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Review 『朴烈(パク・ヨル)』 ~日本人女性を同志にした独立運動家の熱い闘い

Text by 井上康子
2017/8/16掲載



 『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』に続き、イ・ジュニク監督が日本の植民地下に実在した人物を描いている。前作が詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)を主人公にした静謐なイメージの白黒作品であったのに対して、本作は独立運動家にしてアナーキストの朴烈(パク・ヨル)を主人公に据えた、熱く、原色が目に焼き付く作品だ。

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 登場する人物や出来事は事実に基づいていると監督は強調している。独立運動家の愛人としてはたいへん意外であったが、ヨルの愛人にして同志が日本人だったというのも事実だ。金子文子というアナーキストで、二人の出逢いは運命的で印象深い。ヨルは東京で車引きをして生計を立てているが、朝鮮人と分かるや、日本人客は正当な車代を払わないばかりか彼を足蹴にする。自身の境遇を書いた「犬ころ」という詩が同人誌に掲載されるが、それを読んだ女給の文子は彼こそが生涯の伴侶だと確信し、同棲を申し出る。文子は親に捨てられ、朝鮮の親戚に売られ、虐待の中を生き延び、権力を不当に行使する者に対する怒りを煮えたぎらせていた。まさに二人は同志だった。

 主なストーリーはこういうものだ。関東大震災後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」等のデマが広まり、6千人余りの朝鮮人が虐殺された。日本政府は虐殺を隠蔽するために、ヨルが皇太子を暗殺しようとしたという事件をでっちあげ、そちらに関心を集めようとする。ヨルと文子は状況を逆手に取り、冤罪であるのに罪を認め、裁判を権力者の不当性と蛮行を訴えるための公的な場として利用し、さらには独立運動の英雄になろうとする。

 パク・ヨルは韓国でもそれ程著名な人物ではないようだ。監督は約20年前に『アナーキスト』(2000年)を製作中に彼を知り、その人生と思想に魅了され、考証を重ねて作品にした。これまで表舞台に登場しなかった彼の真実の姿を見せようという気迫を感じることができる。ヨルと文子が拘束され、裁判にかけられる過程は、日本の法廷で占領下の朝鮮人がこのように堂々と大胆な行動を取ることができたのだと誰もが驚く痛快なものだが、不自然さを感じさせることはない。また、監督の過去作品『王の男』(2005年)、『ソウォン/願い』(2013年)のように、力を持たない者たちの底意地を丁寧に描いて見せて、真骨頂を発揮している。

 主演のイ・ジェフンは足蹴にされ、殴られる程に爆発的に熱を放つヨルを文字通り熱演した。ヨルと対等のエネルギーを放っていた文子役のチェ・ヒソは日本在住歴があり、自然な日本語を披露。彼女は『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』でも主人公を支える日本人女学生役で出演している。

 ヨルと文子を翻弄した運命は日韓の不幸な歴史そのものだ。見終わって、それを思うと何とも居たたまれない気持ちがしたが、ヨルと文子が見せた、国同士が不幸な関係の時であってもそれを易々と越えてしまう、人と人の絆の強さに救いを見出せた思いがした。


『朴烈(パク・ヨル)』
 原題 박열 英題 Anarchist from Colony 韓国公開 2017年
 監督 イ・ジュニク 出演 イ・ジェフン、チェ・ヒソ、キム・イヌ
 日本未公開作

Writer's Note
 井上康子。抵抗の対象は日本ではなく、日本の権力者と捉えている『朴烈(パク・ヨル)』の登場人物たちを見て、約30年前にソウルのタプコル公園で声をかけてくれた老人を思い出した。彼は叔父が日本留学中に憲兵に殺害されたことも終始穏やかに語り、自販機のコーヒーを御馳走してくれた。


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Review 『軍艦島』 ~過酷な状況で必死に生きる人々を描くアクション・エンターテイメント・ドラマ

Text by hebaragi
2017/8/10掲載



 長崎県の端島(はしま)は、別名「軍艦島」と呼ばれる。2015年にユネスコの世界文化遺産に登録され、現在は観光地にもなっている。島にある炭鉱での労働のためピーク時には約5千人もの人々が住んでいたが、その中には、朝鮮半島から様々な名目で連れて来られ徴用工として労働を強いられた人々も少なくないといわれている。

