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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019 ~チャン・リュル監督『福岡』がオープニングを飾る

Text & Photo by 井上康子
2019/10/13掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019(以下、アジアフォーカス)」が、9月13日から7日間、福岡市内会場で開催され、アジアフォーカスのゲストとして繰り返し福岡を訪れているチャン・リュル監督が福岡で撮った『福岡』がオープニング上映されたほか、監督作品の特集上映が行われ、シンポジウムも開催された。17ヶ国・地域の27作品が上映され、観客投票の第1位には女性が受ける差別を描いた『シヴァランジャニとふたりの女』が選ばれた。


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『シヴァランジャニとふたりの女』

『シヴァランジャニとふたりの女』:『82年生まれ、キム・ジヨン』のように、インドでの女性差別を見せる


 福岡観客賞(観客投票の第1位作品に授与)を受賞したのは、インド女性が受ける差別を描いた『シヴァランジャニとふたりの女』で、奇しくも日本でも大ヒットしているチョ・ナムジュ著「82年生まれ、キム・ジヨン」のように、1980年代から現代までの女性差別を描いている。アスリートの主人公は結婚を機に家庭の中で召使のような存在になるが、自分を取り戻す。ヴァサント・S・サーイ監督が「“私は彼女と同じだ”と号泣した女性観客がいたことがある」と語ったが、福岡でも多くの観客の共感を呼んだ。『誰かの妻』もインドネシアのある島で父や夫の所有物とされてきた女性が自立を決意するまでを描いていた。


『それぞれの道のり』を筆頭に作品世界に浸る


 フィリピン映画生誕100周年を記念して製作されたオムニバス『それぞれの道のり』は、『立ち去った女』のラヴ・ディアスが密林の魔物のいる世界を、『ローサは密告された』のブリランテ・メンドーサが土地を奪われた農民を、『500年の航海』のキドラット・タヒミックは文化の継承を、描いた。個性が際立つ3巨匠作を一度に見れる贅沢な時間となった。同じくメンドーサ『アルファ 殺しの権利』は麻薬組織に対する腐敗した警察官の世界を生々しく見せ、熊本市賞(観客投票の第2位作品に授与)を受賞した。『マンタレイ』はタイの漁師がロヒンギャ難民を助けてからを幻想的に描く。監督のプッティポン・アルンペンは福岡市のアーティスト・イン・レジデンスで短編制作後に、釜山国際映画祭などの支援で本作を完成させた。若い監督の斬新な試みが光る。自由な創作のために、中国から香港に移住して活動を続けるイン・リャンが自身の状況を反映させた『自由行』は、香港人が自治を求めて抗議する現状と重なり、主人公の置かれた状況が胸に刺さった。『轢き殺された羊』は広大なチベット平原を舞台に「他者に施す」という名を持つ男の白日夢のような時間を描く。ペマツェテン監督が「自身とチベット人作家の短編小説を併せて映画化した」というだけに文学作品の味わいがあった。グローバル化への危惧からのプログラム「東南アジア・リージョナル特集」中の『フンバ・ドリーム』はインドネシアのフンバ(スンバ)島を舞台にした若者の成長の記録。草原、16ミリフィルム、島で取れる物での食事と、リリ・リザ監督がアナログでローカルなものの確かさと温かみを見せた。


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『福岡』

満を持しての『福岡』上映&チャン・リュル監督の独自性をスタッフが語る


 チャン監督が福岡で支援を受けて、福岡で撮った『福岡』。待ちに待った作品が遂に上映された。監督特集として、他に『群山:鵞鳥を咏う』『風と砂の女』『豆満江』も上映された。『福岡』では、学生時代に同じ女性を好きになったために、仲違いしたままで中年になってしまった男性二人が、若い女性の導きにより福岡での再会を果たす。韓国の国民詩人ユン・ドンジュ(治安維持法違反に問われ福岡で獄死)の詩に登場する女性と同じスニという名を持つ、彼らの愛する女性は現れない。二人と若い女性は福岡の街をそぞろ歩く。筆者にとって見慣れた街が、いつもと違う浮遊感を伴う空間になっていた。冴えない中年を演じたユン・ジェムンとクォン・ヘヒョの台詞の往来はさすがの上手さ。パク・ソダムも不思議な力を持つ若い女性をいとも自然に演じていた。

