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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2018 ~作り手を支えて映画を生み出す:チャン・リュル監督が福岡で撮った『福岡』メイキング上映

Text by 井上康子
写真提供:映画祭事務局
2018/10/7掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2018(以下、アジアフォーカス)」が、9月14日から10日間、福岡市内会場で開催され、23ヶ国・地域の40を超える作品が上映された。韓国からはチャン・リュル監督が来福し、福岡で支援を受けて、福岡で撮った、その名も『福岡』のメイキングが上映された。映画祭でなくては見ることができない斬新な試みのある作品を中心に、娯楽性が高い作品も選ばれ、近年、国際的に注目を集めるフィリピン映画の特集上映も行われた。また、行定勲監督が熊本地震復興支援のために作った『いっちょんすかん』が特別上映された。


フィリピン映画特集:アート系作品から社会派作品までを見せる


 社会の暗部を暴力的に熱く描き、新たな黄金期を迎えているフィリピン映画の新風といえるのがオープニングを飾った『なあばす・とらんすれいしょん』。内向的な少女の心の動きを極めてアート的に描いた作品。シェリーン・セノ監督は幼児期を日本で過ごしたそうで、作品には日本の影響をいろいろ発見できる。『バガヘ』は、国外の出稼ぎ先で暴行を受けた女性が、帰国後に社会組織の中で利用される姿をリアルなドキュメンタリーのように見せた。『嘆きの河の女たち』は、敵対する一族との抗争で息子を失った女性が抗争を終結させようと立ち上がる。実際に抗争で家族を亡くし、演技未経験で主人公を演じたライラ・ウラオの強い意志を感じさせる瞳が印象に残った。福岡市フィルムアーカイヴに唯一保管されていたフィルムをデジタル修復して上映された『水の中のほくろ』は神秘の力が宿る島を舞台に男女の愛憎を重厚に描いた見応えがある作品だった。


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『大楽師』

好きなことに夢中になれる若者:人気投票1位『大楽師』、2位『光(ひかり)』


 「アジアの新作・話題作」を対象にした、観客による人気投票で1位の「福岡観客賞」に選ばれたのはチャウ・シンチー監督『少林サッカー』などの脚本を手掛けてきた香港のフォン・チーチアン監督『大楽師』。2013年に「福岡観客賞」に選ばれた『狂舞派』主演女優チェリー・ガンが、誘拐され縛り付けられていても、頭に曲が浮かぶと夢中になる主人公をキュートに演じている。クラシックが流れると襲い掛かってきたヤクザが優雅に踊り始めるのは楽しめた。マレーシア『光(ひかり)』は、クイック・シオチュアン監督が自閉症の兄をモデルに、グラスの奏でる理想の音色を求める自閉症の青年を見せた。娯楽性の高い作品としては、これらの他にベトナム『仕立て屋 サイゴンを生きる』があった。ベトナムでは主人公の老婆が若返るという韓国映画『怪しい彼女』をリメークした『ベトナムの怪しい彼女』(大阪アジアン映画祭2016で上映)が作られているが、本作は1960年代に生きるアオザイ店の跡取り娘が現代にタイムスリップするという趣向で、これらの作品同様に過去への回帰を示していた。回帰はベトナムの人々の心にマッチしたものであったのだろう。グエン・ケイ監督によると公開後はアオザイを着用する若者が増えたそうだ。


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『バスは夜を走る』

不安定な社会を生きる:『バスは夜を走る』『ぶれない男』


 インドネシア『バスは夜を走る』は、地域の紛争により、長距離夜行バスが、国軍、独立軍、さらには紛争を長引かせることを目的にした集団に襲われる。状況は混沌とし、紛争を解決する糸口も、安全に到着する方法も何もない。極限状況の中でバスに乗り合わせた人々が人間としての尊厳を示す。エミル・ヘラディ監督はいずれの人物も魅力的に描いており、深い共感を持って見た。『ぶれない男』は、警察や行政とも結びついている地域の権力者に屈服すまいと、もがく男を主人公にし、2017年カンヌ国際映画祭ある視点部門最優秀作品賞を獲得している。監督はイラン当局から反体制的とみなされ厳しい状況で映画を作り続けているモハマド・ラスロフ。台湾『小美(シャオメイ)』、麻薬中毒で行方不明になった女性について、周辺の人物が各々の視点で証言していくが、彼女の姿が浮かび上がることはない。インド『腕輪を売る男』、保守的な村で生活する人々の秘めた欲望の行方を独自の視点で描く。中国『冥王星の時』、暗闇の中で救いを求めるように秘境を訪れた主人公が、そこで過ごした時間の意味を観客に問いかけていた。


