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Report 『お嬢さん』ジャパンプレミア ~パク・チャヌク監督「ヒロインの秀子は、高峰秀子さんに因んでいる」

Text & Photo by Kachi
2017/2/10掲載



 3月3日(金)より公開される韓国映画『お嬢さん』のジャパン・プレミア上映が、パク・チャヌク監督を迎えて2月8日(水)、2月9日(木)両日、都内にて開催された。監督に加えて、初日には女優の真木よう子が、二日目には恋愛小説『ナラタージュ』などで知られる小説家の島本理生が登壇。“禁断の愛”を描いた『お嬢さん』についてトークが開催された。

※ シネマコリアのツイッター・アカウントでの連続投稿を加筆・修正し、まとめた記事です。ツイッターの文字数制限のため、発言や表現はかなり省略されています。

2月8日(水)@アキバシアター ゲスト パク・チャヌク、真木よう子


 監督は「1930年代の日本と西洋と韓国の関係が伺える映画で、私なりの解釈で日本文化を描きました。俳優陣は死ぬ気で長いセリフを覚えて演じました。(日本語が)日本の皆さんには中途半端かも知れませんが、暖かく観てください」と挨拶。それに対し、真木は「パーフェクトでない部分も作品が圧倒してくれていて、全く問題なかった」と絶賛した。

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 また、真木は「邦画だと官能的な部分を掘り下げ過ぎて、女性は観辛くなるが、『お嬢さん』は絶妙なバランス。特に二人の女優が素晴らしい。日本の女性も自分の意見を持って強くいられるようになって欲しいので、本作で女性同士の絆が描かれているのには感動した」と述べた。

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監督と真木よう子さん(右)

 「女優をキャスティングするときに気をつけている点は?」という問いに対し、監督は「どんな監督も、映画と役柄にあうことを考えますが、個人的には頭が良くて自分の主張をはっきりする女性が魅力的で、セクシーだと思っているので、そういう女優を選ぶことになる」と回答。そして、「キム・ミニ扮するヒロインの秀子は、成瀬巳喜男監督作品で知られる高峰秀子さんに因み、主体性と気品を持つ女性を念頭においた。女性は自分の楽しみや快楽の追求をためらわないで。そして男性は、女性にもっと尽くしてあげなければ、と思ってくだされば嬉しい」と観客に対するメッセージを残した。

2月9日(木)@スペースFS汐留 ゲスト パク・チャヌク、島本理生


 作家・島本理生とのクロス・トークは、監督の「R18+のレイティングで公開されたが、(韓国では)いい成績を残している。俳優が頑張ってくれた。特に、劇中、あわれでみじめな扱いを受ける俳優二人にお礼を言いたい」との挨拶で始まった。

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 リアルな女性の心理描写に定評のある島本理生は、『オールド・ボーイ』でパク・チャヌク作品に魅せられたという。

島本「『お嬢さん』は、プロモーション映像を見ると悲劇的な感じかもと思ったが、スリリングかつ開放感のある映画で感動した。女性の強さと愛情深さが素晴らしかった。」

 二人は先日対談を終えたばかりだそう。

島本「監督は、激しい作風のイメージに反した、穏やかな方だと感じた。」

監督「よく言われる(笑)。特に『オールド・ボーイ』の頃、自分のファンだという方は革ジャンを着ていたり、タトゥーだらけだったり…(笑)。最近は女性ファンも増えて嬉しい。」

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監督と島本理生さん(右)

 作品理解が深まる質問が相次ぐ。

島本「スッキ役のキム・テリは新人女優だが、撮影中に変化していった?」

監督「新人なりに自信にあふれていたので抜擢したのだが、最初大勢のスタッフに囲まれどぎまぎしてしまった。そのうち、のびのびし始め順応が速かった。」

島本「男女のラブシーンは、どんなに愛しあっていても力関係があるが、『お嬢さん』は対等。女性同士と男女のラブシーン、どこが違うと思う?」

監督「映画史上一番セリフが多いベッドシーンを撮ろうと思っていた。会話を交わしながら心と感情を共有し、体がついていく場面にしたかった。また、劇中の設定として、令嬢と下女という身分差があり、また植民地と被植民地という格差がある。その二重の格差をなくして対等にしていく過程を、ベッドシーンで見て欲しかった。男女だったら難しかったでしょうね。」

