の代表なのだ。でも、いや、在日コリアンが一番多い、それゆえ大阪代表が朝鮮の民族芸能であって全然構わないってことが嬉しい。

 彼女たち彼たちは言う。「韓国の伝統の踊りと歌と民族楽器の演奏が、日本の観客にわかってもらえるだろうか」 伝わらなければ意味がない。そのために努力する。ある生徒のお父さんは「入賞しなくてもいい。日本の伝統芸能の中に混じってするのだから、わからなくても構わない」という。それは入賞しなかった時、がっかりしないようにという思いやりであろうが、結果は結果、出来るだけの努力はしないと後悔すると生徒たちは思う。だから、練習あるのみ。

 いっぱい叱られ、いっぱい泣いて、ついにその日がやって来た。バスで12時間の旅。本舞台でのリハーサルはたったの10分、本番も15分だ。

 さて…。

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 大阪アジアン映画祭のゲストで来られたチョン・ソンホ監督とお会いすることができたので、私は「この映画が日本公開できるといいですね」と伝えた。後日、アジアン事務局から連絡があって、監督が「是非あなたに日本配給をしてもらいたい」と言っているとのこと。ああ、それは、やりたいのは山々だけど、権利を買うお金がありませんとメールで伝えたら、特別の条件で構わないという返事であった。

 幸いにして私の友人たちの多くが建国関係者とわかり、「是非やってほしい、応援する」と後押ししてくれている。公開に向けてタイトルを『でんげい』と決めたのも、関係者でプロの方のアイデアだ。「でんげい」それは建国高校伝統芸術部の通称である。舞台を通して韓国と日本、ひいてはアジアの人々との架け橋になろう、と誰かが言った。

 映画の終わりの方で、舞台の上から生徒が挨拶する。「アンニョンハセヨ! パンガップスムニダ、お会い出来て嬉しいです!」

 そう、まさにこれは出会いの映画でもあるのだ。

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『でんげい』
 原題 이바라키의 여름(いばらきの夏) 英題 The Summer in Ibaraki 韓国公開 2015年
 監督 チョン・ソンホ 出演 建国高等学校伝統芸術部の生徒たち、先生たち、パク・チョルミン(ナレーション)
 2016年11月5日(土)より、シネ・ヌーヴォにてロードショー
 公式フェイスブック 「でんげい」(いばらきの夏 改題)
 公式ツイッター @kishinoreiko222

Writer's Profile
 岸野令子。映画パブリシスト、有限会社キノ・キネマ代表。主にミニシアター系作品の関西宣伝担当。韓国映画宣伝作品は『子猫をお願い』『クロッシング』『チスル』『傷だらけのふたり』など。韓国映画配給作品は『永遠なる帝国』(アジア映画社と共同)、『もし、あなたなら~6つの視線』(シネマ・コリアと共同)、『まぶしい一日』(シネマ・コリアと共同)。


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Essay 北の街のシネマ放浪記・その3 ~シネマ・トーラスで『ベルリンファイル』を見る

Text by hebaragi
2013/10/15掲載



 苫小牧市と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか。筆者が思い浮かべるのは高校野球である。二度にわたる全国制覇、三度目の決勝戦は延長再試合の末の準優勝という北海道勢初の快挙をもたらした駒大苫小牧高校ナインの勇姿は今でも鮮明に記憶に残っている。普段は日本ハムファイターズの応援をしている北海道民も、駒大苫小牧快進撃の立役者・田中将大投手が楽天ゴールデンイーグルスのエースとして活躍する姿を見るたびに誇らしく感じるのではないだろうか。

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シネマ・トーラスの外観

 さて、素顔の苫小牧市は製紙や自動車・石油化学を中心とした北海道随一の工業都市である。最近では電車で1時間以内という交通の便から札幌市のベッドタウンとして宅地開発が進むほか、新千歳空港に隣接し、本州各地へのフェリーが多数発着する苫小牧港を抱える交通の拠点としても発展著しい。また、日本一の水揚げ量を誇るホッキ貝をキーワードにした観光振興が図られていることもユニークな点といえるだろう。

