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Report マンスリー・ソウル 2019年7月 ~『主戦場』『わが国の語音』を見て思う、映画を通して歴史を学ぶということ

Text by hebaragi
2019/8/10掲載



 梅雨明け直前、7月下旬のソウルは連日の雨だった。今回は韓国映画5本(『わが国の語音』『レッドシューズ』『遊郭のお坊ちゃん』『グッバイ・サマー』『真犯人』)、アメリカ映画1本(『主戦場』)を鑑賞した。以下、今回印象に残った2本の作品を紹介したい。


『主戦場』


 日系アメリカ人2世、ミキ・デザキ監督作品。いわゆる慰安婦問題に対する賛否両論の日米韓の論客27人のコメントを中心に展開する骨太のドキュメンタリー。日本では今年4月に全国公開され、たくさんの観客を集めた問題作であり、最近では、日本国内で右派の関係者が上映差し止めを求めるなど、その後も話題を提供し続けている。7月25日から韓国でも公開がスタートした。

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『主戦場』韓国版ポスター

 鑑賞した上映回は、モーニングショーにもかかわらず大勢の観客が詰めかけており、この問題に対する韓国での関心の高さがうかがわれた。監督は、この問題に関心を持ったきっかけとして、右翼による、元朝日新聞記者・植村隆氏本人と家族に対する陰湿な脅迫を挙げている。作品中の数々のコメントの合間には、当該脅迫のシーンや新大久保でのヘイトスピーチ、学校でこの問題について何も教わらず何も知らない日本の若者へのインタビューなど、日本人として目をそむけたくなるシーンも多数登場する。

 作品を見ての率直な感想だが、フラットな目で見ても、否定派(右派)の主張には無理がある印象。彼らの思考回路の根底には人権軽視や国粋主義、アジア蔑視の思想がある。さらに極めつけは「国家は謝罪してはいけない」などと語る論客の登場だ。右派の論客たちは揃って尊大な態度で胸を張り、時々、嘲り笑いながら的を射ているとは思えない発言を繰り返す。コメントの内容以前に「人としての姿勢としてどうなのか?」という疑問を感じさせる。実際、日本公開時の上映会場では右派の論客のコメントのシーンで観客から失笑が漏れていたほどである。一方、事実に基づいて淡々と語る肯定派のコメントのほうには説得力を感じた。なお、右派論客の背後には、明治憲法への回帰を指向した憲法改正を企図する日本会議が活動していることを図式化して説明したシーンは興味深かった。

 作品中、日本の若者へのインタビューで、慰安婦問題を「知らない」と答えるシーンが登場するが、彼らばかりを責めることはできないだろう。現在、日本の中学校の大部分の歴史教科書には従軍慰安婦についての記述がないからだ。現在は民間作成の教科書だが、事実上の国定化がすすみ、政権の意向に反する記述があると検定が通らなくなっているという。世界各国の「報道の自由度」ランキングでも、日本は2010年には10位だったが、その後順位を下げ続け、現在71位となっていることが紹介される。

 ラスト近く、戦後、A級戦犯を拘置所から釈放して総理大臣にし、日本に再軍備をさせたアメリカに対する批判が描かれる。そして、その孫が総理大臣になり、平和憲法の改正を企図していることも淡々と描かれ、見る者に考えるきっかけを提供している。

 監督は本作の韓国公開に際して訪韓し、韓国紙・東亜日報のインタビューに次のように語っている。「韓国と日本の間での情報の差が、たびたび論争と戦いを招いているようです。慰安婦問題を紹介し、両国の人々が知らなかったことを知れば憎しみが減り、生産的な議論ができるのではないでしょうか?」 さらに昨今の徴用工問題については「日本政府が強制労働問題について、貿易制裁で対応することは残念だ。これは人権問題であり、外交問題ではない」と述べている。

 また、監督は日刊ゲンダイのインタビューにも答えて本作の制作意図を「(作品を見ている人に)“こう考えてほしい”と訴えるのではなく、見ている人に慰安婦とは何かを自分で考えて議論してほしい」ともコメントしているが、全く同感だ。一方、本作は、日本にもさまざまな意見があることを韓国の人々に知ってもらうきっかけとしても有意義な作品であり、たくさんの人に見てほしいと願う。

