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Report シンポジウム「パク・ジョンボムとユン・ジョンビンが語るチャン・リュルの世界」 ~アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017より

Text by 井上康子
2017/10/21掲載



 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017(以下、アジアフォーカス)ではチャン・リュル監督作品『春の夢』が上映され、チャン監督、主演したパク・ジョンボム監督とユン・ジョンビン監督が来福した。アジアフォーカス・スタッフで韓国映画人との交流を続けている西谷郁氏の司会で、『春の夢』についてを中心に、映画人として考えていることや、日本との合作の可能性等を3監督が語り合った。


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今回上映作品『春の夢』について


司会:ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンの3人をキャスティングした理由は?

チャン:3人共と元々親しいのです。3人で何かやれたらと思ったのが始まりです。監督には演出だけできる人と演出も演技もできる人がいますが、3人は演出も演技も素晴らしく、嫉妬するような気持ちもあります。親しいのでギャラが少なくてもやってくれるかなと思って依頼したところもあります(笑)。

司会:ヤン・イクチュン監督『息もできない』、パク・ジョンボム監督『ムサン日記~白い犬』、ユン・ジョンビン監督『許されざるもの』ではいずれも監督たちが主演しましたが、その役柄のイメージのまま本作にも登場しています。その意図はどこにあったのでしょうか?

チャン:3人の監督作品が好きで、人間的にも3人が好きです。映画の質感と人間の質感は重なる所があると思います。本作の舞台にした水色洞(スセクドン)の質感に合うと考えていたら3監督作品のキャラクターが溶け込んでいきました。自然に3作品につながるという不思議な体験でした。

司会:役作りはどうやって行いましたか?

ユン:いつもは自分が演出する映画に出ていて、他の人が演出する映画に出たのは初めてで、迷惑をかけてはいけないと思い、監督の指示通り一生懸命やろうという思いだけでやりました。

パク:私は今まで作った映画は脱北者や労働者を描いていて、そういう役を演じてきて、今回もそのような役だったのでそういう意味では特に難しくはありませんでした。今回は撮影を通じて、俳優の呼吸や姿勢を感じることができて、良い経験になりました。一つ残念だったのは映画の中で3人の内私だけシン・ミナさんをハグできなかったことです(笑)。

司会:私はハン・イェリさんが大好きです。彼女をキャスティングした理由は?

チャン:彼女は演技の上手い女優です。以前、短編映画に出演してもらったことがあり、今回もぜひ一緒にやってほしいと思いキャスティングしました。3人の男が住んでいる水色洞は本当に3人が住んでいるのではというリアリティがあります。でも3人だけの水色洞はとても寂しくて彼らを慰めてくれる存在が必要と思い、3人の男を中心に、ハン・イェリさんを加えた物語にしました。

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チャン・リュル監督

司会:監督は中国文学に造詣が深い方ですが、イェリさんが作品中語る詩に李白の「静夜思」を選んだのはなぜですか?

チャン:「静夜思」は中国では老若男女誰もが知っている詩で、故郷を思う時はこの詩を読みます。彼女は中国の朝鮮族で延辺から来たので故郷を想う時はこの詩で慰められているのではと思いました。

司会:イェリさんは作品中アン・スギルの小説「北間島」も読んでいましたね。

チャン:「北間島」は延辺が舞台なので、彼女が読むのに相応しい小説でした。

司会:出演していて自分だったらこういう演出にするのにと疑問を感じたことはありませんでしたか?

ユン:自分は監督ですが、だからといって演技をする時に演出について考えるということは特にありませんでした。演技をしようという思いだけでした。強く感じたのは自分が演出する時にこれからは俳優さんにもっと優しくしなくてはということでした(笑)。

パク:私も自分の撮影現場のことを思って反省しました。チャン監督はあまりテイクも多くなくてすぐにOKを出してくれます。私は『生きる』撮影の時は何度もやり直してもらい、俳優さんたちに無慈悲で反省しました(笑)。

チャン:ヤン・イクチュンさんもこれから俳優さんのことを配慮しなくてはとずっと言っていました。3人は苦労しながら参加してくれて感謝しています。また、3人で映画を撮れたらと思います。


チャン監督作品について


司会:チャン監督作品についてどう思っていますか?