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シンポジウムでのチャン・リュル監督

 オープニング上映後の初回上映もほぼ満席で、福岡の観客の本作への興味の高さが伺えた。上映後のシンポジウムでは、通常の映画撮影と異なり、事前のシナリオで詳細な決定をせず「空間と呼吸をしながら作業を進める」という撮影スタイルや、「撮影後に現場でどんどん編集作業を行うのを見ていると監督が連続性を持っているのが分かった」と監督の緻密さについて、スタッフが明かした。

 『福岡』は別バージョンの作品もあるそうだ。そちらもぜひ見たい。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019
 期間:2019年9月13日(金)~9月19日(木)
 会場:キャナルシティ博多(ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13)ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。オムニバス『それぞれの道のり』中のラヴ・ディアス作品『Hugaw(Dirt)』の舞台はフィリピンの暗い密林。そこには悪魔の気配が漂う。『立ち去った女』では善なる者の心にも悪が宿り、善行を積もうと、否、善行を積んだことによって、その悪が伝播するのに打ちのめされ、主人公と共に号泣した。


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Report 福岡インディペンデント映画祭2019 特別招待企画「ヤン・イクチュン監督 映画を語る」 ~日本と交流を続けるヤン・イクチュン、成熟の軌跡

Text by 井上康子
写真提供:福岡インディペンデント映画祭事務局
2019/10/7掲載



 福岡インディペンデント映画祭2019(以下、FIDFF)が、8月30日~9月1日に福岡市内で開催された。コンペは隔年実施となり、第11回を迎えた今回はコンペはなく、新作:FIDFF10周年記念作品『夢告を視たり。-butoh is everything-』(なすありさ監督)や昨年の受賞作など28作品が上映された。また、特別招待企画「ヤン・イクチュン監督 映画を語る」として、『息もできない』を監督・主演したヤン・イクチュンを招き、主演作『けつわり』(安藤大佑監督)と監督作『しば田とながお』の短編2本を上映、安藤監督とのトークも行われた。

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『けつわり』

 『けつわり』は戦時中に筑豊の炭鉱から逃亡した、ヤン監督演じる朝鮮人坑夫とかくまった少年の交流を描いた作品で、2006年に福岡で撮影されている。筆者はシネマコリア2006で見た、懐かしい作品だ。当時、彼は無名だったが、『息もできない』で見せた激しい演技は既に健在で、強者が弱者をいたぶる場面では怒りを爆発させている。

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『しば田とながお』

 そして、『しば田とながお』は2012年に開催された「シネマ☆インパクト」のワークショップでの監督作で、指導者として主演俳優二人に様々な感情表現をさせたことが見て取れる。

 ヤン監督は『かぞくのくに』『中学生円山』や昨年公開の『あゝ、荒野』などの日本映画に出演しており、時に日本語で話した。以下、トークの概要を報告する。


『けつわり』 ~日韓の若者が熱きエネルギーを融合させた


安藤:大学では朝鮮語を専攻し、韓国に留学した。映画を撮りたい、そういう仕事がしたいと思っていて、留学中も映画祭を見て回っていた。日本で最初にヤン・イクチュンを知ったのは僕だと自負しているが、2004年~2005年に映画祭で彼が出演しているインディペンデント作品をいろいろ見て、心をつかまれ、ファンになった。2005年に『まぶしい一日』(シネマコリア2006で上映)のスタッフとなり、現場で出演者のヤンさんに会い、握手を交わし、仲良くなった。同年に彼の初監督短編作品『Always Behind You』を手伝い、帰国した。

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ヤン・イクチュン(左)と安藤監督(右)

ヤン:安藤さんがスタッフとして関わってくれて仲良くなった。あの頃は若さとエネルギーがあった。お互いに外国人同士ということに好奇心も持った。私の作品を手伝ってくれたので、彼が作品を撮る時は手伝いたいと思っていた。

安藤:『けつわり』は祖父から「逃亡した朝鮮人坑夫をかくまったことがある」と聞かされていたのと、ヤンさんに出演してもらうということから考えた。「けつわり」は過酷な炭鉱労働からの逃亡を意味する。2006年に数ヶ月準備をし、6月に5日間くらい撮影した。ノーギャラで飛行機代だけ出して来てもらった。

ヤン:久しぶりで見た。私にも若い頃があったんだ(笑)。13年経過したが不思議な気がする。何も持っていない人間だったが、彼も仕事で作品を作っていて、私も時々、出演したり、監督したりで作品を作っている。

安藤:撮影時はうちの実家にホームステイしてもらった。静かな街並みが彼は気に入り、合間に散歩したり、シナリオを書いたりしていたが、そのシナリオが『息もできない』だった!