 なお、韓国では8月に公開される、今年1月に他界した元慰安婦のおばあさんが主人公のドキュメンタリー『金福童(キム・ボクトン)』の予告編が、『主戦場』上映前に流れていたことを付け加えておきたい。


『わが国の語音』


 ハングルを作った朝鮮国王として有名な世宗大王と、彼の下で実際に作成作業にあたった僧侶たちを主人公に展開するストーリー。全編を通して、ソン・ガンホが演じる世宗大王の重厚な表情が印象的。また、パク・ヘイルが演じるシンミ僧侶を中心とした僧侶たちの信念に基づく表情も印象に残る。

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『わが国の語音』

 世宗大王については、かつてTVドラマ「根の深い木」などでも描かれてきたが、本作ではハングル創製についての詳細な経緯を描いている。冒頭、日本の室町時代の僧侶たちが訪韓して世宗大王に謁見し、儒教を中心にした国づくりを進める朝鮮王朝には仏教の経典は不要だろうと、高麗八万大蔵経を引き渡すよう求めるシーンが登場するが、日本と朝鮮王朝との間の知られざる歴史のひとこまが垣間見えるシーンだ。その後、世宗大王の指示により、僧侶たちのプロジェクトチームが昼夜を問わず精力的にハングル作成作業を進めていく。サンスクリット語やチベット文字を参考にして試行錯誤を重ね、全く新しい文字を作っていく様子は興味深い。本作の制作意図として、数々の困難の末に作り上げられたハングルの大切さをアピールすることが挙げられていたが、その意図は達成されているように感じた。


Writer's Note
 hebaragi。30年前から日韓関係を見つめてきたが、最近の関係悪化に心を痛めている。政治家ではない、ふつうの韓国の人々は日本文化を愛し、2018年には年間750万人を超える人々が日本を訪れている。また、根強いK-POP人気やチーズハットク・ブームに見られるように、日本での韓国人気も続いている。ふだん、サムスン社のギャラクシーのスマートフォンを使い、知人との連絡は韓国発祥の「LINE」という人も多いだろう。もちろん、お互いの国の映画を通して学ぶことも多いのではないだろうか。一方で、日本と韓国での歴史教育の質量の差が相互理解の妨げになっているのではとも思う。日本の学校ではヨーロッパの細かな歴史は日付まで習うのに対し、朝鮮半島の歴史を習った記憶がほとんどない。世宗大王も朴正煕も柳寛順も德恵翁主も金子文子も、全て韓国映画で学んだ。創氏改名や軍艦島の存在もしかりだ。今の葛藤状況を良い方向に向かわせるために一市民として何かできることはないか、考える日々が続いている。なお、日韓関係は悪化しているが、今後も今までどおり「マンスリー・ソウル」を続けていくことをお知らせする。今回のソウル訪問の際にも、行きつけの屋台の顔見知りの女性から「こういう大変なときにも来てくれてありがとう」と声をかけられた。こういうときだからこそ今までどおりの交流を続け、お互いの文化にふれ、紹介していくことが必要との思いを強くしている。


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Report マンスリー・ソウル 2019年6月 ~映画、ミュージカル、演劇に見る韓国の今。日本映画も盛況

Text by hebaragi
2019/7/20掲載



 梅雨まっただ中ですっきりしない天気が続く6月下旬のソウル。今回は上映中の韓国映画が少なかったため、韓国劇映画3本、日本の劇映画1本、日本のアニメーション1本を鑑賞した。また、映画以外では、ミュージカル2本、演劇1本、アクロバット・パフォーマンス1本を鑑賞した。


『寄生虫』


 見終わったあと、「なるほど、こういう作品がカンヌで最高賞(パルム・ドール)を獲るのか」と妙に納得する。ポン・ジュノ ワールド全開。『スノーピアサー』などと同様に格差社会や極限状況における人間模様をテーマにしているが、ブラックユーモアの香りが漂う。