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『別れの花』

生と死について、観客の多様な解釈を求めるタイ映画


 『別れの花』は、アジアフォーカス2015で『蒼ざめた時刻(とき)』が上映されたアヌチャー・ブンヤワッタナ監督の長編第2作で、2017年釜山国際映画祭キム・ジソク賞を受賞している。男性同士の元恋人が、一人は病死し、一人は出家する。森に入った僧が修行を積み、死と再生に立ち会う姿を静謐で美しい映像で描いていた。水のシーンが多いのは「観客が多様な解釈ができるから」。アジアフォーカス2017で『マリー・イズ・ハッピー』と『噂の男』が上映されたナワポン・タムロンラタナリット監督の新作『ダイ・トゥモロー』は、思いがけない死や生についての6つの物語を、実際の事件、フィクション、インタビューを組み合わせて見せていく。『噂の男』のように、様々な視点での語りに監督は説明を加えない。死や生について想像を巡らすことができるように観客を誘ってくれる。


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『福岡』トークの模様

チャン・リュル監督が福岡でインスピレーションを受け、福岡で支援を受けた『福岡』メイキングが上映


 上映後は、アジアフォーカスのスタッフで『福岡』のプロデューサーを務めた西谷郁氏が司会を担当し、福岡フィルムコミッション(以下FC)のスタッフも参加する中で、監督を中心にトークが進められた。2018年3月末から4月初めに、韓国から13名、日本から6名のスタッフが参加し、福岡市の中でも人通りが多いエリアで撮影したこと、その町で撮影することは決まっていても実際どこを撮影するかはその場で監督が決定し、スタッフが奔走して地域の人々の協力を得たことが紹介された。「監督は現場で瞑想のような状態に入るときがあり、スタッフ一同は待って指示を仰ぐ」との逸話に監督は「考えなければならない事が多いので。でも、考えているふりをしていることもあります(笑)」と軽妙に返していた。

 開期中に開かれたシンポジウム「これからの小規模国際映画祭」ではアジアフォーカス梁木靖弘ディレクターが「ゲストは比較的ゆっくり時間を使えて福岡でインスピレーションを得、映画祭がサポートを行うというモデルケースになったのが『福岡』」と述べていた。ゲストとスタッフの交流が密なのも小規模映画祭ならではのこと。監督と長年交流してきたアジアフォーカスとFCのスタッフは、『福岡』撮影時、エキストラ出演、炊き出しのほか、自宅をロケ場所に提供したこともあったそうだ。映画祭の温かみもしっかり見せてもらった。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2018
 期間:2018年9月14日(金)~9月23日(日)
 会場:キャナルシティ博多(ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13)
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。『ダイ・トゥモロー』の最初の物語では、「卒業式前日の女子大生がビールを買いに出て事故死」との告知後、女子大生たちがにぎやかに卒業後の夢を語りあう映像に移行。「夢いっぱいで良いなあ」と感じたはずのものが一言の告知で「果たせなかった夢がこんなにあって何と切ない」という認識に一変。ナワポン・タムロンラタナリット監督に魔法をかけられたような気分になった。


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Report 福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2018 ~釜山独立映画祭作品の物語性を味わい、ヒョン・スルウ監督新作に笑う

Text by 井上康子
写真提供:福岡インディペンデント映画祭事務局
2018/9/30掲載



 第10回を迎えた福岡インディペンデント映画祭2018(以下、FIDFF)が、9月6日~9月11日に福岡市内で開催された。昨年は募集がなかったコンペが再開、若手映像制作者からの応募157作品を中心に、交流がある釜山および台湾の映画祭作品、2016年に『アレルギー』で最優秀作品賞にあたるグランプリを獲得したヒョン・スルウ監督新作などの招待上映が行われた。

