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Interview 映画『福岡』撮影を終えたチャン・リュル監督 ~福岡の街と映画『福岡』に魂を奪われた

Text by 井上康子
通訳:文芝瑛
2018/10/8掲載



 映画『福岡』は、アジアフォーカス・福岡国際映画祭(以下、アジアフォーカス)常連のチャン監督が、福岡を気に入り、福岡で支援を受けて、2018年4月に福岡で撮影を終えたところだ。2010年に監督から「『福岡』というタイトルで映画を撮りたい」と伺ってから、いつか見ることができたらと願っていたので、2018年2月に『福岡』制作が具体化したと聞いたときは感無量の思いだった。今回のアジアフォーカス2018ではメイキングが上映された。ゲスト来福した監督に、映画制作が具体化するまでの経緯や撮影中のこと、映画にこめた思いなどを語ってもらった。

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『福岡』メイキング・イメージ

── 監督はアジアフォーカスに今回が6回目の来訪です。初参加2007年『風と砂の女』、2回目2009年『イリ』、3回目2010年『豆満江(とまんこう)』、4回目2014年『慶州』、5回目2017年『春の夢』上映時でした。2010年のインタビュー時に「『福岡』というタイトルで映画を撮りたい」とお話しでした。2014年のインタビューでも「福岡で映画を撮りたい」と発言されました。「福岡が好き」ということも聞いていましたが、福岡のどういうところが好きなのですか? また、いつから好きになったのでしょうか?

最初の来訪の時からです。開放感があって、様々な文化が触れあい、色々な人が仲良くしていると思いました。2007年に映画祭会場近くのお寿司屋さんに行った時にイカを注文したら品切れになっていたんですが、隣席の老人が「一緒に飲みましょう」と声をかけてくれて、ご馳走になり、イカも食べることができました。こういうことは、ソウルでも北京でも東京でもあり得ないことで、福岡を好きになりました。心が開かれていないと人に声をかけたりできません。初めて見る人には警戒心を持つのが普通でしょう。都市空間も食べ物がおいしいところも好きです。

── 2007年から映画を撮りたいと思っていたのですか?

映画には時間が必要です。この空間が好きになり、何回も来るうちにここで撮りたいと思うようになりました。徐々にそういう気持ちになりました。

── 「監督が福岡で撮る」と最初に聞いたときは特殊な映画になるだろうし、日本人俳優が出演する小さい規模の作品になるのだろうかと思ったのですが、クォン・ヘヒョさん、ユン・ジェムンさんというベテラン韓国人俳優が主演と知り、大規模な作品で韓国での公開を前提にしていると分かりました。具体化には資金調達などの問題があったと思うのですが。

「この映画を撮ろう」「福岡で撮ろう」という決定をして、最初に考えないといけないのは資金です。投資者を得られませんでした。これまで映画を作ってきて、初めて自腹で作りました。韓国の銀行でお金を借りて撮影したのです。来年公開されて、集客できなかったら、貧乏になってしまいます。考えてみると、福岡という街、『福岡』という映画に魂を奪われてしまったんですね。映画界では「映画監督は自腹で映画を撮るようになったら落ちぶれる」と言われていています。何で自分が銀行でお金を借りてまでこの映画を撮ったのか今でもわかりません(笑)。

── 自腹を切ってまでして撮ったとは驚きました!(小声で)銀行でいくら借りたんですか?

俳優さんたちはみんなノー・ギャラで出演してくれたので予算を明らかにするのは申し訳なくてできないのです。映画が成功すればギャラを支払えるのですが。皆さんの協力で撮影を終えられたのです。

── 『春の夢』に出演した、パク・ジョンボム監督、ユン・ジョンビン監督、ヤン・イクチュン監督たちなら、監督同士で協力ということもあってノー・ギャラで構わないということになるでしょうが、クォン・ヘヒョさんもユン・ジェムンさんもギャラの高い俳優で、そういう人がノー・ギャラで出演したというのは監督作品に出たいという気持ちからですね。

ギャラが生じればこの映画は完成できないということを了解して参加してくださったんだと思います。だからこの映画は必ず成功しなくてはならないんです。成功すれば参加してくれた俳優さんたちに恩返しができます。

── 主演3人、クォン・ヘヒョさん、ユン・ジェムンさん、パク・ソダムさんはどういうふうにキャスティングが決まったのですか。

ユン・ジェムンさん、パク・ソダムさんは『群山』(釜山国際映画祭2018上映作)に出演してもらい、撮影時に「次回作にも喜んで出る」と言ってくれていました。クォン・ヘヒョさんには釜山国際映画祭2017のお酒を飲む場で挨拶をした時に「監督の映画に出たい」と言われ、言葉だけかもしれないと思っていましたが、連絡したら「喜んで出演する」と言ってくれました。

── 皆さん、監督の映画に出たいという気持ちで、監督の力ですね。クォン・ヘヒョさんが居酒屋主人、ユン・ジェムンさんが古書店主というのは監督らしい渋い設定ですね。

本を読むことも、お酒を飲むことも好きなので(笑)。

── 福岡からは山本由貴さんがキャスティングされていますね。

『福岡』プロデューサーの西谷郁さん(アジアフォーカス・プログラマー)が同じくプロデュースした『ある女工記』(アジアフォーカス2016上映作)に出演しているのを見て良い印象があり、実際に会って決定しました。