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『寄生虫』

 家族全員が無職で明日の生活もままならないが仲の良いギテク一家。ある日、長男ギウがグローバルIT企業の社長宅で高収入の家庭教師のバイトをすることとなる。半地下の劣悪な環境の住宅に住んでいた一家が、その後、社長の屋敷に入り込み、まるで寄生虫のような生活を始める。それなりに平穏な日々が続くかと思えたが、ラスト近くでストーリーが急展開する。もちろん、ハッピーエンドとは言い難く、観賞後、どうにもやりきれない思いが残る作品だ。全編を通してソン・ガンホの熱演が印象的。なお、本作は日本公開予定となっている。


『ロング・リブ・ザ・キング:木浦の英雄』


 木浦にある巨大組織のボス、チャン・セチュル(キム・レウォン)は、地元で進められようとしている再開発計画への反対デモの立ち退き要員として行った場所で、出会った女性弁護士、カン・ソヒョン(ウォン・ジナ)の言葉を聞いて、彼女が願う「良い人」になることを決心する。ある日、セチュルがバス転落事故で人命救助をしたことをきっかけにメディアに取り上げられて英雄となり、国会議員選挙に出ることとなる。

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『ロング・リブ・ザ・キング:木浦の英雄』

 テンポのよいアクションドラマでもある。主演のふたりが魅力的で、ストーリーが進むにつれてふたりの距離が近づいていく作品世界に引き込まれる。また、ステージカーでの街頭演説など、日本とは異なる韓国の選挙事情も興味深い。なお、マ・ドンソクがカメオ出演している。


『ビースト』


 世間を震撼させる殺人事件が発生。捜査のためなら手段を選ばない古参刑事と、ライバルで組織のルールに忠実な刑事が捜査にあたる。手段と方法を選ばず犯人を捕まえてきた強力班の刑事ハンスは後輩とともに捜査に乗り出す。ハンスは麻薬ブローカーが犯した殺人事件を隠蔽してやる代わりに、今回の殺人事件の決定的な手がかりをつかむ。だが、ライバルのミンテ刑事がそれに気づいてしまう。強引な捜査で殉職者も出すなか、最終的に事件は解決。ミンテは昇進する。アクションシーンの数々は迫力があり、また、刑事たちの人間関係も丁寧に描かれている力作だ。

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『ビースト』



『ビブリア古書堂の事件手帖』


 2018年の日本公開作品。レイトショーにもかかわらず20名ほどの観客。鎌倉を舞台に、古書をめぐるミステリーがしっとりと描かれている。主演の黒木華の『リップヴァンウィンクルの花嫁』や『日日是好日』でも見せてくれた透明感のある凛とした佇まいが魅力的。何度か出てくる夏目漱石や太宰治作品の朗読シーンも印象に残る。回想シーンの東出昌大と夏帆の表情も秀逸だ。

 本作が上映されていたCGV明洞駅シネライブラリーでは、ほぼ常時日本映画が上映されているが、いつでもコンスタントに観客が入っている。また、今回は残念ながら満席のため見られなかったが、スタジオジブリの名作『魔女の宅急便』も大勢の観客を集めていた。このような状況は、日韓の政治レベルでの葛藤が続く中、文化交流の観点から歓迎すべき状況といえよう。


『となりのトトロ』


 1988年公開の作品だが初見だった。相変わらずの宮崎駿ワールドが展開。キャラクターデザインは「アルプスの少女ハイジ」に似ている。時代設定は戦後間もなくなのか、壁掛け電話や電報、オート三輪が登場する。キャラクターのキラキラとしたみずみずしさが魅力的。糸井重里が父親役の声を演じているのにも注目。


ミュージカル『パルレ』


 4回目の鑑賞だが、見るたびに新たな発見がある。さらに、今回のキャストはダブルキャストで前回までとは異なっており、新鮮な印象で見られた。ソウル市内で偶然同じアパートに住むことになった書店で働く女性ナヨンと、モンゴルからの労働者の若者ソロンゴを中心に展開するハートフルドラマだ。格差社会、外国人労働者、パワハラ、障がい者差別など、現代の韓国が抱える問題が織り込まれている。「洗濯物が風に身をまかせるように、心も風にまかせよう」「洗濯物が乾くように、涙もいつか乾く」など、心に響く台詞も多数。本作は2005年からロングランを続けており、日本で公演されたこともある。鑑賞当日は4,759回目の公演とのことだった。