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授賞式の模様

今年の受賞作:AI登場の『センターライン』がグランプリ獲得


 グランプリを獲得した『センターライン』(下向拓生監督)は、近未来を舞台に交通事故を起こした自動運転AIを起訴しようと画策する検察官が、実は感情を持っていたAIと交流するようになるまでを刑事ドラマ仕立てで描いた老若男女楽しめる作品だった。60分部門グランプリ『戻る場所はもうない』(笹井歳春監督)は、若年性アルツハイマーを発症した妹と彼女のために追い込まれていく兄を縦糸に、彼らの農園で働いていた外国人技能実習生姉弟の悲劇を横糸に描き、深い余韻を残した。100分部門グランプリ『ハッピーアイランド』(渡邉裕也監督)は、がんばりの利かない若者が福島の原発被災農家の人々に支えられ、成長するまでを見せる青春映画で好感が持てた。技術賞『老ナルキソス』(東海林毅監督)は、ゲイでマゾの老人を一般的イメージと真逆の明るい花でデコレーションし、見とれる程の美しさに仕上げていた。アクション賞『デッドコップ』(中元雄監督)は、連続殺人事件を追う松田優作もどきの刑事がブルース・リーのアクションをかます。パロディの連続に場内は大爆笑だった。

 レインボー賞(LGBTを扱った作品が対象)『カランコエの花』(中川駿監督)は、女子高校生の仲良しグループ内で、相手への思いを募らせた生徒はその気持ちに正直でいたいがために、レスビアンであることを公表する。その真っすぐさが素敵だった。重厚な存在感を放っていたのが最優秀ドキュメンタリー『葛根廟事件の証言』(田上龍一監督)。既に、2017年に第20回ゆふいん文化・記録映画祭で第10回松川賞(優れた記録映像作品に贈られる)も受賞している。昭和20年の終戦直前に旧満州からの引き揚げ避難中だった日本人が旧ソ連軍の襲撃で1,000人以上が亡くなった事件を生存者たちの証言で構成する。生存者はその後も辛苦の逃避行を続け、人生を変えられ、生き残ったことへの負い目から逃れられない。声を出せない沈黙の時間は証言者の心が慟哭している時だ。文字の記録からでは伺えないものが映像によってこそ残されていた。


ヒョン・スルウ監督特集:笑って笑って、あり得ない展開を楽しむ


 2016年にグランプリを獲得した『アレルギー』と新作2本が上映された。『それは牛のフンの臭いだった。』は、あり得ない展開がお決まりである韓国ドラマのパロディ仕立てで、強い友情で結びついていた女性2人が、車内でのおならを互いに相手のものだと言い張って大喧嘩に発展、驚きの結末を迎える。『彼女の別れ方』では、ゴミを捨てるにもポーズをつけて自撮りする、自撮りマニアの彼女に辟易した男性が別れを切り出す。外側を見せることに終始し、中身が空っぽであることを笑い飛ばしていた。場内は監督作品のファンが集い、監督とのQ&Aの時間も上映時間同様に皆が大笑いで楽しんでいた。

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『それは牛のフンの臭いだった。』

釜山独立映画祭の優秀作品:物語性・アート性を堪能


 釜山の映画祭との交流は初回から継続されており、今年も昨年同様に釜山独立映画祭(以下、IFFB)の優秀4作品が招待上映され、監督たちがゲストとして登壇した。

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韓国から来福した監督たち

『十月の梅雨』(イ・ギナム監督)
 「梅雨によって落ち込んでいる気持ちを表現したいと思った」という監督の言葉通り、自立を模索する主人公の焦燥感が効果的に伝わってきた。雨音とセリフが干渉しあわない、釜山国際映画祭の会場となっている「映画の殿堂」で支援を受けたサウンドの良さについても「インディペンデントでここまでできるとは!」と高い評価を受けた。

『家の中の家の中の家』(ジョン・チャンヨン監督)
 「大学卒業作品で、その時の父や自分に対する嫌悪感を記録として残しておきたいと思った」という動機で作られ、監督家族の日常を見せた。父に嫌悪を抱きつつも、承認されたいと願う複雑な思いがヒリヒリと伝わってくる。

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『SEPTEMBER』

『SEPTEMBER』(シン・ナリ監督)
 母が癌に侵されていることを知った実在の写真作家が、母と自分の写真撮影を始める。本作はその作業過程をリアルにではなく、アートとして写し取ったドキュメンタリー。海に裸体を浸らせる母娘の手のしぐさや後ろ姿から互いへの思いが滲み出る。