── 撮影中の苦労をメイキング上映後のトークでスタッフが語っていましたが、監督の立場で撮影中の苦労はありましたか。

メイキングを見て、大変だったんだと初めて知りました。監督は創作のことしか考えていません。スタッフもいちいち監督に報告はしませんし、苦労なく幸福に撮影していたので驚きました。そういう風に見ると監督は性格の悪い人間が適しています。他の人の状況に鈍いくらい自分勝手な人が向いているのでしょう(笑)。

── 映画のストーリーですが、学生時代に親友と仲違いした古書店主が、そのことを悔やみ、福岡に住む元親友の居酒屋主人を訪ねるというのは、変わっていないのでしょうか。監督が年を重ね、悔やんだことをやり直したいというような気持を映画に反映させたのかもしれないと思いました。

ストーリーはそのままです。自分のことではなく、周囲を見てそういう人が多いと思いました。みんな後悔や反省をしながら生きていますが、過去に戻れるとしても、また同じような判断をしたり、失敗をしたりするものです。やり直すというより、もう1回機会を持つということに意味があると思います。

── 「福岡三部作として次は『柳川』で撮る」という話が西谷さんからありましたが、具体化しているのでしょうか?

『柳川』は半分冗談です。でも冗談が現実になることもありますよね。釜山国際映画祭2018のAPM(映画企画を持っている人と投資家が会する場)で投資が得られれば、撮影ができます。また、『福岡』が大成功して資金を回収できれば『柳川』が撮れます。そういう展望が見えますか?

── 見えます!



 来年は編集を終えた『福岡』を拝見できるそうだ。監督が福岡で受けたインスピレーションによって福岡がどのように描かれているのだろうか。見せてもらうのを心待ちにしている。『柳川』も見たい。

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チャン・リュル監督


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2018
 期間:2018年9月14日(金)~9月23日(日)
 会場:キャナルシティ博多(ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13)
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。『福岡』のロケ地は、チャン・リュル監督がアジアフォーカス来訪時に散策した場所が選ばれている。六軒屋公園は地元の人もあまり知らない、小さな公園だった。そこからロケ協力をした中華料理店に行き、お昼を食べた。小さい中華屋さんの味は化学調味料の味でなく、手作りの味で毎日通いたいくらい、おいしかった。


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Interview 『1987、ある闘いの真実』チャン・ジュナン監督 ~この映画で、美しさや純粋さがあった時代をふり返って欲しい

Text by Kachi
2018/9/4掲載



 時計が規則正しく時を刻む音と、映写機の回転音が響くファーストシーン。あの日あの瞬間に、時間が巻き戻される。まず映るのは、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領の動向を伝える「テンチョン・ニュース」と揶揄された夜9時のニュースだ。

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 『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』が、民主化運動の端緒となった光州事件の告発と闘いを熱く描き切った作品なら、チャン・ジュナン監督『1987、ある闘いの真実』は、尊厳を失って腐り果てた公権力の崩壊の足音を克明に見つめた映画だ。韓国映画界が誇る、華も実力もかね備えたオールスター役者陣が集結したという以上に、人民の気概を強く感じる。民主化運動とは、このようにドラマチックな熱風が吹き荒れた季節でもあったのだと痛感する。

 チャン・ジュナン監督は、『ファイ 悪魔に育てられた少年』以来4年ぶりの新作である。今回、来日した監督にインタビューを行った。

── 民主化運動家ジョンナム(ソル・ギョング)が聖堂から逃走するシーンで、窓のステンドグラスのキリスト像に重なるカットがあります。彼を捕まえようとしたパク所長(キム・ユンソク)はそちらに目を向けるのですが、陽の光で確認できず、結局取り逃がしてしまいます。キリスト像とジョンナムが重ね合わせているように感じました。このシーンの撮影でのエピソードを教えてください。

歴史の事実を伝える映画なので、観客が事実として受け止められるように、映画的な演出を最大限排除しようと考えました。そのため映画の始めのところも、ドキュメンタリー的な感じがあると思います。カメラの方向、ワーキング、もちろんズームなどもありますが、カメラを意識できないような状況で使いました。皆さんが一般的に見ているニュースですとか、ドキュメンタリーを撮っている時の方法を活用しました。しかし聖堂のシーンは、私がもう少し映画的な演出をしてみたいと欲を出したシーンです。ステンドグラスのシーンは、最後まで議論がありました。キリスト、鳩、影は、CGが出来上がる前まで、「なぜあれをやらなければいけないのか?」「時間の浪費では?」「退屈ではないか?」と制作側から意見があり、口論したシーンです。でも完成したシーンを見て、私は制作側と戦ってよかったと思いました。

── 南営洞対共分室パク所長が経験したことは、本当にあったことなのでしょうか?