ミュージカル『作業の定石(ナンパの定石)』


 2005年にソン・イェジンとソン・イルグクの主演で公開され、日本でも『ナンパの定石』として公開された映画のミュージカル版。テンポのよい楽しいラブ・コメディが展開する。ワンシチュエーションの二人芝居で、双子の妹とのひとり二役を演じて妹の元カレを欺こうと画策するストーリー。肩がこらず楽しめる作品だ。


演劇『ジャマイカヘルスクラブ』


 TV番組への再出演が決まり、短期間でのダイエットを求められた女優が、スポーツクラブで奮闘するストーリー。ワンシチュエーションのコメディ・ドラマだが、4人それぞれのキャストの個性が光っていて見ごたえがあった。終演後、キャスト全員が公演ポスターにサインをし、観客との写真撮影に応じていたのも嬉しいファンサービスだ。


アクロバット・パフォーマンス『JUMP』


 テコンドーをモチーフにしたアクロバット・パフォーマンス。席が3列目だったので、迫力満点。バク転や宙返りなどの華麗な技の数々に圧倒される。個性豊かな家族たちが演じるコメディタッチの展開に満席の観客が沸いていた。観客は外国人比率高めで、日本人もちらほら。終演後、会場出口でキャスト全員が参加するサイン会が開催されていた。



Writer's Note
 hebaragi。ソウル滞在最終日は22時過ぎまで映画を見て、LCCの深夜便を利用しての帰国。翌日早朝に着いて、その足で出勤というハードスケジュールも2回目。しかし、今回も良い作品に出会えた充実感からか、あまり寝ていない割は睡魔は襲ってこなかった。


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Report マンスリー・ソウル 2019年5月 ~映画の法廷シーンから垣間見える韓国社会の今

Text by hebaragi
2019/6/3掲載



 梅雨入り前にもかかわらず夏の蒸し暑さを感じた5月下旬のソウル。今回は、韓国劇映画5本、韓国ドキュメンタリー3本、日本のアニメーション1本を見た。韓国劇映画の中では3本の作品で法廷シーンが登場し、日本との違いも描かれていて興味深い鑑賞となった。


『ガール・コップス』


 かつてのやり手女性刑事・ミヨン(ラ・ミラン)は、いまは相談センター勤務という閑職にとばされ、若い落ちこぼれ刑事・ジヘ(イ・ソンギョン)とは犬猿の仲。ふたりが勤務する警察署所轄管内で性被害事件が発生するが、署内では捜査が後回しにされる。そんな中、ふたりは独自捜査をすることになる。捜査が進むにつれ、ふたりの距離が近づき、よきパートナーとなるストーリーが展開する。派手なアクションシーンやカーチェイスも見どころの、楽しいアクションコメディだ。

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『ガール・コップス』



『教会のお兄さん』


 主人公の男性、イ・グァニが末期ガンの抗がん剤治療を続ける中、妻の血液末期がんが見つかる。そして、追い打ちをかけるような母の死。次々と起こる困難にもかかわらず、キリスト教への信仰を続けた男性のドキュメンタリー。闘病を続けながら、生まれた娘・ソヨンの成長を暖かく見守る姿に胸を打たれる。壮絶な闘病を続けながら、周囲の人々に思いを語り、最後は帰らぬ人となる主人公の生き方に観客も涙を誘われていた。

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『教会のお兄さん』



『市民 盧武鉉』


 盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領をテーマにした映画は何本目になるのだろうか? 大統領退任後、一人の市民として故郷の村に戻ってからの400日あまりの日々を当時の関係者たちへのインタビューを交えて描くドキュメンタリー。彼が農村を訪ね、農作業をしたり、ゴミ拾いをしたり、アイガモ農法をすすめたりする映像が続く。彼亡き後、関わった農村が荒れ果てている様子は痛々しい印象だ。ラストシーンは、国会議員だったときの若き日の本人の映像。大統領退任後の彼の生き方が紹介された貴重な作品といえよう。

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『市民 盧武鉉』



『きみの声をとどけたい』


 2017年公開の日本のアニメーション。鎌倉をモデルにした海辺の街が舞台の、女子高生たちが商店街限定のミニFM局のDJをする話。キャラクター・デザインは少女コミックの印象だが、背景画が綺麗なことと、それぞれのキャラクターが魅力的に描かれていることから、ストーリーに引き込まれる。最後にサプライズで奇跡も起きる。全編を通して、思春期の少女たちのまっすぐな生き方が爽やかな印象を残す秀作だ。