『母と風景』(キム・ミングン監督)
 山里に住む母を兵役入隊前の息子が訪れるが、母は不在。しかし、母の周辺の人物や母の暮らす家から、息子は母の生き方に共感していく。「映画の殿堂」のワークショップで作った初監督作品で、脚本も監督が手掛けている。雪の釜山を背景に、母を登場させずに母の凛とした生き方を観客にイメージさせる物語が素晴らしかった。


台湾のフォルモサフェスティバル国際映画祭との交流が始動


 FIDFF2016で「台湾青春、未来映画祭」からの招待上映作品監督としてゲスト来福したMark Ang氏が発起した「フォルモサフェスティバル国際映画祭(福爾摩沙國際電影節 以下、FFIFA)」は、現在約60の国際映画祭組織と協力し、2017年には11ヶ国の作品上映を行うという国際交流の実績を持つ映画祭。今回はFFIFA作品が招待上映され、上映後の壇上ではFIDFFとMOUが締結された。12月に開催されるFFIFAではFIDFF作品が招待上映されるそうだ。

 FFIFAから招待上映されたアニメ5作品、『The house』は少女の魂の彷徨を、『ego』は人の意識をファンタジックに描き、『WALL』『Fundamental』『Crack』は政治・宗教・男女の分断をアニメでなくてはできない表現で見せた。実写4作品、『The play』は経済格差を超える少女の友情、『Way Back Home』は受験のために遠距離通学を強いられる小学生、『Tidal』は海で生きる男性同士の愛を見せ、『Story Unbridled』は夢の意味を考えさせた。いずれも、現代社会の問題に切り込もうとする勢いのある作品だった。


映画人としての個性を磨く


 犬童一心監督による受賞作品講評では作品の個性が語られ、今後の方向性を持つことを促された。なるほど、同じ刑事ドラマ仕立てであっても、『センターライン』はオーソドックスな展開に心地良さを感じ、『デッドコップ』はパロディとして楽しむ作品で全く異なる個性であった。FIDFFでさまざまな作品に触れて自らの個性を知り、己をいかに育むかの示唆を得られたことだろう。

 10月4日~7日はFIDFFおかわりが開催され、7日には斎藤工監督作品『blank13』が特別上映される。


福岡インディペンデント映画祭2018
 期間:2018年9月6日(木)~9月11日(火)、おかわり10月4日(木)~10月7日(日)
 会場:福岡アジア美術館
 公式サイト http://fidff.com/

Writer's Note
 井上康子。釜山独立映画祭作品『母と風景』では釜山の雪景色に魅了された。冬の韓国旅行は寒いが、寒風にさらされながら歩くと、これまでの韓国映画の名シーンが頭に浮かんでくる。主人公たちのように頑張らなくてはと身が引きしまる思いを味わえるのが好きだ。


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Report シンポジウム「パク・ジョンボムとユン・ジョンビンが語るチャン・リュルの世界」 ~アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017より

Text by 井上康子
2017/10/21掲載



 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017(以下、アジアフォーカス)ではチャン・リュル監督作品『春の夢』が上映され、チャン監督、主演したパク・ジョンボム監督とユン・ジョンビン監督が来福した。アジアフォーカス・スタッフで韓国映画人との交流を続けている西谷郁氏の司会で、『春の夢』についてを中心に、映画人として考えていることや、日本との合作の可能性等を3監督が語り合った。


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今回上映作品『春の夢』について


司会:ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンの3人をキャスティングした理由は?

チャン:3人共と元々親しいのです。3人で何かやれたらと思ったのが始まりです。監督には演出だけできる人と演出も演技もできる人がいますが、3人は演出も演技も素晴らしく、嫉妬するような気持ちもあります。親しいのでギャラが少なくてもやってくれるかなと思って依頼したところもあります(笑)。

司会:ヤン・イクチュン監督『息もできない』、パク・ジョンボム監督『ムサン日記~白い犬』、ユン・ジョンビン監督『許されざるもの』ではいずれも監督たちが主演しましたが、その役柄のイメージのまま本作にも登場しています。その意図はどこにあったのでしょうか?

チャン:3人の監督作品が好きで、人間的にも3人が好きです。映画の質感と人間の質感は重なる所があると思います。本作の舞台にした水色洞(スセクドン)の質感に合うと考えていたら3監督作品のキャラクターが溶け込んでいきました。自然に3作品につながるという不思議な体験でした。

司会:役作りはどうやって行いましたか?