島本「どういうところが難しい?」

監督「これほど親密な会話を交わしながらは男女間だと難しかったし、想像できなかった。体位も女性ならではのもの。男性は射精の瞬間に向かって走っていくので、ベッドシーンはその瞬間の描写が中心となってしまう。目的の到達点ではなく、過程を見せたかった。こういう(際どい)話を皆さんの前ですると、普通、妙な気持ちになるのですが(笑)、この映画は快楽に対する率直さを礼賛しているので、全く大丈夫です。」

島本「ラブシーンで笑ってもいい?」

監督「それは私が意図していることなので、この映画では大いに笑って欲しい。サクラを入れて笑いを誘導するとかしても(笑)。」

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 島本さんの最後の質問より、パク・チャヌク監督が素敵な女性に薦めたい映画5本が披露された。

  ルキノ・ヴィスコンティ『山猫』
  成瀬巳喜男『乱れる』
  キム・ギヨン『下女』
  ニコラス・ローグ『赤い影』
  アルフレッド・ヒッチコック『めまい』


『お嬢さん』
 原題 아가씨 英題 The Handmaiden 韓国公開 2016年
 監督 パク・チャヌク 出演 キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、キム・ヘスク、ムン・ソリ
 2017年3月3日(金)より、TOHOシネマズシャンテほかロードショー
 公式サイト http://ojosan.jp/


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Report 『アシュラ』特別試写会&トークイベント ~キム・ソンス監督「素晴らしい俳優の演技の晩餐会、堪能して欲しい」

Text & Photo by Kachi
2017/1/22掲載



 1月17日(火)、3月に劇場公開される『アシュラ』の特別試写会が開催され、キム・ソンス監督のトークイベントが開かれた。監督は「こんにちは。私はキム・ソンスです。映画を見に来てくださって、ありがとうございます」と日本語で挨拶をした後、『アシュラ』を撮るにあたっての思いや、撮影秘話を語ってくれた。

※ 文中で映画の内容に触れています。

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 私はフィルム・ノワールが大好きです。1960・70年代の日本、フランスの作品、昔のアメリカなど、多くのフィルム・ノワールを観てきて、いつかそういうフィルム・ノワール的映画を現代に置き換えて、自分なりの解釈を加えて撮りたかったのです。ただ、昔の悪人映画というと、暗黒街を牛耳っている親分というバックグラウンドで、それだと現代にあわないと思いました。本当の悪党は政治指導者や権力を握っている者や法律を動かす者では?と考えて、過去の映画で見られた犯罪者的立場の人を、政治家や警察や検事に置き換えました。でも、最初にシナリオを書いた時、周囲からは商業的な映画にするのは難しいと言われたので、このような素晴らしい俳優と仕事ができると思っていませんでした。チョン・ウソンさんとは昔から仲が良かったので、出演すると言ってくれまして、この映画の制作会社であるサナイ・ピクチャーズの社長の友人であるファン・ジョンミンさんもやると言ってくれて、その後、いい俳優の方々が続いてくださいました。期待以上のキャスティングとなり、戦慄を感じるくらいスリリングな撮影現場でした。


 撮影中、最も苦労したことに質問が及ぶと、作品中盤に登場するカー・アクションを挙げた。

 状況が一変する、映画の分岐点ですね。主人公ハン・ドギョン(チョン・ウソン)は、自分の感情をなかなか表に出せないタイプなのですが、あの場面でストレスが一気に爆発しているんです。大きな感情のシーンだと思ったので、主人公が暴走しているようなイメージで撮りたかったです。荒々しく狂気に満ちた、危険な感じのシーンにするためにどうするか話しあっていると、イ・モゲ撮影監督から「雨を降らせてはどうか」と言われ、シナリオを変更しました。でも実際に撮影すると本当に大変で、危険を伴うものでしたので実は後悔したのですが、撮り終えた後はとても良かったと感じました。


 『アシュラ』では、監督の長年の盟友チョン・ウソンが主人公を務めている。ファン・ジョンミンやチュ・ジフンは初めてタッグを組んだ。

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キム・ソンス監督

 これまで何回も一緒に撮影をしているチョン・ウソンさんには、シナリオを書く前から真っ先にこの作品について相談しました。「この映画はすごく制作するのが難しいストーリーラインだけど、是非やりたいと思っている」とチョン・ウソンさんに話すと、彼は私を「お兄さん」と呼んでくれているのですが、「お兄さんがそこまで撮りたいと思っているのであれば、自分は弟として参加したい。お兄さんが歌いたい歌があるのなら、そこで弟は歌にあわせて踊らなければならない」と言ってくれたりしたことに支えられました。チョン・ウソンさんの言葉が、作品を完成させるエネルギーとなりました。