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『きみの声をとどけたい』



『キム・グン』


 1980年5月に起きた光州事件の際に、あちこちで目撃され、装甲車に乗る写真に写っていた人物が北朝鮮国営メディアに登場する人物に酷似しているという説を元に、当時の市民軍や当局者、メディアの記者たちのインタビューを交えて謎に迫るドキュメンタリー。39年経った現在でも事件の真相に謎が残っているというのは衝撃的だ。

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『キム・グン』



『未成年』


 女子高生ジュリ(キム・ヘジュン)は、父親(キム・ユンソク)がクラスメートのユナ(パク・セジン)の母親(キム・ソジン)と不倫をしていることを知る。その問題をなんとか穏便に解決したいと思うジュリだが、ジュリの母親(ヨム・ジョンア)にも事実が知られてしまう。ジュリとユナの関係も悪くなり、学校の雰囲気も気まずくなる。そんな折、ユナの母親が妊娠し、出産する。ジュリとユナは病院に行くことに。子どもとの出会いを通して、ふたりの関係は改善するかに見えたが、子どもは亡くなってしまう。しかし、その後のふたりは不思議な友情で結ばれていく。思春期の心の揺らめきが丁寧に描かれていたのが印象的な作品だ。

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『未成年』



『陪審員たち』


 2008年に韓国でスタートした国民参与裁判制度に参加する、年齢も職業も様々な8人の普通の市民たちが主役の法廷ドラマ。法律の素人が証拠や証人を検討し、被告人の有罪・無罪を判断していく作業は過酷を極める。しかし、あるときから、冤罪の疑いが生まれ、再度検討した結論は当初の予想外のものに変わっていく。陪審員たちが悩みながら判断を重ねる熱心な様子が観客に伝わり、見応えがあった。法廷シーンもリアルで、陪審員は検察官の後ろに座っているのも、裁判官側に座っている日本の法廷と違っていて興味深い。また、裁判長役のムン・ソリの落ち着いた演技も印象的だった。日本でも裁判員制度が運用されているが、同様の悩みを抱えながら多くの市民たちがたずさわっていることに思いを巡らせながら鑑賞した。

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『陪審員たち』



『私の特別な兄弟』


 頭脳は明晰だが首から下の身体障がいを持ち車椅子生活のセハ(シン・ハギュン)。一方、水泳のずば抜けた才能を持つドング(イ・グァンス)は知的障がい者だ。二人は小さな頃から20年間、「責任の家」という施設で本当の兄弟のように育ってきた。ある日、ふたりが暮らす施設の神父が亡くなり、ふたりは離ればなれになる岐路に立たされる。施設は閉鎖され、ドングの今後の生活については家族と本人との意見があわず裁判となるが、法廷でドングは意外にも一度彼を捨てた両親と同居することを選ぶ。一方、セハは別の施設で暮らすことに。しかし、「責任の家」での生活を懐かしむドングは、施設の跡地へと向かう。セハは口で操作する新型の車椅子で、あてどもなく車道へと出ていく。そして、ふたりの思いにほだされた周囲の人々が、再びふたりでの共同生活をサポートするラストに感動させられた。また、ふたりの親友、水泳教室の女性講師ミヒョン役のイ・ソムがふたりを優しく見守る演出も秀逸だった。ストーリー全体を通して障がい者の人権について考えさせられたが、ヒューマン・コメディとしても楽しめる作品だ。 なお、裁判シーンの中では、日本と異なり法廷での規制がゆるいのか、傍聴人が弁護人席に駆け寄るシーンが登場するのは興味深い。