映画的介在のあったシーンです。フラッシュバックをサウンド処理することによって新しい映画的経験をかもし出すことができると考えました。隣の部屋から聞こえてくる悲鳴の声と過去が結びつくように気を使いました。本当にヒヤヒヤしましたが二人の俳優が立派に演じてくれました。また、観客の皆さんが色々な解釈をできるように余地を残しました。竹は、南の方で育つ植物で、北朝鮮では一般的ではありません。ですので、南北のイデオロギーの違いについて話がされる時、「竹やり」が象徴的に出されることがあります。(自身の心の傷について)所長が真実を述べているのかもしれないし、単身で南に渡った彼が、生き残るために自身のキャラクターを作り上げ、ドラマを創作したとも考えられるよう描きました。キム・ユンソクさんとは色々なことを話しましたが、このシーンを演じる時は「真実だろうと信じて演じよう」と言いました。

── 政治的、あるいは歴史的な題材を映画で表現するのは、現在の韓国では難しいことでしょうか? 政権が変わる前と後では何か変わりましたか?

作品のオファーを最初にいただいた時は朴槿恵(パク・クネ)政権下でしたので、シナリオの脚色を秘密裏に行わなければなりませんでした。これは実話に基づいているので、本来であれば生存している人物にインタビューすることが基本ですが、できませんでした。私たちがこういう映画を作っているという噂が広まっても、不利益や妨害があるかもしれないと危惧しました。私たちは可能な限り、紙の資料をたくさん集めて作業を行いました。作っている間も、無事に完成させてお客さんに届けられるのかとても心配でした。1987年は、本当に奇跡のような出来事があった時代と言えますが、私たちが映画を作り上げたことも、同じく奇跡的なものだったのではないかと思います。
製作当時、政治の世界では、私たちがコントロールできないような状況が次々に繰り広げられていました。崔順実(チェ・スンシル)ゲートが明らかになって、政権の腐敗が発覚し、その後政治的な状況がダイナミックに転換していきました。一方で、俳優の皆さんが勇気を出してこの作品に参加する意思を表明してくださいました。そういった皆さんの力が合わさることによって、この映画を届けることができました。本当に奇跡的なことだったと思います。私は迷信を信じませんが、時折、誰かが見守ってくれていたのではないかと思うことがありました。映画の封切りの頃はかなり状況が変わっていました。公開数週間後、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が実際の遺族の皆さんと映画をご覧になりました。

── 今、日本では報道の自由が侵害されていますが、そうした中で暮らす日本の観客に何かメッセージをお願いします。

(日本語で)本当ですか?(苦笑) 映画にも描かれていますが、様々な人々がそれぞれにおかれた立場において、良心を守ることがいかに重要で、大きな力を発揮するかということがお分かりいただけたかと思います。そういったことがあってどのように歴史を作り上げていくか、変えていくのかということをこの映画は伝えています。本作に登場するユン記者(イ・ヒジュン)は、独裁政権と立ち向かい、真実を報道しようとしています。また女子大生ヨニ(キム・テリ)が光州事件のビデオを見るシーンがありますが、これは『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』でも描かれている、日本でも特派員として活動していたドイツ人記者が撮影したものです。こういったものも、韓国の歴史を大きく変えました。ですので、マスコミの力がいかに重要か、再度考えていただきたいです。参考までに申し上げますと、ユン記者はその後東京特派員でしたが、働き過ぎて過労死されたそうです。

── 監督は1970年生まれで、作品で描かれているデモの主な担い手である、いわゆる「386世代」の下の世代です。この映画は、国家と民衆とに単純に善悪に分けて対立させるのではなく、もっと複雑な立場や、多様な感情の人間たちを描いています。世代による監督の一歩引いた立ち位置は、そうした構成に何か影響があったのではないでしょうか?

複雑な側面があります。1987年に大統領直接選挙を国民が勝ち取りましたが、野党の金大中(キム・デジュン)と金泳三(キム・ヨンサム)が統一候補を立てられずに分裂してしまい、軍事政権を引き継いだ盧泰愚(ノ・テウ)大統領が当選してしまいました。ですから、私が大学に入学した時も、学生運動が盛んで、デモも行われていました。当時の人々は、勝利を手にはしたものの、同時に敗北感も抱いていたのです。そういった時代に私は大学生活を送っていました。私が学生の頃、キム・ギジョンという学生がいましたが、彼はデモの最中に亡くなりました。私も関連するデモに参加していて、催涙弾を受けました。デモの雰囲気に完全には入っていないかもしれないけれど、空気を十分に感じる立場にいたのです。映画を作るうえで、現実的な距離感がありすぎなかったことが、うまくまとめられた要因でもあります。同時に、時代の雰囲気を逃すこともなかった、と言えます。この時代を生きてきた方々が、私にこんなことをおっしゃっています。

「自分は本当にその時代を熾烈に生きてきた。だから現在もその中に閉じ込められ、囚われているから、客観的に事件をみつめることができなかった。だからこうして上手くまとめてくれてよかった。」

本当にありがたいと思いました。

── 朴槿恵前政権でも弾圧が起こっていました。歴史が繰り返されたのも事実です。弾圧とはなぜ起こるのでしょうか? 監督はどう思いますか?