 韓国の全ての監督・製作者が思うことですが、ファン・ジョンミンさんとは是非一度仕事をしてみたいと思っていました。今回の役は主演よりも助演に近いため、シナリオを渡すときハラハラしてしまったのですが、見た瞬間に「やります」と言って下さったので、そこから製作資金も一気に募ることができました。ファン・ジョンミンさんと一緒に映画を作った人は誰でも「彼は最高だ」と言います。演出家として高い眼識があるからです。本作で言うと、市長が会議室で素っ裸になっているシーン。私は当初、パンツ一丁で会議室にいるという演出を考えていて、どうしてもファン・ジョンミンさんにそれをやってもらいたくて「彼は政治指導者だけど、他人に一切関心がなく、礼儀を守ろうなんてさらさら考えていない。自由勝手にふるまう人だから、ここでパンツ1枚でいるんです」と説得しようとしたところ、「それならいっそのことパンツも脱ぎましょう」と言って下さったのです。全く思ってもみなかったことなので、ありがたかったです。


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監督(左)と橋本マナミ(右)

 その後、登壇したタレントの橋本マナミを交え、クロストークが行われた。実は今回の先行上映が、日本で最も速い『アシュラ』のお披露目となった。監督は最後にこう締めくくった。

 観ていて痛快なアクション映画を作るべきだったかもしれませんが、この映画では、暴力の実態をお見せしたいと思いました。私がここで言いたいことは、映画をご覧になった皆さんには言わなくてもお分かりいただけると思っています。まだご覧になっていない方々には、あえて何も言わずにまず観ていただけたら嬉しいですし、「韓国で演技の上手な俳優が集結して撮った映画だ」ということを伝えてもらえたらと思います。「まるで演技の晩餐会を観ているようだ」と勧めていただけたら嬉しいです。


 『アシュラ』は、3月4日(土)より東京・新宿武蔵野館ほかで劇場公開。


『アシュラ』
 原題 아수라 英題 Asura : The City of Madness 韓国公開 2016年
 監督 キム・ソンス 出演 チョン・ウソン、ファン・ジョンミン、チュ・ジフン、クァク・トウォン
 2017年3月4日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://asura-themovie.jp/


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Report 第17回東京フィルメックス ~作り手、評者、役者に感じた映画への熱量

Text by Kachi
2017/1/10掲載



 それは、とてもフィルメックスらしい、というべき光景だった。審査員もゲストも客席から登壇する。以前にも見られた試みなのかもしれないが、まるで審査員が大上段に構えた特権的な役職ではなく、私たち観客と共にあるということの現れかに見えた。

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映画祭ポスター・ビジュアル

 会期中、2日目の国際シンポジウム「アジアから映画の未来を考える」に参加できたことは大きな収穫であった。東京フィルメックスの常連で、困難を経てもなお映画を撮り続けているアミール・ナデリ監督が「作品はオリジナルであることが大事。そして映画作りに必要なのはピュアであることだ」と気炎を上げ、熱弁の終わりに「カット!」と一言入れる茶目っ気に和ませられる。審査委員長のトニー・レインズ氏は「劇場というのは、この100年とは違った形態になっていく」として、マレーネ・ディートリッヒの「将来はあなたのものよ。私のものでなくて」という金言を引用。その語り口には、終わりゆくキネマの時代への涙がにじみながらも、映画作りに関わることがより難しい現代で、これからの才能が生き残る道を一途に模索する態度がうかがえる。穏やかに話すキム・ジソク氏だが、韓国映画の現状を誉めた質問者に対しては「本当にそう思うんですか?」と迫り、「今は政治が愚かだから、政権交代したら良い映画が生まれますね」と舌鋒鋭い。市山尚三氏は、日本と世界の映画製作の現場について、その違いと問題点について冷静に言及する。映画の未来を憂う者が額をつきあわせたホットな応酬であった。日本の映画批評の遅れと怠慢を指弾したトニー委員長の厳しい言葉に、筆者は大いに恥じ入るばかりだった。