 そして、知られざる苫小牧市のもうひとつの顔が「映画の街」である。とりわけ、『バッシング』『愛の予感』『春との旅』『日本の悲劇』などの作品で知られ、ヨーロッパの映画祭で高い評価を受けている小林政広監督が惚れ込んだ街であり、多くの監督作品でロケ地になっていることは特筆すべき点といえる。一般に苫小牧の風景は無機質な工業都市のイメージが強いが、どこまでも続くモノトーンの海岸線に工場の煙突が立ち並ぶ風景は、映画制作にとってあらゆる可能性を秘めた無限のキャンバスにもなるようだ。最近では『のぼうの城』のロケも行われている。

 「シネマ・トーラス」は、苫小牧駅から徒歩10分ほど、製紙工場に近い商店街を抜けたところにある。映画館の看板は目立たないが、併設されているボーリング場を目当てに来ると分かりやすいかもしれない。札幌のシアターキノなどと同様に市民出資をもとに立ち上げたミニシアターであり、今年になって実現したデジタル化に際しても市民の寄付が大きかったと聞く。通常上映のほか、毎月1回、ミニシアターのない室蘭市と伊達市の公共ホールで出張上映会を実施するなど意欲的な活動を続けているほか、先述した小林政広監督とのタイアップによる様々な企画も行われている。そして、韓国映画を積極的に紹介してきていることも大きな特徴のひとつであり、最近も『高地戦』『拝啓、愛しています』『王になった男』『殺人の告白』といった作品を上映している。こじんまりとした中にもアットホームな暖かみを感じるミニシアターである。

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シネマ・トーラスの館内

 今回は「韓国映画特集」で上映されていた作品の中から『ベルリンファイル』を見た。チョン・ジヒョンが出演する南北スパイ映画という程度の予備知識だけで先入観なしに見たが、オープニングから各国のスパイや得体の知れない人物たちが暗躍するテンポのよい展開に引き込まれ、あっという間の二時間だった。ハ・ジョンウとハン・ソッキュの渋い演技、リュ・スンボムのややコミカルなキャラクターが印象的だが、登場人物のほとんどが男性という設定のなかで、チョン・ジヒョンの存在は異彩を放っている。彼女は前作『10人の泥棒たち』では華麗なワイヤーアクションや様々なコスチュームで楽しませてくれたが、今回は一転して凛としたたたずまいを感じさせる北朝鮮大使館職員(通訳)として登場する。ストーリーは中盤以降、本国関係者に追われることとなったハ・ジョンウ、チョン・ジヒョン夫妻の逃避行、そして拉致監禁の舞台となったアジトでの銃撃戦など緊迫したシーンが続く。一方、極限状況にあっても、ふたりの会話にはすれ違いがちな夫婦の葛藤が描かれ、ラブストーリーの要素も感じさせる。チョン・ジヒョンが、屋根伝いに逃げ回ったり、銃撃戦でピストルを持つシーンを余裕でこなしているように見えたのも新たな発見といえる。

 作品中に描かれている国際関係は最近の北朝鮮情勢が反映されるなどリアリティにあふれており、見る者に強い印象を残す。南北分断やスパイをテーマにした韓国映画はこれまでにも多数製作され、多くの観客を集めてきた。しかし、現実の対立状況をベースに描かれていることからくるリアリティある迫力は「悲しい現実」ともいえるのではないだろうか。本作品の舞台として、かつて東西冷戦の象徴であったベルリンを選んだことについて、製作側の強いメッセージを感じる。1989年、誰もが想像しなかったベルリンの壁崩壊のシーンを今でも鮮明に思い出す。あれから四半世紀が経とうとする現在も、残念ながら南北分断は続いている。朝鮮半島に真の平和が訪れ、分断が本当の意味で昔話になる日が一日でも早く訪れることを切に願いつつ、劇場をあとにした。


Writer's Note
 hebaragi。筆者とシネマ・トーラスとの出会いは2004年公開の『チルソクの夏』にさかのぼる。その後も、札幌で見逃した韓国映画を見る際などに重宝させていただいているありがたい存在だ。


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Essay 北の街のシネマ放浪記・その2 ~シアターキノで『恋は命がけ』『僕の妻のすべて』を見る

