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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2020 ~チャン・リュル監督『福岡』モノクロ版をオープニング上映

Text by 井上康子
2020/10/3掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2020(以下、アジアフォーカス)」が、9月20日から5日間、福岡市内会場で開催された。チャン・リュル監督が福岡で撮った『福岡』モノクロ版がオープニング上映され、アジアの新作・話題作、アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集、日本映画特集など、公式招待22作品の上映があった。また、関連企画として他の会場でもアジア映画上映があり、併せて、22ヶ国・地域、全59作品が上映された。新型コロナ禍でゲスト来福はなかったが上映前には監督たちのビデオメッセージが流された。


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『犯罪現場』

香港とタイの現状を重ねた、福岡観客賞『犯罪現場』とアノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集


 アジアフォーカス2018に『大楽師』で福岡観客賞(観客投票の第1位作品に授与)を受賞したフォン・チーチアン監督が『犯罪現場』で2度目の福岡観客賞受賞となった。クライムサスペンスだが徹底的な悪人は登場せず、主人公の刑事は犯罪現場にいたオウムから犯人を聞き出そうとするなど『大楽師』同様、作品全体はほのぼのとした温かみがあり、多くの観客に好まれたのが肯けた。受賞メッセージ(映画祭公式サイトに掲載)では厳しい表情で「香港映画にも境界線はない。自分が信じた映画を撮り続けていく」「私たちは今まで諦めたことはない」と語る監督のことばに胸が痛くなった。広東語の自由な表現の香港映画をこれからも見続けたい。

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『暗くなるまでには』

 アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集ではアジアフォーカス2010で上映された『ありふれた話』、同2017で上映『暗くなるまでには(2017のタイトルは『いつか暗くなるときに』)』、『クラビ、2562』、「アノーチャ・ショート・フィルム傑作選」が上映された。監督は1976年生まれで、同年にタイのタマサート大学で起きた「血の水曜日事件」で学生たちが虐殺されたことを自身の起点の一部ととらえているようだ。『暗くなるまでには』は事件で生き残って作家になった女性、その作家の映画を撮ろうとする監督達が登場するが、夢と現実、時間と空間は交錯して前衛的だが至って静謐。出来事の意味付けは見る者に委ねられており、主体的鑑賞が促される。2017年にゲスト来福した監督が「観客が想像するのが映画」と語ったことも印象深く、ぜひもう一度見たいと思っていた作品だった。『ありふれた話』では明示はされていないが筆者には虐殺事件で傷ついた生還者の再生がイメージされた。折しもタイでは民主化を求める大規模な集会が開かれ、今後、さらに緊張が高まる気配だ。

 「アノーチャ・ショート・フィルム傑作選」で冒頭に上映された、コロンビア大学卒業制作で監督デビュー作『グレイスランド』と2019年制作『クラビ、2562』では、仏教文化と欧米文化の遭遇が描かれ、タイから米国に留学した監督が文化の異なりに関心を持ち続けていることが伺えた。


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『土曜の午後に』

アジアの新作・話題作 独自な撮り方でアジアの今を見せる


 『三人姉妹の物語』はトルコの雪に覆われた山岳地帯を舞台にした作品。町に出なければ未来はなく、町に出るためには子守奉公をするしかない。三人はそれぞれの事情で奉公先から実家に帰されるが、自分たちの未来のためにまた町に出ようと奮闘する。個性的な三姉妹の逞しさがすてきだった。熊本市賞(観客投票の第2位作品に授与)受賞の『土曜の午後に』は2016年にイスラム過激派が起こした「ダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件」を基にした作品で、凶悪なテロ現場をワンショット映像で緊張が途切れることなく見せた。『樹上の家』はベトナムの少数民族に彼らの家について、火星で映画を作ろうとする監督がインタビューを行うという作品。監督は少数民族のアイデンティティに敬意を抱き、家の意味を深めていく。火星が登場するユニークな設定は少数民族同化政策を取る政府を刺激しないための工夫のようだ。『明日から幸せな人になろう』は地方から北京に出稼ぎに来た青年の姿を追う。同居人のいる地下部屋でも、職場でも、町の中でも彼に関心を払う人は誰もいない。大都会の無機的な空間に彼の寂寥が立ち上る。『昨夜、あなたが微笑んでいた』はプノンペンの集合住宅の取り壊し過程を描いたドキュメンタリー。住宅も住民もポル・ポト政権下を生き延びたが、住宅は壊され、住民はわずかな補償金で次の住処を探さなくてはならない。『ジャッリカットゥ』はインド南部の伝統的な牛追い祭りのこと。本作では、肉屋の処理場から脱走した巨大なバッファローを大群衆の男たちが我先に追っていく。そのスピード感が心地良い。『マリアム』では夫の失跡で収入を断たれたマリアムが子供を養うために、夫が死んだと虚偽の申告をして公的援助金を受け、苦境に陥る。監督がカザフスタンのテレビ番組で取材した女性の実話を基にした作品でマリアムは本人が演じている。雪原での生活の厳しさに彼女の人生の辛苦が重なる。