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『The NET 網に囚われた男』キム・ギドク監督

 林加奈子ディレクターが開幕式で宣言した「本気の映画」が、オープニングから登場した。『The NET 網に囚われた男』は、これまで2作品で南北分断についてのプロデュース作品を手がけてきたキム・ギドクが、満を持すかのように演出・脚本から携わった映画である。北朝鮮で漁を生業とするチョル(リュ・スンボム)は、南北国境にほど近くで漁網を仕掛けている最中、ボートのエンジンが故障。制御を失ったボートは国境線を越えてしまい、チョルは韓国軍に逮捕されてしまう。

 かつてのプロデュース作、たとえば『プンサンケ 豊山犬』では、南北をひそかに行き来する孤高の運び屋と脱北女性のロマンスが物語を動かす鍵となり、『レッド・ファミリー』では、任務のために南で疑似家族を演じていた北の工作員たちに、隣人一家に触発されるように本物の絆が芽生えたことで悲劇が起きる。いずれも、国家が無辜なはずの民を翻弄している現状への怒りを、エンターテイメントに昇華した作品となっていた。そうしたある種の映画的娯楽が、本作にはほとんどない。開始早々、チョルが妻(ギドクの最新ミューズ、イ・ウヌ)とまぐわうシーンを除けば、性的および嗜虐的な描写も薄く、ギドク・カラーは影を潜めている。それだけに、分断国家に対するキム・ギドクの夾雑物のない切迫した思いが、確と伝わってくる。

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『The NET 網に囚われた男』キム・ギドク監督

 残してきた妻子を思い、一瞬たりとも南の資本主義に毒されまいと抗うチョルだが、猥雑な都会の街並みと経済的豊さがもたらす魅力が、彼の心をかすかに揺らす。そうした人間的脆さも、権力を思うまま振るう警察の横暴さも、簡単に指弾できない。監督は、劇中では数少ない心優しい男についてさえ、一抹の疑念が付きまとうように仕掛けているからだ。林加奈子ディレクターが「ギドク・トリック」と評したように、「善い悪いを抜きにお互いがお互いを疑っているような韓国と北朝鮮の現実」(キム・ギドク監督)という、監督の寓意術に違いない。

 ユン・ガウン監督『私たち』は、スペシャル・メンションと観客賞のダブル受賞という快挙を成し遂げた。クラスの中で「みそっかす」(子どもの遊びで、一人前に扱ってもらえない)のソン(チェ・スイン)。夏休み目前に転校してきたジア(ソル・ヘイン)。偶然出会った二人は、かけがえのない親友としてひと夏を過ごす。ところが新学期を間近に控えたある出来事で、友情は徐々にひび割れていく。

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『私たち』ユン・ガウン監督

 上映後、ティーチインに登壇したユン監督は「自分がソンよりももう少し年齢が上の頃、映画と似たような、幸せで心が痛む経験をした」と話した。この作品のリアリティは、監督の脚本よりも、子供たちの「こういう時はどう言うか?」という現実を優先させた演出や、実体験から映画が生まれていることに起因するわけだが、子供の主観ショットが維持された画角によって、ソンやジアたちが普段見て、聞いて、触れている世界のみずみずしさと残酷さが、偽りないものとして観客に届いてくる。低所得家庭のソンと弟のユンは、しかし母親からの愛情を一身に受けている。他方、欲しいものを飽くほど与えてもらえるジアだが、両親の関係はすでに破綻していて、子供心にやり場のない鬱積が広がっている。そんなジアを見て、家で咲いていたホウセンカから取った赤色を、爪紅にして慰めようとするソン。「上手に慰める言葉がみつからないから」(ユン監督)こその行動だが、このシーンのみならず、本作は私たち大人がはっとするような、本質的な示唆を与えてくれる。言葉は時に舌足らずで、たやすく誰かを傷つけてしまうものだ。

 韓国映画を観る時、子役が見せる大人顔負けの演技にひれ伏したくなることがある。2016年は、特にそういう思いに駆られることが多かった。パク・チャヌク監督『お嬢さん』で、キム・ミニ演じる官能的な令嬢、秀子の幼少時代を演じたチョ・ウニョン、『哭声/コクソン』で、不気味な悪霊の餌食になる少女を怪演&力演したキム・ファニ、そして『私たち』のチェ・スインとソル・ヘイン、更にフィルメックスで観客の心を一人でわしづかみにした、ソンの弟ユン役のカン・ミンジュンは、これから幼い名優たちを牽引していく存在になるだろう。