ヤン:福岡が好きです(日本語)。ソウルは大都市で息苦しい。創作するうえでは静寂が必要。福岡はちょうど良いサイズの都市だと身体で感じた。韓国人はよく活発とか元気と言われるが、私は苦手。

安藤:激しい演技をする人とは思えない素顔(笑)。

ヤン:センシティブです(日本語:笑)。


『しば田とながお』 ~日韓の感情表現の違いを楽しむ


ヤン:山本政志監督が主宰する、スタッフや俳優を目指す人のワークショップ「シネマ☆インパクト」で講師をし、撮った作品。特別なストーリーがある作品ではなく、言葉より感情を表現する作品で、20分弱の短い作品であったが(日本人俳優と作るということは)特に大変なことはなかった。アシアナ国際短編映画祭2012で最優秀国内作品賞を受賞し、500万ウォンの賞金をもらった時は日本に飛んで来て、スタッフや俳優と賞金で飲んだ。ワークショップの時は10日間滞在し、7日間演技指導をして、残り3日間で撮影した。演技指導では短い課題を与えて感情を引き出すことをしていた。感情を探すことも大切だけど表現しなくてはいけない。女性がやって来て、突然ビンタされるという状況設定でやった時、一人も怒らなかったことにショックを受けた。もちろん、みんなに怒ってほしかった訳ではない。韓国と日本では生活のリズムや緊張感が違うと感じる。韓国では同じ設定では怒鳴ったり、やり返すような反応が多いが、この時は何も感じていないような反応が多かった。こういう違いのある人が一緒にやるとおもしろいものが作れると思った。

安藤:主演の二人はどう選んだのか?

ヤン:しば田役の女優は、ワークショップで感情を出してみろと言った時に、椅子に座ってうつ向き、寂しそうで印象に残った。ながお役の男優は私の父に似て、表面的には強そうだが、内面は弱いと思った。私は、オーディションは重視せず、一緒に日常の行動をしたり、お酒を飲んだりすると内面や感情が見えてきてキャスティングする。二人とも演技を続けてくれているとよい。また、安藤さんと一緒に作品を作れたらと思う。機会を作りたい。


 会場には『息もできない』でファンになった方たちが詰めかけ、大変盛況だった。観客とのQ&Aの時間に「現在の大変な日韓関係にコメントを」と映画に無関係の質問が出た時は場内が一瞬緊張に包まれたが、ヤン監督は全く動じず「オレが代表じゃないけど(日本語)、歴史の中で権力者同士がぶつかってきた悪影響を市民はずっと受けてきた。市民が活発に交流するのが大事。政治家が好き勝手にすることに振り回されてはいけない。会えば、私たちは笑って話したりできる。個々人の感情や交流を大切にしたい。難しいことではあるが…」と語った。映画人として、まさにそのように振る舞ってきたヤン監督の言葉に会場から大きな拍手が沸き起こった。


第11回福岡インディペンデント映画祭2019
 期間:2019年8月30日(金)~9月1日(日)
 会場:福岡市科学館 6F サイエンスホール
 公式サイト http://www.fidff.com/

Writer's Note
 井上康子。『あゝ、荒野』ではヤン・イクチュンは気の弱い、吃音の青年・建二を演じた。一見、『息もできない』で演じた主人公サンフンの暴力的な姿とは真逆なのだが、暴力的な父に支配され続け、孤独に打ち震える姿は全く同じだった。あの人と繋がりたいと切望しての建二の選択に涙した。


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Report マンスリー・ソウル 2019年9月 ~珠玉のようなユン・ガウン監督の新作と、知られざる歴史ドキュメンタリーにふれる