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 映画『軍艦島』のストーリーは、リュ・スンワン監督が「歴史的事実にインスピレーションを受けて制作した」とコメントしているように、強制徴用という史実を元にした「集団脱走」というフィクションの要素を含むものとなっている。

 映画のストーリーはこうだ。

 主人公ガンオク(ファン・ジョンミン)は、クラリネットを演奏する楽団長であり、京城(現在のソウル)のバンド・ホテルでの生演奏を生業としていた。あるとき「日本で稼げる」という誘いに乗り、ガンオクはまだ幼い一人娘ソヒ(キム・スアン)、チンピラのチルソン(ソ・ジソブ)、日本統治下の朝鮮で苦難の日々を送ってきたマルリョン(イ・ジョンヒョン)らとともに軍艦島に行くこととなる。

 島に到着した日。印象深いシーンがある。一行を迎えた炭鉱会社の職員が、軍歌「同期の桜」をリクエストし、ガンオクたちが情感たっぷりに演奏するところだ。もちろん、日本の植民地支配の時代であり、朝鮮人にとって日本の軍歌を演奏することは屈辱に違いない。しかし、ガンオクは、島で生きていく覚悟を決めたかのような演奏ぶりだ。一方、一緒に軍艦島に渡った労働者たちは、事前の予想に反し、地下一千メートルの危険な採炭現場で過酷な労働を強いられる。ガス爆発などの事故も発生し、また、労働者の賃金もピンハネされるなど苦難の日々が続く。また、連れてこられた女性は島内の遊郭での労働を強いられ、客から乱暴な仕打ちを受けたりもする。そんな中、労働者たちは、過酷な現実から逃れようと集会を開くなどして団結を強めていく。

 日本の敗戦が濃厚となっていくなかで、会社は数々の不当な行為を隠蔽しようとして関係書類を焼却したり、労働者たちを坑道に閉じ込めて爆破し、自らに都合の悪い事実を隠蔽しようと画策する。一方、朝鮮から派遣された光復軍のムヨン(ソン・ジュンギ)が、そうした企てに気づき、労働者たちを島から脱出させるための行動を決意することとなる。

 切迫した状況の中で、労働者たちは脱出を企てるが、それを阻止しようとする会社側と銃撃戦となり、多数の労働者が倒れる。生き残った労働者たちは、帰国すべく石炭運搬船に乗り込み、長崎港を目指すが、その日は奇しくも1945年8月9日。長崎に原爆が投下された日であり、船上からキノコ雲を見ることとなるラストシーンでエンドロールを迎える。

 本作は、ストーリーをめぐり、公開前から日本と韓国で様々な話題を呼んできた。たとえば、作品中、島から脱出するためのロープを作るために主人公や労働者たちが旭日旗を引き裂くシーンがあり、日本では「反日映画では」との評価も聞かれる。

 確かに、そのような指摘も否定はできない。しかし、リュ・スンワン監督は、全編を通じて過酷な状況を必死に生き抜く人々を描くとともにアクション的要素も盛り込んでおり、エンターテイメント作品として見ることもできよう。また、舞台となる軍艦島のセットは大がかりなものであり、多額の制作費をかけた力作として見ることもできる。本作のテーマは重く過酷だ。しかし、見終わった後はアクション大作としての演出に圧倒された印象が強い。

 軍艦島については、世界文化遺産に登録された際にユネスコからの勧告もあり、日本が2017年末までに徴用工などに関するインフォメーションセンターを設置することを表明している。その事実については本作のラストにも掲載されているが、未だに実現の見通しは立っていない。

 本作は、韓国では公開(7月26日)から8日間で500万人の観客動員を記録する大ヒットとなっている。日韓の歴史を考え、相互理解を深めるためのひとつのきっかけとして、多くの日本人にも見てほしい作品である。


『軍艦島』
 原題 군함도 英題 The Battleship Island 韓国公開 2017年
 監督 リュ・スンワン 出演 ファン・ジョンミン、ソ・ジソブ、ソン・ジュンギ、イ・ジョンヒョン、キム・スアン
 日本未公開作
 公式サイト http://www.gunhamdo2017.co.kr/