ユン:いつもは自分が演出する映画に出ていて、他の人が演出する映画に出たのは初めてで、迷惑をかけてはいけないと思い、監督の指示通り一生懸命やろうという思いだけでやりました。

パク:私は今まで作った映画は脱北者や労働者を描いていて、そういう役を演じてきて、今回もそのような役だったのでそういう意味では特に難しくはありませんでした。今回は撮影を通じて、俳優の呼吸や姿勢を感じることができて、良い経験になりました。一つ残念だったのは映画の中で3人の内私だけシン・ミナさんをハグできなかったことです(笑)。

司会:私はハン・イェリさんが大好きです。彼女をキャスティングした理由は?

チャン:彼女は演技の上手い女優です。以前、短編映画に出演してもらったことがあり、今回もぜひ一緒にやってほしいと思いキャスティングしました。3人の男が住んでいる水色洞は本当に3人が住んでいるのではというリアリティがあります。でも3人だけの水色洞はとても寂しくて彼らを慰めてくれる存在が必要と思い、3人の男を中心に、ハン・イェリさんを加えた物語にしました。

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チャン・リュル監督

司会:監督は中国文学に造詣が深い方ですが、イェリさんが作品中語る詩に李白の「静夜思」を選んだのはなぜですか?

チャン:「静夜思」は中国では老若男女誰もが知っている詩で、故郷を思う時はこの詩を読みます。彼女は中国の朝鮮族で延辺から来たので故郷を想う時はこの詩で慰められているのではと思いました。

司会:イェリさんは作品中アン・スギルの小説「北間島」も読んでいましたね。

チャン:「北間島」は延辺が舞台なので、彼女が読むのに相応しい小説でした。

司会:出演していて自分だったらこういう演出にするのにと疑問を感じたことはありませんでしたか?

ユン:自分は監督ですが、だからといって演技をする時に演出について考えるということは特にありませんでした。演技をしようという思いだけでした。強く感じたのは自分が演出する時にこれからは俳優さんにもっと優しくしなくてはということでした(笑)。

パク:私も自分の撮影現場のことを思って反省しました。チャン監督はあまりテイクも多くなくてすぐにOKを出してくれます。私は『生きる』撮影の時は何度もやり直してもらい、俳優さんたちに無慈悲で反省しました(笑)。

チャン:ヤン・イクチュンさんもこれから俳優さんのことを配慮しなくてはとずっと言っていました。3人は苦労しながら参加してくれて感謝しています。また、3人で映画を撮れたらと思います。


チャン監督作品について


司会:チャン監督作品についてどう思っていますか?

ユン:大好きでよく見ています。見る度におもしろく、作風が自分とは違っていて刺激になります。今回は自分が出演しておもしろくないと思う部分ができてしまったので、今度は出演しないで素直に見たいです(笑)。

パク:私も全作品を見ています。監督の世界観や人の観方には私のそれらと共通したものがあると思います。


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ユン・ジョンビン監督

韓国映画界の中で


司会:チャン監督はスターを起用したメジャー作品と独立系作品を手掛けています。ユン監督は近年メジャー作品を手がけ、パク監督は自分で演出・主演を続けています。韓国映画界の中でどういう思いで映画を作っていますか?

チャン:自分が何に興味があるのかを意識して作っています。映画界全体については考えたことがないです。

ユン:私も考えたことがありません。自分の興味を深めて作品を撮り続けたいと思っています。自分が原則としているのは、一つは他の人に迷惑をかけないようにするということです。映画は多くの人が関わるプロジェクトで、チームワークで動くものなので迷惑を掛けたら次の作品につながらなくなってしまいます。二つ目はあまり期間を開けずに次の映画を作るということです。その二つを守れば長く映画を撮り続けることができると思ってやっています。

パク:私も特に考えていません。自分が欲するままに撮りたい映画を撮るだけです。つらいのはこれまでの作品の収益があまり良くなく、損益分岐点に達しておらず、誰かに迷惑をかけてしまったということです。これからは自分が撮りたいものを撮り、多くの観客を動員できたら良いのですが。この冬から新しい映画の撮影に入りますが、この作品も少し難しいのではと言われ悩んでいます。

チャン:もうちょっと希望を持ったら良い。『春の夢』が日本で大ヒットしたら次の作品につながるので(笑)。


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パク・ジョンボム監督

日本との合作希望について


司会:日本で撮影したいという希望はありますか? 問題になることはありますか?