Text by hebaragi
2019/10/7掲載



 韓国の国民的行事である秋夕(チュソク)の休暇も終わった9月下旬のソウルは時折冷たい雨も降り、朝夕は寒いほどの陽気。今回は5本の韓国映画を見た。その中から印象に残った2本を紹介する。


『私の家』


 『わたしたち』(2016年)の感動も記憶に新しいユン・ガウン監督の新作ということで期待しつつ劇場へ。

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『私の家』

 両親がいつも喧嘩ばかりしている小学生の女の子ハナ(キム・ナヨン)の家庭。兄との関係もギクシャクしている。友達のユミ(キム・シア)・ユジン(チュ・イェリム)姉妹の家は引っ越しばかりしていて落ち着かない。そんな3人はいつしか行動をともにするようになり、かけがえのない友情を育んでゆく。ハナは昔行った家族旅行の写真を大切に持っており、また家族旅行に行こうと母親にせがむが、いつもはぐらかされ、よい返事がもらえない。そんなハナは料理が得意で、さまざまなメニューに挑戦し、ユミたちにふるまったりしている。

 ある日、家族旅行を諦めきれないハナは、ユミ姉妹と連れだって「プチ家出」ともいえる冒険の旅に出かける。バスを乗り継いでたどり着いた海辺の街で夕方になり、3人は不安から言い争いになるが、空き家になったテントを見つけて仲良く一夜を過ごす。帰宅したハナを迎えた家族は家出をとがめるが、心の底では怒っていない様子。ハナが作った食事を前に「一緒にご飯食べよう。そして、家族旅行の計画たてよう」と笑顔で話すラストシーンを迎える。

 全編を通して、辛い状況でも明るさを失わない、ハナの穏やかで素直な表情が印象的な作品だ。ユミ姉妹を含め、すれたりませたりすることのない子どもらしいピュアなたたずまいは爽やかで、見る者の心を温かくさせてくれる。そんなハナの生き方が大人たちを変えていく希望が感じられるラストシーンだ。

 様々なシーンで監督の温かいまなざしが感じられる。子どもたちの生き生きとした表情を引き出すユン・ガウン マジックに大いに心を揺さぶられる92分だ。そして、見た後、誰かに感想を語りたくなる。『わたしたち』と同様に珠玉のような作品の誕生といえるだろう。たくさんの子どもたちに見てほしいという思いに駆られる。日本公開に期待したい。


『浮島丸』


 1945年8月24日に発生した、多数の朝鮮人を乗せて青森県大湊から釜山に向かっていた日本軍の輸送船の、舞鶴沖での沈没事件、いわゆる浮島丸事件がテーマのドキュメンタリー。この事件をめぐっては、1995年に日本で『エイジアン・ブルー 浮島丸サコン』として映画化されており、本作は2度目の映画化となる。作品冒頭で、日本のA級戦犯と昭和天皇の写真が紹介されるとともに、真珠湾攻撃や広島と長崎の原爆投下、ポツダム宣言の映像が流れるなど、時代背景の説明がひとしきり続く。さらに、事件の背景として、青森県内各地の鉄道や空港建設のために、多数の朝鮮人労働者が存在していたことを示す映像も紹介される。

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『浮島丸』

 作品は、1997年以降に取材した事件の生存者や遺族、日本人の目撃者、研究者などのインタビューをメインに謎に迫っていく。また、当時の日本軍の資料や戦後の日本外務省の資料も丹念に追跡し、事実に即して真相に迫る内容となっている。事件の原因は米軍が敷設した機雷というのが日米政府の公式見解だが、爆発前に乗組員がいち早く脱出したという証言もあり、何者かが故意に発生させた爆発の可能性も指摘されるなど、真相は謎に包まれている。また、事件後9年間、海底に沈んだ遺体の収容が行われなかったことから、犠牲者の数も諸説あり、少ない説で549人、日本の公式発表では3,800人、多い説では8,000人、乗船者は少ない説で3,725人、日本の公式発表では8,000人、多い説では10,000人とされている。