ユン:大好きでよく見ています。見る度におもしろく、作風が自分とは違っていて刺激になります。今回は自分が出演しておもしろくないと思う部分ができてしまったので、今度は出演しないで素直に見たいです(笑)。

パク:私も全作品を見ています。監督の世界観や人の観方には私のそれらと共通したものがあると思います。


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ユン・ジョンビン監督

韓国映画界の中で


司会:チャン監督はスターを起用したメジャー作品と独立系作品を手掛けています。ユン監督は近年メジャー作品を手がけ、パク監督は自分で演出・主演を続けています。韓国映画界の中でどういう思いで映画を作っていますか?

チャン:自分が何に興味があるのかを意識して作っています。映画界全体については考えたことがないです。

ユン:私も考えたことがありません。自分の興味を深めて作品を撮り続けたいと思っています。自分が原則としているのは、一つは他の人に迷惑をかけないようにするということです。映画は多くの人が関わるプロジェクトで、チームワークで動くものなので迷惑を掛けたら次の作品につながらなくなってしまいます。二つ目はあまり期間を開けずに次の映画を作るということです。その二つを守れば長く映画を撮り続けることができると思ってやっています。

パク:私も特に考えていません。自分が欲するままに撮りたい映画を撮るだけです。つらいのはこれまでの作品の収益があまり良くなく、損益分岐点に達しておらず、誰かに迷惑をかけてしまったということです。これからは自分が撮りたいものを撮り、多くの観客を動員できたら良いのですが。この冬から新しい映画の撮影に入りますが、この作品も少し難しいのではと言われ悩んでいます。

チャン:もうちょっと希望を持ったら良い。『春の夢』が日本で大ヒットしたら次の作品につながるので(笑)。


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パク・ジョンボム監督

日本との合作希望について


司会:日本で撮影したいという希望はありますか? 問題になることはありますか?

チャン:合作は良い作品につながります。投資がちゃんと入れば、どういう国か、どういう人かは問題になりません。

ユン:自分が撮りたいものが合作でなくてはできないなら合作という形でいろいろな人の手を借りたいし、そうでなければ韓国で撮るでしょう。合作自体が大事というより作品がどんな流れで何を表現したいかによります。

パク:私は日本によく来ていて、例えば東京の風景で撮りたいと思うものに出会うことがあります。合作であるなら、言葉の問題があるので、私がシナリオを書き、友人である石井裕也監督が演出するというようなことがいつかできたらと思います。


 チャン監督は観客からの質問にも答えて、「自分の住んでいる街では人々は忙しく仮面をかぶっている様で表情が見えないが、水色洞は人間の喜びや悲しみの感情を素直に見せてくれる所。水色洞を舞台に描こうと思ったのは私たちが生きるのに何が大事かを見ることができる場所だったから」、「シナリオはざっくりした大まかなものが好きで現場の雰囲気や俳優のコンディションに合せることが多い」、「今回の作品でヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンという実名を役名にしたのは名前があまり洗練されてなくて水色洞の住人に相応しかったことと本名を使うことで俳優の本性が出ることを期待した」ということも語った。

 また、チャン監督「イェリ(ハン・イェリも実名が役名になっている)の父親を演じたのはイ・チャンドン監督の弟で映画制作者のイ・ジュンドン氏。寝たきり役で負担が大きかったので仲の良いイ氏を説得して出演依頼し、入浴場面で裸で人に洗ってもらうというのはその場で説得した(笑)」、ユン監督「自作に朝鮮族の科学者役でチャン監督に出演依頼し、ギャラもたくさん出すと言ったのに応じてもらえなかった(笑)」というユーモラスなエピソードが披露されたことも付言しておこう。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017
 期間:2017年9月15日(金)~9月24日(日)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。福岡アジアフィルムフェスティバル2017ではキム・ギドク監督が福島第一原発事故による放射能汚染を描いた『STOP』が上映された。恐怖感から追い詰められ常軌を逸していく人を描いて衝撃的だ。福島の問題を他国の問題とせず来日。撮影・照明・録音も一人でこなしたそうだ。