『福岡』モノクロ版上映 チャン・リュル監督が語ったモノクロの良さ


 昨年、カラー版『福岡』がオープニング上映されたのに引き続き、今年はモノクロ版が上映された。「カラーは現実をリアルに写すという点で優れており、モノクロは物語と登場人物の心情に意識をより集中させやすくなるはず」と監督は述べている。確かに、悲しい夢のような『福岡』の物語にはモノクロがマッチしていると思われた。

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『福岡』モノクロ版

 『福岡』後に監督が柳川で撮影した『柳川』は、撮影は完了していたものの、新型コロナの影響でその後の作業が滞っているそうだ。来年は『柳川』が見たい。会場でゲストたちの話も聞きたい。そのような状況になっていることを祈るばかりだ。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2020
 期間:2020年9月20日(日)~9月24日(木)
 会場:キャナルシティ博多(ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13)
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本でもベストセラーになったことが影響しているのか、小説の翻訳が増えていて喜ばしい。チョン・セラン著『保健室のアン・ウニョン先生』の主人公は高校の養護教諭で霊を見る力を持ち、校内に溜まった悪から生徒を守る。特別な能力を持つ自分がすべきことと諦観し、おもちゃの剣で果敢に立ち向かう姿は誰もが応援したくなるだろう。映画化されないだろうか。


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Report 第24回釜山国際映画祭(BIFF2019) ~分断に直面するとき、どうあるべきかを気づかせる映画たち

Text by Kachi
2020/7/11掲載



2014年6月の記憶


 2014年6月のソウルを忘れられずにいる。折しもブラジルW杯の最中で、仁川国際空港の到着ロビーのモニターでは、韓国代表の試合が映っていた。ありふれた光景だが、モニターの前の人たちの空気は、目の前の試合ではない、どこかもっと遠くを見ているようにうつろだった。その2ヶ月前に国ごと鈍色の海へ沈んでしまったように感じた。ただ、悲しみとともに韓国の人々の心に宿ったのは、政治問題とはわが事なのだという、民主化運動以来の強い怒りだった。その火のような思いが、人々を光化門広場へと駆り立てていく。

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『君の誕生日/Birthday』

 イ・ジョンオン監督『君の誕生日/Birthday』は、フィクションとして、今もなお悲しみの底にいる遺族の姿を映し出すことで絶望に寄り添おうとする。無職の父ジョンイル(ソル・ギョング)と離婚を望む母スンナム(チョン・ドヨン)、子供らしく振る舞いつつもどこか不安を隠す幼い娘イェスル(キム・ボミン)の3人家族のほころびた関係を明らかにしていく中で、セウォル号事故が、ある平穏な家族の日常を永遠に戻らない暗闇へ放り込んでしまったと痛感させる。事故についての検証ドキュメンタリーが多数製作され、未だに解明されていない事実を詳らかにする動きとなっている。他方、本作の役者たちの喪失感は演技ではあるが、チョン・ドヨンは『シークレット・サンシャイン』の母親を、ソル・ギョングは『ソウォン/願い』の父親を彷彿とさせて、亡くなった304人の高校生たちの家族のそれに重なり映画の中で放たれる。そのとき、劇映画の力を改めて感じる。


「History(男性の歴史)」ではなく「Herstory(女性の歴史)」へ


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『Things That Do Us Part/私たちを引き離すもの』