この映画は歴史的事実を扱っています。歴史とは、一歩一歩進むにつれて、その足跡を残していき、後に続く歴史に影響していきます。日本のみなさんが韓国の現代史をすべて理解しているとは思いませんが、朝鮮半島は分断されている。戦争を経験している。朴正煕(パク・チョンヒ)政権が存在した。また、阪本順治監督が『KT』で描いた金大中拉致事件があった。学生運動もありました。朴正煕政権は終わりを迎えましたが、結局、後を継いだ(全斗煥大統領による)軍部独裁政権が始まります。お互い多くのエネルギーが足跡を残しながら、今に至っているわけです。1987年、この時に韓国において直接選挙制が始まり、憲法が改正されて憲法裁判所が作られました、昨年、朴槿恵前大統領が審判を受け、大統領の権利を剥奪されたのもここです。このように歴史とは奥深いもので、互いに影響を受けながら続いています。
私がこの映画のシナリオを書いている時、ろうそく革命が韓国で起きました。非常に悲しかったです。

「広場で人々が革命を起こした映画のシナリオを書いている最中、また30年経って同じことが起きている。何故だ?」

と。一方で、人々がまた力を合わせて民主化に向けて半歩進んでいる、踏み出すことができたとも思いました。歴史が前に進んだのだと期待したいです。歴史学者みたいですね(笑)。

── 1987年当時のスローガンが「あの日が来れば」だったと思います。「あの日」とは理想的な日のことだと思うのですが、監督自身はその理想に向かって動いていると感じていますか?

そう信じたい、と思います。1987年、私たちは本当に純粋で、熾烈な闘いによって独裁政権から大きな権利を勝ち取りました。その時に歌っていた曲が『その日が来れば』でした。「この歌が今現在の私たちにも有効ですか?」と問いかけたいです。1987年に大きな闘いを通して、革命に似た成果をあげました。しかし、その後私たちはどのように生きてきたのでしょうか。マンションの値段が高騰しているのは何故でしょうか。(既得権益に甘んじる)386世代の人たちによって値上がりさせられているのではないでしょうか。私たちがもう一度、あの時のことを振り返ってほしい、この映画がその鏡の役割を果たして欲しい、という思いで本作を作りました。この鏡をのぞき込むことによって、美しさや純粋さがあったあの時代を、映画を通してもう一度ふり返って欲しいのです。


 本作には当初、『普通の人』というオリジナル・タイトルがついていた。ごく普通の生活、権利、幸福を求めて生きている者たちが岐路に立った時に直面する、その一瞬一瞬の選択が実に劇的だ。自分ではどうすることもできないような、大きな社会の渦に巻き込まれてしまった時、人はどうすべきなのか。ラストシーンで淀んだ現実に突き上げられる拳は、か細いが、力強い。


『1987、ある闘いの真実』
 原題 1987 英題 1987:When the Day Comes 韓国公開 2017年
 監督 チャン・ジュナン 出演 キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、パク・ヒスン、イ・ヒジュン、ソル・ギョング、カン・ドンウォン、ヨ・ジング、ムン・ソリ
 2018年9月8日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://1987arutatakai-movie.com/


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Interview 『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』チャン・フン監督 ~大統領から「歴史を忘れずにいてほしい」と言われた

Text by 加藤知恵
2018/4/15掲載



 2017年に韓国内で1,200万人を動員し、その年のNO.1ヒット作となった『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』が、4月21日(土)より全国で公開される。

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 トンネルを抜ける1台のタクシー。運転しながらチョー・ヨンピルの「おかっぱ頭」を熱唱するのは、主人公のマンソプだ。しかしそんな楽しい気分に水を差すように、車は突如、デモによる渋滞に巻き込まれてしまう。時は1980年5月。新軍部の布告した戒厳令に抗議し、ソウル市内でも市民・学生による民主化運動が激しさを見せていた。

 一方、日本で韓国の情勢悪化のニュースを耳にしたドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターは、宣教師と身分を偽って韓国へ入国。何が起きているのかを自身の手で取材するため、光州入りを決意する。

 男手1つで11歳の娘を育てているマンソプは、家賃を滞納するほど生活に窮していた。そしてその時、他の運転手が「外国人客を乗せて光州まで行き、通行禁止前にソウルへ戻れば10万ウォン」と口にするのを聞き、客を横取りしてしまう。

 片言の英語とボディランゲージで何とかコミュニケーションを取り、外国人客“ピーター”を光州へ連れて行くマンソプ。しかし外部からの通行も絶たれ、軍部による情報規制まで行われていた光州では、想像もできないほど悲惨な状況が2人を待ち受けていた。

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左からユ・ヘジン、ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、リュ・ジュンヨル