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『私の特別な兄弟』



『幼い依頼人』


 継母であるジスク(ユソン)から虐待を受けている姉弟の姉、10歳の少女ダビン(チェ・ミョンビン)が、7歳の弟ミンジュン(イ・ジュウォン)とともに法律事務所を訪ねる。やり手弁護士ジョンヨプ(イ・ドンフィ)は出世にしか興味がなく、ふたりをうとましく思いながらも、ふりまわされている。ある日、ミンジュンが殺され、ダビンが自白し警察に逮捕される。自白に疑問を抱いた弁護士は、調査を進め、ついに母親の虐待と弟の死との関連を解明し、母親は逮捕されることに。自白を強要されたダビンが、被告人である母親との間についたてが置かれた法廷の証人席で真実を語る様は、見ていて切ない思いになった。また、虐待する母親役、ユソンの鬼気迫る表情や目ヂカラは迫力があり、ドラマを大いに盛り上げていた。エンドロールでは、近年、韓国で児童虐待が急増しており、本作が実際の事件をモチーフにして制作されたことが告知されていた。こうした被害を受ける子どもたちが少しでも少なくなるようにと願いながら劇場を後にした。

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『幼い依頼人』



Writer's Note
 hebaragi。ふだん、韓国映画以外で見る映画は圧倒的に日本映画が多い。なかでもこの数年はコミック原作で高校生が主人公の、いわゆる「キラキラ映画」もよく見る。コアな映画ファンには敬遠されることも多いジャンルだが、見てみると意外に秀作が多いことに気づく。今回見たアニメ『きみの声をとどけたい』も爽やかな青春映画だった。


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Report マンスリー・ソウル 2019年4月 ~ドキュメンタリー映画の力を感じる

Text by hebaragi
2019/5/12掲載



 今回は、韓国劇映画3本、韓国ドキュメンタリー2本、日本のドキュメンタリー1本を見た。シネコンで開催された東野圭吾作品の読書会に参加し、ミュージカルも鑑賞した。


『他人は地獄だ』


 同級生の男性5人、女性2人がキャンプ場で休暇を過ごす一泊二日を、ほぼワンシチュエーションで描いている。三部作構成で、とめどなく続く会話を中心に展開する青春群像劇。時間の経過につれ、女性1人と男性2人に三角関係が生じるなど、人間関係が微妙に変化する展開が興味深い。女性2人の表情が印象的。

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『他人は地獄だ』

 ちなみに、この作品が上映された「ハリウッド劇場」はいわゆる名画座で、ふだん、内外の旧作を高齢者を対象に料金2,000ウォン(約200円)で上映している。作品を見終わって劇場を出てきたとき、たくさんの高齢者が行列を作っていた。このような映画館は、シネコンが全盛のソウル市内では稀有な存在といえるだろう。


『ウォッチング』


 駐車場で拉致された女性と犯人が主人公のホラー・サスペンス。犯人と女性との緊迫感あふれるやりとりと、息詰まるスピーディーな展開が印象的だった。監視カメラが多数存在する中での大胆な犯行が現代社会の闇をえぐり出していた。

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『ウォッチング』


『安藤忠雄』


 斬新な建築で有名な建築家は韓国でも関心が高く、レイトショーだが、多数の観客で客席が埋まっていた。内容は、彼の建築の数々を彼独特のユーモアを交えたインタビューにのせて紹介するドキュメンタリー。

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『安藤忠雄』

 緑、水、光をコンクリートと調和させたデザインの数々は意表をつくものが多く、改めて傑作が多いことに気づかされる。中でも大阪にある「光の教会」や瀬戸内海・直島にある「地中美術館」は印象的だった。大学や専門学校に行かず、ほぼ独学で学んだ知識を元にした発想は素晴らしく、感動の連続だった。


『盧武鉉と馬鹿たち』


 革新政権として期待されながら、大統領退任後に判明したスキャンダルが原因で自殺した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領をテーマにしたドキュメンタリー。彼を懐かしむ80名を超える様々な市民のインタビューを交え、あの熱狂的な盧武鉉大統領誕生の真実に迫る力作だった。韓国で初めてネット社会から生まれた大統領といわれる盧武鉉とは何だったのか? 「馬鹿たち」とは誰を指すのか? いろいろと考えさせられる作品だった。

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『盧武鉉と馬鹿たち』


『ビューティフル・マインド』


 年齢も様々な障がい者と健常者のオーケストラの活動の日々を扱ったドキュメンタリー。クラシックの名曲の数々が彩りを添える。ピアノ、チェロ、バイオリンなど楽器は異なるが、熱心に練習に取り組む姿が胸を打つ。本人たちはもちろんだが、温かく見守る家族たちの表情も素晴らしい。困難を乗り越えて迎えたラストの演奏会は感動的。