Text by hebaragi
2013/8/21掲載



 この季節に初めて札幌を訪れた人の多くが、その暑さに驚く。涼しいどころか真夏日も珍しくない。涼を求める人々が大通公園や札幌駅前、そしてビール会社直営の野外ビアガーデンに大挙して訪れるのは短い夏の風物詩だ。暑い夏の隠れたおすすめスポットが映画館。クーラーの効いた快適な劇場で映画を見た後、ビールでも飲みながら映画の話に花を咲かせるのも楽しい。


ミニシアターの聖地「シアターキノ」


 シアターキノは、札幌中心部の老舗アーケード街・狸小路にある。狸小路はかつて札幌随一の映画街であり、10スクリーンを超える劇場が軒を連ねていた。その後、シネコンの相次ぐ進出により唯一の常設館となったシアターキノは、1992年に29席の「日本一小さな映画館」としてオープンした後、1998年に現在の地に移転し、2スクリーン体制でリニューアルオープンした。現在、国内外の秀作が常時5~10本程度上映されており、映画人を招聘しての企画上映も多い。名実ともに北海道を代表するミニシアターであり、札幌市内はもとより道内各地からの来場者も多く、ロビーは次の上映を待つたくさんのお客様でにぎわっている。

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シアターキノの上映作案内板

 リピーターが多いのも当館の特徴で、年間10作品まで無料で見られるヴィンテージ会員も多い。隣接する「kino cafe」では軽食をとることができ、劇場と共通のポイントカードでポイントを貯めると無料鑑賞券にもなる。幕間のわずかな時間に食事をしているとき、次に見る作品の整理券をテーブルに置いておくと、劇場スタッフがカフェに現れ、「○○をご覧のお客様はまもなくご入場となります」などとアナウンスしてくれるきめ細かなサービスも嬉しい。客席は傾斜が緩くなっており、ゆったりと映画を楽しむことができる。また、シアターキノは以前から韓国映画の紹介に力を入れており、イム・グォンテク、ホ・ジノ、ホン・サンス、キム・ギドク、パク・チャヌクといった監督の作品を積極的に紹介してきたことは特筆すべき点といえる。

 今回は「韓国映画特集」で2本の作品を見た。

 『恋は命がけ』は、ソウルで公開初日に見てから1年あまりでの再見。ホラー・ラブコメという宣伝コピーとは裏腹に怖いシーンは少ない(あくまでもホラーに抵抗感の少ない筆者の印象だが)。ポップなBGMに載せて軽快なテンポで展開するストーリーは、楽しいロマンティック・コメディそのものだ。とりわけ、霊感を持つミステリアスな女性ヨリを演じるソン・イェジンの変幻自在の表情が印象的で、普通の女性のようにコロコロと笑ったり、はにかんだりする表情も新鮮に感じられる。また、彼女にとっては初めてと思われる、かわいらしい酔っぱらい姿やバッティングセンターでの華麗なフォーム、そしてレアな制服姿も見どころだろう。一方、ヨリとの関わりを通じて数々の不可解な体験に見舞われ、戸惑いつつも彼女に惹かれていくマジシャン、ジョグを演じるイ・ミンギのクールな演技や、ヨリの親友たちのユニークなキャラクターも楽しい。ヨリの悲しい過去にまつわる回想シーンもあるが、全体としてはハートウォーミングな印象が強く、ラブコメディの新たなジャンルともいえる試みはひとまず成功したといえるのではないだろうか。ちなみに、原題『오싹한 연애』を直訳すると『不気味な恋愛』、『ゾッとした恋愛』、『身ぶるいするような恋愛』となる。今回、改めて作品を見直してみて、邦題『恋は命がけ』も絶妙なネーミングに感じられた。

 『僕の妻のすべて』はイム・スジョン主演のラブコメディ。結婚前には分からなかった妻ジョンインの正体に翻弄される夫ドゥヒョンが、妻と別れるため、伝説のカサノバ、ソンギに妻を誘惑させる…。ふたりの出会いは地震が起こった日の名古屋という設定で、日本語の会話も登場する。イム・スジョン演じるジョンインが、誰に対しても自分の意見をはっきり主張するドラマ「斉藤さん」の主人公のようなキャラクターを生かして「毒舌DJ」としてマシンガントークを炸裂させるのが楽しい。また、今回のイム・スジョンは強気なだけでなく、少女のようなしぐさや妖艶な大人の女性の表情も見せてくれるなど、女優としての演技の幅を着実に広げている。独特の透明感から、今まではしっとりとしたラブストーリーへの出演が多かったが、新たな一面を見せてくれたといえるだろう。さらに、妻との関係に悩む夫を演じるイ・ソンギュンのコミカルな葛藤ぶりや、カサノバを演じるリュ・スンリョンの破天荒ながらも憎めないキャラクターがストーリーに厚みを与え、魅力あふれる大人のラブコメディに仕上がった。ラスト近く、家を出るために荷物をまとめようとするジョンインをドゥヒョンが手伝うシーンは『愛してる、愛してない』を彷彿とさせるが、かなり違う印象になっている点も興味深い。