Writer's Note
 hebaragi。半年ぶりに訪れたソウルでは、『軍艦島』のほかにも、イ・ジュニク監督の『朴烈(パク・ヨル)』、ポン・ジュノ監督の『オクジャ』を見た。いずれの作品もジャンルこそ異なるが、心に伝わってくるものがあったのが大きな収穫だった。


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Review ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク 『春の夢』『バッカス・レディ』『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』 ~憂鬱と悲しみを癒やす映画の旅

Text by Kachi
2017/7/23掲載



 ソウルの地下鉄6号線「ワールドカップ競技場」駅で降りて、韓国映像資料院へと足を運ぶ。ただでさえ最寄り駅から遠い、韓国映画の聖地へ徒歩で向かったある時、何かのはずみで、反対側の京義線「水色」駅の方へ渡ってしまった。列車の架線の向こう側にデジタルメディアシティのビル群が見えるけれど、一向にたどり着けない不安がよぎる。駐車場入り口でくすんだ色のビニールがはためく、古式ゆかしいモーテルの顔つきだけでも、ここが高級ホテルや放送局がひしめく上岩洞と平行して立つ街なのだろうかという戸惑いと、名状しがたい高揚感を覚えたことを鮮明に覚えている。

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『春の夢』

 「上岩の人はみな準備ができている表情をしているけれども、水色洞では全く準備のできていない表情に出会える」とは、そんな水色洞を物語の舞台にした『春の夢』のチャン・リュル監督の言葉だ。「準備のできていない表情」という言い回しほど、水色洞の人と町並みを表現するのに、これ以上の似合いはないと感じた。

 イクチュン、ジョンボム、ジョンビンの『風吹く良き日』よろしくな「ぬけさくトリオ」と、彼らの憧れのイェリ。3人は我こそイェリをものにしようと足を引っ張り合い、彼女が一人切り盛りする居酒屋で日々とぐろを巻いている。けれども、温室育ちで気楽そうなジョンビンは持病で頻繁に卒倒してしまうし、北出身のジョンボムは勤め先の社長から理不尽なクビを宣告されている。イクチュンも昔のワル仲間との悪縁を断ち切れないようである。活発なサッカー少女ジュヨンはイェリへの叶わぬ想いに胸を焦がす。にぎやかな宴もすべて泡沫に帰すことを想起させるアバンタイトルのように、みなかりそめに笑顔を浮かべながらも、憂鬱やもどかしさ、時に深い絶望をその身に宿している。

 ヒロインであるイェリの大胆さと余裕に3人はすっかりやられているが、北で生まれた彼女も母親を病気で亡くし、その上、一度は自分たちを捨てた父親が全身麻痺で寝たきりとなり、介護に追われている。一度、理想的な男性がイェリの店を訪れるが、まるで幻のように去って行ってしまう。「こんなではない私の人生が、どこかにあり得たはず」という夢想が目先で消えていく孤独は、誰に分かろうはずがない。チャン監督といえば、過去作『唐詩』での女性の舞踊シーンが印象深いが、『春の夢』でイェリが披露するゆるやかな舞は、優雅でありながら物悲しい。男3人が1人の女を巡り、ゆるい恋のさや当てに邁進する様や、モノクロームのルックはホン・サンスを彷彿とさせる。だがチャン監督の作品群は、多くにしてその水底にやりきれない悲しみがたゆたっていて、本作も通底するものがある。

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『バッカス・レディ』

 「バッカス1本いかが?」と、栄養ドリンクを差し出すのが誘い文句。『バッカス・レディ』は、鍾路に位置するタプコル公園で、“バッカスおばさん”と呼ばれる高齢女性たちが春をひさいでいるというショッキングな主題―しかも実話である―に目が行きがちであるが、まるでノンフィクションのような筆致と、味わい深いペーソスで、高齢娼婦の人生の夕暮れを描ききっている。

 主人公のソヨンは、かつて“洋公主”(在韓米軍を対象にした売春婦)で、今は初老の韓国人男性が相手である。しかし、近頃は実入りも芳しくない。客も高齢ゆえに、病や死で姿を見せなくなっていた。ある時、半身不随で人生を悲観した過去の馴染み客から、安らかに死なせてほしいと懇願される。