 無論、子役だけでなく、少ない出番ながら鮮烈な印象を残した女優もいた。『The NET 網に囚われた男』で、スンデ店に潜む女性スパイに扮したのは、今年『スチールフラワー』が評価され、今や実力派若手女優の一翼を担うチョン・ハダムで、「悲しい時にいつも泣かないといけませんか?」というセリフとともに忘れがたい登場であった。


第17回東京フィルメックス
 期間:2016年11月19日(土)~11月27日(日)
 会場:有楽町朝日ホールほか
 公式サイト http://filmex.net/

『The NET 網に囚われた男』
 原題 그물 英題 THE NET 韓国公開 2016年
 監督 キム・ギドク 出演 リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン、チェ・グィファ、ソン・ミンソク
 公式サイト http://thenet-ami.com/
 第17回東京フィルメックス特別招待作品(オープニング作品)
 2017年1月7日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開

『私たち』
 原題 우리들 英題 The World of Us 韓国公開 2016年
 監督 ユン・ガウン 出演 チェ・スイン、ソル・ヘイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン
 第17回東京フィルメックス<東京フィルメックス・コンペティション>招待作


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Report ソウルの映画館から ~『恋物語』との心ときめく出会い

Text by hebaragi
2017/1/9掲載



 「一期一会」とは様々な場面で使われる言葉だが、映画もその例外ではない。公開される映画のほとんどがDVDで発売される日本映画には、後日見るという選択肢も残されているが、韓国映画は日本での劇場公開はもちろん、輸入盤を含めDVDの発売もされないものが少なくない。

 2016年の年末、ソウルの映画館を訪れる機会があり、何本かの韓国映画を見た。その中でも『恋物語(原題 恋愛談)』は筆者に強い印象を残し、まさに一期一会を感じさせるものだった。

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『恋物語』の韓国版チラシ

 『恋物語』は、美大生ユンジュ(イ・サンヒ)と飲食店で働くジス(リュ・ソニョン)という二人の若い女性同士の恋愛がテーマ。ゴミ捨て場で何気なく出会った二人がコンビニで再会し、身分証明書を忘れてタバコを買えないジスの代わりにユンジュが買ってあげてから関係が少しずつ近づいていく。お互いにひかれていく二人の心理描写が細やか、かつ丁寧で、ストーリーがしっとりと心にしみていく。大事件が起こるわけではないが、何気ない会話や言葉を交わさなくても通い合う二人の心の交流の美しさに心惹かれる。とりわけ、二人の距離が接近してきても、どこかに戸惑いがある微妙な関係を反映した表情が秀逸だ。

 ある日、ユンジュがボーイフレンドに自分とジスの関係をカミングアウトするシーンがある。ボーイフレンドは表面上理解を示すように見えたが、ユンジュは心穏やかではない。二人の愛情がこのままずっと続くかと思えたストーリーの中盤、母親が急死したため実家に帰るジス。ユンジュは、ジスに会えなくなった時間に堪えきれず、彼女に会いに行く。しかし…。ユンジュを迎えたジスはどことなく冷淡で、ジスの父親もどこか怪訝な表情でユンジュを迎える。このあたりから二人の関係が微妙に変化していく。そして、ジスが実家からソウルに戻り、二人は再会する。

 再会後の二人の愛の行方は観客の想像力にゆだねられている。余談だが、本作では、二人の主人公がタバコを吸うシーンが多い。しかし、それも作品の演出上必然性が感じられるもので、違和感は全く感じられなかった。「心がときめく」という恋愛の本質を描いた秀作といえよう。本作は、全州国際映画祭の韓国コンペ部門で最優秀賞を受賞したほか、バンクーバー国際映画祭、サン・セバスチャン国際映画祭などで上映された。さらに2016年の東京フィルメックスでも好評を博し、韓国では11月からソウル市内のミニシアターで公開がスタートした。

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監督トークショーの模様

 筆者が本作を見たのはソウル随一のファッショナブルな街として知られる狎鷗亭(アックジョン)にあるミニシアターだが、約100席がほぼ満席。かつ女性比率高めの観客層だった。そして上映終了後は自然に拍手が起き、一人も席を立たず、隣の女性が涙ぐむなど、客席全体に感動の余韻が広がったと思っていたら、なんとこの日が上映最終日で、イ・ヒョンジュ監督のトークショーがあることが判明。監督の舞台挨拶のあと、質問コーナーでは10人を超える観客が手を挙げ、ひとつひとつの質問に丁寧に答える姿が印象的だった。