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Report アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017 ~想像力を呼び覚ます映画たち

Text by 井上康子
写真提供:映画祭事務局
2017/10/21掲載



 「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017(以下、アジアフォーカス)」が、9月15日から10日間、福岡市内会場で開催され、27回目の今年は22ヶ国・地域の63作品が上映された。韓国映画はチャン・リュル監督『春の夢』が上映され、監督と、俳優として主演したパク・ジョンボム、ユン・ジョンビン両監督も来福するという豪華な顔ぶれとなり、シンポジウム「パク・ジョンボムとユン・ジョンビンが語るチャン・リュルの世界」も開催された。「タイ映画大特集」は個性の異なる8作品を一挙に上映し、各々シンポジウムも行い注目を集めた。福岡で活躍するクリエーターの作品を上映する「福岡パノラマ」では堀江貴大監督『ナギョンとキヌカワ』が上映されたが、会場は大勢来場した若いクリエーターの熱気に包まれた。


『ワンダーボーイ・ストーリー』が見せた国のアイデンティティと『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』が見せた交流


 今年、華やかにオープニングを飾ったのはディック・リー共同監督・主演による音楽家としての自身の誕生までを描いた『ワンダーボーイ・ストーリー』。シンガポールはいかなる国かと考え、欧米曲のカバーでない、独自の歌を創造していく。対照的に静謐な作品だが『蜜をあたえる女(ひと)』もブータンの仏教説話が背景にされた独自の作品だった。また、他国との交流をテーマにした作品もあった。『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』は行定勲、フィリピンのブリランテ・メンドーサ(『ローサは密告された』)、カンボジアのソト・クォーリーカーという国際的に活躍する3監督によるオムニバス映画で、いずれも主人公は事情があって異郷で過ごす人物。


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『頭脳ゲーム』ナタウット・プーンピリヤ監督

格差社会に生きる若者:人気投票1位『頭脳ゲーム』、2位『バイオリン弾き』


 「アジアの新作・話題作」の中で、観客による人気投票で1位の「福岡観客賞」に選ばれたのはタイの若手ナタウット・プーンピリヤ監督『頭脳ゲーム』。飛びぬけて秀才の女子高生が留学費用を得るために、富裕層の子弟に組織的にカンニングをさせるというストーリー。想定外のトラブルに彼女は果敢に対応する。前提になっている家庭の経済格差と、人生で大切なのは金銭なのかという監督の問いかけが作品を深みのあるものにしていた。2位の「熊本市賞」を獲得したのはイランのベテラン、『柳と風』でも知られるモハマド=アリ・タレビ監督の『バイオリン弾き』。市場でバイオリンを弾いて家族を養っている主人公を始め、登場する人物はすべて実在の人物で、監督も本人役で登場する。監督は街で撮影しながら台本を考えたというが、市井の人が与えられた台詞でなく自身の言葉で語る思いの中に、何と素朴な思いやりのあることか。他にも、若い監督が厳しい環境に置かれた若者を描いた作品は切実さがあり胸に響いた。『フーリッシュ・バード』(中国)では、主人公の女子高生は出稼ぎ中の母親と離れて暮らしており、彼女を顧みる大人が不在の中で、トラブルに巻き込まれる。『はぐれ道』(マレーシア)は1990年代のマレーシア社会の中で低い地位に置かれていたタミル人の状況を一人の少年を通して見せた。『ダイアモンド・アイランド』(カンボジア)はセレブのための巨大マンション建設に従事する無垢な青年たちの生活を描いている。


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『春の夢』シンポジウムの模様

『春の夢』上映&シンポジウム「パク・ジョンボムとユン・ジョンビンが語るチャン・リュルの世界」


 『春の夢』は監督でも俳優でもある、ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビンが各々自作で演じたキャラクターのイメージでチンピラ、脱北者、障害をもつ人として登場。さえないトリオにとって、ハン・イェリ扮する居酒屋の女主人はマドンナのような存在だ。そして、寝たきりの父親の介護を続けるイェリも彼らに支えられている。じんわりと暖かく、だがラストは人の一生を春の夢の如くはかないものに感じさせ寂寥感が漂う。シンポジウムでは本作の話題や映画人として考えることを3監督が活発に語った。