 『82年生まれ、キム・ジヨン』は書籍・映画ともに好評を博した。この作品が先鞭をつけた形になったフェミニズム文化の潮流だが、BIFFにあっては、毎年花盛りだ。特に昨今の韓国では「History(男性の歴史)」を「Herstory(女性の歴史)」としてとらえ直す試みが続いていて、フェミニズム的視点の映像作品が次々と作られており、イム・フンスン監督『Things That Do Us Part/私たちを引き離すもの』や、キム・ドンリョン監督、パク・キョンテ監督『The Pregnant Tree and the Goblin/妊娠した木と鬼』に表れていた。

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『The Pregnant Tree and the Goblin/妊娠した木と鬼』

 前者は『危路工団』のイム監督が、済州島4.3事件や民主化運動といった闘争の歴史で語られてこなかった女性を主人公にするドキュメンタリーであり、後者は議政府(ウィジョンブ)に住む元慰安婦の女性が、同じく慰安婦だった同僚が亡くなったことを知り一人で弔いをはじめるうち、黄泉路と交差するかのような不思議な旅へと足を踏み入れていく虚実入り混じった不思議な映画だ。いずれも伝統的な映画の語り方には収まらない実験的な手法で、彼女たちが背負った物語にアプローチしていく。以前、韓国の実験映画史について、「1980年代の民主化闘争の真っ只中にあった時代は、芸術的に飾ることよりも、率直に憤りが表現される手法が好まれたことで、映画史の中のミッシングリンクとなっている」という話を聞いた。翻って考えれば、女性を描く映画でこうした前衛的な手法を取られるということは、それだけ現代の韓国社会における女性問題のフェーズが、先進的であるといえるのかもしれない。


弱い者たちの強い連帯


 コ・フン監督『Paper Flower/紙の花』。事故で脊椎麻痺の息子ジヒョク(キム・ヘソン)を一人で育ててきた葬儀会社の納棺師ソンギル(アン・ソンギ)が、ウンスク(ユジン)とノウル(チャン・ジェヒ)母子と出会う。ウンスクがジヒョクのホームヘルパーを買って出たことで、体の自由を失って以来心を閉ざしていたジヒョクも、また頑ななソンギルも少しずつ変わっていく。

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『Paper Flower/紙の花』

 昨年、母を亡くして以来、筆者は人が死ぬことと生きることのはざまを、強く意識するようになった。映画や文学など、あらゆる表現のモチーフとして「死」は古典的だ。アン・ソンギの名作『祝祭』をオマージュするシーンは、韓国映画ファンには嬉しい。老練な“おくりびと”に扮したアン・ソンギは、“円熟味”という言葉では表しきれない深みをみせる。その一方、死の様相が『祝祭』の時代とは激変したことも浮き彫りになる。劇中、様々な理由で社会のつまはじきになった者たちが肩を寄せあう食堂の店主が、突然死してしまう。従業員は自分たちで弔いたいと懇願するが、ソンギルの上司は「親族ではない」という理由で突っぱねてしまう。今や単身世帯や核家族がスタンダードとなり、血縁だけで生きて死んでいく時代は、とうに過ぎ去った。「昔は本物の生花を棺に入れていたが、貧しい者は高価で買えなかった。だから紙で花を作って入れたんだ…」。映画の終盤、ソンギルはそう語る。夫から激しい暴力を受け、心と体に癒やしがたい傷を負うウンスクだが、彼女のまなざしも手も常に温かだ。旧い共同体を失っても、新たな結び目で人とつながろうとすることが、現代の優しさなのではないか。韓国社会に希望があるのは、弱く挫かれる者たちがそれでも互いに寄り添い、互いのわずかな力や優しさを分かちあっているからだ。一方で、その紐帯をただ美しいと感動で消費する時代はもう終わりにすべきであるというところまで、この作品は目が届いている。

 パク・ジョンボム監督『Not in This World/この世界にない』。路上生活者のジョンチョル(パク・ジョンボム)は、ストリートミュージシャンのジス(ムン・イェジン)の歌を聴き、お礼にと果物をもらったことがきっかけで交流するようになる。しかしジスは、音楽活動を反対する両親に無一文で家を追い出されてしまう。