チャン:合作は良い作品につながります。投資がちゃんと入れば、どういう国か、どういう人かは問題になりません。

ユン:自分が撮りたいものが合作でなくてはできないなら合作という形でいろいろな人の手を借りたいし、そうでなければ韓国で撮るでしょう。合作自体が大事というより作品がどんな流れで何を表現したいかによります。

パク:私は日本によく来ていて、例えば東京の風景で撮りたいと思うものに出会うことがあります。合作であるなら、言葉の問題があるので、私がシナリオを書き、友人である石井裕也監督が演出するというようなことがいつかできたらと思います。


 チャン監督は観客からの質問にも答えて、「自分の住んでいる街では人々は忙しく仮面をかぶっている様で表情が見えないが、水色洞は人間の喜びや悲しみの感情を素直に見せてくれる所。水色洞を舞台に描こうと思ったのは私たちが生きるのに何が大事かを見ることができる場所だったから」、「シナリオはざっくりした大まかなものが好きで現場の雰囲気や俳優のコンディションに合せることが多い」、「今回の作品でヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンという実名を役名にしたのは名前があまり洗練されてなくて水色洞の住人に相応しかったことと本名を使うことで俳優の本性が出ることを期待した」ということも語った。

 また、チャン監督「イェリ(ハン・イェリも実名が役名になっている)の父親を演じたのはイ・チャンドン監督の弟で映画制作者のイ・ジュンドン氏。寝たきり役で負担が大きかったので仲の良いイ氏を説得して出演依頼し、入浴場面で裸で人に洗ってもらうというのはその場で説得した(笑)」、ユン監督「自作に朝鮮族の科学者役でチャン監督に出演依頼し、ギャラもたくさん出すと言ったのに応じてもらえなかった(笑)」というユーモラスなエピソードが披露されたことも付言しておこう。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017
 期間:2017年9月15日(金)~9月24日(日)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。福岡アジアフィルムフェスティバル2017ではキム・ギドク監督が福島第一原発事故による放射能汚染を描いた『STOP』が上映された。恐怖感から追い詰められ常軌を逸していく人を描いて衝撃的だ。福島の問題を他国の問題とせず来日。撮影・照明・録音も一人でこなしたそうだ。


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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017 ~想像力を呼び覚ます映画たち

Text by 井上康子
写真提供:映画祭事務局
2017/10/21掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017(以下、アジアフォーカス)」が、9月15日から10日間、福岡市内会場で開催され、27回目の今年は22ヶ国・地域の63作品が上映された。韓国映画はチャン・リュル監督『春の夢』が上映され、監督と、俳優として主演したパク・ジョンボム、ユン・ジョンビン両監督も来福するという豪華な顔ぶれとなり、シンポジウム「パク・ジョンボムとユン・ジョンビンが語るチャン・リュルの世界」も開催された。「タイ映画大特集」は個性の異なる8作品を一挙に上映し、各々シンポジウムも行い注目を集めた。福岡で活躍するクリエーターの作品を上映する「福岡パノラマ」では堀江貴大監督『ナギョンとキヌカワ』が上映されたが、会場は大勢来場した若いクリエーターの熱気に包まれた。


『ワンダーボーイ・ストーリー』が見せた国のアイデンティティと『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』が見せた交流


 今年、華やかにオープニングを飾ったのはディック・リー共同監督・主演による音楽家としての自身の誕生までを描いた『ワンダーボーイ・ストーリー』。シンガポールはいかなる国かと考え、欧米曲のカバーでない、独自の歌を創造していく。対照的に静謐な作品だが『蜜をあたえる女(ひと)』もブータンの仏教説話が背景にされた独自の作品だった。また、他国との交流をテーマにした作品もあった。『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』は行定勲、フィリピンのブリランテ・メンドーサ(『ローサは密告された』)、カンボジアのソト・クォーリーカーという国際的に活躍する3監督によるオムニバス映画で、いずれも主人公は事情があって異郷で過ごす人物。