 死ぬほど気持ちよくさせてくれる性技の持ち主として評判の彼女が、現実に死ぬ手伝いをするというのは、実にブラックな洒落だが、冒頭、ある訳ありの男児を、ソヨンがもののはずみのように保護してしまった本当の理由を誰も分からないように、表向きに見えるものと事実には大きな隔たりがあり、しかも他人はうかがい知れないものである。ある瞬間にソヨンがつぶやいた「本当のことは誰にも分からないもの。外側だけで決めつけるのね」という台詞は、彼女の人生に染みこんだ労苦についてにも言えることなのだ。

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『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』

 日帝時代を舞台にした作品は、その中で傷ついた人々の記憶に焦点が当てられ、スクリーンに表現されることがほとんどである(もちろん、そうあるべきである)。『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』は、尹東柱(ユン・ドンジュ)とそのいとこである宋夢奎(ソン・モンギュ)が京都で逮捕され、特高警察による執拗な取り調べの場面から始まる。無論、私たちが省みるべき歴史的悲劇とは無縁ではない。だが、この映画が趣を異にしているのは、悲惨な時代に砕け散った青春にこそ主眼が置かれている点だ。若さを生きる不安や嫉妬が、美しいモノクロ画によって柔らかく活写されているのだ。

 イ・ジュニク監督は東柱と夢奎の関係を「尹東柱にとって宋夢奎は、自身の影のような存在」と考えたという。では「影」の夢奎にとって、東柱はいかなる存在だったのだろう。散文が新聞に掲載されるほどの文才を持ちながら、なぜ彼は武力による革命運動に身を投じたのだろうか。

 劇中、時に東柱と夢奎は激しくぶつかり合う。「自分も独立運動の仲間に加えてほしい」と訴え、「お前は詩を書け」とはねつけられる東柱は、劣等感に似た感情を募らせていく。夢奎は直接的な革命にしか国家の希望を見出せなかったのかもしれないが、それ以上に、東柱とその詩才のため、ペンを銃に変えたのではないか。東柱が永遠に無垢なままであらんことを望んだがために。

 父子の軋轢で命を落とした悲劇の息子『思悼』(邦題『王の運命(さだめ) ―歴史を変えた八日間―』)。心身の深い傷から必死に立ち直ろうとする少女の名を冠した『ソウォン』(邦題『ソウォン/願い』)。イ・ジュニク監督の作品のいくつかは、そのタイトルが、ある特定の人物に対する、慰めに満ちた呼びかけになっている。『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』の原題は、『ドンジュ』である。彼の存在に心を揺り動かされた者たちが、その名を呼んでいる。

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ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク


『春の夢』
 原題 춘몽 英題 A Quiet Dream 韓国公開 2016年
 監督 チャン・リュル 出演 ハン・イェリ、ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム、ユン・ジョンビン
 2017年7月22日(土)より、特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」の1本としてシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.koreanfilmweek.com/

『バッカス・レディ』
 原題 殺してあげる女 英題 The Bacchus Lady 韓国公開 2016年
 監督 イ・ジェヨン 出演 ユン・ヨジョン、チョン・ムソン、ユン・ゲサン
 2017年7月22日(土)より、特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」の1本としてシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.koreanfilmweek.com/

『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』
 原題 동주 英題 DongJu; The Portrait of A Poet 韓国公開 2016年
 監督 イ・ジュニク 出演 カン・ハヌル、パク・チョンミン
 2017年7月22日(土)より、特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」の1本としてシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://www.koreanfilmweek.com/


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Review 『きらめく拍手の音』 ~健聴の娘が描いた、ろう両親の完璧な世界

Text by 井上康子
2017/5/28掲載



 健聴者は両手をパチパチたたく聴覚的な拍手をするが、ろう者は両手を上げて手首を回しながら振る。この視覚的な拍手は、あたかも星が輝いているようで美しい。本作はイ=キル・ボラ監督によるドキュメンタリーで、冒頭のこの拍手によって、監督は「ろう者とは視覚による文化を持った人々なのだ」と軽やかに宣言し、ろう両親の手話によるにぎやかな会話が飛び交う日常と家族のこれまでを追っていく。