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『Not in This World/この世界にない』

 パク・ジョンボム監督といえば、監督・主演をひとりでこなし、かつ長尺の作品で「生きる苦悩」そのものに肉薄するスタイルだ。ジョンチョルが暮らす山の中では、職にあぶれた不良青年たちが、同じく行き場のない少女たちに体を売らせる一大売春地帯を形成している。仲間に加わったジスはやがて金庫番として、暴力で組織を牛耳っていく。ジョンチョルは天涯孤独である一方、亡くなった父親が守護霊のようにジョンチョルに寄り添う。困窮したジスに襲われ、金品を奪われ重傷を負ったジョンチョルは彼女の裏切りに苦悩するが、父は「彼女の手を離してはいけない。こんな世の中で、他人に物をくれるような人間がどこにいる?」「それでも彼女を信じるんだ。お前が諦めてしまったら、この世の中で彼女を信じる人間が誰もいなくなってしまう」と説き続ける。

 非現実ともいえるディストピアの極北は、ほとんど同じことが現実に起きているのかもしれないと、薄ら寒い思いがする。タイトルの『この世界にない』は、幻滅と絶望に満ちた現在に対する眼差しを感じながらも、さすがはパク・ジョンボムで、ラストに小さくも力強い光を残してくれた。人という生き物は等しくもろい。だが、人だけが持ちうる感情というものに、望みをかけてもいいのかもしれない。この人は、祈るように映画を作り続けている。


BIFFの姿勢が映し出す韓国社会


 今回、古典の名作『誤発弾』やカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞した『オールド・ボーイ』などがプログラミングされた〈Special Program in Focus 韓国映画100年の偉大な10本〉が上映され、新旧のシネフィルを大いに喜ばせた。しかしその中に、『サマリア』(2004年ベルリン国際映画祭銀熊賞)も、『うつせみ』(同年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)も、『嘆きのピエタ』(2012年ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞)も選ばれなかった。

 根っからのシネフィルだったポン・ジュノやパク・チャヌクと違い、ストックのないキム・ギドクは自分の内なる観念や衝動しか題材にできない。そこで出来上がった、不完全で歪んだ愛のどうしようもなさをファンタジーとして描き出した映画は、彼のそんな映画人生ゆえに唯一無二だった。しかし、ギドクは映画の中だけにあるはずの歪んだ愛情を、ファンタジーではなく現実に、それも暴力という最も卑怯な形で、生身の女性に向けたのである。確かに筆者個人も、ギドクの作品を愛していた。『弓』を観たとき、愛とはこんなにも間違うものなのかと涙した記憶がある。だがあくまで「映画は映画だ」。心を踏みつけにされた誰かの痛みよりも、傑作の美点の方こそ価値をもって語られる習慣と歴史を、変えなければならない。

 『お嬢さん』で二人の女優がラブシーンを演じたとき、パク・チャヌク監督は自身を含め現場から離れ、遠隔操作でリモート撮影し、女性スタッフに音声を録音させる形で臨んだ。現在、韓国の映画作りの現場は変わりつつあり、BIFFがギドク的な映画のあり方に「否」をはっきり表明したことは、こうした変化への連帯を感じる。「映画祭が何を上映するかということは、一種の批評である」とは、映画評論家・山根貞夫氏の言葉だ。名のある映画祭での上映は、それだけで栄光を得ることに等しく、禊ぎが済んだかのような印象を与えてしまう。被害者にとって、自分を傷つけた人間がいつまでも称賛の声を浴びるとき、誰も味方はいないと絶望的な孤独を感じるに違いない。誰かの犠牲の下でこそ傑作が出来上がるという誤解と無関心を捨て去り、新たなあり方を国際的に示そうとした意志だと頼もしく感じたのだ。

 イム・ソネ監督『An Old Lady/69歳』。ヒョジョン(イェ・スジョン)は、入院中に若い男性看護師からの性被害に遭う。事実を知った同居人のドンジン(キ・ジュボン)は、告発して法に訴えようと奔走するが、ショックからヒョジョンは心を閉ざしてしまう。さらに看護師の男性は、彼女との性行為は同意の上だったと主張する。

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『An Old Lady/69歳』

 映画が始まってまもなく、若い男性が69歳のヒョジョンをレイプしたと分かった一瞬、筆者は強い衝撃を受けた。と同時に、そのショックで筆者自身に無意識に内在する差別を目の当たりにさせられた。若さ“にだけ”価値があるわけでも、年齢で被害者の“値打ち”がつけられることも間違いだ。性暴力を「他人によって自尊心を破壊される卑劣な行為」と言うドンジンの心の底からの憤りに救われる。