 本作は、光州で起きた民主化デモに対し、軍部が実弾射撃を含む武力で制圧を行った、所謂「光州事件」を題材としている。偶然事件を目撃することになったのは、民主化運動になど何の関心もなかった、ソウルの平凡なタクシー運転手だ。そんな彼がドイツ人記者ピーターや光州市民との出会いを通じ、憤り、葛藤し、自らの意思で事件に立ち向かっていく。幅広い演技を必要とする主人公マンソプの役を、名優ソン・ガンホが見事に演じている。情深く、義理堅い光州市民として登場するユ・ヘジンやリュ・ジュンヨルの熱い演技も味わい深い。そして本作の要とも言えるピーターを演じるのは、『戦場のピアニスト』(2002)、『ヒトラー 最期の12日間』(2004)等、日本でも重厚な歴史映画への出演で知られるトーマス・クレッチマンだ。

 光州事件という歴史的に重い素材をテーマにしながら、ユーモラスな場面も多く、心温まる作品に仕上がっているのは、数々のヒット作を生み出してきたチャン・フン監督の手腕によるものだろう。次回作の撮影スケジュールにより、残念ながら今回は来日不可能とのことであったが、監督に電話取材をする機会を得た。

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チャン・フン監督

── マンソプ役のソン・ガンホさんはもちろん、ユ・ヘジンさん、リュ・ジュンヨルさんなど、全てのキャスティングが絶妙だと感じましたが、ドイツ人記者ヒンツペーターの役はどのように決まったのでしょうか?

ドイツ人記者の役なので、ドイツ人の俳優に演じてほしいと思っていました。実はトーマス・クレッチマンについては、『戦場のピアニスト』を見て以来のファンで、ドイツ人俳優として最初に思い浮かんだのは彼でした。とても忙しい方なので難しいだろうと思っていましたが、実際に連絡をしてシナリオを送ったところ、意外にも気に入ってくれて、快く引き受けてくれました。

── 彼は作品のどんな点を特に気に入って、出演を決められたのでしょうか?

彼に初めて会った時、この作品を通じて韓国の人々に何を伝えたいのか既に理解していると感じました。彼自身も東ドイツの出身で、危険を冒して西ドイツへ亡命をした後に俳優生活を始めた経緯があるので、歴史への関心が深い方です。この素材やストーリーが韓国の観客にとって重要で、意義深い作品になるだろうということを、最初に会った時から話していました。そして「ドイツ人俳優として、この記者の役をぜひ演じたい」と言ってくれました。

── 歴史的にセンシティブな素材を扱っているため、監督も最初は躊躇され、主演のソン・ガンホさんも一時は出演をためらわれたと聞きました。結果的に出演を決められたのは、監督が説得をされたからでしょうか?

私は説得していません。簡単に説得できる方でもありませんし(笑)。俳優として出演作を選ぶ確かな目を持っている方なので、作品自体に何らかの魅力を感じられたのだと思います。一度は断ったものの、ずっと本作のことが気になっていたそうです。そのずっと忘れられなかった部分が、出演を決める理由になったのではないかと思います。

── では撮影中も監督が演技指導をされたというよりは、ソン・ガンホさんにお任せするような形で進められたのでしょうか。

作品の方向性については撮影に入る前に十分に話しあったため、現場ではあまりそのような話をしませんでした。彼も演技の方向性は固まっていましたし、私もイメージが見えていたので、撮影中に修正が必要な部分がある時だけ再度話しあいました。

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監督オフショット

── 歴史的事件を背景に再構成されたストーリーとのことで、監督は実際にヒンツペーターさんにも会って取材をされたと伺いました。登場人物のキャラクターやエピソードに関して、フィクションとノンフィクションのバランスを伺いたいです。例えば、マンソプが過去にサウジアラビアで働いていたという設定や、「タクシーがケガ人を運ぶだけで罰せられた」というセリフは事実だったのでしょうか?

マンソプがサウジアラビアへ出稼ぎに行っていたという設定は、キャラクターを作り上げる上でのフィクションで、タクシーの運転手がケガ人を運んで処罰されたというのは、実際にあった出来事です。ヒンツペーターさんについては準備段階で本人に確認を取ることができたので、若干映画的に見せ方を変えた部分はあるものの、ご自身のキャラクターに近いです。しかしその他の人物はどんなに捜しても見つからず、情報もほとんどなかったため、作り上げるしかありませんでした。韓国史の重要な一場面を再構成する上で、観客が自然に感情移入できるようにということを考えてイメージしました。実は、本作の公開後に(マンソプのモデルであるキム・サボク氏の)息子さんが現れて話を伺ったのですが、映画とは違う部分もかなりありました。しかし本作をきっかけにキム・サボクさんを捜し出すことができ、彼の実際の姿を知ることができたという意味で、とても嬉しかったです。

── ヒンツペーターさんはキム・サボクさんのことをどんな方だと仰っていましたか?

ヒンツペーターさんよりは年上に見えたようで、光州へ入る時に検問に掛かって裏道から入ったのを見た時は、とても機転の利く方だと思ったそうです。そして大変優しい人だったと言っていました。キャラクターを構成する上で、それ以外に参考にできる情報はありませんでした。

── 公開後に息子さんが現れたというお話ですが、実際は事件の4年後にサボクさんは亡くなっていたそうですね。劇中ではマンソプが別れ際に偽名を伝え、その後ヒンツペーターさんのことを気にしながらも名乗り出なかったという設定ですが、監督はなぜ会おうとしなかったとお考えでしょうか?