 この事件については、日本はもとより韓国での認知度も高くないようだ。実際に韓国で実施された街頭インタビューでも、事件を知っていると答えた市民はわずか6.2パーセントに過ぎない。ちなみに、同時に調査した南京虐殺の認知度は8割を超えている。本作の上映も繁華街からやや外れたシネコンでの小規模公開で、1日1回上映。公開4日目にもかかわらず観客もひと桁で、決して多くの関心を集めているとは言い難い状況だ。

 私も不勉強にして、本作で初めてこの事件を知り、衝撃を受けた。犠牲者の数には諸説あっても、事件があったこと自体は否定できない歴史上の事実であり、今後の真相究明が待たれるといえよう。

 本作のポスターは沈没した船と海を背景としているが、作品タイトルの上に「私たちは忘れてはいけない。我々民族8,000余名を水葬虐殺した」「日本は殺人者だ」という文字が並び、日本人としてはショッキングなものになっている。真相がはっきりしない中で、やや一方的な主張という指摘が予想されるコピーだ。

 気がつけば、毎月のように「抗日映画」を見ている。作品によっては、事実の誇張やナショナリズム過剰と思われるシーンに出会うことも少なくないが、知られざる歴史上の出来事を知るという意味では、こうした作品との出会いは意義のあることと考えている。本作を見た感想も同様だった。将来的に、日韓が協力して真相に迫る機会が訪れることを願いたいものだ。


Writer's Note
 hebaragi。「マンスリー・ソウル」をスタートしてから半年が経った。週末の2、3日でまとめて映画を見る時間は充実しており、毎回、新たな発見がある。一方、良い作品との出会いは嬉しいが、文字通りの一期一会であり、ほとんどの作品は日本公開にまで至らない現状は残念に思えてならない。


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Report マンスリー・ソウル 2019年8月 ~日本関連映画大盛況!! 『カメ止め』に大観衆

Text by hebaragi
2019/9/16掲載



 夏休みも終わり間近の8月末のソウルは爽やかな陽気で早くも秋の気配。今回は公開中の作品が多く、多彩なジャンルの韓国映画9本と日本映画1本を見ることができた。今回予想外だったのは、鑑賞した日本関連映画4本(『鳳梧洞(ポンオドン)戦闘』『金福童(キム・ボクトン)』『伊丹潤の海』『カメラを止めるな!』)がたくさんの観客で賑わっていたことだ。日韓関係は悪化しているが、日本への関心は変わっていないことに気づいたソウル滞在だった。以下、今回印象に残った作品6本を紹介する。


『鳳梧洞(ポンオドン)戦闘』


 日本統治時代の1920年。日本軍との戦闘で最初の勝利を成し遂げた独立活動家が率いた抗日ゲリラ団の活躍を描いた戦争ストーリー。いわゆる「抗日映画」のジャンルに入る。

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『鳳梧洞(ポンオドン)戦闘』

 「日本人の俳優が日本の軍人を演技すれば、映画に息づかいと価値が加わると思った」とウォン・シニョン監督が語るとおり、本作には日本人俳優3人が出演している。追撃隊長ヤスカワジロウ役で北村一輝、将校クサナギ役で池内博之、日本軍の行動に疑問を持つ少年兵士ユキオ役で現在日本公開中の新海誠監督アニメ『天気の子』にも出演している醍醐虎汰朗の3人だ。彼らの演技も本作の見どころのひとつといえよう。本作への出演にあたっては日本国内の一部メディアから批判もあったが、3人とも「多様な映画に出演して経験を積んだだけで、良い思い出だ」とコメントしている。とりわけ北村一輝の徹底した悪役ぶりは印象的だ。一方、植民地支配に対する抵抗という実態は理解できるが、戦闘シーンは激烈を極め、敵味方関係なく残酷な印象を残す。また、戦死した同志の遺骨を包んでいた太極旗を広げるラストシーンは、独立運動100周年の年とはいえ、ややナショナリズム過剰と感じた。いつの日かこのテーマの作品を日韓共同で制作する日が来ることを願いたいものだ。