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『頭脳ゲーム』ナタウット・プーンピリヤ監督

格差社会に生きる若者:人気投票1位『頭脳ゲーム』、2位『バイオリン弾き』


 「アジアの新作・話題作」の中で、観客による人気投票で1位の「福岡観客賞」に選ばれたのはタイの若手ナタウット・プーンピリヤ監督『頭脳ゲーム』。飛びぬけて秀才の女子高生が留学費用を得るために、富裕層の子弟に組織的にカンニングをさせるというストーリー。想定外のトラブルに彼女は果敢に対応する。前提になっている家庭の経済格差と、人生で大切なのは金銭なのかという監督の問いかけが作品を深みのあるものにしていた。2位の「熊本市賞」を獲得したのはイランのベテラン、『柳と風』でも知られるモハマド=アリ・タレビ監督の『バイオリン弾き』。市場でバイオリンを弾いて家族を養っている主人公を始め、登場する人物はすべて実在の人物で、監督も本人役で登場する。監督は街で撮影しながら台本を考えたというが、市井の人が与えられた台詞でなく自身の言葉で語る思いの中に、何と素朴な思いやりのあることか。他にも、若い監督が厳しい環境に置かれた若者を描いた作品は切実さがあり胸に響いた。『フーリッシュ・バード』(中国)では、主人公の女子高生は出稼ぎ中の母親と離れて暮らしており、彼女を顧みる大人が不在の中で、トラブルに巻き込まれる。『はぐれ道』(マレーシア)は1990年代のマレーシア社会の中で低い地位に置かれていたタミル人の状況を一人の少年を通して見せた。『ダイアモンド・アイランド』(カンボジア)はセレブのための巨大マンション建設に従事する無垢な青年たちの生活を描いている。


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『春の夢』シンポジウムの模様

『春の夢』上映&シンポジウム「パク・ジョンボムとユン・ジョンビンが語るチャン・リュルの世界」


 『春の夢』は監督でも俳優でもある、ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンが各々自作で演じたキャラクターのイメージでチンピラ、脱北者、障害をもつ人として登場。さえないトリオにとって、ハン・イェリ扮する居酒屋の女主人はマドンナのような存在だ。そして、寝たきりの父親の介護を続けるイェリも彼らに支えられている。じんわりと暖かく、だがラストは人の一生を春の夢の如くはかないものに感じさせ寂寥感が漂う。シンポジウムでは本作の話題や映画人として考えることを3監督が活発に語った。


「福岡パノラマ」の『ナギョンとキヌカワ』:アジア各地から若者が集合


 アジアフォーカスと国際交流基金アジアセンターが共催で実施する、アジアの若手映画製作者向けのワークショップである「Fukuoka Film Forum」で作られた、福岡の玄界島を舞台にした短編。韓国の済州島出身の写真家ナギョンが、海女の写真撮影のために島を訪れ、元海女で、認知症になったキヌカワに出逢い、彼女の思いを島の人々に伝えていく。会場には堀江貴大監督を始め、アジア各地から本作の出演者やスタッフが集い、島での撮影時の思い出を達成感に満たされた笑顔で語った。


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『噂の男』ナワポン・タムロンラタナリット監督

「タイ映画大特集」:秀作を見せ、作品の豊饒さを語り、未来へ渡す


 多様な8作品を上映し、上映後は作品スタッフ・関係者を招いてのシンポジウムが開催された。デジタル修復版『サンティとウィーナー』上映後は本作の復元に至るまでやフィルム保存についての取り組みが紹介された。『いつか暗くなるときに』は学生運動が弾圧された事件をモチーフにアノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督が「映画はどこまで真実に近づけるか」という実験をした前衛作品。「観客が想像するのが映画」であり、出来事の関連の分かり易さは排除されている。ナワポン・タムロンラタナリット監督『噂の男』(大阪アジアン映画祭2016で『あの店長』というタイトルで上映)は鑑賞できる映画が限定されていたタイで、古典から新作まで世界中の作品を販売していた目利きの海賊ビデオ店主について、インタビュアーである監督の質問に利用者たちが一人ずつ登場し証言していくというドキュメンタリー。多様な経験から多様な意味が生じる。アジアフォーカス梁木靖弘ディレクターは「今はまだリアリズムの次が見えていない時代だが、彼のようなパーソナルなものがリアリズムの次の方法になる可能性がある」と興奮気味に語った。監督はいずれの証言にも解釈を挟むことは一切せず「判断は観客に委ねる」。終始、想像力を呼び覚まされる、特別な鑑賞時間になった。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017
 期間:2017年9月15日(金)~9月24日(日)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』の行定勲監督が『カメリア』制作時の主演者ソル・ギョングの発言を紹介した。韓国人スタッフが「韓国人はこのような振る舞いをしない」と監督を批判した時に「韓国人監督がやればただの韓国映画。合作のねらいとは何なのか。感性が異なることから生じる違和を不自然に感じさせないのが俳優の仕事」と語ったというのに感動。