本作を準備する過程で、キム・サボクさんを捜し出すために、製作会社を通して全国でキム・サボクという名前の人を全て調べてヒンツペーターさんに写真を送りました。彼らの中に本人がいないかどうか、確認をお願いしたんです。しかしそこにはいないと言われました。私としては、そんなに早く亡くなっているとは思わず、きっと今もどこかで生きていらっしゃると信じていました。それでも名乗り出ないのは、軍事政権において危険な目に遭うのを恐れていらっしゃったからなのかなと。そして直接何もしてあげられなかったという光州市民に対する罪悪感のために、出てこられないのではないかと思っていました。息子さんから聞いた事実は異なっていたものの、観客の方々は劇中のサボクさんと実際のサボクさんという2つの姿に触れ、別の視点から歴史を見ることができたという点で、結果的によかったと思っています。

── 終盤のカーチェイスのシーンも大変見応えがありましたが、個人的にはトランクの中でソウルのナンバープレートを見つけながらも見逃してくれた軍人が印象的でした。彼については具体的な理由や設定はあったのでしょうか?

意図的に設定したわけではなく、実際にそういう出来事があったとヒンツペーターさんから聞きました。命令に従うべき軍人ではあるものの、個人として判断した部分もあったのだと思います。彼以外にも、ヒンツペーターさんが空港から出国する際に、フィルムの存在に気付きながら見逃してくれた人々がたくさんいたそうです。もしも全ての人が自分を捕まえようとしたならば、出国できなかっただろうと語っていました。そのような状況を描くためのキャラクターであり、実在した人物でもあります。

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撮影中の監督

── 少し雰囲気の違う質問ですが、マンソプやジェシクが劇中で歌っている当時のヒット曲はどのように選択されましたか?

冒頭でマンソプが登場するシーンで歌う曲は脚本家と相談しながら決めましたが、その他の曲は既にシナリオに書かれていました。当時の風潮をよく表している曲の中から、各場面に合ったものを選択しています。

── 文在寅大統領も本作を鑑賞されたとのことですが、大統領から監督に対して何かコメントはありましたか?

ヒンツペーター夫人がいらした時に、大統領も一緒に本作を鑑賞しましたが、まずは夫人へ当時の苦労に対する感謝の言葉を伝えられていました。そして私にも「若い世代をはじめ、たくさんの方々がこの作品を見て、歴史を忘れずにいてほしい」と仰っていました。

── 本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございました。監督の今後の作品も楽しみにしております。



『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』
 原題 택시운전사 英題 A Taxi Driver 韓国公開 2017年
 監督 チャン・フン 出演 ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル
 2018年4月21日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
 公式サイト http://klockworx-asia.com/taxi-driver/

Writer's Note
 加藤知恵。本作では光州の純朴な大学生を演じ、現在公開中の『ザ・キング』では、主人公の親友で暴力団組員という男くさい役どころを熱演しているリュ・ジュンヨル。変幻自在な彼の魅力を両作品で堪能するのもお勧めです。


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Interview 『風の色』クァク・ジェヨン監督 ~ドッペルゲンガーを通して純粋な愛を描いてみたかった

Text by Kachi
2018/1/25掲載



 クァク・ジェヨン監督の最新作『風の色』が、1月26日(金)全国公開される。『風の色』は、2013年に監督の原案によるウェッブ・コミックとして韓国で話題になり、昨年、日韓合作映画として製作された。

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 記憶を失った涼(古川雄輝)は、ある日、亜矢(藤井武美)に出会う。突然姿を消してしまったかつての恋人ゆり(藤井武美:一人二役)に瓜二つの彼女は、涼に生き写しな天才マジシャンの隆(古川雄輝:一人二役)と愛しあっていたが、彼は海中脱出のマジックに失敗し、海で行方不明になっていた。二人は自然と惹かれてゆくが、そこには大きな秘密が隠されていた…。

 クァク・ジェヨン監督は『猟奇的な彼女』や『時間離脱者』など、どこかファンタジックな恋愛映画で知られている。今も韓国映画界で恋愛映画というジャンルの牽引者である監督に、インタビューを行った。

── ゆりは、出会って100日目で涼の前から姿を消してしまいます。また、涼がマジックバー「フーディーニ」の店長(竹中直人)に、彼女との思い出の品を預け、そして記憶を失い、また店長の元を訪れるのも、100日後のことです。韓国では恋人たちにとって「100日記念日」は重要だそうですが、映画の中で「100日目」というのは何か意味がありますか?

特別に意味を持たせたわけではありませんが、確かに韓国では恋人たちの一つの区切りとして100日があります。また、私たちは100日前の記憶といわれても曖昧になっていて特に思い出せませんよね。そういうことを考えて設定をしました。

── 古川雄輝さんは、天才マジシャンとして実際劇中でマジックを披露するシーンが多いです。手品は手際が重要で、プロのように見せるのは大変だったと思います。

そうですね。今回、手品指導はMr.マリックさんにお願いしていますが、古川さんはとても上手くやっていました。元々指が長く、手もきれいで器用ですしね。「本物のマジシャンになったらどう?」なんて言ったくらいです。

── 藤井武美さんは、熾烈なオーディションを勝ち抜いてヒロインに抜擢されましたが、決め手は何でしたか?