『金福童(キム・ボクトン)』


 今年1月に逝去した元・慰安婦のおばあさん、キム・ボクトンさんが日本の謝罪を求めた27年間の闘いを描いたドキュメンタリー。先月紹介した『主戦場』同様に、日本の政治家の被害者への配慮を欠いた発言や、見るに耐えないヘイトスピーチ、日本のネトウヨから被害者支援団体に送られた脅迫状のシーンが登場し、目を背けたくなる。また、2015年のいわゆる日韓慰安婦合意が当事者の意思とは関係なく結ばれたものであるとの認識から、彼女が落胆していた映像が印象に残る。また、被害者としての立場にとどまらず、人権活動家として日本大使館前での「水曜集会」などの運動を続け、東日本大震災被災者への寄付をしたことでも知られる彼女が生涯をかけて訴えてきたものが胸に迫る作品だ。

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『金福童(キム・ボクトン)』


『伊丹潤の海』


 在日2世の韓国人建築家・伊丹潤(本名:ユ・ドンヨン)をテーマにしたドキュメンタリー。彼は東京に生まれ、静岡県清水市で青春時代を過ごし、清水の海と富士山を眺めて育ったという。日本を拠点に生活しながら常に韓国人としてのアイデンティティーを持ち、韓国籍を通したため、在日2世として様々な苦労があった模様。その後、建築家として実績を重ね、2010年に外国人として初めて日本の最高建築賞である村野藤吾賞を受賞。日本各地や韓国・済州島で数々のプロジェクトを手がけている世界的に著名な建築家である。

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『伊丹潤の海』

 本作では、彼の関わった様々な作品紹介とともに、彼の功績を知る建築家ら日韓の関係者たちのインタビューを交えており、彼自身の人となりにも触れることができる。彼の設計した建築物は、美術館、ビル、教会、ホテル、店舗、一般住宅など多岐にわたる。いずれの建物も木や石を積極的に活用し、色彩もモノトーンを基調としていて周囲の街並みや風景と調和しており、非常に美しい。また、本作を彩るBGMはピアノを中心としたセンスあふれるものであり、鑑賞後の余韻もさわやかだ。彼の実娘が故人となった父について語るシーンも印象的だ。「人生には苦しいことや悲しいこともあるが、それでも人生は素晴らしい」という彼の言葉は数々の建築にも反映しているようだ。機会があれば、彼の作品を実際に見てみたいという思いにかられる。


『カメラを止めるな!』


 2018年に大ヒットした日本映画。ゾンビドラマの撮影クルーがテーマということで、若い観客でほぼ満席の会場。ゾンビ映画というよりコメディの印象が強く、上映中は日本公開時と同様に笑いをとるシーンも多い。笑いのツボは日韓共通らしく、楽しい鑑賞になった。冒頭からラストまで、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の上映会場を思わせる盛り上がりだった。なお、上映終了後、来場者特典として日本版のピンバッジのプレゼントがあったのは嬉しい企画だった。

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『カメラを止めるな!』


『EXIT』


 大学の山岳部でエースだったヨンナム(チョ・ジョンソク)は、就職もできず無職の日々。ある日、宴会場で母の古希の祝賀パーティーが開かれ、そこでスタッフとして働く山岳部の後輩のウィジュ(少女時代:ユナ)と再会する。パーティーの途中、謎の煙が発生して逃げる間もなく、都市全体が毒ガスで覆われてしまう。そんな中、ヨンナムとウィジュは山岳部で身につけたアクロバティックな技を駆使し、ビルの壁をよじ登るなどして宴会参加者を屋上に避難させる。その後、救助ヘリコプターがかけつけ、大半の参加者は救助されるが、ゴンドラの重量制限のため、ヨンナムとウィジュは屋上に取り残される。その後も毒ガスは広がり、ふたりはビルからビルに逃げ惑うことに。いよいよ絶体絶命になったふたりの運命は果たして?