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Report 福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2017 ~日本人監督が釜山で撮った『憧れ』を日本初上映

Text by 井上康子
写真提供:福岡インディペンデント映画祭事務局
2017/10/15掲載



 映像作家の育成と交流を目的にした福岡インディペンデント映画祭2017(以下、FIDFF)が、9月7日~10日に福岡市内で開催された。例年のコンペを今年は一休みし、昨年のグランプリ受賞作『アレルギー』(ヒョン・スルウ監督)を始めとするこれまでの受賞作品・招待作品等68作品が上映された。筆者が特に注目していたのはユネスコ釜山インターシティ映画祭(英語表記では"Busan Inter City Film Festival" 以下、BICFF)主催のレジデンス制作プログラムにより福岡在住の神保慶政監督が撮った『憧れ』で、日本人監督が韓国人スタッフ・キャストにより、台詞はすべて韓国語で制作した、日韓交流の申し子のような作品だ。例年通り釜山独立映画祭(以下、IFFB)受賞作品も上映された。また、アニメ有志作家による「アニメーション・パレット SELECT & PLUS」ではキム・ハケン監督『Jungle Taxi』が上映された。


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『憧れ』

多様なものとの交わりを見せる、釜山で撮られた『憧れ』


 BICFFはIFFBのインターシティ部門から独立した映画祭で、釜山市が2014年にユネスコの映画創意都市に選ばれたこともあり、映画創意都市や海外映画祭との交流によるネットワーク活性化を目的にしている。今年5月に初めて開催されたBICFFでは昨年のFIDFFの優秀作品が上映された。監督(脚本も)はFIDFFの推薦によりBICFFのレジデンス制作プログラムの参加者に選ばれ、「inter-city」をテーマに、3週間釜山に滞在して本短編を作り上げた。主人公ミナは釜山に住むライターで、出産前の最後の仕事に、釜山の人々の生まれて初めての記憶を書き残そうとする。インタビューのために、釜山の街を縦横して、出会った人々の記憶を手繰り寄せていく。そして、ある老女との出会いにより、出産への不安を希望へと転じていく。空間を縦横し、出会った人々の過去と希望を込めた未来の時間も共有していく。「inter-city」の究極の目的は多様なものとの交わりと考えると、まさにテーマに即した作品だった。監督は第一子の出生を経験し、妊娠・出産にまつわる女性の不安の大きさを実感したことから企画したそうだが、女性同士の連帯を通して女性の強さも描いている。


IFFB2016グランプリ作品『試験のあとに』上映


 FIDFFはIFFBと交流があり、例年、相互に優秀作品を上映してきた。今年はFIDFF2016で『ランニング・フォトズ』(IFFB2015)が上映されたキム・ナヨン監督の『試験のあとに』がIFFB2016でグランプリを得たことを記念し、両作品が上映された。『ランニング・フォトズ』は名作映画の走る場面を編集した作品だったが、『試験のあとに』は監督が脚本も書き、親友同士の二人の女性を登場させた作品。主人公は高校時代には試験後に友人宅で点が取れなかったことをぼやく。そして現代は会社を辞めた後、もやもやした気持ちのまま友人宅で好きな映画を見ている。ふと眠り込んだ主人公は友人と過ごした高校時代と好きな映画の世界に入り込んでいく。主人公が登場人物に共感し涙する映画は侯孝賢監督作『恋恋風塵』だ。夢と現実、現代と過去が交錯するが、非現実的な夢想はなく、社会の中で感じるつらさや不安が不思議な感覚となって迫ってくる。

 FIDFFは来年、記念すべき10回目を迎える。今年はコンペがないことがいささか寂しかったが、来年はコンペも開催されるとのことである。BICFFとの交流の今後も楽しみだ。


第9回福岡インディペンデント映画祭2017
 期間:2017年9月7日(木)~9月10日(日)
 会場:福岡アジア美術館
 公式サイト http://www.fidff.com/

Writer's Note
 井上康子。ファンであるカズオ・イシグロ氏がノーベル賞作家になった。彼の『わたしを離さないで』は何度も号泣しながら読んだ。同じように「人とは何か」を問うた、映画『ブレードランナー』は運命を切り開こうとするが、『わたしを離さないで』は運命を受容し、静謐で余りにも悲しい。


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