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 ろう者の伝統的な手話では、手の動きの他にさまざまな表情の変化が文法的に意味を持っている。表情の変化が少ない健聴者の会話と比較すると、圧倒的にインパクトがあり、引き付けられる。結婚までの経緯の中で、父は若き日にサッカー選手として活躍していたが、ろう者の国際試合から帰国した空港に出迎えを約束した母が来ていなかったのでガーンとショックを受けたことを、そして、母は美貌でラブレターが山のように届いていたので読まずに捨てたことを語ったが、表情の豊かさと簡潔な手指の動きのおかげで、まるで再現フィルムを見せられたように情景が浮かんでくる。

 二人のこれまでは、聴こえないための苦労、IMF危機時の父の失業など困難が多かった。監督が生まれた時は夜中に赤ん坊の泣き声に気づけるように補聴器を装用すればかすかに音が聞こえる父が補聴器を耳に固定するようにしたものの、両親はすっかり寝不足になった。監督と弟が歩き始めると母は家事をしながらも片時も目を離さなかった。失業した父が、たい焼き屋台を始め、他の誰も店を出さなかった大雨の日にも店を出したことを振り返り、母は「父さんは害虫よりもしぶとい」とあっけらかんと言い放ち、二人は笑い合う。強固に結びついた、たくましい二人が、表情豊かに手話で会話をする世界は何とも幸福感に満ちていて、監督の言葉通り「完璧な世界」だ。聴こえないという障害はあっても二人の世界に欠落はない。

 両親は明るく、世の中を割り切って生きてきたが、彼らの溢れんばかりの愛情を受けて育った監督と弟はコーダ(CODA, Children of Deaf Adults:ろうの親を持つ健聴の子)としての葛藤を抱えていく。監督は親の通訳者として、9歳の頃には銀行に借金の額を聞き、引越し前は大家に家賃と保証金を尋ねる役目を負わざるを得なかった。「障害者の子だから問題を起こした」と言われないように二人は小中学校では常に模範的に振る舞う。だが、高校入学になると、親の障害から逃れようと二人共が全寮制の学校を選択し、早くに親元を離れてしまう。

 希望校に進学したが監督は「さらに広い世界を見たい」と高校中途で東南アジアへの旅に出る。そして、広い世界を見たことで、ろう者は弱者ではなく、誇り高き存在なのだと気づく。みずみずしい映像を通して、自らの気づきを知らしめんという意思がひしひしと伝わってくる。あるコーダの成長譚でもあることがこの作品の大いなる魅力だ。


『きらめく拍手の音』
 原題 반짝이는 박수 소리 英題 Glittering Hands 韓国公開 2015年
 監督 イ=キル・ボラ 出演 イ・サングク、キル・ギョンヒ、イ=キル・ボラ、イ・グァンヒ
 2017年6月10日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
 公式サイト http://kirameku-hakusyu.com/

Writer's Note
 井上康子。福岡在住。2009年にアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された、マレーシアのヤスミン・アフマド監督長編遺作『タレンタイム』が8年を経て劇場公開中。異民族の世界に加え、ろう者の世界も肯定する作品の暖かみを8年前以上に私たちは求めているのではないだろうか。


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Review 『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』 ~災害をユーモアで描いた中にある、監督の怒り

Text by Kachi
2017/5/2掲載



 セウォル号の沈没から早や3年の月日が経った。この3月にようやく海底から引き上げられた船体は、在りし日の姿を辛うじてとどめてはいるものの、もっと長い年月放っておかれていたように朽ちかけていた。

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 キム・ソンフン監督と言えば、ふたりの汚職警官が巻き起こすモラルなき追走劇『最後まで行く』で、その異能ぶりが世間に知れ渡った。本作『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』はいわゆるディザスター・ムービーで、前作とはかなり趣向を変えてきている。韓国は、未曾有の海難事故を経験した。日本も幾度も大きな震災があり、東北と熊本の傷痕は今も癒えたとは言い難い。そして5年前には、トンネルの天井板が落下する事故で死者が出ている。現実がフィクションを超える悲劇に見舞われてしまった今、映画をどう受け止めたらいいのだろうかと、観るのをためらう人も多いかもしれない。しかし、試写で鑑賞して、それが思い過ごしであったことに気づかされた。