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『EXIT』

 本作のタイトルは出口(EXIT)を求めて逃げ惑う人々をイメージしている模様。全編を通してハラハラドキドキの手に汗を握るシーンの連続。2012年公開のパニック大作『ザ・タワー 超高層ビル大火災』を彷彿とさせるパニック・アクション大作といえよう。なお、本作は公開1ヶ月となる8月第4週で観客動員800万人を突破したと報じられており、2019年夏公開作品の中でトップクラスの観客動員を達成している。夏の暑さを吹き飛ばすようなワクワクする楽しい作品内容が人気を集めていると言えそうだ。


『私だけいない。猫』


 それぞれの事情をかかえた登場人物たちを傍らで見守る猫たちのエピソードで綴る、4話オムニバスのファンタジードラマ。彼氏と別れたOL、サラリーマン、バレエ教室に通う小学生の女の子、妻と死に別れた中年男性。それぞれが猫との出会いで癒され、再生していく様子が丁寧に描かれている。登場する猫たちの表情が愛らしく、猫好きにはたまらない。心から癒やされる作品だ。

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『私だけいない。猫』


Writer's Note
 hebaragi。日韓を結ぶ定期便の減便・運休のあおりを受け、9月以降の「マンスリー・ソウル」の日程設定が困難になっている。フライトスケジュールと休暇との兼ね合いを考えて調整に奮闘しているが、非常に苦慮している状況。せっかく始めたことなので、なんとか続けていきたいと思うとともに、一日も早く関係者の叡知を集めて関係改善が図られることを願うばかりである。


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Report マンスリー・ソウル 2019年7月 ~『主戦場』『わが国の語音』を見て思う、映画を通して歴史を学ぶということ

Text by hebaragi
2019/8/10掲載



 梅雨明け直前、7月下旬のソウルは連日の雨だった。今回は韓国映画5本(『わが国の語音』『レッドシューズ』『遊郭のお坊ちゃん』『グッバイ・サマー』『真犯人』)、アメリカ映画1本(『主戦場』)を鑑賞した。以下、今回印象に残った2本の作品を紹介したい。


『主戦場』


 日系アメリカ人2世、ミキ・デザキ監督作品。いわゆる慰安婦問題に対する賛否両論の日米韓の論客27人のコメントを中心に展開する骨太のドキュメンタリー。日本では今年4月に全国公開され、たくさんの観客を集めた問題作であり、最近では、日本国内で右派の関係者が上映差し止めを求めるなど、その後も話題を提供し続けている。7月25日から韓国でも公開がスタートした。

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『主戦場』韓国版ポスター

 鑑賞した上映回は、モーニングショーにもかかわらず大勢の観客が詰めかけており、この問題に対する韓国での関心の高さがうかがわれた。監督は、この問題に関心を持ったきっかけとして、右翼による、元朝日新聞記者・植村隆氏本人と家族に対する陰湿な脅迫を挙げている。作品中の数々のコメントの合間には、当該脅迫のシーンや新大久保でのヘイトスピーチ、学校でこの問題について何も教わらず何も知らない日本の若者へのインタビューなど、日本人として目をそむけたくなるシーンも多数登場する。

 作品を見ての率直な感想だが、フラットな目で見ても、否定派(右派)の主張には無理がある印象。彼らの思考回路の根底には人権軽視や国粋主義、アジア蔑視の思想がある。さらに極めつけは「国家は謝罪してはいけない」などと語る論客の登場だ。右派の論客たちは揃って尊大な態度で胸を張り、時々、嘲り笑いながら的を射ているとは思えない発言を繰り返す。コメントの内容以前に「人としての姿勢としてどうなのか?」という疑問を感じさせる。実際、日本公開時の上映会場では右派の論客のコメントのシーンで観客から失笑が漏れていたほどである。一方、事実に基づいて淡々と語る肯定派のコメントのほうには説得力を感じた。なお、右派論客の背後には、明治憲法への回帰を指向した憲法改正を企図する日本会議が活動していることを図式化して説明したシーンは興味深かった。

 作品中、日本の若者へのインタビューで、慰安婦問題を「知らない」と答えるシーンが登場するが、彼らばかりを責めることはできないだろう。現在、日本の中学校の大部分の歴史教科書には従軍慰安婦についての記述がないからだ。現在は民間作成の教科書だが、事実上の国定化がすすみ、政権の意向に反する記述があると検定が通らなくなっているという。世界各国の「報道の自由度」ランキングでも、日本は2010年には10位だったが、その後順位を下げ続け、現在71位となっていることが紹介される。