「福岡パノラマ」の『ナギョンとキヌカワ』:アジア各地から若者が集合


 アジアフォーカスと国際交流基金アジアセンターが共催で実施する、アジアの若手映画製作者向けのワークショップである「Fukuoka Film Forum」で作られた、福岡の玄界島を舞台にした短編。韓国の済州島出身の写真家ナギョンが、海女の写真撮影のために島を訪れ、元海女で、認知症になったキヌカワに出逢い、彼女の思いを島の人々に伝えていく。会場には堀江貴大監督を始め、アジア各地から本作の出演者やスタッフが集い、島での撮影時の思い出を達成感に満たされた笑顔で語った。


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『噂の男』ナワポン・タムロンラタナリット監督

「タイ映画大特集」:秀作を見せ、作品の豊饒さを語り、未来へ渡す


 多様な8作品を上映し、上映後は作品スタッフ・関係者を招いてのシンポジウムが開催された。デジタル修復版『サンティとウィーナー』上映後は本作の復元に至るまでやフィルム保存についての取り組みが紹介された。『いつか暗くなるときに』は学生運動が弾圧された事件をモチーフにアノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督が「映画はどこまで真実に近づけるか」という実験をした前衛作品。「観客が想像するのが映画」であり、出来事の関連の分かり易さは排除されている。ナワポン・タムロンラタナリット監督『噂の男』(大阪アジアン映画祭2016で『あの店長』というタイトルで上映)は鑑賞できる映画が限定されていたタイで、古典から新作まで世界中の作品を販売していた目利きの海賊ビデオ店主について、インタビュアーである監督の質問に利用者たちが一人ずつ登場し証言していくというドキュメンタリー。多様な経験から多様な意味が生じる。アジアフォーカス梁木靖弘ディレクターは「今はまだリアリズムの次が見えていない時代だが、彼のようなパーソナルなものがリアリズムの次の方法になる可能性がある」と興奮気味に語った。監督はいずれの証言にも解釈を挟むことは一切せず「判断は観客に委ねる」。終始、想像力を呼び覚まされる、特別な鑑賞時間になった。


アジアフォーカス・福岡国際映画祭2017
 期間:2017年9月15日(金)~9月24日(日)
 会場:キャナルシティ博多ほか
 公式サイト http://www.focus-on-asia.com/

Writer's Note
 井上康子。『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』の行定勲監督が『カメリア』制作時の主演者ソル・ギョングの発言を紹介した。韓国人スタッフが「韓国人はこのような振る舞いをしない」と監督を批判した時に「韓国人監督がやればただの韓国映画。合作のねらいとは何なのか。感性が異なることから生じる違和を不自然に感じさせないのが俳優の仕事」と語ったというのに感動。


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Report 福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)2017 ~日本人監督が釜山で撮った『憧れ』を日本初上映

Text by 井上康子
写真提供:福岡インディペンデント映画祭事務局
2017/10/15掲載



 映像作家の育成と交流を目的にした福岡インディペンデント映画祭2017(以下、FIDFF)が、9月7日~10日に福岡市内で開催された。例年のコンペを今年は一休みし、昨年のグランプリ受賞作『アレルギー』(ヒョン・スルウ監督)を始めとするこれまでの受賞作品・招待作品等68作品が上映された。筆者が特に注目していたのはユネスコ釜山インターシティ映画祭(英語表記では"Busan Inter City Film Festival" 以下、BICFF)主催のレジデンス制作プログラムにより福岡在住の神保慶政監督が撮った『憧れ』で、日本人監督が韓国人スタッフ・キャストにより、台詞はすべて韓国語で制作した、日韓交流の申し子のような作品だ。例年通り釜山独立映画祭(以下、IFFB)受賞作品も上映された。また、アニメ有志作家による「アニメーション・パレット SELECT & PLUS」ではキム・ハケン監督『Jungle Taxi』が上映された。