 分断に直面したとき、自身が分断する側にいるのか、あるいは分断される側にいるのか。筆者がかろうじてまだ「若い」と呼ばれる年齢だからこそ、『An Old Lady/69歳』をまなざす自分が、無意識にも年齢で分断する側にいることに気づかされたように、切り捨てられる側にいなければ、分断に気づくことは出来ないのかもしれない。かつて、韓国映画が自分に内在した分断に気づかせてくれたが、こうして何度でも、自身の誠実さを問われるのだ。

 日本の映画人の多くは、韓国映画の質や製作のスタンス、業界のあり方への羨望を、口々に述べるようになった。一方、BIFFの姿勢が映し出す韓国社会は、強者/弱者という単純で大きな二項対立を飛び越えて、弱者の中のヒエラルキーのような複雑な難しさをどう解きほぐしていくかにまで、歩みを進めているようである。


第24回釜山国際映画祭(BIFF2019)
 期間:2019年10月3日(木)~10月12日(土)
 会場:釜山シネマセンターほか
 公式サイト http://www.biff.kr/


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Report マンスリー・ソウル 2020年1月 ~“ミスター韓国映画”マ・ドンソクがコメディとパニック大作で魅せた存在感

Text by hebaragi
2020/1/26掲載



 真冬のソウルは底冷えが厳しく、外を歩くのが辛いくらいだった。今回は『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』公開中ということもあって、韓国映画の上映が比較的少なかったが、滞在中、韓国映画4本(『始動』『白頭山』『天文:空に問う』『モンマルトルのパパ』)と日本映画2本(『少女邂逅』『Love Letter』)を見ることができた。強い印象を残したマ・ドンソク出演の2本の作品を紹介する。


『始動』


 人気ウェブ漫画の実写化であり、『ベテラン』『EXIT イグジット』の制作スタッフも参加していることも話題となっている本作。学校も家も勉強も嫌いで母に反抗するテギル(パク・ジョンミン)は、友人のサンピル(チョン・ヘイン)と一緒に家出をしてしまう。テギルは中華料理店の料理長のコソク(マ・ドンソク)に偶然出会い、敵対関係になるが不思議な交流が続く。

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『始動』

 近年、数多くの作品に出演し露出度急上昇中、いまや“ミスター韓国映画”と言っていい圧倒的な存在感のマ・ドンソク。彼が登場するというだけで期待が膨らむ。

 体育会系のノリで、トラブルが起きると腕力で解決しようとする彼のキャラクターは本作でも相変わらずだ。しかし、今回はおかっぱ頭のコミカルなビジョアルが意表をつく。しかも、TWICEのファンという設定で、彼女たちが出演するTV番組を見て一緒にダンスをしたり、カラオケでヒット曲「TT」を歌ったりするお茶目なシーンも目を引く。

 マ・ドンソクとふたりの若者の軽快なやりとりが楽しい。テギルの母親役、ヨム・ジョンアも持ち味を発揮している。また、髪を赤く染めたボーイッシュな少女キョンジュ役、チェ・ソンウンが印象に残った。初めて見る女優さんだが、これから注目していきたいひとりだ。

 楽しいコメディ映画であり、家族ドラマの要素も感じられる本作。マ・ドンソクのファンにも、それ以外の人にもおすすめしたい作品だ。


『白頭山』


 韓国映画を見ていて知られざる歴史にふれることは多いが、本作は朝鮮半島の地理の勉強にもなるとも言えるテーマ。北朝鮮と中国の間にある2,744メートルの白頭山は日本の富士山と同様の聖山であり、1,000年に1度大爆発をする活火山。前回946年の大爆発では日本の東北地方にも火山灰が降り注ぐなどの影響があったと言われている。

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『白頭山』

 本作は「いま大爆発が起きたら、ソウルやピョンヤンはどうなる?」というテーマで描いたパニック超大作だ。『神と共に』シリーズのデクスタースタジオが制作に携わり、製作費が300億ウォン(約30億円)に上ったことも話題となった。

 観測史上最大の白頭山噴火が発生。韓国国内はパニックに陥る。そして、韓国も北朝鮮も飲み込むさらなる被害が予想される二次噴火を防ぐため、秘密の作戦が開始される…。

 オープニングから、噴火とそれに伴って起きる地震、津波の映像が圧倒的なスケールで迫ってくる。ソウルのビル街が倒壊、道路は陥没、漢江にかかる橋には容赦なく津波が襲いかかってくる。