 ごく普通のカーディーラー、ジョンス(ハ・ジョンウ)は、仕事の帰り道でトンネルに差し掛かった瞬間、崩れ落ちた天井の下敷きになり、車ごと埋まってしまう。何とか一命は取り留め、救急隊と連絡を取ったジョンス。彼の手元にはペットボトルの水2本、スマートフォン、幼い娘のために用意したバースデーケーキがあるだけだった。救助活動が難航する中、崩落は進み、状況は日増しに悪化していく。

 ジョンスを阻むがれきは、セットとCGの境界が判別できないほどで、「本当に役者を埋めたのか?」と錯覚するほどだが、この映画の凄みは空間によるものだけではない。序盤、トンネルが崩落する場面。類する映画によく見られる、たとえば緩むねじや周囲の震動といった不幸の予兆のカットがない。現実の災厄とは、何も分からぬままこうして降りかかると痛感させるリアリティが冴えている。

 その一方で、「決してパニックにならず、冷静でいるように」と救急隊長から言い聞かせられたジョンスが、極限下で日常を保とうとするさまや、ある闖入者とのやりとりに笑いがこみ上げる。火星に一人取り残される宇宙飛行士のサバイバルを描いた『オデッセイ』のユーモアとポジティブさに似ている。生きるか死ぬかが懸かった局面に持ち込まれた生活の感覚が、緊迫感とのズレを生み、特に映画の前半に笑いを生んでいるのだ。

 夫の無事を祈る妻セヒョン(ペ・ドゥナ)の献身など、韓国映画お得意のヒューマニスティックな展開を期待するところだが、キム・ソンフン監督は王道を巧く逸れていく。その役回りが、キム救急隊長に扮したオ・ダルスであった。「シーン・スティラー」と呼ばれて久しい彼が登場すると、作り手の技量如何によることなく、なんとなく見栄えのいい映画になってしまうせいか、時折「オ・ダルスの持ち腐れ!」と怒りたくなる映画を目の当たりにする。だが今回は持ち前のコミック・リリーフとしての力量を見せつけながら、漢泣きを搾り取っていく。

 仰々しく事故現場を視察に来た官僚連中と、横暴な報道陣。そして、ある不幸な出来事をきっかけに、ジョンスに対する世論は風向きが変わる。大きな声が蔓延させる同調圧力に、たった一人のか細い声はかき消される。キム救急隊長だけが、ジョンスが生きていることを信じて疑わなかった。こうした信念が、セウォル号事故救出の現場に欠けていたのではないか。2014年4月以降、韓国では『グエムル -漢江の怪物-』(2006)が、事故を彷彿とさせると思わぬ注目を浴びたという。得体の知れない漢江の化け物に丸呑みされ、しかし奇跡的に生きていた娘から家族に電話がかかってくる映画のくだりに、ある日突然海の底に消えてしまった我が子を重ねたかもしれない家族の悲痛を、政府の誰かが推し量っただろうか。最終的に信じられるのは、大文字の「国家」でも「国民」でもないという作り手の絶望。人の不運をエンターテイメントにするのではなく、しかしユーモアで軽やかに描く中に、何と激しい憤怒が込められているのか。

 最新作『お嬢さん』が3月に日本で劇場公開された際、パク・チャヌク監督は昨今の韓国映画勢が放つエネルギーの理由を「たくさん苦労しているから。ここまで堕落した政府を経験したことはないと思うし、一般の人たちが抗議したりデモしたり。感情の起伏が激しくならざるを得ない一方、豊かでドラマチックな映画ができるのでは」(2017年3月3日、朝日新聞夕刊より)と語った。確かに『お嬢さん』は、才気がほとばしっていた。キム・ソンフンも間違いなく、そうした映画人の一人である。


『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』
 原題 터널 英題 Tunnel 韓国公開 2016年
 監督 キム・ソンフン 出演 ハ・ジョンウ、ペ・ドゥナ、オ・ダルス
 2017年5月13日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
 公式サイト http://tunnel-movie.net/


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