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『ビューティフル・マインド』


『誕生日』


 2014年に起きたセウォル号沈没事故の遺族をテーマにしたドラマ。事故以来、生前のままの勉強部屋が残されていたり、夫婦が別居するなど、年月が経っても癒されない遺族の姿が痛々しい。亡くなった高校生の友人たちが誕生日に集まり、彼のありし日の写真のスライドを見ながら思い出を語る様子は、ただただ悲しい。ラストに読み上げられたメッセージは胸に迫るもので、観客の涙を誘っていた。遺族の夫婦を演じたソル・ギョングとチョン・ドヨンの熱演が印象的だった。

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『誕生日』


読書会「イ・ダヘのブッククラブ シーズン2 東野圭吾」


 繁華街・明洞のシネコンの中にある「シネマライブラリー」で開催された講義形式の読書会。壁際に映画に関わる図書が並び、客席にはゆったりとしたソファが設置されるなど、心地よい空間となっている。入場の際にレジュメを渡され、大学の講義のように作品のあらすじを輪読し、講師が解説を加えていくイベント。今回は、広瀬すず&櫻井翔主演で2018年に日本公開され、5月9日からは韓国でも公開される『ラプラスの魔女』がテーマ。講師は内外のミステリーに詳しいようで、宮部みゆきやアガサ・クリスティの話題も出た。講義の途中で『ラプラスの魔女』の1シーンも上映された。韓国では過去に『白夜行』や『容疑者Xの献身』がリメイクされ公開されるなど、東野圭吾人気は有名だが、今回も満席になるほどの人気に日本人として嬉しくなった。

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読書会の模様


ミュージカル「キム・ジョンウク探し」


 2010年にイム・スジョンとコン・ユの主演で公開された同名映画のミュージカル版。映画は日本では『あなたの初恋探します』という邦題で公開された。設定は映画とほぼ同じで、テンポのよい楽しいラブコメディ。9年前にインドで初恋の人と出会った主人公が初恋探しの会社を訪れるという、2人の出会いから、ハッピーエンドに至るまでのストーリーにほっとさせられた。ちなみに、劇場のある大学路は100軒以上の小劇場が存在する芸術の街で、駅からの道すがら多数のストリートミュージシャンが演奏するなど、若者の街として活気が感じられるのも魅力的である。

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ミュージカル「キム・ジョンウク探し」


Writer's Note
 hebaragi。LCC利用で経費をかけずに毎月ソウルを訪れ、映画鑑賞することにしました。できるだけ多くの情報を提供したいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。


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Report ソウル2019春 ~柳寛順の映画を見て考えた日韓の歴史。そして、新しい韓国にふれる

Text by hebaragi
2019/3/31掲載



 今年2019年は、1919年に韓国で起きた「三・一独立運動」から100年を迎えた年だ。当時、独立運動を主導した人物の一人が柳寛順(ユ・グァンスン)である。柳寛順は韓国では知らない人がいないくらいの歴史上の人物で、「韓国のジャンヌ・ダルク」と呼ばれることもある。今回訪れたソウルで、彼女に関わる映画2本を鑑賞した。また、伝統公演(演劇)やミュージカル、ガールズグループのライブにも参加し、新しい韓国にも触れたソウル滞在であった。


『抗拒:柳寛順物語』


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 三・一独立運動が起きた当時は16歳だった柳寛順が、日本の官憲によって拘束され、収監されたソウルの西大門刑務所で過ごした1年あまりが描かれた作品。大部分を占める刑務所のシーンはモノクロで、日本の植民地支配当時の息詰まるような雰囲気が伝わってくる。とりわけ、何度か描かれる拷問のシーンは目を覆いたくなる光景であり、日本人のひとりとして見ているのが辛かった。しかし、そのような仕打ちを受けながらも、柳寛順は志を変えることなく、収監された同志とともに「大韓独立万歳」の声を高らかにあげていく。その後、日本の皇室の慶事に伴う恩赦も彼女には適用されず、1年あまりの収監後、獄死する。本作撮影にあたって5日間絶食したという主演のコ・アソンの凜とした表情が見る者に強い印象を残した作品だった。