 一方、対策本部では、さらなる大爆発への対策として、北朝鮮の核兵器を活用して爆発の被害を最小化させるという奇想天外な対策が検討され、実行に移されることに。さらには、アメリカ軍や中国の思惑もからみ、事態は複雑な方向に…。

 噴火対策に従事する韓国軍のメインとなる大尉インチャン役にハ・ジョンウ、宿敵・韓国と強力して作戦にあたることとなる北朝鮮のスパイ、ジュンピョン役にイ・ビョンホン、噴火の現状を分析し対策を提案する大学教授カン・ボンネ役にマ・ドンソクを起用。豪華なキャストは公開前から関心を集めていた。

 噴火に立ち向かうハ・ジョンウとイ・ビョンホンのやりとりを中心にストーリーが展開するが、深刻な状況下でも時にはユーモアを交えた会話を交わすふたりが印象的だ。

 そして注目は、地質分野専門の大学教授役のマ・ドンソクだ。今までの体育会系キャラを封印し、終始眼鏡をかけ、専門用語を駆使して学者らしい穏やかな物腰で冷静に事態を分析し、対策を提案する演技は知性をアピールするものであり、新鮮な印象を与える。俳優マ・ドンソクの新たな魅力に気づかせてくれる役どころといえよう。

 パニック映画は韓国映画のお家芸であり、2019年に大ヒットした『EXIT イグジット』をはじめ、過去には『新感染 ファイナル・エクスプレス』『ザ・タワー 超高層ビル大火災』『TSUNAMI ツナミ』などの大作が多くの観客を楽しませてきた。

 本作は、これまでフィクションが多かったパニック大作のテーマと異なり、地震の少ない韓国で現実的な脅威とされている白頭山の大爆発をテーマとしていることから観客の関心が高く、公開から1ヶ月弱で観客動員800万人を超えたと報じられている。また、スケールの大きなエンターテイメント作品としてもよくできており、大スクリーンでの鑑賞に適している作品と言えよう。

 本作は既に米国、台湾、香港、シンガポール、マレーシアなど90を超える国・地域に販売され、公開予定となっているという。もし、白頭山で大爆発が起きれば東京ドーム10万個分の火山灰が世界中に落下し、農業被害や航空機の欠航など日本にも少なからず影響があるとのこと。隣国で起きる可能性の高い自然災害に関心を持つ意味でも、日本公開に期待したい。


Writer's Note
 hebaragi。いつも良質な日本映画のラインナップを揃えているCGV明洞駅シネライブラリーで2本の日本映画を見た。枝優花監督の『少女邂逅』と、何度目かのアンコール上映となる岩井俊二監督の大ヒット作『Love Letter』である。『Love Letter』は満席の観客で、公開から25年経った今でもファンが多いことに感銘を覚えた。今月は日本で監督の最新作『ラストレター』が公開される。『Love Letter』同様に手紙をモチーフにしたストーリーとのこと。韓国で公開されれば、またたくさんの観客を集めるに違いない。『Love Letter』韓国公開が日本文化ブームにつながったように、これからも映画を通した文化交流が進んでいくことを期待したい。


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Report マンスリー・ソウル 2019年12月 ~“夜回り先生”、小樽ロケ作品、そして14年ぶりのイ・ヨンエ新作との出会い

Text by hebaragi
2019/12/22掲載



 12月のソウルは冬本番で朝夕底冷えがしていた。今回は多忙な年末ということで実質2日間の滞在だったが、韓国映画7本(『ヨンファらしい日々』『昨日のことは全て大丈夫』『ユニへ』『家の話』『違わなく同じ彼女』『俗物たち』『私を探して』)を見ることができた。以下、印象に残った3作品を紹介する。


『昨日のことは全て大丈夫』


 “夜回り先生”として知られる水谷修氏の生き方をベースとして、韓国の都会を舞台に再構成したヒューマンドラマ。今年の全州国際映画祭でも上映された。監督は水谷氏の友人でもあるイ・ソンハン氏。彼は最愛の娘を中学校でのいじめによって亡くしている。その彼女が最後に読んでいた本が水谷氏の「夜回り先生」だったとのこと。水谷氏は、イ・ソンハン氏の娘への思いを考えるとともに、映画という文化交流を通して日韓関係が少しでも改善されればとの思いから、原作の著作権をイ・ソンハン氏に譲ったという。