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『憧れ』

多様なものとの交わりを見せる、釜山で撮られた『憧れ』


 BICFFはIFFBのインターシティ部門から独立した映画祭で、釜山市が2014年にユネスコの映画創意都市に選ばれたこともあり、映画創意都市や海外映画祭との交流によるネットワーク活性化を目的にしている。今年5月に初めて開催されたBICFFでは昨年のFIDFFの優秀作品が上映された。監督(脚本も)はFIDFFの推薦によりBICFFのレジデンス制作プログラムの参加者に選ばれ、「inter-city」をテーマに、3週間釜山に滞在して本短編を作り上げた。主人公ミナは釜山に住むライターで、出産前の最後の仕事に、釜山の人々の生まれて初めての記憶を書き残そうとする。インタビューのために、釜山の街を縦横して、出会った人々の記憶を手繰り寄せていく。そして、ある老女との出会いにより、出産への不安を希望へと転じていく。空間を縦横し、出会った人々の過去と希望を込めた未来の時間も共有していく。「inter-city」の究極の目的は多様なものとの交わりと考えると、まさにテーマに即した作品だった。監督は第一子の出生を経験し、妊娠・出産にまつわる女性の不安の大きさを実感したことから企画したそうだが、女性同士の連帯を通して女性の強さも描いている。


IFFB2016グランプリ作品『試験のあとに』上映


 FIDFFはIFFBと交流があり、例年、相互に優秀作品を上映してきた。今年はFIDFF2016で『ランニング・フォトズ』(IFFB2015)が上映されたキム・ナヨン監督の『試験のあとに』がIFFB2016でグランプリを得たことを記念し、両作品が上映された。『ランニング・フォトズ』は名作映画の走る場面を編集した作品だったが、『試験のあとに』は監督が脚本も書き、親友同士の二人の女性を登場させた作品。主人公は高校時代には試験後に友人宅で点が取れなかったことをぼやく。そして現代は会社を辞めた後、もやもやした気持ちのまま友人宅で好きな映画を見ている。ふと眠り込んだ主人公は友人と過ごした高校時代と好きな映画の世界に入り込んでいく。主人公が登場人物に共感し涙する映画は侯孝賢監督作『恋恋風塵』だ。夢と現実、現代と過去が交錯するが、非現実的な夢想はなく、社会の中で感じるつらさや不安が不思議な感覚となって迫ってくる。

 FIDFFは来年、記念すべき10回目を迎える。今年はコンペがないことがいささか寂しかったが、来年はコンペも開催されるとのことである。BICFFとの交流の今後も楽しみだ。


第9回福岡インディペンデント映画祭2017
 期間:2017年9月7日(木)~9月10日(日)
 会場:福岡アジア美術館
 公式サイト http://www.fidff.com/

Writer's Note
 井上康子。ファンであるカズオ・イシグロ氏がノーベル賞作家になった。彼の『わたしを離さないで』は何度も号泣しながら読んだ。同じように「人とは何か」を問うた、映画『ブレードランナー』は運命を切り開こうとするが、『わたしを離さないで』は運命を受容し、静謐で余りにも悲しい。


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Report ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017 ~27回目の「おかえりなさい」は韓国映画三昧

Text by hebaragi
2017/8/23掲載



 27回目を迎えた映画祭初日、今年もゲストと観客は「おかえりなさい」の言葉で迎えられた。開催期間中の天候は概ね良好で、「ストーブパーティー」など屋外イベントを含め、映画祭を満喫した映画ファンが多かった。今回のテーマである「世界で一番、楽しい映画祭!」にふさわしい5日間だったといえる。オープニング上映は日本のアニメーション『ひるね姫~知らないワタシの物語』。その後5日間にわたり84本の作品が観客を楽しませた。とりわけ、韓国(関連)映画は14本上映され、ファンにとっては作品との嬉しい出会いが多かった。「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017(以下、ゆうばりファンタ)」のレポートをお届けする。

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ゲストによるフォトセッション


多彩な才能が開花したオフシアター・コンペティション部門


 オフシアター・コンペティション部門グランプリには、楽しいロードムービー『トータスの旅』(永山正史監督)が選ばれた。また、審査員特別賞には韓国のトロットをモチーフにしたユニークなテーマの『ベートーベン・メドレー』(イム・チョルミン監督)が選ばれた。さらに、北海道知事賞には、不条理な冒険の旅に出ることとなったひとりの男を描いた『はめられて Road to Love』(横山翔一監督)、シネガーアワードには『ストレンジデイズ』(越坂康史監督)、スペシャルメンションとして『堕ちる』(村山一也監督)が選ばれた。また、受賞作以外でも『カーネルパニック』(チョ・ジンソク監督)など、興味深い作品が目についた。