『1919 柳寛順物語』


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 柳寛順にまつわるドキュメンタリー作品。彼女の生涯を、韓国内外の歴史学者など様々な研究者のインタビューを交えて描いている。80分弱という短い上映時間であり、西大門刑務所でのシーンは少なく、拷問などのシーンも『抗拒:柳寛順物語』よりは少ない。三・一独立運動に際しては、韓国側の発表で7,000人を超える死者が発生したとの説があることが劇中で流れ、改めて歴史上の大きな出来事であったという認識を新たにした。ラスト近く、鳩山由紀夫元首相が西大門刑務所跡地を訪れ、「ここで拷問があったことや、たくさんの命が奪われたことを申し訳なく思う」と語り、ひざまずいて謝罪するシーンが描かれている。日本では歴史認識をめぐって様々な意見があり、時折、韓国側から見れば政治家の「妄言」と言われる発言が話題になる。しかし、日本の中にも様々な考え方があることを映画を見た韓国の人たちに知ってもらう意味では、鳩山元首相の登場は意義のあるシーンであったように思う。

 2本の作品を見て感じたのは、韓国の人たちの歴史を忘れまいとする思いであった。一方、日本では、学校でヨーロッパやアメリカ、中国の歴史は詳細に習うが、韓国の現代史を扱う時間は極端に少ない。現在、日韓の間では歴史をめぐって様々な問題が再燃している。その一方で人的交流は増え続けており、日本ではK−POPや韓国料理が相変わらずの人気を集め、東京のコリアンタウン、新大久保は連日大勢の人たちでにぎわっている。今後、真の相互理解を築いていくためには、文化にとどまらず歴史上の出来事にも関心を持っていくことが必要ではないだろうか。


伝統公演「宮:張緑水ストーリー」


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 15世紀の李氏朝鮮時代が舞台。暴君として悪名高い燕山君と、彼の寵愛を受け「朝鮮三悪女」のひとりとも称される女性・張緑水(チャン・ノクス)の物語。2015年には『背徳の王宮』として韓国で映画化もされている。本作は台詞なしのノンバーバル作品。権力をほしいままにした燕山君と張緑水が周囲を翻弄するが、最後には反旗を翻した部下たちによって二人は倒される。美しいチマチョゴリをまとった女性たちの舞踊シーンも見どころのひとつであり、壮大で豪華な歴史絵巻が観客を魅了する。観客のほとんどが外国人で、時折、舞台袖に設置されたディスプレイに四ヶ国語で説明文が流れ、ストーリーの理解を深めることができる。鑑賞後、もっと韓国の歴史を知りたくなった作品だった。


ミュージカル「パルレ」


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 2005年の初演からロングランを続ける人気ミュージカル。2012年には日本でも公演があった。今回はソウル大学のある若者の街、大学路(テハンノ)の小劇場で鑑賞。6年前に知人のすすめで見たのが初めてだったが、今回も小劇場ならではの舞台と観客の一体感が楽しめた。ストーリーは、あるアパートに住む様々な事情を抱えた住人たちが繰り広げる群像劇だ。主演の書店勤務の女性ナヨンと、モンゴルからの労働者ソロンゴの出会いを軸にラブ・ストーリーの要素もあり、ハッピー・エンドにほっとさせられる。軽快でテンポのよいストーリー展開が楽しく、休憩含め160分という上演時間も全く気にならない秀作であった。


「公園少女」ゲリラライブ


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 ソウルの繁華街、明洞(ミョンドン)で昼食をとり、街歩きをしていたところ、トレーラーを利用した仮設ステージでのライブに遭遇。2018年9月から活動を開始した韓国人5人、日本人1人、台湾人1人の7人組ガールズグループである。ゲリラライブでありながら、小一時間にわたってパフォーマンスが繰り広げられた。ダンスも歌も素晴らしく、まだ肌寒いなか、会場の歩行者天国を埋め尽くした大勢の観客を魅了した。


Writer's Note
 hebaragi。北海道在住。ソウルに行き始めて30年になる。30年前、新千歳空港とソウルを結ぶ便は週2往復のみであったが、現在は7社のエアラインが1日に10往復している。料金も昔からは考えられないほど安く、国内旅行以上に手軽に行けるようになったことは喜ばしい。次のソウル訪問が今から楽しみだ。


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