藤井さんは、作品で見せた以上に、色々な表情がたくさんある女優です。もし私がもっと若いときに出会っていたら、きっと恋をしていただろうなと思います。私が選んだ女性が日本の観客の皆さんに気に入ってもらえるか少し不安でしたが、(映画祭での観客の反応を見て)安堵しています。

── 助演の竹中直人さんはいかがでしたか?

竹中さんは『Shall we ダンス?』での印象が忘れられないほど強烈で、大好きな俳優です。『僕の彼女はサイボーグ』にも出ていただきました。そこでも素晴らしく面白い演技で、作品のスパイスとなってくださったのです。本作は主演の二人がほぼ新人俳優なので、助演の竹中さんに出演していただくことで重みが増すのではと考えました。お願いしたところ、快く引き受けていただけました。今回は竹中さんも一人二役なので、とても難しかったのではないかと思いますが、楽しく見事に演じてくださいました。

── 『僕の彼女はサイボーグ』や『時間離脱者』、また今作など、監督は異空間や互いの異なる存在を超えて惹かれあう恋人たちを描くことが多いですね。そうした題材に関心がある理由は何でしょうか?

異空間や別の時間軸というものは、作品にファンタジー性を持たせられて、何かを探求するようなストーリーが出来あがるので好きです。また、従来のラブストーリーは、男女が出会って愛しあい、別れ、また出会って愛しあうという決まった型が出来てしまっています。そこから抜け出すことで、映画に楽しみを与えることができると考えています。

── そうした世界観に「どんなことがあっても相手を愛し抜く」という、いわば「無償の愛」を思いました。

もし現実世界でこういった愛がたくさんあれば、たぶん皆さん感動もしないですし、価値も薄れてしまうでしょう。私たちが生きている現実の世界での愛は、すぐに相手のことを忘れてしまうし、自分の利益で相手を選んだり捨てたりということが多い気がします。だからこそ私は本作のような映画を撮りました。ドッペルゲンガーというのは今まで悪いイメージばかりだったのですが、今回はドッペルゲンガーを通して純粋な愛を描いてみたかったのです。そういう描き方は初めてなのではないでしょうか。

── 今、監督が仰ったように、現代は恋愛が簡単になりつつあります。監督がラブストーリーを撮り続けるモチベーションは何でしょう?

愛というのは大切なものだということを皆さんに考えて欲しいという思いです。長く愛するということは、それだけ自分の誠意を相手に見せることができるのです。誰かを愛する時の感情を大切にして欲しいですが、それはなかなか難しいですよね。愛が冷めている、あるいは見つけられないという方は、ぜひ本作を観て欲しいです。

── 日本の観客へメッセージをお願いします。

この映画は東京と北海道の美しい風景がたくさん出てきます。ドッペルゲンガーなどミステリアスな要素もあります。一番伝えたいのは、愛を皆さんの身近なところでみつけて欲しいということです。あまり複雑に考えず、作品の映像と音楽に酔いしれてもらえたら、気に入っていただけると思います。


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『風の色』
 韓国語題 바람의 색 英題 Colors of Wind 2017年 日韓合作
 監督 クァク・ジェヨン 出演 古川雄輝、藤井武美、石井智也、袴田吉彦、小市慢太郎、中田喜子、竹中直人
 2018年1月26日(金)より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
 公式サイト http://kaze-iro.jp/


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Interview 『春の夢』チャン・リュル監督 ~自分の考えるリズムに合わせて作り、判断は観客に委ねる

Text by 井上康子
2017/10/21掲載



 チャン・リュル監督は2007年に『風と砂の女』で初めてアジアフォーカス・福岡国際映画祭(以下、アジアフォーカス)に参加。その後もアジアフォーカスでは2009年に『イリ』、2010年に『豆満江(とまんこう)』、2014年に『慶州』が上映され、今回の『春の夢』は5作品目の上映になる。映画祭が10年を越えて特定の監督作品を上映し続けるというのは稀有なことだが、それは独自の作品を作り続けることができているからこそだ。アジアフォーカス11年目を迎えた監督に『春の夢』を中心に語ってもらった。

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── シンポジウム「パク・ジョンボムとユン・ジョンビンが語るチャン・リュルの世界」で、『春の夢』の舞台になった水色洞(スセクドン)について「自分の住む街と異なり、人の感情が見える」と発言され、監督が水色洞に惹かれたのだと思いました。水色洞が作品制作のきっかけになったのでしょうか?