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『M.boy』のキム・ヒョジョン監督


秀作揃いのショートフィルム・コンペティション部門


 「インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門(以下、ショートフィルム部門)」では、国内外から20本の作品が出品された。グランプリを受賞した『M.boy』(キム・ヒョジョン監督)はイジメに遭った高校生が復讐のために巨大なカマキリに変身するショッキングなストーリーで、多くの観客に強い印象を残した。審査委員特別賞には『歯』(パスカル・ティボウ監督)。優秀芸術賞には『あたしだけをみて』(見里朝希監督)ほか2作品が選ばれた。また、受賞こそ逃したが、韓国映画『牙』(シン・ジョンフン監督)は、餓死寸前の女性吸血鬼のコミカルな生態をユーモラスに描いた楽しい作品。『ホームレス 怒りの追跡者』(キム・ボウォン監督)は、誘拐事件を目撃した女性が必死の決意で犯人を追跡する姿が印象的な作品だ。『Green Light』(キム・ソンミン監督)は、核戦争後の世界をロボット兵士と女性の交流で描いており、興味深いストーリーだった。『明日への約束』(赤井宏次監督)は、余命わずかな女性と娘との交流を繊細なタッチで情感たっぷりに描き、静かな感動が伝わってきた。『ミシマサイコ』(オード・ダンセット監督)は全編で映像の美しさに圧倒されるアニメーション。田舎の神社を舞台に二人の高校生と巫女の交流を描いた『夏の巫女』(小向英孝監督)は、2016年のゆうばりファンタで『あさつゆ』の監督・主演を務めた小川紗良が出演しており、今回もさわやかな青春映画を見せてくれた。

ユニークな作品揃いの企画部門


 企画部門の「ショート・ショウケース」として、ヒョン・スル監督の3作品が上映された。『彼女の別れ方』は自撮りマニアの女性に振り回される男性を描いた楽しい作品、『それは牛のフンの臭いだった。』は、3人の売れない女優が車内に発生したにおいを巡って繰り広げるコメディだが、監督によると実体験に基づいたストーリーとのこと。『アレルギー』は、知り合いの同級生の男に部屋の模様替えを頼んだ女性が、男の勝手な振る舞いに困惑する物語。3作とも楽しい青春映画だった。また、「ゆうばりチョイス」として上映された『演技の重圧』(チョン・グヌン監督)も印象に残る。

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ユン・ソクホ監督と主演の真田麻垂美


たくさんの観客を集めた『心に吹く風』『哭声/コクソン』


 招待作品部門の『心に吹く風』は「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督作品で北海道ロケという話題性もあり、多くの観客を集めた。二十数年ぶりに再会した男女の心の揺らめきが富良野や美瑛の美しい風景を舞台に描かれ、心が洗われるような静かな感動を呼ぶ作品だ。本作では音楽も印象的であり、ストーリーに彩りを添えた。監督は、本作について「冬のソナタが日本でヒットしたことに感謝しており、その恩返しの思いを『心に吹く風』に込めた」と語っていた。

 『哭声/コクソン』は、ナ・ホンジン監督と國村隼をゲストに迎えての上映ということもあり、上映前の会場に長蛇の列ができ、関心の高さがうかがえた。上映後のティーチインでは、寄せられたたくさんの質問に対し丁寧に答える監督と國村隼が印象的だった。

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ナ・ホンジン監督と國村隼


禁断のフォービデンゾーンも魅力たっぷり


 レイティングのついた作品を集中して上映するフォービデンゾーンでは2本の韓国映画が上映された。2015年のゆうばりファンタで『メイドロイド』が上映され、好評を博したノ・ジンス監督の『愛されない女』は、離島に住む親子と一人の女性との不気味な三角関係を描き注目を集めた。監督に、ユニークなストーリーを思いついたきっかけについて尋ねると、「以前、執着心の強い女性と交際していたことがあり、その経験が作品のヒントになった」とのことだった。また、作品で登場するバーが「ゆうばり」という名前であることについては「ゆうばりファンタに毎年参加していて愛着があり、店名にした」と語り、映画祭への熱い思いを語ってくれた。また『アウトドア・ビギンズ』(イム・ジンスン監督)は、ヤクザの暗殺を命じられた男が予想外の事件に巻き込まれるコメディドラマで、大いに観客を沸かせた。