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シアターキノがあるアーケード街・狸小路


Writer's Note
 hebaragi。シアターキノ周辺の商店街には飲食店、とりわけ様々な外国料理を楽しめる店が多く、アフターシネマのスポットには困らない。商店街の多国籍な雰囲気が、劇場で上映される作品の地域的多様性を反映しているようで興味深い。


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Essay 北の街のシネマ放浪記 ~個性あふれる映画館で素敵な映画たちと出会う

Text by hebaragi
2013/4/3掲載



 映画館へ行くのが好きだ。作品を見る楽しみはもちろんだが、映画館のたたずまいに心が落ち着く。スタッフと交わす会話や他の観客の反応も楽しい。北海道には個性的な映画館が存在している。そんな映画館を鑑賞作品とともに紹介していきたい。

 現在、札幌ではかなりの数の韓国映画を見ることができる。全国公開系は札幌駅直結の「札幌シネマフロンティア」や「ユナイテッド・シネマ」、単館系なら「シアターキノ」と「蠍座」、その中間に位置するのが「ディノスシネマズ札幌劇場」という大まかな棲み分けが形成されているようだ。


ひっそりとたたずむ「蠍座」


 札幌のミニシアターといえばシアターキノが有名だが、もうひとつのミニシアター「蠍座(さそりざ)」は札幌駅北口から徒歩3分のロケーション。閑静な一角にあるビルの地下にある。同じビルにあるコンビニの派手な看板に比べ、蠍座は入口に小さなあんどん型の看板が一個置かれているだけ。最初に訪れたとき、ビルの前を3回通り過ぎてからようやく存在に気づいたほど奥ゆかしいたたずまいである。

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蠍座の入口

 毎月のラインナップが掲載されている『蠍座通信』は、上映作品紹介はもとより、かつて大手の映画館に勤務していた経歴を持つ館主のコラムが楽しい。上映作品は全国公開系ではない国内外の秀作が基本。韓国関係の映画はアート系の秀作の上映が多い。これまでに『春の日は過ぎゆく』、『キムチを売る女』、『アドリブ・ナイト』、『妻の愛人に会う』といった作品が上映されてきた。また、過去には『花を売る乙女』、『怪傑洪吉童』といった北朝鮮の作品も上映された。

 ロビーには落ち着いた雰囲気のカフェコーナーがあり、上映待ちの間、お茶を飲みながらこれから見る映画への思いをめぐらせることができる。注目すべき点のひとつは全国最安と思われる料金だ。1本鑑賞の場合は900円、2本だと1,400円、3本だと2,000円、学生の場合はそれぞれ800円、1,200円、1,800円とさらに安い。これは近くにいくつかある大学や高校の学生たちに気軽に映画を見てほしいとの館主の思いもあったと聞く。体全体が沈み込むフランス製のゆったりとしたシートに身を任せる至福の時間は何物にも代え難い。

 今回見た作品は『おだやかな日常』。休日ということもあってか、客席の7~8割が埋まる盛況ぶり。この作品は、2組の夫婦の生き方を通して、自分たちと異なる意見をもつ者に対して「病気だ」、「宗教だ」などとレッテルを貼って排除しようとする不気味な圧力を描いている。作品には、このような他人に同調することを強いる圧力が2つ登場する。1つ目は幼稚園の保護者たちによるものであり、2つ目は会社の上司からのパワハラ同然の行動だ。同様のテーマを描いた映画に、イラク人質事件をヒントにした小林政広監督の『バッシング』がある。また、コミックが原作のTVドラマ『斉藤さん』は『おだやかな日常』と同じく、幼稚園に通う子どもを持つ保護者間の同調圧力を描いた秀作だ。