 ラスト近く、戦後、A級戦犯を拘置所から釈放して総理大臣にし、日本に再軍備をさせたアメリカに対する批判が描かれる。そして、その孫が総理大臣になり、平和憲法の改正を企図していることも淡々と描かれ、見る者に考えるきっかけを提供している。

 監督は本作の韓国公開に際して訪韓し、韓国紙・東亜日報のインタビューに次のように語っている。「韓国と日本の間での情報の差が、たびたび論争と戦いを招いているようです。慰安婦問題を紹介し、両国の人々が知らなかったことを知れば憎しみが減り、生産的な議論ができるのではないでしょうか?」 さらに昨今の徴用工問題については「日本政府が強制労働問題について、貿易制裁で対応することは残念だ。これは人権問題であり、外交問題ではない」と述べている。

 また、監督は日刊ゲンダイのインタビューにも答えて本作の制作意図を「(作品を見ている人に)“こう考えてほしい”と訴えるのではなく、見ている人に慰安婦とは何かを自分で考えて議論してほしい」ともコメントしているが、全く同感だ。一方、本作は、日本にもさまざまな意見があることを韓国の人々に知ってもらうきっかけとしても有意義な作品であり、たくさんの人に見てほしいと願う。

 なお、韓国では8月に公開される、今年1月に他界した元慰安婦のおばあさんが主人公のドキュメンタリー『金福童(キム・ボクトン)』の予告編が、『主戦場』上映前に流れていたことを付け加えておきたい。


『わが国の語音』


 ハングルを作った朝鮮国王として有名な世宗大王と、彼の下で実際に作成作業にあたった僧侶たちを主人公に展開するストーリー。全編を通して、ソン・ガンホが演じる世宗大王の重厚な表情が印象的。また、パク・ヘイルが演じるシンミ僧侶を中心とした僧侶たちの信念に基づく表情も印象に残る。

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『わが国の語音』

 世宗大王については、かつてTVドラマ「根の深い木」などでも描かれてきたが、本作ではハングル創製についての詳細な経緯を描いている。冒頭、日本の室町時代の僧侶たちが訪韓して世宗大王に謁見し、儒教を中心にした国づくりを進める朝鮮王朝には仏教の経典は不要だろうと、高麗八万大蔵経を引き渡すよう求めるシーンが登場するが、日本と朝鮮王朝との間の知られざる歴史のひとこまが垣間見えるシーンだ。その後、世宗大王の指示により、僧侶たちのプロジェクトチームが昼夜を問わず精力的にハングル作成作業を進めていく。サンスクリット語やチベット文字を参考にして試行錯誤を重ね、全く新しい文字を作っていく様子は興味深い。本作の制作意図として、数々の困難の末に作り上げられたハングルの大切さをアピールすることが挙げられていたが、その意図は達成されているように感じた。


Writer's Note
 hebaragi。30年前から日韓関係を見つめてきたが、最近の関係悪化に心を痛めている。政治家ではない、ふつうの韓国の人々は日本文化を愛し、2018年には年間750万人を超える人々が日本を訪れている。また、根強いK-POP人気やチーズハットク・ブームに見られるように、日本での韓国人気も続いている。ふだん、サムスン社のギャラクシーのスマートフォンを使い、知人との連絡は韓国発祥の「LINE」という人も多いだろう。もちろん、お互いの国の映画を通して学ぶことも多いのではないだろうか。一方で、日本と韓国での歴史教育の質量の差が相互理解の妨げになっているのではとも思う。日本の学校ではヨーロッパの細かな歴史は日付まで習うのに対し、朝鮮半島の歴史を習った記憶がほとんどない。世宗大王も朴正煕も柳寛順も德恵翁主も金子文子も、全て韓国映画で学んだ。創氏改名や軍艦島の存在もしかりだ。今の葛藤状況を良い方向に向かわせるために一市民として何かできることはないか、考える日々が続いている。なお、日韓関係は悪化しているが、今後も今までどおり「マンスリー・ソウル」を続けていくことをお知らせする。今回のソウル訪問の際にも、行きつけの屋台の顔見知りの女性から「こういう大変なときにも来てくれてありがとう」と声をかけられた。こういうときだからこそ今までどおりの交流を続け、お互いの文化にふれ、紹介していくことが必要との思いを強くしている。


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