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『愛されない女』 主演のキム・ファヨンとノ・ジンス監督


今後のゆうばりファンタ


 ゆうばりファンタは、夕張市の財政破綻後に再開されて10年を迎え、市民主体の映画祭として定着した感がある。メイン会場は、閉校となった高校の校舎を活用した「合宿の宿ひまわり」に移転して2回目となったが、上映設備や他会場とのアクセスの面で多少不便になったことは否めない。しかし、今後、夕張市は新たな文化施設を建設する計画を持っており、現在のメイン会場での開催は一時的なものになる可能性もある。ともあれ、ゆうばりファンタの楽しさは今後とも変わらないことを願い、また来年も来たくなる思いを強くしつつ、夕張を後にした。


ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017
 期間:2017年3月2日(木)~3月6日(月)
 会場:北海道夕張市内
 公式サイト http://yubarifanta.com/


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Report ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク 『あの人に逢えるまで』カン・ジェギュ監督×李鳳宇氏トークショー

Text by Kachi
2017/7/23掲載



 南北の離散家族をテーマに描いた究極の短編ラブストーリー『あの人に逢えるまで』のトーク付き特別先行有料試写会が、6月22日、シネマート新宿にて開催された。ゲストは本作のほか、『シュリ』『ブラザーフッド』など南北分断をテーマにした作品を生み出してきたカン・ジェギュ監督。司会は、2000年に映画配給会社シネカノンの代表として『シュリ』を日本に紹介した映画プロデューサーの李鳳宇氏である。なお、李鳳宇氏は現在、『あの人に逢えるまで』を配給する株式会社レスペの最高執行責任者(COO)を務めている。

 『あの人に逢えるまで』は、特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」で、7月22日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開予定。

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(左)李鳳宇氏、(右)カン・ジェギュ監督


李鳳宇:まず、この短編映画を作るきっかけをお聞きしたいと思います。

監督:皆さんご存知のように、韓国は近代の歴史において、36年間の植民地、朝鮮戦争、独裁政権、そして発展と、とても沢山の変化をもたらしてきました。過去をどのように暮らして来たのか、そして現在はどうなのか、また未来はどのようにしていくのか、という答えを探せないまま、とても早く走ってきたようです。こうした中で、「戦争の痛みや本質について正当な答えを出さないままでは、これからの未来に対して予測はできないのではないか?」「他の人がこの題材に手を付けなくても、私だけでもこの話はしていかなければいけないのじゃないか?」と『シュリ』『ブラザーフッド』を作りました。

李鳳宇:カン監督と言えば、韓国を代表する監督で、韓国でも日本でも、『シュリ』以前『シュリ』以降と言われ、この作品が韓国映画の歴史を変えたとも言われています。監督は『シュリ』以降も色んな映画を撮っていらっしゃいますが、韓国の人にとっては『シュリ』という映画がどのような存在にあるのでしょうか? その後、様々な南北を扱う映画が、堰を切ったようにたくさん生まれています。南北を捉えた視点が変わって来ているようにも感じているんですけれども。その辺りは先駆者として、監督はどのようにお感じになっていますか?