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『昨日のことは全て大丈夫』

 本作は主人公の教師ミンジェが、学校や街角で様々な事情を抱える少年少女たちに声をかけ、彼らの話を聞き、親身になって彼らに寄り添っていくストーリーだ。彼の穏やかな人柄は少年少女たちからも信頼を受けるものであり、じんわりと胸を打つ。日々の少年少女との関係では様々な出会いや出来事、そして別れもあるが、ミンジェは全ての出来事を淡々と受け止めていく。本作の英語タイトル『The Fault Is Not Yours.』は若者たちの未来への前向きなメッセージをこめたエールなのだろう。

 また、人気の日韓ガールズグループIZ*ONE(アイズワン)のメンバー、キム・ミンジュが主要メンバーとして出演しているのも話題のひとつだ。

 本作は原作に忠実に制作されていることから、全州国際映画祭を訪れた水谷氏も「素晴らしい映画でした」と太鼓判を押すほどの秀作だ。水谷氏やイ・ソンハン氏の思いがたくさんの人々に届くよう、ぜひ日本公開が実現することを望みたい。


『ユニへ』


 ことしの釜山国際映画祭のクロージング上映作品。一通の手紙をきっかけに初恋の記憶をたどる小樽への旅に出た主人公ユニ(キム・ヒエ)と娘。20年の時を経て登場人物たちの思いが交錯していくストーリーは小樽の街にふさわしく、ファンタジックな印象だ。

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『ユニへ』

 ユニの長年の友人、ジュンを演じた中村優子、ジュンと同居するおば役の木野花ら日本人キャストも好演。中村優子が動物病院のドクター、木野花が街の小さなカフェの主人という設定も作品に彩りを添える。さらに、全編を通して小樽の街の風景が魅力的に描かれていたのも印象的だ。小樽は1990年代に中山美穂主演の映画『Love Letter』の韓国でのヒットにより注目を集めた街でもある。『ユニへ』をきっかけに、いわゆる「聖地巡礼」ブームの再来にも期待したいものだ。


『私を探して』


 今回の訪韓の一番の目的だったイ・ヨンエの新作と初対面。彼女の映画への出演は活動休止前の『親切なクムジャさん』以来であり、実に14年ぶりとなる。余談だが、『親切なクムジャさん』を見たのがソウル・明洞聖堂近くの今はなき「中央シネマ」だったことを思い出し、歳月の流れを感じた。

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『私を探して』

 オープニングで、ほぼノーメイクの憔悴しきった様子で海辺を歩くイ・ヨンエの姿に心を鷲掴みにされる。そして、ナースのユニフォームに身を包んだ彼女がてきぱきと働く回想シーンへ。前半は、懸命に子どもを探す母親としてのストーリーが続くが、プライベートでも活動休止後に結婚・出産・育児を経験した彼女の迫真の演技が胸に迫る。キッチンで食事の支度をするシーン、思いがけず訪れた夫の死にやつれきった様子の喪服姿、子どもを探すために車を運転する様子など、初めて見る様々なシーンでのイ・ヨンエが印象的だ。

 ストーリーは、6年前にいなくなった子どもを探す良き母親、イ・ヨンエとしての展開を予想していたが、後半、秘密を守ろうとする地域住民たちとの激しい乱闘と銃撃戦となり、予測不可能なサスペンスストーリーへと変わっていく。ラストまで体当たりの演技に圧倒されるシーンの連続だ。果たして子どもと再会することができるのか。息詰まる展開に目が離せない

 本作でのイ・ヨンエは14年のブランクを微塵も感じさせない熱演を見せてくれており、また、凛とした美しさも健在で、オールドファンもひと安心といった作品だ。そして、今まで見たことのない彼女の新たな魅力にふれることもできる、まさにお得感満載の一本だ。彼女は映画誌「CINE21」のインタビューに答え「40代、50代の女優が主流映画でいくらでも活躍できるということを見せつけたい」とも語っている。たくさんのファンのためにも本作の日本公開を切望したい。