私が住んでいる地域は放送局があるビルの森のようなところで、私が住んでいるマンション以外に住宅はありません。私は人が住む街の中で育ったので、昔ながらの市場もある水色洞に行くと気持ちが落ち着きます。頻繁に訪れる慣れた空間です。その風景を自然に撮るようになりました。だから意識してここを撮ろうと思ったというより、自分の慣れ親しんだ場所をただ撮ったという感じです。私が住む街から水色洞までは15分位の距離で近くて撮影に便利だったということもあり、最終的に水色洞を舞台にした映画になりました。私の住まいから水色洞へは地下通路を渡って行くのですが、私の街と水色洞は別世界のように違います。風景や雰囲気ががらりと変わるのです。そのことで水色洞は非現実的な夢のような空間に感じました。それでその空間を撮ったら自分の感じた夢の感覚が映画に投影されたのだと思います。

── 作品中、ジョンビンが「羊肉を食べに行こう」と言っていました。中国に住む朝鮮族は羊肉を食べる習慣があり、監督は朝鮮族なので、水色洞は朝鮮族が多い地域なのかもしれないと思いましたが?

ジョンビンが「羊肉を食べに行こう」と言っていた所は朝鮮族が多い地域で、そこは水色洞ではありませんでした。水色洞は朝鮮族が多い地域ではありません。

── 監督のように中国からソウルに来た朝鮮族のイェリが営む居酒屋は「故郷」という名前で、彼女はアン・スギルの「北間島」(北間島は現在の中国吉林省延辺朝鮮族自治州にあたる)を愛読していました。これは監督自身が故郷を懐かしむ気持ちが強くなったことが投影されているのかもしれないと思いましたがいかがですか?

故郷を懐かしむのは誰もが持っている感情です。自分が特に懐かしく思っているということはありません。イェリという人物から出発して、彼女のような朝鮮族で延吉(延辺の中心都市)出身の人ならと本も選びました。「故郷」という居酒屋は実際に水色洞にあった居酒屋で、閉まっていてどういう店かわかりませんでしたが懐かしさからこういう名前にしたのかと思い、名前を借りました。

── キャスティングについて、シンポジウムで、監督でも俳優でもあり、本作に主演した「ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンは水色洞の質感に合うのでキャスティングした」とお話でしたが、質感の内容はお金がないとかソウル社会の主流にいないということになるのでしょうか?

彼らの顔を見ると街に相応しい雰囲気を持っていますし、彼らが撮った作品の3人のキャラクターは非主流の人を描いています。ユン監督は江南に住んでいるけれど江南の人だという気がしません。もう少し庶民的な地域に移るんじゃないかという気がします(笑)。

── 『春の夢』というタイトルが上映開始して30分位経って出てきたので驚きました。誰もいなくなったタイミングだったのもあって、それまでのことが夢だったような不思議な感覚に捉われました。最初にタイトルを出さなかったのはなぜですか?

映画全体のリズムを考えた結果です。あそこが合います。

── 寝たきりのはずのイェリのお父さんの声が聞こえてきたり、居酒屋に銃を持って来た男の銃が偽物だったり、夢か本当かという仕掛けを意図的にいろいろ作ったのでしょうか?

自分が考えるリズムに合わせたらこういうふうになりました。見る人によっていろいろ違うでしょうが判断は観客にしてほしいです。いつも上映後に観客と話すと監督よりも明確に分かっているなあと思います(笑)。

── 監督は2007年に『風と砂の女』上映でおいでになった時は中国語で話をされました。その後は韓国語で話をされるようになりましたが、脚本を韓国語で書くのは負担のある作業ではありませんか?

書く時は中国語で書いています。会話は韓国語でできるので口述筆記で脚本を作っています。

── シンポジウムで「ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンという実名を役名にしたのは名前があまり洗練されてなくて水色洞の住人に相応しかった」とお話しでしたが、韓国語の名前について洗練されていないというようなイメージを持つことができるのは監督の言語能力が既に高いからでしょう。

今はだいたいそういう感じがつかめる様になりました。

── 中心的な人物ではない登場人物の中にボーイッシュな女の子がいると思っていたら、彼女はトランスジェンダーでイェリのことを愛しているのが分かりました。どうして彼女を登場させたのでしょうか?

そういう人は現実世界でどこにでもいます。また、イェリが男性からだけでなく、女性からも愛されるというのを自然に表現するための人物だったという気がします。


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 アジアフォーカスで上映された『風と砂の女』『イリ』『豆満江(とまんこう)』は自身がマイノリティである朝鮮族であることを自覚して作られた初期代表作『キムチを売る女』同様に苛烈を極めるマイノリティの境遇を描いていたが、3年前の『慶州』は作風がガラリと変わり、穏やかに生と死を見つめる作品だった。本作では喜びと悲しみだけでなく、もはや生と死も融合し、監督はそれらを俯瞰して眺めているように思える。彼の興味と体の中に蓄えられたリズムは今後も変化していくに違いない。チャン・リュルはこれからどこに行くのだろう。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017
 期間:2017年9月15日(金)~9月24日(日)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。中国に住む朝鮮族の存在を意識するようになったのは朝鮮族であるチャン・リュル監督の存在や監督作品を知ってからだ。朝鮮族自治州・延吉にはなかなか行くことができず、ソウルの朝鮮族街・加里峰洞に立ち寄ってみた。目に飛び込む看板の文字はハングルでなく漢字、食堂からは羊肉の香りが漂い、朝鮮族が独自の文化を持つことを体感した。


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