監督:『シュリ』は韓国映画の分岐点と言えます。芸術映画、または産業映画としての映画のターニングポイントとなっていました。当時、韓国映画は作家の世界観を表現する芸術でした。映画が商品として成り立つのであろうか? 産業として成り立つのであろうか? と考えていました。当時韓国では『風の丘を越えて~西便制』(1993年)が100万人(ソウルでの観客数)を超え、当時興行的に大ヒットした映画でした。また、外国の映画としましては1998年に『タイタニック』が、韓国でも450万人(全国観客数)という最高の興行成績を得ました。そんな中、1999年に『シュリ』が620万人(全国観客数)という記録を打ち立てました。「韓国の映画でもこのような興行ができるのだ。ヒットが作れるのだ」と、韓国映画を作る上で180度変化をもたらした映画になりました。当時、韓国映画では「これだけは作ってはならない」というジャンルが、南北問題、特に北朝鮮を題材とした映画でした。しかし『シュリ』の成功によって、南北や北朝鮮の映画がヒットするのだということが知れ渡りました。その後、こういう南北の映画というものが、他のどこでも真似のできるものではない、韓国だけが作れる映画だということも分かるようになりました。

観客1:俳優を選ぶ時に大切な事は、監督としてどういうことでしょうか?

監督:一番大変だと思うものは、映画を作る上での一番基礎になるシナリオです。次に難しいのがキャスティングだと思います。監督が出演を願っている俳優が、もしかしたら「監督は嫌だよ」と言うかもしれません。またキャスティングのギャランティ、スケジュールの問題など、なかなか合わない事がとても多いです。監督の立場からして、シナリオは真っ白な白紙を埋めるようなものです。白紙に俳優の想いを当てはめてみて、私が考える人物と現実の人物、主観的な評価、客観的なデータといったものを共有するのが、大切だと思います。

観客2:撮影地は誰がどうやって決めていますか?

監督:撮影地はとても重要だと思います。映画にはセットで撮る場合、合成で撮る場合などありますが、私の場合はロケーション撮影がとても多いので、大切な要素になっています。陽がいつ出て沈むのか。また一年の天気はどうなのか。雨がどれくらい降るのか。霧がどれくらい出るのか。風がどのくらい吹くのか。そうした撮影地のコンディションなども分析して決めていきます。制作費もかなり関連します。制作費が多い映画でしたら、コンピューターで加工したり、イメージを作ったりすることもできます。『LION ライオン 25年目のただいま』という映画ご覧になったでしょうか? この映画は幼い頃、駅に兄と遊びにいった子供が、兄がちょっと目を離した隙に、弟が電車に乗り、また家から遠く離れてしまい、またあまりの幼さで家を探すことができず、そして20年以上経った後にどうにか家を探してきたというお話です。幼い子供が感じた、怖さ、恐怖。そしてその世界が少年の立場からはどれだけ大きな壁になったか?という心理的・感情的なものを、この映画の撮影地を探していくと分かるので、この映画を観ていただくと、撮影地がどのような役割をするのか、に同感していただけるかと思います。

李鳳宇:今日、実は6月22日なんですね。このイベントに今日を選んだのは、皆さんご存知のように、6月25日は韓国では「ユギオ」と言いますが、朝鮮戦争が勃発した日だからです。韓国の人々にとっては、非常に悲劇的な日でありますし、毎年この日に色々なことを考えるのです。この(朝鮮戦争が始まった6月25日に近い)6月22日に、日本という韓国の隣の国で、離散家族を描いた監督の作品を上映するということについて一言お願いします。

監督:多分、ここにいらっしゃる日本の皆様、そして韓国の人においても、戦争というのは決して他人事ではないと思います。これまでたくさんの戦争で、離散の苦しみ、家族の別れ、父母との別れ、娘と親との別れなど、とても辛い時間を験してきています。3年間の朝鮮戦争で、400万人以上の戦死者が出ました。また、65年という南北分断の歴史には、痛みも伴いました。今、毎日のようにテロと戦争が起こっています。こういう時代に私たちは住んでいます。骨身に沁みた痛さを、日本の人も韓国の人々も感じています。北朝鮮のミサイル問題も起きています。私たち近くに住む人間たちとして、戦争は決して起こしてはいけないものです。そして、日本、韓国の両国は戦争を絶対反対すべきです。そういう思いで未来を切り開いていきたいと思っています。ありがとうございました。

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『あの人に逢えるまで』


『あの人に逢えるまで』
 原題 민우씨 오는 날 英題 Awaiting 韓国公開 2014年
 監督 カン・ジェギュ 出演 ムン・チェウォン、コ・ス、ソン・スク
 2017年7月22日(土)より、特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」の1本としてシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.koreanfilmweek.com/


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