 必死の決意でわが子を守る母親を演じた杉野希妃と、不安にかられて行動する隣家の主婦を演じた篠原友希子の表情がストレートに伝わってくるとともに、同調圧力派の保護者を演じた渡辺真起子の演技も強く印象に残る。「あなたの意見に私は同意しないが、あなたが意見を言う権利のために、私は体を張ってたたかう」。民主主義のバックボーンともいうべきヴォルテールの言葉を思い出す。残念ながら、この言葉の精神と正反対のことが起きているのが今の日本社会だ。何か問題が起きたとき、立ち向かう相手を間違えてはいけない。原発の問題とは、今後のエネルギーのあり方だけでなく、日本社会そのもののあり方が問われている問題でもある。震災から2年が経ったが、まるで何事もなかったかのように生活する忘れっぽい日本人。うわべだけの「おだやかな日常」に対する問題提起が見る者全ての胸に突き刺さる。


韓国映画といえば「ディノスシネマズ札幌劇場」


 札幌での韓国映画上映については、ディノスシネマズ札幌劇場を抜きに語ることはできない。2000年代以降、上映本数では他館を圧倒してきたからである。劇場は、札幌最大の歓楽街「すすきの」に近いロケーションで、ゲームセンターやボウリング場などがあるアミューズメントビルの7階と8階にある。客席数の多い1~3番スクリーンではメジャー系の作品、50席前後の4・5番スクリーンではミニシアター系の作品が上映されている。『悪い男』、『春夏秋冬そして春』といったキム・ギドク作品をいち早く紹介するなど、隠れた秀作を意欲的に紹介してきたほか、かつて毎年開催されていた「韓流シネマフェスティバル」の会場にもなっていた。

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ディノスシネマズ札幌劇場の入口

 今回見た作品は『愛してる、愛してない』。『アドリブ・ナイト』、『素晴らしい一日』同様、日本の原作をイ・ユンギ監督が映画化。キャストは人気のヒョンビンとクールビューティー、イム・スジョン。朝イチの上映回はヒョンビン目当てと思われる女性であふれており、筆者が唯一の男性だった。

 雨の一日、別れ話を切り出し荷物の整理をする女と、女に別れを告げられた男の会話を中心に淡々とストーリーが展開する。「思い出の詰まったものはなかなか捨てられない」と言う男に、女は「意味深な言葉ね」と返す。女は言う「なぜ怒らないの?」 男は悟ったように「怒っても状況は変わらないさ」と答える。時間が経つにつれ、主人公2人、とりわけイム・スジョンの表情が微妙に変化していく演出が秀逸だ。筆者が彼女をスクリーンで見たのは韓国の古典『薔花紅蓮傳(チャンファホンニョンジョン)』をモチーフにしたゴシックホラー『箪笥』が最初だったが、一見無表情のようで様々な思いを秘めた表情が印象的だった。その後、『アメノナカノ青空』、『ハピネス』といった作品で薄幸の女性をしっとりと演じたかと思えば、パク・チャヌク監督の『サイボーグでも大丈夫』のような変化球なテーマの作品や、『あなたの初恋探します』のようなラブコメにも出演し、演技の幅を着実に広げてきた。

 「雨が人生を変えることもある」と言ったら言い過ぎだろうか。雨の日は誰しも外出がおっくうになるし気分も沈みがちになる。一方で、雨の日はゆっくりと落ち着いて物事を考えるよい機会と言うこともできる。そんなときに大きな決断をしなければならないとしたら…。ストーリーの中盤、隣家から迷い込んできた子猫と飼い主夫婦の存在が2人に微妙な変化を与えていく。そして、結末は…。全編を通して、しっとりとした空気感が漂い、心地よい印象が残る。


Writer's Note
 hebaragi。北海道在住。知らない街に行ったらミニシアターを訪れることにしている。ミニシアターには、その館独自のユニークな顧客サービスがあったり、全国公開されないご当地ロケの作品が上映されていたりするなど新たな発見も多い。劇場スタッフから街のグルメ情報を仕入れたりすることも楽しみのひとつだ。「酒場放浪記」ならぬ「シネマ放浪記」といったところだろうか。


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