 質疑の中で、ジス役の女優のキャスティングは声を重視して決めたなど、興味深い話も出て、本作の理解がより深まった。1時間にも及ぶトークのあと、監督は映画館の外で出待ちをしていた大勢のファンに囲まれ、気軽にサインやツーショットに応じるなど、気さくな面も見せてくれた。筆者も劇場前で少しだけ監督と話ができた。「日本から見に来た」と声をかけると「どこから来たんですか。ありがとうございます」と答え、「日本でも劇場公開されるとよいですね」と言うと「まだ決まってないんです」と応じた。本作が日本で公開されれば、韓国同様たくさんの観客を魅了することだろう。

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イ・ヒョンジュ監督

 滞在中は他にも映画を見た。とあるきっかけで、10年前に戻ることができる薬を手にした男性をとりまくストーリー『あなた、そこにいてくれますか』は、ユニークな設定が興味深いドラマ。『パンドラ』は、韓国を突然襲った大地震と原発事故がテーマであり、迫力あふれる映像に圧倒された。一方で、少しでも早く避難しようとマイカーで移動する住民で渋滞する様子や避難所の風景などは、東日本大震災を彷彿とさせるものだった。さらに為す術もなく苦悩する大統領や政治家たちの様子が描かれていたことも印象に残る。イ・ビョンホン扮する大物詐欺師とカン・ドンウォン扮する刑事の二人を中心にストーリーが展開するクライム・アクション『マスター』は、豪華キャストとテンポの良さが観客を魅了する作品だ。

 ここ最近のソウルの映画館事情についてふれておきたい。韓国は日本同様シネコン全盛で、CGV、ロッテシネマ、メガボックスの3大チェーンが全国主要都市のターミナル駅周辺などに展開している。一方でミニシアターも存在しており、ソウルを中心にシネコンでは見られない韓国のアート系作品やヨーロッパ映画が上映されている。かつてはソウルの光化門に3つのミニシアターが軒を連ねていたが、ここ1年ほどで2館が閉館した。残念なニュースだが、そのかわりソウルでシネコンにミニシアターが併設されるようになったことは特筆すべきことといえる。筆者が『恋物語』を見たミニシアターも「CGV狎鷗亭」併設のミニシアター「アートハウス」であり、3スクリーンを擁し、熱心な映画ファンの注目を集めている。

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韓国では『君の名は。』が1月より公開中

 なお、映画館事情で以前から変わっていないのは、シネコンでのエンドロール開始と同時の場内点灯と観客早帰りであり、本編上映前に近日公開作品の予告編がなく商品のCMが流れることだ。エンドロール終了前まで室内灯を点灯せず、商品CMがなく予告編が流れるミニシアターとは好対照といえる。


『恋物語』
 原題 연애담(恋愛談) 英題 Our Love Story 韓国公開 2016年
 監督 イ・ヒョンジュ 出演 イ・サンヒ、リュ・ソニョン
 公式サイト http://ourlovestory.modoo.at/
 第17回東京フィルメックス<東京フィルメックス・コンペティション>招待作
 日本劇場未公開

Writer's Note
 hebaragi。ソウル滞在中は映画館にいる時間が圧倒的に長く、映画の幕間での食事処に悩むことも多い。今回は映画館近くの韓国料理店に初めて入り焼き肉を注文したところ、あまりのボリュームに驚いた。映画だけでなく、飲食店との一期一会も楽しみのひとつだ。


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Report 新千歳空港国際アニメーション映画祭2016 ~空港が世界中のアニメで埋め尽くされた4日間

Text by hebaragi
2016/12/13掲載



 11月3日から6日まで、北海道の空の玄関・新千歳空港内の映画館「ソラシネマちとせ」をメイン会場に「新千歳空港国際アニメーション映画祭2016」が開催された。今回は、コンペティション部門に世界66の国と地域から1,232作品の応募があり、日本の作品も228作品を数えた。期間中に上映された作品は、招待作品部門、ショーケース部門などを含め約230本にのぼる。空港での映画祭という他に類を見ない試みは新千歳空港から未来に響く表現を発掘・発信すること、そしてアニメーションという文化を通じて新たな国際交流の場を創出することを目的としている。