Writer's Note
 hebaragi。今年になってからのソウル訪問は今回で10回を数えました。毎回、貴重な作品との出会いがあり、有意義なものでした。2020年の予定ですが、本業の休暇の都合もあり1月から隔月の訪問となる予定です。回数は減りますが、今年同様に充実したレポートをお届けできるよう努力してまいりますので、本年同様のご愛読をよろしくお願いいたします。


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Report マンスリー・ソウル 2019年11月 ~大ヒット公開中、『82年生まれ、キム・ジヨン』に見る韓国社会の今

Text by hebaragi
2019/11/8掲載



 原作は日韓でベストセラーになった小説。小説のヒットをきっかけに女性たちが声をあげ、いわゆる#MeToo運動につながったとも言われるなど、社会現象にもなった。鑑賞した日は上映スタート間もない週末だったが、劇場にはキム・ジヨンと同年代の女性を中心に、たくさんの観客が詰めかけていた。すでに観客動員は280万人を突破した模様(11/7現在)。映画鑑賞の前に原作を読んでいたので、作品世界にスムーズに入り込むことができた。

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『82年生まれ、キム・ジヨン』

 まずは、キム・ジヨン役チョン・ユミのピュアで凛としたたたずまいに注目だ。髪をまとめ、背筋を伸ばして淡々と家事や育児をこなすオープニングが強い印象を残す。一方、それは本来の自分の生き方ではないとの思いから、やり場のない閉塞感を醸し出しているキム・ジヨン。なぜ、出産・子育てに際して女性だけが一方的に人生を変えていかなければならないのかについても納得していない。

 少女時代からの家庭内での男尊女卑や通学バスでのセクハラ、会社での様々なハラスメントなどの理不尽な出来事が、次々と彼女を襲う。しかし、映画はそうした問題を声高に主張するのではなく、しっとり静かに、ときには軽いユーモアを絡めてストーリーが展開する。一方で、作品に込められたメッセージはしっかりと伝わってくる2時間だ。

 女性社員限定の男性社員へのお茶汲みや、会議中にタバコをぷかぷかふかし、下品で差別的な冗談を連発する男性上司などは、筆者が就職した80年代には珍しくなかったことを思い出し、苦々しい気持ちになる。また、男性たちが、連れだって会社の屋上や公園でカップコーヒーを飲みながら、不用意で身勝手な振る舞いを繰り返すのも不快以外の何物でもない。さらに気づかされるのは、事あるたびに顔を出す、韓国社会に根強い家族の重さだ。

 しかし、様々な困難に直面しながらも、常に前を向き、道を切り開いていくキム・ジヨンの生き方は清々しく、なんとも愛おしい。作品中、キム・ジヨンは横顔で語る絵コンテが多いが、この手法によって、彼女の心理を丁寧に描写することに成功している。また、妻を気にかけてはいるが、無力な夫役、コン・ユの演技も秀逸だ。

 紆余曲折が続くストーリーだが、キム・ジヨンと主治医の精神科医との対話によって次第に彼女の気持ちが変わっていく。さらに、元の同僚や女性の上司との良好な関係から、少しだけ希望が感じられるラストに救われる思いだ。韓国には今もたくさんのキム・ジヨンがいるに違いない。同様に女性差別が根強く、韓国同様に女性が生きづらい社会と言われている日本、なかんずく男性たちにぜひ見てほしい作品だ。問われているのは韓国社会だけではなく、世界共通の社会のあり方なのだ。「娘が生きる世の中は、私が生きてきた世の中より良くなっていなくてはなりませんし、そう信じ、そのようにするために努力しています」という小説原作者の思いは切実だ。日本公開を切望したい。


Writer's Note
 hebaragi。公開中の『天気の子』にもたくさんの観客が詰めかけていた。初日の興行収入は『ターミネーター:ニュー・フェイト』『82年生まれ、キム・ジヨン』に次ぐ3位を記録。公開にあわせ、10月末には新海誠監督がソウルを訪れ、舞台挨拶が行われた。記者会見に応じた監督は「長編第一作『雲のむこう、約束の場所』が韓国で受賞して以来、韓国に特別な愛情を持っている」と語ると同時に「3年後、日本と韓国が仲直りして、新作を持って戻ってきて韓国のお客さんたちと良い時間を過ごせれば幸せだと思います」とコメントしたとのことだ。監督のこうした行動に敬意を表したい。まさしく「愛にできることはまだあるよ」である。文化の力を信じたい。


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