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メイン会場のソラシネマちとせ

 本映画祭のメインとなるコンペには、インターナショナルコンペティション、日本コンペティション、ミュージックアニメーションコンペティションの3部門がある。今回のインターナショナルコンペティションのグランプリには、スカンジナビアの海岸を舞台とする伝説をもとにしたロシア作品『アマング・ザ・ブラック・ウェーブス』(アンナ・ブダノヴァ監督)、日本グランプリは北海道出身の榊原澄人監督の『SOLITARIUM』、ベストミュージックアニメーションは『Olga Bell “ATA”』(橋本麦監督)が受賞した。

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『この世界の片隅に』片渕須直監督の舞台挨拶

 オープニング作品『この世界の片隅に』は、『マイマイ新子と千年の魔法』などで知られる片渕須直監督を迎えて上映された。本作は、戦時中の広島と呉を舞台にしたひとりの女性の生き方を描いた作品だ。直接的な戦場のシーンこそないものの、ささやかな市井の市民の生活を破壊する戦争の本質が淡々と描かれ、しっかりとしたメッセージが伝わってきた。主演の「すずさん」をはじめ、登場人物たちの心理描写が丁寧で、かつ、すずさんをとりまく夫や親戚たちのキャラクターも魅力的。一方、真摯なメッセージの中にもさりげないユーモアを含めた脚本も秀逸だった。さらに、きっちりと時代考証がなされた街や自然の風景も素晴らしく、たとえば、原爆投下から3日後に広島市内の路面電車が運行を再開したこともきちんと描かれていた。平和であること、普通に生活できることの幸福に思いをいたす作品といえよう。そして、エンドロールの最後に制作支援のためのクラウドファンディングに協力した3,000人を超える人々の名前が紹介されていたことも印象に残った。戦後70年を過ぎたが、戦争と平和を考えるうえで、たくさんの人に見てほしい作品だ。

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『わたしのシカな友達』

 韓国関連では、インターナショナルコンペティション出品作を対象とした新人賞に、飼い主に捨てられた動物たちのグループセラピーにやってきた野生の鹿の物語をユーモラスに描いたコ・スンア監督作品『わたしのシカな友達』が選ばれた。本作は切実さと楽しさを巧みに描いており、授賞式で監督は「ありがとうございます」と日本語、英語、韓国語で挨拶し、受賞の喜びを会場の観客に伝えた。

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『エンプティ/The Empty』

 また、インターナショナルコンペティション審査員特別賞(チェン・シー)には、韓国のチョン・ダヒ監督作品『エンプティ/The Empty』が選ばれた。本作はある女性の部屋が舞台のワン・シチュエーション・ストーリー。女性にまつわる記憶をもとに、男がちょっとしたゲームをしながら、その部屋で時を過ごす。愛する人が消えた部屋とその思い出を2Dアニメーションで繊細かつ洗練された映像で描いた本作は、8月に開催された第16回広島国際アニメーションフェスティバルのコンペティションでもグランプリに輝いている。本映画祭の授賞式で「この映画祭に招待していただいたことに感謝します。プログラムをとても楽しみました」と喜びを語った監督は、目下、世界的に注目を集めるクリエイター。2014年の『Man On The Chair(椅子の上の男)』が、カンヌ国際映画祭「監督週間」に招待されたほか、アヌシー、広島、ザグレブなどの国際アニメーション映画祭で賞を総なめにしている。

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ゲストのサイン

 新千歳空港国際アニメーション映画祭には、その他にも地元の小学生が審査員となるキッズ賞をはじめとする多数のアワードが設定されており、国内外問わず新たな才能にスポットを当てる試みは今回も観客を魅了した。また、ユニークな「爆音上映」なども多くの観客を楽しませたほか、子ども向けのワークショップも開催された。今後も幅広い年齢層が楽しめる、空港というロケーションを生かした特色ある映画祭として回を重ねていくことを期待したい。


新千歳空港国際アニメーション映画祭2016
 期間:2016年11月3日(木・祝)~11月6日(日)
 会場:新千歳空港内「ソラシネマちとせ」
 公式サイト http://airport-anifes.jp/

Writer's Note
 hebaragi。映画祭の会場に入ったときの、わくわくするような感じが好きだ。北海道内で毎年開催される映画祭は6つを数える。新千歳空港国際アニメーション映画祭はまだ3回目の開催だが、今回は約3万1千人の観客が訪れ、映画ファンのみならず北海道民に確実に定着してきた印象を強くした。


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